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炎を纏いし紅蓮の魔女
オープニング
「私はヒトゴロシなんだ」
赤い髪が特徴的な少女はポツリと呟いた。
その言葉に驚き、目を少しだけ見開いて草間武彦はその少女を見た。
「人殺し…とは？」
「あんたは生まれ変わりってモンを信じるかい？」
少女が脈絡のない話をしてきて、草間武彦は怪訝そうな表情を見せた。
「あたしは…３００年前に火あぶりにされた魔女の生まれ変わりなんだよ…」
少女の言葉に今度は大きく目を見開いた。
たまに前世の記憶を持ったまま生まれてしまう人間が存在する事は知っていた。
「あたしは前世で何百という人を焼き殺したんだ」
「だけど、今のキミには関係がない事じゃないのか？」
「あたしの中には…もう一人の…血を好む残酷なあたしがいる。
そいつに乗っ取られてしまう…おねがいだよ。あたしが人殺しをする前にあたしを殺してくれ」
少女は草間武彦に頭を下げながら小さく呟いた。
その言葉に草間武彦は困ったような表情をして、頭を掻いた。
魔女としての記憶を持ったまま生まれてきた少女、桐生 渚は
自分が魔女として覚醒してしまう前に自分を殺してくれと依頼してきた。
そして―…この少女の依頼にアナタはどう答えますか？
視点⇒不動・修羅
その少女は死を望んでいた。
理由は自分の中に潜む魔女を恐れたからだった。
「甘ったれるんじゃねぇよ」
草間興信所の事務所内に修羅の怒りの混じった声が響いた。
言われた渚はキッと修羅を睨みつけて「あんたに何が分かるのよ！」と叫び、泣き崩れた。
降霊ができる修羅は霊の記憶にも触れる。
だからとても他人事には思えなかった。言葉はぶっきらぼうだけど、その言葉の中には渚を気遣う優しさがあった。
「今アンタが死んだら、前世の魔女に負けたことになるんだぜ。すると、今度生まれ変わった時は１００％魔女だぜ。それで良いのかよ」
どうするかな、修羅はそう心の中で呟きながら自分にできる最善の手を考え始めた。無論、渚の要望通り『殺す』ってのはナシだ。
「…そうだな…今からキミに修験道の阿鼻捨法の術を行う」
修験道の阿鼻捨法の術、それは巫女に霊魂を降ろす術だ。彼女に強い意思を持った霊魂を降ろす事で魔女の魂に立ち向かう強さを学ばせるのだ。
渚が異常なほどに自分の中の魔女を恐れるのは、過去に魔女だった自分が犯した罪に対する罪悪感もあるだろうが、それ以上に彼女自身の心が弱いからだ。
意志の強さを学ばせば魔女に立ち向かう勇気、強さを会得できるかもしれない。
「無茶よ、何をやったって無駄な足掻きにしかならないわ！あたしは魔女なんだから！」
投げやりな渚の言葉に修羅は「逃げるな！」と強く叫んだ。
「逃げ、る…？あたしが？」
「そう、前世で魔女として生きたから何だ？今は桐生渚という一人の人間だろう！」
修羅の言葉に渚はハッとしたように表情を強張らせた。
「罪の意識を持つことは悪いことじゃない。だけど、あんたのは…ただの逃げにしか聞こえないよ」
そう言って修羅は術を発動させる。降ろす霊魂はジャンヌ・ダルク。かつて魔女として裁かれた英雄であり、聖女としての名もある。
「あんたの中には確かに魔女としての自分もいるかもしれない。だけど、今のあんたは聖女とも呼べるべき存在じゃないのか？本当に魔女ならそんなに心を痛めて悩む事もないはずだ。そうだろ…？」
今の渚はジャンヌ･ダルクと共にあるから修羅の声が聞こえるかどうかは分からない。
だけど、この問題だけは彼女自身がどうにかしなければならない問題だ。
他人である修羅ができるのは魔女に支配されない手助けをすることだけ。その手助けも自分自身で掴み取らなければならない。
魔女としての前世を持つ、それ以外は普通の女の子である渚に降霊をするのは無茶かもしれない、そう思いながら修羅は渚が自分で強くなる、その時を待っていた。
だけど、暫くもしないうちにジャンヌ･ダルクは弾かれてしまう。
それほどまでに渚の意思が頑なに動こうとしないせいだろう。
「…ちっ…」
修羅は小さく舌打ちをしながら次の降霊でヘレン・ケラーを呼び出した。彼女もまた強い意志の持ち主。
「…あたしは…もう…ムダなのよ。何をやったって…」
「…まだそんなことを言ってんのか！本当は生きたいんだろう？だから助けを求めるように草間興信所にやってきたんだろうが。本当に死ぬ気なら人任せにするはずがないからな」
渚の肩がビクリと跳ねる。どうやら図星らしく小刻みに肩を震わせていた。
「……たい」
小さな、本当に小さな声で渚が呟いたが修羅にその声は届いていた。
「…聞こえない。もっと大きな声で言ってみろよ」
「…生きたいっ、死にたくない！魔女なんかに負けたくない！！」
渚が大きく叫ぶと同時に部屋に大きな炎が走った。
炎はやがて形を作り、人の姿に酷似したモノに変わった。
それはかつての渚、魔女として生きた時の渚の姿だった。
魔女は頭を抱え、口惜しそうにこちらを見つめ、やがてブスブスと燃える音をたてながら消えていった。
「おっとっ」
ガクリと倒れこみ、床に激突するところを修羅が抱きとめる。
「…あたしは…」
「もうお前の中にもう魔女は存在しない、魔女の存在に苦しめられる事もない」
修羅の言葉に渚は瞳一杯に涙を溜めながら嗚咽交じりに「ありがとう」と何度も言ってきた。
人間は生まれ変わる時に過去の過ちを償ってから生まれてくる。
そんなのは迷信かもしれない。
渚のように前世の記憶を持って生まれてきた人間が罪悪感から逃れるために作った言葉なのかもしれない。
だけど、人間ってのは色々な人生を受けているんだ。
前世で一回や二回は大罪を犯した自分がいるはずだ。
だから同じ過ちを繰り返さないように生きていくしかない。
罪を罪と思わない人間も問題あるけれど、渚のように罪を悔いてしか生きない人間も問題ある。
「…結局のところ…人間ってのはそういう事に悩んで一生を終えるものなのかも知れないな…」
修羅は小さく呟く。
声が小さくて、その言葉が草間武彦や渚に伝わる事はなかった。
だけど、少なくとも一人の人間は魔女の呪縛から救われた。
それだけでもよかった、修羅はそう思いながら草間興信所を後にした。
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
2592/不動・修羅/男性/17歳/神聖都学園高等部２年生 降霊師
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■ ライター通信 ■
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不動・修羅様＞
このＰＣでお会いするのは初めましてですね＾＾
私はカッコイイキャラに目がないので今回も楽しく書かせていただきました。
キャラのイメージを崩してないといいのですが…。
『炎を纏いし紅蓮の魔女』はいかがだったでしょうか？
少しでも楽しんでいただけたら幸いです＾＾
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします＾＾
-瀬皇緋澄
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