コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


炎を纏いし紅蓮の魔女

オープニング

「私はヒトゴロシなんだ」
 赤い髪が特徴的な少女はポツリと呟いた。
 その言葉に驚き、目を少しだけ見開いて草間武彦はその少女を見た。
「人殺し…とは?」
「あんたは生まれ変わりってモンを信じるかい?」
 少女が脈絡のない話をしてきて、草間武彦は怪訝そうな表情を見せた。
「あたしは…300年前に火あぶりにされた魔女の生まれ変わりなんだよ…」
 少女の言葉に今度は大きく目を見開いた。
 たまに前世の記憶を持ったまま生まれてしまう人間が存在する事は知っていた。
「あたしは前世で何百という人を焼き殺したんだ」
「だけど、今のキミには関係がない事じゃないのか?」
「あたしの中には…もう一人の…血を好む残酷なあたしがいる。
そいつに乗っ取られてしまう…おねがいだよ。あたしが人殺しをする前にあたしを殺してくれ」
 少女は草間武彦に頭を下げながら小さく呟いた。
 その言葉に草間武彦は困ったような表情をして、頭を掻いた。


 魔女としての記憶を持ったまま生まれてきた少女、桐生 渚は
 自分が魔女として覚醒してしまう前に自分を殺してくれと依頼してきた。
 そして―…この少女の依頼にアナタはどう答えますか?

視点⇒狩野・宴


 目の前の赤い髪が特徴的な女の子、その女の子は自らの命を絶ちに草間興信所にやってきたという。
 理由は自分の中に存在する魔女を恐れてとの事。
「でもさ、よく考えてみてよ」
 宴は渚の前に向かい合うようにソファに座り、口を開いた。
「渚ちゃんを殺したとしてだよ?また前世の記憶を持って生まれ変わったらどうする?有り得ない話じゃないよね?」
 現に今、渚ちゃんは前世の記憶を持ってるんだから。と言葉を付け足しながら宴が言うと納得したように渚もコクンと首を縦に振る。
「もし、そうなったら渚ちゃんが今死んじゃう意味はあまりないんじゃないかな?」
 確かにその通りだと渚も思う。今、この場で殺してもらっても次に生まれてきたときに魔女だった頃の記憶を持って生まれないという保証はない。
「せっかく生まれてきたんだから死ぬなんてもったいない事言わないで、別の解決策を考えようよ」
 ね?と宴はにっこりと渚に笑いかける。渚は少しだけ顔を赤くして「どうすればいいのよ…」と泣きそうな表情で問いかけてきた。
「あたしは…魔女なのよ?いつか人を殺しちゃうかもしれない。でもそれがいつかは分からない、毎日毎日、魔女っていう存在に押しつぶされそうなあたしの気持ちがあなたに分かるの!?人事だからって簡単に言わないで!」
 渚は叫び終わると、はぁはぁと胸を弾ませながら呼吸を整える。宴はただ静かに何も言わずに渚が言い終わるのを待っていた。
 そして…。
「つらかったんだね」
 宴の言葉に渚はハッとしたように顔を上げる。そこには少しつらそうな表情の宴の姿があった。
「大丈夫だよ、私の右目と催眠で中の魔女を封印してあげる」
「…え?」
 渚は『魔女を封印できる』という言葉に期待に胸を躍らせながら宴を見た。自分は死ななくてもいいのかもしれない、渚の中にそんな淡い期待が宿った。
「けどね。何事も絶対はないからね。この先100%覚醒しないとは言い切れない、99%ってとこかな。1%は君の意思次第。勿論、完全に魔女を消したいなら、君自身の力でそれが出来るよう催眠誘導するけど」
 絶対はない、その言葉に渚の表情が少しだけ曇ったが期待はある。
「…あたしが…心を強く持てば魔女は復活しない…?あたしは…死ななくてもいいの?」
 渚が震える声で宴に問いかける。
「私は、ソレを抱えて生まれてきたその全てが君だと思うから、共に生きてと、思うけどね。とはいえ、私には渚ちゃんの苦しみは分らないし、渚ちゃんの望むようにしてあげたい。どんな形でも協力するよ」
 宴が微笑みながら言う。渚も決心したようで「おねがい、あたしを助けて…」とか細い声で答えてきた。
「もちろん。私は可愛い女の子の味方だからね」
 再度笑いながら宴は自分の能力で渚に催眠を施した…が、予想以上にも魔女の侵食が大きく少しでも揺るがせば魔女は覚醒してしまう、そんな割れる前の風船のようだった。
「こまったなあ…」
 無理にしようと思えばできないことはない。だけど無理やりにするということは渚をも巻き込んでしまう可能性がある。
 自分では渚を巻き込まないようにする自身はある、だけど魔女が渚を盾にしてきたら逆に渚を封印してしまう恐れがある。それだけは絶対に避けなければいけないことだ。
「どうしようかな…」
 うーん、と口元に手を当てて「どうしようかなー」と困った素振りを見せた。
「渚ちゃん、やっぱりここはキミの意志の強さが必要になるよ」
 宴が溜め息混じりに言うと、渚は「え?」と短く返事を返してきた。
「私の催眠は完璧だよ。だけどね、もし魔女が渚ちゃんの意識を盾にしてきたら私にはそれをどうすることもできない。最悪の場合、渚ちゃんの意識を封印しちゃうかもしれないんだよ」
 宴の言葉に渚の顔色がザァッと青ざめていくのが分かる。
「だから、渚ちゃんが魔女に負けないように自分を強く持たないといけない…できる?」
「…どっちにしても…できなきゃあたしは死んじゃうんだよね…ねぇ…お願いがあるの」
 渚の弱い声に宴も眉を顰めてその『おねがい』を聞く事にした。
「おねがい?何?」
「もし…あたしが失敗しちゃって…魔女があたしの身体を支配したら…殺して」
 人殺しにはなりたくないから、と渚は自分の拳を強く握り締めながら呟いた。
「…分かった、だけど最初からそんな弱気じゃいけないと思うけどな」
 ね?と宴が渚の頭をポンと軽く撫でながら言う。
「…うん、そうだね」
 宴が能力を使い、渚の中の魔女を催眠誘導する。その時、渚の身体がビクンと大きく跳ねた。
 どうやら思っていた事が的中してしまったらしい。
「…この、娘…を封印したくなくば、今すぐその奇妙な術を使うのを…ヤメロ!」
 渚の声なのだが、不に気が違う事にその声を出しているのが魔女の方だということを宴は即座に理解した。
「うーん、そう言われてもねぇ…私は渚ちゃんとの約束の方が先なんだよね。ねぇ?渚ちゃん?」
 宴がおどけたように言うと魔女は頭を抱えて苦しみだした。半分意識を乗っ取られてしまったと言ってもまだ渚の意識の自由がきくのだろう。
「こ、の…小娘がぁっ!」
 その時、草間興信所の事務所内に大きな火柱があがった。だけどその炎は幻のようで実際に物が燃える事はなかった。
「渚ちゃん、魔女に負けたくないよね?だったら自分の力で魔女をねじ伏せるんだよ」
「…あたしは…生きたい。魔女なんかに…負けたくない!!!」
 渚がそう叫ぶと同時に今までより大きな火柱が上がり、魔女の絶叫とも呼べる悲鳴が宴の耳に響いてきた。
 それは魔女の封印が成功した瞬間だった。
「…あたしは…」
 渚はズキズキと痛む頭を押さえながら立ち上がる。宴は渚に手を貸しながら「終わったよ」とにっこりと微笑んで答えた。
「あたし…もう…死ぬなんて考えなくてもいいの?」
「そ、これからはもっと明るい事を考えようよ。まずは記念に私と近くの喫茶店でお茶なんてどう?」
「…いいわね、ぜひご一緒したいわ」
 クス、と渚は口に手を当てて笑う、そして二人一緒に草間興信所から出て行った。

 うん、やっぱり女の子には笑顔が一番だね。
 隣で笑う渚を見ながら宴は思った。




□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

4648/狩野・宴/女性/80歳/博士/講師

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

狩野・宴様>

初めまして。
今回『炎を纏いし紅蓮の魔女』を執筆させていただきました瀬皇緋澄です^^
『炎を纏いし紅蓮の魔女』はいかがだったでしょうか?
宴のようなキャラを書くのは初めての事でしたから、キャラを崩していないか非情に不安です。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです^^
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくおねがいします^^

            −瀬皇緋澄