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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


必勝ラブレター
◆0◆
 最近、妙に若い客が多い。別にひがんでいるわけではない。喋り方にジェネレーションギャップを感じたり、格好が破廉恥だなどと思ってしまったり、ファッションセンスに意見の不一致を見たりして年を感じているわけでは、断じてない。
 今日もまた、一人の少女が、彼女らにとっては分不相応であるだろうこの店へと入ってくる。茶色に染め、ウェーブのかかった髪をルーズにまとめ、スカートを太ももが半分は見えるほどに短くした、いわゆる女子高生だ。
 頬を染めて、至極真剣な目をして碧摩・蓮に問う。

「ここに、『必勝ラブレター』って置いてませんか?」

 受験シーズンの絵馬の仲間だろうか。
「……なんだい、それは」
「あたしも友達に聞いたんでよく分からないんですけど、その便箋でラブレターを書けば、男は絶対に落ちるっていう……あるんですよね?」
 悪い呪いでもかかっているのだろうか。それとも、乙女の生み出した可愛らしい幻想なのか。幻想にしては、何故この店を頼ってくるのか。
「悪いけど、そんなのはうちには置いてないよ」
 蓮が言うと、少女の表情が豹変した。
「あたしがガキだからってなめてるんですかぁ?」
 ケンカ腰への変わり身の早さ。あっぱれだ。まるでチンピラかヤンキーのようである。蓮は溜め息とともにキセルの煙を吐き出した。ないと言っているのに、どうして事実を認めようとしないのだろう。何をいっても「逆ギレ」するのだ、この少女は。これ以上、まともに話し合える気がしなかった。
 そこで蓮は、彼女の矛先を変えてやることにした。
 ゆるりと視線をめぐらすと、店の中にいた人物を指差し、
「ここには置いてないけど、――そういえば、それっぽいものをそこのヤツが持ってたみたいだったねえ……」
 少女は目を輝かせた。


◆1◆

 突然、女子高生らしい女の子に「あれ、持ってるんでしょ」と言われて心当たりがある者はいるのだろうか。
「……あれ、って?」
「とぼけないで下さいよね。あたしの目は誤魔化せないんですから!」
 はなから疑われているらしい。シュライン・エマは困って隣にいたジュジュ・ミュージーに助けを求めるように視線を向けた。ジュジュは、
「アレ? 心当たりがありすぎて分からないヨ」
 とぼけたように言いキャラキャラと笑った。実際の所、たくさんの人には言えないような仕事をこなしてきたジュジュは、「アレ」なんて言う呼ばれ方をしているものをたくさん知っている。そして、ここ最近「アレ」と呼ばれているものがあることも知っていた。
 怪訝そうな顔をする女子高生に、ジュジュはとろんとした目を向けた。
「ユー、誰かに手紙を書こうと思ってるネ?」
 ジュジュが軽く鎌をかけると、少女はあっさりと引っかかった。
「知ってんじゃん! さっすがぁ、物知りっぽい顔してると思った」
 少女は手を叩いて喜んでいる。単純なものだ。
「それで、今持ってるわけ?」
「それは教えられないネ。ユー、時間はある?」
 少女は時計代わりのケータイに目を向けると少し思案していたようだがやがて笑顔を向けると、
「大丈夫。今日は親も外食の日だし。で、持ってるの? 必勝ラブレターってヤツ」
 すぐに急かしてくる少女に、ジュジュは喉を鳴らして笑い、シュラインと少女の顔を見比べると
「まずは、詳しい話を聞かせてもらってからでショウ。ねえ?」
 困惑した表情のシュラインも、とりあえずジュジュの提案に頷いた。
 早速外へ出ようとする少女を、ジュジュはさりげなく引き止めた。
「何? 早く行くんじゃないの?」
「その前に、ここに連絡先を置いておくといいヨ。きっと役に立つカラ」
 碧摩蓮を目で示し、耳打ちする。
「そうなんですか? じゃあケータイのアドレス書いときますね」
 少女は、小さなメモ帳にさらさらとケータイの電話番号を書き記すと、蓮に渡した。
「そゆことで、よろしくネ」
 最後に蓮に声をかけたのはジュジュであった。
 扉が閉まる。
 蓮は渡されたメモの切れ端をひらひらともてあそび、ぽつりと呟いた。
「何を知っているのかね、あの子は……」


◆2◆

 場所を近くの喫茶店へ移した。女性の性分なのか、3人とも紅茶とケーキを注文している。桂木理沙と名乗った少女は、二人に対して「あたし、おごりますよぉ?」といってきたが、二人は謹んでそれを辞退した。年下の者、しかもまだ親のすねをかじっている者におごらせてはまずいだろう。
 チョコレートケーキをフォークで切り分けながら、シュラインがまず切り出した。
「その必勝ラブレターっていうのは、一体どういうものなのかしら?」
「あたしも、友達から聞いただけでよくは分からないんですけど、その紙でラブレターを書くと、相手は絶対にOKしてくれるらしいんですよぉ」
 女子高生はミルフィーユを食べる合間に喋る。
「それで、どこに売ってるのか聞いたら、あの辺りに怪しいものばかり売ってるお店があるって言うから探してみたら、すっごい怪しいお店があるじゃないですか。ここに間違いないだろ、って思ったんですけどね」
「怪しいお店って……」
「アンティークショップ・レンのことみたいね」
 これを碧摩蓮が聞いたらどんな反応を示すのだろうか。この場に彼女がいなくてとりあえず良かったと思う二人である。
「でも、あのお店に来てよかったですよぉ。ラブレターのこと、知ってる人に会えたし」
 理沙はニコニコとジュジュのほうを見た。
「ん、ミーのこと?」
「だってさっきあたしが何しようとしてるか当てたじゃないですか。エスパーかと思いましたよ」
「あれくらい、少し考えれば分かることよ。ユーは『ラブレター』を探していた。それなら手紙を書くだろうと予想してもおかしくないネ」
 ジュジュは肩をすくめて言うと涼しげな顔でダークチェリーパイを口に運んだ。
「どうして誤魔化すんですか? あたしが子どもだからってばかにしてるんだ?」
 理沙が若者独特の喋り方でジュジュに詰め寄るが、全く動じない。
 と、理沙のカバンから軽快な音楽が流れ出した。
「あ、電話だ。誰からだろ……」
 携帯電話を取り出すと、二人へ軽く頭を下げつつ店の入り口付近へと話しながら移動して行ってしまった。「今? 近くの喫茶店」とか「上手く言ったら教えてあげるからさ」といっているところからして、彼女の友人からの電話だろう。
 電話が長引きそうなのを見て取ると、シュラインはそっとフォークをさらに置いた。
「ジュジュさん、本当の所どこまで知っているのかしら?」
 青の目が、まっすぐにジュジュを見た。


◆3◆

 ジュジュは、とろんとした目つきでシュラインを見つめ返していたが、やがて目を伏せるようにして笑った。
「ユーを誤魔化すことは出来ないみたいね。その通り、ミーは『必勝ラブレター』のことを知ってるよ」
 アイスティーを一口飲むと、まるで煙草を吸ったあとのようにふーっと息を吐いて、ジュジュは言葉を続けた。
「ミーの同業者。田楽京介の操るデーモンの仕業ネ。邪魔だからどうにかしてほしいって依頼を受けてる」
 どうにかするとは、とりもなおさず殺せという依頼なのだろう。シュラインはそっと眉をひそめた。ジュジュがそう言った依頼を受けているのは知っているし、それは生き方なのだろう。
「あの子を囮にして、その田楽という男を呼び出そうとしているの?」
「そううまくいくかどうかは、あの子次第だケド」
 否定することなく、ジュジュは言った。否定した所でかえってうそ臭くなる。
 二人の座るテーブルに、奇妙な間が訪れる。理沙が電話で話す声が遠く聞こえる。
「……少し失礼するわ」
 立ちあがったのはシュラインだった。カバンを持つと、店の奥にある化粧室へと歩いて行く。その背中を見送りながら、ジュジュは知らぬ間に自分が笑顔を作っていることに気づいた。
 この依頼を受けたのには、褒賞がよかったのに加えてもう一つ理由があったのだ。ジュジュもまた「必勝ラブレター」を手に入れて、草間武彦にラブレターを書こうと思っていたのである。ラブレターを書いた後で田楽京介を始末すればいい。楽観的且つ自己中心的な計画がすでに彼女の中には出来あがっていた。
「利用できるものは利用する。ずっとそうしてきたんだカラ」
 誰にともなく呟いた。
 足音が近づいてきた。
「すみません、電話長引いちゃって。……あれ、もう一人の人は?」
 戻ってきたのは、悪びれない笑顔を向けてくる理沙であった。友人と喋ったあとのせいか、テンションが高くなっているようだ。
「シュラインなら、あっち」
 化粧室のほうを指し示して教える。理沙は「そっか」と相槌を打つと再び席についた。


◆4◆

 理沙は戻ってくるなり早速フォークを手に取るとミルフィーユを美味しそうに食べ始める。
「それで、ユーの告白相手はどんな人?」
「えー、どんな人って言われても」
「相手のどこに惚れたとか」
「ええとねぇ……、最初みた時すごい怖そうな人だな〜って思ったんですよ。なんかハードボイルド系な格好で煙草とか吸っちゃってるし、言葉遣いも乱暴だったし」
 なるほど、不良系の男子といったところか。
「その人のどこがいいの?」
「……助けてくれたんです。あたしが夜にコンビニに寄ったら帰りに変な人たちに絡まれちゃって、路地に連れこまれそうになってたところを……」
 それは確かに、女性ならばくらっと来てしまうシチュエーションだ。
「一人とか二人は殴ったりして倒したんですけれど、相手の人数が多かったから、そのあとはあたしの手を引いてずっと走って逃げてたんですよぉ」
 相当可笑しかったのか理沙の思いだし笑いが混ざる。
「それでもなんとか逃げきって、すぐに帰っちゃおうとするから、お礼させてくださいって言ったら『ご依頼はこちらにどーぞ』とか言って名刺をくれたんです」
「……依頼?」
 女子高生の思い人だからてっきり同じ高校生だとばかり思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
 理沙はカバンから手帳を取り出すと、挟んでいた名刺を取りだしてジュジュに見せてくれた。

『草間興信所 所長
    草間武彦  』

 そこには確かに、そんな文字が印刷されていた。
「草間って、あの草間……?」
「おねーさんも知ってるんですか、その人のこと」
 理沙は無邪気に訊ねる。視線を下のほうにずらし、少しの間考え事をしたジュジュだが、やがて理沙に笑みを向けた。
「知ってるヨ。草間はミーの…友達だからネ」
「ホントですか? あ、じゃあ手紙書いたら渡してもらえますか?」
「『必勝ラブレター』で書くつもり?」
「もちろんですよぉ。だってそのためにこんなとこまで来たんですから」
 何気ない言葉の端々から、少女の自信が見て取れる。
 ジュジュは腕を組み、軽くため息をついた。
「ラブレターを書いて、返事をもらったらどうする?」
「そうだなぁ、やっぱデートしたいかも。
「ユー、何も分かってないネ」
 ゆるゆると首を振って見せると、面白いほどに激昂する理沙である。机を叩いて抗議する理沙を横目に、ジュジュは「あるところに」と語り始めた。

 ある所に、一人の女の子がいました。彼女は、電話越しに話すことで相手を意のままに操ることができるという能力を持っていました。これは、彼女がその能力に気付く前のお話です。
 女の子には、好きな子がいました。ある日、彼をデートに誘いました。もちろん、電話を使って。能力があることをはっきり自覚はしていませんでしたが、電話を使って相手を誘えば絶対に成功するという自信はあったのです。
 彼は、快くデートを承諾してくれ、当日が訪れました。近くへ興行に来ていた移動遊園地で、楽しいデートが始まりました。相手は女の子にベタ惚れで、まさしく女の子が望んでいた姿でした。楽しい時は永遠に続くと思われました。
 けれど、魔法は解けてしまいました。能力による効果が切れてしまったのです。男の子は、ひどく戸惑った顔で女の子に訊ねました。
「どうして俺はこんなことしてるんだ?」

「……そんな、子供だましみたいな話をして、あたしが動揺するとでも思ってるんですか?」
 物語を聞き終え、理沙が最初に発したのはそんな強がりだった。
「事実ヨ。今からユーがやろうとしていることも、結局そういうことでショ?」
「それは……っ」
 理沙が言葉に窮していたとき、まるでタイミングを計ったかのようにシュラインが戻ってきた。


◆5◆

 自分が席を立った時とはまた違った沈黙に包まれているテーブルに戸惑いつつ、シュラインも席につく。理沙は黙りこくったままで黙々とミルフィーユを頬張り、すでにパイを食べ終えていたジュジュは、まるでアルコール類を飲むかのような緩慢な動作でアイスティーをちびちびと飲んでいる。
「……いいコト教えてあげようカ」
 ふいにジュジュがシュラインのほうを向いて言った。理沙は無視を決めこんでそちらのほうを見ようともせずティーカップを取る。
「いいコトって何かしら?」
「理沙の告白する相手が、草間武彦だってコト」
「えっ、武彦さんに?」
 シュラインが声を返すと同時に理沙が丁度飲んでいた紅茶にむせ返った。
「おねーさん、口軽過ぎ……」
「それ、本当なの?」
 シュラインはジュジュの顔を見て、それから理沙を凝視した。有無を言わせぬ視線を受け、理沙はカバンから例の名刺を取り出してシュラインに見せる。
「ホント……武彦さんの名刺ね。名前を広めようとするのはわかるけれど、何も女子高生にまで……」
 少々呆れたように言うシュラインに、ジュジュは楽しげに言葉を付け足す。
「その子を助けたのヨ、武彦」
「そうなの?」
 シュラインが確認を取ると、理沙は頷いて
「スゴい危ないところを助けてもらったんです。で、お礼がしたいって言ったら代わりにこの名刺くれて……」
「なるほどね」
 武彦さんらしいとでも思ったのだろう。手で半ば隠れているが、その口元はしっかりと笑っている。
「もしかして、お姉さんもこの人のコト知ってるの?」
「知ってるも何も、シュラインは草間興信所の事務員ネ」
 答えたのはジュジュである。
「うっそ、すっごいじゃん! やっぱあの店って凄いんですね」
「そうなのかしら、ね……」
 不思議なものが集まりやすい場所ではあるが、探していた人を見つける手がかりにもなるとは。
「スゴイいい人ですよねえ、草間さんって」
「そうね。お人よしで、結局断れないような所があるわね」
「優しいじゃないですか」
「たしかに、不器用だけどさりげなくいろいろ気を回してくれたりするわね……」
「うちのクラスにはロクなのいないじゃないですか。やっぱり大人の男の人っていいですよね」
「憧れるのも分かるわ」
「憧れじゃなくて好きなんですよ!」
 理沙はクイっと紅茶を飲み干した。
「っていうか、草間さんのところで働いてどれくらいなんですか? すごいいろんなコト知ってそうですよね」
「そうかしら? でも結構経つわね……。もしかしたら、事務所のどこに何があるかは、武彦さんよりも私のほうが知っているかも」
「だから、彼にラブレター渡すならミーよりこっちのほうが適任ネ」
 ジュジュが面白がるような口調で理沙に告げた。
 シュラインの顔がふと引き締まる。
「理沙ちゃん、あなたそのラブレターを使って武彦さんに告白しようとしてるの?」
 シュラインとしては初めてのその質問だが、理沙にとっては2度目の詰問である。
「そうだけど。悪い?」
 少しとげとげしい。
「悪い、と言うのではないけれど……あなたは、本当にそれでいいの?」
「いけないって言うんですか?」
「そうじゃなくて……」
 シュラインは少しの間額に手を添えて考えていたが、やがて静かな口調で言い放った。
「そんなことをして、最後に傷つくのはあなたよ」


◆6◆

 ジュジュは、シュラインがそういった趣旨のことを言ってくれるであろうことを、あらかた予想していた。
「……どうしてそう言うこと言うんですか? あたしの邪魔しようって言うんですか?」
「そうじゃないわ。……私だって、告白したいと思ったことがあるもの」
「え、誰に?」
 反射的に聞き返した理沙だが、やがてはっとした表情になった。
「そのラブレターを使えば、絶対に相手が私に振り向いてくれるとしても、そんなことをして手に入れても、嬉しくもなんともないはずよ。少なくとも、私はそう」
「でも、フラれるのは怖いし……」
「ユー、前に男にひどいフラれ方をしたでしょ?」
 ジュジュが茶々を入れる。
「……うん。すっごいトラウマになるよ、あれ」
 理沙はおとなしく肯定した。相当堪えたらしい。
「でも、だって……」
「大丈夫よ」
 シュラインは、そっと理沙の肩に手を置いた。
「大丈夫。武彦さんは、適当な答えを返すような人じゃないわ。あなたも分かっているでしょ? きっと、ちゃんと考えた上で答えをくれると思うわよ」
「そう、かな……」
「あなたが惚れた武彦さんは、そういう人じゃないかしら?」
 シュラインの言葉に、理沙は何度かの瞬きの後そっと頷いた。
 そんな温かなシーンをぶち壊す軽快な音楽がしたのはその直後であった。理沙のカバンからである。
「だ、誰だろこんな時にもぅ……」
 愚痴りながらもケータイを引っ張り出して応対する理沙だ。相手の声を聞くうちに、困惑の表情になる。
ケータイをそっと体から離し、通話口を手でふさぐと、
「どうしよう……『必勝ラブレター』譲ってくれる人から電話来ちゃった」
 相手は、アンティークショップ・レンに寄った際に、店主からあんたを探してる人がいるといわれて電話番号の書かれたメモを受け取り、電話してきているという。
「まだ欲しいの、そのラブレター?」
「……ううん、要らない。でも、ちょっとこの人ヤバそうなの」
 理沙はケータイを示して言った。それをさっとジュジュが奪う。
「な、返してってば……!」
「少し借りるだけヨ。ミーはこの電話の相手を探してた。大丈夫、ラブレターはこっちで処分しておくカラ」
「でも、その電話の人すごい危なそうですよ?」
「操るから大丈夫ネ」
「操るって……」
 理沙が目を白黒させているを見つつ、ジュジュはシュラインに
「そういうわけだから、その子と一緒に武彦の所まで行ってるといいヨ」
「分かったわ」
 シュラインは頷いた。
 シュラインと理沙が興信所のほうへと歩いて行くのを見送ると、ジュジュはそっと理沙のケータイを耳に当てた。
「ハロー、田楽京介」


◆7◆

 草間興信所の前に集まった3人である。
「やっぱり、直接言うのは止めようよ……」
「いまさら何言ってるヨ。もうベルは押しちゃったでショ」
 ちょっとした「用事」を終えケータイを理沙に返したジュジュが、楽しげに言う。
「覚悟を決めなきゃ」
 シュラインも、右手で親指を立てて見せる。
 事務所の中から、どたどたと入り口へ向かってくる足音がする。まっすぐに歩いていなさそうなのは、武彦の散らかしように零の片付けが間に合っていないせいだろう。シュラインは密かに、帰ったらどこから掃除しようかと考えてしまう。
「……言うから、絶対にちゃんと言うから」
「頑張って。理沙ちゃん」
 シュラインが力強く頷く。
 ドアが開き、武彦が姿を見せる。
「気持ちを伝えるのに小細工は要らないネ」
 誰にも聞こえないように呟き、ジュジュは後ろ手で白い便箋をクシャッと丸めた。



  Fin.

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/女/26才/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

【0585/ジュジュ・ミュージー/女/21才/デーモン使いの何でも屋(特に暗殺)】

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■         ライター通信          ■
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こんにちは。月村ツバサと申します。
今回は「必勝ラブレター」にご参加いただきありがとうございます。
納品が納期ギリギリになってしまい申し訳ありません。
女の人ばかり集まったということで、高校生が恋愛の話をするような雰囲気を目指してみました。

少しでも楽しんで頂ければ幸いです。


2005/02/24
月村ツバサ