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<東京怪談・PCゲームノベル>


超能力心霊部 ファースト・コンタクト



 とあるファーストフード店で悲鳴があがった。
「な、なんですか、これは!」
 バン! とテーブルを叩く黒髪の美少女を、金髪の少年と、ボブカットの少女が見上げる。
「しゃ、写真だけど……」
「そんなの見ればわかります! そうではなくて、この写っているものです!」
 出された写真には、三人に加えて見知らぬ少女が写っていた。長い髪を持つ中学生の少女だ。
「えっと……女の子?」
「だね」
 正太郎と朱理を、ぎろりと鬼のような形相で睨みつける奈々子。思わず二人は視線をさっと下に向けた。
「そうではなく、この少女を包むこの白い光です。それに私たちも写ってるじゃないですか!」
 とはいえ、三人ともその少女に見覚えはない。
 朱理は嘆息して、頬杖をついた。
「いいじゃんべつに。正太郎が変テコな写真を撮るのなんて、今に始まったことじゃないし。そのうちわかるんじゃないの?」
「どうしてあなたはそうなんですか!」
 テーブルを壊しそうな勢いで拳を打ち付ける奈々子が、二人に言い放つ。
「きっとこの子は幽霊か何かです! 二人とも、この子を見たら警戒してくださいね!」



 さらり、と風に長い髪がなびいた。小さく嘆息がその唇から洩れる。
 彼女の名前は月宮奏。現在中学生だが、退魔士でもある。
(今日の仕事は……少し長引いたな)
 ぼんやりそう思っていると、誰かにぶつかった。
「すみませ……」
 顔をあげたそこには、外人の少年がいる。ひょろりとした印象を受ける彼は、仰天の表情でその場に凍り付いていた。
 怪訝そうにした奏は、「あの……」と声をかける。少年はハッとしたように我に返り、一瞬で顔色が悪くなった。
(なんだろう……)
「おーい、正太郎〜! なにボーっと突っ立ってんの〜?」
 少年の肩を叩いたのはボブカットの少女。慌てて彼女に追いついたのが黒髪の美少女だ。彼女は荒い息を吐き出している。
「あ、朱理……どうしてあなたはいつも私を置いて先に……はあ、はあ……」
「だって奈々子、遅いんだもん」
「な、なんですってぇ……」
 ぜはぜはと息を吐き出す黒髪の少女は、怒っていても怒鳴る力は今はないようだ。
「あ、朱理さ……」
 涙を浮かべて、ぎこちなく振り返る少年を、朱理と呼ばれた小柄な少女は「ん?」と見返す。そして少年の示す方向――奏に気づいて目を丸くした。
「あっ、幽霊の子!」
 思わず指を向けてくる彼女を奏は視線を遣る。奏はこの三人と面識などない。
「は……?」
「およ?」
 奏の呟きに朱理は顔を覗き込んでくると、「あれま」と洩らした。
「この子、ちゃんと生きてるよ? なんだあ、奈々子の推理は見事ハズレってわけか」
「え、えええ!?」
 黒髪の少女はやっと息を整えたらしく、奏に近づいてくる。中学生の少女を高校生三人が囲んで脅しているようにも見えた。
「ほ、本当ですね……。人間です」
「あの……?」
 奏は三人を見遣って尋ねる。一体なんのことかさっぱりわからない。
「ああ、悪いね。あたし、高見沢朱理っていうの。こっちは一ノ瀬奈々子で、あっちは薬師寺正太郎。実は、あんたが写った妙な写真を持っててさ」
 朱理は写真を取り出して奏に見せる。奏は驚いた。この三人と会ったのは今が初めてだというのに、四人で仲良く写っているのだから。
「……これは?」
「僕の撮った写真なんだけど、その……変なものを写す癖があって」
 正太郎が言葉を選びつつ説明する。
(癖?)
 そんな妙な癖を持っている人がいるのか。
 納得して見てくる奏から、正太郎はぎこちない笑みを浮かべてくる。
「これ……私の霊力で見えなくなってるけど、本当は何か別のものが写ってるような気がします……」
「え、そうなの?」
 朱理の言葉に頷く。
(……朱理さん、悪い人じゃなさそう)
「いやあ助かるよ。そういう変なのって、あたいたち、よくわかんなくてさあ」
「わからないって……?」
「まあ怪現象に疎いっていうのかな」
 気さくに話す朱理を見遣る。
(霊力が一番弱いのは、この朱理さんだけど……。あの正太郎さんはかなり強力な霊力があるのに……)
 霊力が高くても、そういう人もいるのか。
「私……退魔士もしてるし……。よければこの写真、霊視しますけど……」
「ほんと? 助かるよ、ありがと!」
「いえ……」
 屈託のない笑顔に、奏は微かな笑みを返したのだった。



「へー、ここが自殺の名所かあ〜」
「あ、朱理さん、な、何も感じないの?」
 真っ青の正太郎に「はあ?」と能天気に返す朱理を、奏が見遣る。
(朱理さん……物凄く鈍いみたい……)
 見つめていると、朱理の耳を奈々子がぎゅっと抓り上げた。
「何かあった時は朱理の能力が必要になるかもしれないんですよ! もっとしっかり気を引き締めてください!」
「いだだだ! 痛いって! 奏ちゃん、奈々子を止めて!」
 奏が返事をしようと口を開きかけた刹那、奈々子に手を引っ張られて朱理から隠される。
「月宮さんに助けを求めない! 恥ずかしくないんですか、あなたは!」
「……私は別に……」
「月宮さん、この人を甘やかしてはいけません。すぐ調子に乗るんですから」
 きっぱりと言われて、奏は朱理を見遣る。朱理は唇を尖らせてぶつぶつと何か言っていた。抓られた耳が微かに赤くなっている。
「あのさあ、早く終わらせて帰ろうよぉ」
 正太郎はすでにギブアップ寸前だった。

「この写真の背後は……おそらくこの辺ですね」
 写真と周囲を見比べつつ、奏は先頭を行く朱理に言う。よくはわからないが、彼女が矢面に立つのはいつものことらしい。
「感じる限り、自殺した霊の気配も強いんだけど……どうも違う気が……」
 周囲で突然パン、と白けた音がたくさん鳴った。正太郎が悲鳴をあげて奈々子にすがりつく。
「ら、ラップ音!?」
「……大丈夫。警告音です」
 奏の言葉を聞いてはいるが、正太郎の顔色は紙のように真っ白だ。精神的に限界に近いらしい。
(自殺した霊が写ってるわけじゃないのはわかってるけど…………もしかして)
 突然ぐいっと横に引っ張られたように体を傾かせた奏は、そちらを見遣った。
 ちらちらと森の木々の合間から見える霊。その中に埋もれたように一瞬だけ見えたソレに――――。
 目を見開いた奏の手が誰かに引かれたため、倒れずに済んだ。
「奏ちゃん、大丈夫?」
「朱理さん……」
「なんかわかったんだね」
 奏が頷くと、彼女は「そうか」と笑顔で言い、手を離す。
「月宮さん、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫?」
 心配そうに見てくる奈々子と正太郎に頷き返すと、二人とも安堵の息を吐き出した。
 奏は全員を見渡す。
「あの……ここは私に任せてもらえますか」
「もちろん!」
 一番に応えてくれたのは朱理だった。
「奏ちゃんの思うようにしてよ。困ったことがあったら、まあこんなに頼りないけど、あたいたちも頑張るからさ」
 朱理はこそっとそう耳打ちする。それを聞いて奏は頷いた。
 表情を引き締めた奏は、先導して歩みを進める。もう少し奥だ、溜まり場となっているのは。
(…………かなり多いな、霊の数が)
 足を止めた奏が屈んだ。膝を抱えて座っている男性に声をかける。
「……あなたね、私と写真に写っていたのは」
 顔を上げた男性は、自殺してこの場に縛り付けられている気配はない。男の霊を通して見えた情景は、曲がり道だ。奏たちがここに来るために乗ってきたバスから見た光景と一致している。
 カーブに添えられた花束。
「……事故で亡くなった……。でも」
 ここに居る霊たちに引っ張られて成仏できない。
 彼の腕に絡みつく『腕』は、ここで自殺した者たちのものだ。
 見えてしまう。
 自殺スポットとして有名になってしまい、ここに来ては死ぬ者たちの負の感情が。それらに引きずられてしまい、どんどん増えていくその重い念が。
「『みなさん』」
 奏の声が、ひどく涼やかに森に響いた。小さな声だったのに、遠くまで染み渡ったような気さえする。
「『もう、上にあがりませんか?』」
 男の霊はひどく驚いたように目を見開き、動きを止めた。
 周囲を漂っていた霊たちも動きを一斉に止める。今まで悪意しかなかったのに。
 男に行き先を示した。
 男は涙を流して立ち上がり、そのまますうっと消えてしまう。空を見上げて。
 周囲にいた霊たちも揃って上空を見上げた。
 奏はそれら霊たちを見渡し、空を示す。
 もういいのだ。忘れていいのだ。
 生きていた頃の辛さ、苦しさは、もうないはず。死んでからもその苦しみに縛られることはない。
 穏やかに微笑む奏を見た霊たちは、ゆっくりと浮かび上がり消えていく。
 一人、二人…………五人、六人…………。
 消えていく数はどんどん増えていく。
 霊たちの目は皆、穏やかで、消える直前は奏を一瞬だけ見遣った。感謝の色を浮かべて。
 やがて完全に霊の気配が消え、辺りは静まり返った。
 正太郎は周囲をくまなく見渡し、驚いている。
「……あの人たちは、この場に引き寄せられてしまって……。死んだ人がさらに死んだ人の霊を呼び込んで、ここは溜まり場に……」
 奏は森を見つめた。
「あまりよくない場所だけど……私と一緒に写真に写っていた人は……さっき」
 脳裏にあの花束が浮かぶ。
 本当ならもう随分前に成仏しているはずの霊だったのに、ここの霊たちによって動けなくなっていた。
 けれどもう。
 その苦しみから解放されたのだ。彼ら全てが。
 良かった。本当に。
「奏ちゃん」
 肩を叩かれて奏は顔をそちらに向ける。
「すごいよ! 奏ちゃんて、すごいね! あの人たちみんな、ジョーブツってやつしたんでしょ?」
 頷くと、朱理がさらに「すごいすごい」と言って奏の周りをちょろちょろと跳ねた。
 と、朱理の後頭部を奈々子がゴン! と叩く。
「月宮さんを困らせない! いいですね、朱理」
「……へぇ〜い」
 それを見て、奏は小さく微笑んだ。
「そうだ。せっかくだから、みんなで写真を……」
「いいね! よーし、じゃあ全員で! 正太郎、カメラカメラ!」
 奏の提案に朱理が正太郎を振り向く。そして、全員がそこで動きを止めた。
 電池の切れた玩具のように、あまりの体験に気絶している正太郎が、そこに在ったのだ――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【4767/月宮・奏(つきみや・かなで)/女/14/中学生:癒しの退魔士:神格者】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 初めまして月宮様。ご依頼ありがとうございます。ライターのともやいずみです。
 NPC三人にとっては初の年下PCさんとなります! 三人とも微妙に年上の顔をしている……ような。
 かわいらしいお嬢さんをイメージして書かせていただきました〜。いかがでしたでしょうか?

 今回はありがとうございました! 楽しく書かせていただき、大感謝です!
 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。