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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


私の背中で鬼が哂う


 時には激しく、時には軽快に、時には物悲しく紡ぎ出す。
ここは吹奏楽に青春を捧げるものたちが集う場所。

 中・高校の生徒たちが所属する、神聖都学園吹奏楽部。
部員約70名からなる、比較的大きなものに位置する部。
そこで今、ある噂が密やかに流れていた。

 吹奏楽部の練習は、毎日放課後に行われる。
前半は各パートでの個人練習、後半は教室一つを使っての合奏練習。
合奏は部員たちが一同に会する時間。
そこで見る顔は、普段部活で垣間見る見知った顔ばかりだが―…。
極稀に、何処かで見た記憶はあるけども名前が出てこない、という者がいる。
それを強く感じるのは、指揮者担当の生徒。
ある時はトランペットのパートに、ある時はサックスのパートに、
ある時はクラリネットのパートに。
普段は6人のパートが7人に、3人のパートが4人に、8人のパートが9人に。
誰もが、いつ、どこで、誰が増えたのか、わからない。
ほぼ全ての部員を把握しているはずの、高校二年生たちも知らないという。
見覚えはあるが、誰かと問われると喉元までしか答えが出てこない。
それは何とも不気味で―…焦燥感が付きまとう。

 合奏が終ったあとは、いつの間にか通常の人数に戻っている。
だが、その日の合奏で人数が増えたパートのパートリーダーは、
何故か次の日から様子がおかしくなる。
学校をしばしば休むようになり、
見舞いに行ったものは、その顔が何処となく蒼白かったと語った。

そういうことがぽつぽつと起こるようになると、部員の間で囁かれるようになる。

―…『鬼が憑いた』のだと。



 立川凛は、吹奏楽部でトロンポーンのパートリーダーをしていた。
現在高校二年生、部員を引っ張っていく立場の人間だ。
 その日の合奏練習、凛はボーンのスライドを動かして、
いつもどおりの演奏、部員たちとの一体感を楽しんでいた。
 彼女は曲中の休みの間、楽譜をめくり次の出番に備えていた。
そのとき、凛はふと気配を感じ、自分のパートの部員を横目で見た。
彼女のパートの人数は6人。
だが今日は何故か、少しばかり人数が多いような気がした。
…その時点で、嫌な予感が彼女の背を駆け巡る。
だが確認する暇なく、凛は次の出番が来るのを悟り、ボーンを構えた。
何事もなく紡がれる音の洪水。
凛はそれを生み出す一員となりながら、先程見た人影を思い出していた。
彼女のパートの末席にいたのは、見覚えはあるが―…名の知らぬ部員。
凛はそれを思ってゾッとしながら、必死で頭の中の想像を打ち消そうとした。
…あれは噂だ。過去の部室の事故を面白がって誰かが作った噂。
凛はずっとそう信じていたのに―…。

 吹奏楽部の練習は夕暮れまで続く。
凛が自宅に帰り着く頃には、すっかり陽が落ちていることが当たり前だった。
 その晩、凛は次の日に行われる小テストの予習をするために机に向かっていた。
部屋には誰もおらず、時折凛の走らせるシャーペンの音だけが響く。
凛はふと手を止め、ペンの先を頬に当てた。
…今日の練習は何だったのだろう。
きっと見間違いだ、そう片付けてしまうことが出来たら楽なのに。
だが凛には忘れることが出来なかった。
あの人影を横目で見たときに感じた、背中の悪寒。
「…まさか、ね」
 凛は一人でそう呟き、苦笑を漏らした。
馬鹿げている。
 そう自分に言い聞かせるように言った次の瞬間。
凛は背後に何かの気配を感じた。
足音も何もない、ただ気配のみ。
何故か振り向くことが出来ず、固まる凛の耳に、微かな息遣いが聞こえた。
…誰もいないはずなのに。
意を決して、振り向こう。振り向いたらきっと何もいないはず。
そう強く自分に言い聞かせ、いざ首を曲げようとしたその時。

   ――…けらケラけら。

 嘲け哂うような声が、確かに、した。








             ■□■










「ふぅーん。何だか面倒なことになってンのねえ」
 授業時間はとうに過ぎ、昼間の賑やかさのなくなった中等部校舎。
その4階の廊下に、ペタペタとスリッパの音を響かせながら、
皆瀬・綾は聞きようによっては呑気と取られそうな声で言った。
彼女の長い髪は金色に輝き、忙しなく動く瞳は青色で、
明らかにこの校舎に相応しい容姿ではないことを物語っていた。
…最も普段から4〜5歳ほど年齢を下に見られがちな彼女は、
顔立ち的には大して違和感はなかったのだが。
 溜息をつきながら綾の先頭を歩くのは、この学園の制服を着ている少女。
その容姿や制服から、高等部―…2年生とわかる。
「大変っていうか…もう、なんでこんなことに、って感じですよ。
あーあ、今頃は大きなコンサートもないし、暇な時期だったのになあ」
「そう言わないでよ、こっちだってわざわざ来てあげてるんだし。
あたしだって色々と忙しいのよ?」
「あはは、そうですよねー。でも皆瀬さん、忙しいって言う割りには、
あんまり出席日数足りてないって噂ですケド?
ま、その分うちのコンサートにも来てくれてるから嬉しいんですけどねー」
 一見派手な外見から裏腹に、こう見えても綾は頻繁にコンサート等へ出掛けたりしている。
同じ神聖都学園に所属している彼女は、吹奏楽部のコンサートへも何度か顔を出したことがあった。
その縁からでの今回の依頼なのだが、まさかこの部がそんな怪奇現象云々に見舞われているとは。
綾自身全くこんな現象には縁がないというわけではないのだが、
面倒臭いのが大半、残りはほんの少しの薄気味悪さで、
一応依頼を受けてみたのはいいものの、いまいち気乗りがしないというわけだった。
「うるッさいわね、別に大学だけが大切じゃないわよっ。
ほらあれよ、日々の雑務とか何とか…そういうの」
「はいはい、そういうことにしときますねー。あ、あれです、部室」
 苦笑を浮かべながら、制服の少女は首を動かして廊下の隅を指した。
茶色いウレタンの廊下の突き当たり、その右手に古ぼけたドアがあった。
一番奥の教室から廊下を挟んで、丁度真向かいに位置している。
「こんな暗いとこにあったんだ。そりゃ幽霊も出るってもんよ」
「まだ幽霊って決まったわけじゃありませんよ。変なこと言わないで下さい」
 綾のからかうような声に少女は呆れた表情を浮かべ、
手に持った鍵をチャリ、と鳴らしながらドアのほうに近づく。
そして少女の上履きの音と、綾の来客用スリッパの音が同時に止まった。
「ん?先生?」
「えー…私、あんな先生見たことないです。OBでもなさそうだし」
 綾と少女はそんなことをひそひそと囁き合い、廊下の突き当りを見た。
突き当たり、丁度部室のドアの前、そこには長身の男性が立っていた。
その横顔は綾が見かけたことのないもので、制服を着ていないので、生徒というわけでもなさそうだ。
綾は少女をチラリと見るが、少女も心当たりはないらしく、首を横に振った。
どうやら吹奏楽部の部室に用があるようで、青年は暫し首を傾げながらドアを眺めていた。
そして綾たちの視線に気がついたのか、フッと彼女たちのほうに視線を向けた。
「あ、どーも。キミたち、ここの部員?」
 そう言って青年は覇気の無い笑顔を浮かべた。
綾は不審者を見るような目つきになって、
「だったら何?あんた誰よ?変な目的でここにいるんだったら、警備員さん呼ぶわよ」
「ヤだなあ、警戒心丸出しだね?ボクはそんな怪しい者じゃないよー」
「どうかしら。最近学校への不法侵入事件が流行ってるし、油断大敵って言葉もあるしね?」
 綾はそう言って腕を組み、青年をじろじろと眺めた。
青年は困ったなあ、とへらへらとした笑顔を浮かべながら両手を肩のあたりに掲げた。
「うん、じゃあ降参。ほら、武器も何も持って無いでしょ?
第一キミたちに何か危害を加えるつもりなら、とうの昔に襲い掛かってます。
というわけで可愛いお嬢さんたち、機嫌を直してくれないかな?」
 そう言う青年に、綾はふむ、と考え込むように手を顎のあたりに当てた。
一見したところ、大して彼は怪しそうな外見にも見えなかった。…少々軽薄そうなところが気になったが。
茶色に染まった髪といいカジュアルな服装といい、街で良く見かける若者のように見えた。
…だが綾自身、此処に訪れた理由が特殊なものであることは忘れていなかった。
噂が変な方向に広まり、野次馬のように集まった輩であることも否定は出来ない。
 綾の表情が和らがないのを悟り、青年は苦笑して掲げていた手を腰の辺りに当てた。
「そういえばまだ言ってなかったね。僕は成瀬・冬馬、19歳。一応、学生。
そちらのお嬢さん方は?」
 名乗られたのでは、無視するわけにもいかない。
綾は軽く溜息をついて言った。
「…皆瀬・綾、年齢は秘密、女性に聞くもんじゃないわよ。
んでこっちはそこの吹奏楽部の最上級生、北脇真由子」
 綾に名を言われ、少女―…真由子は慌てて軽く頭を下げた。
冬馬と名乗った青年は、お目当ての部員がいたことに嬉しそうな顔を見せ、
「良かった。真由子ちゃん、悪いけどこの部室開けてくれないかな?
鍵が掛かってるみたいで開かないんだよね」
「あー…今はまだ部活動の時間じゃないから、閉まってるんです。
でも、何でまた?うちの部に何か用事ですか?」
 真由子はそう言って怪訝そうな顔を見せた。
綾はというと、冬馬の言葉に再度険しい視線を送る。
「あ、そうなんだ。用事というか―…調べモノ、かな?ちょっと頼まれたことがあってね。
だからそこの金髪のお嬢さん―…綾さんだっけ?そんなに怒らないでくれよ」
 そう言って冬馬は困ったような苦笑を浮かべた。
綾はその言葉に思わず眉を顰め、
「調べもの?あんた、OBでもないんでしょ。何を調べたいって言うのよ?」
 その綾の言葉に、冬馬は今までの軽薄な笑顔とは違う、真剣な色を浮かべた。
但し、その口元は未だ微笑みを浮かべたままだったが。
 そして、綾と真由子の表情を一変させる言葉を呟く。
「うん、ちょっと―…鬼のことをね?」





















 蛍光灯の白い明りが、四畳半ほどの狭い部室を照らしている。
壁にはアルミ製の無骨な棚が並び、大小様々な楽器ケースが揃い、
楽譜や楽譜立て、打楽器の足を初めとする吹奏楽部特有のものがあちらこちらに整理されていた。
そんな狭い部屋の中央、綾と冬馬は二人して頭を抱えていた。
「つまり、整理すると」
 そう口にしたのは綾。
「冬馬だっけ?あんたはこの吹奏楽部の誰それさんに声をかけたら、
その子から逆にこの事件について相談されちゃった、と」
「そうそう。誰それさんじゃなくって、綾香ちゃんね。
ちょっと派手な子だったけど、ハキハキしてて可愛かったなあ。
昨日かおとついあたりに街で声かけてみたんだけどさ、まさか…ねえ?
こんな物騒なことに巻き込まれるとは思ってなかったんだけど。
まあこういうのは友人のほうが得意なんだけど、最近あいつ忙しいみたいだし…ってなことで、
お兄さんが一肌脱ぎましょうってわけ。
あ、そういえば綾香ちゃんと会ったのは今ぐらいの時間だったんだけど、
彼女、部活さぼったのかな?確か高校二年生って言ってた筈…」
「…さぼったんでしょーよ。真由子が言うには、二年生の間でも今はサボる子が多いらしいわ。
ホント、今からこんな状態でコンクールの時期になったらどうなることやら」
 そう言って呆れた表情を見せる綾。
冬馬は何が楽しいのか、にこにこと笑いながら言った。
「確かにねえ。じゃ、この部のためにも頑張ってみよーか。
一日限りのパートナーとして宜しく、綾さん」
「…足引っ張らないでよね、冬馬」
 お手柔らかに。そう言って冬馬は微笑んだ。
そして綾と共に部室の中をぐるりと見渡す。
つい先程から部活が始まったようで、真由子は「じゃあよろしく」と言って去っていってしまった。
パートリーダーの2年生が半分ほど抜けてしまい、彼女も彼女で忙しいようだ。
「じゃあまずは、検証からかな」
 冬馬の言葉に、綾は怪訝そうな顔を見せた。
「部員に話を聞くってこと?聞き込みってヤツ?」
「そうそう、現場百回、地道な捜査は足からだよ。
まずは現役の子たちから当たってみよーか。ボクとしては、何か裏に事件がありそうな気がするんだよね」
「事件?何それ、じゃあ冬馬は人間の仕業だって思ってんの?」
 冬馬と綾は部室を出て、廊下にスリッパの音をぺたぺたと言わせていた。
部室の中にいたときには気付かなかったものだが、こうして廊下に出ると、
あちらこちらの教室から管楽器の音が響いてきた。
どうやら4階のフロア全部を使って練習しているらしい。
 冬馬は怪訝そうな綾の言葉に、意外だ、という顔をしてみせた。
「ふぅん?綾さんは今のところ、どう思ってる?」
 冬馬に逆にそう尋ねられ、綾はむぅ、と口を尖らせた。
「…別に確かな根拠があるってわけじゃないけど。
でも何となく、人間以外の何かの仕業じゃないかって思ったのよ。
知った顔なのに名前が出ない、特定の人間が体調を崩す。
となるとこれは―…」
 そこまで言って綾は、何かを思い出したかのように口を閉ざした。
そして軽く首を振り、
「やっぱやめとく。まだ新しい情報が手に入るかもしれないもんね。
ま、あたしの直感ってやつだから、気にしないで?」
「そうかな?ボクは直感力っていうのは大事にしたいと思うよ。
案外そういうところに、大事な鍵が眠ってるものだしね。
…っと、ここは何の楽器かな?」
 そう言いながら冬馬は、ある教室のドアに近づき、小さな窓から中の様子を覗き込んだ。
窓は少し高いところにあり、綾は中の様子が満足に覗けない自分の身長を恨んだ。
「ねえ、中はどうなってる?」
 少々苛立ったように言う。
冬馬は笑みを絶やさずに答えた。
「ラッパ系が多いね。金色と銀色が半々ってとこかな。綾さんは楽器のこと詳しいんだっけ?」
「別にそれ程詳しいわけじゃないけど…演奏会は時々聞きに来るから、まあ知ってることは知ってるわ」
 そう言って綾は、ラッパ系ならばここは金管楽器の部屋なのだろうと当たりをつけた。
そして思い出す。
確か真由子は、トランペットのパートだったはずだ。
「ちょっと、多分真由子が中にいると思うから、目配せでも何でも合図して呼んでみてよ」
「真由子ちゃん?さっきの髪の毛を二つに括った子だよね」
 そう言って冬馬は頷き、教室の中に発見したらしい真由子に向かって、ばっちんとウインクを投げた。
そんな冬馬に、綾は思わずげんなりとした顔をした。
…何でこんな軽薄そうな人がパートナーなんだろう?
まあいい、どうせ臨時の一日限りだし。…はあ。
 そんな綾の心中を知ってか知らずか、見事真由子を呼び出した冬馬は得意そうな笑みを浮かべた。
綾は内心呆れながらも苦笑を浮かべ、ありがと、と言った。
そして不思議な表情を浮かべ廊下に出てきた真由子に向かって、
「ちょっと練習中悪いけど、部員の子を2,3人ずつ呼んできてくれない?
軽く話を聞いてみるだけなの」
「話?別にいいですけど」
 そう答え、真由子はまた教室の中へと戻った。
部員が出てくるのを待っている間、冬馬はなるほどね、と呟いた。
「個別に話を聞くってことだね?確かに大勢がいる中で尋ねたら、
こちらにとってもあちらにとっても、都合が悪いかもしれないな」
「そーね、それにいきなり教室に乗り込んでいったんじゃ、相手も口を割らないと思うわよ。
こういうのは個別にじわじわとやらないと!」
「じわじわって…物騒だなあ」
 そんなことを小さな声で呟きあっていると、突如教室のドアがガラリと開き、
中等部の生徒が2人顔を出した。
どうやら見かけない私服の二人を怪しんでいるようで、二人とも揃って眉を顰めている。
 冬馬は女生徒二人を見ると嬉しそうな顔をして、
「やあ、練習中済まないね!ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?
少しだけでいいんだ、お兄さんたちに付き合ってくれるとすごく嬉しいな」
 そう嬉々として話しかける冬馬を横目で眺めながら、綾はやはり呆れた顔をしていた。








「なっかなか難しいわねえ。全然当たりがこないじゃないの!」
 数十分後、当たり障りの無いことしか言わない部員たちに苛立ち、地団太を踏みながら綾が叫んだ。
そして八つ当たり代わりに、キッと冬馬を睨むように見上げた。
「ホントに事件とかあるわけェ?何にもないじゃないのっ」
「うーん、おかしいなあ…」
 綾に詰問され、ははは、と力なく笑う冬馬。
そんな二人の傍らにいた真由子は怪訝そうな顔をして言った。
「事件?まだ言ってませんでしたっけ?」
「…へ?何か知ってンの?」
 綾は思わぬところから出た言葉に、目を丸くした。
真由子は今まで彼らが知らなかったことが不思議だ、というように口を開く。
「てっきりもう言ってたと思ってたもんですからー。ゴメンナサイ。
実はですねー。5年ほど前かな、私たちがまだ入部したての中学1年の頃なんですけど。
部室である事故が起こったんですよー」
 真由子は特に周囲を気にせず―…といっても練習中の廊下だから誰もいないのだが―…
あっけらかんとして続けた。
「部室で楽器が棚から落ちちゃって。ほら、フルートやクラなんかはそうでもないけど、
トロンボーンやペット、ましてやユーフォなんか大分重いでしょ?
そういう上の棚に置いてあるケースに入った楽器が落ちてきちゃったもんだから。
丁度棚の前にいた、当時高2の先輩が1人、亡くなっちゃったんですよー。
…これ、部内では大っぴらに話しはされてませんけど、殆どの子が知ってます。
所謂公然の秘密ってやつですか」
 真由子がそう話し終わると、綾と冬馬は思わず顔を見合わせた。
―…事件は本当に起こっていた。但し、事件ではなく事故だったが。
「―…それで?」
 綾は恐る恐る尋ねる。だが真由子は首をかしげ、
「それで、ってそれだけですよー?事件だから犯人もいないし。
二度と同じ事故が起こらないように、って棚の楽器は固定するようになりましたけど。
私はこんな事故、今回の件にはあんまり関係ないと思いますけどねー」
 真由子はそう言って苦笑してみせた。
だが綾は到底関係のないわけではないとように思えた。
ちらりと冬馬を仰いでみると、彼が目配せをしてきた。あとで、ということなのだろう。
 話し終わった真由子は腕の時計を見て、仕方ない、と笑顔を見せた。
「もうそろそろ練習に戻んなきゃ。下級生を見なきゃいけないんですよー。
うちのパートリーダーも休んでるから、私に仕事が回ってきちゃって。
じゃあ、あとは宜しくお願いしますー…って」
 そう言って真由子はふと思い出したように綾たちを見た。
「そうそ、5年前の事故ですけど。
そのときはもう部活も終わった時間で、殆どの部員は帰ってたんですよ。
で、その先輩はちょっと楽譜整理してて居残ってて、事故に遭っちゃったんですけど。
その当時1年生だった―…私たちと同じ学年の子何人かが、
まだ校内に残ってたって言う噂があるんですよねー。あ、あくまで噂ですけど」
 それじゃあ、またあとで。
そう言って真由子は、再び教室の中へ戻っていった。
廊下に残された綾と冬馬は、顔を見合わせたあと、どちらともなく口を開いた。
「…どう思う?」
「彼女はああ言ってたけど、とても無関係には思えないな。
一応は事故とされているみたいだけど、下手すると実は…って可能性もあるわけだし」
 綾は冬馬の物騒な言葉に眉をひそめた。
「何?じゃあ冬馬は、殺人だって思ってるワケ?」
「だから、可能性もないわけじゃないってことだよ。
その何人かが校内に残ってた噂ってのも怪しいなあ…そこらへんも踏まえて、聞き込みしてみようか」
 そんなキナ臭くなってきた話に、どことなくやる気を見せる冬馬を見て、綾は思わず溜息をついた。
「ちょっとまって、聞き込みもいいけど、当初の件忘れてない?
あたしたちはあくまで、”鬼”の噂を調べに来たのよ?分かってる?」
 冬馬は綾の呆れたような台詞に、あはは、と軽く笑った。
「勿論覚えてますよー。でもね、ほら、何が関係してくるか分からないだろ?
それともまだ、綾さんは人外のものが関係してると思ってる?」
「…それは、冬馬がさっき言った通りよ。可能性は捨てきれないってやつ。
ま、調べるに越したことはないからいいんだけど、目的はそっちじゃないからね、忘れないでよ!」
「はいはい、分かりましたお嬢さん」
「はい、は一回でいいの!」
 はい。そう軽く言いなおした冬馬の顔には、未だ変わらぬ笑みが浮かんでいた。
だがその視線は、先程よりもほんの少し鋭くなっていた。










             ■□■









「…5年前の事件?あたしたち、まだこの学校にいなかったし…ねえ?」
「うん。噂っていうか、話程度には知ってるけど…アレって事故でしょ?」
「でも今年の1、2年生、やけに血の気が多いって言うか」
「そうそう。先輩のいうこと、話半分にしか聞いて無いしね」
「あーあ、昔の運動部みたいな厳しい上下関係、どこいっちゃったんだろ」
「あたしたちのときはすっごい厳しかったのに。なんか腹立つよねー」
「1,2年生?うん、中等部のね」
「なぁんか、やけに5年前の事故のこと、聞いてきたよね」
「でも最近は聞かないよね。興味失せたのかな」
「5年前の噂?先輩が亡くなった時に校舎にいた部員がいる?」
「何それ、あたし初めて聞いた」
「あ、あたし聞いたことあるよ。誰だったかなあ…確か中2の子に聞いたよーな」
「ほんと、なんていうか…最近の中学の子って活発だよね」
「…良く言えばね。悪く言えば…まあ、ノーコメントかな」
「私?うん、今受験中だからもう引退してるわ。え?下級生の確執?」
「ああ…何だか今年は荒れてるみたいね。まあ現役の子は現役でなんとかするでしょ」
「大体ね、毎年何かしら学年の間では揉め事があったのよ」
「え?血の気が多い?ふーん…私は新入生の事は良く知らないけど、世代が変わったのかもね」
「これも時々あるのよ、10年ごとぐらいで。これも時代ってヤツ?やだ、おばさんくさい」
「…ま、そういう子たちなんでしょ、今年の新入生は」
「てことは高2の子たちは苦労してそうね。まとめるのが大変そう」
「5年前の事故…ああ、あれね。不幸な事故だったと思うわ」
「同じような事故は知らないわね。あんなの二度も三度もあったらそれこそ廃部モノよ」
「…鬼の噂?その知らないわね、最近そんなのがあるの?へぇ…」
「うちの部も怪談の題材になるような部になっちゃったのね。なんだか複雑」
「パートリーダーたちの様子がおかしい?ふぅん、そう…」
「…あの子達も色々あったから…あ、こっちの話よ。あの子たちには言わないでね」
「ま、思うところがあるとすれば」

「あの子達になら、”鬼”がついてもおかしくないってことかしら」











             ■□■










「なーんか…あたし嫌だな、こういうの」
 聞き込みを終え、4階の部室に戻ってきた二人。
綾はまた誰もいない部室の真ん中で腕組みをして呟いた。
その呟きに冬馬は怪訝そうな顔を浮かべた。
「だってさ、ほら、オバサンたちの井戸端会議みたいじゃない?
あれが悪いのこれがどうのって…あたしは別にこんなこと聞きに来たわけじゃないっての」
 どことなく苛立った風な綾の言葉に、冬馬は宥めるような微笑を浮かべて言った。
「確かにそりゃそうだと思うけどね。でもそれだけじゃなかったろ?
まず…パートリーダーの学年、高校二年生と下級生は仲が悪い」
 冬馬は今しがた聞き込みをしている最中にとっていたメモを見て言った。
綾は肩をすくめてみせる。
「でもそんなの、良くあることでしょ?
中学一,ニ年なんて入部したばかりじゃない。上の圧力に反発してるだけよ」
「うん、そうかもしれないな。でも仲がよくないことは確かだよね。
あとボクはこれが気になるんだ」
 そう言って冬馬はメモをピッと綾に突きつけるように見せた。
そこには様々な単語が走り書きされており、下のほうに一際大きく書かれ、ぐるりと楕円で囲まれた一文。

 ―…『パートリーダーの特異点』。

「…つまり、高3の子が言ったアレ?」
 綾はそう言いながら、先程高等部の校舎で
居残り勉強をしている高校3年生に、聞いて回ったときのことを思い出していた。
去年まで吹奏楽部に所属していたという彼女が言った言葉。
 冬馬はこくこく、と頷きながら、
「そう。ボクはこれがどうも気になってね。
それに綾さんも始めの頃に言ってただろ?特定の誰かの体調が悪くなる、って。
調べてみたところ、それは全部パートリーダーをやっている高校2年生だった。
勿論リーダーをしていない2年生もいるよ、でも彼女たちは―…」
「全く変わりなく生活している。そうよね?」
 冬馬の言葉を継ぐように言った綾に、冬馬は満足そうに頷いた。
綾はそうね、と言って考え込むように顎に手を当てた。
「そういえば、あたし、”鬼”の噂を聞いてここにやってきたけど、
何で真由子があんなフツーにしてるのか、不思議だったのよね。
でもそれも当然よね、彼女パートリーダーじゃないもん。
だからこれは只の噂程度にしか思ってなくて、あんなに平然としてたんだわ」
 パートリーダーが休んでいるから、自分にも仕事が回ってきている。
そう苦笑しながら言った彼女。彼女が怯えていないのは、自分には災がこないと知っているから?
「というよりも。むしろ怯えているのがパートリーダーたちだけなんじゃないかな。
真由子ちゃんは、自分に降りかからないから平然としているって子にも見えなかったし」
「…じゃあ、何でパートリーダーたちは、体調崩すほど怯えてんのよ?
理由があるはずでしょ、理由が―…」
 綾は其処まで言ったあと、自分の言葉にハッと思い当たる。
冬馬はぱちん、と目配せを送り、
「そう、理由があるんだよ。パートリーダーたちの特異を作り出している理由がね。
だからそれを探るためにも―…」
 冬馬はそう言いながら、向かって左側に設えてあるアルミ製の棚に向かって近寄っていく。
綾はそんな冬馬を眺めながら、殆ど独り言のように呟いた。
「…あたし、もしかしたら、ドッペルゲンガーじゃないかって思ってたのよね。
はじめのとき言ったでしょ。知った顔なのに思い出せなくて、特定の人物だけが体調を崩すって。
で、きっとその事故を起こした楽器がその”鍵”じゃないのかなあって…、
冬馬、さっきから何してンのよ?」
 綾は独り言を止め、先程から棚のあたりをうろついている冬馬に怪訝そうな視線を向けた。
自分の名前を呼ばれたことに気付いた冬馬は、ふと顔を上げて綾のほうを振り返った。
そして棚の後ろを指差す。
「ほら。棚に隠れて見えなかったけど、この裏にも部屋があるんだねえ。
狭いけど、棚に仕切られた通路みたいなものがある。
きっと元々この部室は教室の半分ぐらいある広いものだったんだよ。
で、この楽器が並んでる棚で仕切ってるもんだから、小さい小部屋みたいに見えてたんだ」
 綾は冬馬の言葉に、思わずへぇ、と首をかしげた。
そして彼のほうに近寄り、首を乗り出して奥の部屋を覗き見た。
 そこには小さめの長机といくつかの椅子が無造作においてあり、
まるで隠すようにスナック菓子の袋も見えた。
ところどころに楽譜が散乱しており、きっと部員の休憩場所のようなところなのだろう。
だがこういった場所を使うのは、大概上級生と相場が決まっている。
下級生はこういった所に寄り付くことも許されないものだ。―…普通は。
「成る程ね、こっちの部室だけじゃ狭いと思ってたのよ」
 綾はどこか納得したように頷き、冬馬もそれに合わせるように笑顔を向けた。
「だよねえ。これで一つ、謎が解けた―…かな」
「え?」
 綾が聞き返すが冬馬は敢えて答えず、代わりにはぐらかすように言った。
「そう、それにさっきの綾さんの言ってたことね。あれも直感?」
「ああ」
 ドッペルゲンガーのこと?
そう尋ねる綾に、冬馬は頷いた。
綾は苦笑しながら、
「冬馬のいうとおり、只の直感よ。…でもパートリーダーたちは、
ドッペルに遭ったから怯えてたんじゃないのね。
きっと冬馬の言う何かしらの理由があったから怯えてたんだわ。
…それがどうかしたの?」
 その綾の言葉に、冬馬は意味深な笑みを浮かべて言った。
「”ドッペル”に”楽器”。多分、それが大きな鍵になってると思うよ」














             ■□■













「真由子ちゃん、真由子ちゃん」
 そろそろ部活も終わり、片付けの準備に入っている頃、
廊下の隅から、忙しなく働いている真由子を呼びかける声がした。
真由子はその声に気付き、ふとそちらのほうを向くと、
昇降口のあたりから冬馬の笑顔が覗いていた。
「成瀬さん?どーしたんですかー?」
 真由子は首を傾げながら、冬馬のほうに駆け寄ってくる。
近寄ってみると、冬馬の影に隠れて綾の姿も見えた。
「悪いわね、片付けの最中なのに」
「いーえ、大丈夫ですよ。主に動いてるのは中学生だし、私は雑用。
それで何か?」
 真由子はそう言って、怪訝そうな顔をした。
そして冬馬は、あくまで優しげな微笑を浮かべたままで言った。
「真由子ちゃん。さっき、5年前の噂の話をしただろう?」
 冬馬の言葉に一瞬真由子は止まったが、やがて苦笑を浮かべ、
「ああ、あの私と同じ学年の子が…ってやつですか?
あれは只の噂だって―…」
「噂じゃないよね?」
 冬馬は微笑を絶やさずにそう言った。
但し、その口調は厳しい。
「5年前のある日、その不幸な犠牲者となってしまった高校2年生は、
今のキミのような雑用で遅くなった。
彼女は部室に寄って、最後の片づけをしていた。
そのときに起こった不運な事故。…そんな話だけど、真実は違う。
本当はその裏に、ある人物がいたんだ。…そうだよね?」
 冬馬の神妙な言葉に、真由子は苦笑を浮かべて言った。
その瞳は何処か冷たく。
「…だから、犯人はいないって言ったじゃないですか。
裏って何なんですかー?成瀬さん、推理小説の読みすぎじゃないですか?」
「ボクは何も犯人だとは言って無いよ?それに、事故だとも言った。
裏っていうのはそのまま、言葉の通りだよ。
あの事故の原因である棚の向こうには、休憩用みたいな小部屋があるよね。
そして棚はアルミ製の枠と台と組んだ簡単なもので、棚の”背”はないんだ。
だから棚の表からも裏からも、置いてあるものが丸見えだ」
「…そりゃそーですよ。だってたかが部室の備品ですもん。
とりあえず置けりゃあいいんですよ、あんなの」
「まあ、そうだよね。そのあたりの事情はボクにもわかるよ。
…で、その小部屋だけど。いたんだよね?5年前のその日、キミと同じ学年の子たちが」
 冬馬の言葉に、ピタリと真由子の動きが止まった。
そして苦笑とも呆れとも違う溜息が漏れた。
それは強いて言えば、まるで嘆息のそれで。
「…一応言っときますけど、私はいませんでしたよー。
あの日あの小部屋にいたのは、今のパートリーダーの子たちです。
あの子達、小心者のくせに派手なことやりたがってたから、
入部当初からあの部屋で寛ぎたかったんですよ。
でもねー、わざわざ居残ってまですることないじゃないですか、馬鹿馬鹿しい。
その結果、あんな事故起こしちゃうんだもん…ねえ」
 でも、何で分かったんですか?
真由子のその問いかけに、冬馬は笑ったまま答えなかった。
 冬馬は手を触れたものの残留思念を読み取ることが出来る。
それが世間一般では、サイコメトリーと呼ばれていることと、
極めて特殊な能力であることを、彼は知っている。
 あの楽器ケースたちは見ていた。
ケースが雪崩となって押し寄せてくる瞬間の、女生徒の恐怖と驚愕の表情を。
それには全く殺意は含まれていなかった。
だからそれは、ある意味で言えば非常に不幸な事故だったと言える。
起こした者と起こされた者、双方ともにとって不幸で不運な。
 真由子の反応に、今まで黙っていた綾は堪らずに口を挟んだ。
「ねえ。なんであんたはいなかったのに、そんなの知ってたのよ?」
「…そのあと、本人たちから聞いたんですよー。
ッとに、私に言ったからって何の懺悔になると思ってるんでしょうかね?
5年も経った今頃になって、揃いも揃って怯えてるんですもん」
「…ボクは、その当時1年生だった彼女たちが、
自分たちがきっかけとなった事故で亡くなった先輩と、
同じ学年になったから、その強迫観念で”ドッペル”を見たと思っていたんだ。
でもその”ドッペル”は厳密に言うと自分の分身じゃない。
5年前に亡くなった先輩と、その彼女と同じ歳になった自分と。
その両方をタブらせて見てたんじゃないかな。…違う?」
 冬馬はあくまで落ち着いた声で淡々と言った。
真由子は暫く大人しく聞いていたが、やがてクスクスと笑い出した。
綾が眉をしかめ、冬馬が怪訝そうな顔をしていると、
笑いをこらえ切れなくなったようにケラケラと声を上げながら言った。
「あはは…それもそれでいーですけどね。
あの子達が、そんな強迫観念なんか持ってたら、の話ですけど!
あの子達はそんな繊細な感情持ってませんよ。
何から何まで、いざ事が起こらないと分からないんだから。
…だからあんな事故起こしたんです」
「ちょっと待って、ていうことは誰か原因がいるのね?
そいつとッ捕まえて連れてきなさいよ!
もしかして、真由子、あんたじゃないでしょうね?」
 眉を吊り上げて怒鳴るように言う綾に、真由子はぴたりと笑いを止めた。
そしてクスッと笑って言う。
「まさかぁ。そんなことして、私に何の得があるっていうんです?
それに可愛いイタズラですよー、あの子達の…ね?」
「あの子…?あんたの同級生たちのことじゃないわよね。
まさか、下級生の…?」
 眉間に皺を寄せて詰問するように尋ねる綾の言葉に、真由子は肩をすくめた。
「さぁ?でもこんなの、結構簡単に出来るんですよぉ。
要はパートリーダーたちが分かんなきゃいいんだから…。
例えば、下級生の子と同じクラスの、部員じゃない誰かを連れてきて、
こっそり紛らせとくとか…ね?」
 綾は真由子の言葉を聞きながら、無言で彼女を見詰めていた。
何でも分かり合える友人…というわけではなかったが、
自分の認識している世界に近い者だとは思っていた。
…だが、今はもう、こんなに遠い。―…何故?
 冬馬は苦笑を浮かべ、
「…じゃあ、首謀者…というか、発案者は誰かな?
厳重注意だけにしとくからさ、呼んできてもらえると嬉しいな。
もしかして、これは真由子ちゃんだったりするかな?」
 そうどことなく幼子をあやすような口調の冬馬に、真由子はぴたりと笑みを止めた。
だが今度は再度笑いを浮かべることはなく、無表情のままで言う。
「…知りませんよー。だってこれ、”鬼が憑いた”んでしょ?
……鬼っていうのは、そーいうもんですよぉ」
 じゃ、終礼があるんで失礼しますねー。
真由子はそう言ってきびすを返し、ひらひらと手を振って教室のほうに戻っていった。


 取り残された綾は、狐に抓まされたような気分で、その後姿を見送っていた。
そして、同じ立場である冬馬を何の気なしに見上げた。
…半ば呆然とした気分のまま。
 冬馬は綾のほうを見ずに、教室のほうを向いたままポツリ、と呟いた。
「…鬼っていうのは…通りモノだったのかな?」
「通りモノ?」
 綾は首を傾げる。
「こう、人の身体をさぁっと通り抜けるんだよ。
通り抜けた瞬間、意識を奪われて思っても見なかったことをしちゃったりする。
衝動的な殺人、って良く言うだろ?ああいうやつだよ」
「…じゃあ今回のも衝動的…っていうの?」
 綾の言葉に、冬馬はやっと彼女のほうを向いた。
そして彼にしては珍しく、呆れ果てたような、何処と無く困ったような笑顔を浮かべた。
「さあ…衝動的にしては色々と疑問が残るけど。
…でもそういうことにしといたほうが、まだましじゃないかな?」
「……それでもかなり、釈然としないけどね」
 そう言って綾もやはり、冬馬と同じような表情を浮かべるのだった。













             ■□■










 広いとは言えない自室。
真由子はベッドに寝転がりながら、雑誌を捲っていた。
「今日も疲れたー。あーあ」
 真由子の脳裏には、今日の部活で出会った来訪者のことが微かに浮かんでいた。
だが決して後悔や苦渋といった念は欠片も無く、
ただ二人の顔を思い出しているだけ、そんな記憶だった。
そして同時に、現在自宅療養中の同級生たちのことも思い出す。
「まーったく、あれだけのことでうなされるとかぁ…。
だから小心者なのよねー」
 つまんない。
真由子は思わずそう呟いた。

 そしてそのとき、真由子のすぐ耳元で、微かだが確かな息遣いが聞こえた。
思わずハッと顔をあげた彼女の背後で――……。



 けらけらけらケラ。

        









              fin.








●○● 登場人物(この物語に登場した人物の一覧)         
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【整理番号|PC名|性別|年齢|職業】

【2711|成瀬・冬馬|男性|19歳|大学生・臨時探偵】
【3660|皆瀬・綾|女性|20歳|神聖都学園大学部・幽霊学生】



●○● ライター通信      
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 初めまして、またはこんにちは。WRの瀬戸太一です。
この度は当依頼に参加して頂き、誠に有り難う御座いました。
そして遅延メールが発生する程の遅延、本当に申し訳ありませんでした!
深くお詫びいたします…お待たせいたしました;
今後こういったことの無いよう、精進に努めて参ります。

内容ですが、オープニングに書いていた通り、推理色の強いホラー物となりました。
…といっても、当WRはどちらも大した数をこなしていない為、
まだまだホラーにしても推理にしても、甘い点が多いことと思います。
またこちらのジャンルも頑張ってこなしていきたいと思っております^^
そして参加PC様のオープニングにより、
当初はホラー物としておりましたが、若干推理に近いような作品となりました。
各PC様、PL様に楽しんで頂ければ非常に嬉しく思います。

それでは、またご意見・ご感想等ありましたら、
お気軽にメールのほうお送り下さい。お待ちしております^^

では、またお会い出来ることを祈って。