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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


VS! 巨大な雪だるま!!

●オープニング

 その日、東京は大雪だった。
 しんしんと降る雪は灰色のコンクリートジャングルを白一色の世界に染め上げていく。
 そして《ヤツ》はやって来た。

 ズゥン‥‥ズゥン‥‥。

 超高層ビル群を揺るがすような足音を一面に響かせながら、ビルを超えて巨大なその影は東京の街中を闊歩していく。
 降り積もった雪が集まり、形を成し、膨大な量に膨れ上がり――命を得たかのように動き出した。
 その正体は、巨大雪だるま。
 見上げるだけで首が痛くなるというか、霞んで見えないといってもいいかもしれないその巨体は「でかい」の一言に尽きる。巨大雪だるまはなぜか池袋にあるサンシャイン60を目指していた。
 豊島区の誇る超高層ビルが危ない!

 集え、諸君!
 サンシャイン60よりも大きい巨大な雪だるまと対決だ!!


●雪だるまはでかかった。

 藤岡 敏郎(ふじおか・としろう) は月刊アトラスの記者である。
 黙々と編集作業を行っていると慌しい気配が近づいてくる。

「――――テレビよ! 早くテレビをつけなさい!」
 突然、月刊アトラス編集長の碇麗香がやってくるなりテレビをつけると、丁度ニュース報道が流れていた。
「そんなに慌ててどうされましたか」
「いいから画面を見ればわかるわ」
 巨大な雪だるまが雪の摩天楼を歩いている。
 肩を震わせ画面に見入っていた麗香が歓喜の声を上げた。
「また現れたわね! さあ! もう一回この雪だるまを倒すのよ! そして体験記事の第2回を月刊アトラスに書いてちょうだい」
 アトラスの編集長は化け物か。いや化け物は雪だるまですか。
 死して屍拾うもの無し、て感じだ。
「確かに‥‥これは放置しておけないようです‥‥」
 気弱そうな記者は一人で静かにうなづいた。

                              ☆


「これは――――地球侵略か!?」
 買い物で池袋に来ていた 里見 勇介(さとみ・ゆうすけ) の視界に巨大雪だるまが映った。
 勇介は自分のことを「平和を守る為に宇宙から来たエネルギー生命体」――だと信じ込んでいる幽霊であるため、ここで持ち前の正義感が燃え上がらないわけがない。
 周囲を見回すと、対策を講じている能力者たちを見つけた。


「目標の雪だるまだけど、迎え撃つとしたら丁度ここ、雪だるまと雪だるまが目指しているサンシャイン60を直線上に結んだ場所から判断するに、サンシャイン通り一帯になると思うわ」
 シュライン・エマ(しゅらいん・えま) が対策本部のテント内で豊島区周辺の地図を広げ、次々と入ってくる情報にあわせて赤ペンでチェックをつけながら指示を出す。
 取材記者として同席していた敏郎が質問した。碇麗香の業務命令で記事協力者を引率して池袋にやってきていたのだ。
「相手は巨大な存在ですが、対抗手段はもう考えているのでしょうか?」
「そうね‥‥硬さがどの程度なのか、それにもよると思うかしら」
「確かに。雪にも硬さは色々ですからね――」
「水‥‥欲を言えば温水を勢いよくかけて穴を開けていき、より強度を落として叩けば崩れないかしら‥‥」
「雪の硬さですか。あの重量に耐えている雪となると、僕たちの想像を絶していると考えておくべきでしょうけれど、それと周辺地域への被害も考えませんと」
 敏郎の意見にシュラインは頷いた。
「一応、これだけの事件だから消防車や警察等にも協力をお願いできたし住民への被害は最低限に軽減できそうよ。後は能力者の奮闘次第かしら」
 敏郎に答えながらも同時に各所への指示を出し、さらに今後予想される事態への対応策と巨大雪だるまへの作戦を考えている。いまや彼女が対巨大雪だるま対策本部の中心となっている状況だ。
 ライブで映っている周囲のビルディングと比べても一際大きい雪だるまの映像を見つめながら分析を試みる。
「また、目的地があるって事は、人で言う心臓の位置や全体の中心、または頭部等その想いの核となるものが雪だるまに入ってるのかも――」
 しかし、先の水の放射という案にしてもこの巨大な存在には焼け石に水で、多少の足止め程度しか効果がないだろうことが予想され、核を捜すにあたっての時間を確保するにはまだ至らないだろう。
「つまり、アレを足止めできればいいのでしょう」
「あなたは――」
 本部テントに現れた一人の男が正義に燃える熱いまなざしを向けている。
「その役、俺が引き受けましょう。この正義と熱き魂に賭けて!」
 里見勇介は背中を向けるとたった一人で池袋駅へと走り出した。
 駅に停車していた無人の西部池袋線回送列車の前に立ち、大きく息を吸った。

「――――ブレイブセット!」

 勇介を中心に白い閃光が爆散した。

 迸る光の洪水。

 魂と物質は、現実と日現実の境界を越えて分解、融合、再構成され――――新しい別の生命へと「変形」する。

            幽合合体した勇介は巨大ロボットへと変形した!!


 説明せねばなるまい!
 里見勇介は幽霊的存在である。よって、何にでも憑依して操ることが出来る能力――幽合合体が可能なのだ。
 ――――ただし、本人は「融合合体」と主張しているがその真偽は定かではない‥‥。


 地鳴りと重金属同士による軋みの音を上げながら、小山が鳴動するように内蔵機関を起動させ、体躯を徐々に持ち上げる。
 人呼んで――――「勇者鉄道ライオセイバー」
 融合した特急むさしん号、ちちぷ号の車体である車両、10000系「ニューレッドアロー」をベースに勇介が幽合したことで生まれた正義を守護する巨人である。。
 胸にはライオンの顔が付いた人型に変形した巨大ロボットは、巨大雪だるまの前に立ちはだかった。
 ウオオオオと機械の咆哮を上げて「ライオセイバー」は大地を揺らして突進した。うもー! と叫び巨大雪だるまが迎え撃つ。

 グゴオオオオォォォォォォォォォ!!!!!!!!!!

 巨大質量同士の衝突したエネルギーで一帯には衝撃波が周囲に吹き荒れ、建物や街路樹が激しくゆれた。
 衝突の衝撃で両者は反動で共に後退すると、開いた距離を見逃さず、ライオセイバーは武器を取り出した。
「―――ライオセイバー・ホイィィィル カッタァァァァー!!」
 列車の車輪をブーメランのように投げた。これぞライオセイバーの武器の一つ、『ホイールカッター』だ。
 ホイールカッターは雪だるまを破壊した。
 しかし、破壊された箇所が周囲に降り積もった雪を吸い寄せ、すぐに自己修復されていく。
 完全に復元した巨大雪だるまは、うももー! と叫びを発した。
 勇介は苦戦を予感しながらも一歩も引かない。
「パンタグラフソード!!!」
 機械の巨神は取り出した剣を構え、力の限り突進した。
 だが、雪だるまは意外な能力を隠し持っていた。冷気の体で触れることにより、ライオセイバーの鋼鉄の体を凍らせ、動きを鈍らせていくのだ。剣で体を斬り裂きながらも、決定打を与えられずにライオセイバーは徐々に全身が凍り付いていく。
 巨大雪だるまは復元を繰り返しながら超高層ビルディングに確実に近づいていった。

                              ☆

「もうすぐ準備が整うから、お願い‥‥持ちこたえて――」
 祈るように戦いを見守るシュラインだが、ふと周囲を見回した。
「あら。アトラスの記者さんはどこに行ったのかしら? 姿を見かけないのだけれど――」


「瞳‥‥見ていてくれ」
 人込みっからはぐれた振りをして建物の物陰に隠た敏郎は、胸に手を当てる。
 今や彼の姿はアトラス編集部の一記者ではない。

 青を基調に黄色のラインと白をあしらったコスチューム。目元を覆うバイザーに隠された表情。首に巻かれた風になびく白いマフラー。


  そこにいるのは正義のミュータントヒーロー、キャプテンブレイブその人だ。


「――――ハアッ!!」
 敏郎――いや、キャプテンブレイブは空を飛んで巨大雪だるまにライオセイバーに加勢した。
「ここは私に任せてほしい」
 飛来したキャプテンブレイブは巨大雪だるまに触れて持ち上げようと試みる。


 またまた説明せねばなるまい!
 強力な念動力『セルフキネシス』の力により、キャプテンブレイブは触れてさえいれば、例え大型空母だろうと持ち上げて超音速で飛行することすら可能なのである。


「何ぃ――そんなバカな!?」
 だが、巨大雪だるまを持ち上げて運ぼうとするも、相手の体はさらさらな新雪の集合体であり、崩れてしまって簡単には持ち上げられない。
「私に考えがある。ライオセイバー、すまないがもう少しだけ相手を頼みます」
 キャプテンブレイブの要請に鋼鉄の頭部で頷くと、ライオセイバーは自分が凍るのも構わず全身で雪だるまの進行を阻止しようと組み合った。
 その時、地上から拡声器でシュラインが呼びかけた。
『二人とも、私の声が聞こえる? こちらでも準備が完了したから、右のビルに紅い旗が立ってるあの地点までできたら雪だるまを誘導してくれないかしら。そうすればこちらからも援護ができると思うわ』
 頷いたライオセイバーは、強引に、それでいて確実にシュラインの示した地点へと巨大雪だるまを誘導していく。
 瞬間、周囲のビルの屋上から幾条もの水流が浴びせられた。
 それは水ではなく温水だ。
 融けていく体を再生させようと暴れ回る雪だるまだが、融けた体の復元は容易ではなく、徐々に表面から解け始めていった。
「やったわ! 少しづつだけど効いてるようよ」
 うもーと叫び声を上げて、雪だるまはこれまで以上にサンシャイン60へと突進しようとする。
 キャプテンブレイブは高く上空に上がり、雪だるまを頭上から見降ろす。そして飛行しながら身体を錐もみ回転させ、ドリルのように足止めされた雪だるまの内部に突っ込んだ。
 雪だるまの中で超音速で回転し回転の勢いと衝撃波で内部から雪だるまを破壊していった。
 うもーと雪だるまはさらに前進する。
 たちはだかるライオセイバーやキャプテンブレイブの攻撃にも構わず、サンシャイン60の目前まで迫る。
 そこに用意されていた放水機の第2陣が浴びせ掛けられた。
「こ、これは――――」
 ライオセイバーとなった勇介は驚く。俺は何かを見間違えているのか。間近に雪だるまのとけ掛かった顔がある。

 雪だるまのその顔は、水流によって融けたように崩れて、泣いているように見えた。

 サンシャイン60を慕い近づこうとしている雪の巨人。
 もはや半分近く崩れて姿で、それでも足をとめようとしない。
 内側から光が膨れ上がった。
 キャプテンブレイブが内部から飛び出してくる。
「うもーーーーー!!!!」
 最後の力をふりしぼると雪だるまはサンシャイン60を目前にして、雪崩のように崩壊した。

 巨大な雪だるまは崩れ落ち、ただの雪へと戻っていった。




●巨大雪だるまよ、永遠に

 雪もやみ、池袋では除雪作業が行われている。
 平穏を取り戻した灰色の空の下、幽合を解除した勇介が立ち止まった。
「雪だるまの融けた場所か――――ここで何をしてるいるんですか?」
 道路にしゃがみこんでいた彼女――シュラインは振り返る。
「ちょっと思い出していたのよ。そういえば‥‥水の結晶って心地よい音楽を聞かせれば綺麗な形になるとも聞かない? クラシック音楽や結晶を整えるような振動与え、穏やかにしてくれるのよ」
「‥‥へえ、変わったことを考えるんですね」
「ええ。ほら、ひょっとしたら雪だるまさんの気持ちがわかるかもしれないじゃない」
 髪をかき上げながら笑って、シュラインは一握りの雪にオルゴールを聞かせた。
 雪は徐々に雪だるまの形をとり始める。
「もし言葉を聞けるようなら良かったんだけど、それでもこの雪だるまさんに大きな姿では被害が出るから無理だけれど、小さい雪だるまにして、サンシャイン60まで連れて行ってあげられると思うから‥‥」
 小さな雪だるまは言葉を話すことはなかったが、代わりにひょこひょこと歩き始めた。ずっと目指し続けていた場所へと。
 シュラインと勇介は黙ってその後をついていく。
 そしてサンシャイン60に辿り着いた。
 雪だるまは、巨大な現代の搭のガラスの壁面に触れ、幸せそうに寄りかかる。

 一瞬だが、光る雪が天に昇ったように見えた。

 それだけの出来事だった。
 跡には何事もなかったようにただの雪の塊が残されていた。
「結局なんだったのかはわかりませんが、でも、少なくとも幸せそうな感じはしました‥‥」
 呟く勇介にシュラインは苦笑する。
「雪の結晶も建築物も同じ無機物同士、案外――恋でもしていたのかもしれないわね」


「記事としてはいいと思うわ。でもね――」
 アトラス編集部のデスクで麗香は渋い表情を作り敏郎を見上げた。
「この、『キャプテンブレイブ』や『ライオセイバー』なんて名前はどこから名付けたのよ」
「‥‥ロボットは本人がそう名乗ってましたし、全身タイツの方は僕が今名付けました」
 麗香に聞かれた敏郎は平然と答えた。
 呆れたように手を上げると、ま、いい記事ですし今回は大目に見ましょう。といって記事を通した。
 この日、東京に新たなヒーローの怪談が二つ生まれた。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ(しゅらいん・えま)/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【2352/里見 勇介(さとみ・ゆうすけ)/男性/20歳/幽者】
【2975/藤岡 敏郎(ふじおか・としろう)/男性/24歳/月刊アトラス記者・キャプテンブレイブ】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、雛川 遊です。
 シナリオにご参加いただきありがとうございました。
 先日、東京に雪が降りましたね。
 あの摩天楼が白い世界に包まれるのはきれいな光景に思えて、そんな情景を思い浮かべながら読んでいただけると幸いです。シナリオはコメディテイストなのですが。

 雛川は異界《剣と翼の失われし詩篇》も開いてます。興味をもたれた方は一度遊びに来てください。更新は遅れるかもしれませんが‥‥。
 また、宣伝になりますが『白銀の姫』でもシナリオを始めました。よろしかったらこちらも覗いてみてください。

 それでは、あなたに剣と翼の導きがあらんことを祈りつつ。


>シュラインさん
なぜか陣頭指揮をとっていただきました。そういうポジションが似合いそうだったもので。
案外、武彦さんもテレビでシュラインさんの奮闘を応援していたかもしれませんね。
コタツでミカンをむきながら――。いやそれはハードボイルドなのか?
>勇介さん
じつはもう一つの雪だるまを巡る戦いも行われているのです。雪が降るたびにやってくるというショーもないオチというか裏設定がありまして‥‥(爆)
こちらは怪獣パニックモノのような雰囲気を重視してみました。
>敏郎さん
バイザーから光線でも出しそうなデザインについては触れていけないオーラが出てるような気がしますがそれはさておき。携帯の普及で公衆電話も減りましたねえ。ヒーローにとっては世知辛い世の中になりつつあるのかもしれません。さみしいことです。