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学校の怪談 〜小麦色を探せ!〜
【小麦色】
草薙・高良は考えていた。
先日何時ものように学校の帰りによったどんぐり商店街で見たことの無いものを見た。
二足歩行で、小麦色。
犬だって訓練すれば多少の二足歩行は可能だけれど、あの小麦色はどう考えても動物なのに普通に二足歩行だった気がする。
しかも、やっぱり動物のくせに魚屋の滋さんで巨大なマグロを普通に買っていた。
「ね!?どう考えてもおかしいでしょ?」
自分が見た二足歩行の小麦色が本当かどうかが分からずに熱くなっている。
「あたしと一緒に探して!お願い!」
あまりの高良の剣幕に、心当たりがあるような無いような気分になりつつも、つい頷いてしまった。
「あぁそれは、かわうそ?さんですね」
商店街から少し外れた所にある小さなスタジオから出てきたらしい、ロックバンド風の女性3人組が、高良の叫びを小耳はさみ、その内あまり高良と変わらなさそうな女の子がにこにこと話しかけてきた。
「お姉さん達は、あの小麦色知ってるの?」
「かわうそ?………まあ、知らないことはないけど」
そう答えたのはタバコをふかしながらやる気なさげの沢村・真黒。
「かわうそ?さんだったら二足歩行でも全然おかしくなんてないですよ」
「そうなの!?」
じっと真黒を見上げていた高良の顔がぐりっと振り向かれる。最初に声を掛けてきた女の子、本谷・マキがそんな高良に、はい。と頷く。
「え?!かわうそ?!ど、どこ!どこ!」
一人ハイテンションで小麦色=かわうそ?を見たという証言に、何時もはクールなはずの宮元・まさおの顔がどこかウキウキしている。
「…で?アンタ、アレを探し出してどうしようっての?確かに不思議なナマモノだけど、アレには深く関わらない方が…、いや、言い方悪かったな、深く考えない方がいいぞ。意味不明の集大成みたいなモンだから」
頭をポリポリとかきながら諭す真黒の言葉に、高良はある種そんなことなんでもないといった風貌で、
「意味不明なんて今に始まった事じゃないけど、あの小麦色ぉ…かわうそ?は、あたしも始めて見た生き物だったし!気になるじゃない」
そんな高良に真黒はどうしたものかとあさっての方向を見つめる。子供の好奇心とはある種恐ろしい。
「かわうそ?がこの辺りにいるんだろう!?探そう、探すべきだ!探すよな!!」
「まさお……」
あまりのまさおの興奮っぷりに、真黒とマキはため息をつきつつ苦笑を浮かべる。まさおのかわうそ?好きっぷりも今に始まった事ではない。当のまさおも我を思い出したのか、はっとしてごまかすように縮こまる。
「ありがとうお姉さん!あたし高良!」
まさおの手を掴みぶんぶん振り回すと、高良はかわうそ?を見かけた経緯を話し始める。
魚屋以外の開いている商店街の店の中で候補が上がった5つの店の中から、まさおは何も言わずにここだ!と目星をつけさっさと歩き出す。
もう、かわうそ?以外に意識が行っていないようだ。
「…どこもハズレな気もするけど、まずはふとん屋から当たってみるか?」
ふーっとタバコの煙をゆっくりと吐き出して、そんなまさおを見つめつつ、真黒はふとん屋へ行く事を決める。
「マグロ買っていったんですか?だったら、同じ食べ物屋さんに行ったかもしれませんね。結構食いしん坊さんらしいですから」
意外にかわうそ?を知っているマキは、商店街唯一のケーキ屋へいく事にした。
「まさおさんがどの店行ったか分かんないけど、あたしは家具屋行ってみる」
それぞれが行く店を決めると、かわうそ?捜索の為に動き出した。
「かわうそ?探してまた後でここで落ち合おうね!」
ふとん屋に向けて歩を向けて数歩、真黒はなんでかわうそ?探しているんだろうなんて、つい首を傾げてしまったが。
【ケーキ屋】
Simultaneと看板を掲げた可愛らしいケーキショップ。マキは顔を輝かせると、ケーキ屋の扉を開ける。
「いらっしゃいませ」
カウンターから、凄く笑顔が綺麗な初老の女性が顔を出す。にこにこと微笑んでいる優しそうなおばあさん。
マキはなんだかほんわかしたような気持ちでつい笑顔を返すと、当初の目的も忘れてショーウィンドウに見入る。
個々の数は多くないものの、いろいろな種類のケーキが並び、一番パイの数が多い。上段全てにずらりと並んだパイの種類は圧巻で、見目も鮮やかだ。
「すいませ――…」
ショーウィンドウを指差しつつ、マキが顔を上げた瞬間、おばあさんがドサリと倒れた。
「え!?大丈夫ですか!!」
背の低いマキは一生懸命カウンターから乗り出し、声を掛ける。
「どうした!?」
厨房の方から白いパティシエ服の初老の男性が顔を出し、おばあさんに駆け寄ると、優しく抱き起こす。
「文江?文江!?」
おじいさんの呼びかけに、おばあさんは薄っすらと瞳を開けると、頭を押さえながらゆっくりと起き上がる。
「大丈夫よ、あなた」
おばあさんはカウンターから身を乗り出して、心配そうに見つめているマキを視界に入れると、
「ごめんなさいね、お嬢ちゃん。心配かけちゃったわね。ご注文どうぞ?あなたも、まだ作りかけのケーキあるんでしょう?」
一瞬意識を失ったというのに、おばあさんは気丈にも立ち上がると、何事も無かったかのように夫であるおじいさんを諌め、マキに笑顔を向ける。
「病院行ってください!」
今はもうケーキよりも、目の前で倒れたおばあさんの方が心配で、マキは叫ぶ。
「ダメよ。それに今日作ったケーキは今日中に、ね?」
「だったら、わしがレジに立つから、おまえは病院に行ってくれ」
「そうですよ。私も手伝いますから!」
もうマキの頭には当初の目的なんてすっぱり忘れ去られてしまったかのようおばあさんを気遣っている。
「え…でも」
それでも渋るおばあさんに、マキはむっと口を尖らせると、
「大丈夫です!私だって今日始めてこの店に来ましたけど、ケーキすっごく美味しそうですし、このケーキが無駄になって捨てられてしまうなんて嫌ですもん。だから私がお手伝いしますから、病院行ってください」
あまりのマキの剣幕に、おばあさんもおじいさんもきょとんとして眼をぱちくりさせると、ほんわかと嬉しそうに微笑んだ。
「貴女みたいな孫が居たら、幸せだったかもしれないわね」
おばあさんはそう一言呟くと、マキとおじいさんに背中を押されて病院へと出かけて行った。
「すまんねお嬢ちゃん。店はわし一人で大丈夫だから、お家の人が心配する前に帰りなさい」
やはり小学2年の時から変わらない体型のせいか、おじいさんも(たぶんおばあさんも)マキの事を小学生だと思い込んでいるようだ。
マキは首からいつも提げている運転免許証を高々と持ち上げると、
「本谷・マキ。22歳です」
「おや……」
免許証を確認したおじいさんは、照れたように申し訳なさげに微笑んで、お嬢ちゃんでは失礼だったねぇ、と頭をかいた。
老夫婦が営んでいるこのケーキ屋は、おじいさんが定年退職後に何気なく作り出したパイがおばあさんに大変好評で、第二の人生として始めたものだった。
マキは先ほどおばあさんが言っていたおじいさんの作りかけのケーキが気になって、レジは大丈夫だから、と厨房に戻ってもらった。
頭に三角巾をつけ、おばあさんがつけていた店名入りのエプロンを着込んでレジに立つ。
程なくして親子連れが入ってきた。
「いらっしゃいませ!」
マキは常日頃バンドで鍛えている声量でお客を迎え入れる。
平日のはずなのに、結構なお客さんがこの店に訪れた。高くもなく、かといって遠慮してしまうほど安値というわけでもない。それに加えて味もいいこのお店のケーキは連日大繁盛のようだった。
程なくして病院から帰ってきたおばあさんが、ただの過労だった事に胸をなでおろす。
「でも疲労って事は、もう若くないんですから、油断しちゃダメですよ?」
マキはつけていたエプロンをおばあさんに返して、ちょっと強気におぱあさんに詰め寄った。
「はい、分かりました」
おばあさんはそんなマキににっこり微笑んで答えると、おじいさんがそれなりの大きさの箱をマキに差し出した。
「これは、今日のお礼だよ」
「貰ってちょうだい」
遠慮しようとしたマキだったが、二人の気遣いをむげにも出来ずケーキの箱を受け取った。
【合流】
それぞれがそれぞれの店からわかれた時と同じ場所に集まる。
「やっぱり、ふとん屋には居なかった…」
真黒はすこしげっそりした…というよりはげんなりしたような風貌で新しいタバコに火をつける。
「はい、ケーキ屋さんにも居ませんでしたよ」
ちゃっかりケーキの箱を手に持って現れたマキ。何かいいことでもあったのか、ほんわかとした微笑を浮かべている。
「あたしも…ダメだった」
家具屋に行った高良も、倒れかけた商品の棚に押しつぶされそうになっているおばさんを助ける事に精根尽くしていた。
「おーい!」
一番最後、一早く候補の店へ向かっていったまさおが皆の姿を確認するなり片手を上げる。
「あー!小麦色!!」
そう、誰にも告げずに出かけていった服屋で、まさおは大好きなかわうそ?に出会えていた。
|Д゚#) 小麦色とは失礼なり。かわうそ?は、かわうそ?なのだ
叫んだ高良にかわうそ?がむっと講義する。
「どっちでもいいだろ…」
真黒はそんな二人のやり取りを見て、あさっての方向を見つめて呟く。
「私はかわうそ?に会えたし、幸せだ」
それに可愛いお店も見つけたし。と、ニコニコ顔で幸せ一杯に言うまさお。
「でも、私もあの店に行けてよかったと思います」
持っていたケーキの箱を両手で持ち、そっと視線を箱に移動させたマキは、にっこりと微笑んだ。
マキはケーキから顔を上げると、
「高良ちゃんもかわうそ?さんに会えたことだし、私たちの役目は終わりですね」
え?帰るの?という顔を浮かべているまさおはさておき、真黒は早々に帰りたくてしょうがないのか、もう歩を進めている。
「ありがとう、お姉さん!さぁ、小麦色!あんたの正体あばくからね!」
臨戦態勢の高良とかわうそ?に手を振って、マキは何時もの事務所へと歩き出した。
一番最初に歩き始めていた真黒は、一度引き返すと一向についてこないまさおの腕を引っ張って、マキの後に続いて事務所へと帰って行った。
余談だが、この三人が今人気バンドの一員であると気がつくのはまた後日のお話。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【2865 / 宮本・まさお (みやもと・まさお) / 女性 / 22歳 / ロックバンド】
【2868 / 本谷・マキ (もとや・まき) / 女性 / 22歳 / ロックバンド】
【2866 / 村沢・真黒 (むらさわ・しんくろ) / 女性 / 22歳 / ロックバンド】
【NPC / 草薙 高良(くさなぎ たから) / 女性 / 13歳 / 中学生】
【NPC / 柏木 深々那(かしわぎ みみな) / 女性 / 12歳 / 中学生兼神官】
【NPC / かわうそ?(かわうそはてな) / 無性別 / ? / かわうそ?】
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■ ライター通信 ■
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学校の怪談 〜小麦色を探せ!〜 にご参加いただきありがとうございました。ライターの紺碧です。今回は本当に高良に付き合ってかわうそ?を探す手伝いをしていただきありがとうございました。
今回あいにくとマキ様の選択されたケーキ屋にはかわうそ?さんは行っておりませんでしたが、この小さなケーキ屋で起こった出来事をお楽しみいただければ幸いでございます。お土産に頂いたケーキは早めにお食べ下さいませ。
それではまた、マキ様に出会える事を祈りつつ……
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