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<東京怪談・PCゲームノベル>


『Blue Butterfly』〜第二夜、楠木家〜


 ☆プレイヤー選択  
 
  → 羽角 悠宇

 ☆モード
  → 学者モード ON →Hard Normal Easy
    戦闘モード OFF Hard Normal Easy
→ 牧師モード ON  →Hard Normal Easy


□■□■□■ 【Start】 ■□■□■□


 ヒラリヒラリと舞う蝶々
 青い麟粉舞う蝶々
 フワリフワリと舞う蝶々
 光の粉と舞う蝶々
 フラリフラリと彷徨い歩く
 青の月の下
 ヌラリヌラリと染め上げられ
 白い浴衣の袖が揺れ
 聞こえてくるは死者達の声
 見えるは過去の念
 感じるは禁断の儀式
 誰が殺め
 誰が殺められ
 貴方と私
 どちらがどちらとも
 皆目見当がつかぬ・・・。
 ヒラリヒラリと舞う蝶々
 青い麟粉舞う蝶々
 彷徨い歩くは外よりの訪問者・・・。


□ scene T

 相も変らぬ青の色彩。
 降り立ったそこは光る水底。
 濡れる月はおぼろげで、頼りなく舞うは青の麟粉。
 「よぉ、また来たか悠宇。」
 そう言って、片手を上げる長身の男。その髪は、燃えるように赤い。
 青の水底浮かぶ赤。
 異質なものに、目を奪われる。
 「冬弥さん、お久しぶりです。」
 「あぁ。つっても、そんなに久しぶりって程じゃねぇけどな。」
 肩をすくめる冬弥の、顔に浮かぶは苦笑い。
 小さく悠宇の肩を叩き、引き連れ行くは村の入り口。
 入り口に鎮座する地蔵の目は笑い。外からの訪問者を中へと呼び寄せる。
 『ようこそ、ようこそ、望月村へ』
 『久しいのぉ、久しいのぉ、悠宇や悠宇。』
 『久しいとは言うても、まるで昨日の事のようじゃ。』
 『いやいや、それはそのはず、なにせ昨日の事なのじゃからのぉ』 
 『そうじゃった、そうじゃった。昨日の事よ、昨日の事よ!』
 『悠宇や悠宇、昨日ぶりじゃ、昨日ぶりじゃ!』
 甲高く、笑う地蔵の声高く。青の月を揺らし揺さぶる。
 「おい、うるせーぞ!毎回毎回・・・その甲高けぇ声、なんとかならねぇのかっ!」
 『これはこれは、冬弥がいるとは知らなんで。』
 『それなら話は早い早い。』
 「・・・なんでいっつもテメェラは俺が見えねぇんだよ・・・。」
 口から零れるため息も、望月村では青のため息。
 ユルリユルリと村を漂い、やがて消えるは青のため息。
 『悠宇や悠宇、今回もこれに着替えなされ。』
 『前回同様、これに着替えなされ。』
 動く地蔵の下からは、白い浴衣が見え隠れする。
 その白さですらも、望月村では青の白さ。
 揺れる月光、青の輝き。
 『悠宇や悠宇、これを持って行くが良い。着物の下にかけなされ。』
 甲高く、笑う地蔵の下からは、ミスティックブルーの十字架一つ。
 「十字架・・?」
 『そうさそうさ、それを持て行けば、なぁんら心配はない。』
 『さぁさぁ、それに着替えなされ。』
 悠宇は、茂みに入りその身体に白の青を着込んだ。
 真っ白な着物に包まれて、それでも染まる青の色彩。
 悠宇はするりと十字架を首からかけて、その手を放した。
 村の入り口地蔵の出迎え、それを抜ければ村の内部。
 飛び交う青蝶、歓迎の舞いを。
 消え行く背中に地蔵は語る。
 『安全なのも今夜で終い。』
 『望月村が、青のなのも今夜で終い。』
 『生きて帰れる保障も・・今夜で終い。』
 ケタケタと、笑う地蔵の声高く。
 それを聞くは、青の月とBlue Butterfly・・・。


■ scene U

 真っ直ぐ進むは望月村。
 青の蝶々に導かれ、果て無く進むは望月村。

 目の前にそびえる大きな豪邸に、青の月明かりが反射する。
 ゆっくりと近づく玄関が、触れもしないで開く様は、まるで彼を待っていたかのよう・・・。
 中に入るとそこは大きな空間。
 1つだけ付けられた窓からは、青の色彩斜めに入る。
 『ようこそいらっしゃいまして、お客様。』
 そう言って、微笑む少女の外見は、一夜に見た浮世とそっくりで・・・。
 「お前は・・。」
 『初めまして。浮音(うきね)と申します。』
 ゆっくりとお辞儀をする、浮音の肩から零れ落ちる、漆黒の髪が目に痛く。
 「浮世じゃないのか・・?」
 『浮世は蕪木家に仕える者。わたくしは、楠木家に仕える者ですわ。』
 微笑む浮音の瞳の奥、黒く沈むそこだけは、微笑み忘れて真顔で微笑む。
 『其、同のようで異なる者。異なるようで同なる者。』
 「なんだって・・?」
 『さぁ、お客様。地蔵から渡されたものをお出しくださいませ。』
 悠宇は軽く頷くと、首にかけられた十字架を出した。
 ヌラリと光るそれは、ここに来る者の証の一つ。
 即ち、志の一つ・・・。
 『救いし者は、声高く。祈りの歌は心を溶かす。』
 詠うように零れる言葉達。
 グラリと揺らぐ視線の中で、少女は僅かに口の端をあげた。
 その顔は、祝福か蔑みか。
 『行ってらっしゃいませ、お客様。そして・・ようこそいらっしゃいました。楠木邸へ。』


 グラリと揺れる視界が定まった頃、悠宇は長く続く廊下にいた。
 果てなく続く、廊下の先は地平と混じり、手前にぽつんと扉があるのみ。
 「・・何でこんなに長いのに、扉が一つなんだ・・・?」
 その問いに、答えが出ぬのは誰でもない、御心すらも知っている。
 「とりあえず、入ってみるか。」
 手前にある、豪奢な扉に触れる前に扉は勝手に奥へと開いた。
 それは歓迎か罠なのか。
 甘美なまでの罠なら怖く、艶なる祝福ならば誰が歓迎していると言うのか。
 悠宇は無言で入った。
 入った途端に扉は閉まる。
 固く・・・固く・・・。
 「罠だったら・・厄介だな・・。」
 長く続く、畳の向こうに見えるのは、ほのかに光る人の影。
 「・・・誰だ・・?」
 進む先、ほのかに光る人の影。それは少女の形をしていた。
 まだ幼い瞳に映るのは、どこか悟りきっているような死者の輝き・・・。
 『貴方、誰?どうしてこんな所に来ているの?』
 焦点の合わない瞳が映すのは、どこか別の空間。
 「俺は羽角 悠宇・・。お前は・・?」
 『私は雪花(せっか)三つ幼子の・・雪花。“生まれ”の雪花よ・・。』
 「“生まれ”・・?どう言う事だ?」
 『さぁ。よくは知らない。ただ、幼子達の割り振りだけは知ってるわ。託された言葉。富に関わる、重要な言葉・・・。』
 「それは具体的には何なんだ?」
 『せっかちね。・・でも、そうね。私にも時間が無いの。幼子だけで良いなら教えてあげるわ。』
 雪花はそう言うと、じっと宙を見つめて詠うように言葉を紡いだ。

 『一つ幼子“同じ年”
  二つ幼子“月日に”
  三つ幼子“生まれ”』

 「・・なんだそれは・・。」
 『望月村の、最重要文献・・そこに書かれていた、儀式の内容。全ての贄の言葉が揃った時・・儀式は始まるわ。望月の赤。それは、富への階段・・・。』
 「雪花・・?」
 『蕪木の子達は、贄である事を拒んでいたわ。最後まで・・・。悠宇さんも、見てきたでしょう?蕪木家の中に倒れていた贄達を・・・。』
 「あの子供達の事か?」
 『そう。最期まで、生へ執着した・・可哀想な贄。』
 「雪花は、は違うって言うのか?」
 『・・・そうね、生に執着したい気持ちもある。でもね、目の前で誰かに死なれるよりは、私が死んだほうがいくらかまし。私が死んだって、私の心は傷つかない。』
 「雪花・・。」
 ふいと天井を見つめる雪花の、口元に光る笑み。
 悠宇はその小さな頭を優しく撫ぜると、そっと囁いた。
 「それでも、俺は雪花が亡くなったら・・寂しいよ。」
 『・・もう、私は死んでるんだけどね。でも・・そうだなぁ、悠宇さんみたいに、私が逝くのを惜しんでくれる人がいたなら・・きっと、逝きたくなかったんだろうな。』
 雪花の身体から、光がほとばしる。
 零れ落ちるように・・はらり、はらりと舞う白の光・・・。
 『贄の子達は、悠宇さんが話を聞こうと思えば話してくれるわ。いくら定めだとは言え、みんな逝きたくなかったはずだもの。』
 雪花の微笑みは、その名の通り雪の花のようだった。
 ハラリハラリと、舞うは雪の花。真っ白な光を放ちながら頼りなさげに揺れるは・・生の花。
 零れるように消え行くは、雪の花・・・雪花・・・。
 「・・あれは・・?」
 しばらく雪花が消えたほうを見つめていた悠宇だったが・・・ふいと視線を下ろした時、なにか白いものが視線をよぎった。

 『一つ女子は毒をあおり
  二つ女子は首をつり
  三つ女子は血を流す』

  『Bのメモ』を入手。

 「前と同じようなヤツだな。」
 悠宇は呟くと、ゴソゴソと袖元を探った。
 『Cのメモ』を取り出す。

 『一つ男子は氷となり
  二つ男子は火となり
  三つ男子は形となる』

 ほとんど一緒だ・・。
 悠宇はそこである推測を立て始めた。
 これは、贄の内の男の子3人の死に方を示したものじゃないか・・と。
 全てが揃ったわけではないので、本当にそうかは分からないけれども・・・。
 贄は、確か9人だ。
 蝶3つ、贄9つ、魂18つ・・。
 すると、もう1つ死に方を示した紙があるのかも知れない。
 それにしても・・・蝶とは、魂とは・・・。
 悠宇は前夜の蕪木邸での事を思い出していた。
 “もっと生きたかった”と言ったあられや薺。
 儀式の日まで囚われの身だと言っていた蝶子。
 ・・・あんな子供を犠牲にしてまで得ようとする富とは何なのか、納得がいかない・・・。
 考える悠宇の視界に、小さな日本人形が見えた。
 真っ赤な振袖を着て、すましながら台座の上に座る少女の人形。その髪は、台座の下まで伸びている・・・。
 そう言えば、蕪木家にも雛壇があった部屋があった・・。
 「・・もしかして。あの人形達は、贄の子達と三木家の子達を示したものなのか・・?」
 呟いた声が、意外と大きく響く。
 それは青の空気を揺らし、そっと交わる。
 つまり、1段目の人形達が三木家の子達。
 その下3段は9人の贄の子達を示したもの。
 そして、その贄の子が死亡すると人形が染まって倒れる・・・。
 けれどそうした場合・・・。
 「贄の命は人形と同じって事・・・か?」
 その問いに、答えるものはいなかった。



 廊下に出た時、数メートル先に突如扉が現れた。
 ・・違う、現れたのではない。最初からそこにあったかのように部屋から出た時にはそこにあったのだ。
 悠宇はふと、後を振り返った。
 先ほど出てきた扉は最初から無かったかのように、そこにはただの壁があった。
 ・・・悠宇はしばらく消えた扉を見つめた後で、新たな扉へと入っていった。
 振り向きざまに、フイと視界の端に雪のようなものが見えた気がした。


□ scene V

 部屋に入るとそこは眩しいまでにオレンジ色の世界だった。
 多分、普通の“東京”で見たのならばそれほど眩しいとは思わなかったかもしれない。雪洞から発せられる程度の淡い光だ。
 しかし・・息苦しいまでに青に支配されたこの世界から見れば、それは目を瞑りたくなるほどにまぶしい光だった。
 悠宇は目を細めながら室内を見渡した。
 光の届かない場所は、青の影が落ちている。
 すーっと移動していた視線が、ある場所でハタリと止まった。
 右半身をオレンジ色に染め上げて、心ここにあらずな様子で外を見つめる1人の女性の姿・・・。
 「あれは・・。」
 段々と光に慣れ始めてくる瞳は、直ぐに視界を広げた。
 真っ白な浴衣を青とオレンジに染め上げながら、じっと外を見つめる女性・・。
 悠宇はしばらく女性を見つめた後で、女性のもとへと歩み寄った。
 「あの・・。」
 『青の光は、好き。だって・・赤く染まったら怖いんですもの・・。だから、青が良いの。でも、青って・・暗いでしょう?だからね、雪洞に火を入れるの。』
 女性はそう言うと、オレンジ色に光る瞳をこちらに向けた。
 実際の瞳はオレンジ色ではないかもしれない。しかし、雪洞の光に当てられてその色は確かにオレンジ色に見えた。
 『貴方、誰?』
 「俺は羽角・」
 『違うわ。ここでは名前なんて関係ないの。ココで関係してくるのは、自分がなんなのかよ。』
 「なんなのかって・・?」
 『蝶か贄か魂か。ここではそれさえ分れば名前なんていらないの。名乗る場合は一つ幼子の贄だとか、そう言うのよ。』
 「お前は何だ?」
 『私は三つ女子の贄。って言っても、もうその役目は終わったわ。』
 「つまり・・」
 『もう死んでるから。』
 「じゃぁ、本名くらい名乗っても良いだろう?」
 『私の名前は・・月下(げっか)。・・・貴方、雪花に会ったの?』
 「雪花を知ってるのか?」
 『知ってるも何も、雪花は私の妹だわ。雪花と月下。名前からして似てるじゃない。』
 月下はそう言うと、窓から手を放した。
 白着物の袖から覗く手は、青白く細かった。
 『雪花は幼子の言葉を貴方達に託したのでしょう?』
 「幼子の言葉って・・?」
 『幼子が亡くなった時、その近くの場所に浮き出る言葉。贄に与えられる言葉よ。雪花から聞かなかったの?』
 「もしかして・・同じ年とかって言う・・」
 『その先はもう良いわ。そう、それよ。貴方達、蕪木で子供の遺体を見なかった?』
 「見たけど・・あっ・・!」
 『その近くにあったでしょう?言葉が。それよ。私は女子の言葉しか知らないけど、教えてあげる。』

 『一つ女子“し三木”
  二つ女子“の子魂”
  三つ女子“全12の”』

 「同じ年月日に生まれし三木の子魂全12の・・?」
 『それと、はいこれ。あげるわ。』
 月下はそう言うと、袖元から小さくたたまれた紙をついと差し出した。
 それを広げてみる・・・。

 『子は蝶を
  華は赤を
  胡は富を』

 『Eのメモ』を入手。

 「なんだ・・これ・・?」
 『・・貴方達は、分らなくて良い。なるべくなら、係わり合いになって欲しくない。それでも、望んでいるのはこの村だから・・私に、とめる権利は無いから・・。』
 「なぁ、なんでこうやって協力してくれるんだ?言葉を教えてくれたり、紙をくれたり・・。」
 『・・儀式をやった所で、今となっては誰も幸せになんかなれないから。村の全員が、儀式を拒んでも・・村が、月が、蝶が・・ソレを許さないから。』
 「どう言う・・事なんだ・・?」
 『蝶は何度でも蘇るの。一番最初の儀式の時から、何度でも、何度でも・・。』
 「月下・・?」
 『二夜目が終われば、蝶は再びこの村に降り立つの。私と・・雪花はもういない。だから、赤を見ないで済む。けれど、貴方は・・だから、逃げて。』
 そう言った月下の身体から、淡い黄色の光が零れ落ちる。
 それは月光よりも淡く、柔らかく辺りを包み込んだ。
 『蝶が胡に降り立つ前に・・第三夜が始まる前に・・この村から・・・』
 最後まで言葉を紡がずに、月の光は掻き消えた。
 辺りを照らすは雪洞の光。月の光よりも強い・・オレンジの光。
 「どう言う事だ?蝶は何度でも蘇る・・・?蝶が降り立つ・・?蝶にまるで・・・。」

 “まるで意思があるかのようではないか・・!!”

 「蝶って、なんなんだ?」」
 悠宇は窓の外へと視線を向けた。
 暗く落ち込む青の世界に、終ぞ蝶の姿は見えなかった。
 しばし雪洞の灯りを見つめた後で、消し・・外へと出た。

 再び現れては消える扉。それは段々と廊下の端の方へ近づいてきている。
 斜めに現れては消える扉。
 まるでえさをぶら提げながら導くように、廊下の端へと・・・。


■ scene W

 部屋に入ると、そこは真っ青な世界だった。
 窓から入り込んでくる月明かりが、この部屋だけ異常な程に強い・・・。
 まるで海の中の様な青さだった。
 そして・・先ほど同様にその真ん中に佇む少年の姿があった。感情の浮かばない瞳を天井へと向けている・・。
 「あ・・」
 『僕の名前は海歌(みか)。海の歌って書いて、ミカ。女の子みたいな名前だけど・・仕方がないんだ。末っ子だから。』
 そう言って、振り向く顔は月下に似ていた。・・いや違う、雪花に・・?
 「月下と雪花の・・」
 『弟。お兄さん、月下姉さんと雪花姉さんに会ってきたんでしょう?分るよ、だって血を分けた姉弟だもの。死んじゃってからは、なおさらね。テレパシーみたいだ。』
 海歌はそう言うと、袖から一枚の紙を取り出した。
 白い紙・・なのだろうか?青にしか見えないほどに、窓からの光は濃い。
 悠宇はそれを開いた。

 『一つ幼子胸を突き
  二つ幼子水を飲み
  三つ幼子寝入り行く』

 『Aのメモ』を入手。

 『これで全部のメモが揃ったね。おめでとう。おめでとうついでに僕からのお祝いの言葉・・・。』

 『一つ男子“の道を”
  二つ男子“へて赤”
  三つ男子“となす”』

 「同じ年月日に生まれし三木の子魂全12の道をへて赤となす・・?」
 『そう。同じ年、月日に生まれし三木の子魂。全12の道をへて赤となす。』
 「それは一体なんだ・・?」
 『メモを全部並べてみて。教えてあげる。どうせ僕で最後だから。』
 海歌はそう言うと、少しだけ微笑んだ。
 感情の伴わない、形だけの笑みは・・あまりにも心に痛く響いてきた。


  一つ幼子胸を突き
  二つ幼子水を飲み
  三つ幼子寝入り行く

  一つ女子は毒をあおり
  二つ女子は首をつり
  三つ女子は血を流す

  一つ男子は凍りとなり
  二つ男子は火となり
  三つ男子は形となる


 「これは・・贄の子達の亡くなり方を書いたもの・・違うか?」
 『ご名答。まったくもってその通り。それじゃぁ、次に行こう。』


  一つ木は子を
  二つ木は華を
  三つ木は胡を

  子は蝶を
  華は赤を
  胡は富を

 生み出すは望月の“赤”
 真紅の富よ・・・。


 「これは・・?」
 『最初のは三木家の当主達の名前だよ。その後は・・儀式の内容。』
 「どう言う事なんだ?」
 『三木家の“子”は蝶を纏い、三木家の“華”は赤く染める、三木家の“胡”は富を築く。儀式によって生み出されるのは望月の“赤”。真紅の富・・。』
 スラスラとそらんじる海歌の瞳はどこか穏やかな輝きがあった。
 それこそ、その名同様に・・穏やかに凪ぐ海のような・・。
 「月下が、蝶が降り立つって言ってたんだけど・・ソレは何だ?外にいる蝶とは違うんだろう?」
 『・・もうそこまで知ってるの・・?月下姉さん、そんなに先まで話したんだ。そう、それならこの村の昔話をしてあげるよ。』
 海歌はそう言うと、しばし目を伏せ物思いにふけった。
 やがて、ゆるりゆるりとつむぎ出される言葉・・それは、ただの昔話か否か・・。

 『三木家は最初は一つの家だったんだ。昔この村を支配していたのは、立木家の当主だった。
  昔は一夫多妻制が認められていたから、当然当主達には何人もの妻がいたわけだけど・・。
  それは昔。とある当主の時。
  その当主には3人の妻がいた。1人は正妻で2人はただの妻だったわけだけど・・。
  その2人は我が強く、立木の正妻の座を狙っていたんだ。子供さえ出来てしまえば、立木家の全権力はその子供に行くから。
  でも・・やっぱり神様は見ているね。その2人よりも早く正妻の女の人に子供が出来たんだ。可愛らしい三つ子で・・。
  当主は喜んだ。一気に3人も可愛らしい子供が出来たんだからね。しかし、その日夢の中で子供が殺される夢を見たんだ。
  2人の妻達が嫉妬のあまり、3人の子供に手をかける場面をね。
  それはあまりにもリアルで・・当主は正妻を呼ぶと事情を話して2人の子供を手放すように言ったんだ。
  3人のうち2人を妻達に分け与え・・蕪木家と楠木家と言う家をたててあげれば夢を回避できると言ってね・・。
  当然、正妻は拒否した。可愛い子供をどうして人様にあげることなど出来ましょうか・・とね。
  けれども当主はなんとか正妻をなだめすかして2人の子供を妻達に分け与えたんだ。
  それが、三木家の始まり・・。』

 「それで、それが昔話ってワケか?」
 『まさか。これはこの村の事実だよ。昔話はここからだよ。』

 『その子供達が丁度十になる頃・・望月村は急に貧しくなっていったんだ。
  作物は取れなくなり、伝染病が蔓延し・・お祓いを頼んだりしたけれども全てダメで、当主は最後の望みを託して占い師の所に駆け込んだんだ。
  占い師はこれは全て呪のせいだと言ったんだ。生まれた三つ子が事の発端だと。
  あの時に見た夢は、危険を回避するための一番良い方法だったんだと。
  当主はすぐに子供達を打つように命じた。でも、占い師は言ったんだ。
  今子供達を打てば全ての災いが村に降り注ぎ、村は途絶えましょうとね。
  当主は必死になって解決方法を聞いた。
  解決方法は唯一つ。“真紅の富の儀式”のみだと占い師は言ったんだ。
  最初に順番通りに9人の贄を捧げ、次に18人の魂を捧げる。そして・・血の繋がった当主達の血を捧げる。
  贄の命は誰が断っても良い事になっているけれども、魂の命は三木家の当主達が断たねばならない。
  贄9つ、魂18つが手に入ったら・・今度は立木家の当主が蕪木家、楠木家の当主の命を断ち・・。
  自らの命を自らの手で絶つ。それが・・儀式の仕来りだ。
  当主は村のためだと言い・・子供達の手に刃物を持たせた。
  自身は何のためらいもなく贄9人を捧げ・・子供達は泣く泣く魂18つを捧げた。』

 海歌はそこまで言うと、何かを言いたげに視線を上げた。
 しかし直ぐに瞳を伏せると続きを紡いだ。
  
 『そして、当主の命令どおり・・立木の子供はその手を真紅に染めた。
  自分の、血の繋がった姉妹を手にかけたんだ。
  自分の命を絶つ時、立木の当主は高らかに宣言した。“二度とこの村には光が届かぬ”と。
  “未来永劫、いつまでも何度でも、蘇りこの儀式を続け続ける”と。
  実際その後望月村は富を手に入れた疫病も無くなり、作物だって育った。その代わり・・朝が来なくなった。空は厚い雲に覆われ、いつでも夜のごとき暗さだった。
  いつしか村全体は夜の闇に染まり、どこからかやってきた青い蝶々と青い月が支配する世界へと変わって行った。
  そして・・ある一定の周期で蕪木家と楠木家には子供が出来なくなる時が来るんだ。
  そんな時は必ず立木家に三つ子が生まれる。
  儀式をすれば、望月村は莫大な富を得る。蕪木家と楠木家にも、その後子供が必ず出来る。
  安いものなんだ、望月村から見れば、贄9つ、魂18つ、蝶3つの命なんて。
  でも・・もう富は望めない。
  この世界は現実から逸脱してしまった。“真紅の富の儀式”はそもそも禁断の儀式なんだ。
  命を富に換えるという、禁断の儀式・・・。
  そう、ココまできて始めて立木家の当主の胡の願いは叶ったんだ。
  なんの意味も無く、殺戮だけを繰り返さなければいけない。それは胡の呪だから。』

 「胡の呪だって・・?」
 『そう、大人達は古の時のように莫大な利益が得られると思っている。だからなんの躊躇も無く子供達の命を差し出す。』
 「それが呪だって言うのか?」
 『儀式に関わらない人々は、狂ったように儀式を待ち望む。普段は優しい使用人も、斧を片手に仕え先の子供を殺すんだ。呪以外に言いようがない。』
 海歌はそう言うと、少しだけ肩をすくめた。
 それは諦めを含んでいるようにさえ見える・・・。
 『お兄さんに教えてあげる。お兄さんは“魂”なんだよ。贄は村の人と決まっているから。』
 海歌の身体がほのかに光る。
 その色はなに色だか分らない・・それほどまでに、窓から差し込む光は青色だった・・。
 『村が赤く染まる前に逃げて。第三夜目は・・来ちゃ駄目だ。』
 「なんで・・そうやって逃がそうとする・・?色々教えてくれてまで・・。」
 『僕達の話を真剣になって聞いてくれたから。こうなっちゃうと、誰も僕達の話なんて聞いてくれないのに・・お兄さんは最後まで聞いてくれた。』
 「たったそれだけなのか・・?」
 『誰だって、目の前で誰かが死んでいく姿は見たくないんだよ。この儀式を終わらせて欲しいとは思う・・でも、そのためにお兄さんが危険な目にあうのは駄目だ。』
 海歌はにっこりと微笑むと、小さく手を振った。
 『生きてるんだから、最後まで生きてよ。もう、月下姉さんと雪花姉さんの所に行かなくちゃ。・・話を聞いてくれて、ありがとう。』
 消える・・泡のように立ち上る光は青色だった。
 海歌から手渡された紙をぎゅっと握る。もう二度と返らない微笑を胸に抱きながら、強く、強く・・。
 それにしても・・もし、さっきの話が本当だとすれば・・蕪木、楠木、立木の当主達は三つ子と言う事になる・・。
 悠宇は小さく祈りの言葉を紡ぐと、その部屋を後にした。


□ Last scene
 
 一番突き当たりに出現した扉の隙間からは、眩暈がするほどに甘い香の香りが漂ってきていた。
 蕪木家の中で嗅いだものよりも、更に芳しく官能的な香の香り・・。
 悠宇は少しだけその香りに全身系を集中させた後で、扉を開いた。
 『お客様、お待ち申し上げておりましたわ。』
 中から聞こえる、凛とした美しい声・・。
 夢の中で聞いた声と、あの蕪木家で聞いた声と・・まったく同じ声・・。
 『望月村の謎が粗方解けたからとて、なにも良いことは御座いません。お客様がすべき事は唯一つ。第三夜の呼びかけに答えぬことですわ。』
 部屋の中には、これでもかと言うほどに無数の蝶々が犇めき合っていた。
 そこここの壁にとまる蝶々の姿は、さながら悪夢そのものだった。
 『お帰りなさいませお客様。Blue Butterfly・・この名を残していった彼のようにはなってはなりません。もう、ここへは参りなさいますな。』
 そう言うと、傍らにおいてあった小さなベルのようなものを2度3度叩いた。
 「お前・・名前は・・?」
 『わたくしは蝶華でございます。楠木蝶華・・。』
 華・・・。
 その時後ろの扉がすっと開いた。そこには三つ指を突いて頭を下げる浮音の姿があった。
 『さぁ、お客様。お帰りの御支度を・・。』
 「最後に・・その、Blue Butterflyの言葉を残して行った彼って誰だ・・?」
 『外からの訪問者・・。それは、わたくしよりも外で待っておられる殿方の方が知っておられるはずですが?』
 蝶華は表を指してそう言うと、にこやかに微笑んだ。
 『さぁ、お客様。こちらへ・・。最後の贄の命が消える前に・・・。』
 扉が閉まる瞬間、壁に止まっていた一匹の蝶が赤く染まった気がした。


 「おぉ、帰ってきたか。悠宇。」
 地蔵の前、ぼうっと空を見ていた冬弥の視線が悠宇に止まる。
 「冬弥さん、中で、楠木蝶華って子に、“Blue Buterfly”の言葉を残していった男の人の事をきいたんだけど・・冬弥さんの方が知っているって・・・。」
 冬弥はしばし悠宇から視線をはずすと、口を引き結んだ。
 何かに耐えるように強い光を発する視線の先には、望月村が広がっている。
 『冬弥は前の儀式の時にも来なすった。』
 『若い男を連れて来なすった。』
 『その男、一人で中に入って終ぞ帰って来なかった。』
 「うるせぇっ!余計な事言うんじゃねぇっ!!」
 「・・どういう事なんだ?」
 『魂として、連れて行かれてしまったからに。』
 『儀式の犠牲者、そうにきまっとる。』
 『冬弥も冬弥で気にしすぎで・・。』
 「うるせぇっつてんのが聞こえねーのかよっ!」
 『おぉ怖い怖い。』
 『これじゃから最近の若者は。』
 『すぐにキレルからおっかない。』
 「冬弥さん・・?」
 「悠宇、次に夢で呼ばれても、来るな。絶対に。」
 グラリと揺れる視界の中、望月村が赤に染まっていくのが見えた。
 しかし・・それが本当なのかただの幻なのかは分らなかった。
 聞こえてくるのは地蔵達の甲高い声。
 『次は最後の第三夜。』
 『儀式が始まり、血が流れる。』
 『染まった剣を降りながら。』
 『当主達は何を思うか。』
 『それは誰にも分らん分らん。』
 『もう今宵は眠りなされ。』
 『何も考えずに眠りなされ。』
 『次に起きた時には朝日の中。』
 『穏やかな光に包まれて。』
 『何も心配せずに起きなされ。』

 地蔵達の言葉どおり、悠宇の頭の中は真っ白に染まった。
 そしてそのまま・・・。

   〈第二夜、終〉


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 ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  3525/羽角 悠宇/男性/16歳/高校生


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 ■         ライター通信          ■
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  第一夜に続きまして、第二夜にまでご参加いただきありがとう御座いました!
  ライターの宮瀬です。
  第一夜よりも、更に甘美な世界にしようと思い執筆いたしましたが、如何でしたでしょうか?
  今回は“青”“白”“黄”“橙”“赤”を基本として作り上げました。
  特に、青と赤は第三夜でもメインの色になっていくと思います。
  第二夜では今度は『Blue Butterfly』と残していった青年が新たに浮かび上がりました。
  そうです・・残して“いって”しまったんです。
  もし宜しければ、第三夜にもご参加下さい。

  それでは、またお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。