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<東京怪談・PCゲームノベル>


 真冬の海と人魚のオカマ



 真冬の海に響く波と風の音が、一層寂しさをかき立てていた。夏場なら、波の音に混じって賑やかな観光客の声が聞こえてくることだろう。
 一緒にこの場所へ来た、海原・みなもが海面をじっと見つめている。さらにもう一人、瀬川・蓮は、水が嫌なのか、水面から離れ、海面を目凝らして眺めていた。
「腹減った…」
 シオン・レ・ハイは空腹で、二人の会話なんてうわの空。何か食べ物でもないか、岩場に貝でもくっついてないかと、フラフラと彷徨っていた。
 その時、海面に大きな魚のヒレを見かけた。
「あれはマグロ!!?」
 シオンは魚を求め、ためらいもなく海面へと飛び込んだ。念の為、兎の形の浮き輪を持って。水中を泳ぎまわり、シオンはとうとう魚を発見した。何やら人間っぽくも見えるが、これはきっとそういう種類なのだろう。シオンはその魚のそばへと泳ぎつき、一気に喰らいついた。
「ちょっとぉ、痛いじゃない!離しなさいよん!」
 男のような、女のような声。それはシオンから逃れようと暴れたが、やがて連続ビンタとなり、シオンはその美しい肉体じゃら繰り出されるビンタを食らった。
「あのシオンさん、とりあえず離して上げたらどうでしょう。痛そうですし…」
 上の方から声が聞こえた。
「まったくー、おっさんが落ちて来たと思ったら、アタシのこの麗しい肌に傷をつけるなんて!」
 確かに美しい。鍛え抜かれたその肉体。シオンはその肉体を称え、持っていた浮き輪を、その人物の首にかける事にした。首が太くて中途半端になってしまったが、一応首輪…ではなく浮き輪の首飾りをプレゼントしてみた。
「よく見れば人魚さんではありませんか。人魚さんですよね?物語などで見る人魚さんとはちょっと違うようで驚いています」
 シオンはその人物の足が魚になっているのを発見した。
「そうよぉん。アタシは人魚。これアタシにプレゼントしてくれるの?まあ…」
 人魚はとても嬉しそうにしていた。
「ねー、キミが人魚さんなんでしょう?ボク達、人魚さんと遊ぶ為に来たんだけどな!」
 蓮が大きな声で人魚に叫んだ。
「そうよん。アタシ、このあたりでは一番美しい人魚のマーガレット。あらちょっと、そこの青い髪のお嬢ちゃん、アンタも可愛いじゃないのよん。アタシには負けるけど。そっちのボウヤも可愛いじゃないん?一緒に泳がないぃん?」
 マーガレットは、みなもと蓮に投げキスを飛ばしている。
「えー、やだよ!この服いくらすると思ってるのさ。それに、ボク濡れるのやだしね!」
 蓮が水面から一歩下がって言う。
「あらん、水の中って結構いいものよぉん?」
「だってボク、水着持って着てないしさー。大体こんな冬に、海を泳ぐなんて考えないよ。それよりはマーガレットクンがこっちへ上がってきなよ!地上の事、色々教えてあげるからさ」
「そうですね。マーガレットさんは、海の世界に飽きてしまったとお聞きしました。そう思って私、車椅子を用意してきましたよ。これなら地上をご案内する事が出来ますしね」
 みなもが前もって用意したのだろう、車椅子を取り出してきて、マーガレットへと見せている。マーガレットは輝くような笑顔を見せ、とたんに海面から跳ね上がり、凄まじい勢いで陸に上がってきた。シオンは片手で抱えられたまま、人魚だから足は魚のヒレなのに、陸に上げた魚がピチピチと跳ねるようにみなも達のそばへと跳ねて来て、あっという間に車椅子へと収まった。
「って言うか、その人いつまでそうやって抱きかかえてるのさ」
 シオンはマーガレットにぬいぐるみのように、いつまでたっても抱きかかえている。シオンはこの人魚のヒレは美味しいだろうか、などと考えていたのだが。
「この人、あたしに首飾りプレゼントしてくれたのよん。あたし、こんなの初めて。こういうの、運命の出会いって言うのかしら」
 マーガレットは兎の浮き輪をつけたまま、ぽぽぅと頬を赤く染めていた。
「あのシオンさん、何かコメントは」
 みなもにそう聞かれたので、シオンはすぐに答えた。
「この人と友達になったら、魚を沢山取ってきてもらえるかもしれません。とりあえず、最初のつかみはまずまずでしょう」
 みなもが何かため息をつきながら独り言を言ったようだったが、シオンにはよく聞き取れなかった。



 車椅子にマーガレットを乗せ、3人と1匹(?)は、みなもの提案により近くの水族館へ行くことになった。マーガレットのヒレの部分に布をかけ、外から見えないようにした。若干目立ちそうな気もしたのだが、水族館は館自体が薄暗くなっており、さらにシーズンオフで余り人はいない。だから、思っていたほどジロジロ見られる、という事はなかった。
「へえ、色々な魚がいるんだ。ボク、魚って鯉ぐらいしか見た事ないんだよ。鯉はね、パパに見せてもらった事あるから知ってるんだけど」
 蓮も興味深々に、水族館のたくさんの水槽に吸い寄せられて、海の魚達を眺めている。
「さすが水族館ですね、珍しい魚が沢山いて見ているだけで楽しいですね。あのたくさんの魚のうち、何匹が食べられるでしょうか」
「ちょっとシオンさん、何言ってるんですか、マーガレットさんの前ですよ!」
 あの魚はこう料理したら美味しそうとか、あれはナマでも行けそうだ、とかシオンは完全に魚に目を奪われていた。
「どうでしょう、マーガレットさん。貴方は海の事はよくご存知でしょうから。そういえば、人魚さんも食べる事が出来るのでしょうか」
 シオンは水族館を眺めているマーガレットに尋ねてみた。
「アタシを食べるつもりぃん?ま、こんな素敵な方に食べられるなら別にいいかしらん?そんなにアタシに興味あるぅん?」
「ええ。色々と興味がわきますね。例えば、その逞しい筋肉はどうやって鍛えたのか、とか」
「これはねぇん、激しい海流の中で鍛えたのよん。素敵でしょ?」
「それは素晴らしい」
 それならきっと、魚の部分は筋だらけで美味しくないかもしれない、とシオンは考えていた。
 その後、3人と1匹(?)は水族館をゆっくりとまわった。途中、海の中を360度ぐるりと見回す事が出来る海中トンネルを通った時に、シオンがこれは何週間分の食料になるだろうか、と真剣な表情で水槽への入り口を探そうとしていたのと、そばにいた高校生らしき美少年軍団にマーガレットが襲いかかろうとしたのを皆で懸命に止めようとした事を除けば、大したトラブルはなかった。



「色々ありましたけど、楽しかったですね」
 水族館を出たシオン達は、再び海岸に足を運んでいた。すでにあたりは暗くなり、冷たい海の水平線の上に星が輝き始めている。
「あれ何だよ、あの車椅子の奴。ひっでぇ不細工」
 突然、前方から声が聞こえた。
「人間か?外へ出てくるなって感じだよな」
 シオンの視線の先に目つきの悪い二人組みの男がいて、シオン達を見てバカにしたような笑いを浮かべている。こちらを馬鹿にしている事はすぐにわかった。
「あんなの無視して帰りましょう、マーガレットさん」
マーガレットは下を俯いて、肩を小さく震わせているのをシオンは見た。
「バカな連中の言う事なんて気にしちゃだめさ」
 しかし、蓮がそう言い終わると同時に、マーガレットはその男達に飛びかかっていた。
「マーガレットさん!?」
 勝負は一瞬だった。マーガレットのその逞しい肉体から繰り出されるパンチ、分厚いヒレを使ったビンタ。男達は「化け物だー!」と叫けびながらあっと言う間に逃げ去ってしまった。
「さすがは鍛えた筋肉ですね。素晴らしい戦いでした」
 シオンはマーガレットのその動きと強靭な肉体に、感動すら覚えたのだ。



「アンタ達、今日は本当に有難うね。久々に楽しかったわよん?」
「こちらこそ。少しでも楽しんで頂けたのでしたら何よりです」
 みなもがにこりと笑顔で答えている。
「ボクも魚沢山見られて楽しかったな。なかなか見る事なかったし」
 みなもに続けて蓮が言う。さらにシオンも笑顔で答えてみせた。
「マーガレットさん、また遊びに来ます。その時は新鮮な海の幸を期待していますので」
「わかったわぁん。アンタとお別れするのは寂しいけどぉん、今は仕方がないものねぇん。今度海の魔女にお願いして、アタシ人間になってアンタに会いに行くわ」
「マーガレットさんの場合、本当にやりそうな気がするのは、私だけでしょうか」
「いや、ボクもそう思う」
 3人は海の底へと帰ってゆくマーガレットの影が消えるまで見送り、太陽が水平線に消える前に、Y・Kシティへと戻っていった。
 その後、シオンはY・Kカンパニーの社長の霞に、趣味で作った兎の縫いぐるみをプレゼントした。そのせいか、バイトの給料が5円アップしたらしい。(終)



◆◇◆ 登場人物 ◆◇◆

【1252/海原・みなも/女性/13歳/中学生】
【1790/瀬川・蓮/男性/13歳/ストリートキッド(デビルサモナー)】
【3356/シオン・レ・ハイ/男性/42歳/びんぼーにん(食住)+α】

◆◇◆ ライター通信 ◆◇◆

 シオン・レ・ハイ様
 
 初めまして。新人ライターの朝霧青海です。発注頂き、本当に有難うございました!
今回のシナリオは2本立てですが、こちらはギャグバーションで。初めてですが、楽しく書かせて頂きました!シオン様はかなりギャグ演出させて頂きましたが、ここまで動かしてしまっていいのかなーと少々不安でもありました。
 朝霧の初のゲームノベルで、ネタは名前と少し変わった所から持ってこようと思い、真冬の海、となりました。ほのぼのとギャグと、2本立てにしたら面白いかなと思い、このような形にしてみました。
 一緒に参加された方との基本的な文章は一緒なのですが、視点がPC別になっています。他のプレイヤー様のノベルもご覧頂けるとさらに楽しめるかもしれません(笑)
それでは、今回は本当にありがとうございました!