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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


■星野原に愛を込めて■

 星原・灯月(ほしはら・とうげつ)は自分でも、この世に神様がいるなんて思ったことがあっただろうか、と自分で作った玉子焼きを食べながら思う。
 三年前、潰れかけのペット屋から貰ったアロワナが実はとんでもない「人間」で、違法行為を駆使され───正確には彼の知人の功績だったのだが───灯月は殆ど強制的に「彼」の養子になったのだ。
 その彼───星原・詩律(ほしはら・しりつ)からここのところ、何の連絡もない。まあ日常茶飯事のことではあるのだが、音信不通なのだ。
「流石に死んじゃいないだろうが」
 ぽつりと呟き、味噌汁をすする。
 詩律がいない時は、このマンションはいやにしんと感じられる。
 それだけ、普段あの馬鹿みたいに明るい詩律の存在感が大きいのだろう。
 当時、灯月は荒れていたのだろう。
 傍目には分からなくとも、心が。
 そう、───当時は、荒れていたのかもしれない。



 灯月はその、自分の能力を使って稀に調査屋のようなことも頼まれてやっていたりした。
 あれは、いつのことだっただろうか。
 詩律と生活し始めて、結構経っていたかもしれない。
「お前今日からオレの子だからな、トーゲツ」
 詩律の突然のその宣言に、彼は、
「…………は?」
 と、間抜けな返事を返すしかなかった。
 そう、本当に……間抜けな返事だった。
 母が自分の異能を疎み虐待していることを、知っていたのだろうか。彼なりに助けてやろうとしたのだろうか。薄々そんなことも思ったが、大きなお世話の典型だ、と灯月は思っていた。
 そんな頃のことだ。
 灯月の能力は、テレパス。それも、他人の心の中の視覚的な情報を覗く「視覚」限定のテレパシストである。。有効範囲は自分の視界だが普段は伊達眼鏡で制御しているので、他人の視線を正確に理解できる程度であるが、これは霊に対しても効く。
 その調査に手を出したのが、まずかった。
 だが彼は受けた時には気付かず、「妻を亡くした、だが自分は最期まで妻の気持ちが、愛が信じられなかった。どうか妻の霊が彷徨っていると噂の場所に行き、確かめてきてくれ」と、まだ20代後半の男に調査を頼まれた。
 こんなことも、いつものことだ。
 その女の亡霊が出るのは、とある路地裏、ゴミ捨て場の近くの野原。
 そんなところに、何故出るのだろうと不思議には思ったが、これも仕事のうちだと灯月はその場所に行った。



 伊達眼鏡を外し、路地裏に入る。
 本当に不気味で妖しげな場所で、街の不良たちの溜まり場にすらなっていないような……そんな場所に。
 ゆらゆらと、たゆたう青い影がいた。
 ぶつぶつと、何かを呟くでもなく。
 ただ哀しげに、背中までの髪を振り乱したまま、浴衣姿の女性の幽霊が、コンクリートの地面を見下ろしていた。
 灯月は彼女を見据え、心を読み始める───。

 ───あいしていたわ。
 なのに愛情がたりなくて、信じてもらえなくて、
                     わたしはころされたの。
 ───ここに、
       埋められたの───。

「!」
 灯月がハッとした瞬間を狙ったように、女性がこちらを向く。

 ───にげなさい……坊や、にげて。
 あのひとはあなたを───殺すために調査なんか、たのんだのだから。

「何故」
 呟いた時、ふと背後に殺気を感じ、灯月は咄嗟に身を伏せた。
 登山ナイフを持った、調査を彼に頼んだ男が、狂ったような瞳でそこに立っていた。
「殺すつもりなら、何故調査なんか頼んだんだ」
 身を起こそうと隙を窺いながら、尋ねる。男はあっさりと答える。
「誰でもよかったんだ。俺が殺したんだと分かってくれる誰かがほしかった」
「矛盾してるじゃないか、それなら何故俺を殺そうとする?」
「気付いたんだ───あんたに頼んだあとに」
 ゆっくりと、登山ナイフが振り上げられる。
「殺した妻は死体が見つかったら、俺のものじゃなくなっちまうってな!」
 
 ザッ、

 寸でのところで身体を転がしたが、ひゅっとナイフの切っ先が再び間近に迫ってくる気配を感じ、もう駄目だと灯月は目を閉じた。

 ───が、妙に場は静まり返っている。
 袖で思わず顔を覆っていた灯月は、そっとその腕をどけてみる。
 男は、詩律に軽々と首を掴まれ持ち上げられ、気絶していた。

「し、りつ」
 驚くほどに、緊張で喉が渇いていた。
 かすれた声で呼ぶと、詩律は、
「いつもは音信不通でも、いざという時役に立つ男、それが星原詩律さ」
 と、にかっと笑った。


 その後、灯月は女性の幽体と少しだけ話をし、謝罪の言葉を貰い、携帯で警察を呼んだ。
 暫く事情聴取もされたが、能力者であること、そして調査であの場所に行ったのだと、実際に能力を披露して見せて納得してもらい、ようやく家に帰る事が出来たのだった。



「分からないな」
 深夜、帰りのコンビニで買った、お握りをもそもそと食べながら灯月は呟く。
「どうして、愛した人を殺して調査されて、見つかったら『自分のものじゃない』んだろう」
「狂気に落ちた人間の精神ってのはそんなもんさ。殺して初めて心を手に入れた、お前に調査を頼んだ直後にそう思ったんだろうよ」
 詩律が、眠そうに欠伸をする。
 ぱりぱり、と海苔の音が、今日はいやに部屋に響く。
 食べ終えてお茶を飲むと、詩律がタイミングを見ていたように言った。
「調査屋もいいけど、相手も選べよ」
「───なんだよ、急に」
「べっつにー」
 たださ、と詩律はごろりと横になり、灯月に背を向けた。
「ただオレも、たまたまあんな場面に出くわすこともすくねーからさ、ってコト」
 たまたま、だろうか。
 本当に、そうだろうか。
 いつも、本当はこうして───自分は、見守られて来たのではないだろうか。
「詩律」
 思い切って顔を上げたが、その時には既に彼の養父は大いびきをかいていたのだった。



 そうして同居生活をするうちに、そんな大騒ぎも含め、主には詩律が巻き起こす騒ぎだったのだが───おかげで虐待の記憶も大分薄れた。
 救われたのかもしれない、とも最近思う。
「あ」
 壁にかけられた時計を見て、灯月は慌てて食べ終えていた朝食の器を片付ける。
 急がなければ、もうすぐ一時限目が始まってしまう。
 奨学金をもらって生活しているからには、それなりにちゃんと授業にも出なければならない。
 そんな忙しい時に限って、来客があるものだ。
 ピンポーンと鳴ったチャイムに、灯月はそのまま出られるようにバッグを肩から提げた格好で扉を開ける。
 なんとそこには、さっきまで(一応)心配していた詩律が、大型熱帯魚用水槽を片手に抱えてにこにこと立っていた。
「なっ……おまっ……」
「やっほー、トーゲツ。やちんたいのー?で追い出されちまった。飼ってくれねぇ?」
「帰れ」
 返答は短い。
 こんなヤツのために一時でも心配した自分が馬鹿らしく思えてくる。
 横をすり抜けようとした灯月の肩を、空いたもう片方の手で詩律が抑える。
「そんな冷たいこと言うなよ、ホラ、前にどっかの可愛い息子が水槽に蹴りたくさんいれたこともあって鱗剥がれも悩みなんだよなー、値が落ちたらどうすんだよ」
(脅迫すんな、脅迫)
 と思いつつ、
「息子って他にもいんじゃないのか」
 といつもの無愛想さに輪をかけた口調で言うと、「そんなっ」とあからさまに嘘泣きを始める。
「大体な、アロワナってのは元来剥がれやすいんだ、それに剥がれても数ヶ月経てば再生される!」
「さすが優等生我が息子、父親の生態についてもよく知ってるんだなぁ♪ 愛情を感じるなぁ♪」
「うるさいアロワナ、こんなところにいたら存在だけで近所迷惑で俺が困るから、続きは帰ってからにする、とりあえず部屋に入ってろ」
 と、灯月は「やったぜ!」と喜ぶアロワナ養父を部屋に押し込め、鍵をかけた。
 扉を背にし、ふう、とため息をつく。
 その扉が再び開き、つんのめった灯月に、詩律は「言い忘れ」と微笑む。
「いってらっしゃーい」
 アホか、と思いつつ、ここでまた逆らえば揉めること間違いなしなので無視して立ち上がり、腕時計を見て、時間を大幅に食ってしまったことに気付き、走り出した。
「おーいトーゲツ、いってらっしゃいってば」
「いってきます!」
 ───しまった。
 反射的にではあってもつい応じてしまった自分にも腹立ちと悔しさを感じながらも、ふと込み上げてくる笑みを隠しつつ、小さく彼は言った。
「…………クソ親父」
 と、憎めない、恐らくは彼を救ってくれた者の名を、彼なりに───愛を込めて。




《END》
**********************ライターより**********************
こんにちは、初めまして。ご発注有り難うございますv 今回「星野原に愛を込めて」を書かせて頂きました、ライターの東圭真喜愛です。タイトルは迷ったんですが(灯月さんがお名前にコンプレックスがあるということでしたので)、やはり親子愛(日常?)を書くならばこれかな、とこんなタイトルにさせて頂きました。
灯月さんの「時折調査屋」という職業を使い、勝手にあんなシチュエーションも作ってしまいましたが、お気に召されませんでしたらすみません; 何か他にも「これは違うよ」ということがありましたら、遠慮なくご意見くださいませ。今後の参考にさせて頂きます。
初めてのお客様、それもツインということでしたので、設定を読み込むのにかなり時間がかかってしまい、すぐにお手元にお届け出来なかくて大変申し訳ありません;
実は東圭、魚全般、海の生物が大の苦手でして(東圭のサイトをご覧下されば分かると思いますが(笑))迷ったのですが、知っておかなければ!という気持ちが強く(笑)、アロワナを検索し、鱗剥がれについても研究致しました。わたしにとってもいい勉強になりましたことを、深く感謝しておりますv

ともあれ、ライターとしてはとても楽しんで、書かせて頂きました。本当に有難うございます。
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。これからも魂を込めて書いていこうと思いますので、宜しくお願い致します<(_ _)>
それでは☆

【執筆者:東圭真喜愛】
2005/02/18 Makito Touko