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<東京怪談・PCゲームノベル>


 真冬の海と人魚のオカマ



 真冬の海に響く波と風の音が、一層寂しさをかき立てていた。夏場なら、波の音に混じって賑やかな観光客の声が聞こえてくることだろう。
「話ではこの海岸に人魚さんがいるはずなんですよね」
 一緒にこの場所へ来た、海原・みなもが海面をじっと見つめている。魚なんて、調理された物ぐらいしか見たことがない、まさに現代っ子の瀬川・蓮は、服が汚れないように、やや水面から離れ、海面を目凝らして眺めていた。
「このあたりにいるって聞いたけど」
 その時、横でどっぼーんという水の音がし、蓮がその方向を見た時には、水面から何かが下へ沈んでいく影が見えていた。水面に浮いているのは、兎の形をした浮き輪。
「あら、可愛い浮き輪ですね。じゃなくて。だ、誰か落ちたみたいですよ?」
「えー、誰かって一人しかいないじゃん」
 蓮はとある人物の姿を思い浮かべていた。
「さっき横でフラフラ歩いてたおじさん…」
「あの方、シオンさんでしたっけ、助けないと!」
 みなもがシオンを助けようとしているのか水面へ近寄り、海へ飛び込もうとしたので、蓮はそれを止めた。何故なら、何かが浮き上がって来るのが蓮の視界に入ってきたからだ。
「大丈夫じゃない、ほらー」
「ちょっとぉ、痛いじゃない!離しなさいよん!」
 びびびびびと、連続ビンタの音を木霊せながら、海中から美しい筋肉の体と、その肉体に食いついているシオン・レ・ハイが浮上してきた。蓮は一瞬、おかしな怪物でも浮き上がって来たのかと思った。
「あのシオンさん、とりあえず離して上げたらどうでしょう。痛そうですし…」
「まったくー、おっさんが落ちて来たと思ったら、アタシのこの麗しい肌に傷をつけるなんて!」
 シオンは、そばに浮いていた兎の浮き輪をマッチョの首にかけようとしている。スキンシップの一種なのかもしれない。たぶん。
「シオンさんは、何をやろうとしているのでしょう」
 みなもは遠い目をしてその様子を眺めている。
「ねー、キミが人魚さんなんでしょう?ボク達、人魚さんと遊ぶ為に来たんだけどな!」
 蓮はパパンパンと手を叩きながら、その肉体美な人物の方へ近寄った。
「って蓮さん、鯉じゃないんだし…」
「そうよん。アタシ、このあたりでは一番美しい人魚のマーガレット。あらちょっと、そこの青い髪のお嬢ちゃん、アンタも可愛いじゃないのよん。アタシには負けるけど。そっちのボウヤも可愛いじゃないん?一緒に泳がないぃん?」
 マーガレットが、水面からみなもと蓮に投げキスを飛ばしてくる。
「えー、やだよ!この服いくらすると思ってるのさ。それに、ボク濡れるのやだしね!」
 蓮が水に濡れまいとし、さらに水面から一歩下がって言う。
「あらん、水の中って結構いいものよぉん?」
「だってボク、水着持って着てないしさー。大体こんな冬に、海を泳ぐなんて考えないよ。それよりはマーガレットクンがこっちへ上がってきなよ!地上の事、色々教えてあげるからさ」
「そうですね。マーガレットさんは、海の世界に飽きてしまったとお聞きしました。そう思って私、車椅子を用意してきましたよ。これなら地上をご案内する事が出来ますしね」
 みなもが前もって用意したのだろう、車椅子を取り出してきて、マーガレットへと見せている。マーガレットは輝くような笑顔を見せると、とたんに海面から跳ね上がり、凄まじい勢いで陸に上がってきた。片手でシオンを支え、人魚だから足は魚のヒレなのに、陸に上げた魚がピチピチと跳ねるようにみなも達のそばへと跳ねて来て、あっという間に車椅子へと座り込んだ。
「って言うか、その人いつまでそうやって抱きかかえてるのさ」
 蓮がじっとマーガレットを見つめた。マーガレットはぬいぐるみのように、いつまでたってもシオンを抱きかかえているからだ。
「この人、あたしに首飾りプレゼントしてくれたのよん。あたし、こんなの初めて。こういうの、運命の出会いって言うのかしら」
 マーガレットは兎の浮き輪をつけたまま、ぽぽぅと頬を赤く染めている。
「あのシオンさん、何かコメントは」
 みなもは顔をこわばらせていた。
「この人と友達になったら、魚を沢山取ってきてもらえるかもしれません。とりあえず、最初のつかみはまずまずでしょう」
 みなもが何かため息をつきながら独り言を言ったようだったが、蓮にはよく聞き取れなかった。



 車椅子にマーガレットを乗せ、3人と1匹(?)は、みなもの提案により近くの水族館へ行くことになった。マーガレットのヒレの部分に布をかけ、外から見えないようにした。若干目立ちそうな気もしたのだが、水族館は館自体が薄暗くなっており、さらにシーズンオフで余り人はいない。だから、思っていたほどジロジロ見られる、という事はなかった。
「へえ、色々な魚がいるんだ。ボク、魚って鯉ぐらいしか見た事ないんだよ。鯉はね、パパに見せてもらった事あるから知ってるんだけど」
 普段見る事のできない魚達に、蓮は興味深々になり、水族館のたくさんの水槽に吸い寄せられ、海の魚達を眺めた。
「さすが水族館ですね、珍しい魚が沢山いて見ているだけで楽しいですね。あのたくさんの魚のうち、何匹が食べられるでしょうか」
「ちょっとシオンさん、何言ってるんですか、マーガレットさんの前ですよ!」
 何か違う意味で目を輝かしているシオンに、みなもが突っ込みを入れている。
「どうでしょう、マーガレットさん。貴方は海の事はよくご存知でしょうから。そういえば、人魚さんも食べる事が出来るのでしょうか」
「アタシを食べるつもりぃん?ま、こんな素敵な方に食べられるなら別にいいかしらん?」
 それを聞き、食べる、の意味が違うような気がする、と蓮は思った。
「そんなにアタシに興味あるぅん?」
「ええ。色々と興味がわきますね。例えば、その逞しい筋肉はどうやって鍛えたのか、とか」
「あのさ、海の中ではああいうムキムキな筋肉って必要ないと思うんだけど、どう思う?」
 蓮はみなもにそっと尋ねてみたが、みなもは首を横に振って見せた。
「私の知らない世界が、まだまだ沢山あるのですね…」
 その後、3人と1匹(?)は水族館をゆっくりとまわった。途中、海の中を360度ぐるりと見回す事が出来る海中トンネルを通った時に、シオンがこれは何週間分の食料になるだろうか、と真剣な表情のまま水槽への入り口を探そうとしていたのと、そばにいた高校生らしき美少年軍団にマーガレットが襲いかかろうとしたのを皆で懸命に止めようとした事を除けば、大したトラブルはなかった。



「色々ありましたけど、楽しかったですね」
 水族館を出た蓮達は、再び海岸に足を運んでいた。すでにあたりは暗くなり、冷たい海の水平線の上に星が輝き始めている。
「あれ何だよ、あの車椅子の奴。ひっでぇ不細工」
 突然、前方から声が聞こえた。
「人間か?外へ出てくるなって感じだよな」
 蓮の視線の先に目つきの悪い二人組みの男がいて、蓮達を見てバカにしたような笑いを浮かべている。こちらを馬鹿にしている事はすぐにわかった。
「あんなの無視して帰りましょう、マーガレットさん」
マーガレットは下を俯いて、肩を小さく震わせていた。
「バカな連中の言う事なんて気にしちゃだめさ」
 しかし、蓮がそう言い終わると同時に、マーガレットはその男達に飛びかかっていた。
「マーガレットさん!?」
 勝負は一瞬だった。マーガレットのその逞しい肉体から繰り出されるパンチ、分厚いヒレを使ったビンタ。男達は「化け物だー!」と叫けびながらあっと言う間に逃げ去ってしまった。
「化け物だって。ある意味当たり?」
 蓮がそう言ったの対して、みなもは否定出来なかったようで、何も答えなかったのだった。



「アンタ達、今日は本当に有難うね。久々に楽しかったわよん?」
「こちらこそ。少しでも楽しんで頂けたのでしたら何よりです」
 みなもがにこりと笑顔で答えている。
「ボクも魚沢山見られて楽しかったな。なかなか見る事なかったし」
 今までの出来事を頭に思い浮かべながら、蓮が言う。さらにシオンも笑顔で答えてみせた。
「マーガレットさん、また遊びに来ます。その時は新鮮な海の幸を期待していますので」
「わかったわぁん。アンタとお別れするのは寂しいけどぉん、今は仕方がないもの。今度海の魔女にお願いして、アタシ人間になってアンタに会いに行くわ」
「マーガレットさんの場合、本当にやりそうな気がするのは、私だけでしょうか」
「いや、ボクもそう思う」
 蓮は一瞬にして、人間の足を生やしたマーガレットの姿を想像してしまった。
 3人は海の底へと帰ってゆくマーガレットの影が消えるまで見送り、太陽が水平線に消える前に、Y・Kシティへと戻っていった。(終)



◆◇◆ 登場人物 ◆◇◆

【1252/海原・みなも/女性/13歳/中学生】
【1790/瀬川・蓮/男性/13歳/ストリートキッド(デビルサモナー)】
【3356/シオン・レ・ハイ/男性/42歳/びんぼーにん(食住)+α】

◆◇◆ ライター通信 ◆◇◆

 瀬川・蓮様
 
 初めまして。新人ライターの朝霧青海です。発注頂き、本当に有難うございました!
今回のシナリオは2本立てですが、こちらはギャグバーションで。初めてですが、楽しく書かせて頂きました!蓮様が現代っ子、という設定なので、セリフや行動に少しでもそれが反映出来るように心がけて見ましたが、如何でしょう。
 朝霧の初のゲームノベルで、ネタは名前と少し変わった所から持ってこようと思い、真冬の海、となりました。ほのぼのとギャグと、2本立てにしたら面白いかなと思い、このような形にしてみました。
 一緒に参加された方との基本的な文章は一緒なのですが、視点がPC別になっています。他のプレイヤー様のノベルもご覧頂けるとさらに楽しめるかもしれません(笑)
それでは、今回は本当にありがとうございました!