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<東京怪談・PCゲームノベル>


潜む盲隠者達〜獣達の啼く夜 LAST DAY~

 その日は雨が降っていた。
 全てを打ち付けるように冷たく、残酷な雨が。

「…そんな…」
 叶はこの間の事件から帰って夜白とみちるの過去を死に物狂いで調べていた。
 自分の妹までも復讐劇に巻き込み、バケモノのようにされていたことが叶にはどうしても許す事ができなかった。

 そして、そこで知った事実に叶は愕然とした。
 過去に警察や政府関連で極秘に行われた生体実験があったこと。
 その実験に使われた人間は数え切れないくらいだった。その被験者の中に夜白、みちるの名前もあった。
 だから、最初に会ったときに夜白は警察である自分に怒りを露わにしたのだろう。
「…確かに…彼らの境遇には同情の余地がある…。だけど、それで全てが許されるわけじゃない」
 叶はグシャと書類を握り締めながら低く呟いた。
 その書類を持ちながら、叶は激しい雨が降りそそぐ外へと足を進めた。
 多分、この時から分かっていたのだろう。
 夜白やみちるに会うのがこれで最期になるかもしれないという事に。



視点⇒桐生・暁


 とある喫茶店、その場所に暁と叶はいた。
「…ふぅん…」
 叶から渡された資料、それは合成遺伝子生命体が作られる事になった発端、そして誰がどんな理由で作ったかが書いてあった。
「政府や警察が極秘に生体実験を行って作っていた、それは他国との力の差を見せ付けるために…か。お偉いさんが考えそうなことだね」
 クックッと笑いながら暁は資料をバサとテーブルに置いた。叶は何も言わずにただ俯いている。恐らくは彼らの生い立ちを知り、情に流されかけているのだろう。叶の妹も連続通り魔事件の被害者だが、夜白やみちる、彼らもまた被害者だったのだ。
「…私はどうすれば…」
 妹のカタキを取れるなら何を犠牲にしてもいいと思っていた叶だったけれど、彼らの事情はあまりにも残酷すぎたものだった。
「でもさぁ、考えたところで何も変わらないんじゃないの?…いくら『こうだったら』『もしこうだったら』なんて考えても『そうはならなかった』んだから」
 コーヒーを飲みながら暁が呟くと「分かってるわ…」と元気のない返事を返してきた。
「分かってるわよ、分かってるけど理屈じゃないでしょう!」
 叶がテーブルに肘をつき、頭を抱えながら呟く。
「理屈?理屈じゃない、本当の事だよ。考えても何も事態は変わらない。あんたが情に流されて妹のカタキを取るのをやめたら被害者は増え続けて事態は悪化するだけだ」
 それは本当のことだと暁は思う。叶が彼らを止めなければ被害者は今の何倍にも及ぶだろう。人間全てを憎み、復讐の対象と考えている彼らにとってそこらを歩いている人間すらも憎いはずだから。
「最初から分かってるのよ…いくら彼らに同情の余地があってもしてきた事は許される事じゃない、頭の中じゃそう理解してるのよ…」
「分かってるならさっさと終わらせようよ」
 そう言って暁は席を立ち、店から出て行こうとする。
「ちょ…どこに行くのよ」
 叶の言葉に立ち止まり、暁は喫茶店の入り口にあった新聞を叶に見せる。
「…これ…」
 その新聞には『連続通り魔事件、九件目の予告!?』と大きな見出しで書かれていた。
「…でも、これはマスコミとかを騙すためのカモフラージュだと思うよ。この場所に大きく犯行予告が書かれてるけど、この近くって例の事件が起きた樹海があるんだよね」
 確かに、この近く…というわけでもないがそう遠くない距離に樹海がある。
「こっちはダミー予告だね。多分、そいつらはあんたを狙うはずだよ」
「私を…?何で…」
「あいつらからすれば、人間で殺しそこなってるのはあんただけ。だから意地でもあんたを殺しにくるはず。この犯行予告はいわば自分達の所にこさせるためのエサだよ」
 暁の言葉を聞いて、叶はゾクリと背中を何か駆け巡るものを感じた。自分が狙われている、そんなのは刑事をしているから当たり前のことなのに、相手が人間じゃないと言うだけで恐怖心は倍増する。
「でも…なんで今から…」
「わざわざこっちが手間を省いて向かってやろうって言ってんの。待つのなんて面倒だしね」
 そう言って暁は喫茶店から出て行く。
「ちょっと、待ってよ!」
 叶も慌てて会計を済ませて暁の後を追う。
「一つ言っておくけど」
 喫茶店を出たところで暁が立っていて真剣な顔で呟き始めた。
「皆を助けようなんて思わないほうがいいよ。生きてる以上誰かを犠牲にして生きていくんだから。皆が皆幸せになれる方法なんて存在しないしね?」
 暁の言葉に叶はギクリとした。やはり甘いと言われても夜白やみちるが『こちら側』に戻ってこれるなら助けてあげたい。叶はそう思っていた。
「…………分かってるわ」
「そ?ならいいけどさ」
 暁は叶の車に乗り込み、樹海の手前まで行くように指示した。
「あなた一人で行くって言うの?そんな危ない事はさせられないわ」
 樹海に着き、一人で行こうとしたところを叶に止められる。暁は一つ溜め息を漏らしてクスと意味ありげに呟く。
「俺、そんなに優しくないんだよ。だから一緒に来ないほうがいいよ。だから―…ここで待っててよ」
 そう言って暁は一人樹海の奥へと足を進めていった。
 暫く樹海を一人で歩いていくうちに二人の人間に遭遇した。…いや、それは間違った表現なのかもしれない。目の前にいる彼らは人間の姿をしているが、雰囲気などが人間とはかけ離れているものだから。
「桃生…叶は…どこにいるんや」
 女性、みちるが周りをキョロキョロと見渡しながら小さく呟く。さほど大きな声でもなかったのだけれど、静かな樹海にみちるの声は大きく耳に響いてきた。
「うん?あの人ならいないよ?ちなみに俺はあんたらを始末しにきただけ」
 ふふ、と笑いながら言うとその態度が彼らの癪に触ったのか一気にその場の空気が変わった。
「うちらに同情か?余計な―…」
「同情?まさか。同情してもなんにもなんないしね。金にもなんないし?そういや昔あったな〜、そういうドラマ」
 べらべらと喋る暁に「うるさい!黙れ!」と叫びながら襲い掛かってきたのはみちるだった。暁のずば抜けた身体能力の前ではいくら遺伝を弄られて合成人間となった彼らの力も意味を為さない。
「はは、弱いね」
 暁はひらりとみちるの攻撃を避けて、問答無用で攻撃をする。
「悪いけど、俺はあの女刑事さんみたいに優しくないからね、サヨナラ」
 そう言って倒れこんだみちるに間髪いれずに攻撃をする。みちるはその攻撃を避けきれずにマトモに喰らってしまう。
「………みちる?」
 少し離れた場所から夜白が小さく呼びかける。だけど返事を返すものはいない。みちるは先ほどまでは存在していたけれど『今』は存在していないのだから。
「……死んだのか」
「そう、そして次はあんただ」
 そう言って暁は一気に夜白との距離を縮めて攻撃を仕掛ける。
「…もう…こんなくだらない茶番はうんざりだ」
 夜白は小さくそう呟くと自分から攻撃を受けて倒れこんだ。
「っ!?」
 さすがに暁もそれには驚いて倒れこんだ夜白の前に立つ。
「…もう復讐は終わりだよ。ぼくらの負けだ…」
 自嘲気味に笑う夜白からゴボと大量の血が流れる。それは人間と変わらない赤い血。
「復讐……か。偉いね。俺にはそんな甲斐性がないんだよなぁ。俺にはできない。フラフラ生きてる事しか…」
 暁は「サヨナラ」と短く呟いた後にトドメをさす。その死に顔は今まで復讐に生きた少年の顔ではなく、どこか安心しているようにも見えた。
 もしかしたら、自分達を止めてくれる人間を探していたんじゃないだろうか、ガラにもなく暁はそんなことを思ってみる。
「…どうでもいいか、カラスが鳴いたらか〜えろ♪バイバイ。……おやすみ、そして良い夢を」
 そう言って暁は樹海の入り口で待っている叶の所まで歩いていく。叶のところまで行くと返り血で汚れた暁に「どうしたの!」と泣きそうな顔で叫んで駆け寄ってきた。
「俺は怪我なんてするわけないじゃん。返り血だよ」
 その言葉を聞いて叶は「……そう」と力なく答えた。
「これでよかったのかしら…」
「いいも悪いも知らないよ、この事実からあんたがどう生きていくか、だろ」
 ふぁ、と欠伸をしながら暁は叶の車に乗り込む。


 彼らの明けない夜のような事件は終わりを告げた。
 それが終わりであり、始まりであるという事を暁は思いながら沈んでいく夕日を眺めていた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

4782/桐生・暁/男性/17歳/高校生兼吸血鬼

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■         ライター通信          ■
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桐生・暁様>

初めまして。
今回『潜む盲隠者達』を執筆させていただきました瀬皇緋澄です。
『ひそむ盲隠者達』はいかがだったでしょうか?
少しでも面白かったと思ってくださったら幸いです^^
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします^^

            −瀬皇緋澄