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<東京怪談・PCゲームノベル>


Bloody Town 〜学校編〜【前編】


 ☆イレイサー選択

  →桐生  暁・・・攻撃
  →梶原 冬弥・・・守り


□■□■□■【Staet】■□■□■□


 桐生 暁は、その日たまたま夢幻館の前を通りかかった。
 ヒラヒラと風に揺れる張り紙を見る・・。
 暁はそれをピっと取ると、持ったまま夢幻館の中に入って行った。
 「あぁ、いらっしゃいませ・・暁さん。本日は如何いたしましたか・・?」
 夢幻館の総支配人の沖坂奏都が人のよさそうな笑みを浮かべて穏やかに尋ねる。
 「これ、なんか大変な事になってんじゃん。」
 暁は言いながら、張り紙を奏都についと差し出した。
 奏都はそれをしばし見つめた後で、いかにも今思い出しましたと言うような顔をして見せた。
 「それでは麗夜さんのところですね。こちらへ・・。」
 奏都が暁を一つの豪華な扉の前に導く。
 扉はまるで暁の到着を心待ちにしていたとでも言うかのように、前に立った途端に内側に開いた。
 「麗夜さん。お客様です。張り紙を見てこられた・・。」
 ガタリと扉の奥で何かが倒れる音がして、一人の美少年が姿を現した。
 周りのものを閉口させてしまうくらいに整った容姿・・その少年が暁を見るなりこれまた美しい声で言った。
 「・・・貴方様・・・誰ですか・・??」
 「桐生 暁。」
 別段気にする風でもなく、暁はそう言った。
 奏都はいかにも慣れてますというような口ぶりで暁の言葉に補足する。
 「張り紙を見てこられた方ですよ。」
 「あぁ!あの・・!・・・それで、どの張り紙ですか・・?」
 ・・なんて話の先に進まない人なのだろうか。
 「すみません、麗夜さんは初めてのお客様には緊張してしまってボケっぷりが酷くなってしまう人なんです。」
 奏都がやんわりと補足をするが、そんな事を言われてもどうしようもない。
 「・・これは、突っ込んだ方が良い・・・。」
 暁が言いかけた時、扉の中から小さな女の子が一人出てきた。
 麗夜の背後に近づき、ビシリと背中を叩く。
 小柄な少女は、麗夜と随分身長差がある・・。
 「麗夜ちゃん!いい加減にそのボケっぷりなおしてよねっ!」
 ツインテールをぶんぶんと振り回しながら、少女が叫ぶ。
 「あ、暁さん。こちらはもなさんと言って、現実世界での案内役を・・・。」
 「あ〜っ!だれだれ!?お客さん!?」
 奏都の言葉を遮ると、もなが大きな瞳を輝かせて暁の腕を取った。
 「あたしはもな!片桐もな!もなって呼んで!あなたは!?」
 「桐生 暁。よろしくな、もな。」
 「桐生 暁・・・?じゃぁ、暁ちゃんだね!」
 キラキラと満面の笑みでもなが暁に微笑みかける。
 「いや、ちゃん付けは流石に・・。」
 「それで、暁ちゃんは、今日はどうしたの?現実世界に行きたいの!?でも、今は現実世界が血に染まってるから・・。」
 暁の言葉など聞いていないのか、もながちゃん付けでさらりと名前を呼ぶ。
 「もなさん、暁さんはその依頼できたのですよ。」
 「・・そうなの!?」
 「えぇ。」
 「それじゃぁ、中に入って入って!ほらほら麗夜ちゃん、そんな所に突っ立ってないで、行くよっ!」
 もなが、麗夜の服の裾をつかみながらズルズルと扉の中に連れ込んだ。


 「それで、この依頼の事なんだけど・・中の様子はどうなわけ?」
 暁の問いに、奏都はもなへと視線を滑らせた。
 「もなさん、暁さんにあの町の事を話していただけませんか?」
 「良いけど・・。まず、あの町は全体が血塗られていたわ。人々の念が渦巻き、生ける屍が町を徘徊していた。本当、最低最悪だった。」
 もなの顔が僅かに歪む。
 それほどまでに酷い有様だったのだろうか・・?
 「未来を遠ざけるためには、一番念の強い所に行って元凶を倒せば良いのだけど・・今回は学校よ。」
 「・・学校ですか・・。」
 奏都が複雑な感情を含んだため息を漏らす。
 「厄介ですね・・。」
 「学校になにかあるのか・・?」
 「幼い子供の影や生ける屍・・ゾンビがいるかもしれません。実に厄介です。」
 確かに言われてみればそうだ・・。
 「・・あたしが見た限りではいなかったけれど・・・もしかしたら・・ね・・。」
 「それで暁様、一応二人一組で動いた方が何かと好都合です。夢幻館の中で俺以外でしたら誰でも連れて行けますが・・。」
 麗夜がよどみなく渚に問いかける。
 ・・・ちゃんと話せるではないか。
 「当方にはコレだけの人材が揃っておりますが・・。」
 奏都はそう言うと、自分の脇においてあった紙をすっと差し出した。
 そこには数人の人物が顔写真付で載っていた。
 『夢幻館』と書かれたゴシック体の文字は金色で・・どこか夜の雰囲気を漂わせている。
 それを見て、暁はにやりと微笑むと、ついと顔写真を指差した。
 一番“面白そう”な顔をしている男を・・。
 「それじゃぁ、この方で宜しいですね?」
 「あぁ。」
 「かしこまりました。」
 奏都は恭しく頭を下げると、もなに視線を送った。
 何のアイコンタクトなのか・・もなはすっと立ち上がると、扉を開けて大きく息を吸い込んだ。
 「冬弥さ〜〜〜ん!!同伴はいりまぁ〜〜っす!!!」
 もなはそう叫ぶと、バタリと扉を閉めた。
 麗夜が視界の端で合掌しているのが見える。
 暁は笑いを抑えた。どれほどナイスな反応をしてくれるかは分らないが・・それにしても、もなは最高だった。
 親指をピッと立ててみせると、もなが人差し指を口元に持っていった。
 『シー』っと言うことだ。

 ・・・・ダ・・ダダダダダだダダダダダ!!!!!

 突然階上から凄まじい音と共に、誰かが駆け下りてくる音が聞こえてくる。
 ・・あぁ。やっぱり俺の目に狂いは無かったか。
 暁は納得すると、再びこみ上げて来そうになる笑いを噛み殺した。
 その時、突如大きくドアが開け放たれ、写真で見たのとまったく同じ顔の人物が姿を現した。
 「もぉぉぉ〜〜なぁぁぁぁ〜〜〜っ!」
 凄まじい重低音と共に、バックからドライアイスの煙を引き連れながら、バリバリ後からのスポットライトを浴びて、冬弥は登場した。
 オーケストラの大演奏まで聞こえてくる・・。
 「お前わっ!あれほどここはホストクラブじゃねぇんだっつっただろーがよっ!なんだよ同伴って!意味がちげぇだろーがよーっ!!」
 冬弥はもなに近づくと、その首をガタガタと揺さぶった。
 「冬弥さん、冬弥さん。お客さんです。一緒に現実世界へと行って欲しいとのご指名ですが・・。」
 「ちなみに、すっごい美人だよ!暁ちゃん!」
 奏都の呼びかけに、冬弥は持っていたもなをボトリと地面に落とすと、ハテナマークいっぱいの視線を投げかけた。
 もなが床で冬弥にそう声をかける。
 揺れる視界が、暁の上で止まる。
 「初めまして〜。」
 暁はそう言うと、ニッコリと微笑んだ。オプションとして、ヒラヒラと手を振ってあげることも忘れなかった。
 確かに、暁は美形だった。人間などとは美しさの血の遺伝が違うのだから・・。
 吸血鬼。とても美形だと噂される種族の血を引く彼が、美形でないはずがなかった。
 「う・・え・・?」
 冬弥が目をぱちくりさせながら、暁を見つめる。
 そして、その瞳がすーっと暁の全身を走る。
 「・・って、男じゃねぇかっ!!」
 大絶叫だ。
 そして暁は、堪えきれず声を上げた。
 ・・なんて、お約束な人なのだろう。なんて予想通りの人なのだろう。
 パートナーとしては、最高だった。
 「暁さんが攻撃、冬弥さんが守りで行きましょう。」
 「冬弥ちゃん、暁ちゃんの事ちゃんと守ってあげるんだよっ!」
 もなはそう言いながら、冬弥の肩をドンと叩いた。
 「顔に傷つけでもしたら・・ふふ・・。」
 もなの周囲からブワっと黒いオーラが広がる。
 「もし、罠があった場合・・攻撃がかかり、守りが解除するという仕組みです。全滅を防ぐための最良の手段です。・・罠がない事を祈りますが・・。」
 「大丈夫、攻撃だろうが守りだろうが、かかるのは冬弥ちゃんだから!」
 「おい、ちょっと待て!それじゃぁ攻撃と守りの意味が・・」
 「冬弥ちゃんはなんのためのやられキャラだと思ってるのよっ!」
 「ちょぉっと待ったぁ!!いつ、いつ俺がやられキャラになったよっ!!」
 キャンキャンと言い争いをする2人を尻目に、麗夜は暁に小さなネックレスを差し出した。
 淡い桃色に光る宝石がヘッドについている。
 「これは・・?」
 「念を吸収する石です。攻撃をして倒した敵の魂・・念を吸い取り浄化します。」
 暁は頷くと、首から提げた。
 「ゾンビは物理攻撃しか効きません・・その反面、影は物理攻撃が効かず特殊能力のみでしか攻撃できません。」
 「あぁ、分った。」
 未だにキャンキャンと無益な争いを続ける2人に視線を送る。
 「ほら、行こうぜ。冬弥ちゃん。」
 「お前まで冬弥ちゃんって呼ぶな!お前こそ、暁ちゃんって呼ばれてぇか!?」
 「お好きにドーゾ。」
 暁は言うと、ニッコリと微笑んだ。
 ハタから見ていても、この2人の上下関係は明白だった。
 「さてっと・・それじゃぁ2人とも!いってらっしゃい!」
 もなが冬弥の背中をドンと押した。
 「麗夜さん、扉を・・。」
 部屋の奥、入ってきた扉とはまた違った感じの扉がデンと構えている。
 豪華な装飾だけれども、どこか懐かしい感じがする。
 「それでは、御武運を。」
 「暁様、危険になったらすぐにお呼び下さいね・・。」
 「あぁ。」
 奏都がそっと手を組み祈り、麗夜が微笑む。
 開かれた扉の向こうは光り輝いていた。
 その光が暁と冬弥を包み込み・・引き入れた・・・。


□■□【First Stage】□■□

 ゆっくりと目を開く・・そこは“東京”の町並みだった。
 立ち並ぶビル、雑多な町並み・・けれどその全てが色褪せくたびれている。
 「これが未来の東京・・?」
 「まぁな。んじゃまぁ、一応ご氏名も貰ったことですしぃ、キッチリ守らせていただきますねー。」
 冬弥が投げやりな一本調子で言った。
 「まぁまぁ、そう投げやりになるなよ、と・う・や・ちゃん。」
 「っだぁぁぁっ!ヤメロ!俺もこれから暁ちゃんって呼ぶぞっ!!」
 「だから、ドーゾ。ご自由に、お好きなように〜。」
 ケロリと言う暁の前で、冬弥は頭を抱え込んだ。
 そうだったと呟く姿がなんだか悲しい・・。
 「とりあえず、学校を目指そうよ。」
 暁がポンとその肩に手を置くものの、冬弥は一向に動く気配が無い。
 完全にむくれてしまったのだ・・。
 仕方がない。暁はため息をつくと、街中を散策すべく歩き出した。
 怪我をしない自信はあったし、万一怪我をしたとしても・・夢幻館に帰って“面白そうなもの”が見れる事だけは間違いなかった。
 真っ直ぐ続く道を、フラフラと歩く。
 背後ではいまだいじけた冬弥の気配を感じて・・・ふっと、視界の端に何かがよぎった気がした。
 なんだか黒い・・。
 そちらに振り向いて、思わず顔を僅かに歪めた。
 冬弥ばかりが気になっていて、こちらの方に気を集中していなかったから・・。
 目の前には、3匹の黒い影のようなものが、真っ赤な口を大きく開けてこちらに飛び掛ってきていた。
 暁は1匹目を難なく避け、次のも避けた。
 確か・・影には物理攻撃は効かなかったはずだ。だったら、さっさと眠らせてしまうだけ・・。
 暁はじっと相手を見つめた。
 一時の幸せで、優しい・・とても残酷な夢を。
 影達は、ノロノロとその場に力なく座ると・・倒れこんだ。
 優しい快楽は、身を滅ぼす。彼らとて、例外ではない。
 灰になって風に散らされていく姿を、暁はじっと見つめた。
 「・・っぶねぇっ!!」
 冬弥の緊迫した声に、暁ははっと後を振り返った。
 銃声が轟き、冬弥の向こう側に人が倒れこむ。
 どうやら影と戦っているうちに彼らもやってきてしまったようだ。
 「なにボサっとしてんだよ!」
 「それはコッチの台詞。あっちでイジイジしてたくせに・・。」
 「そ・・れは、置いといてだなぁ。ほら、さっさといくぞ!こんなに沢山、相手にしてられねぇっ!」
 冬弥の向こう側に見えるのは、大量のゾンビ達だった。
 意味不明の言葉を呟きながら、こちらへと近づいてくる・・。
 「とりあえず、走れっ!」
 冬弥の言葉で走り出す。2ブロックを過ぎて、3ブロック目を左に曲がった時・・目の前に学校が見えてきた。
 そしてついでにゾンビ達も数人徘徊しているのが見える・・。
 「暁!」
 冬弥が叫び、暁が振り向いた時・・何かが投げ渡された。
 銀色に光るバタフライナイフだ・・。
 それを片手に、暁は目の前にゾンビに切りかかった。
 ドロっと腐敗した顔は、確かに女の人のものだった。
 「うげぇ、お化粧ノリが悪すぎですよお姉さんっ。」
 「おいっ!そーいう問題じゃないだろぉっ!」
 「スキンケアはきちんとしないとダメですよ〜。10代後半からは頑張んないといけないとかって、聞きますしねっ!」
 ナイフを突き立て、引っこ抜く。
 どさりと倒れこむのを見届けると、すぐに走った。
 目の前の正門の中に駆け込む・・・。
 冬弥が次に駆け込み、その正門を閉じていく・・。
 しかし、その隙間からは数体のゾンビがこちら側になだれ込んできていた。
 すっとナイフを構え・・対峙する。
 腐臭に思わず眉をひそめる・・。
 相手が僅かに動き・・その瞬間に暁はゾンビ達の懐に駆け込んだ。
 右へ左へ・・舞うようにナイフを動かし、敵を地にねじ伏せる。
 正門を閉じ終わった冬弥がこちら側に走ってくる・・暁は躊躇無くその手を取ると、ゾンビたちとの間に差し置いた。
 ようは盾である。
 迫り来るゾンビ達を“冬弥”を使ってかわしながら、手に持ったナイフを振る。
 「おい、おいっ!ちょっと待った!!」
 叫びながら迫ってきたゾンビを蹴り倒す冬弥。
 暁はパっと手を放すと、まったく叫ばれる意味が分かりませんと言うように、小首をかしげた。
 「なんで、な・ん・でっ!俺を盾にするっ!」
 「ゴメンゴメン丁度いい物が近くにあったもんでさぁ」
 暁はそう言うと、ヘラリと笑った。
 フルフルと震える冬弥の背後・・直ぐ近くに迫って来たゾンビを視界の端に認めると、暁は冬弥の身体をわきに突き飛ばした。
 手に持っていたナイフを相手の腹に差し込む。
 「ったく、何してんだよ。馬鹿だなー。俺がいなきゃ、怪我してたじゃんかー。」
 笑う暁の腕を、真顔で冬弥がひいた。
 思わず転びそうになる足を何とか立たせた時、冬弥が銃の引き金を引いた。
 どうやら、暁の背後にも敵が迫ってきていたらしい。
 「そっちこそ、俺がいなきゃ怪我してただろーが!」
 「俺を守るためのボディーガードでしょーっ!」
 「・・はいはい、そーでしたよ。んじゃまぁ、とっとと中に入るか。」
 ギシギシと軋む門の向こうには、押し寄せたゾンビ達の群れが見えていた。
 
 中に入ると、内側から鍵をかけ、更に近くにあった机を2人で移動させ扉に立てかけた。
 簡単なバリケードが作られる。
 低いうめき声を上げながら、ゾンビがガラス戸を叩く。・・強化硝子だ、それくらいでは割れない。
 ドロリとした緑色の粘液が、窓ガラスに付着して滑り落ちる。
 不快感が胃の奥で湧き上がる・・。
 「さて・・と、学校の中に来れたのは良いが・・俺達が出られなくなったな。」
 「・・学校の中からって事か?」
 「学校の中からもそうだが・・ここから。」
 「ここから・・?」
 「あぁ。この町からだ・・。麗夜とか、美麗が開く扉っては結構繊細で・・こう言う危ない所では開かないんだ。」
 「つまり、扉がここにはこれない・・だから俺達はここから出られないって事か?」
 「ご名答。しかも、ゾンビは生きてる人間の側に集まる。だから、俺達が学校の中をうろうろしている間に外にヤツラは集結する。」
 「完全に包囲されたってわけか?」
 「まぁなまぁ、麗夜を呼べば来てくれるだろうけどな。」・
 「あぁ、そう言えばそんな事言ってたね。」
 「だから、麗夜を呼べば助けに来てくれるだろうし・・最悪、奏都を呼べば・・。」
 冬弥の表情が急に真剣なものになる。
 瞳の輝き方が明らかに違う・・。
 「まぁ、奏都を呼ぶのも、麗夜を呼ぶのも・・他に手がなくなった時だな。」
 「あぁ・・・。」
 暁はじっと冬弥の顔を見つめた。
 奏都を呼ぶ事に・・何か不都合があるのだろうか・・?
 夢幻館でいつもにこやかに迎えてくれる細身の青年。
 銀色の髪と、青い瞳・・高い身長、細い体つき・・。
 別段変わった所はない。
 暁の思考を、ゾンビ達が遮る。
 叩かれる窓ガラスの先、段々とその数が増えてきているのがわかる・・。
 「門もドアも窓も、その場しのぎにしかならないからな・・早い所元凶を倒してここから出よーぜ。」
 「・・あぁ・・。」
 暁は頷くと、薄暗い学校の奥へと歩を進めた。
 背後から響く低いうめき声と、中に入れてほしそうに叩く硝子の音が翔子の足取りを重くしていた。


□■□【Second Stage】□■□

 電気の点っていない校舎内は薄暗く、太陽に嫌われたこの町は暗く陰湿だ。
 時折何処かから水が落ちる音だけが小さく木霊する。
 耳を澄ませれば低いうめき声が聞こえてきそうなほど静かだ。
 「なんか、やたら静かだなぁ。」
 「そうだな・・。」
 「・・ここを支配しているヤツが何か考えてるに決まってるな。」
 「ここを支配しているヤツ・・?」
 「渦巻く念の親って言えば分るか?つまり・・東京の未来をコレにしたいやつがココにいるって事だ。」
 「ふうん・・。」
 「・・なぁ暁。もし途中でそれが誰だか気づいても・・・奏都には言うなよ。まだ、麗夜も気付いてねぇ・・。」
 「どう言う事なんだ?」
 「もし・・・大切な誰かが敵だった場合、お前はどう思うか?」
 真剣な瞳が暁を貫く。
 大切な誰かが敵・・その場合、俺は一体どう思うのだろうか・・。
 それよりも、冬弥は一体何が“見えて”いるのだろうか。
 奏都とここの親になにか因縁でもあるのだろうか・・?
 その親が、奏都の大切な人なのだろうか?
 「・・・それでも・・倒さない事にはしかたがねぇ。」
 冬弥が俯く。
 「冬弥・・?」
 「東京の未来を守るために、不本意ながらココに来たわけだしな・・。」
 「あぁ。」
 冬弥が小さく微笑む・・。
 暁はその時、その笑顔の意味を理解する事ができなかった。
 諦めにも似た、それでいて決心を滲ませた・・苦しそうな笑み・・。

 
 「それじゃぁ、まずは何処から入るか?」
 冬弥が右側にずらりと並ぶ教室を指差しながら言った。
 手前から3-5、3-4、3-3、3-2、3-1と教室が並び、廊下の突き当りには科学室とかかれたプレートがぶら下がっている部屋がある。
 3-4と3-3の間には上に続く階段が見える。
 「とりあえず、1階から見た方が良くないか?また戻ってくるのもアレだし・・。」
 「そうだな。」
 冬弥は頷くと、3-5の扉に手をかけた・・それを左側へスライドさせようとするものの・・開かない・・。
 「おいおい、そんなに力ないのかぁ?」
 「違うっ!なんでこんなにかたいんだ?」
 「ちょっと、どいてみ?」
 暁が冬弥と場所を代わり、扉に手をかけた時・・スっと扉がスライドした。
 「・・開くじゃん。」
 「いや、そんなはずは・・っ!」
 言い訳をしようとする冬弥に苦笑しながら、暁は1歩その中に足を踏み入れた。
 途端に何かに服の裾を掴まれたと思うと、一気に部屋の中央まで引きずり込まれた。
 「暁・・!!」
 慌てて入って来ようとする冬弥の手前で、扉はピタリと閉まった。
 その直後に、硝子が割れる音・・。
 あのガラス窓を破ってゾンビ達が入ってきたのだ!!
 しまった。暁は直ぐに扉に向かおうとしたが、服の裾を引っ張られてその場に立てひざを突いた。
 服の裾を見てみる・・そこには血色の悪い手・・。
 そして、我に返ってみて分る・・酷い腐臭。
 異様に手が伸びたゾンビが2体。それと、狼のような影・・その口元は真っ赤だ。
 3対1だ。
 暁は直ぐにナイフに手を伸ばした。
 冬弥は銃を持っていたから大丈夫だとは思うが・・なんとか踏ん張ってくれよ・・。
 暁はすっと敵を一瞥した。
 低いうめき声・・元は人だった者達。しかし、もう二度と“人として”動くことは無い。
 彼らはマリオネット・・悲しいまでに本能に支配された、人の成れの果て・・。
 「死んだ人間がこの世になんの用なのかねぇ?」
 暁の呟きが、部屋の中に木霊する。
 黒い影に向かって、冷たい視線を送る。
 しかし、視線を受け取った方が見るのは優しい一時の夢だ。そして・・それも直ぐに塵へと変わる。
 ゾンビ達が意味不明の言葉を発しながら、暁に襲い掛かる。
 それをナイフで切りつけながら、暁は低く呟いた。
 「お前らの居場所なんてもうどこにもないんだよっ。」
 この世にもいられない、そして・・あの世にもいけない霊達。
 だったら居場所なんて何処にもない。ただ、塵になり、消滅することだけが唯一の方法だ。
 暁はただ無心に相手を切りつけた。
 痛みの感じない彼らは、何度でも立ち上がって暁に襲い掛かってくる。
 それを、何度でも切り付ける。
 彼らが逝くまで。彼らがかえるまで・・・。
 とうとうゾンビ達は立ち上がらなくなった。
 緑色の血を床に流し、とっくの昔に事切れながらも動いていた瞳が、閉じる。
 ・・暁はナイフについた血をピっと払った。
 教室のドアからはバンバンとリズミカルな音が響く。
 戦闘に夢中になっている時は分らなかったが・・この教室は既に包囲されているらしい・・。
 冬弥の銃声が聞こえないと言うことは、2つに1つだ。
 その場から脱出したか・・もしくは・・床に倒れているか・・。
 前者である事を祈りたい。
 「さて・・俺はココからどうやって出るか・・。」
 暁はグルリと教室内を見渡した。
 ここから出られる場所は・・ドアと窓と・・見渡していた暁の耳に、硝子の割れる音と、ドサリと何か重たいものが落ちる音が聞こえてきた。
 咄嗟にそちらを振り向く。
 「冬弥・・!?」
 「おう、大丈夫そうで何より。」
 硝子のちりばめられた床の上で、冬弥はすっと立ち上がると微笑んだ。
 「あ〜マジ良かった、無事で。顔も無事だなっ?!」
 冬弥はつかつかと暁に歩み寄ると、顔をわしっと掴んでジロジロと見つめた。
 「無事でヨカッタはこっちの台詞。外があんなになって・・。」
 チラリと視線を扉に注ぐ。
 蠢く影はゆらりと頼りなさげだ。
 「あぁ、直ぐ上に上がったから大丈夫だった。それよりも・・。」
 冬弥は床に倒れるゾンビ達を一瞥した後で言った。
 「直ぐに上に行くぞ。もうすぐでここの元凶に会える。」
 「・・どういう事だ?」
 「ヤツラは上に上がって来れない。・・ども怖がってるみてぇだ。」
 「怖がってる・・?」
 「あぁ。本能のみに支配される中、それでも本能で怖がる・・それほどまでに、アイツは力が強ぇからな。」
 「・・冬弥・・?」
 「行くぞ、上へ・・。」
 冬弥は、窓ごしに垂れ下がっている白い紐をつかんだ。
 上の階のカーテンだろうか・・?
 「暁、運動神経良いよな?」
 「・・まぁ、並みよりは・・?」
 「・・良いと言ってくれる事を期待したんだがな。」
 冬弥は小さく音を立てて笑った後で、カーテンをスイスイと上っていった。
 前髪を揺らす程度の風が、カーテンをはためかせ、嫌がるように身体をねじる。
 暁は冬弥が完全に上ったのを確認した後で、カーテンに手をかけた。
 ・・結構上りにくい。しかし、暁は持ち前の運動能力で難なくカーテンを上がりきった。
 上りきったそこは、下と同じような教室だった。
 ただ違う事は・・そこにいた人物だった。
 黒い靄のようなものを全身に巻きつけながら、優雅に佇む人物。
 冬弥が暁の前に片手を出し、庇う様に前に立つ。
 暁も知っている顔・・。
 「お前っ・・!」
 冬弥が低く呟く。
 暁が、思わずその名前を呟いた・・。


□■□【Final Stage】□■□


 「奏都・・?」
 小さく呟いたつもりが、事のほか大きな音となって耳に伝わる。
 目の前にいる人物は、確かに暁の知っている奏都そのものだった。
 銀色の髪も、細い身体も・・ただ、瞳だけが違う。
 左が青、右が金・・。
 金色の瞳が怪しく光り輝くオッドアイ。
 「ちげぇ。奏都じゃねぇ・・。」
 冬弥の絞り出すような声に、カレがピクリと反応した。
 ゆっくりとした動きで冬弥と暁を交互に見つめると、フワリと軽やかに微笑んだ。
 その笑顔ですらも、奏都そのもの・・。
 「こんにちわ、キミ達は奏都を知っているの?」
 冬弥が下唇をきつく噛んだ。
 暁はどうしたら良いのか分からずに、じっとその場に立っていた。
 「俺の名前は沖坂 奏芽(おきさか かなめ)。奏都と双子の兄弟なんだ。」
 双子・・。
 だからこんなにも似ているのだ・・!
 「奏都に、兄弟がいたなんて知らなかった・・。」
 「そうだ“いた”んだよ。」
 「いた・・?」
 「“いた”んだよ・・・。」
 冬弥がきっと奏芽を見つめながらそう呟く。
 「あれ?その顔・・冬弥じゃないか〜。なんだよ、言ってくれれば良かったのに〜!あぁ、少し見ないうちに大人っぽくなって・・」
 「近づくな!!!」
 1歩こちら側に歩み寄ろうとした奏芽の動きを制するように、冬弥が声を上げた。
 ピタリと奏芽の足が止まる。
 「奏都には弟が“いた”んだよ。・・この意味が、分るか・・?」
 冬弥の横顔を見ながら、暁はその言葉の意味を探った。
 いた・・いた・・。それは過去の言葉。
 それでは今は・・?
 「いたって・・。」
 「この世界に来れるのは、もう亡くなった人か・・麗夜の扉から入ってきた人しかいない。」
 言葉が冷たく刺さる。
 だから・・奏都の兄弟の事を聞かないのだ。
 誰も故人の話をしないから・・。
 「俺らに出来ることは、ここの親をぶっ倒して東京の未来を守る事だけだ。」
 冬弥が自嘲気味に微笑む。そして、諦めにも似た言葉を吐き出す・・。
 「コイツが親なんだよ。」
 『なぜ・・?』
 湧き上がるその疑問を口に出せないまま、心の中で何でも呟く。
 整理できていない頭の中で、グルグルと巡る新たな疑問・・。
 「奏芽は、もなと同じ、この世界の案内人兼ボディーガードだった。仕事中の事故で・。」
 「事故・・で、片付けるんだな、冬弥も、もなも、麗夜も、奏都も・・。」
 「あれは、仕方が・・!!」
 「東京の未来はいつも変化するものだ!危険な未来にならないように管理するのも夢幻館の仕事だ!」
 奏芽の声に力が増す。
 それに共鳴するかのように、身体の周りを取り巻く黒い影も濃さを増す・・。
 奏都とは違う、感情の起伏。
 真っ直ぐにぶつかってくる心を受け止める術が分らずに、暁はただその顔をじっと見つめた。
 「あぁ、十分分ってたさ。けどな、あの時俺を置いて行ったのはお前らだ!不幸な事故だと・・?あれはただ見殺しにしただけじゃないか!」
 「ちが・・!!」
 冬弥が奏芽の方に1歩歩み寄ろうとした時・・その身体が左に飛ばされた。
 積み重なった机の上に、その身体が叩きつけられる。
 冬弥は動かない・・・気を失ってしまったのだ!!
 暁が驚いて走り寄ろうとした時、その足元に黒い影が飛んでくるのを見た。
 思わず飛び退く・・。
 「なっ・・!!」
 「なぁ、アンタ・・名前なんて言うんだ?」
 奏芽の表情が禍々しく歪む。
 その右手は冬弥を狙っている・・。名前を言わなければ、冬弥がどうなるのか分らない。
 「暁。桐生 暁・・。」
 「そうか、暁。お前は仲間が危険に陥った時、助けるよな?今みたいに・・。それが“仲間”としての普通の選択だよなぁ?」
 禍々しい微笑み・・。
 そこに隙はない。
 「さっき、冬弥は俺が死んでるって言ったよな?・・もし、俺がまだ生きてるとしたら、どうする・・?」
 「何を・・。」
 「この世界には、死んだ人間か麗夜の扉を通ってきた人間しか来れねぇ。俺は、麗夜の扉を通ってこっちに来た・・!」
 奏芽はそう言うと、冬弥から狙いをはずした。
 黒い靄が奏芽の全身を取り巻き・・そして、ふっと消え去った。
 暁は靄の残像がなくなるまで見つめた後で、冬弥の元へ駆け寄った。
 「大丈夫かっ!?冬弥っ!?」
 「う・・、あぁ、大丈夫だ・・。ちょっと息が詰まっただけ・・。」
 冬弥は胸を押さえていた手をはずすと、大きく息を吐いた。
 苦しそうに数度呼吸をした後で、小さく微笑む。
 「もう平気だ。」
 「冬弥・・?」
 「何処にいるのかは分かってる。きっと屋上だ。とっとと行こうぜ。」
 強がっている・・微笑。
 暁は思わず唇を噛んだ。
 しかし、かけられる言葉はなかった。なにせ、暁にはこの状況が未だに良く理解できていないのだ。
 ただ分ることは、奏芽がここの親だったと言うことで・・冬弥が傷ついていると言う事実だけ。
 「・・・奏芽をこの世界に閉じ込めたのは俺達だ・・。奏芽が死んでないのは分る。けど、奏芽は・・。」
 冬弥がそっと瞳を伏せた。
 「奏芽は、闇が晴れない限り戻って来れない。・・でも、奏芽の闇を消せる者は、いない・・。俺も、もなも、奏都も、麗夜も・・。」
 窓から湿った風が吹き込んでくる。
 生臭い匂い・・血の匂い・・。
 「ここまで闇が酷くなると、もう手段は一つしかない・・奇跡でも起きない限り。」
 「どうして、奏芽はあんな風になったんだ?」
 「東京を守るために、奏芽を犠牲にしたと言えば聞こえは良いのかも知れない。だが、そんな大それた事じゃない。ただ、保身のためだ。」
 冬弥が俯く。
 思い出すのですらも苦い過去なのかもしれない。
 それを聞くのは・・今でなくても良い。今は、この世界を遠ざける事だけ。
 「屋上・・だったよな?」
 「あぁ。」
 「いつまでもウジウジしてても仕方ないだろう?・・行こう。」
 冬弥が顔を上げ、暁がその肩を叩いた。
 教室から出る。そこにはゾンビも影もいなかった。
 暁と冬弥は階段の前で立ち止まった。
 「それじゃぁ、行くか。」
 「あぁ。」
 普段通り真顔で答える冬弥の、握られた拳が僅かに震えている。それを、気付かないふりをして。歩き出す。
 「奇跡を信じられないほど、絶望てるわけじゃねぇ。でも、奇跡を待てるほど時間は無い・・。」
 小さく呟く冬弥の声。手に力を入れる・・。
 1段、また1段と上がっていくうちに、空気が重くなってきているのを暁は感じた。
 威圧的で強大な力。
 息苦しいまでに、色濃く渦巻く殺意・・。
 また1段上った時、急に視界が白く光り輝いた。
 足元から湧き上がる光に、冬弥が小さく驚きの声を上げる。
 「これは・・!!夢幻館への・・!!」
 「そうだよ、キミ達には一回帰ってもらう。それで・・気が変わる事を祈るよ。」
 暁は声のした方に顔を向けた。
 階段の一番上、屋上へと続くドアの前で奏芽が腕組みをしながらその様子をじっと見つめている。
 「こんな事したって・・無駄だっ・・!!」
 「・・そうでもないさ。俺も休憩が出来るし、キミ達も休憩が出来る。」
 白い光が視界を遮るように強く輝く・・。
 「さよなら・・。」
 奏芽の呟きを最後に、2人は光に包まれた。

 ・・暁の目にはしっかりと見えていた。
 奏芽の最後の表情が。・・あれは・・悲しみ・・?
 なんであんな表情なんか・・。


 目を開けたそこは夢幻館だった。
 現実と夢、夢と現実、そして現実と現実が交錯する館。
 「・・麗夜と、奏都には、奏芽に会ったことは言うな・・。頼む・・!」
 パタパタと数人の足音が聞こえてくる。
 暁はあまりに苦しそうな様子の冬弥に、思わず頷いていた・・。

    〈Bloody Town 学校編 前編 END〉


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 ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

  4782/桐生 暁/男性/17歳/高校生兼吸血鬼

  NPC/梶原 冬弥/男性/19歳/夢の世界の案内人兼ボディーガード

  NPC/片桐 もな/女性/16歳/現実世界の案内人兼ガンナー
  NPC/夢宮 麗夜/男性/18歳/現実への扉を開く者
  NPC/沖坂 奏都/男性/23歳/夢幻館の支配人 

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 ■         ライター通信          ■
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  初めまして、この度はご参加ありがとう御座います!
  ライターの宮瀬です。
  Bloody Town 学校編【前編】いかがでしたでしょうか?
  パートナー選択が冬弥と言うことで、かなり弄り倒してみました。
  暁様のプレイングを見て、冬弥は絶対にやられキャラだと言う確信を持ちつつ執筆いたしました。
  夢幻館でダントツ1位のやられっぷりかと・・。
  後編では奏芽との対決がメインになりそうです。
  それと、昔あった夢幻館での“事故”の事も・・・。
  もし宜しければ後編にもご参加ください。

  それでは、またどこかでお逢いしました時はよろしくお願いいたします。