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<東京怪談・PCゲームノベル>


心機の鏡 〜黒〜


「譲、ちょっと待てよ」
 嘘だろ、冗談半分に身に着けた鬼面が悲劇の引き金となる。
 鬼面を付けた男が手にした長いドライバーを振り上げる。こんなものでも凶器になるのことがあるのかと、男は振り下ろされる錆色の工具を冷静な目で見ていた。
 血臭が死臭に変わるまでそう時間はかからなかった。


 夜も更け、吐く息は白く凍えるような寒さが身にしみる。
「残るは、黒面(こくつら)か…」
 店主が星空を見上げ、何事かを思案する。
「シン」
『承知したである』
 肩に乗っていた、爬虫類がするすると地面に降り主と同じように漆黒の夜空を見て、星を詠む。
『……そこは全ての始まりであり、終着……大いなる翼が降り立つ場所……』

「……飛行場か……」


 丑三つ時に差し掛かり、最終便が行ってから随分たつ人気の無い飛行場を見回す。
「本当にこんな所に、いるのかよ……」
 吹き抜ける寒風に、首を竦ませ男がぼやいた。
 いいネタになりそうだからと、首を突っ込んではみたものの余りの寒さに鷹旗・羽翼は少々音を上げ気味だった。
「此処に逃げ込んだのは、確かなんだが……」
 如何せん逃げ込まれた場所が広すぎた。余りにも漠然とした場所の特定に、春日もつかれた表情を浮かべる。
「ま、探すだけ探してみるか」
 羽翼がスイッと宙に指を走らせた。


 …マルタ……来い……
 声無き声で、羽翼は己の僕に呼びかける。中空に展開された魔方陣から、一羽の猛禽が飛び出してきた。
 その両眼には双眼鏡がつけられ、どこか愛嬌がある顔立ちをしている。
「おーぃ。マルター!ちょっと、この辺探って来てくれや」
 羽翼と春日。二人の頭上を旋回していた鷹は、一つ頷くと漆黒の空へ舞い上がっていった。
「マルタ?」
「あぁ、ほんとはヘブンリー・アイズって言うんだけどな。俺はマルタって呼んでるんだ」
 可愛いだろ?無精ひげの生えた顔で自慢げににっと笑う顔は、どこかティディ・ベアにそっくりだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 黒面の探索は困難を極めた。まるでこちらの動きを把握しているが如く、ふらりと姿を見せては霞のように姿を消す。
「本当にあいつの中身は人間かよ……」
 空港中を走り回った、羽翼が荒い息の下で悪態をつく。
「……そのはずだ」
 こちらも、息が上がっている春日が肩で息を繰り返す。
 羽翼と春日二人掛りで挟み撃ちにするように、追い込んでは見るものの手の内を読まれているのか上手くいかない。
「もう少し、頭数がほしいよな」
「…確かにそうだが下手な人間を呼ぶと、反対に足手まといになるからな…」
「それもそうだ」
 最初に聞いたときは、もっと簡単な話のような気がしたんだけどなぁ。ぼやきながら、座り込んでいた羽翼は勢いをつけて立ち上がった。
 黒面と幾度も対峙した二人の体は無傷では済まず、無数の切り傷や打ち身が出来ていた。
「明日は筋肉痛かな」
「筋肉痛程度で済めばいいけどな」
 いててと、腕に出来た裂傷を舐める羽翼の傍にヘブンリー・アイズが舞い降りた。
「お、マルタ奴を見つけたか?」
 その問いかけに鷹の姿をしたデーモンは可愛らしく一度頭を傾げて横に振る。
「え?何違うのか、見かけない奴が中に入った??」
「あぁ…彼はいい、今回の協力者の一人だから」

「3枚の面は引き合い、互いの邪念を相克する……か…ありえないことではないな」
 飛行場に戻った貢の話を聞き、乱れた黒髪もそのままに春日は直ぐに行動を起こした。
 何処かえと携帯で電話をかけた。その数十分後には黒面と対峙している者達の元に、白と赤の鬼面が届けられた。
「これが、白面と赤面って奴か」
「まちがってもつけ様なんて気は起こすなよ」
 興味深げに、桐箱から取り出された面を見ていた羽翼に春日が釘をさす。
「つけねぇよ」
 信用ねえな……。
「で、奴さんは第2滑走路にいるけどどうする?」
「とりあえず、これをもっていけばええんやろか?」
 面師の怨霊が消えた今、残されているのは面に残された怨念のみ。
「3つの面が引き合うというのなら……向こうから現れるだろう」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 黒々とした滑走路を照らすのは星明りのみ。
 どこで調達したのか、両手に肉きり包丁を抱えた男の姿がぼんやりと浮かび上がる。
「今度こそにがさねぇぜ!」
 マルタ!己の僕に指示を飛ばし面を剥ぎ取ろうとするがあっさりと交わされる。
「蠹蜚!」
 貢もフクロウの姿をした霊獣を飛ばす。
「甘い!」
 2羽の攻撃をよけた男の足を、春日が射抜く。
「よっしゃ!」
 その間に、黒面との距離を詰めていた羽翼が馬乗りになり、その顔から黒い鬼面を剥ぎ取った。

 羽翼の手の中の黒い鬼面と届けられた赤と白の鬼面が宙に舞い上がる。
「お?」
「あれは……」
 光を放ち、鳴動を繰り返してた3つの鬼面が重なり合い、一つの美しい般若の面となる。
 般若と呼ぶには似つかわしくないほど、澄んだ表情をした角を持つ鬼女の面。面に重なるように、白衣を纏った鬼女の姿が浮かび上がる。
  …ア……リガト…ウ…
 途切れがちにかすれる鬼女が丁寧に頭を下げた。
  ……オニデアルワタシヲ、アイシタガユエニ…アノヒトハ…ヒトトシテノミチヲフミハズシテシマッタ……
 これで思い残すことはないと、感謝の涙を浮かべ鬼女は姿を消した。
 そこに残されたのは、一つの菩薩のような表情を浮かべた般若の面と数粒の輝く石。
「鬼であるが故に殺された、愛しい女を思って彫り続けていたのだな……」
 あわれな者だ…どこか寂しげに般若の面を手にした春日の呟きは風に溶けて消えた。

 数人の犠牲者を出した物の不三面の事件は、鬼面の完全封印を持って幕を閉じた。

 数週間後…月刊アトラスの片隅に曰く付きの面師の彫った、人に不幸を招く鬼面の記事が掲載されたのはまた別の話。

【 Fin 】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


【4747 / 斎賀・貢 / 男 / 28歳 / 陰陽師(警視庁特殊任務官)/花屋のバイト】
【0602 / 鷹旗・羽翼 / 男 / 38歳 / フリーライター兼デーモン使いの情報屋】

【NPC / 春日】
【NPC / シン】


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■         ライター通信          ■
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 鷹旗・羽翼様

初めまして、そして大変お届けが遅くなってしまって申し訳ありませんでした。ライターのはるでございます。
心機の鏡〜黒〜への御参加本当にありがとうございました。
デーモンの召喚をどうするかで、迷いましたがスタンダードな言葉による召喚にしてみましたが如何でしたでしょうか?
何か改善点等がございましたらお気軽に思うしつけくださいませ。