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<東京怪談・PCゲームノベル>


獣達の啼く夜sideβ

オープニング

誰か、あたしを助けて。
そうずっと願っていた。
だけど、誰も助けてくれる人はいなかった。
あの時以上の地獄なんてあるわけないと思っていた。
だけど、あの時の出来事は地獄の始まりに過ぎなくて
更なる悪夢があたしに襲い掛かってきた。
だから、あたしはもう助けを待たない。
待っても救いの手を差し伸べてくれる人なんていなかったから。
地獄がくるなら来るがいい。
あたしは全てを受け止める事にしてやる。
今のあたしに怖いものなどない。
だから、あたしは後ろを振り返ることなく前に進む。
その先に何があるのかは分からないけれど。


※※始まりの第一夜※※


その日は激しい雨が降りしきる夜だった。
尭樟生梨覇(たかくす おりは)と雪沢海斗(ゆきさわ かいと)は公園の前で震えながら座っている少女を見つけた。
その少女の瞳は闇夜の中でもはっきりと分かるくらいの赤い瞳。
「あなた、どうしたの?」
なにやら普通ではなさそうな少女に生梨覇が問いかける。
「家出少女にしては変だな」
海斗も少女の顔を覗きこみながら言う。
だが、その瞬間、少女の身体がグラリと揺れ前のめりに倒れこんできた。
「お、おい!」
水溜りに倒れこむところを海斗が抱きとめる。
「…おい、こいつ…牙がある…」
苦しげに息を吐く少女から見え隠れするのは肉食動物のように尖った牙、犬歯にしては鋭すぎる。
「どうしたものかしらね」
生梨覇が困ったように言うと暗闇の中一人の人影が二人の視界に入ってきた。
「あら、お久しぶりね」
「何だ、あんたか。そういえば…あんたの家がこの近くだったよな。行き倒れの人間見つけたから連れて行ってもいいか?」
こうして一人の少女を拾ったのだが、キシキシと軋む運命の歯車の中に巻き込まれたことなどこの時の自分は思いもしなかった…。


視点⇒幽貌・渚

 その少女は奇妙だった。
 濡れた髪から見え隠れする赤い瞳も、苦しげに息を吐きながら見せる尖った牙も。
 中途半端な匂いがする、渚は心の中で小さく呟いた。新しいくせに古臭い。何はともあれ、事件の匂いがすることには間違いない。
 渚は海斗と生梨覇と問題の少女を自宅に連れて行くことを了承した。
「はい、これカギねぇ」
 海斗と生梨覇に自宅のカギを預ける。
「どこに行くの?」
 生梨覇がカギを受け取りながら問いかけてくる。
「ボク?ボクは家出調査とか行方不明者が出てないか調べてくるよ。もしかしたら家出少女かも知れないでしょ?」
「だったら俺が行ってくるよ」
「いいよ、ボク、お腹も空いたから適当に何か買ってくるし」
 ひらひらと手を振りながら渚は海斗と生梨覇とは別方向に歩き出す。


「家出か行方不明者?……えぇと、そんな届けは出てないみたいだけど…何かあったのかい?」
 近くの交番に行き、家出した人間か行方不明者がいないかを聞いたのだが、人の良さそうな警察官から返ってきた言葉は「いない」だった。
(まだ捜索願いが出されてないのかな…)
 もしかしたら家出癖のある少女なのかもしれない。頻繁に家出をする子供だったらある程度の日数が経たないと捜索願が出されないかもしれない。
「あー…いえ、聞いてみただけですから。お手数をお掛けしましたぁ」
 渚はペコリと一度頭を下げると交番から出て行く。仕方ないのでコンビニで何か買ってから家に帰る事にした。
「一応…月読持ってきたんだけど必要はなかったかな」
 手に持ったケースを見ながら溜め息混じりに呟く。そういえばバッグにはグローブも入れてたんだった。道理で重いはずだ、と思いながらコンビニに入っていく。
「何を食べようかなー…」
 店内で食べ物が置いてあるところをうろうろとしながら渚が小さく呟く。
「ん…」
 その時、目に入ったのはインスタントのお粥だった。便利なものでお湯をかければ三分待ってすぐに食べられるというシロモノだ。
「確か熱があるって言ってたよなぁ…」
 恐らくあの少女はこの雨に打たれて風邪を引いたのだろう。だったらお粥のような軽い食べ物のほうがいいかもしれない、そう思いながら梅粥のカップをカゴに放り投げた。
 後は適当に食べれるものを買って清算する。
 コンビニから出ると先ほどの激しい雨がウソだったかのように止んでいた。


「お帰りなさい」
 自宅に入って出迎えたのは生梨覇だった。
「あれ、海斗は?」
「向こうで必死に看病してるわ。何か錯乱状態みたいでさっきからああなのよ」
 ふぅ、と溜め息を交えて生梨覇はベッドを指差した。指差した方には倒れていた少女が暴れていて、海斗がそれを必死で押さえていた。
 少女は「うわぁぁ」とか「やめて」とか暴れながら大声で叫んでいる。こんな時間に大声で叫ばれると近所迷惑にもなるし、こちらも迷惑だ。
「海斗、こうすればいいんだよ」
 渚はバッグからグローブを取り出し、手につけてから少女を殴りつける。
「「……………」」
 さすがの二人もそういう行動に出るとは思っていなかったのか口を大きくあけて、目を丸くしながら渚を見ている。
「ね?静かになったでしょ」
 静かになった…というよりも気絶したの間違いではないだろうか、二人はそう思ったが口に出して言う事はなかった。
「お、おまえ…病人になんて事を…」
「一つ質問があるわ、グローブをする事に意味があるのかしら」
 二人から同時に質問をされて、渚は困ったように笑いながら答えた。
「ん〜…まずは海斗の質問ね、ボク、五月蝿いの嫌いなんだよ。次に生梨覇の質問だけど、素手で殴ったらボクの手が痛んじゃうから」
 分かった?と言う渚に二人は何も言葉を返す事ができなかった。
「…ぅ……」
 やがて、気を失っていた少女が目を覚まし、三人はそちらに視線を移す。気を失っていて錯乱状態も収まったのか頭を押さえながらその瞳に三人を移した。
「……ここは……」
「ここはボクの家、キミは雨の中倒れてたみたい、こっちの二人がキミを見つけたんだよ」
 渚が二人を紹介しながら言うと、海斗と生梨覇は軽く手をあげて挨拶をした。
「…倒れて…そうだ…あたしは…あそこから逃げてきたんだ…」
 思い出したように少女が呟き、そして身体をガクガクと震わせる。
「…あそこ?」
 生梨覇が眉を顰めて問いかけると、少女は口を重そうに開き、逆に問いかけてきた。
「…ねぇ。あたしは何に見える?」
 突然の問いかけに海斗、生梨覇、渚の三人は目を丸くする。
「何って…キミは人間じゃないの?」
 渚がそう言うと少女は首を縦に振った。
「あたしは…もう人間じゃない。バケモノだ…」
「…バケモノ?それに…『もう』って事は以前は人間だったって事よね?」
 少女は一度唇を噛み締めると途切れ途切れに言葉を紡ぎだした。
「…あたしは…小日向…優。西脇製薬会社って知ってる?そこでは警察や政府が絡んでの極秘に行われた実験があったんだ。…それがビースト・プロジェクト。人間と動物の遺伝子を混ぜ合わせて最強の兵器を作り出す計画。その被験者の中にあたしがいたんだ…」
 その時のことを思い出したのか、優と名乗った少女は身体を両手で抱きしめ、震える身体を押さえようとしている。
「あたしはバケモノだから…それに…会社の追っ手もじきに来る…だから…出て行くよ」
 優がふらついた足取りでベッドを降りようとした時だった。

 ぐ〜………

「…………腹の音か?」
 暫く沈黙が続いたが、海斗がその沈黙を破る。生梨覇と渚はその原因の音の方へ視線を移すと、顔を真っ赤にしてお腹を押さえる優の姿があった。
「……ぷっ、お腹空いてたんだ?そういえばボクもお腹空いてたんだよね。待ってて、コンビニで買った奴でよければご馳走するから」
 渚は笑いを堪えながら台所にお湯を注ぎに行く。
「はい。これ、お粥だけど。出て行くのは構わないけどそんなにフラフラしてたらすぐに警察に捕まっちゃうよ?体調が戻るまではここにいたら?」
 渚はにっこりと笑って優にお粥を渡す。
「…あ、ありがとう…でも…あたしはバケモノだし…」
「そんなのは関係ないと思うわよ。人殺しをしワケじゃないでしょ?」
 生梨覇が言うと海斗も「そうそう」と相槌を打つ。
 そうやって話している間に渚はその笑顔の裏で他の皆が予想もしないことを考えていた。

(…それにしても美少女だのー…。可愛い〜、うん。絶対モノにしちゃおう、できるだけ一緒の時間を作らないと…後は甲斐甲斐しく世話を焼いて『安心できる人』になるのが第一歩だね)
 一人うんうんと唸りながら渚は一人の世界に入っていた。


 ※補足※

 渚は真性両刀だったりする。






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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

3653/幽貌・渚/女性/17歳/整調師、高校生、半神

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■         ライター通信          ■
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特別出演
東圭真喜愛様よりお借りしました⇒『尭樟生梨覇』
風深千歌様よりお借りしました⇒『雪沢海斗』

★★★★★★
幽貌・渚様>

初めまして。
今回『獣達の啼く夜sideβ』を執筆させていただきました瀬皇緋澄です。
話の内容はいかがだったでしょうか?
口調がスローテンポのキャラは初めて書かせていただくので
イメージを壊してないといいのですが…^^;
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします^^

                 −瀬皇緋澄