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<東京怪談・PCゲームノベル>


Bloody Town 〜学校編〜【前編】


 ☆イレイサー選択

  →片桐 もな・・・攻撃
  →鴻月 朱華・・・守り


□■□■□■【Staet】■□■□■□


 鴻月 朱華は、その日たまたま夢幻館の前を通りかかった。
 ヒラヒラと風に揺れる張り紙を見る・・。
 朱華はそれをピっと取ると、持ったまま夢幻館の中に入って行った。
 「あぁ、いらっしゃいませ・・朱華さん。本日は如何いたしましたか・・?」
 夢幻館の総支配人の沖坂奏都が人のよさそうな笑みを浮かべて穏やかに尋ねる。
 「なんだか、大変な事になってるね。」
 朱華は言いながら、張り紙を奏都についと差し出した。
 奏都はそれをしばし見つめた後で、いかにも今思い出しましたと言うような顔をして見せた。
 「それでは麗夜さんのところですね。こちらへ・・。」
 奏都が朱華を一つの豪華な扉の前に導く。
 扉はまるで朱華の到着を心待ちにしていたとでも言うかのように、前に立った途端に内側に開いた。
 「麗夜さん。お客様です。張り紙を見てこられた・・。」
 ガタリと扉の奥で何かが倒れる音がして、一人の美少年が姿を現した。
 周りのものを閉口させてしまうくらいに整った容姿・・その少年が朱華を見るなりこれまた美しい声で言った。
 「・・・貴方様・・・誰ですか・・??」
 「あ〜っと・・鴻月 朱華です。」
 朱華はかなり困惑していた。
 こんなに整った顔立ちの美少年なのに・・どうして中身はこんなにボケているのだろうかと・・・。
 奏都はいかにも慣れてますというような口ぶりで朱華の言葉に補足する。
 「張り紙を見てこられた方ですよ。」
 「あぁ!あの・・!・・・それで、どの張り紙ですか・・?」
 ・・なんて話の先に進まない人なのだろうか。
 「すみません、麗夜さんは初めてのお客様には緊張してしまってボケっぷりが酷くなってしまう人なんです。」
 奏都がやんわりと補足をするが、そんな事を言われてもどうしようもない。
 もはやこれはボケの領域ではないような気がする・・。
 「まぁ、しかたが・・。」
 朱華が言いかけた時、扉の中から小さな女の子が一人出てきた。
 麗夜の背後に近づき、ビシリと背中を叩く。
 小柄な少女は、麗夜と随分身長差がある・・。
 「麗夜ちゃん!いい加減にそのボケっぷりなおしてよねっ!」
 ツインテールをぶんぶんと振り回しながら、少女が叫ぶ。
 「あ、朱華さん。こちらはもなさんと言って、現実世界での案内役を・・・。」
 「あ〜っ!だれだれ!?お客さん!?」
 奏都の言葉を遮ると、もなが大きな瞳を輝かせて朱華の腕を取った。
 「あたしはもな!片桐もな!もなって呼んで!あなたは!?」
 「鴻月 朱華。」
 「じゃぁ、朱華ちゃんだね!」
 キラキラと満面の笑みでもなが朱華に微笑みかける。
 「いや、ちゃん付けは・・」
 「朱華ちゃんは、今日はどうしたの?現実世界に行きたいの!?でも、今は現実世界が血に染まってるから・・。」
 朱華の言葉を遮って、もながキラキラとした笑顔でそう言う。
 ・・もちろん、名前にはしっかりと“ちゃん”付けをされて・・。
 「もなさん、朱華さんはその依頼できたのですよ。」
 「・・そうなの!?」
 「えぇ。」
 「それじゃぁ、中に入って入って!ほらほら麗夜ちゃん、そんな所に突っ立ってないで、行くよっ!」
 もなが、麗夜の服の裾をつかみながらズルズルと扉の中に連れ込んだ。


 「それで、この依頼の事だけど・・具体的に中はどうなってるんです?」
 朱華の問いに、奏都はもなへと視線を滑らせた。
 「もなさん、朱華さんにあの町の事を話していただけませんか?」
 「良いけど・・。まず、あの町は全体が血塗られていたわ。人々の念が渦巻き、生ける屍が町を徘徊していた。本当、最低最悪だった。」
 もなの顔が僅かに歪む。
 それほどまでに酷い有様だったのだろうか・・?
 「未来を遠ざけるためには、一番念の強い所に行って元凶を倒せば良いのだけど・・今回は学校よ。」
 「・・学校ですか・・。」
 奏都が複雑な感情を含んだため息を漏らす。
 「厄介ですね・・。」
 「学校になにかあるんですか・・?」
 「幼い子供の影や生ける屍・・ゾンビがいるかもしれません。実に厄介です。」
 確かに言われてみればそうだ・・。
 「・・あたしが見た限りではいなかったけれど・・・もしかしたら・・ね・・。」
 「それで朱華様、一応二人一組で動いた方が何かと好都合です。夢幻館の中で俺以外でしたら誰でも連れて行けますが・・。」
 麗夜がよどみなく渚に問いかける。
 ・・・ちゃんと話せるではないか。
 突っ込んで良いのか悪いのか分からずに、朱華は心の中で小さく麗夜に突っ込んでおいた。
 ちらりともなの方に視線を送り、一つだけ大きく頷くと言った。
 「そうだな、もなちゃんに頼もうかな。一度町に入った事があるし・・何よりも、やっぱり仕事をするなら可愛い子と一緒でなきゃ♪」
 朱華の意見に麗夜が真面目に頷く。
 ・・頷いても良い場面なのかと突っ込みを入れるものは一人もいない。
 何故なら、このメンバーには真の突込みがいないからだ・・!!
 奏都も、麗夜も、もなも、ほぼ身体の80%がボケで出来ているのだから、仕方がない・・。
 「OK!あたしも、朱華ちゃんと一緒に行きたいし・・。それで、攻撃と守り、どうする?」
 「そうだね・・。もなちゃんに前衛を頼めるかな?こういった異変には黒幕が付き物だし・・それまではせいぜい力を抑えさせてもらうよ。」
 「わかった!それじゃぁ、ロケットランチャー持って行かなきゃだねっ!」
 「うん、そうだ・・。」
 思わずコクコクと振っていた首が、中途半端なところでストップした。
 “なんですと・・!?”
 と言う、意味不明な言葉がグルグルと頭の中で巡る。
 「それじゃぁ、あたし、用意してくるねっ!」
 もなが満面の笑みで手を振りながらトテトテと走り去って行く・・。
 それにしても・・ロケットランチャー・・!?
 朱華は頭を振った。
 まさか、あんなに小さくて華奢なもなに・・ロケットランチャーが持てるわけがない。
 朱華は気を取り直すと、奏都と麗夜と瞳をあわせた。
 「朱華様・・。もな様が構えた時は・・逃げてください・・。」
 「え?」
 「もなさんは、髪の毛を解くとほんの少しだけ人格が変わるんです。えぇ、ほんの少しだけ・・。」
 言いながら、奏都と麗夜がプイと視線を逸らす。
 ・・・なんだか嫌な感じだ・・。
 やたら“少しだけ”と繰り返す辺りが既に怪しい・・。
 「朱華ちゃん、行こう〜っ!」
 ふいに背後から呼び止められ、朱華は思わず肩を揺らした。
 恐る恐る振り向いてみると、そこには先ほど同様にキラキラと微笑むもなの姿があった。
 なんだ、何も変わっていないじゃないか・・そう思って微笑み返そうとした時、右手に持っている巨大なものに目を奪われた。
 なんだか筒のような・・。

 『ロケットランチャーだっ!!』

 しかも、もなはいかにも軽そうに片手でひょいと持っている。
 なんと言う力だろう・・。
 「朱華様、これを・・。」
 麗夜が淡い桃色に光る宝石がヘッドについているネックレスを朱華に向かって差し出した。
 「これは・・?」
 「念を吸収する石です。攻撃をして倒した敵の魂・・念を吸い取り浄化します。」
 朱華は頷くと、首から提げた。
 「もなさん、まだ髪の毛を解かないのですか?」
 「うん、向こう行ってからにする〜!」
 その背後でそんな無邪気な会話を聞きながら、朱華は天井を仰いだ・・。

 「さてっと・・行こうか。」
 「ラッジャー!麗夜ちゃん、あっけて〜!」
 もなが片手を勢い良く空に突き上げ、麗夜をせかす。
 部屋の奥、入ってきた扉とはまた違った感じの扉がデンと構えている。
 豪華な装飾だけれども、どこか懐かしい感じがする。
 「それでは、御武運を。」
 「朱華様、もな様、危険になったらすぐにお呼び下さいね・・。」
 「オーケー!」
 奏都がそっと手を組み祈り、麗夜が微笑む。
 開かれた扉の向こうは光り輝いていた。
 その光が朱華ともなを包み込み・・引き入れた・・・。


□■□【First Stage】□■□


 ゆっくりと目を開く・・そこは“東京”の町並みだった。
 立ち並ぶビル、雑多な町並み・・けれどその全てが色褪せくたびれている。
 「ここから2ブロック先を右に曲がって、3ブロック行って左に曲がる。すると目の前に学校が見えてくるから・・そこに入るわ。」
 一度入った事のあるもなが、的確に指示を飛ばす。
 「分った。」
 朱華は素直に頷くと、ざっと辺りを見渡した。
 凄い腐臭が漂っている。
 視界の端にはチラチラと蠢くものも見える。
 「一応説明するけど、なんかドロってなってるのがゾンビで、黒っぽくボンヤリ見えるのが影だよ・・。」
 「分った。」
 朱華が頷いたのを確認すると、もながすっと走り出した。
 朱華もそれに続く。
 1ブロックを過ぎ、2ブロック目に差し掛かった時・・左の路地から3体の人影が現れた。
 凄い腐臭と粘液が落ちる音をさせながら近づいてくる、世にも恐ろしい形相の・・ゾンビ・・。
 「朱華ちゃん、ランチャー構えた時は数歩後ろに下がってね!」
 「わ・・分った!」
 もなが右に曲がり、すぐに朱華もそれに続く。
 ゾンビ達がなにやら奇声を発しながらこちらに走り寄ってくる。
 そのスピードは、おかしい位に速い。
 走る・・2ブロックを過ぎようかとした時、直ぐ横にあった電柱から黒い影が現れた。
 人の形をしたそれは、口の所だけ赤い・・。
 「・・ちっ・・。」
 もなは小さく舌打ちをすると、乱暴に髪の毛を解いた。
 持っていたロケットランチャーを構え、躊躇無く引き金を引く。
 朱華はもなの忠告どおり、直ぐに数歩下がった。
 爆音が轟き、影が粉々に消滅する・・。
 「ったく、ざまぁみろってんだよ、バーカ。」
 そんな低い呟きが聞こえたような気がしたが・・聞こえなかったということにして、朱華はコクリと一つだけ頷いた。
 「朱華ちゃん、生きてる!?」
 だって、そう言う声は既にいつものもなだったのだから・・。
 「あぁ、大丈夫・・。」
 「そっか。」
 もなが速度を緩めずに走り、朱華も後に続く。
 3ブロック目を、左に曲がる。
 見えた・・。
 少し先に学校の正門らしきものが見える。
 「朱華ちゃん、あそこよ!」
 「分った!」
 朱華は頷きがてらにふと、後を見た。
 その直ぐ後からは大量のゾンビ・・・。
 いつの間に増えたのだろう?数は2,30はいる・・。
 低いうめき声を出しながらワラワラとこちらに走り寄ってくる様は、さながら映画のようだった。
 朱華は速度を速めた。ソレを感じ取ったもなも速度を速める・・。
 「朱華ちゃん、学校に着いたら直ぐに中に入って・・!」
 もなが叫ぶ。
 朱華は頷くと、間近に迫ってきた学校の中に滑り込んだ・・。
 校舎内に入り、もなが踵を返して迫り来るゾンビ達に数発引き金を引く・・。
 そして直ぐに内側から鍵をかけ、更に近くにあった机を2人で移動させ扉に立てかけた。
 簡単なバリケードが作られる。
 低いうめき声を上げながら、ゾンビがガラス戸を叩く。・・強化硝子だ、それくらいでは割れない。
 ドロリとした緑色の粘液が、窓ガラスに付着して滑り落ちる。
 不快感が胃の奥で湧き上がる・・。
 「さて・・と、学校の中に来れたのは良いけど・・あたし達が出られなくなっちゃったね〜。」
 「・・学校の中からって事か?」
 「学校の中からもそうだけど・・こっから。」
 「ここから・・?」
 「そう。この町から・・。麗夜ちゃんとか、美麗ちゃんが開く扉って結構繊細で・・こう言う危ない所では開かないんだ。」
 「つまり、扉がここにはこれない・・だから俺達はここから出られないって事か?」
 「あったりぃ〜☆しかも、ゾンビって生きてる人間の側に集まるの。だから、あたし達が学校の中をうろうろしている間に外にヤツラは集結する。」
 「完全に包囲されたってわけだな・・。」
 「そうゆー事。ま、麗夜ちゃんを呼べば来てくれるだろうし・・夢幻館のヤツラって、結構お人好しが多いから。」
 もなはそう言うと、ニッコリと微笑んだ。
 「突き放す割りに、突き放せないんだよね〜。」
 「そうなんだ?」
 「そ。だから、麗夜ちゃんを呼べば助けに来てくれるだろうし・・最悪、奏都ちゃんを呼べば・・。」
 もなの表情が急に真剣なものになる。
 瞳の輝き方が明らかに違う・・。
 「まぁ、奏都ちゃんを呼ぶのも、麗夜ちゃんを呼ぶのも・・他に手がなくなったときにしよーね。」
 「・・そうだな。」
 再び元のように微笑むもなを見て、朱華は言葉に詰まった。
 確かに人の手を借りないに越した事はない。
 ・・しかしそれにしても、もなの表情は異常と言っても良いくらいだった。
 奏都を呼ぶ事に・・何か不都合があるのだろうか・・?
 夢幻館でいつもにこやかに迎えてくれる細身の青年。
 銀色の髪と、青い瞳・・高い身長、細い体つき・・。
 別段変わった所はない。
 朱華の思考を、ゾンビ達が遮る。
 叩かれる窓ガラスの先、段々とその数が増えてきているのがわかる・・。
 「門もドアも窓も、その場しのぎにしかならないから・・早い所元凶を倒してここから出よ。」
 「・・そうだな・・。」
 朱華は頷くと、薄暗い学校の奥へと歩を進めた。
 背後から響く低いうめき声と、中に入れてほしそうに叩く硝子の音が朱華の足取りを重くしていた。
 

□■□【Second Stage】□■□


 電気の点っていない校舎内は薄暗く、太陽に嫌われたこの町は暗く陰湿だ。
 時折何処かから水が落ちる音だけが小さく木霊する。
 耳を澄ませれば低いうめき声が聞こえてきそうなほど静かだ。
 「なぁ〜んか、やたらめったら静かねぇ〜。あたしが来た時はもっとこう・・グワァっとなってたはずなんだけどなぁ・・。」
 「どうしたんだろうな・・?」
 「そりゃぁもう、ここを支配しているヤツが何か考えてるに決まってるわよ。」
 「ここを支配しているヤツって・・?」
 「うん・・なんて言ったら良いのかな・・。渦巻く念の親って言えば良い?東京の未来をコレにしたいやつがココにいるって事よ。」
 「そうなのか・・?」
 「・・ねぇ朱華ちゃん。もし途中でそれが誰だか気づいても・・・奏都ちゃんには言わないでね。まだ、麗夜ちゃんも気付いてないから。」
 「どう言う事なんだ?」
 「・・・もし、もしもよ・・。大切な誰かが敵だった場合、朱華ちゃんはどう思う?」
 真剣な瞳が朱華を貫く。
 大切な誰かが敵・・その場合、俺は一体どう思うのだろうか・・。
 それよりも、もなは一体何が“見えて”いるのだろうか。
 奏都とここの親になにか因縁でもあるのだろうか・・?
 その親が、奏都の大切な人なのだろうか?
 「・・・それでもね、東京を巻き込むわけにはいかないの。あたしは・・。」
 もなが俯く。
 「もなちゃん・・?」
 「あたし達が出来る事は、東京の未来を守ることだもの・・。」
 「そうだな。そのために、ここに来たんだし・・。」
 朱華が柔らかく微笑んだ
 もなも小さく微笑む・・。
 朱華はその時、その笑顔の意味を理解する事ができなかった。
 諦めにも似た、それでいて決心を滲ませた・・苦しそうな笑み・・。

 
 「それじゃぁ、まずは何処から入ろうか?」
 もなが右側にずらりと並ぶ教室を指差しながら言った。
 手前から3-5、3-4、3-3、3-2、3-1と教室が並び、廊下の突き当りには科学室とかかれたプレートがぶら下がっている部屋がある。
 3-4と3-3の間には上に続く階段が見える。
 「とりあえず、1階から見た方が良いかも知れないな。また戻ってくるのもアレだし・・。」
 「じゃぁ手前から見て行こっか!」
 もなが勢い良く言って3-5の扉に手をかけた・・それを左側へスライドさせい、中へと入って行く・・。
 朱華もソレに続こうとした時、朱華の鼻先でドアが閉まった。
 勢い良く・・・!!
 「朱華ちゃんっ!!!」
 もなの緊迫したような声が中から聞こえてくる。
 「大丈夫!?朱華ちゃん!?」
 「俺は大丈夫だけど・・この扉、開かない・・。もなちゃんは大丈夫なのかっ!?」
 渚はそう言うと扉に手をかけた。扉はびくともしない。
 「とりあえず、朱華ちゃん、どこかに隠れてて!こっちは・・倒してから直ぐ行くからっ!」
 もながそう叫んだ時、硝子が割れる音が響いた。
 酷い腐臭を伴って、濡れた足音が響いてくる・・強化硝子が割れたのだ!!
 朱華はすっと瞳を細めた。
 一番最初にやってきたゾンビを殴り倒し、次のゾンビも殴り倒す・・・きりが無いっ!!
 あれよあれよと言う間に、廊下の向こうは黒いゾンビの影でいっぱいになっている。
 ・・ひとまず間合いを取って・・朱華はそう思うと、階段へと走った。
 伸ばされた腕を払いのけ、素早い動きで階段を上る・・・と、途中でゾンビの攻撃が止んだ。
 階段を中ほどまで行った時、朱華は思わず振り返った。
 ゾンビ達は階段の下で躊躇したようにうろうろとうろついている。
 ・・・階段が上れないのだろうか・・・?
 朱華は頭をひねると、上へと上がっていった。

 そこは下とまったく同じつくりだった。
 ただ、教室の学年が一つ下がり、科学室だった部屋が音楽室へと姿を変えているだけだった。
 とりあえず・・もなの事が気になる。
 多分もななら大丈夫だろうが・・あの廊下に出るのは・・まずい。
 朱華はちょうどもなのいる真上の教室に入ると、窓にかかっている真っ白なカーテンをはずした。
 それの端と端を堅く結んで1本のロープのようなものにする。
 片方の端を教室の壁に浮き上がっている何かの管に通し、下へと垂らした。
 これに・・もなが気付いてくれれば良いが・・。
 階下の窓が開き、そこから無傷のもなが姿を現す。
 そうやら無事のようだった。
 もなはロケットランチャー片手にスイスイとカーテンを上ってくると、窓のサンに手をかけた。
 ・・強靭な肉体だ・・。揺れるカーテンはかなり足元を取られるというのに・・。
 顔を上げた・・その瞳が驚きの色に染まる・・・。
 「もなちゃ・・」
 「あぶないっ!!!」
 もなが朱華を右へと突き飛ばし、自身は左へと体をひねった。
 先ほどまで2人がいた場所には、黒い何かが刺さっていた。
 黒い靄のような・・・。
 朱華は教室の中央に目を向けた。
 黒い靄のようなものを全身に巻きつけながら、優雅に佇む人物。
 その顔は、朱華も知っていた。
 「・・なんで・・なんでっ・・!!」
 もなが叫ぶ。
 朱華は思わず、その名前を呟いた。
 

□■□【Final Stage】□■□


 「奏都さん・・?」
 小さく呟いたつもりが、事のほか大きな音となって耳に伝わる。
 目の前にいる人物は、確かに朱華の知っている奏都そのものだった。
 銀色の髪も、細い身体も・・ただ、瞳だけが違う。
 左が青、右が金・・。
 金色の瞳が怪しく光り輝くオッドアイ。
 「違うよ朱華ちゃん。奏都ちゃんじゃない・・。」
 もなの絞り出すような声に、カレがピクリと反応した。
 ゆっくりとした動きでもなと朱華を交互に見つめると、フワリと軽やかに微笑んだ。
 その笑顔ですらも、奏都そのもの・・。
 「こんにちわ、キミ達は奏都を知っているの?」
 もなの肩が震える。
 朱華はどうしたら良いのか分からずに、ただその場にじっと立ち竦む。
 「俺の名前は沖坂 奏芽(おきさか かなめ)。奏都と双子の兄弟なんだ。」
 双子・・。
 その事実に、朱華は驚いた。
 だからこんなにも似ているのだ・・!
 「奏都さんに、兄弟がいたなんてしらなかった・・。」
 「そう“いた”んだよ。朱華ちゃん。奏都ちゃんの双子の弟、奏芽ちゃん。」
 「いたって・・?」
 「“いた”んだよ・・・。朱華ちゃん・・。」
 もながイヤイヤをするように首を振る。
 髪の毛が大きく左右に揺れ動き、甘い香りを撒き散らす。
 「あれ?その顔・・もなじゃないか〜。なんだよ、言ってくれれば良かったのに〜!あぁ、少し見ないうちに大きくなったね?」
 「近づかないで!!!」
 1歩こちら側に歩み寄ろうとした奏芽の動きを制するように、もなが声を上げた。
 ピタリと奏芽の足が止まる。
 「奏都ちゃんには弟が“いた”んだよ、朱華ちゃん。・・この意味が、分る・・?」
 もなの背中を見ながら、朱華はその言葉の意味を探った。
 いた・・いた・・。それは過去の言葉。
 それでは今は・・?
 「いたって・・。」
 「この世界に来れるのは、もう亡くなった人か・・麗夜ちゃんの扉から入ってきた人しかいないんだよ。」
 言葉が冷たく刺さる。
 だから・・奏都の兄弟の事を聞かないのだ。
 誰も故人の話をしないから・・。
 「朱華ちゃん。あたし達の出来る事は、東京の未来を守る事だけ。」
 もなが自嘲気味に微笑む。そして、諦めにも似た言葉を吐き出す・・。
 「コイツが親なんだよ、朱華ちゃん。」
 『なぜ・・?』
 湧き上がるその疑問を口に出せないまま、心の中で何でも呟く。
 整理できていない頭の中で、グルグルと巡る新たな疑問・・。
 「奏芽ちゃんは、あたしと同じ。この世界の案内人兼ボディーガード。仕事中の不幸な事故で亡くなったの・・。」
 「不幸な事故・・で、片付けるんだな、もなも、麗夜も、奏都も・・。」
 「あれは、仕方が・・!!」
 「東京の未来はいつも変化するものだ!危険な未来にならないように管理するのも夢幻館の仕事だ!」
 奏芽の声に力が増す。
 それに共鳴するかのように、身体の周りを取り巻く黒い影も濃さを増す・・。
 奏都とは違う、感情の起伏。
 真っ直ぐにぶつかってくる心を受け止める術が分らずに、朱華はただその顔をじっと見つめた。
 「あぁ、十分分ってたさ。けどな、あの時俺を置いて行ったのはお前らだ!不幸な事故だと・・?あれはただ見殺しにしただけじゃないか!」
 「ちが・・!!」
 もなが奏芽の方に走り寄ろうとした時・・その身体が左に飛ばされた。
 積み重なった机の上で、もながぐったりと力なく身体を横たえる。
 気を失ってしまったのだ・・!
 朱華が慌てて走り寄ろうとした時、その足元に黒い影が飛んでくるのを見た。
 思わず飛び退く・・。
 「なっ・・!!」
 「なぁ、アンタ・・名前なんて言うんだ?」
 奏芽の表情が禍々しく歪む。
 その右手はもなを狙っている・・。名前を言わなければ、もながどうなるのか分らない。
 「朱華。鴻月 朱華・・。」
 キッと、朱華は奏芽の瞳を睨みつけた。
 「そうか、朱華。お前は仲間が危険に陥った時、助けるよな?今みたいに・・。それが“仲間”としての普通の選択だよなぁ?」
 禍々しい微笑み・・。
 そこに隙はない。
 「さっき、もなは俺が死んでるって言ったよな?・・もし、俺がまだ生きてるとしたら、どうする・・?」
 「何を言ってるんだ・・?」
 「この世界には、死んだ人間か麗夜の扉を通ってきた人間しか来れねぇ。俺は、麗夜の扉を通ってこっちに来た・・!」
 奏芽はそう言うと、もなから狙いをはずした。
 黒い靄が奏芽の全身を取り巻き・・そして、ふっと消え去った。
 朱華は靄の残像がなくなるまで見つめた後で、慌ててもなへ駆け寄った。
 「もなちゃん、大丈夫かっ!?もなちゃんっ!?」
 「う・・、大丈夫・・。ちょっと息が詰まっただけだから。」
 もなは胸を押さえていた手をはずすと、大きく息を吐いた。
 苦しそうに数度呼吸をした後で、小さな微笑をこぼす。
 「ありがとう、大丈夫だよ!あたしはこの通り元気っ!さ、それよりも奏芽ちゃんを追おう!それでぇ、とっとと奏芽ちゃんを倒しちゃって、夢幻館でお茶しよっ!」
 「もなちゃん・・?」
 「何処にいるのかは分かってるから!きっと屋上だよ!ね?行こう?」
 朱華は口元をぎゅっと引き締めると、もなの頭を優しく撫ぜた。
 小さな頭だった・・。
 「朱華ちゃん・・?」
 朱華は何も言わなかった。
 もなの瞳からとめどなく溢れる涙を、黙って受け止める。
 微笑みながら流す涙ほど、心を打つものはない。
 必死に明るく振舞おうとする中で・・思わず零れ落ちる涙を止める術はない・・。
 「・・・そうだよ、朱華ちゃん・・。奏芽ちゃんをこの世界に閉じ込めたのはあたし達・・。奏芽ちゃんが死んでないのは分る。けど、奏芽ちゃんは・・。」
 もながそっと朱華の腕を取る。
 ぎゅっと朱華の手を握り締める。
 何かに耐えるように、壊れないように・・。
 「奏芽ちゃんは、闇が晴れない限り戻って来れない。・・でも、奏芽ちゃんの闇を消せる者は、いないの・・。あたしも、奏都ちゃんも、麗夜ちゃんも・・。」
 窓から湿った風が吹き込んでくる。
 生臭い匂い・・血の匂い・・。
 「ここまで闇が酷くなると、もう手段は一つしかなくなるの・・奇跡でも起きない限り。」
 「・・どうして奏芽さんはあんな風にになってしまったんだ・・?」
 「東京を守るために、奏芽ちゃんを犠牲にしたって言えば聞こえは良いのかも知れない。けど、そんなんじゃないの。ただ、保身のため。」
 もなが俯く。
 思い出すのですらも苦い過去なのかもしれない。
 それを聞くのは・・今でなくても良い。今は、この世界を遠ざける事だけ。
 「もなちゃん、行こうか。屋上・・だったよな?」
 「うん。」
 もなが顔を上げ、更にぎゅっと朱華の手を握った。
 朱華はそれを振りほどく事はせずに、ただ黙って手を握り返した。
 それだけしか出来ない事を、もどかしく思いながら・・。
 教室の扉を開け、廊下に出る。・・先ほど同様にカレラはいない。
 繋いだ手を放さずに、朱華ともなは階段の前で立ち止まった。
 「それじゃぁ、行こうか。」
 「うん。」
 明るく微笑むもなの、手が震えている。それを、気付かないふりをして。歩き出す。
 「奇跡を信じられないほど、絶望したわけじゃないの。でもね、奇跡を待てるほど時間は無いの。」
 小さく呟くもなの声。手に力を入れる・・。
 1段、また1段と上がっていくうちに、空気が重くなってきているのを朱華は感じた。
 威圧的で強大な力。
 息苦しいまでに、色濃く渦巻く殺意・・。
 また1段上った時、急に視界が白く光り輝いた。
 足元から湧き上がる光に、もなが小さく驚きの声を上げる。
 「これ・・!!夢幻館への・・!!」
 「そうだよ、キミ達には一回帰ってもらう。それで・・気が変わる事を祈るよ。」
 朱華は声のした方に顔を向けた。
 階段の一番上、屋上へと続くドアの前で奏芽が腕組みをしながらその様子をじっと見つめている。
 「こんな事したって、あたし達はすぐに来るわ!時間の無駄じゃない!」
 「・・そうでもないさ。俺も休憩が出来るし、キミ達も休憩が出来る。」
 白い光が視界を遮るように強く輝く・・。
 「さよなら・・。」
 奏芽の呟きを最後に、2人は光に包まれた。

 ・・朱華の目にはしっかりと見えていた。
 奏芽の最後の表情が。・・あれは・・悲しみなのか・・?


 目を開けたそこは夢幻館だった。
 現実と夢、夢と現実、そして現実と現実が交錯する館。
 「朱華ちゃん・・麗夜ちゃんと、奏都ちゃんには、奏芽ちゃんに会ったことは言わないで・・。お願い・・!」
 パタパタと数人の足音が聞こえてくる。
 朱華はあまりに必死な様子のもなに、ただ頷いてあげる事しか出来なかった・・。


    〈Bloody Town 学校編 前編 END〉


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 ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

  2642/鴻月 朱華/男性/20歳/大学生 

  NPC/片桐 もな/女性/16歳/現実世界の案内人兼ガンナー

  NPC/夢宮 麗夜/男性/18歳/現実への扉を開く者
  NPC/沖坂 奏都/男性/23歳/夢幻館の支配人 

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 ■         ライター通信          ■
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  初めまして、この度はご参加ありがとう御座います!
  ライターの宮瀬です。
  Bloody Town 学校編【前編】いかがでしたでしょうか?
  パートナー選択がもなと言うことで、お兄さんと妹のようになってしまいました・・。
  もなが前衛と言う事で、プチ二重人格もほんの少しだけ入りました。
  実際、もっと状況がヤバくなるとそれに比例してもなの二重人格度も増しますが・・。
  後編では奏芽との対決がメインになりそうです。
  それと、昔あった夢幻館での“事故”の事も・・・。
  もし宜しければ後編にもご参加ください。

  それでは、またどこかでお逢いしました時はよろしくお願いいたします。