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Grand-guignol −第二幕−
【0.捜索者達】
蓮の依頼どおりにフェリオ・フランベリーニの事を調べ、その直系であるオフェーリア・フランベリーニと、フェリオ氏に作られた月蝕人形の一つ、トラゴイディアだと名乗る青年に、接触する事が出来た。
それで終わりだと思っていたのだが、蓮から二人を手伝ってやって欲しいと頼まれ、草間は頭を抱える。
なんてったって、その例のオフェーリアとトラゴイディアが、今この草間興信所のソファに腰掛け、妹の零からお茶を受け取り飲んでいるのだから。
自分達がオフェーリア達の事を調べている間に、蓮の方でも何か進展があったらしく、草間から渡されたオフェーリアとトラゴイディアの写真を見るなり、フェリオの事はこちらで何とかすると言って一方的に連絡を切られてしまった。
「私たちは、コメディを壊す事がまず一番の近道だと思うんです。ディアがコメディの場所を感じられるはずですし、多分フェリオが東京に居るのなら、この東京にあるはずですから。宜しくお願いします、草間さん」
動かないと思っていた美少女が、生きてこの場所に居る。年齢的にはもう女性の域に達しているのだが、彼女の見た目は十台中ごろといった辺りで止まっているように思えた。
だが、この状況はあからさまに普通の依頼でもなければ、思い描いているハードボイルドな展開でもない。
「その、コメディとか言う奴の所在なんかの目星は付いているのか?」
頷くオフェーリアに、草間はため息を漏らすと、
「誰でもいいから、彼女達を手伝ってやってくれ」
草間の一言で、シュライン・エマは顔を上げると、細い眼鏡を外して、
「私がお手伝いするわ、武彦さん」
「ありがとうございます。シュラインさん!」
ソファに腰掛けていたディアが嬉しそうに顔を輝かせる。本当に、こう見ていると人間のよう。
「私もお手伝いできればと、思います」
数日前に、シュラインを通して草間興信所とオフェーリア達の架け橋とも取れる役割を果たしたセレスティ・カーニンガムが、にっこりとオフェーリアに微笑みかける。
「ミーも前のコトは悪かったと思ってマァス。ミーにも沢山ツテあるからネ。助っ人呼んでもいいカシラ?」
最初はしおらしく、最後には何時もの調子に戻っているジュジュ・ミュージー。オフェーリアは苦笑をもらすと、
「今はもう元気ですし、大丈夫です。それに、手を貸していただけるのなら大歓迎です」
オフェーリアのこの言葉に、ジュジュは携帯電話を取り出すと、誰かに電話し始めた。
程なくして草間興信所の窓から外を見下ろすと、黒塗りのベンツが派手に横付けし、やっぱり派手なチンピラが興信所へと入ってきた。
「来てあげましたよぉ!ジュジュ」
全員が思わず絶句してしまいそうな助っ人―蜂須賀・大六。その登場にジュジュが軽く手を振ると、自分の出番はまだだと悟ったのか、草間興信所の壁に陣取ってもたれかかった。
はっとオフェーリアは思い出したように手を叩くと、
「そういえば、あの時ジュジュさんは私に何をしたんですか?」
そう言って首を傾げる。ジュジュは良く見えるように携帯電話を指差すと、
「テレフォンを通して、人を操れるのヨ。オフェーリアとは相性が悪いみたいだったケドネ」
そうだったんですか、と感嘆したようなため息を漏らしつつ納得する彼女に、ジュジュはこの前聞き出した情報がはっきり言って分かりにくかった事を思い出し、順序だてて説明してもらおうと口を開きかけて、止まる。
「草間さん、こっちにフランベリーニが来てるって聞いたんですがね」
小さな丸眼鏡に山男のような風貌。どこか愛嬌がある顔のフリーライター鷹旗・羽翼が草間興信所の中へと顔を覗かせた。
突然の来訪者に、興信所の中にいた面々は鷹旗へと一瞬視線を向ける。
「オペラ!?」
狭い興信所に比べてやけに高い人口密度に、そんな部屋の中を見回した鷹旗が驚きにその眼鏡の奥の小さな瞳を見開いた。
鷹旗の叫びと同時に、ディアがオフェーリアを庇うように立ちはだかる。
「壊れたはずのオペラがどうしてここに居るんだ?」
蓮に頼まれて月蝕人形の一体『オペラ』を追跡した日から、鷹旗は独自にフェリオ・フランベリーニのことを調べていた。
そして今日、その直系であるオフェーリア・フランベリーニが此処草間興信所に居るという事を聞いて、やってきたのだった。
「彼女が、オフェーリア・フランベリーニさんよ?」
シュラインの紹介に、鷹旗は「これはまた…」と、まるで自分が幻でも見ているかのような驚きっぷりで立ち尽くすが、直ぐに我を取り戻すと、それなら丁度言いといわんばかりに、一同の輪の中へと加わる。
一度途切れかけた話を戻すように、ジュジュがあの時訳が分からなかったことをもう一度話して欲しいと問いかける。
「私、何をお話ししましたか?」
だが、当の彼女は『テレホン・セックス』に憑依されていた間の事は何も覚えていないらしく、小首をかしげる。
「私たちも、ディアさんからお聞きしたお話だけでは足りない部分もありますし、オフェーリアさんが日本へ来た理由や、月蝕人形の事、もう一度詳しくお話ししていただけませんか?」
温和な物腰のセレスティに、オフェーリアは語り始める。
まず、オフェーリアが日本に来た理由。それは、自分の曾祖父であるフェリオ・フランベリーニを止める事。フェリオの周りには今ここに居るディア―『トラゴイディア』を除き、『オペラ』と『コメディ』が近くに控えている、もしくは封印されているはずである。だから、まず、フェリオの手足となるであろうこの2体を探し出し、壊す。
「俺に難しい話は要りませんよぉ!そのコメディを壊せばいいのなら、どこに居るんですかぁ!!」
この先まだ続きそうな小難しい話を聞き続けるよりは、ジュジュが自分を呼び出した理由であるコメディ壊しの方を開始した方が、どれだけ楽しいか。
「…しょうがないネ」
蜂須賀を呼び出したのは自分だし、一人繰り出させるわけには行かないため、ジュジュは仕方なく立ち上がる。
「待ってください。コメディを探すなら、男の人に」
この場で男の人と言ったら、所長であるやる気のない草間と、車椅子のセレスティ、そして、
「仕方ないな。オフェーリアさんにディアさん、コメディの特徴教えてもらえるかな」
自由に動きやすい男は自分しかいないと、鷹旗は立ち上がる。
数日前に契約しているデーモン『ヘブンリー・アイズ』でオペラを見つけた時のノウハウが同じならば、探せなくもないだろう。
二人の話はまた後からでも聞く事が出来る。まずは、コメディを探す事が先決だろう。蜂須賀を抑える意味も兼ねて、鷹旗はマルタで先に東京に検索を翔ける事にした。
「それと、すまないが、ディアさんも月蝕人形だと言うなら、マルタに分析させて貰えないだろうか」
「構いませんよ?」
本当に、オペラとはまったく違う月蝕人形トラゴイディアの温和さに脱帽させられる。
鷹旗はマルタを呼ぶと、ディアのデータを『ヘブンリー・アイズ』に蓄積する。これで、オペラとディアのデータからコメディをより探しやすくなるだろう。
(ん?)
マルタが手に入れたデータの中で、やはり違う人形だからだろうか、完全にはデータは一致しなかった。
「コメディがいそうな場所、今感じるかい?」
鷹旗の問いかけに、ディアは瞳を硝子に戻すようにどこか遠くを見つめるような表情で、その一切の起動を止める。
「そうですね……」
【1.見聞者達】
オペラの方は、オフェーリアを探して欲しいと頼んできた碧摩・蓮の方で、先日破壊したと鷹旗が言っていた。
そして、二人ともフェリオがまだ生きていると言った理由。しかもオフェーリアもディアもこの日本でフェリオが死んだと言っておきながら、まだ生きていると答えたのだ。
器を変え魂だけで生きるなんて、普通の人間に出来るはずがない。
「それは…58年前フランスで月蝕の夜に起きた、大量殺人事件に端を発します」
今を生きるオフェーリアは知らない情報。当時のフェリオに作られたディアが重い口を開く。
あの殺人事件を起こしたのは、紛れもなくフェリオ。
コメディとオペラを使って操らせた人間に、無差別に人間を殺させていった。いや、殺された人間は無差別だが、行われた場所には意味があった。
「生贄…だったんですよ。フェリオが人でなくなるための…」
西洋黒魔術ではよくある話と言ってしまえばそれだけだが、フェリオが起こした儀式は大きすぎる。
「そんな人形を作っている時、フェリオは何を思っていたんでしょうね……」
苦痛に歪んだディアの顔を見て、眉を寄せ唇をかみ締めたシュラインは呟いた。その呟きに、ディアが切なく微笑む。
「僕が、眼を開けたときには、彼はもう嘆き狂っていましたから」
一時の沈黙が訪れ、ここまで口を挟まずに居た面々だったが、ジュジュは首を傾げつつ、
「そうイエバ、オフェーリアは月蝕人形の作り方と、意味を知っているんデショ?」
ただ人を殺すだけだったら、別に人形なんて作らなくても、大量に殺し屋でもなんでも頼めばいい。
「日本的に言うならば、月蝕人形にはフェリオの魂の半分を3等分したものが入っているんです。月蝕人形の核は人の魂です」
そしてフェリオの足りない魂を埋めたのは、大量の生贄によって呼び出された悪魔。それによって、フェリオは人の輪から外れ、魂だけで生きる事が出来るようになった。
目覚めた月蝕人形は、6分の1しかない魂を活性化させるために人を屠り魂を喰らう。そう、眠ってさえいれば、本当に何もないただの人形なのだ。
そんな月蝕人形を壊すことは、フェリオの魂へと直接ダメージを与える事が出来る。分けたとは言っても、離れたわけではないのだから。
「彼は人でなくなる事で、何をしたかったのでしょうね」
当時かの大量殺人のニュースをタイムリーに聞いていたセレスティが、瞳をふせ呟く。
「死者と生者の世界を、行き来したかったんだと思います。フェリオは月が死者の国への入り口になると考えていたみたいですから」
そう、魂を半分に分ける事でフェリオがフェリオである意識を保ち、且つ干渉しあう事で死者の国から還る時の道導にしようとした。
そういえば、フェリオが天文学の方面で発表した論文は、月の満ち欠けにおける生物の微妙な変化や変動。彼は月には不思議な力があると確信していたのだ。
「私もディアさんに聞きたいことがあったの」
シュラインも前にセレスティの屋敷で出会った時、ディアが連れていたオフェーリアはどうしても人形には見えなかったから、ディアの能力を知りたい。それに、どうして月蝕人形でありながら、創造主に逆らう様なことをするのか。
「僕は、捨てられた人形なんですよ…」
どこか寂しそうに微笑んで、ディアは続ける。
「僕のモデルはフェリオ本人です。どうやら僕には彼の良心みたいなものが、多かったみたいです」
こんなにも人に近くて、フェリオの行いを止めようと必死になっているのに、フェリオを止めるためには彼を壊さなくてはいけない。
でも、悪魔と契約したフェリオを消す事ができたなら、もしかしたらディアは自由になれるのではないかと、シュラインは願う。
「ディアさんはそのコメディを壊せるようなことを仰っていますが、何か…そう、力を相殺させられる何かを持っているのですか?」
少し考え込んで、顔を上げたセレスティの言葉に、ディアはにっこりと微笑む。
「それは、大丈夫です」
僕がいるかぎり、月蝕人形の『操り糸』は効きませんから。
その後、一同は、鷹旗と蜂須賀を追いかけるようにコメディ探しを開始する。
残りの話しは道すがら聞くこともできるだろう。
程なくして入った鷹旗からの電話と、ディアの感覚を頼りに建設途中で破棄された高層ビル郡へと急いだ。
【2.置いていかれた人形】
大量の蜂の大群とそれに追われる人が見せる。
「あそこだわ!」
先頭を走っていたシュラインがその光景を見て叫ぶ。
工事途中で捨てられてしまった高層ビルの廃墟の傍が、蜂の羽音を吸収し、大きくしている。
ジュジュは徐に拳銃を取り出し、こちらに向かってくる人影へと数弾打つ。人影は足を止め、追いかける蜂に手を払うと大きめの爆発音と共に爆煙が上がる。
すぅっとシュラインは息を吸うと、オペラ歌手のように両手を広げ、声無き声を発する。
超音波のようにその場から駆け抜ける声が、爆煙を左右に分け、人影は顔の前で手をクロスするように腕を組んで、髪が声が発した風によって激しく遊ばれる。
人影を見据え立ちはだかるシュラインとジュジュの眼に、人影を挟み込むように鷹旗と蜂須賀が走りこんできたのが確認できる。
鷹旗と蜂須賀も二人の姿を見つけると、退路を塞ぐように立ちはだかった。
「あれが、コメディ……」
どこか甘いマスクで軽そうな顔つきの背の高い人形。にっこりと一回微笑むだけで何人かの女性が落ちるだろう。
セレスティと共にこの場に追いついたオフェーリアと、シュラインとジュジュの元に走りこんできたディアをみて、コメディは呟く。
「ディアにオペラか、そうだなぁ月蝕近いもんなぁ」
服装から言えばシャツにGパンと今の若者となんら変わらない。
「で、今フェリオは何処にいる?」
完全にオフェーリアを同じオペラだと思い込んで、コメディは続ける。
「フェリオには会えないヨ。ユーは今ここで壊れるカラネ」
魔に効くと言われている銀の弾丸を、また一発コメディへと放つジュジュ。すっと上腿をずらすだけでその軌道上からずれたコメディは、その笑顔を一層深めてジュジュを見た。
「物騒でキレイなお嬢さんだな。いいね。悪くないよ」
微笑が、妖艶へと変わる。コメディの指先に霊力が集まってきているようだった。
「私はオペラじゃないわ、コメディ。私はオフェーリア。オフェーリア・フランベリーニ」
オフェーリアの口から出たフランベリーニの言葉に、コメディの眼が見開かれる。
「っく…っくっくっく……」
何が嬉しいのか喉がなるような笑いを浮かべ、コメディは空に叫ぶように大声を上げて笑い出した。
「何が、可笑しいのよ…」
この狂い様にやはり分かり合えないのかと思わされる。そして、ただ笑いつけるコメディをシュラインは睨み付けた。
「そっちのお嬢さんも、キレイだ」
高笑いを止め、妖艶に微笑んで振り向いたその視線に、シュラインはビクッと肩を震わせる。
「大丈夫です。僕がいる限り、シュラインさんとジュジュさんには指一本触れさせませんから」
集団の中から一人歩み出て、ディアはコメディを睨みつける。
「あーあ、ホントやっかいだよなお前」
決して見る事の出来ない操り糸を唯一視る事が出来る人形。それがトラゴイディアだった。
月蝕人形の糸はどんな霊視家であろうとも、その指先に絡む最初の糸しか視る事が出来ない特殊なもの。だからこそ、解く事叶わずの、絶対支配を可能にしていた。
「壊せばいいんですからねぇ!行きますよぉホーニィ・ホーネット!!」
この蜂須賀の叫びに、鷹旗はぎょっとして蹈鞴を踏みつつも蜂須賀の後方へと非難する。
蜂須賀は先ほど破壊させられた『ホーニィ・ホーネット』の端末をまた無数に増やし、そのお尻から針を刺すように霊的機関砲を放つ。
これには流石に対極の位置にいたジュジュとシュラインもぎょっと眼を見開く。
「シュラインさん。僕がセレスティさんのお屋敷で、オフェーリアの代役人形が人間に見えたって言いましたね!」
ディアは声と共に小さな人形を取り出し投げる。宙に投げられた人形は淡く光りだし、その質量が徐々に増えていった。
「その答えはこういう事です!」
まったく霊視の力のない者でもディアの指先が光っているのが分かる。掌を広げ両腕をクロスさせるような動作をすると、セレスティ邸で見た黒服の男たちが次々と立ち上がる。
その姿は、人形には見えない。
蜂須賀の『ホーニィ・ホーネット』の機関砲から二人を守るように、ディアの人形が立ちはだかる。
攻撃を受けた黒服が、ゴトっと音を立て人形に戻った。
「僕に与えられた操り糸は、二人とは違うんです」
そう、人形…いや人型や四肢があるものならば、操る事ができる。その代わり、人間を操る能力の中で、二人が使える精神と生命の支配をする事が出来ない。
人が自分の意思に反して人を殺す。だからこそ嘆きのトラゴイディアなのだ。
辺りが煙に包まれ、誰もがごくっとつばを飲み込む。
「ったく、ウザいんだよ!!」
やはり顔を守るように手で頭を抱えたコメディは、所々罅が入ったような後を残し、それ以上の損傷も無くその場で立っていた。
無傷とは言えないものの、今だ何不自由なく動く事が出来るコメディに蜂須賀は、怒りを露にした表情でまた『ホーニィ・ホーネット』の戦闘端末の霊的機関砲を無数に放つ。
「ウゼえ!ウゼえ!!」
後ろから迫る30cmの蜂の大群に向かって、切り裂くように腕を振り下ろす。
「死んでろ!!」
そう、最初に合流したときと同じようは爆音が辺りに響き渡る。よくよく見れば、迫り来る大群の先頭に居た端末がぐるりと向きを変え、後から迫り来る端末達を針の霊的機関砲で打ち抜き、同士討ちを始めていた。
「ったく、キレイな女の人以外俺に操らせるんじゃねぇよ!」
そんな蜂の攻撃の隙間をつくように迫るディアの人形が振り下ろした腕を避け、何かを探すように視線だけを動かしている。
「はーっはっは!」
コメディを探すために一緒に行動してセレスティとオフェーリア。攻撃の余波を考え皆が持っているその力を発揮できない事がないようにと、セレスティが築いた水の結界の中で何かを見つけた。
「オフェーリアさん!?」
水の壁を越えて射抜かれた視線に、オフェーリアは立ち止まる。セレスティは月蝕人形の糸に、自分の築いた結界は無意味だったのかと瞠目した。
「……!?」
がくっと胸を押さえ、オフェーリアの膝が崩れる。
「大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫…です」
つぅっと額から玉の汗が溢れ、顔が苦渋の色に染められる。
「無駄、よ…コメディ」
睨み付けるように顔を上げたオフェーリアは、気丈にも立ち上がり、胸を押させていた腕を払う。
「私は…フェリオと同じ、マスター」
すっと払った腕に光る糸が絡まり、音もなく地面に消える。すっと睨むように見据えたオフェーリアの視線を受け、コメディは小さく舌打ちした。
その最中も、蜂須賀のデーモンとディアの人形の攻撃はやまない。コメディのイライラはだんだんと積もっていく。
「頭を…狙って!!」
やはり強がっていたのだろう。ドサっと倒れたオフェーリアをセレスティは支える。
放たれる蜂須賀の『ホーニィ・ホーネット』の霊砲。
空を翔ける鷹旗のマルタが、何度も爪を立てて滑空する。
シュラインの声が一度付いた罅をどんどんと広げていく。
攻撃系の特殊能力の無いジュジュは凡字が刻まれた銀の銃弾を放った。
操るべき『人間』のいないこの場所は、コメディにとってかなり不利な状況。逆を言えば、ここで壊すことができる。
誰もが、いけると思った。
だがその場にいたはずのコメディの姿が眼前から消える。
「何処だ!」
「はっ!」
月明かりを影に嘲笑めいた笑いがその場に降り注ぐ。
「おい、ディア!お前が置いていかれた本当の理由もしらないくせに呑気なもんだな!!」
骨組みだけのビルの屋上から見下すように、狂った笑顔を浮かべてコメディが叫ぶ。
「おいお前達!」
「逃がしませんよぉ!!」
捨て置かれた廃屋のビルに向かって蜂須賀は走っていく。
「本当にフェリオを止めたかったら、そこに居るトラゴイディアを一番最初に壊すんだな!!」
それができるならな!
と、コメディは力を無くすように、嘲いを浮かべたまま頭から落ちていく。
「マルタ!」
鷹旗の叫びと共に、空を飛んでいたマルタが屋上からビルの中へと飛んでいく。
「僕が…置いていかれてた、本当の理由……?」
ただ、骨組みから落ちていくコメディを見つめ、ディアがポツリと呟く。
他の月蝕人形のように破壊衝動のないディアを不思議に思っていたシュラインが感じていた不安。
共存できるならば共存したいと考えていた自分の考えが、甘いものだと痛感させられる。この事実にシュラインは俯き、一人ぎゅっと唇をかみ締めた。
その横にゆっくりと杖をついて近づいたセレスティは、そっとシュラインの肩に手を置き、安心させようと慈悲の微笑を浮かべる。
「えぇ…なんとなく、感じていたの……」
絶対にディアを殺す――壊さなくてはいけないって。
でも、自分達と一緒に行動するディアは、独自の考えを持っていて、人の少年となんらかわらなくて、どこか零と重ねてみてしまっていた。
だから、一緒に生きていけるのではないかと、少なからず期待してしまった。
呆然と立ち尽くすディアに、ただ涙がこぼれる。
「優しいのネ。シュライン」
オフェーリアとディア、そして今二人を見つけ、ここに居る者たちが感じている思い。それは、単なる依頼人から守りたい存在―一緒に生きていきたい存在へと変わってきていた。
それさえも、掌の内の出来事だとしたら、どんなにやるせない依頼か。
この場に沈黙が訪れる。そして―――
「だったら、死ななければならないのは私ね」
―――そう、月蝕は……
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0585 / ジュジュ・ミュージー / 女性 / 21歳 / デーモン使いの何でも屋(特に暗殺)】
【0602 / 鷹旗・羽翼(たかはた・うよく) / 男性 / 38歳 / フリーライター兼デーモン使いの情報屋】
【0630 / 蜂須賀・大六(はちすか・だいろく) / 男性 / 28歳 / 街のチンピラでデーモン使いの殺し屋】
【1883 / セレスティ・カーニンガム / 男性 / 725歳 / 財閥総帥・占い師・水霊使い】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、Grand-guignol −第二幕−にご参加下さりありがとうございます。ライターの紺碧です。今回こちらの受注ミスもあり予定の人数よりも参加者様を多く募ってしまい話しが長くなってしまった事、申し訳ありません。やはり紺碧は3人までが限界のようです(涙)。クリエーターショップの方へお知らせを載せたいと思っていますのでご一読していただけると嬉しいです。
今回は、結構シュライン様のプレイング勝ちになってしまったようにも思います。少々理論的なお話しになってしまいましたが、何とか予定のバトルを組み込むことができました。シュライン様の声が何処までの事が出来るのか理解できていなかったらごめんなさいです。
それではまた、シュライン様に出会える事を祈りつつ……
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