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ミズの魔女が語る時。
オープニング
-…私は『ミズの魔女』です。
自分の能力を使ってここにアクセスしております。
どうか私を助けてください。
私は今、暗くて寒い場所に閉じ込められています。
どうか、私を助けてください。
私が閉じ込められている場所は…。
ゴーストネットＯＦＦに書き込まれたのは助けを求める文章だった。
だけど、書き込みにあった住所は数十年前から
廃墟になっている大きな屋敷のみで人が住んでいる気配は全く見られない。
とりあえず、書き込みを信じてその場所に向かったのだが…？
視点⇒門屋・将太郎
この話は門屋・将太郎がまだ記憶を失う以前の話…。
「…ミズの魔女か」
将太郎はパソコンの前で一人小さく呟く。自分の能力を使ってアクセスしてきているという事は幽霊関係の話ではないだろう。
こうして助けを求めてきているのだから将太郎にも助けてやりたい気持ちはある。だけど手がかりがない状態ではどうしようもない。
「…しかたねぇな。調査は苦手だけど調べて見るか…」
ギィ、と椅子を動かしてパソコンのネット検索で調べてみる事にする。そういえば書き込みにあった屋敷で数日前にボヤ騒ぎがあったな、と思い出し新聞も取り出す。
調べていくうちに色々な事が分かってきた。数十年前、あの屋敷にはとある会社の社長夫婦が住んでいて、会社が倒産して一家心中をしたらしい。そして、もう一つは最近若い人間達があの屋敷の窓を壊して入り浸っているのだとか。
「とりあえず、問題の屋敷に行ってみるかな…」
将太郎は小さく呟いて心理相談所の入り口に『本日臨時休業』の看板を掛けた。
「…寒くて、暗い場所ねぇ…」
屋敷に向かう道の中で将太郎は書き込みにあった『寒くて暗い場所』について考えていた。しかし思いついたのは冷蔵庫などで到底、人が閉じ込めるのは無理そうなものだ。これが業務用の冷蔵庫があってわざわざ入る人間がいたら話は別になるけれど。
「……ここか」
考え込んでいるうちに屋敷に着いたようで将太郎は見上げながら「不気味な屋敷だな…」と一人呟く。
狭い家も問題あるけれど、大きな家はそれで問題がある。
「ま、ダメもとで行くしかないよな」
はぁ、と一つ溜め息をついて錆びついた門を開ける。長く使われていなかったためか錆びていて動かすたびに奇声のような音を鳴らし、将太郎は耳を塞ぎたくなった。
「…ん？」
二階の窓からこちらを誰かが見ている。あいにくとどんな人物かまでは見えなかったがこの屋敷に『誰か』が潜んでいるのは間違いなさそうだ。
「やれやれ、犯罪者じゃなければいいんだけど。どこから中に入るかな」
将太郎が周りを見渡すと割れた窓を見つけた。この窓ガラスは最近割られたものらしく恐らくは若い人間達が壊したものだろう。
どこから入ろうか迷っていた将太郎はこれ幸いとばかりに窓から侵入していく。
「…げほっ」
中に入り込んで思わず咳をしてしまう。それも無理はない。誰も住まなくなって数十年が経過している。もちろんその間に誰かが綺麗に掃除などするわけもなく屋敷の中には数十年分の埃が溜まっていた。
「…………妙だな…」
どうも生活感を感じられる。電気などが使えない代わりに懐中電灯、蝋燭などが常備されており、リビングらしき部屋では食料も置いてある。
「…賞味期限は…まだ切れてない。…ってコトは最近置いたものだな」
テーブルに置いてあるあんぱんを手に取り、賞味期限などを確認する。賞味期限が明後日になっているから昨日か一昨日に置いたものだろう。
「何してる！」
突然声を掛けられ、将太郎は思わず身構える。声の方に視線を向けるとそこにいたのは数人の少年達。
「何してるってこっちのセリフだ。ここは廃墟になってるはずだ…」
将太郎が言葉を言い終わらないうちに妙な事に気がつく。三人いる少年達は自分達の身体で壁のようなものを作り、何かを必死に隠しているように見えた。
「…そこの後ろに何がある？」
半ば強引に将太郎が少年達を退かせ、その奥に進むと人一人が簡単に入れそうな大きな金庫を見つけた。
「…まさか…この中に人間がいるんじゃねぇだろうな！」
的中して欲しくない予想を将太郎が少し声を荒げて言うと一人の少年が「うわぁっ」と叫びながら持っていたナイフで将太郎に襲い掛かる。将太郎はそれを避けて少年達を鋭く睨みつける。
「お、俺達は悪くない。その女がいけないんだ！」
人間がパニックになると聞いてもいないことを喋りだすのは本当らしい。少年の話を聞く限り、この大型の金庫の中には人間、しかも女が入れられているらしい。
「すぐに開けろ！窒息して死んじまうだろう！」
今にも掴みかかりそうな勢いで将太郎は大きな声で叫ぶ。少年達は一度ビクリと身体を大きく震わせながら金庫の鍵を将太郎に投げ渡した。鍵を拾うと大急ぎで金庫を開ける。
暗くて寒い、確かにこの金庫ならあの書き込みにぴったりの場所だ。
鍵を開けるとガコンと鈍い音と共に女、それもまだ１８歳くらいの少女が倒れこんできた。金庫の中は酸素が切れる寸前だったのか少女は域を苦しげに吸ったり吐いたりしている。
「あの書き込みをしてきたのは…おまえ、だな？」
将太郎の言葉に涙を流しながら少女は何度も首を縦に降る。
何でも数日前に起きたボヤ騒ぎの時に閉じ込めていた少年達が火をつけているところを目撃してしまったらしい。
それからすぐに地下室に連れ込まれて監禁されていたが、少女が何度も騒ぐので少年達が鬱陶しく感じて金庫に入れたのだとか。
元々、霊力のようなものを持ち合わせていた少女は自分の念を飛ばして助けを求めたらしい。人の目に触れるようにわざと目立つ書き込みをしたのだとか。
最近の若い人間はとんでもねぇ事をするな、と思いながら将太郎は持ってきた魔法瓶に入っている暖かいお茶を差し出す。
「寒かったろ、もうだいじょうぶだ。これでも飲みな」
少女にお茶を渡すと将太郎の能力『癒しの手』が自動発動したのか少女の気持ちが段々と落ち着いてくる。
その後、少年達は警察に逮捕されていた。最近は若い人間の犯罪が多いので結構重い罪に問われるかもしれない。
だけど、自分達が犯した罪を隠すために一人の人間を殺しかけたんだ。その罪は許されるものじゃない。
たっぷりと後悔するんだな、と毒づきながら将太郎は心理相談所へと戻っていった。
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
1522/門屋・将太郎/男性/28歳/臨床心理士
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■ ライター通信 ■
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門屋・将太郎様＞
いつもお世話になっております＾＾
『ミズの魔女が語る時。』を執筆させていただきました瀬皇緋澄です＾＾
今回の話はいかがでしたか？
少しでも楽しんでいただけたら幸いです＾＾
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします＾＾
−瀬皇緋澄
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