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【ばれんたい〜ん】野郎どもの宴
「兄貴、本当にやったんだな」
必要以上に派手に飾られた部屋を見上げて、大地は長いため息をついた。
「当然だ弟よ。この日を派手に祝わずして、何をしろと言うのだ。さあ、宴の始まりだ。同士達よ、この聖域に集うのだ!」
空雄が天高く拳を突き上げているのを見て、大地はさらに長いため息をついた。
「あちこちサイトを見ていたら、面白そうな物を見つけました」
パソコンの前に座り、様々なパーティーを検索しながら、シオン・レ・ハイはサイトのご馳走の写真に視線を集中させる。
「プレゼントを持っていくのですね。バレンタイン用に作ったチョコが余っていましたから、あれを持って行きましょう。食べずに我慢しておいて良かったです」
普段は家なしの為、公園や廃屋で寝泊りしているシオンであったが、この日はご馳走にありつけそうだと、プレゼントを包みに入れると、サイトに示されたご馳走…いや、家を目指して歩き始めた。
「こんにちは。バレンタインのパーティーに参加したいと思い、伺いました」
「またもや同士がきたぞ!」
奥の部屋から、大柄の青年が出てきて、シオンを迎える。
「初めまして。私はシオン・レ・ハイと申します。是非、パーティーに参加させて頂きたいと思いまして」
「勿論だ。私の名は井上空雄。今日は、存分に楽しんでくれ」
「有難うございます。ところで、ひとつお尋ねしたい事があるのですが」
「ん、何だ?」
「今日はバレンタインですが、空雄さんに好きな方はいらっしゃるのでしょうか?」
目を丸くして、空雄はシオンの顔を覗き込むように見つめた。
「そんな事を聞かれるとは、思いもよらなかったな。いや、いる事はいる。憧れの女性だ」
大きな体に、照れて赤くなった顔を乗せ、空雄がY・Kカンパニーの高層ビルへと視線を向ける。
「あそこの女社長は、皆の憧れさ」
「確かに、なかなか難しい方かもしれませんね」
シオンは、以前別の依頼で、兎の縫いぐるみを贈呈した女社長の事を思い出していた。
「素晴らしいご馳走ですね」
シオンは会場に置かれた沢山の料理を見て、どれから食べようと品定めを始めていた。
「ある程度人が揃うまで、自由に食べてていいそうだぜ?」
黒髪の元気のよさそうな青年が、目の前でジュースを飲み干していた。
「俺は志羽・翔流だ。よろしく!」
「私はシオン・レ・ハイです。沢山のご馳走がありますが、いくらでも食べられる自信がありますよ」
シオンが翔流へ挨拶をすると、再び扉が開き、今度は銀色の長髪の、細身の青年が入ってくる。
「僕はフレイ・アストラスです〜。たまたま通りかかったんですけど、賑やかだったので来てしまいました〜」
「私もネットで今日の事を知りました。私の場合、バレンタインのチョコレートは、もらえるとしても友人に一個程度ですが」
シオンはフレイに挨拶をしながら、持ってきた紙袋を取り出して、空雄と大地のそばへと歩み寄った。
「お邪魔させて頂きますので、空雄さんと大地さんに何か手土産をと思いましてマフラーを作りました。色違いの物です。趣味で作りましたので、よろしければ」
シオンは、そう言って赤と青の、色違いのマフラーを、空雄と大地に渡した。
「女性の方からの方が良かったでしょうか?」
シオンは、心配そうな表情を浮かべてマフラーを差し出す。
「いや、とんでもない!こんなバカ兄貴の遊びに付き合ってもらった上に、お土産までもらえるなんて、思ってもいなかったから」
大地が、嬉しそうに青いマフラーを受け取る。
「空雄さん?」
シオンがもう一度呼びかけると、空雄が滝のような涙を流してシオンに抱きつく。
「パーティーを開いて本当に良かった!こんな素晴らしい贈り物をもらえるなんて!」
空雄は赤いマフラーを握り締めて男泣きをしたのだった。
「良かったです、喜んでもらえて」
シオンは空雄に抱きつかれたまま、にっこりと笑顔を見せた。
「さてご馳走も沢山食べたしな!そろそろ宴会芸を初めていいか?」
翔流が、腰に挿していた扇子を取り出し、部屋の中央に踊り出た。
「俺、日本一の流離い大道芸人なんだぜ?」
そう言って翔流は、囃子に合わせて扇子を動かし、その先から水を噴出させた。
「わあ、どうやっているんでしょうね〜!」
フレイは初めて見る手品のような芸に、感動の色を見せていた。
「扇子だけじゃねえぜ?」
今度は翔流の着ている衣服の先から、水を噴出させる。
「素晴らしいです。水だけでなく、お酒も出せるのでしょうか」
シオンは、他にもジュースやらお茶やら出せるのだろうか、と考えながら見つめていた。
「お次は傘回し!」
開いた傘の上に、すぐそばのテーブルに置いてあった茶碗を投げて、ぐるぐると見事な手さばきで茶碗を回してみせた。
「最後は南京玉すだれ!それ、あ、それそれそれそれ!」
鮮やかなすだれを取り出し、様々な形を作り出していく翔流を見て、シオンはすっと立ち上がり、懐から箸を取り出して見せた。
「私も何か芸をしなければいけませんね?お箸でなら、何でも掴む事が出来ます」
シオンは台所にあった胡麻塩を取り出して、その胡麻を鮮やかにつまんでみせる。
「そういうのは、芸って言うのでしょうかね?」
フレイは首を傾げて見せた。
「あと、お金限定ですが、見たらすぐに暗算して計算する事が出来ますよ?」
「では、早速やってみて下さい〜!」
財布から小銭を取り出し、フレイはビシっと机に置いて見せる。
「650円!私が昨日やったアルバイトの1時間辺りの時給と同じですね」
「正解です〜!凄いですね、答えるのに1秒かかりませんでしたよ〜?」
「フレイは何か芸は出来ないのかい?」
翔流はフレイに尋ねた。
「そうですね〜、僕は芸は皆さんの様には出来ませんが、代わりに、皆さんに良き出会いがあるように、僕が祈って差し上げますよ〜」
フレイが目を閉じて、皆へと祈りを捧げている。
「そろそろ、プレゼント交換を始めよう」
空雄がプレゼント交換用のテーブルを部屋の真ん中に出していた。
「ルールは簡単だ。このテーブルの上にプレゼントを置き、歌に合わせてテーブルを回る。私がストップって言ったら、一番近くに置いてあるプレゼントをもらえるってわけだ。じゃ早速やろうか」
空雄が、何の歌だかよくわからないが、歌を歌いだした。シオン達はその歌に合わせて、テーブルのまわりを回りだす。男の野太い声に合わせて、グルグルまわっている男達。そういえば、昔読んだ絵本で、木のまわりをグルグルまわり、バターになってしまった虎の話があったっけ、とシオンは回りながら、変な想像をしていた。
「ストップ!」
部屋に空雄の声が響く。シオンは足を止めて、テーブルへと目をやった。
「これが私のプレゼントですね」
シオンは、包みの中から綺麗な石を取り出した。透明な綺麗な石で、光をかざすと、キラキラと光を反射している。
「シオンさんには、僕のプレゼントがいったんですねえ!」
シオンは、綺麗な透明の石を見つめていた。
「この前、道で拾った石なんです〜。とても綺麗ですし、きっと価値があるに違いありませんよ〜!僕の予想では、ダイヤモンドかもしれません」
「ええ、きっとそうに違いありませんよ。こうまで美しい石ですし。磨けば、もっと光るかもしれません」
シオンはそう言われて、この石は絶対にダイヤモンドだと信じて切っていた。
「そのチョコは私が持ってきました。バレンタイン用に手作りしたチョコレートが余っていましたので。私は女性にもチョコをあげる事が多いのですが、喜んでもらえればよりです」
シオンは、自分の持ってきた包みを開けている翔流に自分のプレゼントの説明をして見せた。
「僕のは、色々入ってますね〜」
フレイが、プレゼントの箱の中から、色々な物を取り出していた。それを見て翔流が言う。
「そりゃ俺が持ってきたのだな。俺の故郷の富山の薬だろ、フェイスタオルにキーホルダー、ストラップ。あと、小っちゃいチョコも30個ほどな」
「さて、プレゼント交換も終わったし、そろそろお開きにするか。名残惜しいが、また来てくれ、同志達よ」
目を滲ませて、空雄が皆に最後の挨拶をする。
「またやる気じゃないだろうな、兄貴。まさかホワイトデーとか」
そう言って、肩からため息をついている大地と、涙を流しながら手を振る空雄にシオン達は別れをつげた。
「とても楽しかったですよ。ご馳走様でした」
シオンがそう言うと、大地が少し照れくさそうに返事をした。
「有難うな、シオンさん。このマフラー、大事にするからさ」
「おう、そうだな。手作りなんて久しぶりにもらったよ、有難うシオンさん」
空雄も嬉しそうな笑みを浮かべている。
「楽しいひと時を与えてくれたお礼ですから」
シオンはそう言って、ダイヤモンドを懐にしまうと、空雄達の家を後にした。
◆◇◆ 登場人物 ◆◇◆
【2951/志羽・翔流/男性/18歳/高校生大道芸人】
【3356/シオン・レ・ハイ/男性/42歳/びんぼーにん(食住)+α】
【4443/フレイ・アストラス/男性/20歳/フリーター兼退魔士】
◆◇◆ ライター通信 ◆◇◆
シオン・レ・ハイ様
こんにちは。新人ライターの朝霧青海です。発注頂き、本当に有難うございました!
今回はバレンタインという事で、本当はバレンタインに合わせて納品したかったのですが、間に合わずに申し訳ないです(汗)シオンさんは、オカマ人魚に引き続いて、2度目の参加ですね。相変わらずののんびししたような、だけどどこか真面目な様な発注内容をどう生かそうかと、色々と考えてみました。何となく、笑いが取れる様な内容であればいいなあ、と思っています。
今回も視点がPC別になっていますので、一緒に参加された方のノベルで、また楽しめるかもしれません。今回は本当に参加頂き、有難うございました!
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