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<東京怪談・PCゲームノベル>


獣達の啼く夜sideβ

オープニング

誰か、あたしを助けて。
そうずっと願っていた。
だけど、誰も助けてくれる人はいなかった。
あの時以上の地獄なんてあるわけないと思っていた。
だけど、あの時の出来事は地獄の始まりに過ぎなくて
更なる悪夢があたしに襲い掛かってきた。
だから、あたしはもう助けを待たない。
待っても救いの手を差し伸べてくれる人なんていなかったから。
地獄がくるなら来るがいい。
あたしは全てを受け止める事にしてやる。
今のあたしに怖いものなどない。
だから、あたしは後ろを振り返ることなく前に進む。
その先に何があるのかは分からないけれど。


※※始まりの第一夜※※


その日は激しい雨が降りしきる夜だった。
尭樟生梨覇(たかくす おりは)と雪沢海斗(ゆきさわ かいと)は公園の前で震えながら座っている少女を見つけた。
その少女の瞳は闇夜の中でもはっきりと分かるくらいの赤い瞳。
「あなた、どうしたの?」
なにやら普通ではなさそうな少女に生梨覇が問いかける。
「家出少女にしては変だな」
海斗も少女の顔を覗きこみながら言う。
だが、その瞬間、少女の身体がグラリと揺れ前のめりに倒れこんできた。
「お、おい!」
水溜りに倒れこむところを海斗が抱きとめる。
「…おい、こいつ…牙がある…」
苦しげに息を吐く少女から見え隠れするのは肉食動物のように尖った牙、犬歯にしては鋭すぎる。
「どうしたものかしらね」
生梨覇が困ったように言うと暗闇の中一人の人影が二人の視界に入ってきた。
「あら、お久しぶりね」
「何だ、あんたか。そういえば…あんたの家がこの近くだったよな。行き倒れの人間見つけたから連れて行ってもいいか?」
こうして一人の少女を拾ったのだが、キシキシと軋む運命の歯車の中に巻き込まれたことなどこの時の自分は思いもしなかった…。


視点⇒高峯・弧呂丸

 知り合いの生梨覇と海斗が見つけたというその少女は確かに奇妙だった。
 どう見ても、17歳か18歳の少女にしか見えない。
 だけど、この少女からは異様な雰囲気を感じた。濡れた髪から見え隠れするのは真っ赤な瞳、苦しげに息をする口からは異常に尖った牙。
「…とりあえず、このままここに置いておくわけにもいきませんから、私の家に連れて行きましょう」
 生梨覇と海斗も雨に濡れていたので自宅に来るようにと弧呂丸は言葉を付け足した。


「ふー…とりあえず落ち着いたぜ、風呂、ありがとうな」
 海斗がタオルで頭を拭きながら風呂場から出てくる。
「次は生梨覇さんもどうぞ、そのままでは風邪を引きますよ?」
 弧呂丸がそう言うと生梨覇も「そうね、じゃあお借りするわ」と言って風呂場へと足を動かした。
「それにしても、何であんな場所で倒れていたんでしょうね」
 熱に浮かされる少女の額に濡れタオルを置きながら弧呂丸が小さく呟く。
「さぁな、何にしろマトモな状況じゃないと思うけどな」
 海斗の言葉に「何でですか?」と弧呂丸が不思議そうに問いかけると「カンだよ」と短い返事が返ってきた。
「…ぅ、ぁ……いや、だ、やめて…」
 突然少女がうなされはじめ海斗と弧呂丸はハッとしたように少女に視線を移した。
「いやだぁぁっ!」
 そう叫ぶと同時に暴れ始める少女を海斗が押さえつける。
「ちょっと、どうしたのよ!」
 少女の叫び声が聞こえたのか生梨覇も慌てて風呂場からこちらへとやってきた。
「大丈夫ですよ、落ち着いてください」
 少女の頬を両手で包みながら弧呂丸が静かな声で言う、すると次第に落ち着いてきたのか荒かった呼吸が正常に戻ってくる。
「…あ、たし…は…それに…ここはどこ…」
 正気を取り戻した少女は弧呂丸、そして海斗、生梨覇の顔を交互に見比べ、自分がいる場所を確認するかのように部屋を見渡す。
「…落ち着きましたか?ここは私の家ですよ、あなたが公園で倒れていたところをこの二人が見つけたんです」
 弧呂丸の指を追うようにして少女が海斗と生梨覇をその瞳に移す。
「…あ…ありがと…う」
 少女が口ごもりながら礼を言うと生梨覇と海斗は手をあげて軽く返事をする。
「少し何か食べた方がいいですよ?風邪をひかれてるみたいですから」
 そう言って弧呂丸は簡単に食べられるものを少女に渡した。少女はまだこちらを警戒しているのかちらちらと見ながらそれらを口にした。
「聞いてもいいですか?何故あんな場所で…倒れていたんです?」
 弧呂丸の言葉に少女は持っていた茶碗をガシャンと布団の上に落とした。
「…ぁ…ご、ゴメンナサイ…」
 慌てて片付けようとする少女を生梨覇が止めた。
「そのまま触ったらヤケドするわよ、私が片付けるからそのままでいいわ」
 生梨覇は布巾を持ち、簡単に落ちた食べ物を拭っていく。
「言い難い事なら無理には聞きませんよ、でも私に出来ることだったら力になりますよ、遠慮なく言ってくださいね、よろしければ好きなだけここにいてくださいね」
 弧呂丸がにっこりと笑って言うと、少女の警戒心も解けたのか下を俯いて「話を…聞いてくれる?」と消え入りそうな声で呟いた。
「えぇ。もちろんですよ」
「…ねぇ、あたしは何に見える?」
 少女の突然の言葉に弧呂丸はもちろん、海斗、生梨覇も驚いて目を丸くする。
「何って…」
「その言い方を聞いていれば貴女が人間じゃないと聞こえるわね」
 生梨覇が手を止めて少女の顔を覗きこみながら言う。
「…その通りだよ。あたしは人間じゃない…あたしの名前は…優、小日向、優。元は人間だった」
「…元は?」
「うん、西脇製薬会社って知ってる?そこでは警察や政府が絡んでの極秘に行われた実験があったんだ。…それがビースト・プロジェクト。人間と動物の遺伝子を混ぜ合わせて最強の兵器を作り出す計画。その被験者の中にあたしがいたんだ…」
 その時のことを思い出したのか優と名乗った少女はガタガタと身体を震わせながら呟いた。
「その研究所から逃げて…でも行くところがなくて…」
「あそこの公園で倒れた、というわけですね」
 弧呂丸が言うと、優は静かに首を縦に振った。海斗と生梨覇は予想もしなかった言葉に互いの顔を見ながら言葉を紡ぎだせずにいる。
「……つらかったですね」
 弧呂丸が言うと優は「同情なんかしないで!」と声を荒げて叫んだ。
「同上なんか真っ平だ、あたしをかわいそうだとか思うなっ!」
「可哀想なんて思ってませんよ、確かに貴女が経験したものは過酷なものだったと思います。だけどその苦しみは私には分かりません、貴女が味わった苦しみは貴女にしか分からない事なんですから。そんな事を『可哀想』の一言で括っていいはずがないでしょう?」
 弧呂丸の言葉に優は目を丸くして驚いている。恐らく今まで彼女の周りにいた人間は彼女を哀れむ人間ばかりだったのだろう。分かりもしない苦しみを分かったフリで彼女を余計に苦しませていたのだ。
「で、でもあたしは追っ手が来る、いつまでもここにいるわけには…」
「その事なら心配ないと思うぜ。なぁ?生梨覇」
「えぇ、弧呂丸の張る結界は協力だから簡単には見つからないでしょうね」
「ですから、気兼ねなくここにいてくださいね」
 弧呂丸の言葉にどこ癒される自分がいる事に優は気づいた。そして、その暖かさに涙がこぼれ、優は慌てて服の袖でそれを拭った。
「今日は疲れたでしょう?ゆっくりと休んでください」
 そう言って三人は優の寝る部屋から出て行った。


「どう思う?」
 部屋を出て海斗が小さく呟く。
「確かに風貌などには不信感を抱きますが、相手は少女、それに敵対する気配はありませんね。ただのカン、ですけど…それは自信が持てます」
「貴女のカンは当るものね、私も弧呂丸と同意見よ、海斗、あなたもでしょ?」
 生梨覇がクスと笑いながら言うと「……まぁな」と素っ気無く海斗が返事を返してきた。
「もうひとつ、彼女の話を聞いて使役に情報収集に行かせたのですが…小日向・優という少女は今、存在しないんですよ。遥か昔…百年ほど昔には『いた』らしいんですけどね」
 弧呂丸が言う言葉に海斗と生梨覇の二人は「…どういうこと…?」と呟きながら窓から見える夜の闇を見ていた。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

4583/高峯・弧呂丸/男性/23歳/呪禁師

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■         ライター通信          ■
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特別出演
東圭真喜愛様よりお借りしました⇒『尭樟生梨覇』
風深千歌様よりお借りしました⇒『雪沢海斗』

★★★★★★
高峯・弧呂丸様>

初めまして。
今回『獣達の啼く夜sideβ』を執筆させていただきました瀬皇緋澄です。
『獣達の啼く夜sideβ』はいかがだったでしょうか?
弧呂丸の穏やかなキャラが出せていればいいのですが…^^:
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします^^

               −瀬皇緋澄