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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


闇の病院と白銀の退魔師

コンコン。
応接室の扉がノックされた。
そして1人の冴えない男がおずおずと応接室に入ってくる。
「アトラス編集部の三下忠雄です。」
それをみて凰華もソファーから立ち上がり一礼した。
「僕が今回同行させてもらう退魔師の天城・凰華(あまぎ・おうか)です。」
その言葉に。
三下はきょとんした顔で凰華の顔と胸に目をやった。
「僕って天城さんは女性ですよね?」
「そうですが何か問題でも?」
凰華が鋭い視線で三下を見やると三下はびくっと飛びあがった。
「し、失礼しました。つい失言を・・・・」
凰華はそんな三下にため息をつくと静かに切り替えした。
「構わない。それより話によると10年前に焼け落ちた病院が取り壊すことも出来ず夜は物音がするということでしたね。」
「は、はい・・・・」「
下調べに行ったがあそこは確かに異様な霊気を発している。多分成仏できない幽霊達がさまよっていると考えて間違いはないでしょう。」
「ひぇっ!!」
三下のあまりにも頼りない返事に凰華は再びため息をついた。
これほど情けない男を見たことがない。
だが仕事でもある。
条件の確認をしておかなければならない。
というより足手まといは正直欲しくない。
凰華は冷たく言った。
「怖いのならついてこなくても構わない。」
「い、いえ、ついて行きます。僕も編集者として全てを見届けて記事にしないといけませんから。」
その言葉に凰華は驚きながらもふっと笑った。
「あなたの命の保障はしない。私は構わないがそれでもあなたは構わないのか?」
言われて三下はブルッと震え上がったがそれでも顔だけはしっかりと頷いた。
「は、はいっ。よろしくお願いします。」


深夜11時。
編集部の待ち合わせていた2人は車で病院に向かった。
やがて人気のない焼け落ちた建物が見えてきた。
と。
凰華が突然運転していた三下に鋭く言った。
「ブレーキ!」
三下がブレーキをかける。
だが。
何故かスピードは落ちなかった。
三下が悲鳴をあげた。
「うわあああああっっっ!!」
凰華は助手席の扉に手をかけると三下に向かって叫んだ。
「そこの茂みに突っ込むんだ!!」
と、同時に凰華は走っている助手席から飛び降りると魔剣ルインブレイズ構えてざっと空を切った。
すると空間が割れ幾つもの亡霊達が凰華に襲いかかった。
それを凰華は手を上げるとその手に氷を凝縮させた。
そして鋭い氷のつぶてで幽霊達を貫いていく。
やがて全ての幽霊がいなくなると後ろから三下が泣きそうな声で凰華に声をかけた。
「も、もしかして幽霊なんですか?」
凰華は剣をおさめると落ち着いた声で言葉を返した。
「もしかしなくても幽霊だ。やはりこの病院は霊達が占拠しているのだな。ここで既に亡霊が集まっているということは、亡霊達はやがてはこのあたり一帯を棲みかにするつもりなのかもしれない。」
「ひえええええっ!!」
三下は一歩あとずさった。
きっとついてきたことを後悔しているのだろう。
そんな三下に凰華は冷たく笑いかけた。
「あなたはここで逃げ出しても構わないが?」
するとそれでも三下は首を振った。
「ここで帰ったら編集長に殺されますっっ!!」
凰華は思わず苦笑した。
それが本音というところであろうか。
幽霊に殺されるより編集長の方が怖いらしい。
凰華は頼りないこの男を見ると1つの石を取り出しそれを彼に渡した。
「な、何ですか?これは・・・・」
凰華は剣を収めるとちらと三下を見た。
「防御作用のある石だ。それがあれば幽霊達もあなたにはほとんど手出しが出来まい。それを貸すから遅れずについて来るんだ。」
三下は驚いたように凰華を見、そして感極まったように凰華に言った。
「ありがとうございます、天城さん!」
だが感動はすぐに凰華によってさえぎられた。
「足手まといが邪魔なだけだ。」
「あ・・・・足手まとい・・・・」
言うなり凰華は走り出した。
「行くぞ!」
「わわっ、待ってください!」


 病院に入るとあたりはぼんやりとした明かりで覆われていた。
その明かりは月明かりでなく病院そのものが光をもたらしているようだった。
と。
いきなり三下に足に包帯を巻いた男が襲ってきた。
「うわあああああっ!」
三下が悲鳴をあげた。
だが男が三下に触れようとした瞬間に水の膜が男を弾き飛ばした。
そして鮮やかに白い羽が空を舞う。
いつのまにか。凰華の手には先ほどとは違う槍が握られていた。
そのあまりにも美しい光景に三下は呆然とした。
怖い。
だが凰華と凰華の槍がみせた幻想に三下は見惚れてしまった。
白銀の髪をなびかせて暗闇に白い羽を舞わしたしなやかなる戦士。
その表現こそがぴったりだった。
つぎつぎと幽霊達が襲いかかってくる。
そんな中凰華は更に槍を振りかざす。
やがて病院の受付を抜け階段のところまで一気に駆け抜けるとそこでようやく一息つき、追いかけてきた三下を足を止めて待った。
「ど、どうされたんですか?」
三下の問いに凰華は鋭く答えた。
「これだけの数の亡霊達がいるという事はよほど強い何かがここを支配していると考えた方がいい。上か下かどちらに進むかだな。」
そのときだった。
「助けて・・・・」
か細い声が階段の上の方からした。
それと同時に階段の上の方がボウと明かりが広がってきた。
「下に行きましょうか・・・・」
怯えたように三下は凰華の瞳を見上げた。
だが凰華は首を振ると上の方に向かって階段を登り始めた。
そんな凰華に三下は慌てて声をかけた。
「そっちの方がヤバそうではないですか?」
だが凰華は振り向きもせずに2階へと登った。
そこには青白い火の玉がぼんやりと浮かんでいた。
と、火の玉はやがて1人の若い女の姿となった。
そして凰華に取りすがった。
「お願いします、助けてください!」
「何を助けて欲しいのだ?」
「ここにいる人々です。私が罪を侵したためにここの病院で死んだ人たちはみんな彼女達の意思に縛られてしまうようになったのです。」
女の言葉に凰華は問い返した。
「あなたの罪とは何なのだ?」
「私はかつてこの病院で産科の看護婦として働いていました。でもあの火事の晩、私は夜勤の担当者ながらあまりの恐怖に患者を置いて逃げてしまったのです。それも生まれたばかりの我が子だけでも助けてと言った患者さんの腕を振り払って・・・・でも私はあのときの患者のことが忘れられませんでした。それでこの病院の跡で首をつりました。でも患者の思いはそれではすまなかったのでしょう。この病院中に集まった魂を集めてこの病院を占拠してしまったのです。」
「なるほど・・・・」
凰華は頷いた。
「その者達を解放すればこの病院の魂がおさまるということなのだな。それで彼女たちは何処にいるのだ?」
「地下です。地下の霊安室が彼女達の居場所です。」「なるほどな、一番怨念のこもりやすいところというわけだ。」
凰華はくるっと踵を返した。
そして階段を降りる。
三下が怯えながらついてきた。
「この病院中を怨念で操るなんてとんでもないくらいヤバい霊じゃないですか!浄化するなど本当に出来るのですか?」
「しないとこの辺り一帯が全て亡霊で侵されてしまうぞ。」
そう言いながら凰華はヴァイス・フリューゲルを構えなおした。
そして地下の霊安室の扉を開け放った。
「誰!」
女の声が響き渡った。
それに凰華は静かに答える。
「天城凰華、退魔師だ。」
「私たちに何の用なの?」
「魂を浄化させにきた。」
凰華は槍をすっと彼女たちに向けた。
そして落ち着いた声で問いかけた。
「お前たちは何がしたい?何のためにここで他の霊を操っている?」
すると中央にいた女が真っ直ぐに凰華を強い瞳で見据えてきた。
「私達の居場所を作るためよ。ここで私達は子供を逃がせなかった。それが許せないの。火事の晩、看護婦は私達を見捨てて逃げたわ。それが何より許せない。患者を放り出して逃げた看護婦とその罪を許してしまった人たちが許せないのよ!」
そういうと女はぶわっとどす黒い玉を投げかけてきた。
それを凰華は槍でなぎ払う。
別の女が背後から襲いかかってきた。
それもなぎ払う。
と。
今度は女達は集団で凰華を囲むといっせいに凰華の身体に張りついてきた。
凰華の槍が一閃する。
しかし、1人の女がそれを抜けて身体に張り付いた瞬間、一気に身体の動きが重くなった。
『しまった!』
凰華は唇を噛んだ。
思うように動きがとれない。
「私達を浄化するなんて許せない!私達の居場所は奪わせない!」
首領格の女がナイフを取り出した。
そして凰華の胸に狙いを定める。
「あなたも私達の傀儡となりなさい!」
そのときだった。
三下が凰華にぶつかってきた。
水の膜が女達はじき飛ばした。
その隙を見逃す凰華ではなかった。
凰華はヴァイス・フリューゲルを構えると女たちに向けて光の水を繰り出した。
それに女達は呆然とした。
そこには失った赤ん坊達が笑顔で女達を手招きしていた。
凰華は静かに女たちに声をかけた。
「ここでなくともあなたたちには行く場所がある。みんなを解放して戻るべきところへ戻るんだ!」
「戻るべき場所・・・・」
1人の女が呟いた。
「ここにいてもあなたたちは永遠に孤独だ。それより待つ者のところへ帰るんだ。」
すると、1人の女が立ち上がった。
そして光に手を伸ばす。
光が彼女を包みこんだ。
女の手に赤ん坊が抱き寄せられる。
女の顔が張りつめていたものから1人の母の顔へと変わった。
それをみて1人・・・・また1人と女が光へと手を伸ばす。
やがて。
病院全体が光り輝いた。
次から次へと魂が浄化されていく。
三下が思わず呟いた。
「魂ってこんなに綺麗なものなのですか?」
凰華は何も答えなかった。
だが答えは凰華の見守る落ち着いた瞳が物語っていた。
魂の浄化。
何と嬉しいものだろうか。
見守るうちにやがて空気が澄みわたってきた。
そして光が納まったと同時に何かが落ちる音がした。
凰華が箱を開けてみるとそこには女達が持っていたのだろうへその緒が入っていた。
「どうするんですか?」
三下が尋ねると凰華はふっと笑った。
「もらっておくよ。いい研究材料になるかもしれない。」


数日後。
凰華の手にした新聞にはあの病院がようやく取り壊されたことが載っていた。
凰華は例の箱を手にするとくすりと笑った。
「さて研究でも始めるか。」
凰華の日常が再び始まろうとしていた。