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不思議なチョコレート。
「依頼したチョコレートは出来上がっていますか。」
バレンタインの前日、依頼者の少女は由比真沙姫を前に感情を押し殺した声でそう言った。
鏡の館の主、由比真沙姫はその少女に綺麗にラッピングされたハート形の包みを差し出した。
「依頼された品物よ。でも本当にいいの?かなり危険な代物だけど。」
由比真沙姫は珍しく依頼者に対し感情を見せた。依頼者が自分の娘の遥華と同じ年頃だからだろうか。
「いいんです。このチョコで思いが叶うなら。自分にも危険が迫るのはわかっていますでも・・・それでもいいんです。」
依頼者の少女はそう言うと、真沙姫に頭を下げると鏡の館を後にした。
真沙姫は鏡の館の居間の窓から少女の後ろ姿を見つめるとぽつりと呟いた。
「なーんか気になるのよね。」
そう言うとくるりと振り向きそして居間でテレビを見ながらくつろいでいた遥華に
甘えるように抱きつくと
「遥華ちゃん、あの子の事見て来てくれないかな?そうしてくれるとママとっても嬉しいんだけどなぁ。」
遥華はそんな真沙姫の態度に”仕方が無いなぁ”という表情を浮かべ
「わかりました。神聖都学園の生徒みたいだから、明日見に行ってくる。」
そう言う真沙姫へと答えた。その答えに真沙姫は遥華をギュっと抱きしめ
「ありがとう、遥華!大好きよ。」
その真沙姫の態度に遥華はいつもの事だ仕方が無いと思うと、明日追いかける少女の顔を思い浮かべた。
ー きっかけ ー
平野菜月はバレンタイン前日の夕方いつものように仕事を終え帰宅しようと道を歩いていた。
そして一人の少女とすれ違った時
「菜月!菜月!」
傍らの聖霊蒼イオナが突然平野菜月を呼んだ。平野菜月はいつもと違うその様子に驚き
「どうかしたのか?」
と蒼イオナへと話しかけた。すると蒼イオナはすれ違った少女を指差し
「制御しきれてない火を感じるわ」
と平野菜月に言った。平野菜月はすれ違った少女の後ろ姿を見つめると
「神聖都学園の生徒か・・・」
と呟いた。少女の鞄には神聖都学園の校章がついていた。
明日は友人に頼まれ神聖都学園の事務の仕事に行く事になっている。
「危険だから特別に水の神様に聞いたわ。明日の神聖都学園が危ないって」
蒼イオナの声に平野菜月は少し考えると
「確かめるか。」
そう言うと蒼イオナを見つめた。
蒼イオナは平野菜月を見つめると黙って頷いた。
ー 再会 ー
「おはよー。」
バレンタインの朝神聖都学園に女の子達の楽しそうな挨拶が響く。
由比遥華は昨日鏡の館に訪れた依頼者を探すべく朝早くから校門に立ち顔を一人一人確認していた。
母から頼まれた事とはいえ判っているのは「古川 真澄」という名前だけ。
巨大な神聖都学園の中からその一人を捜し出すのは困難と言えるだろう。
しかし由比遥華は根気強く校門でその女生徒を探し続けた。
そしてもうすぐ始業を告げるチャイムが鳴ろうという頃、校門に見知った顔が現れた
「あ!」
由比遥華とその人物は同時に声を上げた。
その人物とは平野菜月その人だった。
ー 危険なチョコレートー
「遥華ちゃん・・・」
平野菜月は由比遥華の名前を呼ぶと蒼イオナを見つめた
「この子から昨日の危険な感じがするわ。」
蒼イオナはそう言うと由比遥華の周りをぐるりと1周してみせた。
そして首をかしげると
「変なんだわ。危険な感じはするけどこの子はそれを持っていない。」
そう平野菜月に告げた。平野菜月は蒼イオナの言葉を聞くと由比遥華に訪ねた
「昨日、火に関連する品物に触ったかい?」
すると由比遥華は驚いた表情を見せ
「何で平野さんが知ってるの?」
と言った。由比遥華の反応に平野菜月は蒼イオナと顔を見合わせると昨日の出来事を話しはじめた。
全ての話を聞き終わると由比遥華は平野菜月へ昨日来た依頼者の話を話した。
昨日由比真沙姫が依頼者の少女「古川 真澄」に渡したチョコはドイツの炎の精霊使い見習いの作った「恋の炎のチョコ」だと言う事。
チョコを渡せば恋は叶うが炎の精霊は元々制御が凄く難しい事。
「ママは止めたんだけどその子はそれでもいい、思いが叶うならって。」
由比遥華は平野菜月へ昨日の様子を語った。
その言葉に蒼イオナは平野菜月へ
「見習いの作ったチョコは願いを叶えるだけでなくその少女の生気を焼く物って聞いたわ。そして他の人の生気をも求める。チョコの量の精霊の精気では人を殺める事はないものの生気を焼かれた者は無事で済まないって。」
蒼イオナの話を聞くと平野菜月と由比遥華は同時に
「ええっ!!」
と声を上げた。由比遥華が声を上げた事に平野菜月はさらに驚き、由比遥華へ振り向き
「遥華ちゃん、蒼イオナの声が聞こえるの?」
と聞いた。すると由比遥華は何でも無いというような表情で
「あれ?言ってませんでしたっけ?私不思議なモノが見えたり聞こえたりするんです。だからママの仕事の手伝いもしてるんですよ。」
と微笑みながら平野菜月へ答えた。平野菜月はその答えに納得すると
「じゃあ、古川さんを一緒に探す?」
と由比遥華に聞いた。由比遥華は平野菜月へ微笑むと
「その方が早そうですね。蒼イオナさんはチョコの場所だいたい判りますか?」
蒼イオナへ顔を向けるとそう尋ねた。蒼イオナは少し考えると
「うーん、今すぐにってわけにはいかないけど数時間あればだいたいの位置は判ると思う。」
そう由比遥華に答えた。その答えを聞くと同時に始業のチャイムが校内に鳴り響いた。
「とりあえず昼休みにまたここで会いましょう。私は授業があるし、古川さんがチョコを渡すとしても時間がある時だと思うから。」
由比遥華は鞄を抱えると平野菜月にそう告げた。平野菜月も
「そうだね。私も事務の仕事があるし、不安はあるけどあとは蒼イオナに探してもらおう。」
平野菜月は蒼イオナの方へ向くと由比遥華にそう答えた。
蒼イオナは二人を見つめると少し微笑み
「まかせるんだわ。昼休みまでには絶対位置を突き止めるから。」
そう二人にいうと校舎へと飛んで行った。
平野菜月と由比遥華もお互いのやるべき事をする為に校舎へと向かった。
そして時間は流れ午前中の授業の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。
ー 炎と水 ー
「だいたいわかったんだわ。高校の2年の教室に例のチョコがあるんだわ。」
蒼イオナは校門で待ち合わせていた平野菜月と由比遥華に言ってみせた。
平野菜月は蒼イオナに向かい
「まだチョコは渡してないんだね。」
と聞いた。その問いに蒼イオナは
「鞄の中にあるのを確認したから、今のうちになんとかすれば間に合うんだわ。」
平野菜月と由比遥華に向かいそう答えた。
その答えに平野菜月は満足すると由比遥華に向かい
「今のうちにチョコを回収しよう。」
真剣な顔で言い出した。由比遥華はその提案に少し悩んだが
「うーん、ママには悪いけど依頼料を返金してもらうしかないかなぁ。」
そう言うと平野菜月に向かい
「じゃあ、急いで回収しちゃいましょう。」
と言うと平野菜月と蒼イオナの方へ向くと二人に
「とりあえず2年の教室へ。」
そういうと校舎の高校2年生の教室へと急いだ。
校門から目的の教室までは10分とかからずにたどり着いた。
幸い教室には人がいなくて平野菜月と由比遥華はほっとした。
二人は蒼イオナの導きで「古川 真澄」の机にたどり着くと彼女の鞄を取り出し素早くハート形チョコを取り出した。
「よし。」
平野菜月は小さな声で呟くと由比遥華と共に教室をあとにした。
そして二人は人気のない校舎裏にたどり着くと持ち出したチョコを見つめた。
その時だった。
「違う・・・これ昨日渡したチョコじゃない!」
由比遥華が平野菜月と蒼イオナに向かい叫んだ。
「何だって!」
平野菜月と蒼イオナは近寄りハート形のチョコを見つめた。
「本当だわ。このチョコから制御しきれてない火は感じない。・・・ということは。」
そう蒼イオナが二人に語りかけたその時。
「嫌ぁー!!」
少女の悲痛な叫びが近くから聞こえた。
「この声!古川真澄の声だわ!!」
由比遥華の声に平野菜月と蒼イオナは古川真澄の声の方向へと走り出した。
「蒼イオナ。何か感じるか?!」
蒼イオナは走る平野菜月に向かい頷き
「制御しきれてない火だわ。暴走している!」
そう叫んだ。
「火が制御できていないの?」
平野菜月の後を追いかけてきた由比遥華が二人へと尋ねる。
その問いに蒼イオナは右手親指の爪を悔しそうに噛むと
「火が制御できれば私の力で何とかできると思うんだわ。火を何とかしないと・・・」
と答えた。その答えに由比遥華は少し微笑むと
「了解。火は任せて。」
そう言うといつもののんびりとした様子とは全く違う様子で平野菜月の前を走りはじめた。
平野菜月と由比遥華が「古川 真澄」の元にたどり着いた時そこには腰を抜かし立ち上がる事の出来ない男子生徒と青白い炎につつまれ、涙を流しながら苦しむ「古川 真澄と思われる女生徒がいた。
「くっ!」
平野菜月は小さく叫ぶと男子生徒に駆け寄り、ともかくここから離れるよう言った。
男子生徒は何とか立ち上がると炎に包まれた「古川 真澄」ちらりと見ながら声にならない声を上げて去って行った。
男子生徒がいなくなるのを確認すると蒼イオナは
「ここからが問題なんだわ。」
と眉をひそめ炎に包まれた「古川 真澄」を見つめた。
蒼イオナは水と温度を操る聖霊。平野菜月は蒼イオナを見つめると頷いた。
それを見た蒼イオナは目を瞑ると周りにある水をを集め青白い炎にぶつけた。
水と炎がぶつかる瞬間、水は水蒸気となって天へと上がって行った。
蒼イオナは悔しそうな顔を浮かべると平野菜月と由比遥華に向かい
「ダメなんだわ。温度が高すぎて私の力が通用しないんだわ。温度を何とかして下げないと。」
その言葉を聞くと由比遥華はゆっくりと「古川 真澄」へと近づいた。
「遥華ちゃん、危ない!!」
平野菜月は由比遥華に向かい叫んだ。由比遥華はその声に微笑みで応じると
「火なら大丈夫。火の温度を下げるから蒼イオナさんはすぐに水をかけて。」
そういうと「古川 真澄」に近づき手を握った。
「大丈夫。大丈夫だから。」
由比遥華は泣きじゃくる「古川 真澄」に話しかけると目を閉じた。
すると青白かった炎はその色を変化させ赤へと炎の色が変わっていった。
「な!」
平野菜月は短く叫ぶと、蒼イオナが神経を集中し水を集めはじめた。
「まだ、まだ何だわ。」
蒼イオナは由比遥華にそう語りかけると由比遥華はさらに力を集中し、炎の温度を下げていった。
由比遥華が苦しげな表情を浮かべはじめた瞬間
「まかせて!」
その言葉と同時に蒼イオナが水を二人の少女へ降り注いだ。
ジュ!
そんな音とともに大量の水蒸気が発生し平野菜月と蒼イオナの視界は遮断された。
「古川さん!遥華ちゃん!」
平野菜月は叫ぶと二人がいると思われる地点に駆け寄った。
水蒸気が段々と消えはじめ二人の姿が薄らと見えはじめた時
「何とか大丈夫みたい・・・」
という言葉と「古川 真澄」をかかえて地面に座り込んだ由比遥華の姿が見えた。
ー こころ ー
「ごめんなさい、ごめんなさい。」
古川真澄は俯き泣きながら平野菜月と由比遥華へ謝り続けた。
そんな古川真澄に平野菜月は厳しい顔つきになり
「君のした事は間違っているよ。」
といいながら古川真澄の方をしっかりと掴んだ。
「そんな力がなくとも心は通じるよ。君の心が彼にきちんと向き合う気持ちがあればね。」
そう言うと優しく微笑んだ。
古川真澄は俯いていた顔を上げ平野菜月を見つめると
「本当?」
と尋ねた。平野菜月は微笑みながら頷くと
「本当だよ。今度は自分の力で彼と向き合うんだ。そうすればわかるよ。だからもう他の力を借りて好きな人間の心を掴もうなんて思っちゃいけないよ。」
古川真澄をじっと見つめるとそう言い聞かせた。
古川真澄もその言葉に頷くと平野菜月と由比遥華に向かいぺこりと頭を下げ
「ご迷惑おかけしました。」
と二人に深々と頭を下げた。その行為に由比遥華は
「いつでもいいので鏡の館に来て下さい。今回の料金はお返ししますので。」
微笑みながら古川真澄に言った。その言葉に古川真澄は
「でも・・・」
戸惑いながら由比遥華を見つめたが、由比遥華は
「依頼はチョコレートで思いが叶う事でしたよね。思いが叶わなかったのだから料金はお返しします。」
微笑みながら古川真澄へと言った。その言葉に平野菜月も
「そうしてもらった方がいい。」
と言うと古川真澄はまた深々と頭を下げ
「ありがとうございました。」
そう言うと平野菜月と由比遥華の元を去って行った。
古川真澄の後ろ姿を見つめながら平野菜月は
「遥華ちゃんは火を操る事ができたんだね。」
そうぽつりと呟いた。由比遥華は悪戯な笑いを浮かべるとのんびりとした口調で
「そうですよ。生まれつきだから特定の人しか知らないし、見せないんですけどね。」
と平野菜月に語った。そして腕を後ろに組み平野菜月へくるりと振り向くと
「これで平野さんも私の秘密を知った人間という訳です。秘密ですから話さないで下さいね。」
悪戯な微笑みを浮かべると平野菜月に笑いかけた。
「あ、蒼イオナさんの事。内緒にしておきますから安心して下さい。誰にだって秘密はありますよねー。」
由比遥華の言葉に平野菜月は蒼イオナを見つめた。
「また不思議な事があったらご一緒したいですね。それじゃまた。」
そう言うと由比遥華は校舎の中へと去って行った。
そして昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
ー 平野菜月と蒼イオナ ー
「わりといい子みたいなんだわ。」
蒼イオナは由比遥華の後ろ姿を見つめながらぽつりと呟いた。
その言葉に平野菜月は驚き
「へー、蒼イオナでも女の子を褒める事あるんだな。」
と意地悪な言い方をしてみせた。その言葉に蒼イオナは
「失礼しちゃうんだわ!別に女の子だからとか関係ないんだわ!!」
と頬を膨らませると平野菜月にそっぽを向いてみせた。
そんな蒼イオナに平野菜月は仕方が無い奴だという顔をすると
「ほらそろそろ仕事に戻るから機嫌なおして。」
そう言うと校舎の方へと歩きはじめた。
蒼イオナはまだご機嫌斜めのようで平野菜月の言葉に耳を貸そうとしない。
(まあ、こんな関係だからいいのかも)
平野菜月はそう思いながら蒼イオナへと語りかけた。
そして二人はまたいつもの生活へと戻って行くのだった。
━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・
登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
整理番号 4715/ PC名 平野・菜月 (ひらの・なつき)/ 性別 男性/ 年齢 25歳/ 職業 フリーター(ソフトウェア会社)
ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
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不思議なチョコレートいかがでしたか?
楽しんでいただけると嬉しいです。
>平野菜月様
こんにちは、月宮です。
いつも発注いただきありがとうございますvv
今回は蒼イオナ大活躍なお話にさせていただきました。
蒼イオナとの関係も少し書かせていただきましたがこのような感じで大丈夫でしょうか?
また次回もよろしくお願いしますvv
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