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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


道連れ
●はじまり
『とうとう日本でも!? ネットゲームのやりすぎで死亡』
 という記事が雑誌で取り上げられた。
 死亡したのは35歳男性。ネカフェに通い詰めて、通しで2日間ゲームをしていてそのまま死亡してしまった、という事件だった。
 それはネット大国韓国ではきいたニュースだったが、日本でもそういった人が現れた。
 そしてそのニュースが飛び込んできてから数日、ネットゲームをやっている最中に気を失って倒れ、意識不明になる、といった事が多発していた。
 それもネカフェでゲームをしている人だけ……。

「これって絶対、ネカフェに対する挑戦よね!」
 鼻息荒く、瀬名雫はゴーストネットカフェにあるディスプレイを指さした。
 映し出されているのは、死人も出した今や世界中でプレイされているゲームの接続画面。
 絵本を思わせるようなキャラクターで、しかし世界は3D。職業性別によってかわる装備のグラフィックに、多種多様な職業。
 日本サーバーは全部で15。その中の一つに入って接続人数を調べてみれば6000人を越えている。
「被害にあった人たちは、気を失う前に『道連れにされる』と呟いたらしいわ。それってこの間の事件に関係あると思わない?」
 雫は振り返って真剣な眼差しで言う。
「お願い、みんなが安心してネカフェを利用できるように、助けてくれないかな?」

●本文
「ゲームやり足りないのかしら……」
 シュライン・エマは眉間に人差し指をあてて、考えるようにうつむく。
「最近のゲームというのは凄いな」
 ぽつん、と真ん中に立っているキャラの周りを色とりどり様々なキャラクターが通り過ぎていく。それを見ながら真名神慶悟は感嘆の息をもらした。
「これが例のゲームなのね」
 シュラインがマウスを動かして地面をクリックすると、とたとたとキャラクターが走っていく。
「うん。調べたところによると、事件があるサーバーもここで、ここ以外の人から犠牲者はでていないわ」
「それなら、最初の死亡者の主活動地域や職業、性別にレベル、名前、ギルド……みたいなのがわかるかしら」
 ネットゲーム関係にはうとい慶悟は、シュラインと雫の会話を黙って訊いている。
「私が使ってるキャラ、ここのサーバーじゃないから知り合いいないんで、なかなか調べるのが大変なのよね」
「でもネットゲームの事件で、自分たちのサーバーの住人なら何か知ってるかもしれないわね」
「誰かに訊ける事が出来ればはやいな」
「わかった。チャットたてて訊いてみるわ」
 言うと雫は一番人が多い場所にいき、チャットルームを作って人が入ってくるのを待つ。
「皆一様に道連れ、と同じ事を言っているのなら、ただの過労という訳ではなさそうだな」
「というと?」
「『道連れ』という言い回しはそれを為すモノの悪意を感じる。只のデータ異状によるものなのか、霊的な何かはわからないが。電脳と呼ばれる場所は全てが数値化された場所であるというが、この世も太極が二極に分割し陰陽という二元に分かれ次々に分岐していく四象八卦という謂わば霊的な数値や法則の連なりだ。理屈は同じ。電脳といえども陰陽は通用する」
「なるほど……。って事はこちら側から霊的力で影響を及ぼす事ができる、って事よね」
「そういう事になるな」
 雫がみごとなタイピングで色々な人と雑談を交えながら会話をしていくのを後ろから眺めつつ、慶悟は顎を軽くつまむ。
「私は死亡男性の現実の身辺調査するわ」
 電話使うわよ、とシュラインは人脈を使って死亡男性の調査をはじめる。
 シュラインが調べたのをまとめると、男の名前は檜川勇治(ひかわ・ゆうじ)36歳。
 住所不定で仕事は日当でやっており、ネカフェをねぐらとしていた。
 以前はちゃんとアパートに住んでいたようだが、家賃を滞納して追い出され、半年くらい前からネカフェで寝食をしていたらしい。
 葬儀は実家の両親が隠れるようにして行い、その実家の住所すら聞き出せなかった、という。
 警察関係のコネを使っても、それはプライベートの事なので、と聞き出す事はできなかった。
 そこで日当でつとめていた会社に電話をかけてきくと、仕事は真面目にしていたが、連日のゲームでの寝不足と疲労の為かミスが多く。お風呂にもまともに入っていないため、大分臭いがきつかった、と受けた人が言っていた。
 他の社員と交流はなく、仕事が終わり、給料を受け取るといつの間にか消えていた、と。
 今度はいつもいたネカフェへと連絡をつける。
 すると「いい迷惑なんだよね」と切り出しながら、シュラインに延々と愚痴を言い続ける。
 いつも同じ場所を使っていたらしく、そこがあいていないといきなり怒りだし。何日もお風呂に入っていない為、臭いが大変で、その部屋はとうとう誰も使わなくなった、と。
 日当のほとんどをネカフェ代とゲーム代に割り当て、朝出て行って夕方戻ってくる、という生活を繰り返していた。
 部屋に入ってる間はおとなしくトラブルもない。ただ、臭いの為に従業員がその部屋の注文を嫌がる、といった事もあった。
 シュラインは愚痴の合間をなんとかぬって電話をきると、大きくため息をついた。
「どうかしたのか?」
「なんでもないわ……精神的に疲れただけ……」
 ため息が聞こえたのか、慶悟に問われて、シュラインは力無く手をひらひらさせながら応えた。
「……雫ちゃん何かわかった?」
 一息ついてからシュラインは再び雫の後ろに立つ。
「あ、うん、ちょっと待ってね」
 チャットに入ってくれていた人に別れを告げて、雫は手元のメモを手に持つ。
「事件の人、ネカマさんだったらしいの」
「ネカマ??」
 雫の言葉に慶悟は「は?」と聞き返す。
「ああ、ネカマっていうのは、ネット上で女性のふりをしている人の事なんだけどね」
「ネットのオカマでネカマ……」
「うん。それでね……」
 と雫は使用キャラの名前、職業レベルなどをあげていく。
「ゲームしていきなり動かなくなって、みんな寝落ちだろー、って事で、アクティブの敵もいないところだったし、そのままにしておいたらしいのね。そしたら翌朝事件になってて、しかもその子の事らしい、っていうんで大騒ぎだったらしいの」
 最初は死んだのが男性で、寝落ちしていたのは女性キャラだし、本人も女性、みたいな事を言っていたから誰も気にしてなかったらしいが、同じギルドのメンバーにゲームマスターらしき人から訊ねられた事もあり、もしかしてあの子が……という話しになっていたのだという。
 しかもその後被害にあっているのは、その日一緒にいたメンバーばかり……。
 怖くてゲームに入ってこなくなった人もいる、という話しだった。
「消えたメンバーの中で、何かおかしな事を言ってた人はいなかったか?」
「あ、えっとね……二人くらい消える直前にあの子がいる、って言ったらしいの」
「あの子、ってその男性のキャラクターの事ね」
「うん」
「って事は、キャラクターが接触していた、って事か…」
 慶悟は顎を撫でながら画面を見つめる。
「そのキャラクター…でてこないかしら」
 出てくれば慶悟が干渉できる、といった以上、こちら側と接触する事は可能だ。
「少し、残ってるメンバーと行動一緒にして貰おうか?」
「……そうだな」
 慶悟とシュラインが頷いて、雫は再び画面へと目を向けた。
 そして2・3話をした後、どこかに一緒に歩いていく。
「それにしても……これが全員人間がやってるんだよな……」
 何人暇人がいるんだ、と呟く慶悟。それにシュラインはくすっと笑う。
「他の人が普通にテレビゲームをしたり、飲みにいったりパチンコをしたり雑談したり、という時間を、この人達はネットゲームにあてているだけよ」
「ふむ……」
 それにしてもよくもまぁこんなに人がいるものだ、と感心してしまう。
「!?」
 瞬間、慶悟の背中に寒いモノが走った。
「とまれ」
 急に言われてびっくりした雫のキャラが立ち止まる。
 それにあわせて他のキャラクターもとまり、どうしたの? と声をかけてくる。
 そして画面にふっと現れる女の子の姿。
 みな一様に戸惑いを隠せないように雫のキャラの後ろにまわる。中にはその姿が見えた瞬間おちた子もいた。

『こんにちは^^』
 その女の子は言う。しかし誰も応えない。
『ゲーム、やりすぎはダメよ?^-^』
 にこにことした顔文字をつけながら、すっと近寄ってくる。
『私みたいに……死んじゃうから……ふふふふ^^』
『ねぇ、一緒にいきましょう? ずっと一緒、って言ってくれたじゃない?^^』
 立て続けに独り言のように言葉が続く。
『旅は道連れって言うわよね…死への旅路、一緒に行きましょう? ね^^』
 雫やシュラインの身体にも悪寒が走る。雫以外のキャラクターは凍り付いたように動かない。
 パソコンの前でどうなっているか、さえわからない。
 刹那、慶悟の鋭い声が響いた。
「縛!」
 スススっと移動してきたキャラクターが、ピタッと動きをとめた。
『どうして邪魔をするの?』
 くるっとキャラの顔だけが、画面の外の慶悟の顔を見つめる。
 しかし慶悟は応えず【魂を引き去る事を禁じる】禁呪を使う。
「一人が寂しい、仲間がほしいからと言って、生あるものの命を奪うのはよくないわ」
『それは綺麗事でしょ? みんな仲間がほしい、誰かと一緒にいたい、かまってほしい。だからこうしてここにいるんでしょ?』
 何故か画面が少し、近くなった気がした。
「そしてどうする? 他人の苦しみを背負ったまま、お前は浄化できるのか?」
『……』
 また画面が近くなる。
「結局お前、という彷徨える魂の仲間が増えるだけで、誰もうかばれん。……まだ間に合う。連れ去った魂を返し、お前はいくべき場所へ行け。俺が導いてやる」
『うるさい!!』
 画面が近くなったわけではなく、キャラクターが大きく、こっちによってきているだけだった。
 画面いっぱいに映し出されるキャラクターの無表情な顔。
『黙っていれば好き勝手に! お前に俺の気持ちがわかるのか!? ここにしか居場所がなかった俺の気持ちがわかるのか!!??』
「わかるわけねぇだろっ、俺はお前じゃない! なに甘えた事ぬかしてんだ」
「人はみな、自分の居場所をいつだって求めてる。いくらここがあなたの居場所だったからって、他の人の居場所を奪っていい、って事にはならないわ」
 怒鳴った慶悟の横で、シュラインが冷静に語る。
「みんなと出会って、一緒に冒険して、話しして…楽しかった頃の事を思い出して? それを今、あなたは奪おうとしているのよ?」
『うるさいうるさいうるさい!!』
 画面を多いつくさん勢いで『うるさい』の文字が躍る。
「もうあなたはわかっているはず……本当はこんなこと、したかった訳じゃないんでしょ?」
 画面がいきなり切り替わり、ゲームをしている画面がフラッシュバックのように通り過ぎていく。
 それは男性のキャラクターと他のキャラクターが仲良く狩りをしていたり、雑談をしているところだった。
『うる…さい……』
「いくぞ?」
 ため息混じりにいった慶悟の言葉に、女の子の顔は元の大きさに戻り、こちらをむいて立っていた。
 慶悟が呪言を唱えると、女の子の姿はゆっくりと消え、完全に消える直前、『ありがとう』のエモーションを出した。
 女の子の姿が消えた後、しばらくの沈黙の後、他のキャラクター達が矢継ぎ早に話しはじめた。
 本人達は画面が真っ暗になり、その真ん中に男性のキャラクターが立ち、じっと見ていた、という事らしいが、急に画面がかわったと思ったら元に戻った、という事だった。
 後に意識不明だった人たちが、意識を取り戻した、という速報がテレビに流れる。
 それに安堵し、雫は二人を見て笑う。
「ありがとう」
「どういたしまして」
「ま、最悪の事態にならなくてなにより、だ。……しっかし……」
 戻った画面を見つつ、慶悟が呟く。
「何事もやりすぎには注意、ってこったな」
「そうね」
 シュラインの肩をすくめてため息をつき、同意した。
 今日もまた、ネットゲームの世界は、人で沢山、にぎわっている……。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女/26/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0389/真名神・慶悟/男/20/陰陽師/まながみ・けいご】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、夜来です☆
 今回の題材はネットゲーム。前にはとりあげましたが、今度は外から見てる、という普通(?)の状況で。
 私もネットゲームやってる一人なので、こんな話しにしてみましたが……。
 また次の機会にお会いできる事を楽しみにしています☆