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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


薬箱

●序
「さて、と……、とりあえず来た人間に頼んでみるかね」
 そうアンティークショップ・レンの店主、碧摩蓮(へきま・れん)はたった今連絡を受けた事について考えをめぐらした。
 その連絡とは鎌倉にあるとある古い倉で見つかったという幾つかの陶磁の焼き物を引き取って欲しいと云うものだった。
 ただ、問題はその焼き物ではなく、その焼き物の収められていた箱に書かれていた名前であった。
 本来ならば、その焼き物を作った人間の名前が書かれているはずの所には焼き主ではなくとある薬師の名前が書かれていた。
 その薬師は江戸時代に薬作りの名人として名の知られた人物であった。
 ただいわゆる病気を治す薬ではなく、さまざまな特別の効果を持った薬を作るのに長けている事で有名な人物であった。
 その薬は毒に関するものは作られたという記録は無いが、様々な騒動を引き起こす原因になった、と言う事だけは枚挙に暇が無いほど記録に残っていた。
 今回の薬は中身も効能もいまだわからないでいたが珍しい物であるのは確かであった。
 蓮が頼みたい事というのはその倉からその薬を預かってきて欲しいと言うものであった。
「本来ならあたしが取りに行った方が良いんだろうけどね。ま、今日ここに来る人間に頼むというのも何かのめぐり合わせなんだろう」
 蓮はそう呟くと自分の店に、その薬を取りに行くのを手伝ってくれそうな人間が現れるのを待つことにした。

●集まり
 薬箱を取って来て欲しいというレンの願いはしばらくして叶えられた。
 アンティークショップ・レンに集まったのは谷戸和真(やと・かずま)、梅海鷹(めい・はいいん)、モーリス・ラジアルの三人であった。
「つまり、その薬箱を私たちにとって来て欲しい、そういうわけですね?」
 モーリスが蓮にそう問い返す。
「ま、そういう事だね」
「江戸時代の希代の薬師の作った薬ですか、ちょっと楽しそうですね。私も獣医とはいえ医者の端くれどんな物か興味がありますし、お手伝いしますよ」
 モーリスと海鷹が薬に興味を示し、その依頼を受ける事を同意する。
「俺もちょっと面白そうだから参加させてもらうよ」
 そう言って同意した和真は何処か悪戯前の子供のような笑みが浮かんでいた。
 和真の笑みをみて、薬というものに対し、扱い方を心得ているモーリスと海鷹は少し警戒した目で和真の事を見るのであった。

●運搬
 鎌倉にあるというその倉へ向かった一行はその倉の主人から五つの木箱を渡された。
「ああ、あなた達が蓮さんから連絡のあった運んでくださる方たちですね?私達は、こういう物を運ぶのに慣れていませんから……。よろしくお願いします」
 家の主人はたまたまでかけていて、その妻であろう人物から箱を渡されながら、一行はよろしく頼みますと念を押される。
「ええ、任せてください、しっかり送り届けますよ」
 モーリスがその妻に女性なら誰でも思わず見とれてしまうであろう笑みを浮かべ答える。
「そんな事はどうでも良いからさ、とっとと行こうぜ」
 そんなモーリスたちを和真が急かす。
「急いては事を仕損じるともいいますし、そんなに急がずに行きましょう、和真クン」
 海鷹が急ごうとする和真をなだめる。
 しばらく後、受け取りに不備がないかの確認などが終わると、一行はそれぞれが分担して木箱を持った。
 モーリスと海鷹が二つずつ、和真が一つ持つ事になった。

●箱の中身
 倉のある家を離れ、アンティークショップ・レンへの道へとついた一行であったが、やはり皆自分の持っている箱の中身が気になってしまう。
 そしてふと三人の視界に誰もいない小さな公園が視界に入ってくる。
 公園を見つけると、和真がにやりと何処か悪戯っぽい笑みを浮かべると公園の中に入って行った。
 その和真をみて、海鷹が慌てて和真を追いかけて公園に入って行く。
「おい、ちょっと和真クン、どうしたんだ?」
「だってこんな面白そうなもの持ってるんだ、何なのか試してみようぜ?」
「おいおい、面白そうって、それの効果は判っていないんだよ?」
「知ったこっちゃないよ。楽しそうなんだから」
 そう言って、持っていた箱を空けようとする和真を海鷹が取り押さえる。
「うーん、でも和真君のいう事も一理ありますね。楽しそうですし、ちょっと開けて見ましょう」
 そう言って海鷹が和真を取り押さえている間にモーリスが蓋を開ける。
 小箱の中に入った小さな壺の蓋をモーリスがそっと小さく開ける。
 蓋の下に入っているのが粉を確認すると、吸い込まない様にモーリスは自らの能力で遮断したその時、公園の中を一陣の風が吹いた。
 モーリスの持っていた壺の中から風に乗って中に入っていた粉が中に舞う。
 そしてその先にいたのは、海鷹に抑えられていた和真であった。
「離せ、離せって……くしっ」
 海鷹から逃れようと暴れていた和真はその粉を思いっきり吸ってしまった。

●犠牲者
 和真がその粉を吸ったのを見てモーリスは興味深々に和真の事を見た。
 しばらくして和真の表情に変化が現れはじめた。
「あ……あの離していただけませんか?」
 後ろから押さえ込んでいる海鷹に対し、今までとは明らかに違う何処かおどおどとした口調で離して欲しいと懇願する。
 今までとは余りに違うその態度に思わずあっけにとられた様に海鷹は和真の事を離す。
「ど、どうした?大丈夫か?」
 思わず心配になり和真の事を覗き込む海鷹。
「は、はい大丈夫です。少し痛かっただけなので……」
「そうですか、それはよかった」
 ほっとした様に海鷹は胸をなでおろす。
「やれやれ、これは楽しい事になりましたね」
 モーリスはそんな二人の様子を楽しそうに眺める。
「あの……この僕の持ってる壺開けちゃまずいでしょうか?」
「ダメだ」
 その和真の言葉に海鷹がキッパリと答える。
 海鷹としては薬の効果に興味はあったが、モーリスの持っていた薬でさえこれだけの効果があったのだから、これ以上混乱したくない、というのが本音であったからだ。
「そうですか……」
 明らかに海鷹の言葉に落ち込む和真をみて、海鷹はモーリスに耳うちをする。
「おい、どうするんだよ、これ。治せる事は治せるのかもしれんが、薬の成分が判るまでこのままにしておくつもりか?」
「いえいえ、そんな事はないですよ、ちゃんと私が責任持って治しますから、ご安心ください。でも今の所はこのままの方が良いんじゃないでしょうか?下手に何かされるよりは、ね?」
 モーリスは楽しそうに海鷹に答えると海鷹も腕を組んで和真の様子を伺う。
 先ほどまでとはどう見ても態度や話し方が違うのを見て、小さく頷く。
「そうだな、確かにこのままの方がいいのかもしれん。さっきまで何やら良からぬ事を考えていた風にも取れたしな」
「ええ、私もそう思います」
「それに私なりに件の薬師の事を以前調べた事があってな、こういう可愛げのある薬ならいいのだが、もっと色々妙な薬を作っていたりとかもしていたらしく、そういう物だった場合責任は取れないしな」
 海鷹のその言葉に意外そうな顔をするモーリス。
「そうだったのですか、へぇ、それはぜひ私も今度調べて見る事にしましょう」
 モーリスも一応医師として働いている事からの興味もあったが、それ以上に自分の興味の方が先にたっていたのは間違いが無かった。
「で、この和真クンはどうするんだ?」
「レンについたら治しましょう、それまではこの方が多分良いと思いますし」
「判った、それじゃそうするか」
「……あの、僕何か悪い事しました?」
「いや?特に何もしてないですよ。それよりも私達は仕事がまだ残っているわけですし、先を急ぎましょう」
 モーリスがそう促し、一行はレンへの道を再び歩み始めた。

●アンティークショップ・レン
「で、ついてしまった訳だが、和真クンはどうするんだ?」
 アンティークショップ・レンに着いたはいいが、いまだに何処かおどおどとしたままの様子の和真を見て海鷹がモーリスに問う。
「そうですね、ここまできたのですから戻してあげましょうか」
 モーリスが自らの調律師としての力を使い、和真の体内にある、薬の成分を中和する。
 しばらくして、和真はさっきまでのおどおどした様な表情は消えてなくなり、いつもの表情に戻っていた。
「あれ?いつの間にここまで来てしまっていたんだ?」
 狐につままされたような顔をして自問自答をする和真を見て海鷹とモーリスは思わずこみ上げてくる笑いを堪える事ができなかった。
「まぁ、何にしても無事運んでこれたんだ。レンさんに渡してきてしまおう」
 海鷹がそう言って、レンの扉を開けゆっくりと店の中に入って行った。
 店の中に入った一行はレンに持ってきた木の箱を渡す。
「どうやら中身は本物らしいですよ。そこにいる和真さんが実践してくれましたから」
 そう言って、先ほどまでの事をレンに話す。
 本当なら自分が誰かを実験台にしようと考えていた和真は自分で体験する事になり悔しそうな顔をする。
「まぁ、どうやらこれは性格を変える薬だったみたいで、他は知りませんけどね」
 海鷹がそう説明する、その顔は他の薬の効果も知りたい、とあからさまに書いてあったが。
「ふむ、そうかい、それじゃちょいと他の薬も調べて見る必要があるかもね……」
「あーそれは私にやらせていただけないでしょうか?こう見えても医者の端くれです、非常に興味がありますので」
「だったら私も手伝いますよ」
「そうかい?そうしてもらえると助かるね」
 海鷹とモーリスの提案にレンが応じる。
 そしてしばらく後、二人に小さな小袋に入れられた、薬のサンプルが手渡された。
「それじゃ俺はその結果がどんなものか聞きに来る事にするよ」
 自らはそういう事を調べる事のできない和真はそう言うと、二人が報告しに来る日時を聞くとレンを後にした。

●効果
 そして数日後、アンティークショップ・レンには再び海鷹、モーリス、和真の三人が集まっていた。
 海鷹とモーリスが薬の効用を調べてそれを報告するためであった。
「で、どんな効用だったんだ?」
「まぁまぁ、そう結論を焦らないでください」
 モーリスがそう言って和真を宥める。
「と言っても勿体ぶるような物でもないんで、ぱぱっと言ってしまうよ。」
 そう言って海鷹が薬の説明を始める。
「まずどの薬にもいえる事だが、どうやらずいぶん劣化してるのか、元からそういう風に作ったのかは正直わからないが、効果は二十四時間きっかり、連続使用しても殆ど効果はないと云う事だ」
 そこまで言って海鷹は四つの壺と一つの壺を置き分ける。
「私からも説明しましょう。海鷹さんの置き分けたこの壺、こちらの一つは失敗作なのか、何の効果もありませんでした。強いていうなら、美味しい、という位でしょうか」
「その通り、多少甘味が強いというだけで、何の変化も起こらなかった」
 そこまで説明すると和真が口を挟む。
「そんな事よりも、他の薬の効果を早く教えてくれよ」
「はいはい、判りましたよ。えーと私達が調べた結果それぞれの効果は惚れ薬、正確転換、気分高揚、容姿変更のそれぞれの効果があるのがわかりました」
「容姿変更?」
 和真が疑問に思い問い返す。
「はい、何というかこう普段無いような物が生えて来る、とかそういう物ですね」
 海鷹が苦笑しながらそう話す、何か嫌な事でもあったのであろうか。
「まぁ、どの薬にもいえる事ですが、どの薬も効果は判りましたが、成分などから再現は不可能、という事ですね」
 少し残念そうにモーリスがそう話す。
「ま、あんたらがそういうならそうなんだろうな」
 和真がようやく納得言ったように頷く。
「ま、そういう訳です。これで今回の依頼は終わり、ですよね?」
 そう海鷹がレンに問う。
「そうだね、ありがとう、助かったよ」
「いえいえ、困ってる女性を助けるのは、私の仕事だと思っていますから」
 レンはそう三人に礼をするとモーリスは少しおどけた口調で答える。
「ま、何にしてもこの薬はそのままにしておくのもあれだからあたしに所でしっかり預からせてもらうよ」
 そのレンの言葉で、この依頼は締めくくられた。


Fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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≪PC≫
■ 谷戸・和真
整理番号:4757 性別:男 年齢:19
職業:古本屋店主

■ 梅・海鷹
整理番号:3935 性別:男 年齢:44
職業:獣医

■ モーリス・ラジアル
整理番号:2318 性別:男 年齢:527
職業:ガードナー・医師・調和者

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■         ライター通信          ■
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 どうもこん○○わ、ライターの藤杜錬です。
 この度はレン依頼『薬箱』ご参加ありがとうございました。
 いかがだったでしょうか?
 楽しんでいただけたら幸いです。

2005.02.18.
Written by Ren Fujimori