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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


連れさらわれた桃太郎




□始まり

 
 その日、因幡 恵美はあやかし荘の中を徹底的に掃除していた。
 朝も早くからゴソゴソと起きると、パッパと身支度をしてセッセと箒で床を掃いているのだ。
 恐ろしく長い廊下も、いくつあるか知れない部屋も・・目がついたところからテキパキと掃除をしていたのだ。
 「やっぱり、今日は天気も良いし掃除日和よね〜♪」
 鼻歌でも歌いそうなくらい上機嫌にそう呟く。
 ・・が、生憎外は雨だ。
 まったく天気は良くないし、これが掃除日和なのだろうかという疑問もある。
 しかし、恵美にとって今日は掃除日和の良い天気なのだ。
 そんな、まったくわけの分らない矛盾を抱えたまま、長い廊下を掃く。
 と・・動かす箒の先に映る、ピンク色の丸いもの。
 「え・・桃・・?」
 箒に当たり、コロコロと間抜けに転がる桃。
 恵美はそっとそれを持ち上げた。
 「なんでこんな所に桃なんか・・?」
 そう呟いた時、急に桃が光り輝きだした!
 「えぇっ!?」
 驚く恵美の目の前で桃は二つに割れ、その中から小さな男の子が出てきた。
 ・・・それにしても、桃の大きさと男の子の大きさは合っていなかった。
 普通サイズの桃の中から、普通サイズの赤ん坊が生まれててきたのだ。どう考えてもおかしい。
 「なんで男の子・・!?」
 驚く恵美をよそに、男の子は目の前でグングンと成長して行った。
 そして・・・ものの1分ほどで17,8くらいのの男の子になってしまったのだ!
 「えぇっ!?何で!?え・・桃太郎さん!?」
 開いた口が塞がらない状態の恵美の前で、突如出現した扉から鬼が2人出てくる。
 まさにリアル桃太郎だ。
 ・・・いや、そんな事はどうでも良い!それよりも、一体何が起こっているのか皆目検討がつかない!
 廊下から転がってきた桃、中から現れた桃太郎。そして・・突如出現した扉より来た、鬼・・・。
 目の前で対峙する、桃太郎と鬼・・・そして・・・一撃でやられる桃太郎。
 「・・弱いわね・・・。」
 思わず零れるため息。
 そして・・・恵美は鬼達に担ぎ上げられると、のびている桃太郎と一緒に突如現れた扉の中へと連れ込まれてしまった・・・。
 パタリと閉まる、扉・・・。
 「た・・・大変だーっ!!」
 その一部始終を影から見ていた柚葉はそう叫ぶと、あやかし荘の外へと駆け出して行った。


 ●本郷 源

 ダッダッダッダッダッダッダッダ・・・・!!!!!!
 「な・・なんじゃ!?」
 部屋の前を全力疾走する音を聞き、パチパチとソロバンを弾いていた指が止まる。
 「大変だーーーーっ!!!!!」
 一拍置いてから、凄まじい絶叫が遥か遠くで聞こえ・・・。
 本郷 源は小首を傾げると自室“薔薇の間”よりはいだした。
 あの声は柚葉のものだが・・一体何が大変だと言うのだろうか??
 走っていた音がパタリと止み、数拍の間の後で再びダカダカと言う音があやかし荘全体を揺らす。
 「大変だーーーっ!!!」
 そして廊下の端から走ってくる、柚葉の姿・・・。
 「なんじゃ、柚葉殿。一体何が・・・」
 ダッダッダッダッダ・・・・・ゴンっ!!
 呼びかけた源の横を通り過ぎ、走り去っていく柚葉が壁に激突する。
 あれだけ全速力で走っていたら、そりゃぁ止まれない・・・。
 「あいったたたぁ・・・。」
 「ふむ、大丈夫か?随分慌てているようじゃが・・何かあったのか?」
 「あっ!!聞いてください!大変なんです!桃太郎が、鬼がっ!!扉が!!」
 まったく要領を得ないながらも、源ははっきりと単語を聞き取っていた。
 “桃太郎”“鬼”
 つまりは、合戦だ!
 「よし、分かった!それなら早い所装備を整えるのじゃ!」
 源はコクリと大きく頷くと、あやかし荘の外へと飛び出して行った。
 ぽかんとその背中を見つめる柚葉の頭の中は、ハテナマークでいっぱいだった。
 それにしても、あの説明で本当に源は分かったのだろうか?
 ・・・少々ずれてはいるものの、当たらずとも遠からず。
 源の装備は後々役に立つのだが・・・それはまだ誰も知らない。



□昔々・・・

 「ここですっ!」
 ピっと指された部屋、何の変哲もない扉に一同は視線を合わせた。
 「ここから本当に鬼が来たのか?」
 兜鎧に身を固め薙刀で武装した本郷 源が、やる気満々で扉と対峙する。
 コレは街中で見たならば何の時代映画の撮影かと、辺りを見渡してしまいたくなる・・・。
 「鬼は怖いです…。でも怪我等をされたらと心配ですので・・・。」
 オロオロと、控えめに話すのはシオン レ ハイだ。
 その手にはなぜかお重が握られている・・・。花見にでも行くのだろうか・・。
 『とりあえず、早く鬼退治に行こうよ!』
 『そう焦ったらダメだよ〜!』
 何処からともなく声が聞こえ、一同がオロオロと辺りを見渡す・・・。声の発信源はつかめるものの、当の発信源は稼動していない。
 彼の名前は新開 直。
 腹話術が出来る予備校生だ!
 「とりあえず、こっちは鬼退治の専門家がついている!楽勝だぜっ!」
 そう言って、ビっと親指を突き出したのは不動 修羅。
 彼は今しがたまで源頼光から鬼について色々と聞いていてらしい。
 天下の頭脳ここにあり!な、感じで・・かなり心強い。
 「ちゃっちゃと行って、ちゃっちゃと終わらせるぞ!」
 そう言って、既に扉の中に入ろうとしているのはジョン ジョブ ジョーだ。
 既に右手はノブにかかっている・・・。
 「それじゃぁ、気をつけて!」
 シュパっと敬礼をすると、柚葉は一目散に何処かへと走り去って行ってしまった・・。
 「つまり、わしらで行けと・・そう言う事じゃろうか?」
 「そうなんじゃねぇの?」
 ジョンが曖昧に頷き・・扉を開けた。


 * * * * * * * * * * * * * *

 昔々、ある所におじいさんとおばあさんが・・・・。

   中略

 そして桃太郎は鬼ヶ島に向けて(修正)

 “鬼によって連れさらわれた桃太郎を助けるべく、5人の勇者が降り立ちました!!”
 
 * * * * * * * * * * * * * *


 ぽんと降り立ったそこは緑の平原だった。
 茶色い砂の道だけが、前後に一直線に伸びている・・・。
 「ここはどこじゃ?」
 「普通に考えて、これからお供の者を迎えに行く所じゃないですか?」
 源の呟きに、シオンが優しく答えてあげるが・・ちょっと違う気がする。
 『それじゃぁこれからお供の者と共に鬼が島へれっつ☆ゴーだね♪』
 『ワクワクだね!』
 「・・キミの口と声は別々に機能しているのか?」
 修羅が直に向って小首をかしげる。
 直はブンブンと首を振ると、何事かをパクパク言い始めた。
 しかしそれは音を伴わないものであって・・読唇術を必要とするものだった。
 「・・あ、声だすの忘れてた・・。」
 しばらくパクパクしていた直が、少々照れたように頭をかき・・・一同をこけさせる。
 「分かった。とりあえず、声がでてりゃぁ何でも良い!」
 ジョンがガシっと直の肩を掴んでそう言うと、ズンズンと歩き始めた。
 それにしても・・・なんとも古い雰囲気のする場所だった。
 風は緑を運んできて、穏やかに香る。
 「のどかですねぇ・・。」
 シオンがお重を持ったまま、にこやかに風の匂いを楽しむ。
 「のどかじゃのぉ・・。」
 源が鎧を着たまま、にこやかに・・・。
 なんだかちょっと違う気がする。
 今から直ぐにでも戦になりそうな格好をしながら、のほほんと、表情だけはお茶でも飲んでいるようだ・・・。

 * * * * * * * * * * * * * *

 そして一行は、犬さんに出会いました・・・。

 * * * * * * * * * * * * * *


 どーんと道端に寝転ぶ茶色い塊。
 一番最初を歩いていたジョンは、それを見て一瞬だけひるんでしまった。
 コレは一体何なんだ・・?
 直ぐ後、駆けつけたシオンが引きつった表情をするジョンに優しく答えてくれる。
 「犬さんですよ〜。」
 ・・・あの警戒心の強い犬が、何でこんな所でごろ寝をしているんだ!?
 昼下がりの主婦じゃあるまいしっ!
 「・・・あ〜・・なに、お前ら。俺になんか用?」
 ゴロンと振り向いたそこ・・人間の顔・・・。
 『大変大変!人面犬だよ!』
 『どうしよう、どうしよう!』
 「・・・して犬、なんでそんな所で寝ておる?」
 「桃太郎来んの待ってんの〜。」
 「そのような格好でか?」
 「格好の指定はないからこれで良いの〜。」
 なんともむちゃくちゃな犬である。
 「ちなみに、桃太郎ならここには来ねぇぞ。鬼にさらわれちまったからな。」
 ジョンの言葉に、犬が僅かに顔をしかめたが・・すぐに元通りのだらけた顔に戻る。
 「あ〜それじゃ、俺はお役ごめんという事で・・・。」
 「いや、ダメだろう。」
 マッハで突っ込みを入れたのは修羅だ。
 「・・・そうだ。」
 修羅は何かを思いつくと、そっと瞳を閉じた。
 そして・・・“頼光から坂田公時に降霊をチェンジした”
 チャラララッタラ〜と言う、ファンファーレのような音が何処からか鳴り響く・・。
 これは昔話と言うよりはゲームだ。
 「なにそれ。」
 「知っている名前で言うならば、金太郎だ。」
 犬が“とんだ太郎違いだよ”と言うような、少々馬鹿にした顔をしたが・・別に金太郎で良いのである。
 「あーもー、五月蝿いなぁ。んじゃ分かった。腰につけたきび団子くれ。」
 なんとも横柄な態度で物を要求する犬。
 自己中甚だしい。
 「あ、お団子です。どうぞ。」
 シオンがにこやかに“お腰につけたきび団子”を手渡す。
 ・・・なぜきび団子を持っているんだ、シオン・・。
 犬は少しだけ遠くを見た後に、ガガガっと団子を口にほうばった。
 「んじゃば仕方ねぇ。一緒に行ってやろう。」
 何様だと問いたくなるような横柄な態度で“2足歩行をする犬”!!
 「こっちの方が速いんだよ。」
 そちらの方が速かろうが遅かろうが・・絵的にどうかと思う。

 * * * * * * * * * * * * * * *

 犬さんを仲間にした一行は、ズンズン道を歩き続け・・

 そしてキジさんに出会いました!

 * * * * * * * * * * * * * * *


 「光速ドリルスピンっ!!電撃アターック!!」
 そんな声が何処からともなく聞こえ、一行は思わず歩を止めた。
 キューンと言う、丁度飛行場の近くにいるときに聞こえてくるような音があたりに響き渡っている。
 「なんじゃ?」
 「・・上の方から・・。」
 上を向いた修羅とジョンの顔が引きつり、修羅が直を、ジョンが源を掴んでわきに転がった。
 一拍遅れてシオンも犬を掴んでわきに転がる。
 そして、先ほどまで一行が止まっていた所に上から何かが衝突し・・地面を怖いくらいに深く抉る。
 「こ・・これは・・。あそこにいたらどうなっていたのじゃ・・?」
 「あの地面と同じになっていただろうな。」
 プスプスと煙を上げる地面。
 サーっと血の気が引くのが分かる。
 「んで、何が落ちてきたんだ?隕石か?大砲か!?」
 隕石も大砲も、落ちてきては困る。
 そもそもここは物語のなかなわけであって・・。
 「キジだ。」
 「え?」
 やけに台詞がかった口調で、挙句カメラ目線でビシっと言い放ったのは犬だった。
 無論一同にカメラなんて見えていないので、犬は明後日の方向を向いて話しているように見える。
 なんとも皮肉である。
 「って、キジ・・ですか・・?」
 ポカンと呟くシオンの頭に、あの声が聞こえてくる。
 そしてそれは同時に一行も思い出していた。

 『光速ドリルスピンっ!電撃アターック!!』

 技名・・だったのであろうか??
 ジョンが巨大な穴に近づくと、その中から何かひょろりとしたものをつかみ出した。
 ・・確かにキジだ。
 目を回しているようだがキジだ。間違いなくキジだ。
 『ねぇねぇ、これも人面なんだね。』
 『なんて言うんだろうね。人面キジ?人面鳥?』
 どちらにせよ、犬よりも怖い。
 なにせ顔の面積が狭いのだ。その中にぎっしりと人間たるパーツがはいっているのだから・・えらいこっちゃの大騒ぎだ。
 「うぉ!?なんだ、犬じゃねぇか。久しぶ〜・・って事は、コイツラが桃太郎なのか!?そうかそうか、桃太郎って言うのは団体名だったのか!」
 違うのだが、キジは納得してしまっているらしく・・ジョンの手の中でバッサバッサと羽を羽ばたかせている。
 ジョンが思わずボトリとキジを落とす・・。
 「そっか、んじゃ団長さん。きび団子くれ。」
 羽を出す先には、鎧を着込んだ源の姿があった。
 どうやら源がこの・・“団体名:桃太郎”の団長だと思われているらしい。
 「い、いや、わしは。」
 「きび団子ならこっちですよ〜。はい〜。」
 「おう、こっちが団長さんだったか!」
 シオンの手からきび団子を貰うと、キジはペシっと自身の羽で頭をはたいた。
 やけに江戸っ子なキジである。

 * * * * * * * * * * * * * * *

 犬さんとキジさんを仲間にした一行は、サクサク歩き続け・・

 そして猿さんに出会いました!

 * * * * * * * * * * * * * * *


 ・・・・・・・・・・・。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 ・・・なんでこんな所にナマケモノが・・?
 一行は思わず立ち止まると、目の前に生えている木を凝視した。
 デーンと構える大きな木、そこにぶら下がる・・どう考えてもナマケモノスタイルの茶色い物体。
 「あれは猿だな。」
 犬がそう言い、キジが大きく頷く。
 いやいや、あれは猿ではない。
 猿はもっと俊敏な動きをするではないか。あれはどう考えても俊敏には動けそうもない。
 「お〜い、猿〜!」
 キジの呼びかけに、猿は一向に答える気はないらしく、ボリボリと背中をかいている。
 とっても馬鹿にされた気分だ。
 修羅は盛大なため息をつくと、ガンと木を蹴った。
 猿が枝から滑り落ち・・ジョンがお情け程度に受け止める。
 「アンタ達、なに?」
 おっそろしくスローな調子で話し始める猿。
 たったソレだけを言うのに、ゆうに30秒はかかっていた!!
 「あ〜〜、キジと犬。そっかぁ、アンタ達が桃太郎なわけだ〜。」
 どこかに早回しのボタンはないものかと探してしまいたくなるくらいに遅い!
 とにかく遅い!
 「それじゃぁ、キビ・・」
 「シオン!きび団子だ!」
 痺れを切らしたジョンが、シオンの腰をびしりとさす。
 指されたシオンは驚きのあまり隣にいた源の背に隠れた。
 無論、源の方が小さいため丸見えだったが・・。
 「なにをしているんじゃシオン殿!はようあげんかっ!」
 「は・・ハヒ・・。」
 鎧武者、源からも怒られてしまいショボ〜ンなシオンは、それでも懸命にナマケモノ猿にきび団子を差し出した。
 「んじゃ、仲間って事で。」
 猿はそう言うと、きび団子をシオンに返した。
 「きび団子、好きじゃなくって・・。」
 ヘラリと微笑む猿は、ちょっとこの物語にはあわないような気がした・・。

 * * * * * * * * * * * * * * * 

 犬さんとキジさんと猿さんを仲間にした一行は・・

 ついに鬼ヶ島へと・・・・・・。

 * * * * * * * * * * * * * * *


 「まった!!!」
 ナレーションに待ったを入れたのはジョンだった。
 「この隊には・・協調性が足りないっ!特に犬と猿とキジ!!もっとやる気を見せろ!やる気を!!」
 「「「ヘイヘイサー。」」」
 微塵のやる気も見られない返事に、ジョンは苦虫を潰したような顔をした。
 「修羅さん、修羅さん。」
 「へ?」
 その様子を傍観していた修羅の袖を引っ張る直。今度は腹話術ではなく、完全に自分の言葉で話している・・!!
 「猿を気絶させることって出来ます?ほら、ガンと殴って・・あ、そうそう〜みねおちに。」
 「鳩尾な・・。」
 それを言うなら“みねうち”だ。しかしそれにしたって意味が違う・・。
 「出来るけど、どうするんだ?」
 「考えがあるんです。」
 真剣な瞳の直に、修羅は覚悟を決めると・・ナマケきった猿の鳩尾に拳をつきたてた。
 もちろん皆の視線が逸れている時に。
 「ほら。で、どうするんだ?」
 クタリとした猿を手渡し、小首をかしげる修羅。
 直は不敵な微笑を浮かべると、右手に猿を持った!!!
 「・・てめぇら・・・。」
 ジョンの怒りが最高潮に達し・・その瞳が怪しく光るっ!!
 「その口で糞垂れる頭と後ろにsirをつけろ!」
 「Yes,sir,yes!!」
 ポカンとする一行。そしてそのお供たち。
 視線は元気良く敬礼する猿へとそそがれる・・。
 猿の背後には直の姿。
 しかし直の口は動いていない。それにしたって、どう考えても猿の様子がおかしい。どこかくたっとしているような・・・。
 「ほら!てめぇらも!猿見習って言いやがれ!!」
 「Yes,sir,yes!!」
 猿とキジはまだ混乱状態から抜け切れないらしく、ポカンとその様子を見つめている・・・。
 「な、なんじゃ。直殿は腹話術が出来るのか!?」
 「それにしても猿さんの様子がおかしいようですが・・。」
 先ほど起こった事を知らない源とシオンが小首をかしげながらその様子に見入る。
 全ての事情を知っている修羅は、カクリと肩を落とすと疲れ切った顔で上空を見つめた。
 空が青い。そして・・・雲が白い。
 「Yes,sir,yes!」
 「ほら、もっと!大きな声で!!」
 「・・なな、なんじゃ!?なんでジョン殿は分からぬ!?あれは直殿が言っていることではないのか!?」
 「あぁ、お腹がすいてきました。キジさんと犬さんも、お腹がすいているから元気が出ないのでしょうか?」
 修羅はそっと目を瞑ると、微笑んだ。
 “こんな桃太郎の話は絶対に嫌だっ!!!!!”


■昔の話ですから

 ジョンが道中共の者達に叱咤激励(?)を飛ばし、直扮する猿がそれに答える。
 犬とキジは疲れ切った顔でトボトボと歩いており、源とシオンはシオンお手製お重をつつきながら歩いている。
 そして修羅は、とにかく鬼ヶ島を目指そうと奮闘していた。
 とにかく早く着きたい早く着きたい早く着きたい早く着きたい早く着きたい早く着きたい!!
 そして、早く鬼を倒して帰ろう。

 * * * * * * * * * * * * * * *

 こうして一行は鬼ヶ島へ向けて船を漕ぎ出しました。

 そして降り立った鬼ヶ島は・・暗い雲が立ち込め、鬼達が財宝片手にごろ寝をしていました。

 * * * * * * * * * * * * * * *

 
 どう考えても腑に落ちないナレーションのなか、一行は鬼ヶ島に降り立った。
 確かに、空は曇り日の光は届かない。
 そして・・鬼達はのん気にごろ寝をしている。
 「なんじゃこりゃぁ・・。」
 「ふむ、どうやら鬼達は疲れているらしいの。」
 「鬼さん達・・元気がないようです。」
 「とりあえず、桃太郎と恵美さんを見つけ出して帰ろう。」
 『Yes,sir,yes!』
 鬼の寝息が聞こえる中を、そーっとそーっと進む。
 そして見つけた・・・恵美と・・も・・桃太郎・・??
 「な・・なんでドレスを着ているのじゃ!?」
 「桃太郎さん、女装趣味があったのでしょうか・・。」
 のほのほとにこやかに微笑むシオンだが、そう言うわけではないと思う。
 「とにかく、桃太郎・・は、一応助けるとして、恵美さんを早く・・」
 言いかけた修羅の言葉が止まる。
 源のすぐ背後で・・巨大なものが動いたからだ。
 ゆっくりと、のっそりと・・・。
 「あぶねぇっ!」
 ジョンが源をかばい、わきに飛びのく。
 見上げるほどの高さの鬼は、のっそりと起き上がると・・わきにあった棍棒を振り上げた。
 「やばい!!来るっ!」
 ドーンと鈍い音がして、棍棒が地面に穴を開ける。
 あれがあたっていたならば・・タダではすまない。
 「ちっ。まずいことになった。」
 ジョンが顔を歪ませ、辺りを見渡す。
 先ほどの音で、鬼達が目覚めてしまったらしい。
 そこかしこで鬼達が起き上がり始める・・・。
 「しかたない。ここは退路を開くしか・・。」
 「つまり、戦うしかねぇって事だな。」
 修羅はどこからともなく鉞を取り出すと・・それを鬼に向かって投げつけた!
 「トマホークゥブゥゥゥゥメランッッッ!」
 それに続いて源も手に持った薙刀を振るう!
 「てぇぇぇいっ!!!」
 『桃太郎をさらうとは、ふてぇヤツラだ!神妙にお縄につきなっ!』
 そんな時代劇のキメ台詞を言い放ったのは直だ。
 正確に言えば、直の動かす猿だったが・・・。
 「犬さん、キジさん。頑張ってください!ちなみに時給は・・ぼしょぼしょ・・。」
 犬とキジの心が熱く燃える!
 なんて割りの良い仕事なのだろうかっ!!!
 犬が果敢に鬼に噛み付き、キジがつつきにはいる!
 先ほどの素晴らしい破壊力のドリル攻撃はみられないものの・・かなりの戦闘力だ!
 「てめぇらっ!やっちまいなっ!」
 ジョンが犬とキジを効率よく戦わせる。
 5体の鬼があっという間に地にねじ伏せられ・・砂埃を巻き上げる。
 「終わったな。」
 「終わりましたねぇ・・。それでは恵美さんを助けて・・っと、そうです。鬼さ〜ん。」
 恵美を修羅とジョンに任せたシオンが、お重片手に倒れこむ鬼に向かって走り出す。
 「これ、良かったらどうぞ。」
 そう言って差し出すはあのお重・・。
 いやいや、何故鬼にお重を?
 「元気出してください!」
 待て!元気を出してはまずいだろう!
 誰かがそう止める前に、シオンは鬼にお重を手渡し、鬼はその中に入っている団子を口に運んだ。
 そして・・。
 「・・ガハっ!!」
 吐血して倒れる鬼・・約一体。
 「・・シオン殿、あれはなんぢゃったのぢゃ?」
 「お団子のはずですけど・・。」
 「お前、もしかして料理音痴か?」
 「そんなわけではないと思いますが・・。」
 「それじゃぁアレはなんなんだよ。」
 「さぁ・・。」
 「さぁって・・。」
 シオンは首をひねると、数秒間考えた。
 そして・・・。
 「あっ!!大変です!あれは・・ゴキブリ用ホウ酸だんごでしたっ!」
 「いや、何故?」
 「ちょっと形が似てたので、間違えないようにと思って脇に避けていたものをうっかり入れてしまい・・・!」
 「まぁ、良いじゃねぇか。これで桃太郎も助けられる事だし。」
 ジョンはそう言うと、やたらめったらラブリーな桃太郎に近づき・・・。
 「貴方たちは間違っている!」
 急に動き出した桃太郎に驚きのあまり固まってしまった。
 「どうして鬼達を攻撃したのですかっ!」
 「は?だって・・」
 「だっても何もありません!貴方達は間違っている!鬼を悪と決めつけ、死に至らしめた!これは法に触れますよっ!!」
 桃太郎はそう言うと、ラブリーな服のまま立ち上がり、ビっと一同を指した。
 何の事だかまったくもって分からない。
 「貴方達の罪状は殺鬼未遂および傷害罪です!この鬼達が亡くなった場合、傷害致死罪および殺鬼になります!懲役30年ですっ!!」
 「あ〜〜今いちよくわからねぇんだが・・つまり?」
 「貴方達を逮捕します!」
 ジャキっと、桃太郎は服の裾から十手を取り出すと・・こちらに向かって走り始めた!
 本気の顔だ!!
 「と・・とりあえず、どうする・・!?」
 「逃げるしかないだろう!殺鬼未遂だかなんだかしらねぇけど、向こうが本気な以上・・。」
 一同は視線を合わせると、走り出した。
 ジョンが恵美を抱きながら・・・。


□結局の所・・・

 ゼェハァと、肩で息をしながらその場に尻餅をつく。
 扉は厳重に閉ざされており、向こうから叩こうが蹴ろうがなにしようが、開く気配はない。
 もし・・反則的に向こうにロケットランチャーなどの大型銃器があったならば話は別だが・・。
 「とにかく、最初の予定は果たした。」
 「恵美さんは連れ戻せましたし・・。」
 「それにしても、なんぢゃったのじゃ?」
 『殺鬼未遂だってね!』
 『うっかり懲役30年だったね!』
 「皆さん!」
 トテトテと向こうから走り寄ってくる柚葉に、源とジョンきっと目を向けると手を差し出した。
 他の人はその意味が分からずにキョトリとした顔でその光景を見つめている。
 「ギャラと経費っ!」
 「報酬!」
 柚葉ははっとした顔をすると、ぐったりしている恵美に目を向けた。
 報酬もギャラも経費も、桃太郎から貰おうと思ったのだが・・桃太郎は払ってくれそうもない。
 それならば一番最初にこの件を依頼した柚葉に払ってもらうしかないではないかっ!!
 「あ〜〜〜・・・・・わかりました・・・。」
 柚葉は小さくため息をつくと、コクリと頷いた。
 殺鬼未遂犯として追い掛け回された挙句、無報酬なんてとんでもないっ!!


 源→必要経費とギャラ(当初の半額以下)を頂きます。
 シオン→材料費を頂いたので結構です。
 直→夢なので結構です。
 修羅→ほんの少しだけ報酬を頂きます。
 ジョン→当初の約半額の報酬を頂きます。


   
  〈END〉


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 ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

  1108/本郷 源/女性/6歳/オーナー 小学生 獣人

  3356/シオン レ ハイ/男性/42歳/びんぼーにん(食住)+α

  3055/新開 直/男性/18歳/予備校生

  2592/不動 修羅/男性/17歳/神聖都学園高等部2年生 降霊師

  4726/ジョン ジョブ ジョー/男性/23歳/自由人


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 ■         ライター通信          ■
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 この度は『連れさらわれた桃太郎』にご参加いただきまして有難う御座いました。
 納品が遅れてしまった事を深くお詫びいたします。
 さて、内容ですが・・ほぼコメディーで執筆させていただきました。
 殺鬼罪の場合、きっともっと懲役は長くなる事と思いますが・・・。

 それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。