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<東京怪談・PCゲームノベル>


偶にはこんな夕飯を


 綾和泉汐耶宅。
 ここに住んでいるのは汐耶とメノウの二人だが、友人であるリリィが遊びに来たり泊まったりする事は良くある事だった。
 理由は二人で勉強やら調べ物やらをしている事以外にもある。
 例えば保護者であるりょうが仕事で忙しい時などがそうだ。
 テーブルの上に広げられていたノートを前に、二人が難航しているのを見て汐耶が声をかける。
「何処か解らない所とかある?」
「はい、英語の訳が少し」
 英語の教科は今までなじみがなかった分、解りずらいようだ。
「そうね、ポイントさえ解ればやりやすいと思うから、組み立ての順と文法で参考になるような物が……あった、このページの三行目」
「ええと……はい、解りましたこれですね」
 辞書を捲りつつ、納得したようにノートに訳を書き始める。
「良かったね、メノウちゃん」
「はい、ちゃんと覚えておかないと問題ですから」
「何かあったの?」
 問い掛ける汐耶の前で、二人は顔を合わせてからリリィが軽く溜息を付く。
「りょうにも教えて貰ったんだけど、単語さえ解れば後は辻褄が合うように合せたら何とかなるって言ってたから」
 確かに、中学や高校のテストでは点が取れるだろうやり方ではあるのだが……正しいやり方ではないのも確かだ。
「基礎を覚えておかないと、応用できませんから」
「そうね、その方が良いわ」
 時計を見上げ、そろそろ夕飯の支度をしようかという時刻になった頃。
 チャイムの鳴る音に気付きドアの方へと向かう。
 相手は匡乃と家にいるはずのりょうとナハトの三人……正確には二人と一匹の顔ぶれだった。


 少し前。
 今日も汐耶の作る夕飯を食べに行こうと頃合いを見計らいマンションに向かった匡乃は、その近くでなにやら面白い物を発見する。
 ここらでは滅多に見ないだろう大きな犬を連れた人相が悪い男。
 つまり、りょうとナハトだ。
 知らない人がうろうろとしている姿を見たら、まず九割はに怪しいと言ったはず。
 どうなるか見ていても面白いとは思うのだが、匡乃はこれから向かう所がある、想像が正しければ目的地は同じだろう。
 先に気付いたナハトに軽く手を振ってから、りょうに声をかける。
「何してるんですか、盛岬さん?」
「えっ、あ……いや!」
 どうやら他に注意が行っていて、匡乃が近くに来ていた事に気が付かなかったようだ。
「誰か人捜しでも?」
「今日、リリが泊まっるて言うから……なんとなく………散歩してたんだ」
「心配性なんですね」
「……いや、まあ、なんか今日家に人居なくて暇だったしな」
 口ごもる様子に苦笑しながら、気になった事を一つだけ聞いておく。
「仕事は大丈夫なんですか?」
「ああ、それなら! 締め切りが運良く延びたんで暇になったんだ」
 後は大体どうしてここにいたかは予想できた。
 時間が空いて、暇になったらリリィの事が気になりだしてここら辺を散歩と称して歩いていたのだろう
 この様子ではギリギリになって慌て出す様子は簡単に浮かんだが、今は大丈夫だと言う事にしておく。
「それじゃ行きましょうか」
「はっ!? どこにっ! お、俺はただ近くを通っただけで!」
「なら構わないと言うことで」
「おわっ、ちょ! ええとほら、いきなり行ったらまずいだろ」
「だったら遠慮する必要ないですよ。僕が一緒ですから」
「そうだけど、そうじゃ……っ」
「お酒もあるから」
「………」
 なんだかんだ言ってごねるりょうを連れつつ、匡乃は汐耶の家へと向かう事にした。



 そして汐耶宅。
 これでこのマンションに、合計五人と一匹が集まることになったわけである。
「これだけ増えたら別のメニューを考えた方が良さそうね」
 まとめて手軽なものと言えば鍋にでもしたほうが良さそうだ。
「悪いな、いきなりで」
「僕は何でも構わないよ」
 慣れたように言う匡乃に、内心でタイミングや集り具合に最近磨きがかかっていると思った物の……思っただけであくまでも口には出さなかった。
「別に良いですけどね。鍋にでもしましょうか、材料は揃ってますし」
「お鍋はこれでいいんですか?」
「待って、危ないから私が取るから」
 メノウには高い所にある鍋をとるのは危険だと判断した汐耶が待ったをかける。
「私もお手伝いします」
「ありがとう、助かるわ」
 この方が動きやすいと、普段より成長した姿でリリィがキッチンに立って手伝ってくれていた。
 とは言っても鍋だから、材料と鍋のだし作りですんでしまう。
 リビングにて着々と支度を進め、ある程度準備が出来た所で席に着く。
 そろそろ食べ頃だろう。
「いただきます」
「どうぞ」
 味噌ベースのだしに、調味料をくわえた以外は鶏肉や野菜などは普通に入れたものである。
 食器を回してから各々で取り分けたり、御飯をよそって食べ始めたりしている。
「ナハト、ここに置くけど」
「ワンッ」
 テーブルのそばに座っていたナハトに、汐耶が鍋のだしと同時進行で作っていた夕飯を差し出す。
「普通に下に置いても?」
「あっ、ありがとな。何時もそうしてるから。良かったなナハト」
 ポンと頭を撫でる、その様子は端から見れば完全に飼い主と犬だった。
 顔を上げたりょうに、リリィが思い出したように問い掛ける。
「そう言えば、どうして近くにいたの? 私は大丈夫なのに、心配性なんだから」
「悪かったって、ちょっと様子見たら帰るつもりだったんだよ」
「つもり、ですか?」
 首を傾げたメノウに、りょうが応える。
「そ、連れてこられたんだって」
 珍しく一緒だった理由に気付いた汐耶が匡乃へと視線を送る。
「連れてきた?」
「マンションの近くに居たから、最初は帰るって言ってたけど、酒でもどうですかと誘ったら構わないみたいだったから」
「………」
 解りやすく視線をそらしつつも、コップの中のビールを煽る。
「お酒って美味しいですか? 私は苦い気がして」
「そうね、人によって個人差はあるけど……飲んだ事あるの?」
「前に儀式とかで使う時があったので、少しでも飲むと酔ってしまってそれどころじゃなくなってしまって上手くいきませんでした」
「ああ、なるほど、味覚や体質だから。美味しいと思ったら飲んだらいいと思うわ」
 酒はあまり強くないと方だと言う事か、それに儀式でなら……なんとなく納得できてしまう。
「無理して飲まない方が良いかな」
「そうそう、飲まなくても死なないし」
 同意する匡乃とりょうに加え、汐耶の三人は平均からすれば十分に酒飲みの部類にはいる為、説得力があるのかないのかは受け取る側しだいだ。
「そうですね、他に代わって貰えそうですし」
 微妙に何かがずれているような気がしないでもない。
「あっ、そうだ」
 御飯を租借し、パチリとリリィが手を合わせる。
「りょうの勉強の教え語って絶対に邪道だと思うんだけど」
「いいだろっ、点は取れるし」
「……ああ、さっきの」
 妙に偏った英語の教えかただ。
「そうだね、単語を覚えるのは悪くないけど。長文になったら混乱してくるからオススメはしないかな」
「ほら、やっぱりおかしいって」
 それ見た事かとばかりに自信たっぷりに言うリリィ。
「どうかしたの」
「りょうも勉強見てくれるんだけど、みんな偏ってて裏技みたいなのばっかりなの」
「いいじゃんか、コツだよコツ」
「そこは意見が分かれると思うけど、基礎も大事だからね。食べ終わった後にでも見ようか?」
「はい、ありがとうございます」
「リリ……」
 がくりとしょげるりょうに、匡乃が苦笑しつつ酒を勧める。
「間違っては居ないから、どうぞ」
「だよな、そうだよな」
 早くも何本か空けていたりするのだが、これだけに留まりそうにないのは容易く予想が付く事だった。
「そろそろうどん入れる?」
「そうだね、具も減ってきたし」
 あまり早く入れると他の具が入らなくなるし、入れるのが遅すぎてもだしが染みない。
「あれ、シイタケもう無くなった?」
「まだありますよ」
 最も鍋の中ではなく、まだ調理していない状況ではあるのだが。
「うどんまだかな〜」
「もう煮えてるけど……」
 美味しく食べるのならもう少し味が染みるのを待った方が得策だ。
「あ、もう少し染みるの待ちます」
「……白菜美味しい」
「もう少し食べる?」
「いえ、あまり食べるとうどんが入らなくなるので」
「ビールまだあった?」
「冷蔵庫に入ってたと思うけど」
 飲むペースが徐々に上がりつつある。
 もう何本も残っていないかも知れないから、気付いた時には日本酒に切り替わっている可能性は高い。
「まだ飲みますよね」
「そりゃもう!」
 笑顔で酒を勧める匡乃に、りょうが頷く。
「………」
 何時もと違う相手にのませるのが面白いと感じているのか、匡乃が飲む量よりもりょうが飲んでいる方が明らかに多かったりしている。
 ちなみにその事に気付いているのは、飲ませている本人と汐耶だけだ。
 この分では帰りには潰れてしまう可能性は高いが……ナハトが居るから大丈夫だろう。



 そんなこんな鍋を食べつつ、満腹になてようやく終わりと言う事になった頃。
「ごちそうさまでした」
「結構食べましたね」
「うん、お腹一杯」
 この後勉強をする予定だが、それも小休止した後だろう。
 片づけもも終わった頃にりょうがナハトに合図して起こし、帰り支度のようだ。
「さてと、そろそろ帰るかな」
「平気ですか?」
「ああ、歩きだから捕まったりしないからな」
「歩き……」
 距離を考えるとますます散歩なんて言いにくくなると言う事は考えていなかったらしい。
「気を付けて」
「じゃあな、鍋うまかったぜ、こちそうさん」
 平然と玄関の外に出て……扉が閉まって少しした後で匡乃が外を見てみる。
「やっぱり」
 室内では普通にしていたが、あれだけの量の酒を飲ませて何も変化は出ないからおかしいとは思っていたのだ。
 案の定扉の外の廊下では、足下がおぼつかないりょうをナハトが引っ張って行っている。
「解ってやってたの……?」
「楽しいって聞いてたから。なるほど、こうなるんだ」
 溜息を付く汐耶に匡乃は小さく笑った後、二人の勉強を見るために部屋へと戻る事にした。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1449/綾和泉・汐耶 /女性/23歳/司書 】
【1537/綾和泉・匡乃/27歳/男性/予備校講師 】

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■         ライター通信          ■
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発注ありがとうございました。

内容は同一になってます。
鍋が一緒に食べれて喜んでいる事と思われます。