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<東京怪談・PCゲームノベル>


心機の鏡 〜黒〜


「譲、ちょっと待てよ」
 嘘だろ、冗談半分に身に着けた鬼面が悲劇の引き金となる。
 鬼面を付けた男が手にした長いドライバーを振り上げる。こんなものでも凶器になるのことがあるのかと、男は振り下ろされる錆色の工具を冷静な目で見ていた。
 血臭が死臭に変わるまでそう時間はかからなかった。


 夜も更け、吐く息は白く凍えるような寒さが身にしみる。
「残るは、黒面(こくつら)か…」
 店主が星空を見上げ、何事かを思案する。
「シン」
『承知したである』
 肩に乗っていた、爬虫類がするすると地面に降り主と同じように漆黒の夜空を見て、星を詠む。
『……そこは全ての始まりであり、終着……大いなる翼が降り立つ場所……』

「……飛行場か……」


「ちょっと気になることがありまして」
 イグアナを肩に乗せ、前を歩く黄昏堂の店主を呼び止めた。
「少し調べて見たいことがあるんで、別行動させてもらってもええですか?」
 今回の協力者だと、紹介された女性が怪訝そうに首を傾げる。
「一度、あの面の作り主に会って見たいんですわ」
「製作者は随分昔に死んでる筈だが?」
「そうですか。その辺は、私がなんとかしますさかい、出所だけでも教えてもらえまへんか?」
 警視庁から派遣されてきた斎賀・貢の言葉に春日は考え込むような素振りを見せた。
「出所か……さて……どこだったかな……」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 そもそも、何故面が三つなのか……?
 事件の解決を言い渡された貢の心には当初からそのことが不思議でならなかった。
「赤と白は回収出来た…と、残るは黒だけ……」
 古来より3という数を神聖視する伝説は多い。最も調和の取れた数として三位一体の姿をした神々も多数存在する。
「数か……色か……なんにせよ、何かありそうやな」
 真剣な眼差しで、フロントガラスの向こうに広がる黒々とした木々の夜の森を見つめる。ハンドルを握る貢の隣には、サイドシートで呑気に鼾をかくイグアナの姿があった。

 黄昏堂の店主に教えられて、貢がたどり着いたのは山奥にある古寺。
 鬱蒼と茂る木々に飲み込まれそうな傾いたそこは、もう訪れるものもないのか荒れ果てていた。
「ここが……」
『何かが化けて出そうな所なのである』
 変温動物のくせに、この寒空の下で平然としている爬虫類が身を竦める。足元でぼやくイグアナに気を止めずに、貢は荒れ果てた寺の境内の中に土足で踏み入った。
 床は腐り、所々大きな穴が開いている。かび臭い空気が鼻腔を擽る。
「誰かいはりますね」
 何者かの気配を感じ、貢は闇を見通すように瞳を細めた。

 カーン……カーン……
    シュッ………シュッ……

 聞こえる筈の無い音が、どこからともなく響いてくる。黴臭さの中に、妖気とも呼べるものが漂いはじめる。
「これはこれは……」
 思いもよらぬ強烈な、妖気に思わず後ずさりをしながら貢が油断なく懐の札に手を伸ばした。
 背後の貢に気を向けることなく、面を掘り続ける幻影の男が恐らく件の面の作者なのであろう。落ち窪んだ眼窩からはぎらぎらとした光。頬はくぼみ生気の欠片も感じられない。
『で、出たのである……』
 黄昏堂の店主に折角だから連れて行けと押し付けられた、イグアナが恐る恐る貢の足の影から面師を窺った。
「私だけで大丈夫やろか……」
 足元の爬虫類は当てにしても仕方がない。相手の出方を伺いながらも5枚の符を飛ばした。
「オン ボウジシッタ ボダハダヤミ……オン ボウジシッタ ボダハダヤミ………」
 貢の唱える真言の声が、静まりかえった夜闇を突き抜けていく。
「たのんますから、抵抗せんといて下さい」
 貢の放った符に縛された面師が始めて顔を上げた。
  ……ジャマヲスルナ……ワレハホラネバナラヌ…ヤラネバナラヌ………
 衝撃が貢を襲った。辛うじて屋根を支えてた柱の一つが砕け、破片が刃のように降り注ぐ。
「臨、兵、闘、者、皆、陣、烈、在、前」
 左腕を顔の前をガードしながら、すばやく九字を切る。
「オン キリキリ オン キリキリ」
 剣印から刀印へ転法輪印、外五鈷印と複雑に印を組み替えていく。
「何時までも、この世にしがみついとらんで明るいとこに行ってください」
  ……グゥ……ウゥ……ダマレ……
「ナウマク サマンダ バザラダン センダ マカロシャダ ソワタヤ ウン タラタ カン マン!」
 面師の周りを囲むように五芒星を描いていた5枚の呪符が燃え上がった。同時に、面師の幻影も炎に包まれる。
「これは浄化の炎や、あなたの邪な物を全部焼き尽くしてくれる。御不動さんに感謝しいや」
 肩で息をしながら、貢は消え行く面師に語りかけた。
「あなたの想いが全て悪いわけではありまへん」
 物を作ることは偉大なことや。
「でも、それが他人に悪行を呼び込むようであってはあきまへん」
 炎に包まれ苦しみもがきながらも面師は消え行く瞬間に、貢に一つのメッセージを残した。


「3枚の面は引き合い、互いの邪念を相克する……か…ありえないことではないな」
 飛行場に戻った貢の話を聞き、乱れた黒髪もそのままに春日は直ぐに行動を起こした。
 何処かえと携帯で電話をかけた。その数十分後には黒面と対峙している者達の元に、白と赤の鬼面が届けられた。
「これが、白面と赤面って奴か」
「まちがってもつけ様なんて気は起こすなよ」
 興味深げに、桐箱から取り出された面を見ていた羽翼に春日が釘をさす。
「つけねぇよ」
 信用ねえな……。
「で、奴さんは第2滑走路にいるけどどうする?」
「とりあえず、これをもっていけばええんやろか?」
 面師の怨霊が消えた今、残されているのは面に残された怨念のみ。
「3つの面が引き合うというのなら……向こうから現れるだろう」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 黒々とした滑走路を照らすのは星明りのみ。
 どこで調達したのか、両手に肉きり包丁を抱えた男の姿がぼんやりと浮かび上がる。
「今度こそにがさねぇぜ!」
 マルタ!己の僕に指示を飛ばし面を剥ぎ取ろうとするがあっさりと交わされる。
「蠹蜚!」
 貢もフクロウの姿をした霊獣を飛ばす。
「甘い!」
 2羽の攻撃をよけた男の足を、春日が射抜く。
「よっしゃ!」
 その間に、黒面との距離を詰めていた羽翼が馬乗りになり、その顔から黒い鬼面を剥ぎ取った。

 羽翼の手の中の黒い鬼面と届けられた赤と白の鬼面が宙に舞い上がる。
「お?」
「あれは……」
 光を放ち、鳴動を繰り返してた3つの鬼面が重なり合い、一つの美しい般若の面となる。
 般若と呼ぶには似つかわしくないほど、澄んだ表情をした角を持つ鬼女の面。面に重なるように、白衣を纏った鬼女の姿が浮かび上がる。
  …ア……リガト…ウ…
 途切れがちにかすれる鬼女が丁寧に頭を下げた。
  ……オニデアルワタシヲ、アイシタガユエニ…アノヒトハ…ヒトトシテノミチヲフミハズシテシマッタ……
 これで思い残すことはないと、感謝の涙を浮かべ鬼女は姿を消した。
 そこに残されたのは、一つの菩薩のような表情を浮かべた般若の面と数粒の輝く石。
「鬼であるが故に殺された、愛しい女を思って彫り続けていたのだな……」
 あわれな者だ…どこか寂しげに般若の面を手にした春日の呟きは風に溶けて消えた。

 数人の犠牲者を出した物の不三面の事件は、鬼面の完全封印を持って幕を閉じた。


【 Fin 】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


【4747 / 斎賀・貢 / 男 / 28歳 / 陰陽師(警視庁特殊任務官)/花屋のバイト】
【0602 / 鷹旗・羽翼 / 男 / 38歳 / フリーライター兼デーモン使いの情報屋】

【NPC / 春日】
【NPC / シン】


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■         ライター通信          ■
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 斎賀・貢様

はじめまして、そして遅刻してしまって大変申し訳ありませんでした(平謝り)ライターのはるでございます。
今回は心機の鏡〜黒〜への御参加本当にありがとうございました。
貢さんの台詞が似非っぽい大阪弁なのは…一重に私の勉強不足です………(す、すみません)
大変素敵なプレイングを頂き、大半を使用させて頂きましたが如何でしたでしょうか?
改善点等がございましたら、お気軽にお申し付けくださいませ。