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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


ミズの魔女が語る時。

オープニング

-…私は『ミズの魔女』です。
自分の能力を使ってここにアクセスしております。
どうか私を助けてください。
私は今、暗くて寒い場所に閉じ込められています。
どうか、私を助けてください。
私が閉じ込められている場所は…。

ゴーストネットOFFに書き込まれたのは助けを求める文章だった。
だけど、書き込みにあった住所は数十年前から
廃墟になっている大きな屋敷のみで人が住んでいる気配は全く見られない。
とりあえず、書き込みを信じてその場所に向かったのだが…?


視点⇒真行寺・恭介


「真行寺さん、これ興味ないですか?」
 そう言って話しかけてきたのは最近、恭介の部下になった男だった。自分のノートパソコンを恭介の机に置き、見せたのはネットに書き込まれた短い文章。
「…ミズの魔女?」
 奇妙な書き方に恭介は報告書を書いていた手を止めてパソコンの方に向き直る。
「実はこの廃墟となった屋敷は昔、高名な科学者が住んでいた場所だったんです」
「…だった?」
 部下の持っていた資料を受け取り、恭介は目を通すと、その科学者はとある理由で学会を逐われ死亡したとなっている。
「この研究機関は…」
 その廃墟となった屋敷を調べている人間がいると書かれており、その人間が所属する研究所の名前を見て恭介は驚いた。その別研究所は恭介が所属する企業と因縁の深い所だった。
「こっちが調べているのなら、みすみす黙っておくわけにも行かないか」
 恭介は小さく溜め息を漏らして席を立つ。
「資料は借りていくぞ」
「え?どこに行くんですか?」
 部下が不思議そうに問いかけると資料をバサと見せながら「ここに行ってくる」と短く返事を返した。
「報告書、代わりに書いておいてくれ。下書きはもうできているから」
 恭介はそういい残して会社を後にした。


 書き込みにあった場所に着くと同時に黒塗りの車が止まっているのが見えた。恐らくは敵対する研究所の人間が乗ってきた車だろう。
 恭介もとりあえず門を開けて中に入ってみる事にする。長い間使われていなかったためか門も錆びており、開けるのに一苦労した。
 屋敷の中に入ると、掃除も何もされていなかったために埃だらけで恭介は咽そうになるのをグッと堪えた。
「…なんか妙だな…」
 部下が持ってきた資料によると昔、この屋敷に住んでいた科学者は結婚もしておらず、一人暮らしだったらしい。…そのはずなのにいくつかの部屋は女、それも少女の趣味に合わせたようになっている。
 そして大広間にあった大時計からガコン、ガコン、と奇妙な音も響いてくる。
 恭介が何事かと思い、時計の中を見ると歯車が一つ外れていて、それが奇妙な音を出していた。
 恭介が歯車を元通りに直すと、大時計がゴゴゴと音をたてながら動き、その後ろからは隠し部屋が現われた。いかにも、というような地下へと続く階段からはカビの臭いが恭介の鼻に届く。
 何かあるならここだろう、そう思って恭介は会談を一段、また一段とゆっくり降り始めた。以前に誰か通ったのか階段の所々に備えられた短い蝋燭の火が灯っている。
 階段を降り終えて奥の部屋に足を踏み入れると大きな水槽が目に入った。
「…っ!?」
 水槽に近づいて恭介は驚きに目を見開いた。水槽の中にいるものは白い髪が目立つ少女、何か培養液のような液体の中に沈められている。読みかけの資料に目をやると科学者の研究は特殊能力のある人間、つまりは魔女を量産するものだった。だが、神を冒涜する行為だといわれ、学界を追放。中途半端に進んだ研究のみがここにあるというわけだ。
「…誰だ?」
 カツン、と別な部屋から現われたのは別研究所の男、表に止まっていた車もこの男のものだろう。
「……………」
 男の問いかけに一向に答える様子のない恭介を見て、男は小さく溜め息を漏らした。
「恐らくはあの書き込みを見てきたんだろうが、無駄足だったな。この研究は失敗のまま終わっている。その中にいるモノも寿命だ。使えないものに俺は興味がない。後は好きにしろ」
 そう言って男は階段を上って恭介の前から消えていった。
「…だ、れですか…」
 小さくか細い声が恭介の耳に届き、恭介はその声の方に視線を向ける。その声の主は水槽の中にいる少女。多分、さっきの男が眠っていた少女を起こしてしまったのだろう。だから今頃になって助けを求める書き込みがあったんだと思う。
「もしかして、書き込みを見て…来てくれたの?」
 少女の言葉に「そうだ…」と恭介は短く返事をする。すると少女は「よかったぁ…」と嬉しそうに笑った。
「私、死ぬんです。それは怖くない。パパも死んじゃったし…。どうせ私はこの培養液の中でしか生きられないんだから…でも…」
 怖かった、と消え入りそうな声で少女は呟いた。
「…怖い?死ぬことより怖い事があるのか?」
 恭介が眉を顰めながら問いかけると少女は首を縦に振り、日の光の差し込まない、意味のない窓を見つめた。
「私、お日様が見たかったの。ずぅっとこの暗い場所で眠ってた…。だからお日様を見た事がないの…だから…死ぬ前に一度でいいからお日様が見たい…」
 恭介にとっては見慣れた日の光に少女は憧れを抱いた声色で呟く。
「ねぇ、おねがい。私にお日様を見せてください」
 ザバ、と培養液の中から出て恭介に近づく。一度培養液の中から出てしまったら消滅してしまうのも時間の問題だと少女は言う。
「…どうやって…?」
「こっちに来て屈んでください」
 少女の言う通りに屈んでやると少女は恭介の頭を小さな両手で挟み、目を閉じた。
「あなたの記憶の中にあるお日様を私に見せて…」
 恭介にとっては何の違和感も覚えないが、少女の頭の中にはきっと恭介が見た日の光が映っているのだろう、幸せそうな表情で少女は「ありがとう」と言って手を離した。
 そして、少女の身体がどんどん崩れていく。
「…私がここにいたこと、私というイキモノが存在した事、誰かに知ってもらえて嬉しかった…あ、り…がと…う…」
 その言葉を最期に少女は恭介の前から消えた。
 後に残るのは何とも言えない静寂ばかり…。


 隠し部屋から出て、恭介は屋敷から出て行く。
 出た先で視界に入ってきた日の光が少女の嬉しそうな顔と重なって目を細めた…。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

2512/真行寺・恭介/男性/25歳/会社員

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■         ライター通信          ■
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真行寺・恭介様>

いつもお世話になっております。
今回「ミズの魔女が語る時。」を執筆させていただきました瀬皇緋澄です^^
「ミズの魔女が語る時。」はいかがだったでしょうか?
自分なりに気に入ってはいるのですが…ど、どうでしょうか^^・?
いつも細かなプレイング、感謝しております^^
それでは、またお会いできる機会がありましたらよろしくお願いします^^

            −瀬皇緋澄