コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<バレンタイン・恋人達の物語2005>


心を込めて〜バレンタイン〜


☆オープニング


  2月14日、バレンタインデー。
 一年に一度の思いを伝えるチャンスだからこそ、精一杯の気持ちを伝えたい。
 そんな貴方のお望みを叶えます。
 思い人に、恋人に、友達に、弟に、兄に、父親に、お祖父ちゃんに・・。
 精一杯の気持ちを込めた貴方だけのチョコレートを一緒に作りませんか?

  何でも屋、鷺染(さぎそめ)


 風になびかれながらも必死に壁にしがみついている張り紙を見て、嘉神 しえるは思わずはっと足を止めた。
 バレンタイン・・出来ることなら既製品ではなく手作りしたい。けど・・・。
 ふっと浮かんでくる“事実”と“実の兄の顔”をかき消すと、きっと張り紙を見つめた。
 一丁飛び込んでみましょうか。
 しえるはそう思うと、ピっと張り紙をはがした。
 頭の中で微笑む、彼のために・・・。


★鷺染でのチョコ作り

 地図の通りに行った先にあったのは・・ちょっと驚くくらいに大きな屋敷だった。
 もっとこじんまりとした場所を想像していたしえるは、驚いて立ち止まった。
 真っ白な門にかかる『何でも屋、鷺染』の表札。
 「・・うちに・・何か御用でしょうか・・?」
 少々警戒心を含んだ若い女性の声がして、しえるは我に戻った。
 声のしたほうを見やると、そこには1人の少女が箒片手に立っていた。
 銀色の髪は腰まで伸び、エメラルドグリーンの瞳には警戒心を滲ませている。
 「ここの家の人?私、嘉神 しえるって言うんだけど、この張り紙を見てきたのよ。」
 しえるが取ってきた張り紙を少女の方へと見せる。
 「あ・・お客様でしたか。申し訳ありません。最近は物騒な事が多く・・。」
 少女は言いながら、門を開けてしえるを中へと呼び寄せた。
 「申し遅れました。わたくし、笹貝 メグルと申します。ここで、お兄さん・・じゃない。鷺染 詠二の助手をやっております。」
 「そうなの、よろしくね?」
 しえるはそう言うと、メグルに右手を差し出した。
 メグルは微笑みながらその手をとると軽く握手を交わし、しえるを屋敷の中へと案内した。
 いくつかの部屋の前を通り過ぎ、いくつかの角を曲がり・・着いた先は豪華な扉の前だった。
 メグルは2度、3度と部屋をノックすると扉を開け放った。
 「お兄さん、お客様です。」
 開け放たれる扉・・なんだ?強盗にでもあったのか・・?それとも、ココだけ大震災でも起こったのか・・?そう思わずにはいられないほどに荒れた室内・・。
 そして、ソファーとソファーの間に倒れこむ、1人の少年・・。
 「あーったったった・・。ソファーで寝てたらぁ・・夢の中で雷が落ちてきてぇ・・気付いたらぁ、床に落ちててぇ・・。」
 ボンヤリとした顔を上げて、一つ一つ意味不明、支離滅裂な事を話す少年・・。
 年の頃は17か18だろうか・・?
 黒い髪と、その下で光る紫色の瞳。整った顔立ち・・なのに、今はボーっとしているぶんそれがほとんど台無しになっている。
 「お兄さん、しっかりして下さい。お兄さん!お客さんですって・・。」
 「ほぇ・・?客・・?」
 いまだ定まっていない視線が、しえるの真上で止まる・・。
 「嘉神 しえるって・・」
 「あぁっ!!あの張り紙見てきてくれたお客さんねっ!?」
 「そうだけ・・」
 「メグル、今何時!?」
 「・・もうお昼過ぎですが・・。」
 「そっか・・。それでお姉さん、誰にチョコレートあげたいの?」
 「私の、大切な人よ。」
 「ふーん、そっか・・。それじゃぁ、詳しい話は後にして・・。時間も無いし、早く作ろう?」
 少年はそう言うと、しえるの腕を掴んだ。
 「あ、俺の名前は鷺染 詠二。ここ、何でも屋鷺染の社長ー!」
 「私は・・。」
 「嘉神 しえるさん。さっき言ってたよ!」
 詠二はニカっと笑うと、しえるを部屋の奥へと案内した。



 そこは大きめのキッチンだった。
 真っ白で、傷一つないキッチンだった・・。
 「それで、しえるさん・・何を作りたい?材料は何でも揃ってるし・・なにか作りたいものある?」
 「う〜ん・・そうねぇ、それなりに豪華に見えつつも簡単なものを希望よ。」
 「簡単で豪華に見える・・・。トリュフなんてどうかな?」
 「トリュフ?」
 「うん、テンパリングして、チョコ丸めて、ココアパウダーかココナッツを振りかけるだけ。簡単だけど、結構豪華に見えるよ。」
 「・・そう?それじゃぁ、それで。」
 「よし、それじゃぁ・・メグル!材料持ってきてくれないか?」
 「承知いたしましたわ。」
 メグルは頷くと、パタパタと部屋から出て行った。
 「ねぇ、しえるさん。相手の人ってどんな人なの??」
 「・・そうねぇ、気が弱くて上司に頭が上がらない人よ。」
 苦笑いをしながら呟くしえるの横顔を、小さく微笑みながら見つめる詠二。
 「それで?」
 穏やかに発せられる言葉は、しえるの心を温かくさせる。
 「でもね、素直で心優しい人。春の陽だまりのような・・存在・・。」
 「春の陽だまりか・・。暖かくって、優しくって、落ち着けるね。」
 詠二が満面の笑みでしえるを見上げる。
 小柄な詠二は、しえるよりも数十センチ小さかった。そのため、おのずと見上げる格好になる・・・。
 「気が弱いのは、優しい証拠。春の陽だまりみたいなのは、その人が穏やかで温かい人だって言う証拠。」
 「えぇ、そうね。」
 「優しい人ってさ、何でも自分でやってしまいがちだよね。溜め込んで、溜め込んで・・他の人のために自分を犠牲にしてしまう人だっている。けどね、辛いよね。悲しいよね。優しい心で、自分を傷つけちゃダメだよね。」
 ふっと遠い目で話す詠二を見つめる。
 誰の事を言っているのか、しえるには分からなかった。けれども、それにはどこか頷ける部分もあって・・・。
 「そうね。もし、彼がそうなってしまった場合・・助けてあげたいわ。」
 そう呟いて、直ぐに思い直す。
 “助けてあげたい”より“支えてあげたい”だと。
 助ける助けられるの関係より、支えあえる関係の方が素敵ではないだろうか・・?
 どちらも相手を必要として、互いに安らげるように寄り添っている。
 丁度2人でバランスが取れているように・・・。
 「支えあいたい・・その方が、素敵かも知れないわね。」
 「素敵だね。」
 詠二がそう言って微笑んだ時、扉がかすかな音を立てて開いた。
 「お兄さん、材料持って来ました。」
 扉からメグルが顔を覗かせ、手にいっぱい持った荷物を詠二に向かって見せた。
 「ありがとう、メグル。」
 詠二がメグルの手から荷物を受け取ると、ドサリとキッチンの上に置いた。
 「さぁ、しえるさん。精一杯の心を込めて・・作りましょう。」
 詠二がそう言い、キッチンに材料を並べる・・・。


 * * * * *

 材料

〇板チョコレート・・・500g
〇生クリーム・・・100cc
〇ブランデー・・・大さじ1
〇ココアパウダー・・・少々
〇ココナッツ・・・少々
〇片手鍋
〇ボウル小
〇ボウル大
〇絞り袋
〇木ベラ
〇温度計
〇バット
〇包丁
〇まな板
〇パラフィン紙
〇茶漉し
〇網

  * * * * *
 *   作り方   *
  * * * * *

 1、テンパリング(温度調節)

 (1)水気のない包丁とまな板で、製菓用チョコレートを細かく刻み、乾いた小さいボウルに入れます。
 (2)鍋にお湯をはり、ボールを重ねて湯せんにかけ、木ベラで静かに混ぜながら溶かします。
    46℃で湯せんからはずします。
 (3)チョコレートが溶けたら、水を張ったボウルにあて、静かに混ぜながら26℃まで下げます。
 (4)40℃の湯に当てて再び湯せんにかけ、チョコレートが32℃になったら出来上がりです。


 2、ガナッシュ

 (1)生クリームを沸騰直前まで温め、細かく刻んだチョコレートを入れて、木ベラでかき混ぜながら溶かし、ブランデーを加えます。チョコレートがすっかり溶けたら、ボウルの底を氷水にあて、よくかき混ぜます。
 (2)絞りやすい固さになったら、直径1,5pの丸い口金をつけた絞り袋に入れ、パラフィン紙の上に絞り出して手で丸め、冷蔵庫で冷やして固めます。よく冷やした掌に一つずつのせ、そっと丸めます。


 3、コーティング

 (1)トリュフをテンパリングしたスイートチョコレートにくぐらせて網の上に取ります。
 (2)固まる直前に茶漉しでココアパウダーを振り掛けるか、ココナッツを周囲につけます。


 4、ラッピング

 綺麗にラッピングをして、出来上がり。


 * * * * *



 こんがりとした良い匂いが漂う室内で、詠二は苦笑い気味にしえるを見つめていた。
 焦がした鍋、転がる鍋、湯が飛び散った床、ひっくり返ったボウルの下からは固まりかけのチョコレートが顔を覗かせている。
 真剣な面持ちでチョコレートを刻むしえるの手が、間違えて自身を刻む・・・。
 メグルが慌てて救急箱を手に走りより、しえるの指に絆創膏を貼り付ける。
 そして再び包丁片手にチョコレートと向かい合い、指を切り・・・。
 チョコレートが刻み終わったかと思えば、今度は温めていた鍋をひっくり返し、ついでに隣に並べてあったボウルをひっくり返す。
 そして終には折角刻んだチョコを床にばら撒き・・・。
 「・・・しえるさんってさ、お料理苦手?」
 かなり控えめな言葉で聞く詠二に、しえるはキッと視線を向けた。
 「致命的に料理が下手なのはちゃんと自覚があるのっ!」
 「そ・・そうなんだ。なんか、なんでも器用にこなしてそうなイメージがあるけど・・。」
 「手先は器用なのに料理と裁縫は相性激悪なのよね…どうしてかしら。」
 しえるは呟くと、遥か遠くを見つめた。
 「普段お料理ってどうしてるの?」
 「他の人のお世話になってるわ。知らない人とか、知らない人とか・・」
 知らない人の後のカッコには・・。
 知らない人(レストランのコックさん)
 知らない人(お惣菜を作ってくれている人)
 と入る。
 「あと、兄貴とか・・。」
 「へぇ〜、お兄さん、料理できるんだ?」
 「家庭科教師なのよ。」
 ポツリと呟いて、しえるは思わず詠二の表情を盗み見た。
 この事を言って馬鹿にされた事は少なくない。その度しえるは頭に血が上る思いをしているのだ。
 「凄いね!料理が出来るだけじゃなく、それを人に教えるんでしょう!凄い凄い!カッコ良いね〜!」
 無邪気にはしゃぐ詠二に、しえるは思わずほっと息をついた。
 良かったね、兄貴。
 ほんわりとそう思い、兄の顔を思い出した瞬間にしえるは覚醒した。
 カァっと顔が赤くなるのが分かる。
 なんで私が兄貴の事で喜ばなきゃならないのよっ!
 思い出す、兄の顔がしたり顔に変わり、しえるは地団太を踏みたい気分になってきた。
 「それで・・お兄さんは作り方教えてくれなかったの?」
 キョトンとした顔できく詠二の声で、急速に現実へと引き戻される・・・。
 「頼めば、教えてくれるわ。・・・でもね、どーしても今回は兄貴に頼むのが癪だったのよ。」
 プイと視線を逸らしたしえるの耳に、詠二の小さな笑い声が聞こえてくる。
 それは堪えきれなくなって大きな笑い声へと変わり・・・。
 「・・なんでそこで笑うのよ・・?」
 「ごめん、だって・・しえるさん、本当にお兄さんの事が好きなんだなぁって思ったら、微笑ましくって・・。」
 「どこをどうしたら、あの会話で私が兄貴の事好きってなるのよ!」
 「お料理を教えてくれる優しいお兄さんと、お料理を聞きに行くしえるさん。仲が悪かったら、こんな事しないでしょう?」
 何かを言い返そうとして、しえるは言葉を飲み込んだ。
 別に、兄貴と仲が悪いなんて思った事は一度もない。
 「一緒に歩いたら、女同士と間違われるような兄貴だけどね。」
 最大級の皮肉を口にしてみるものの、それすらも穏やかな心を伴い、淡く輝く。
 詠二はふっと微笑をこぼすと、悲惨な状態になっているキッチンに目を向けた。
 「さてと、チョコレートはどうしようか。別に俺が作っても良いんだけど・・・」
 「嫌よ!人に作ってもらったのを持って行くなんて、既製品を買うよりも嫌。」
 「うん、俺も嫌。せっかくしえるさんには作りたいって言う強い気持ちがあるのに、俺が作っちゃうのはその気持ちを踏みにじる事になるもんね?」
 詠二の微笑み方は、彼の微笑み方とどこか似ていた。
 ほわっとした、優しく温かな微笑み・・・。
 けれど・・しえるは彼の微笑みのほうが好きだった。
 同じのようだけれど確実に違う部分を、しえるは知っていたから・・。
 「どんなに傷だらけになっても完成させたいの。彼のほわっとした笑顔が見たいから。・・・いつも癒されてるのは私だわ、きっと。」
 「うん、絶対にその気持ちは伝わるよ。」
 チラリと絆創膏のはった手に視線を向けた後で、詠二はにっこりと微笑んだ。
 「それじゃぁ、俺とメグルで・・手取り足取り教えましょうか。」
 「えぇ、わたくしもお手伝いいたしますわ。」
 「・・・ありがとう。」
 しえるは再びまな板に向かうと、チョコレートを刻み始めた。


 * * * * *


 「出来た・・・。」
 夕方近く、しえるは出来上がったトリュフを前に、ふっと口元をほころばせた。
 キッチンはぐちゃぐちゃになってしまったけれども・・・目の前に置いてある小さなトリュフだけは、綺麗にできていた。
 「嘉神様、これ・・良かったら使ってください。」
 「ありがとう。」
 メグルが綺麗な色の箱とピンクのリボンをを差し出す。
 組み立て式の箱を完成させ、中にふわふわの綿を敷き詰め、可愛らしい柄のカップにトリュフを乗せて行く。
 元々手先が器用なしえるは、その作業を難なくこなし、持ち前のセンスの良さで美しく、それでいて可愛らしくラッピングをして行く。
 「それにしても、完成して良かった・・。」
 少々疲れたような笑顔を覗かせながら、詠二が壁にかかった時計を見つめる。
 「あ・・。もうすぐで約束の時間だ。」
 「え?何か約束があるの?」
 「何かって、しえるさんだよ。彼との、約束の時間でしょう?」
 “何の事?”
 そう聞き返そうとして、ふっと身体が宙に浮き上がったような感じがした。
 丁度無重力空間に放り出された時のような、心もとない浮遊感。
 そして・・・。
 「そうだったわ、5時に井の頭公園で待ち合わせをしていたんだわ・・。」
 思い出した、覚えのない約束。
 それを疑問に思う前に・・しえるの脳は疑問を打ち消した。
 そして植えつける、約束をした時の場面・・・。
 「大変!今・・何時??」
 時計は4時50分近くを示している。
 約束の時間まで後10分!ここからでは走ったって間に合うかどうか・・・!!
 しかしまだ片づけが・・・。
 「片付けは俺とメグルでやっておくから。でも、そうだな。折角だから送っていくよ。」
 

☆大切な人のもとへ


 「ねぇ、しえるさん。贈り物は、綺麗にラッピングしたほうが良いんだよ。見栄えも良くなるし・・なにより、貰った人の心を温かくさせるからね。」
 急に関係のない話をしだした詠二をいぶかしみながらも、しえるは手に持った箱に目を落とした。
 綺麗にラッピングされたソレは、確かに見るものを微笑ませるほどの力を持っていた。
 「でもね、心だけはラッピングしたらいけないんだ。ラッピングした言葉は綺麗で、心だって・・綺麗に見えるけど、結局の所は中身は変わらない。過度にラッピングした分、なんだか嘘っぽく光ってしまう。」
 しえる達3人は、屋敷の玄関まで来た。
 メグルが1歩下がって丁寧にお辞儀をする・・。
 送っていくと言ったのは、玄関の入り口までと言うことだったのだろうか・・?
 「しえるさん、飾らない言葉で・・真実を伝えてあげて。言葉にも心にも、素直な気持ちを伝える時はラッピングなんてしちゃいけないんだから。」
 詠二はそう言うと、しえるの持っている箱に触れた。
 その意味が分らずに、しえるはほんの少しだけ小首をかしげた。
 「詠二君、メグルちゃん。今日は本当にありがとう・・。彼・・喜んでくれるかしら・・。」
 「あれだけ頑張ったんだもん。喜んでくれるよ。」
 詠二が扉を開ける・・そこは、真っ白な世界だった。
 違う、光り輝く世界だった・・。しえるはあまりの眩しさに瞳を伏せた。
 後から・・メグルの声がやさしく響いた。
 『その温かな心・・確かに報酬、受け取りました。』


 ふわっと光が消え、瞳を開いたそこは見慣れた場所だった。
 井の頭公園の直ぐ近くの・・・。
 しえるは手に持った、トリュフの入った箱を見た。
 何でも屋、鷺染・・。そこで会った、詠二と言う名の少年と・・メグルと言う名の少女。
 詠二の顔もメグルの顔も、全てが鮮明に思い出される中で、その“場所”だけが思い出せなかった。
 ただボンヤリと浮かぶ鷺染邸だけが切り取られた記憶の中で光っている。
 しばらく考えた後でしえるは走り出した。
 箱を持ったまま、井の頭公園の中へと走る・・。
 彼が所在無さ気に待っているのが、遠めでも分かる。
 絶対に間違わない、見失わない。彼だけが特別に映っているから・・・。
 しえるは羽ばたくように走ると、彼の腕の中に飛び込んだ。
 驚いたような顔をして、それでも優しくしえるを受け止めてくれる彼の温もり。
 「そんなに、走らなくても・・」
 「あのね、これ・・今日はバレンタインでしょう・・?」
 しえるは言いかける彼の言葉を遮ると、持っていた箱を差し出した。
 「作って・・・下さったんですか?」
 「って言っても、私だけじゃ出来なくて・・人に教えてもらったり・・」
 「それでも・・作ってくださったんでしょう?」
 穏やかに微笑む彼の事を、思わずギュっと抱きしめる。
 ふっと浮かんできた言葉を口に出す前に、詠二の言葉が頭をよぎる。
 『飾らない言葉』
 すっとその言葉を胸にしまいこみ、大切に鍵をかける。

 『貴方に、会いたくて』

 だから走って来たのよ。
 その部分は省略した。言わなくても、伝わるから・・・。
 「有難う御座います。」
 ほわっと心を温かくさせる笑顔は、しえるの傷ついた指すらもじんわりと癒してくれる。
 腕を組み、幸せをかみ締めながら歩く2人の背。
 風が吹き、彼の持つ箱の上からピラリと紙が落ちたのだが、2人は気付かなかった。


 『I love you』


 〜言葉じゃなくても伝わる思いだったから・・・〜


     〈END〉


 ━ORDERMADECOM・EVENT・DATA━━━━━━━━━━━━━━━━━…・・

 登┃場┃人┃物┃一┃覧┃
 ━┛━┛━┛━┛━┛━┛
 【ウェブID / PC名 / 性別 / 年齢 / クラス】

  2617 / 嘉神 しえる / 女性 / 22歳 / 外国語教室講師


 ラ┃イ┃タ┃ー┃通┃信┃
 ━┛━┛━┛━┛━┛━┛

 この度は『心を込めて〜バレンタイン〜』へのご参加ありがとう御座いました。
 初めまして、ライターの宮瀬です。
 温かく、優しく、穏やかに。それを根底において執筆し始めました。
 “彼”の事だけでなく“お兄さん”の事も盛り込ませていただきましたが、如何でしたでしょうか?
 お気に召されれば嬉しく思います。


 それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。