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始まりはいつも突然に
「で……これはなんだ?」
売れない商品はうちではとりあつかっていないぞ……。
カウンターの上に置かれたつぶれたノートパソコンを見た、黄昏堂の店主は柳眉を顰めた。
「別にあんたの店で売れとは、いってないよ」
キセルを手にした、蓮にすっと看板娘がクリスタルの灰皿を差し出す。
「ありがとさん。おかしな品にまつわる諸々の事を調べてもらうには、あんたの所が一番手っ取り早いからね」
「……念のためにいっておくが、私の店は貴様の店と同じ業種だぞ」
何でも屋じゃないと、ため息をつくが蓮の方はまったく気にしていない。
「あ、あの……」
「大丈夫ですよ、ああ見えても。あの方は面倒見のよい方ですから」
機嫌の宜しくない黄昏堂店主の様子に、おろおろと蓮とこの店の店主の顔を見比べていたアリアの肩を看板娘が抱き寄せる。
「立ち話もなんですから、皆様ソファーの方へどうぞ」
今、お茶をお入れいたしますわ。
既に寛いでいた、先客の一人が興味深げにカウンターの上のノートパソコンを覗き込む。
「これの中からあの子が出てきたのか。なんかマンガみたいだな」
『いかにして、この中で生活していたのであろう』
座敷イグアナも一緒になってパソコンに触れた。
「あれ?電源がはいってるぜこれ」
『興味深いのである、動かして見るのである』
「おぅ!」
もちろんだぜ、好奇心旺盛の客とイグアナは、壊れていたはずのパソコンの罅入った画面に光が入ったことに驚きながらも興味深々で画面を勧めた。
如何なる方法で電脳世界への接続したのか…
『白銀の姫』
そのOP画面がすべての始まり…
「シン?」
「あら?先ほどのお客様まで…?」
『ここはどこなのであるか?』
「…さぁ?………」
貴方とその肩の上にするするとよじ登った座敷イグアナは、見知らぬ世界で途方にくれていた。
「ここは、アスガルド…ようこそ私の勇者様」
貴方とイグアナの前で、白い女神は丁寧に膝を付いた……。
『‥‥私達は中枢プログラム。世界を運営する者。世界を創る事は許されていないんです‥‥それが、どんな悲劇的な世界であったとしても、否定する事は許されていないんです』
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うっわぁ、ゲームにのめり込む余りに魂がゲームの中にって話は偶に聞くけど…体ごと中に入っちゃうってのは初めて見たわ」
決定的な瞬間を見届けたアルクトゥルス・アスミディスケは歓声を上げた。蓮の持ち込んだノートパソコンを数人の客が弄繰り回し、あっとおもった瞬間にその姿は吸い込まれるように消えていた。
「また厄介なものを持ち込んだな……」
「これで、あんたも立派な当事者になったね」
まさか消えた客を放っておくわけにいかないものねぇ。と蓮が狐のように瞳を細め、旨そうに紫煙を吐く。
「分かってて持ってきたな……」
春日は恨めしげなうめきを漏らすと、天井を大きく振り仰いだ。
「起こる内容までは分からなかったけど、あんたんとこに何も起こらないものを持ってきても面白くもなんともないだろぅ?」
けらけらと片手を振る、蓮の様子は手馴れたもの。
そんな二人の間を、アリアと紹介された少女がおろおろと見比べる。
「で、結局このパソコンはなんなの?」
アルクトゥルスがずばりと、蓮に詰め寄った。
「あんたたち、白銀の姫ってゲームを知ってるかい?」
その言葉にアルクトゥルスは横に、同じくその場に居合わせた御守殿・黒酒は縦に首を振った。
「確か、最近話題になってるオンラインゲームの名前だ〜よ〜ね〜」
あんまり興味がないから、サイトにアクセスしたことはないけど〜。
飄々とした黒酒の言葉に蓮が頷く。
「人が行方不明になるとか、曰くつきなんだけど……実はこれはその製作者の物らしいんだわ」
潜めた声の内容に、アリアが悲しげに眉をひそめた。
その話を聞いた春日はやっぱりと、額を押さえアルクトゥルスと黒酒は興味深々で皹いった液晶画面を覗き込む。
「ひょっとしたら、その持ち主の記憶とか思いが残ってるかもしれないよね」
「そういうことなら、ボクのピンキー・ファージちゃんにお任せだよぉ〜ん」
つんつんとたったピンクのメッシュの髪の優男然とした黒酒が楽しそうに、ピンクのグロスを塗った唇を吊り上げた。その手には、蓮持ち込んだものよりもさらに小型のモバイル型のパソコンがある。
「ふふ〜ふふ〜ん♪」
楽しそうにいそいそと黒酒が、自分のパソコンと蓮の持ち込んだ壊れたノートパソコンをつなげる。
「調べるのはいいけ、壊さないどくれよ」
「……元から壊れてたんだからこれ以上、壊れようがあるまい…」
心配そうな蓮に思わず春日が、横から口を挟んだ。
「ピンキー・ファージちゃん出番だよぉ〜」
己のデーモンとノートパソコンを同調させ中を探ろうと試みた黒酒の体はが椅子から転げ落ちた。
「…あれ……?」
おやぁ〜?何かの拒絶にあったようにはじかれた己の体を見回す。
「何かを完成させなければいけない…っていう思いは読み取れるんだけど……」
パソコンに向き合うアルクトゥルスも首をかしげた。
「持ち主のことがもっと詳しく分かるといいんだけど……」
「わかった、調べておこう」
こちらもあまり芳しくない結果だったのか、春日が重々しく頷いた。
「で、ボクとしては優秀なプログラマーで、なおかつ異能力者な人材が必要だとおもうんだよねぇ〜」
黒酒が自分のノートパソコンの電源を落としながら指を立てる。
「優秀なプログラマーで異能持ちか……心当たりがなくもないな」
黒酒の提案にふと考えるようなそぶりを見せて、春日がカウンターの受話器に手をとった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ねぇ、ねぇ海浬。モリガンて確かヨーロッパの方の伝承に残ってる女神様の名前だよね。
「そうだな…烏に姿を変え、戦場を飛び回り戦士を鼓舞する……北欧の戦女神の全身といわれているな」
モリガンから与えられた、部屋は極ありふれた、寝台とクローゼットとして粗末な机が置かれた小さな部屋だった。
海浬は小さな窓の下に広がるジャンゴの町並みを見下ろした。その眼下には魔物から身を守るためにと、高く築かれた城壁が広がっていた。
城塞都市ジャンゴ。この中では対立している4人の女神も争うことはしないという。
「偉大なる女王か…」
その名に相応しいかどうか、見極めさせてもらおう……。
「俺はあいつを探さなきゃならないし。ずっとゲームの中に居るわけにはいかない……」
いつの間にか変わっていた動きやすい長衣の袖と内ポケットにあるクリスタルの透き通ったカードからは、馴染み深い式神たちの気配を感じる。魔法剣士といった井出達なのはゲームに入ったでいなのだろうか。
己の変容にはあまり深く考えることなく、柄に大粒のアンバーがはまった細身の剣を手に琥珀は呟いた。
「大丈夫…俺は絶対に帰るから……」
「アリアンロッドさんが……現状の維持を唱えていて……ネヴァンさんがクロウさんと協力しようとしていて…モリガンさんがクロウさんを倒そうとしているんですよね」
みなもはアリアンロッドから教えられた現状をまとめようと、ジャンゴに設けられた図書館に出向いてた。
「マハさんという女神様もいるみたいですけど……こちらは遊ぶことが目的だからあまり、こちらに干渉することはなさそうですけど…」
『問題は世界をどのように導いていくかなのであるな』
「はい……創造主様もどこにいるか気になりますし…」
心の優しい少女は、世界の行く末を憂えていた。
「……わかったって!お願いを聞いてやるからいい加減に出てこいって!!」
瞳に大粒の涙をためたまま、かけさったネヴァンを追いかけていったジョンは、降参したように両手を挙げた。
「………」
「ほんとだよ。今回は嘘は無しだ」
恨めしそうに隠れていた衣装箱の隙間からジョンの様子を伺う、ネヴァンの様子は捨てられた小動物の様。
「一緒にお友達の勧誘にいってやるよ」
お前本当に女神かよ。と苦笑しながら、ふるふると瞳に涙をためたネヴァンの頭にポンと手の平を乗せた。
「…………魔術の深淵はまだまだ広いわ……」
目の前で起こった出来事を振り返り、アルクトゥルスは呟く。
まるで意思を持つように、同調の拒絶するノートパソコン。
「何か面白いことになりそうかも♪」
これから起こることに期待を寄せ、瞳を輝かせていた。
運命の歯車は回ったばかり、留め金をはずす鍵は世界を崩壊に導く邪竜。
アスガルドに降り立った者、外の世界を走り回る者共に残された時間は限られていた………
【 To be continued ……? 】
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【4787 / 鷹邑・琥珀 / 男 / 21歳 / 大学生・退魔師】
【0596 / 御守殿・黒酒 / 男 / 18歳 / デーモン使いの何でも屋(探査と暗殺)】
【4345 / 蒼王・海浬 / 男 / 25歳 / マネージャー 来訪者】
【1252 / 海原・みなも / 女 / 13歳 / 中学生】
【4726 / ジョン・ジョブ・ジョー / 男 / 23歳 / 自由人】
【4897 / アルクトゥルス・アスミディスケ / 女 / 21歳 / 死霊魔術師】
【NPC / 碧摩・蓮】
【NPC / 春日】
【NPC / シン】
【NPC / アリアンロッド】
【NPC / ネヴァン】
【NPC / モリガン】
【NPC / アリア】
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■ ライター通信 ■
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たいへんお待たせいたしました。ライターのはるでございます。
白銀の姫・PCクエストノベルへのご参加ありがとうございます(礼)
今回はマハさんの御指名の方がいらっしゃらなかったのですが……みなさんそれなりにいい感じにばらけてにやりとさせていただきました。
ゲームは始まったばかり。これから何が起こるか私にもわかりません(何も考えてないとも…ぉ)
でもこれからの皆様の行動、選択しだいでどのようにも変わっていくはずです。そして変わっていくのがアスガルドの世界なのだと思います。
今回のノベルが皆様の選択の演出の一つになっていれば幸いです。
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