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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


ファングさんと公園で寝泊りする会〜CM!remix〜


 「ええっ、そんなことが都内で起こってるッスか?!」

 バイト先のカラオケボックス『大団円』で店長から意外な事件を聞かされたごく普通の青年・鈴木。本当に彼が普通な人生を過ごしているのなら特に気に留める必要もない話なのだが、この驚きようから察するに何か普通でない事情を心のどこかに抱えているらしい。それ以降、店番をする彼にあまり元気がなかった。普段なら悩み事を吹き飛ばすかのように誰にでも明るく接する男なのだが……いったい何が彼をそこまで悩ませるのだろうか。


 すっかり夜も深けた路地を鈴木はひとり歩く。そして店長の言葉を何度も何度も思い返すのだった。そのたびに重くなった足を休ませるように、ふと歩道の真ん中で立ち止まる。その横を車がまぶしい光を放ちながら走り抜け、雲も遠慮なく月の前を通り越していく。『立ち止まる』という行為は誰にとってもよっほどのことなんだろうなぁと痛感しながら、足を無理やり引きずるかのように再び歩き出した。
 店長が言うには、最近になって夜の公園に大挙する連中がいるという。そしてそのままそこに住みついてしまうのだそうだ。そうなってしまうとお子様の公園デビューとしても、デートスポットとしても、生活空間としても重要な拠点である公園がその機能を果たさなくなる。そうした報告を受け、都の役員が勧告書を携えて彼らに立ち退きを命じようと出ていったはいいが、なんとそこから見たこともない化物が出てきて威嚇され、何もできずにそのまま逃げ帰ったらしい。現在、警察と自衛隊に未知なる生物軍団の排除作戦を検討中らしいが、その間もまた別の公園が襲われて支配されているという皮肉な現実がそこにあった。

 もはや一刻の猶予もならない……鈴木も都職員同様にそう思った。
 なぜなら彼は今、公園に住んでいるのだから。

 そう、ある理由で彼は自分が尊敬し感動した傭兵のファングさんとある公園で寝泊りしているのだ。ファングさんというのは異人さんで、銀髪のたくましい男である。頭の中は戦うことだけで、他のことにはなかなか興味がいかないというのが特徴だ。そんな彼と鈴木がこのまま公園を追い出されたら、次の日からいったいどこへ行けばいいのやら……正直、そういう話は勘弁してもらいたい。他の公園で自分と同じ生活をしている皆さんに心からの同情を送りつつも明日はわが身かと思うと鈴木も戦々恐々とする。しかも相手は人間ではない。そんな気味の悪い話、聞いてるだけで胸が悪くなる。
 そんなこんなで公園の入口から我が家の黄色いテントに向かって歩いていくと、そのファングさんがベンチで鈴木と同じ年くらいの男性と話をしているではないか。「自分に断りなくさっそく夜逃げの準備か」とさらに不安になった彼は堂々とそこに近づいて話を聞き始めた。どうやら本人は自分がファングさんの身内だとアピールしたいらしい。部外者の登場でこの場は険悪になるかと思われたが、特にそのような変化はなかった。そしていつものようにぶっきらぼうにファングが話し始めた。

 「断る。メビウスとやら、俺は常に戦いに身を置いていたい。貴様の言う能力者の確保や訓練まで仕事に入るのなら、小間使いのできそうな奴を当たれ。俺はそんな器用なことをしている暇はない。」
 「やっぱし。ああ、わかったよ。お上にはそう伝えておく。しかしあんたも素直にアカデミーに入ればこんなところで生活することもなくなるのに……」
 「いざと言う時に家の壁などを破壊して脱出しなくてはならない。それを考えると、むしろ今の暮らしの方が気楽だ。」
 「おっかねー話。そういう連中には玄関からノックして来てもらえよな。」

 メビウスという名の青年は肩をすくめてそう話す。どうやらファングは『アカデミー』という組織の勧誘を受けていたらしい。しかしそれもあっさりと断り、鈴木は一安心。胸に手を置いて安堵の表情を浮かべながら大きく溜め息をつく……が、本当の安心を得るにはまだ足らない。彼はメビウスを押しのけ、ファングにバイト先で聞いた話を簡単に説明した。

 「ファングさんっ、あのッスねそのッスね。実は……かくかくしかじかッスね。」
 「公園を襲って支配する謎の集団。そりゃあ困ったことですな、ファングさん?」
 「敵が大勢いるということは、個々に戦闘の才能を持っていないということを意味する。烏合の衆とまではいかないが、それなりに統率は取れた兵隊たちと考えていいだろうな。だが、俺は別に寝泊りするのはここでなくとも構わんから、そいつらには勝手にしてもらえれば俺は別に構わ」
 「はっ! もしかしてファングさん、ここに愛着がないッスか! とかなんとかの前にファングさん、あなたがここにいなかったらエヴァさんがまたその辺をバカバカ破壊しながらファングさんを探すッスよ? それでもいいッスか?!」
 「うむ、それは非常に厄介だ。ここに留まろう。」

 あっさりと妥協するファング。しかし話は振り出しに戻っただけだ。

 「でも謎の集団が近日公開ッスよ?!」
 「そいつらが戦うに値するかどうかだが、現時点では価値はなさそうだ。」
 「ああああああっ、どうすればいいッスか〜〜〜?!」

 面白いほど漫才なふたり。それを見ていたメビウスがある提案をした。我が組織『アカデミー』の力を結集させ、そのつまらない連中を駆逐して差し上げようと。ここの公園を守るだけでなく、すでに支配された都内の公園も解放しようと宣言した。具体的にはアカデミーの生徒を鎮圧に差し向け、さらに優れた能力者をゴーストネットOFFを使って公募し、必ず作戦を成功させると約束する。しかもこれらにかかる費用はすべてアカデミーが負担するという。これには金を持っていない鈴木も大喜びだ。

 「メビウスさん、素敵ッス! すばらしいッス!」
 「まーまーまー、それは言われるまでもなく。じゃファングさん、これが解決したら1回レンタルくらいには応じて下さいよ。」
 「いたしかたあるまい。面白い情報なら応じることにしよう。」

 とりあえず入校への足がかりとなる約束を取り付けて大満足のメビウス。これで教頭に怒られずに済む……彼は適当にふたりに挨拶すると門に向かって歩き出した。そしてさっそく自分の担当する生徒を中心にした討伐部隊の編成とゴーストネットOFFへのカキコの内容を頭の中で考え始めた。相手がどんな奴かは知らないが、その気になれば俺ひとりでもなんとかできるさ……そう高を括っていた。


 そして約束から10日後。まだあのニュースは生きていた。

 鈴木はいつものように飯盒炊飯を始めようと小型ガスバーナーに火をつける。今はあの日と同じ時刻だ。もう周囲は暗く、人通りも少ない。公園の中にいるのは粗末な作りのブランコに座ってたそがれている中年のサラリーマンくらいだ。足をゆっくりと動かして小さく前後に動く。鈴木は『あの年でも怒られることがあるンスかねぇ』とちょっと同情してしまった。
 その時だ。そんな彼が急に情けない悲鳴をあげる。しかしそれはすぐに聞こえなくなってしまった。異変に気づいたファングが木の上からさっそうと飛び降りる!

 「物騒な客だな。」
 「ああっ、あれは……あれはなんッスか!?」

 さっきのオッサンを踏み潰しているのは、なんと直立浮動する1メートルほどのネズミ人間だった! しかも大量。かなり大量。オッサンの上だけでも4匹はいるだろうか。数を確認し終えた頃、第二陣が塀を飛び越えてやってきた! 跳躍力はかなりのものである!

 「多すぎるッスよ、ファングさんっ!」
 「しかもクサい。しかも脆弱そうだ、戦いたくないな。」
 「そんなぁ、俺らのパラダイスをあんなネズミたちに踏み荒らされてもいいんでスか?!」
 「メビウスはどうした。アイツはこの状況をどうにかすると言っていた。こうなれば奴は来るはずだが……」
 「たっ、助けてくれぇぇーーーっ!」

 それに呼応するかのように情けない声が公園の中に響き渡る。それはメビウスの声だった。どうやら敵に捕まっているらしい。しかもその隣には2メートルはあるドデカいボスネズミが立っていた! 鎖でグルグル巻きにされたメビウスは懸命に助けを求める。

 「クサっ、クサいって! 離せよバカ!」
 『むぅ、ここは居心地がよさそうだ。ここを我がネズミ人間王国の居城としよう!』
 「下手に言葉覚えて、人間気取りかよ! ファングさんよぉ、こいつら郊外の工場廃水を飲んで突然変異で進化したネズミだ! こいつが呆れるほどたくさんの子どもを生み出している! すべてはこいつが元凶だ! こいつを倒せば……ブゲッ、ウホッウホッ、クサっ!」
 『我が名はビッグパパ。すべてのネズミに幸せをもたらすために生まれたのだ!』
 「その前に子どもらに風呂に入る習慣を身につけさせろ、バカ野郎っ!」
 『バカという奴がバカなんだ。』
 「立派なこと言えるのも今のうちだぜ。お前は弱い人間を捕獲して絶好の住処に案内させたと思ってるだろうが、真実はまったく逆だ。お前らが俺の罠にハマったのさ! 実は能力者たちがここに向かってやってきている。お前は奴らにやられるんだ!」

 本当かどうかはさだかでないが、メビウスは今日という日にネズミ人間を駆逐するための能力者を集めていたらしい。しかも集合場所はここ。本当にそれが作戦通りなら、ネズミのボス『ビッグパパ』は大ピンチだ。そこでパパは「チュー」と一鳴きして、さらに多くの子どもたちを集める!

 「う、うひぃぃぃ! お、おぞましいッス! いっぱい出てくるッス! まさにネズミ算ッス!」
 「おい、出番だ。」
 「ふわぁ〜い、ファングさん。」

 ファングの背後の茂みが揺れたかと思うと、突然そこに直立した植物人間が出現した。次々と起こる出来事に驚き続ける鈴木はもうパニック寸前である。頭には緑色の帽子を、そして小柄な身体には木の枝などを貼りつけた擬態用の布をかぶっているのはなんと女の子だった。少し身体が土で汚れているところを見ると、数日前からこの公園に潜伏していたようだ。「えへへ」と笑いながら変装を解いた彼女にファングは自分が使っているタオルを無言で差し出す。

 「あ、ごめんなさい。じゃあお言葉に甘えて〜♪」
 「あ、あ、あ、あんた誰ッスか!」
 「久良木 アゲハだ。平日にも関わらず、学校も休んでここに潜伏していたらしい。」

 ファングの紹介の最中、本人はタオルで顔や身体の露出している部分をせっせとふきふきしている。彼女はアルビノ体質で真っ白な肌を持っており、まさに名前に違わぬ美しさを持っていた。それが今回の潜伏で泥だらけ……鈴木は知らぬこととはいえ、こんな華奢な少女を使役していたのかと思うと不意に涙したが、極めてノリの軽い彼女の喋りを聞くとすぐに涙が乾く。

 「ども、アゲハです。2日前からいるんですけど、ファング兄さんにはいろいろとお世話になりました。お食事とか、毛布とか。今の時期、まだ寒いですからね〜。」
 「そういえばファングさん、食が細いな〜とか思ってたらそんなことだったッスか……」
 「張りついたら動かんからな。少し食料を分けてやった。まだ子どもだしな。」
 「いやぁ、でもついに来ましたね〜。公園がここまでネズミ人間があふれかえるとスゴいですねぇ〜!」
 「感心してる場合じゃないッスよ、アゲハさん! ということはこんな風に隠れてる連中がまだ他にも?!」

 と、周囲を見渡す鈴木だったが……もう背景すら見ることができないくらい特盛のネズミ人間が自分の視界を埋め尽している。しかも3人が立っているテント近くもなんかクサくなってきた。こうなったらもう倒すしかない。鈴木が近くの木に立て掛けてあった木刀を持ち、それをカッコよく構えた。だが鈴木の男前なところを見ても、まだファングは動かない。ちょっと空しい鈴木。さらに……

 「鈴木さん、それ逆手。右利きだったら、右手が上じゃないとダメですよ。」
 「ああっ、カッコ悪いッスーーー!!」
 「貴様、まさかその構えでやる気だったのか?」

 アゲハからツッコミ、ファングからツッコミで鈴木は大混乱。目の前の状況を改めて見て大狂乱。もはや鈴木は壊れかけのレディオ。ふとその時、頭の上に電球が現れてまぶしい光を放ちながらある記憶を導き出した。そう、あれは2日前。おそらくアゲハが見張りに来る前の出来事であるはずだ。その時、こんなことがあった。鈴木の記憶は少し時間を遡る。


 2日前、ちょうどエヴァが戻ってきた時に鈴木は恐怖の大軍団の話を聞かせた。昼食の片づけをしていた彼女はふんふんと話を聞くものの、その視線は無関心を装うファングの方を向いている。返答はファングの答え次第ということなのだろうが、とりあえずエヴァは鈴木の申し出にかる〜くオッケーした。彼女はとりあえず答えを出すことで相手の出方を伺ったのである。
 しかしその作戦は見事に空振り。ファングは彼女に向かって忠告も何もせず、ただ黙って話を聞くだけだ。鈴木は何度かこういう場面に遭遇しているので本能的に「ヤバいッス」と感じていた。今のエヴァの顔を見ていると思わず、時限爆弾に搭載されているアナログ時計を連想してしまう。彼の予想通り徐々に機嫌が悪くなるエヴァだが、まだ話は聞いてくれる状態のはず。鈴木はさっさと話をまとめようと食器を洗う彼女の近くへ駆け寄った。
 ところがいつの間にかそこに自分と同じくらいの年齢の青年が無表情なエヴァの手を握って愛を語っているではないか。爆弾の処理に失敗した鈴木は足を止め、小刻みに震える首をゆっくりと曲げてファングの様子を見る。すると彼もじっくりとその様子を観察している。終わった。すべてが終わった。後は自分に火の粉が飛ばないことを祈るばかりである。

 「ユー、これは?」
 「美しい……こんなにきれいな女性は見たことがないです。俺と付き合ってください!」
 「あ、あの〜、命知らずなお兄さん。その辺で口説くのやめといた方がいいんじゃないかな〜って思うッスよ。」

 鈴木の決死の特攻フォローはファングの無神経な一言でいとも簡単に破壊されてしまう。

 「エヴァ、よかったな。」
 「親御さんですか! ご安心下さい、責任は取りまブゲッ!」

 そして不意に炸裂するエヴァのエルボー。しかも狙うは青年の右の頬。愛の誓いが遮られるのはどうでもいいとしても、これはかなり痛いはずだ。なんといってもエヴァには遠慮がない。それに加えて青年の全身から発せられる魔力をエヴァが感じ取ってしまったのが災いした。なんとマヌケなこの青年は能力者だったのだ。『私がこの世で一番強い』と自負する彼女にとって、青年は最高の遊び道具と化した。そして殴る蹴るの容赦なき暴行が始まる。

 「ファングは親じゃないわよ! ユー、私の逆鱗に触れたネ! ふんふんふんふんふん!」
 「痛たた、痛たたたたたっ。ちょっと痛い痛い、痛いですって! ロープ、ロープ! タイム、タイム!」
 「えいっ。」
  ガコン。
 「ダメッスよ! 倒れた相手のバックとって殴ったら死んじゃうッス〜! ってもうすでに気絶してるッスか。」
 「嫁入り前の私に手出しするからよ。こいつが悪いのよ。」

 エヴァの容赦ない攻撃でテクニカルノックアウトを食らった青年は衝撃を受けた直後、目前に大きな川が横たわっている映像を見た。川の向こう岸ではエヴァらしき美女が「おいでおいで」と手招きしている。鼻の下を伸ばしながらそこへ行こうと川に足を踏み入れようとすると、いつも見ているまぶしい空が目に入ってきた。せっかく絶景を見ていたのになんてことを……青年は思った。しかしすぐに続きが始まる。なんとエヴァは気絶した彼に向かって、何度も何度も打撃を加えていたのだ。これにはさすがのファングも仏頂面のまま青ざめ、彼女に制止するよう求める。「ファングが何もしていないのに自分から『悪かった』と言うのは極めて珍しいことだ」とは鈴木の言葉である。青年もラッキーだった。こっちに戻ってきた時に攻撃が止んだのだから。

 鈴木が死線をさまよった青年につたない応急手当を施すと、お礼の後に風宮 駿と名乗る。そして迷惑をかけたお詫びに何かできないかと申し出た。するとファングの口からあの事件の概要が説明されるではないか。どうやら通りすがりの恋多き青年を死体にしかけたことを負い目に思っているらしい。珍しくペラペラ喋るファングの姿を見てエヴァは少し驚いていた。鈴木は常に生活を共にしているからそうでもなさそうだが。

 「お前もなんらかの力を持っているようだ。それはエヴァの殴り方を見てもわかる。言った限りはこの仕事、引き受けてもらうぞ。報酬は他の奴が払ってくれるらしいからうまくやれ。」
 「わかりました。エヴァさんを始めとするその他大勢の皆さんのためにもがんばります!」
 「……ファングさん、俺もこの人殴ってもいいッスか?」
 「やめておけ。川が見えるからな。」

 思わず「三途の」と言いかけたところで握り拳を引っ込める鈴木。さすがに白昼の公園で人を殺すわけにはいかない。イライラを人並みに募らせながら、鈴木は風宮の後頭部をじっと見るのだった。


 「そうッス! 風宮さんも協力してくれるはずッス! どこかでもう待機してるんじゃ……」

 しかし彼の姿はどこにもない。というか、このネズミ人間の大群から普通の人間見つけろという方が無理だ。まるで一昔前に流行った絵本のような光景に絶望する鈴木。そういえばこの場にはまだエヴァもいない。どうやって公園を守るか……するとアゲハがおもむろに絶望する青年の前に出た。ところが彼女のその姿を見てふたりは絶句する。
 アゲハはマンガに出てくるようなお約束の形をチーズを服の至るところにいくつもぶら下げ、コートのポケットから笛を出してそれを口に当てていた。やりたいことはなんとなく理解できるのだが、方法がちょっと……そう思ったところで鈴木がようやく声を発することができた。

 「………アゲハさん、それどこからツッコんだらいいッスか。」
 「でも各個撃破なんて絶対無理だし、危険ですからこれくらいしか手が思いつかないんですよ〜。」
 「鈴木の木刀よりかはマシだな。サポートしてやるからやってみろ。」

 ファングはおもむろに特殊警棒を握り、アゲハの後ろについた。彼女はさっそく息を大きく吸いこんでから笛を吹く。だがこれがまた珍妙な音色が公園中に響き渡った。どうやら笛の練習はしてなかったらしい。

  プペピャアァァ〜〜〜〜〜〜〜!
 「こりゃ、チャルメラよりひどいッスよ。」
 「ここからが本番だな。」

 どうなることかと心配する鈴木とは裏腹に、ファングはアゲハの周囲をすり足で慎重に動き始めた。今の音で徐々に接近していたネズミたちがアゲハを、それにぶら下がる最高級の餌に気づいたからだ。おそらく嗅覚の鋭いネズミのことだから、ヘタクソな笛の前からそれに気づいていた可能性が高い。だからこそファングはアゲハの周囲をはじめから警戒していたのだ。彼女はそのまま音程のずれた音を奏でながら、右手にある出入り口に向かって陽気なステップで歩き出す。気分は童話に出てくる青年といったところだろうか。すると慣れないステップを踏みながら、匂いに釣られたネズミたちもそれについていく。後ろの連中はその珍妙な行動が理解できないが、進化したことで無駄な知恵をつけてしまったのが災いした。なんとこのネズミ人間は「野次馬根性」まで会得しているらしい。そのせいで次々と踊る阿呆と化していくネズミども。これを見て鈴木は大喜びだ。

 「やった〜! アゲハさん、その調子ッスよ!」
 「だがお前、こいつらをどこに連れて行く気だ? ちゃんとその辺の処理を考えてやってるんだろうな。」
 「えっ、まさかネズミたちが本当に後ろからついてきてるんですか?」

 出口目前のアゲハはファングの問いかけに答えた後、笛を吹いたまま首を器用に曲げて現実を見た。パレードさながらの風景にアゲハは苦笑いしながらこう答える。

 「ど、どこに連れていきましょうね〜。たはは。」
 「………………………」

 アゲハはこんなバカげた作戦が成功するとは思っていなかったようだ。調子に乗ってやってみたはいいが、ここまでハマるともう引っ込みがつかない。彼女の踊りはだんだんヤケクソ気味になってきた。さすがにファングまでは踊らなかったが、列をなすネズミたちを見て途方に暮れる。かくなる上は列を遮って一匹ずつ打ちのめしていくしかない……そう覚悟した時だ。ファングはこちらに迫ってくるエンジン音を優れた聴力で察知し、アゲハにそれを伝えるために笛の音よりも大きな声で叫んだ!

 「何かが迫ってくる……避けろ!」

 ファングの感知や声を超える早さで公園に迫る物体。その正体はバイクだった。乗っているのは奇妙なスーツを着ている戦士である。バイクが見える頃にはかなりアゲハに接近しており、接触は避けられそうになかった。しかもそのマシンはおろか本人も炎をまとって突っ込んでくる!

 「えっと、ここからウイリーするのを計算すると……これくらい飛んでおけばいいかなぁ?」
 「ああーっ! このままじゃアゲハさんが黒コゲのミミズになるッス!」

 アゲハは軽い声で「よっ」と言うと、信じられないくらいの高さにまで跳躍する。これにはファングも目を見張った。まさにその名に違わぬ美しいジャンプを見せた彼女は空中で一回転。一方、燃え盛るバイクはそのまま無数のネズミを吹き飛ばし、焦がしながら鈴木のいるテントまでやってきた。マシンの炎は戦士の手の一振りで消え去る。そして仮面の奥からあの時と同じ明るい声を聞かせた。

 「鈴木さん、大丈夫ですか!」
 「その声は……風宮さんッスか!」
 「間に合ってよかった! 風宮 駿ことソニックライダー、ただいま参上! あれ、エヴァさんは?」

 ピンチにやってきたまではよかったが、最後の一言は余計だ。助けてもらってもこれでは……さすがの鈴木も完全にスネてしまい、わざとらしく頭を掻きながら風宮に向かって嘘八百を並べ立てる。

 「今はお留守ッスけど、ネズミを全部倒したら喜んで会ってくれる知れないッス……よ?」
 「うおおおぉぉぉーーーっ、ネズ公ども勝負だーーーーーっ!!」

 専用のバイクである『ヴォルテクサー』から下りた風宮はその言葉で奮起し、無謀にも猛然と敵陣の中に突っ込んでいく。鈴木の脳裏に再び『三途の川』という単語がよぎったが、今回ばかりは気にしないことにした。ファングの言っていたあの力を奮っている限りはめったなことで倒されはしないだろう。それを証拠に『死神』のカードを使うことで出現した大鎌を両手で使い、ばったばったと敵をなぎ倒す。

 「ほっ。あれなら大丈夫ッスね。」
 「何とかとハサミは使いようだ。」

 ヴォルテクサーを避けて近くに戻っていたファングの言葉がなぜかものすごく身に染みた。鈴木もすさまじく納得した様子でうんうんと頷く。その頃、地面に着地したアゲハは静かにコートを脱いで見えないところにこっそり隠していた。偶然か、それとも幸運か……彼女の『ご迷惑をおかけしました』という表情は誰にも見られることなく済んだ。


 ひとりのバカ……いや、戦士の登場で状況は一変した。ネズミの悲鳴が静かな公園にまるで輪唱のように響き渡る。しかしこの程度の状況変化はまだまだ序の口。バイクが突っ込んだ付近に、ゲーセン帰りの新座・クレイボーンがペットのメカ怪獣・ぎゃおと一緒にその様子をつぶさに見ていたのだ。彼の腕にはプライズマシンで仕留めたばかりの巨大でふかふかのホワイトタイガーがいる。
 実は新座はネットのカキコを読んで、この事件が起こることを事前に知っていた。だから遊びなりバトルの帰り道にここを選んで歩いていたのだが、どうやら今日がその日らしい。炎上バイクが去った後の公園を柱の影からそーっと見る新座とぎゃお。申し合わせたかのようにピッタリの動作はもはやお約束の域を超えている。新座は銀色の目に映ったおぞましい物体を見ながら、敵に気づかれない程度の声で話す。

 「むうう……公園にいる困ったのってさ、おれはでっかいライオンになる奴のことかと思ってたけど違うんだな。」
 『ぎゃお?』
 「見なかったフリしてもいーんだけど、公園をネズミに占拠されるとおれが遊べなくなるからかーなりヤだな。まぁカキコも読んだわけだし、おれが協力したっていうところをモーレツにアピールしたら、モーレツに報酬くれるかも! 決まりぃ、やる!」

 そういうと新座はおもむろにぬいぐるみを地面に置いて、それをちょこんとお座りさせる。サイズはぎゃおよりもやや大きいくらいか。タイガーの尻尾の近くにはステッカーがつけてあり、そこには『白虎』と書かれていた。これがきっと製作者側がつけたぬいぐるみの名前なのだろう。新座はポケットからナイフを取り出し右手で構えると、なんと自分の左腕を傷つけた。そこから血が勢いよく流れていき、指先から何滴も白虎に落ちていく。白虎の頭は新座の血で赤く染まるはずだが、その色は自然と消えてしまう。血が中に染みこんだせいか、白虎は今のサイズよりも巨大になっていく! そしてついには本物の虎よりも大きくなって自分の意志で動き出した!

 「相手はネズミだから本当はネコの方が面白かったんだけど、ま、お前もネコ科だからいっか。あいつら好きなようにやっちまえ♪」
 『ウガアァァアーーーオォォッ!』

 燃え盛る赤の次は猛る白が飛びこんでいく。入口から勢いよく白虎が突入していった。するとぎゃおがご主人様のズボンの裾をくいくいつかんで、必死にアピール。そして体に似合わないカッコいいポーズを取って見せた。もしかしたらぎゃおも白虎と一緒に戦いたいのだろうか。

 『ぎゃおぎゃお。ぎゃーお、ぎゃーお。』
 「なんだ、お前も行くのか。いいぞ、一緒にがんばってふたり分もらおーぜ!」
 『ぎゃお!』

 ご主人はまだ止まらない血をぎゃおにも与え、あっという間に白虎が立ったくらいのサイズにさせた。そして大怪獣映画の主役気取りで堂々と花道を入場する。左腕に包帯を巻きながら、新座はその姿を見て悦に浸っていた。やはり2体だと違う……迫力が、違う。

 「よっし、これでネズミの数が減らなかったらおれも行こうっと。」

 彼は2匹の大活躍を見ながら丁寧に包帯を巻くために、入口にある車止めのポールに腰掛けて中を見物し始めた。本人は鼻歌混じりで気楽そうだったが、公園にいる連中はそんなわけにいかない。なぜこんなものが乱入してきたのか……まったく理解できずに大慌てしていた。味方が優勢だといっても、なんかスッキリしないものがある。ファングは警棒片手に呆然と立ち尽くし、鈴木はテレビのチャンネルを切り替えたかのような状況変化に置いてけぼりだった。

 「な、なんなんッスか、これは……」
 「俺に聞いてるんじゃないだろうな、お前。」
 「これでファングさんが変身したらサーカスさながらッスよ。」
 「お前な。いついかなる時でも、言葉遣いだけは気をつけろ。」

 ご機嫌斜めになったはいいが、どう怒ればいいのやら……ファングも説明しきれぬこの状況を前に困惑の色を隠せない。しかも間を置かずにまたおかしなのがやってきた。今度は顔なじみの馴鹿・ルドルフである。家賃騒動の件でもいろいろやらかしている彼の登場に顔を青くする鈴木。そして予想通りのことを言い出すルドルフ。

 「鈴木さ〜ん、ファングさ〜ん、助けに来たよ〜♪ 約束通り、今回も鈴木さんのおごりで焼肉ね〜♪」
 「お前、またそんな約束したのか。」
 「前に遊びに来た時にこの話したんスよ。そしたら『ネズミ人間と鈴木さん、ファングさんって公園に住み着いてる分、立場は一緒だよね。どうせなら仲良くなれば』とか言うから不安になって、つい……」
 「お前は本当に取り引きが下手だな。まぁ、アカデミーから出る報酬をうまく使えば焼肉くらいはおごれるだろう。今度はうまくやれ。」
 「ファ、ファングさんっ。お、俺、その心遣いで満足ッス〜〜〜!」

 ファングのアドバイスに感動し、鈴木は彼の膝に抱きついて泣き叫ぶ。だが、そんな感動のシーンが続いたのは2秒だけ。なんとふたりの目の前にネズミ人間が迫っていたのだ! ぎゃおと白虎が傍若無人に暴れまくるので、ザコは蜘蛛の子を散らしたように公園内を逃げ回っていた。その結果、ビッグパパの指令が及ばなくなり統率力のない烏合の衆、いやネズミの群れになったのだが、どうやらそれでも戦闘本能だけは健在らしい。迂闊に動けないファングは上半身だけでネズミを薙ごうとしたが、そこはアゲハが飛びこんで霊力のこもった手刀や蹴りを命中させてピンチを救った。

 「すまんな。気づいてはいたんだが。」
 「いえいえ、私は構いませんよ。でもなんとかしないとダメですね〜ってあれ、ルドルフさんなんか撒いてますよ?」
 「えっ……あれってさっきアゲハさんが持ってたチーズなんじゃないッスか?」
 「私のはさっき隠したんで、あれは別ですよ。でもなんで餌なんか撒くんでしょう。」

 そこはしたたかなルドルフである。ただの餌であろうはずがない。このチーズには痺れ薬が混入されているのだ。一口かじれば動けなくなること請け合いの特製チーズである。ルドルフのキャラらしい素敵なプレゼントが空から舞い降りた。それを見たネズミたちは我先にとそれを食する。

 『ガッ、チッチューーゥゥ。パタッ。』

 食べた者からプルプル奮えながらパタパタ倒れていくが、元気なネズミどもは仲間たちの惨事など気にもせず降ってくるチーズを回収するのに必死。それもこれも統率力のなさがすべての原因だった。倒れたネズミたちは無残にも巨大化した白虎やぎゃおに踏み潰されるので、ルドルフも後片付けに困らない。そして撒くだけ撒いたら、今度は得意技の瞬間移動を駆使してネズミたちを長くて細い棍棒で頭や脚などを殴りながら翻弄する戦法に切り替えた。これで形勢逆転……かと思いきや、さらにネズミ軍団の状況は悪化する。ルドルフが遊び半分で敵をおちょくっていると、鋭く唸りを上げる一陣の風が吹いた。ふとその先に目をやると、自分と同じ年齢の少年が緑色の瞳を輝かせながら鈴木たちにある質問をしている。それはすさまじい内容だった。

 「わははは! まさかここまでいっぱいカモがネギ背負って鍋に乗って突撃かましてると思わなかった! ねぇねぇ、家でネズミのフルコースしたいんだけど、柔らかそうなのいなかった? できれば生まれたてのピンクがいいんだけど……ああ、俺は鎮。鈴森 鎮。ピンクピンク。」
 「……柔らかそうな、ピンクっスか?」
 「刃物か何かで切ったらわかるだろう。すでに人間体になっているからどれが子どもかはわからん。」
 「ああ、そう。じゃあ適当に倒れてるの切って、生んでるのも切るね。んじゃ、ドロ〜〜〜ン!」

 無邪気な笑顔でそう言うと、鎮の姿は鎌鼬に変化した。確かにこの姿なら身体を切ることができるだろう。ファングも納得だ。だが、鈴木はどうしても合点がいかない。なぜあんないたいけな少年が嬉々としてスプラッタショーを始めようとするのか……ルドルフを見た時とは違う、黒みを帯びた顔色が印象的だった。すると木の上からある女性がその説明を始める……そう、エヴァだった。

 「ユー、知らない? 食物連鎖よ。ネズミはイタチに食べられるじゃない。」
 「あ、そうッスよね〜って、納得できるわけないじゃないッスか! 子どもですよ、子ども!」
 「ああ、確かに赤ちゃんネズミ狙ってるわね。」
 「そういう意味じゃ断じてないッス……!」
 「ハントとは総じてそういうものだ。」
 「そういう意味でもないッス……!」

 結局、鈴木やファング、エヴァは見てるだけ。目の前で繰り広げられる戦いは乱入者たちのおかげもあって勝手に集束しつつあった。公園に備え付けの遊具が見えるようになるほどネズミの数も減っている。しかし、ビッグパパの背後からはなぜか新手が出てきていた。捕まっているメビウスの表情から察するに、そこには見るもおぞましい光景があるらしい。彼の悲鳴にも関心にも似た声がテントの近くにまで届く。

 「うわっ、う〜〜〜わっ、うわうわうわっ! うわーーーっ、うわっ!!」
 「……私、ワンパス。」
 「うむ。ツーパスだ。」
 「も、もちろんスリーパスっスよ!」

 かくして、この3人がネズミ人間との戦いに参加する可能性はゼロになった。だが、見物まで放棄するという訳ではない。彼らの視線の先に風宮が現れ、ビッグパパと対峙する。すると突然、間の抜けた声が仮面から響いた。

 「あーーーーーーーーーーーっ! あんたメビウスじゃないか! ってことは、これはアカデミーの仕業?!」
 「違う違う! ダンタリアン、俺の話を聞け!」
 「なんだ、仲間か。だったら早く助けてやれ。」

 ファングの勘違いが冴え渡る。そんな彼に対して、風宮はメビウスを指差しながら今まで関わってきた事件に関して喋り始める。アカデミーがどんな組織で、どんな悪事をしてて、どんな連中がいてとまぁ、必死に説明する風宮。だが、それをファングはマジメに……聞き流した。そんなことはすでにメビウスから聞いている。よってそんなこと今さら聞く必要がない。それにメビウスが提供する場に戦いがあれば、自分は一度だけ戦うことには変わりはないのだ。涼しい顔して無視を決め込むファングを見て、風宮の頭が沸騰する。そしてついにメビウスを「こいつバカなんですよ!」と言い放つと、相手も我慢ならんとばかりに風宮の文句を口汚く発し始めた。そしていつまでも罵り合うふたり。こうなると子どものけんかよりもタチが悪い。最後には「バーカバーカ!」としか言わなくなる始末。そんな時、風宮の肩を静かに叩くオトナなルドルフがいた。

 「あ〜あ〜、風宮クン。掲示板、見た?」
 「はぁ、掲示板って……」
 「ウソっ、知らないの? んしょっと。この依頼はアカデミーからで、報酬もアカデミーから出るって。これ赤身がなかなか……」
 「なーんだ、だから捕まってるのか。最初から言えよ、メビウス。」
 「言わせなかっただろ、てめぇ! 言わせなかったじゃねーか! 一言も喋らせずに『バカ』とか抜かしてたじゃねーか!」
 『おい……喋ってもいいか?』

 ビッグパパの問いかけでようやくその場だけ緊張感を取り戻した。ルドルフはすかさず瞬間移動で逃げ、鎮は謎の原理で生まれてくるネズミ人間を倒すのに一生懸命。きっとピンクの個体が出てくるのを楽しみに切っているのだろう。アゲハはテントからほど近い敵を体術で打ちのめし、確実に数を減らしていた。
 問題は公園内に入った新座である。外から見るのと中にいるのでは匂いが全然違ったのが癪に障ったらしくそのクサさにプッツンして、備え付けのベンチを引っこ抜いて数匹ずつなぎ倒していった。そして倒れた敵に向かって「風呂に入れ、風呂に入れ!」と恫喝しながら何度もベンチで鞭打つ残酷な光景を演出する。言うまでもなく、白虎とぎゃおは相変わらずの大活躍だ。

 風宮は元凶と戦うことになった。しかしデカい。これはデカい。とりあえず3枚のカードを使って倒そうかと思案していると、あらぬ音が……いやあり得ない音が彼の耳に響いた。「来たか!」と構えた腕は瞬時に下へと伸びる。周囲にいた鎮やメビウスは恐怖で顔を歪めていた。

  プチッ。
  ガブガブ。

 なんとぬいぐるみ出身だったはずの白虎がビッグパパを踏んだ挙句、頭からかじっているではないか。
 恐るべし食物連鎖。恐るべしカーストピラミッド。恐るべしハムラビ法典。まさに『目には目を、歯には歯を』の世界を体現したような阿鼻叫喚の地獄絵図に全員が引いた。しかしここはさすがメビウス、アカデミーの教師の名は伊達ではない。とっさに立ち上がって風宮の後ろに回りこみ、そのまま彼の影に入りこんだ。そしてさっきまで悪口を言い合っていた相手に指示を下す。

 「行け! 倒すのは今しかない!」
 「う……こっ、この身体中に満ち溢れるパワーは! これがお前の本来の力なのか?!」
 「ダンタリアン、早くやれっ! 臭いのはこれで終わりにするんだ!」

 慌てて3枚のカードを宝玉に読み込ませるソニックライダー。瞬時にそれを読みこみ、公園に突入して来た時と同じ炎をまとった! その威力はメビウスによって通常よりも恐ろしく強くなっている! 灼熱ではない。これは業火だ!

 『マジシャン』『タワー』『ストレンクス』
 「行くぞ、うおおおおぉぉぉーーーーーっ!!」
 『ガギ、う、ウギャアアッ! ネ、ネズミ人間王国建国の夢があぁぁぁあーーーっ!!』

 必殺技『ファイアーソニックキック』はビッグパパに命中、そのあまりの衝撃に身体が耐えきれず一気に爆発してしまった。そして公園内にいたネズミ人間たちもみんなの力でなんとか片付き、この事件はファングの住む公園だけでは解決したことになる。これで任務完了だ。短い溜め息を吐き、風宮はカードを使って普段の姿に戻った。その隣には今回のスポンサーのメビウスが、すでに影から抜け出して立っている。彼も安堵の表情を浮かべていた。恐怖の一夜は終わりを告げるのであった。


 「ということで、アカデミーの報酬はこれになるから。はい、はい。」

 メビウスは巨額の依頼料を全員に配った。特に鎮などは大喜び。お目当てのネズミが捕獲できたと同時に報酬まで頂けちゃうなんて。笑いが止まらないとはこのことである。彼の足元で目を回しているネズミを見て、誰もがその末路を思い哀れんだという。新座はメビウスに対して「目立つ活躍をした」としっかりアピールしたため、倍の金額を手にすることができてこちらもまた満足げだ。風宮はいろんな人間に対して問題発言連発だったが、最後に元凶を倒したこともあってなんとかおこぼれを頂戴することはできた。だが、エヴァには再びしっかり振られている。アゲハは作戦が的中したせいで失敗するという珍事を巻き起こしたが、2日前から張り込みした功をファングから皆に伝えられると照れくさそうにしていた。ルドルフはこの後、きっちり鈴木の金で焼肉に行くと高らかに宣言する。もちろん鈴木はファングのアドバイス通り、メビウスから金をせしめており準備万端だ。

 鈴木の勤めるカラオケ店の名前ではないが、まさに『大団円』にふさわしい状況となった。ところが……

 「でも臭かったね〜。匂い落としていこうかな。んしょっと。」
 「そのバケツ、中身は何?」

 きっちり横に『鈴木』と書かれた青バケツを持ち上げたアゲハの行動をルドルフが見ていた。中身はただの水にしか見えないが……返答を聞いてもやはりただの水。謎はさらに深まった。

 「エヴァさんに用意してもらった水です。ここで頭から水かぶってきれいに……」
 「そ、そ、そ、そ、それは困るッス! 女性がそれしたらいけないッス!」
 「そーう? だったら鈴木さん、タオルか何か貸してもらえますか。身体だけでも拭かないとね。」
 「俺は艦隊に帰って風呂に入るけどな。」
 「新座さんみたいにそれならいいんスけど、タオルで拭いてもたぶん風邪ひきますよ?」
 「じゃあ、ファング兄さんの獣ふかふか布団で暖まってから帰ろうっと。」

 アゲハのこの発言がよろしくなかった。なんとエヴァがそれを聞き、変な対抗意識を燃やしたのである。自分は何もしていないくせにアゲハと同じく鈴木にタオルを要求し、ファングの毛皮で寝ようとがんばる。鈴木とファングはどんどん曇った表情になっていく。

 「おい、お前たち。俺の意志がまったく反映されてないような気がするのは気のせいか?」
 「何にもせずに寝床が確保できたんだ。黙って寝床になりなよ。」
 「寝るのが男じゃないんだしさ。いいんじゃないの〜?」
 「それにさっき思いっきりアゲハのこと評価してたじゃん。それだけじゃかわいそうだよね〜。」

 外野の男どもは言いたい放題。ファングはこの後どうしたのだろうか……それは本人たちのみぞ知る事実なのでここには記さない。ただ、エヴァの目がかなりマジだったことだけは伝えておこう。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/ PC名 /性別/ 年齢 / 職業】

3806/久良木・アゲハ   /女性/ 16歳/神聖都学園1年生
2980/風宮・駿      /男性/ 23歳/ソニックライダー(?)
3060/新座・クレイボーン /男性/ 14歳/ユニサス(神馬)・競馬予想師・艦隊軍属
2783/馴鹿・ルドルフ   /男性/ 15歳/トナカイ
2320/鈴森・鎮      /男性/497歳/鎌鼬参番手

(※登場人物の各種紹介は、受注の順番に掲載させて頂いております。)

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■         ライター通信          ■
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皆さんこんばんわ、市川 智彦です。今回は鳴神絵師とのコラボレーション第2弾!
あの雰囲気を意識しつつ、とにかくノンストップの全編ギャグをやり遂げました!
なるべくゲームコミックのように、個々のキャラが動いてるイメージで書きました。

ルドルフくん、毎度どうも! 別依頼ですが鎮森 鎮くんとご一緒する偶然は運命?
鳴神さんのゲームコミックでの活躍もありましたので、それを織り交ぜて書きました。
いつものアグレッシブなルドルフくんを心がけて書きました。毒入りチーズ、お見事!

今回は本当にありがとうございました。皆さんのおかげで書いてて楽しかったです!
それではまた、別の形式の依頼やシチュノベでお会いできる日を待ってます!