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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>



 ―記憶の狭間を知る者達―


 この間、屋上で不気味な声を聞いて以来、将太郎は虚ろな瞳のままベッドで寝込んでしまった。
 彼は…将太郎は心を閉ざしてしまったのだ…。それは恐らく自己防衛手段のようなものだったのだろう…。


 その頃、草間武彦は将太郎が記憶をなくす原因となった事件のナゾを解く協力者達に片っ端から電話をしていた。
「今ですか?すみませんが忙しいんです」
「協力したいのは山々なんですけど、他の依頼があって…すみません…」
 協力を求める草間武彦に皆が返した言葉は『忙しい』『依頼がある』だった。
「あー、くそっ」
 草間武彦はガシガシと頭を掻いて草間興信所近くの喫茶店に足を向けた。仕事は他にもあったが、こんな気持ちのままじゃ手につかないだろうと思い、気分転換にいったのだ。
 ―カラン―
 喫茶店のドアに取り付けられたウィンドベルが響いて、草間武彦は空いている席を探す。
「喫煙席と禁煙席とございますが、どちらにしましょう?」
 愛想のいい店員が駆け寄ってきて問いかけてくる。
「喫煙席」
 草間武彦は短く言葉を返して案内された席に座った。
「…草間さん?」
 コーヒーを頼んだところで話しかけられ草間武彦は眉をひそめてその声の主を見上げた。
「空木崎君、か?」
 そこにいたのは見知った顔だった。宮司をしている空木崎・辰一。
「何かあったんですか?」
 辰一が優しく微笑みながら問いかけてくる。
「…門屋君のこと、聞いているだろう?
「…あぁ、記憶をなくされたとか…」
「この間、病院の屋上で錯乱状態になったそうだ…それから寝込んでしまい、医師などの問いかけにも答えないらしい」
 草間武彦が「はー…」と溜め息まじりに呟いた言葉に辰一は驚きで目を見開く。
「僕で良ければ協力します。異能能力を持っている式神がいますから何らかのお役に立つでしょう」
 それは草間武彦にとってはありがたい申し出だった。草間武彦は頼んでいたコーヒーを飲み干して、席を立ち、全ての始まりの場所へと向かう事にした。
 神聖都学園の体育館裏、そこが全ての始まりだった。
「…ここ、ですね…」
 学園関係者に許可をもらい、草間武彦と辰一は人を寄せないようにしてもらった。生徒などに面白半分で騒がれては邪魔になるだけだから。
「それでは早速試してみますね」
 そう言って辰一は自分の式神である定吉を呼び出し、事件の事に関して探りを入れてもらった。
「それにしても犯人は誰なんだろうな…」
 探りを入れてもらっている間、草間武彦は壁に背を預けて煙草を吸い始める。
 辰一も「確かに…」と呟きながら体育館裏を見渡す。ここで何があったのだろう、それは当事者である門屋・将太郎にしか分からない。だけど、その将太郎も記憶を失っているため、事件の真相は闇の中だ。
「旦那〜」
 暫くしてから定吉が戻ってきて、辰一を呼ぶ。だが、何か様子がおかしかった。
「…?定吉…?」
 辰一は定吉を抱き上げながらどうしたのかと問いだした。
 何かに怯えるような感じの定吉の口から発せられたのは、とても信じがたい言葉だった。
「……………………そう、ですか…」
 暫く定吉と話した後に「ご苦労様」と言って定吉を消す。そして定吉から聞かされた言葉を草間武彦に伝える。
「残念ですが……この事件、犯人は…門屋君本人です…」
 草間武彦もあまりの事実に口にくわえていた煙草をポロリと地面に落とす。
 辰一もそれだけはないだろうと予想していたが、その予想は見事に打ち砕かれた。
門屋将太郎が心読能力者だということは知っていたが、まさか自分の記憶を消してしまうほどの力の持ち主だったとは思わなかった。
 将太郎が記憶を失ってしまった原因、そして事件の犯人、雁字搦めに絡まっていた糸が一本に繋がった。
 だけど…。
 それは新しく彼らを悩ませる事が一つ増えただけだった。
「…この事…門屋君になんてお伝えしましょうか…」
 辰一が小さく、弱々しい声で呟く。それに対しての草間武彦からの返事はなかった。いや、返す言葉が見つからなかったと言ったほうが正しいのかもしれない。
 将太郎に真実を話す。それはとても簡単なことだ。
 だけど、今の将太郎にそれらを受け止める事ができるだろうか?
 草間武彦から聞いた話では、先日の屋上の事も幻聴が聞こえて心を閉ざしてしまった、とか…。
 幻聴に耐えられなかった今の将太郎に真実を伝える事はとても残酷なものだと辰一は思っていた。
 今の二人は今まで生きてきた人生の中で一番悩んでいるかもしれない。
 将太郎に真実を伝えて良いほうに立ち直ってくれれば問題はない。
 だけど、もし…更に心を閉ざしてしまったら?
 その時こそ、将太郎はもう戻って来られないような気がする。
「……とりあえず、門屋君のお見舞いに行きませんか?」
 辰一の言葉に草間武彦は「……そうだな、伝えるにしろ、伝えないにしろ…顔出しくらいはしていてもいいかな」と返事を返してきた。
 それから二人はタクシーを拾い、将太郎が入院している病院へと行くように指示をした。
 将太郎の顔を見て、二人がどんな決断をするのか…それはまだ二人すら知らない話だった………。


 END