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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


安らぎの場所

「で、どうだった?」
結局、客の応対に出なかった武彦は零に事の詳細を尋ねた。
零は書類を手にすると武彦に報告する。
「役場の人だったんだけど、今、山を切り崩して新興住宅地を作ろうとしているらしいの。でもね、そのためには山のふもとにある慰霊碑を移動しなくてはいけないんですって。でもその慰霊碑に手を出そうとすると触れた人たちはみんなその場に倒れて動けなくなってしまうの。それで工事が進まないから何とかして欲しいというのが依頼の内容。」
零の報告を聞いて武彦はいらだたしげにため息をついた。
「どうしてうちはこんな依頼ばかり入るんだ。もう俺は関わりたくないぞ。」
その言葉に零は笑った。
「そうですね、こんなものばかりですものね。」
兄の目指すものは知っている。
なのにこんな依頼ばかりでは気が滅入るのも仕方がないであろう。
零は武彦の側によるとにっこり微笑んだ。
そして武彦に言う。
「では私がお相手をしてきましょうか?」
その言葉に武彦も頷いた。
「頼む、零。」
そのときだった。
いきなり興信所の扉が開かれた。
そして金髪の高校生ぐらいの青年が現れた。
「おっ。ここがうわさの草間興信所?こんちは!!俺、桐生・暁(きりゅう・あき)ってんだ。よろしく!!」
暁はつかつかと武彦に近づくとにこにこ笑いながらその背中を叩いた。
「あんたが裏の世界では有名な怪奇事件専門探偵だろ。俺も一回で良いから事件に連れて行ってくれよ。そういうの興味あるんだ。」
遠慮会釈もない暁の言葉に武彦は不快げに暁を睨みつけた。
「ここは普通の探偵事務所だ。怪奇事件専門ではない!!大体おまえは何なんだ!!」
暁は更ににこにこ笑うと両手を前に上げてへらへらと笑った。
「しがない神聖都学園高等部の2年生だよ。最近退屈しちゃってさ、面白いこと探しているんだ。で、ここに来たってわけ。」
そういいながら暁は行きなり武彦の頭をぐりぐりなでまわした。
そして楽しげに声をあげた。
「お、10円ハゲみーっけ!おっさん、あまり真面目一直線で生きているとそのうち髪の毛全部なくなっちまうぜ♪」
武彦の手がぷるぷると震えた。
見ず知らずのガキにここまであしらわれる理由はない。
武彦はソファーから立ち上がるととうとう怒鳴った。
「仕事の邪魔だ!とっとと帰れ!!」
すると暁は武彦の反応にあっはっはっと腹を抱えて笑い出した。
どうやら最初から武彦をからかうつもりだったらしい。
そして思う存分笑うとニッと不敵な笑いを武彦にみせた。
「で、その調子だと面白い仕事があるんだろ?なぁ、同行させろよ。」
その言葉に今まで黙っていた零が武彦を宥めるかのように優しく口を開いた。
「折角ですから良いではありませんか、お兄様。どうせお兄様は行かれないおつもりなのでしょう?ならば私がこの方と現場まで行って参りますわ。」
その言葉に。
武彦は憤懣やるかたない顔をしながらも、ぷいと向こうを向いてソファーに座りなおすと煙草に火をつけた。
煙が興信所の中をぷかりぷかりと浮かんでいく。
やがて武彦はぶすりとした声で一言零に答えた。
「好きにしろ。」


「今度の仕事はね、今役場の人達が山を切り崩して新興住宅地を作ろうとしているらしいの。でもね、そのためには山のふもとにある慰霊碑を移動しなくてはいけないんですって。でもその慰霊碑に手を出そうとすると触れた人たちはみんなその場に倒れて動けなくなってしまうの。それで工事が進まないから何とかして欲しいというのが依頼の内容だったの。」
零の説明に暁は顎に手をあてた。
「なんかよくある話だよな。最近、ここもどんどん住宅地化しているからな。住みついた場所を離れたくない霊ってたくさんいるだろうな。」
「最近は近づくだけで人を動けなくしてしまうの。それでみんな病院に入院してしまっているからどうしようもないらしくて・・・・」
悲しげな零に暁は明るく笑った。
「そんじゃ、そいつら全部ぶっ飛ばすか?」
「え?」
零は何を言われたのか分からなくて一瞬あっけに取られた。
暁はからからと明るく笑う。
「だってこっちの迷惑も考えずにそこに居座り続けたいって言ってるんだろ?そんな身の程知らずぶっ飛ばしてやった方が早いじゃん。」
「そ、そんな強引な・・・・」
戸惑う零に暁は更に明るく笑った。
「霊を吹っ飛ばすだけの力を使ったら山も吹っ飛ぶかも知れないぜ。そしたら切り崩す必要もないし、立派な更地の出来上がりだ。工事もさっさと終わるし、感謝されるぜ。」
零の瞳をのぞきこんでくる暁に、零は我を取り戻すと思いっきり暁を睨みつけた。
「そんなのいけません!!話も聞かないでただ吹き飛ばせばいいなんていくら何でもかわいそうすぎます。」
「でも近づく人間を奴等は見境なく病気にしちまっているわけだろ?そっちもなかなか強引だと思うぜ。」
零は悲しげな瞳をするときゅっと胸のところで両手を組んだ。
そして呟く。
「きっと何か理由があるんです。でも誰も理由を聞かずに動かそうとしたから霊が誰も信用できなくなったんです。だから私はそれを何とかしてあげたい。助けてあげたいんです。」
真剣な瞳をする零のそれを暁は黙って覗きこんだ。
零の瞳は暁と同じく赤色だ。
どこかまとっている雰囲気も自分と近いものを感じる。
しかし今の零は少女だった。
誰かを思う心優しい少女。
どうして彼女はここまで相手を思うことが出来るのだろう。
人間は利己的だ。
自分の欲望のためならなんだってする。
『あなたのためだから。』
よく使われる言葉。
だがそれは裏を返せば自分のためなのだ。
人は最後は自分を選ぶ。
誰かを思っていても全ては自分のためなのだ。
だから暁はひとときの快楽を楽しむ。
本当の自分なんて見せる必要がない。
偽りの優しい夢を見せ、満足させてやればそれでよかった。
暁にとってはそれが日常だった。
だが。
零の瞳はどこか幼い日の優しい夢を垣間見せる。
だから。
暁はぽんと零の背中を優しく叩いた。
「じゃあ、行こうぜ、零ちゃん。その理由とかで何とかなるといいよな。」
暁の言葉に零も嬉しげに微笑んだ。
「はい!!」


地図で教えられた場所に言ってみるとそこは青白い結界で包まれていた。
「結界が張られてますね。」
零の言葉に暁は驚いた。
普通の人間に結界を見て取ることは出来ない。
暁は不敵に笑った。
「あんた、やっぱりタダもんじゃないな。」
その言葉に零も微笑した。
「私は普通の人間ではないですから。でもそれはあなたもではないですか?」
零の言葉に暁も笑った。
「そうだな。確かに俺もタダもんではないよな。でも普段は面白い物好きのただの高校生だぜ♪」
2人は結界に手を触れた。
瞬間。
結界が強い光を帯びた。
そして2人を弾き飛ばそうとする。
零は少し笑った。
「ちょっと強引に入らせてもらわないとお話出来ないようですね。」
零は霊気の光を身体中にまとわりつかせると周囲の結界の霊気と同化させた。
零の周りに青白い光が結界と同様に生まれる。
その光は側にいる暁をも包みこんだ。
結界の中に入ってみるとそこには数人の少女が慰霊碑の回りに立っていた。
そしてその中から1人の少女が青白い霊力の塊のような玉を手にするとそれを暁に向かって放ってきた。
「おわっ!」
突然放たれた攻撃に暁は難なく避けると少女達に向かって零の身体が発する霊気を大きく集め、少女達に向かって放ってみせた。
「暁さん!」
静止する零に暁はニッと悪戯っぽく笑うとひらひら手を振った。
「ちょーっとしたお返しだよ。人生楽しまないとね♪」
言いながら暁は少女たちに近づいて行った。
そして人懐こく笑う。
「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけどさ、どうしてあんたたちこの慰霊碑に固執するわけ?この慰霊碑、何かあんの?」
すると1人の少女が前に進み出て話しはじめた。
「かつて戦争が始まったとき、私達は空襲を逃れてこの地へ疎開してきました。でも食べ物も何もなかった時代、疎開してきた私達を受け入れてくれる人は誰もいませんでした。そんな中、ここにあった療養所の老夫婦が私達をここで働かせてくれたのです。やがて戦争は激化しました。私達はいつも空襲に怯えて暮らしていました。そんな中、いつしかこの療養所は野戦病院として多くの人がやってくるようになったのです。そしてとうとうあの忌まわしい日がやってきました。」
少女はきっと顔を上げた。

「ここが敵の攻撃目標になったのです。」

少女たちはじっと暁と零を見守っていた。
少女は続けた。
「建物は崩れ、私達を受け入れてくれた老夫婦をはじめ多くの人がここで命を落しました。そして町は壊れ、全てが廃墟となっていきました。爆撃後、残された家族がいた者は骨を拾われ墓を作ってもらい、そこで安住の地を得ることが出来ました。でも、私達は疎開を続けてきたから何処にも安住の地はありませんでした。ずっとこの地をさまようことしか出来ず、心が荒廃して行きました。そのときでした。老夫婦の息子さんが戦地から戻ってきたのです。全ての話を聞いた老夫婦の息子さんは行き場のない私達のために慰霊碑を作ってくれました。私達はそれが何より嬉しかった・・・・」
話し続ける少女の側で幾人もの少女が涙をこぼし始めた。
少女は続けた。
「老夫婦の息子さんはずっとこの地を守り続けてくださいました。だから山も何もかもがそのままであり続けました。でも先年、その方が亡くなると町は急にここを住宅地にし、私達の居場所を奪い去ろうとしてきたのです。」
少女はキッと暁と零を見た。
「ここを奪われたら私達は一体どこに行ったらよろしいのでしょうか?ここは大切な思い出の場所です。私達は安まる場所が欲しかっただけなのにそれすらさまよい続けた私達には望むことが許されないのでしょうか!?」
「うーん・・・・」
暁は顎に手を乗せた。
そして言った。
「別にここの人達も慰霊碑を壊そうとしてんじゃないよ。ちょーっと動かしたいだけなんだって。今度はもう二度と邪魔される事無く君達がもっと安らかに眠れるトコだしさ。俺は君達にとっても悪くない話だと思うけどな。」
「でもここは大事な思い出の場所なんです!!」
少女の叫びに暁は静かに笑った。
そして続ける。
「じゃあ、場所が変わったからっておまえたちはその大事な老夫婦とその息子との思い出を忘れるっていうのか?お前達の思い出ってそんなに安っぽいものなのか?」
少女たちは目を見開いた。
暁は静かに微笑む。
「場所が動くだけなんだ。今度はそこがおまえたちと老夫婦とその息子の安住の地になるんだ。もう二度と邪魔されないんだぜ?悪くない話だと思うんだけどな。」
その言葉に。
少女が呟いた。
「本当に私達に安住の地が与えられるというのでしょうか?」
暁が笑った。
「だいっじょーぶ!俺が保障してやるよ。」


数ヵ月後。
暁と零はかつて慰霊碑があった場所に2人で立っていた。
零はじっと暁を見つめた。
「本当に・・・・本当にこれで良かったのでしょうか?あなたが保障すると仰いましたが、また移動先で邪魔になったら移されてしまったりしないでしょうか?それともあなたには全ての未来が見えるとでもいうのでしょうか?」
「ああ。嘘だよ嘘。そんなの知るわけないじゃん。」
零の問いに暁は視線を逸らすとあはは〜と笑って手の平をひらひらと振りながら答えた。
「またいつか邪魔になって今度は…どうなるかわかんないしね。結局安まる場所なんてこの世にはどこにも存在しないのさ。やさしい夢はいつか終わるんだよ。それが、……現実だから。」
そう言いながら暁は小さく微笑した。
それはどこか普段とはうってかわって哀しげな色を帯びていた。
零はじっと暁を見つめた。
どこか影をもつこの人の本心は一体どこにあるのだろう。
と。
暁がいつの間にか悪戯っぽい瞳で零の瞳を覗きこんでいた。
そして明るく声をかける。
「ねね、それよりもさ、これから俺と一緒に遊ばない?世の中楽しいことなんていっぱいあるんだからさ、人生楽しまないと損だぜ!」
「そうですね。」
明るい暁の笑顔に零も笑った。

移された慰霊碑。
その跡を優しい風が吹き抜けていった。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号:4782/PC名:桐生・暁 (きりゅう・あき)/性別:男性/年齢:17歳/職業:高校生兼吸血鬼】



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■         ライター通信          ■
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今回は受注いただきありがとうございました。暁が好みの設定なので、妄想を膨らませながら楽しく書かせていただきました。また、機会があればよろしくお願いします。