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<東京怪談・PCゲームノベル>


【 avec 】


 人と人には相性っていうものがある。
 それは異性であっても、同性であっても一緒で。
 相性のいい奴に出会うと、とたんに惹かれあうものだ。

 異性の場合は、愛情かもしれない。
 同性の場合は、友情かもしれない。

 とにかく、そいつと仲良くなりたいと、切に願う自分がいる。

 ◇  ◇  ◇

 カラン、カラン、カラン。
 閉店後の店で鳴るはずのないカウベルが軽快に響き渡って、驚愕しながら顔を上げた。すると、視線の先に笑みを浮かべて片手を上げる男が一人。
「なんだ、お前か……」
「冷たいじゃないか、客に向かって」
「閉店時間はすぎてるんだ。そんな時間に来る奴は、客じゃない」
 そうむきになるなよ、と男は投げかけられた言葉をうまく回避して、遠慮のかけらもない態度でカウンター席に腰をおろした。
「別に閉店の準備なんて、忙しくないんだろ?」
「明日の仕度がある」
「すぐ終わらないのか?」
 どうやら、かまってほしいようだ。黙って座っていてくれれば問題は何もないのに、かまわなければならないとなると話は別だ。
 思わず追い帰したくなったが、そうもいかない。
「何か用があるのか?」
「ああ。いつも世話になってるから、今日は俺がファーにご馳走してやろうと思ってよ」
「燎が?」
 洗物をしていた手を止めて、まじまじとカウンター席の男を見つめてしまう。
「腕には自信あるぜ」
 にっ、と口元に浮かべた笑顔は、彼にとても似合っていた。
 兄貴肌で頼りがいのある男。
 それが、ファーが持っている高峯燎という男への見解だった。

 ◇  ◇  ◇

 出会いは本当にひょんなことからだった。
 紅茶専門の喫茶店として、辺りで有名になっている紅茶館「浅葱」のすぐ側に、「NEXUS」という店がある。そこは、シルバーアクセサリーを扱うショップで、オーナーが全てデザインし、オーナー自らがアクセサリーを手がけているらしい。妹がそんなことを言っていたと、頭の片隅ではわかっていたが、めったに店から出ないファーにとってはあまり関係のない話だと思っていた。
 「NEXUS」で扱っているアクセサリーはデザインセンスの良さに加え、念や霊力が込もっている為、魔除けや御守りとして効力を発揮するという噂もあるらしい。
 確かにその点に関しては気になったが、店を開けるわけにもいかない。
 縁のない話ということで、気にしないようにしていたが、まさかその「オーナー」である男が自分の店にくるとは思いもしなかった。
 店の前をよく行ったりきたりしているところをみたことがあった男が、店に入ってきたのはよく晴れた日だった。
 天気のいい日だったので、店の混むだろうなと思いながら開店準備をしている最中、カウベルがなって来客を告げる。
「悪い、まだ開店前……」
「なんか朝飯になるようなもの、食わせてくれないか? 徹夜でシルバーいじってたから、さすがに肩凝った」
「シルバー?」
「ああ。すぐそこの店のオーナーなんだよ。よく、ここのまえ通ってるけど、見たことないか?」
 ある。
 よく見かける顔だ。
 そうか、彼が噂のアクセサリーショップのオーナーだったのか。
「サンドウィッチでいいなら、すぐに出せるが」
「それで頼む」
「コーヒーにするか? 徹夜なら、そのほうがいいだろう」
「ああ。濃い目で」
 普段紅茶を専門に扱っているため、香りの強いコーヒーはどうしてもと頼まれない限り淹れないのだが、彼の様子を見ていたら紅茶で一息つくというよりも、コーヒーがいい気がした。
 手際よく用意したサンドウィッチとコーヒーを、カウンターに腰をおろした彼の前に出して、ファーは開店の準備を続けていた。
 すると、突然。
「うわっ」
「おお、本物なんだな」
「な、なんだ、突然」
 彼に背中を見せたとき、突然背に生える漆黒の片翼を握られて、飛び上がる。
「噂には聞いてたけどな、羽生えてるって、どんなものかと思ってよ」
「気が済んだのなら、離してくれ」
「ああ、悪い、悪い」
 サンドウィッチを豪快に口へと運びながら、物珍しそうにファーの羽根をまじまじ見つめて来る男。
「なあ、お前、名前はなんていうんだよ」
「ファーだ。遠藤ファーという」
「俺は高峯燎って言うんだ。よろしくな、ファー」
 最初に店に入ってきたときは、どこか人を寄せ付けないような雰囲気を感じ取ったが、そんなことはなく、とても人懐っこい笑顔だ。
 差し伸べられた手を握り返し、「次にくるときは、店が開いてるときにしてくれ」と嫌味を一言いう。
「ああ。昼飯食いにくるから、よろしくな」
 それが、高峯燎とファーの出会いだった。

 それからというもの、店を他のものに任せて、紅茶館「浅葱」へと頻繁に顔を出すようになった燎を、ファーは拒むことはなかった。
 むしろ、嬉しかったのだ。自分の存在を拒絶せず、こうして通ってきてくれる人を悪くなんて思えない。
 しかし燎はただ飯を食べにくる。それだけは問題かと思ったが、特に気にすることもなかった。たまに妹が、口うるさく「お金はもらいないよ!」と言ってきたが、ファーにとってはどうでもいいことなのだ。
「なんでまた、紅茶専門店なんてやろうと思ったんだよ、ファーは」
「成り行き、だな。恩人からの預かりものなんだ。この店は」
「ほぉ。でも、紅茶もうまいし、甘いものも評判なんだろう? だったら天職だな」
「そうでもないさ。苦労して、ここまでできるようになったんだ。これでも」
 意外、という表情をして、パフェを作っているファーの手を観察する。とても器用に見えるが。
「そういう燎は、どうしてアクセサリーショップを?」
「んー、俺も成り行き、かもな。得意だからやってるってのもあるかもしれない」
「お前は手先が器用そうだからな」
 実際に燎の作ったアクセサリーを見れば、その繊細さとセンスのよさが窺える。とくにそう言うものに興味のないファーでも、一つ欲しいと思ったぐらいだ。
 店のツケを返すためという名目で、一つぐらいもらってもバチはあたらなそうだが。
「ファーの紅茶は、紅茶をわからない奴でもうまいんだ。お前だって器用なんだと思うぜ」
「だと、いいが」
 ファーはこんな風に、燎と軽い会話をしながらすごす時間が、結構好きだった。
 きっと燎も、嫌いじゃないから通って来てくれているのだと、勝手に思っている。

 ◇  ◇  ◇

「それで、一体何を食べさせてくれるんだ?」
「まあ、そう急かすなって」
 ある程度の片づけが済んだ後、燎に台所を占拠されてしまって、カウンターに腰をおろすファー。
 彼が持参してきたスーパーの袋から覗いているのは、あまりファーがみたことがない食材も含まれていた。
「これはなんだ?」
 取り出したのはビンに入った赤い香辛料。
「それはパプリカだ」
「パプリカ?」
「知らないか? ピーマンとかシシトウを乾燥させて粉末にした香辛料で、スープやサラダのドレッシングの彩りなどに使うんだよ」
「辛いのか」
「いや、辛味はない。色合いを楽しむだけのものだな」
 物珍しそうにパプリカを眺めているファーに苦笑しながら、燎は手際よく料理を作り上げていく。
「イタリア料理には欠かせないアイテムだ。パプリカはな」
 鼻をくすぐるいい香りと共に、テーブルに運ばれてきたのはパスタだった。
「いい香りがする」
「だろ? もう一品作るから、もうちょっと待ってろ」
 これは期待できそうだと、胸躍らせてファーはテーブルの用意をすることにした。
「何か用意しておくものはあるか」
「そうだな、ワイングラスは……ないよな」
「パフェに使っているものならあるが」
「ああ、なるほど。おしゃれだもんな。じゃあ、それを二つな」
「他には?」
「フォークとかスプーンとか」
 言われて用意を始めるファー。スーパーの袋からは、ワインのビンも顔を覗かせている。コルク抜きがないかどうか探していると、「持ってきてるから、ほら」と手渡された。
 準備万端だと、胸裏でつぶやく。
「ほら、できたぞ」
 燎が料理を全部テーブルへ運んでくる。本当にご馳走だ。彩りも楽しませてくれるイタリアンがテーブルの上に並んで、グラスにワインが注がれる。
「俺の作った料理、店のメニューに加えてみねぇか?」
「これじゃ、ランチというよりディナーのほうがあいそうだな」
 冗談を冗談で返して笑いあう二人。味は確かに自信を持っているだけあって、おいしいの一言だった。
「すごいな、シルバーだけじゃなくて、料理もできるなんて」
「そうでもないさ。まあ、料理は趣味だからな」
「言うだけある。見た目からは想像できないが」
「おいそれ、どういう意味だ」
「そのままの意味だ」
 テンポの良い会話と、進む食事。
 たまにはこんな夕食も悪くないと、ファーは心から思った。
「デザートでも食べるか? シフォンケーキが残っているんだが」
「いいな。どうせなら、紅茶も淹れてくれよ」
「ああ。わかっている」
 まだ、出会ってそんなに長い月日が立っているわけじゃない。
 互いのことを完全に知り合っている仲でもない。
 けれど、心許せる時間があるというのはいいことだ。

「燎、そのうちまた、ご馳走してくれ」
「ああ。また、そのうちな」

 こんな風に、楽しい時間を共有できる友がいるのは、いいことだ。



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■       ○ 登場人物一覧 ○       ■
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 ‖高峯・燎‖整理番号:4584 │ 性別:男性 │ 年齢:23歳 │ 職業:銀職人・ショップオーナー
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■       ○ ライター通信 ○       ■
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この度は、NPC「ファー」との一日を描くゲームノベル、「閑話休題」の発注あ
りがとうございました!
はじめまして、燎さん。とてもかっこよくて、頼りがいのある兄貴風な燎さんと、
ファーをどんな風に会話させようか、わくわくしながら描かせていただきました。
とても楽しかったです〜(^^
いいですね。いい年したやろう二人の、大人な雰囲気。うまくそういうところが
出せていれば嬉しいです。出会いの場面も、プレイングをもとに書かせていただ
きましたが、こんな感じでよろしかったでしょうか。
気に入っていただければ、とても嬉しく思います。
また、お会いできることを願って、失礼します〜。
いつでも、お気軽に紅茶館「浅葱」へ遊びに来てくださいv

                         山崎あすな 拝