 |
教室に潜む者
「誰？」
由比遥華は人の気配を感じて後ろを振り向いた。
今は放課後。
１年の遥華の教室には遥華以外に人はいない。しかし遥華には誰かがいるように感じられたのだ。
（何か危険な者がいる）
遥華は鞄の中に素早くノートを入れて教室飛び出た。
ドン！
鈍い音と共に教室のドアが閉まった。
遥華は教室のドアを背に向け呼吸を整えた。しかしあの危険な感じはまだ消えない。
（なんとかしなきゃ）
遥華は鞄を胸に抱えると校舎の中を走りはじめた。
（今のうちになんとかしないと大変な事になる）
遥華の中に眠る不思議な力が遥かに教室に潜む者が危険であると警鐘を鳴らしていた。
「誰か！誰かいませんか？！」
遥華は叫びながら学校を数分走り回った。
そして遥華が走り疲れて廊下に座り込んでいた時
「どうかしたの？」
そんな声がかけられた。
ー 再会 ー
「ふう、本業とこの事務職の兼業も疲れるなあ」
神聖都学園の校内を歩きながら平野はぼやいていた。
そこへどこかへと行っていた蒼イオナ平野菜月の元へ舞い戻り突然叫んだ。
「菜月！やばいよ！なんかいる！」
と。蒼イオナに導かれて着いたところには鏡の館で出会った少女、由比遥華が座り込んでいた。
「どうかしたの？」
平野菜月は座り込んでいた由比遥華へ声をかけた。
「え？」
聞き覚えのある声に由比遥華は振り向き平野菜月の顔を見つめた。
「平野さん……助けて下さい！」
由比遥華は平野菜月の右手を掴むと平野菜月に懇願した。
その様子にただならぬものを感じた平野菜月はここへ導いた蒼イオナを見つめ
「なにかあったのか？」
と尋ねた。すると蒼イオナは真剣な顔になり
「１年の教室に誰が創ったか知らないけど精霊体がいるの。しかも酷く出来の悪い…おそらく精霊使い見習いの中でも初心者が精霊を呼び出そうとしたのかもしれない。」
平野菜月はその言葉を聞くと蒼イオナに向かい
「つまりどういう事なんだ？」
と聞き返した。その問いに蒼イオナは
「つまりこう。中途半端に出てきた精霊体に気付かず呼び出した人間は失敗と思い込み儀式を止めてしまったの。中身のない中途半端な精霊体は人の邪気を吸って複数の精霊体とその大元の精霊体という凶悪な物と化しているというわけ。」
その答えを聞くと平野菜月は
「つまりものすごく危険って言う事だな。」
と蒼イオナに聞き返すと、蒼イオナは頷き
「そう言う事。水の浄化能力で精霊体は無に帰することができるけど。どうする？」
蒼イオナは平野菜月に聞くと平野菜月は由比遥華に掴まれた右手を優しく握り返し
「ここに困っている女性がいる。しかも知っている女性だ。助けないはずはないだろう。」
平野菜月は座り込んでいた由比遥華に立ち上がるよう促すと蒼イオナに向かい
「その教室に向かおう。ともかく危険なものなら今なんとかしないと。」
蒼イオナはその言葉に頷くと
「こっちよ。急いで！」
そう言うと先頭に立ち平野菜月と由比遥華に着いて来るよう促した。
そして３人は問題の教室へと向かって行った。
ー 教室の中へ ー
由比遥華が飛び出した教室にたどり着くと蒼イオナは
「由比遥華は入らない方がいいと思う。」
そう由比遥華へ告げた。由比遥華は蒼イオナへ向かい
「でも私も手伝いたいの。」
と蒼イオナへ向かい抗議の言葉を吐いたが蒼イオナはその言葉を受け付けなかった。
「この中はとても危険。菜月だけならともかく由比遥華の安全まで約束できないわ。」
蒼イオナのその言葉に平野菜月も由比遥華の肩に手をそっと置くと
「気持ちはわかるけど危険な目に遭わせたく無い。だからここで待っていてくれないか？」
そう優しく諭した。その言葉に由比遥華は少し考えると手を白くなるまでギュっと握りると平野菜月に向かい笑顔で
「絶対に無事に帰ってきて下さいね。」
そう言った。その言葉に平野菜月は微笑むと
「わかった約束するよ。危険なときは蒼イオナが守ってくれる。だから大丈夫だよ。」
蒼イオナもその言葉を聞くと由比遥華に向かい
「大丈夫。私が菜月を危険な目にあわせるわけないでしょ。安心して。」
そう言うと二人は教室の中へと入っていった。
由比遥華は二人を見送ると教室の前に座り込み二人の無事を祈った。
ー 危険な者 ー
平野菜月と蒼イオナが教室に入ると気持ちの悪い威圧感が二人を襲った。
「かなり危険だな。」
そういうと平野菜月は教室の壁にもたれかかった。それを見た蒼イオナは危険な状態を感じすぐに自信の浄化の力を使う事を決意した。
「菜月、そこでじっとしていて。」
蒼イオナはそう言うと目をつぶり自身の水の浄化能力を使用した。
「無に帰すがいい！」
蒼イオナはそう叫ぶと集中して力を放射した。すると周りに漂っていた複数の精霊体はだんだんと無くなり回りは浄化された。
「大丈夫？」
蒼イオナは平野菜月に近づくと心配そうな顔で平野菜月の顔を覗き込んだ。
平野菜月は少しふらつくと
「何とか。でも蒼イオナは大丈夫なのか？」
と蒼イオナを労る言葉をかけた。その言葉に蒼イオナは
「私は大丈夫。それより問題はアレだわ。」
そう言うと教室の奥に潜む大元の精霊体を指差した。平野菜月は蒼イオナの指差す方向を見ると確かに漂っていた精霊体とは明らかに違う大元の精霊体が見えた。
「ここから先は菜月にも外に出てもらうわ。」
蒼イオナはキッとした顔で大元の精霊体を見つめた。平野菜月は蒼イオナを見つめると
「何故？！まさか！」
平野菜月はそう叫ぶと蒼イオナを見つめた。
「大元の精霊体は今までの奴らとは違うわ。まずは動きを封じないと。だから……絶対零度を使うわ。」
蒼イオナはそう言うと平野菜月に教室を出るよう再度促した。
「全ての物が凍ってしまう。だから菜月も外に出て。全てが終わったら呼びにいくから。」
そう言うと蒼イオナは微笑んだ。平野菜月はその微笑みを見ると静かに教室の扉を開き
「気をつけるんだぞ。」
そう言い残し扉を閉めた。
ー 蒼イオナの戦い ー
「さてと。素直に絶対零度を使わせてくれるといいんだけど。」
蒼イオナはそう言うと大元の精霊体を見つめた。
「まずは少し弱めておかないとね。」
そう言うと自身の水の浄化能力を大元の精霊体に向かい発した。
しかし大元の精霊体は少し力を弱めただけで段々と蒼イオナへ向かって近づいてくる。
それを見た蒼イオナは目を閉じると力を集中させた。絶対零度を使うにはかなりの力を要する。蒼イオナはその為に力を集中させた。
じりじりと大元の精霊体が近づいてきたが蒼イオナはまだ目を閉じたまま。
１メートル。５０センチ。どんどん大元の精霊体は蒼イオナへと接近している。
（まだ。まだよ）
蒼イオナは心の中で呟くとさらに力を集中させた。
そして１０センチに近づいた時。蒼イオナは目を開くと
「絶対零度！！」
そう叫ぶと回りにある全ての物を凍らせた。もちろん大元の精霊体も例外ではない。
蒼イオナは目の前の精霊体が凍っているのを確認すると、その危険な者を浄化するべく水で浄化を始めた。
そして教室の全ての危険な者は蒼イオナによって浄化されたのだった。
ー また会う日まで ー
平野菜月が教室を出て数分後、蒼イオナが教室から出てきた。
「蒼イオナ！」
蒼イオナに声をかけると蒼イオナは微笑み
「問題解決。中に入ってみて。」
二人にそう言うとまた教室の中へ入っていった。平野菜月と由比遥華は顔を見合わせると蒼イオナに続き教室の中へ入っていった。
教室の扉を開くとそこから流れ出るのは先程までの嫌な威圧感ではなく、清々しい程の空気。
二人は全てが浄化された教室に入ると同時に感嘆の声を上げた。
「すごい。全部浄化されている。」
平野菜月は教室を見回し、そして蒼イオナを見つめた。
由比遥華も笑顔で蒼イオナへ
「ありがとう。蒼イオナさん。」
と礼を述べた。蒼イオナは照れくさそうに手を頬にあてると
「こんなこと何でもないんだから。お礼なんていらないわよ。」
由比遥華に向かいそう言った。平野菜月はその様子を笑いながら見つめた。
そして
問題が解決した由比遥華は
「ありがとうございます。母が心配していると思うから帰ります。」
と二人に言った。平野菜月は由比遥華に
「送っていこうか？」
そう言葉をかけたが由比遥華は首を横に振り
「私ならもう大丈夫。それより蒼イオナさんを労ってあげて下さい。」
平野菜月はその言葉に頷くと手を差し出し
「じゃあ気をつけて。」
というと遥華も差し出された手を握り
「また会う日まで。それじゃあ。」
そう言うとその場を立ち去った。平野菜月と蒼イオナはそれを見送ると。
「私たちも帰ろうか。」
平野菜月は蒼イオナへ振り向くとそう言った。その言葉に蒼イオナは
「そうね。少し疲れちゃった。」
と言うと平野菜月をちらっと見た。平野菜月は仕方ないなという顔をすると
「わかったよ、ご苦労様。」
その言葉を聞くと蒼イオナは満足げな顔になった。
そして二人はいつもより疲れた体で家路についのだった。
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
整理番号 4715／ ＰＣ名 平野・菜月 （ひらの・なつき）／ 性別 男性／ 年齢 25歳／ 職業 フリーター（ソフトウェア会社）
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
＞平野菜月様
いつもご注文有り難うございます。
蒼イオナの力をかなり使った話になりましたがいかがでしたでしょうか？
絶対零度のを使用したときのイメージ等これで大丈夫でしょうか？
また機会がありましたらよろしくお願いします。
ご注文有り難うございましたvv
|
|
 |
