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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


自主制作映画を作ろう
●オープニング【0】
「ちょっとお願いがあって……」
 神聖都学園高等部に通う原田文子は、同級生であり友だちである女生徒・影沼ヒミコにそう言って話を切り出してきた。いつもヒミコの方から何かと話を持ちかけるというのに、何とも珍しい光景である。
「……ヒミコちゃんの知り合いに、演技とか出来る人居ない?」
「はい?」
 ヒミコが思わず文子に聞き返したのも無理ない話だった。何故いきなりそんな言葉が出てくるのか?
 文子にもそれが分かったのだろう。どうしてこんなお願いをしたのか、その理由について話を始めた。
 何でも文子の知り合いに映画研究会所属の男子生徒が居て、誰か居ないものかと尋ねられたのだという。
「15分程度の短編映画を1本か2本作るのが、毎年の課題なんですって。今年のテーマは『現代日本におけるSF』なの。けど、毎年出演者さんも裏方さんも足らないらしくって……それでもどうにか毎年制作してるのが凄いと思ったわ」
 まあ映画といっても作るのは高校生。資金もなければ能力も足らない。有り余ってるのは時間くらいか。毎年苦労しているのも当たり前の話だろう。
「んー……分かりました。雫ちゃんとかにも声かけてみて、調べてみます」
 思案後、にこっと笑顔を見せて答えるヒミコ。ネットの友だちの瀬名雫にも声をかけ、何とかしてくれるようである。
 はてさて、いったいどんな映画が仕上がるのやら。
 ちなみに……報酬は上映会の時に出るお菓子とジュースくらいなので、あまり期待してはいけない。

●早朝ロケは大変【1】
 冬の早朝、夜も明け切らぬ頃――天薙神社境内。白い息を吐き出しつつ、映画研究会の男女部員たちが撮影の準備に追われている。高校生の部活動にしては、やけに本格的な機材を使用しているのが目をひいた。
 その中には、数人の大人も混じっている。その中の1人、目つきの鋭い男がカメラやラフ板を手にしている男子部員たちに、やや厳しめに指示を与えていた。
「違うだろ。そんな手つきじゃ、撮れるもんも撮れねぇぜ」
「すみません! こうですかっ?」
「おう、出来るなら最初っからやっときゃ早いんだよ。おい、そこのラフ板! ただぼけーっと持ってんじゃねぇっ!」
「は、はい!」
 顔を強張らせつつも、男の指示に素早く従う男子部員たち。いやはや、早朝から熱の入った指導である。
「んー、さすがプロって感じねえ」
 その光景を見てぽつりつぶやいたのは、話を聞いて協力を約束したシュライン・エマである。少しまだ眠いのか、目をしぱしぱと瞬かせていた。
 男子部員たちに指示を与えているのは、今はこの現場に居ないが蜂須賀大六という青年が伝手を頼って協力を取り付けた、とある映像会社の撮影スタッフの1人である。
 ちなみに今使用されている機材も、実はその映像会社の物であった。おかげで普段映画研究会で使用している家庭用デジカムよりも、画質などがよく撮影出来ることになった。……その分、部員たちは色々と覚えなくてはならなくなったが、それもこれも経験だ。後々役に立つことであろう。
(でも、何か堅気の人に見えない感じがするのはどうしてかしら?)
 首を傾げるシュライン。まあ、男の目つきや口調からそういう感じがするだけかもしれないが。ただ、どういう映像を撮っているのかという質問には、何故か言葉を濁していたのが謎である。
(……スキンヘッドにサングラスの映画監督も居るんだし、特別おかしなことでもないのかも)
 シュラインは知り合いの映画監督の顔を思い浮かべた。業界にはそういう感じの人が少なくないのだろう、きっと。
 と、シュラインは背後から聞こえてきた足音に振り返った。そこには竹ぼうきを手にした、巫女装束姿の榊船亜真知が早朝にも関わらずにこやかな表情でやってきていた。
「おはようございます」
 亜真知がぺこりとシュラインに頭を下げる。亜真知はヒミコから誘いを受けて、この撮影への参加を決めたのであった。
「おはよう。それ、衣装……よね?」
 巫女装束を指差し、シュラインが亜真知に確認した。それもそのはず、ロケ現場となっている天薙神社は亜真知が居候している従姉の家であるのだから。自前で持っていても、何ら不思議ではなかった。
「衣装です」
 答えたのは亜真知ではない。傍らにトランクを置いた田中裕介である。雫から話を聞いた裕介は、裏方――主に衣装協力――としてこの撮影に参加していた。
「大変だったんですよ、これ探すの」
 苦笑して言葉を続ける裕介。はてさて、いったい何が大変だったというのだろうか。
「実はですね、見てください。この緋袴の、微妙な色合いとラインが……」
 亜真知の巫女装束を指差し、とくとくと裕介が今回こだわった部分について語り始める。これは長くなりそうだと思われた時、割り込んできた男子部員が居た。
「や、どもどもどもどもどもっ。早朝からありがとうございますっ!」
 腰も低く3人の前に現れたのは、眼鏡をかけた細身で背の高い男子部員――映画研究会会長の三島忠之(みしま・ただゆき)だった。三島はまず最初にがしっと裕介の両手を握った。
「田中くん、本当にありがとう! こんないい衣装を用意してもらって! 毎年毎年、衣装に悩まされてるから、こんなにありがたいことはないよ!」
「は、はあ。……どうも」
 ぶんぶんと握った手を振る三島に対し、裕介はそうとしか答えられなかった。要するに三島の勢いに押されたのだ。
 続いて三島は、亜真知の手をぎゅっと握った。
「榊船さんもありがとう! 君のおかげで、こんな素晴らしい神社でロケをすることが出来ます! 脚本のイメージにぴったりだよ!」
「それはどうもありがとうございます。家の皆様にお伝えしておきますね」
 三島の感謝の言葉に、笑顔で答える亜真知。確かに、亜真知が居たから神社でのロケがスムーズにいった訳で。居なければ、交渉でまた手間取っていたことだろう。
 そして最後にシュラインの方へ向き直り、三島が深々と頭を下げた。
「ああ、もうっ! シュラインさんも、声だけの出演なのにこんなに朝早くからありがとうございます! 寒い中、ご苦労様です!」
「え? あ、ううん、大丈夫よ。いい作品を作るためなんでしょう?」
 三島の勢いに圧倒されていたシュラインは、ふっと我に返ってそう答えた。声だけの出演だから、別に後で編集すれば済むことなのだが、監督をすることになった部員が同時撮影にこだわったのである。その方が、臨場感が出るという理由だ。
「本当にありがとうございます!!」
 ぺこぺこと3人に頭を下げる三島。こんなに頭を下げられると、何だか申し訳ない気持ちがしてくるのが不思議である。
「東條さん入りまーす!」
 女子部員の元気よい声が辺りに響いた。すると三島は身を翻して、声のした方へと駆け出していった。
「おはようございますっ、東條さん!」
「……おはよう」
 三島を一瞥し、短く挨拶を返した侍姿の青年――東條薫。大手劇団『God’s recipe』所属の劇団員である。
 大手劇団所属の薫が何故こんな所――と言っては映画研究会にあれなのだが――に居るのか。それは雫がネットの掲示板で書き込んだ内容を見て、薫が興味を持ったからに他ならない。またちょうど今が、所属劇団の次の公演までの谷間になっていたことも大きいだろう。
 金にならないのは承知の上、たまには高校生の役に立つのもいいだろうと考えて参加した薫。だが対する映画研究会、そして映画研究会の撮影に協力している演劇部の部員たちにとっては寝耳に水どころではない騒ぎであった。
 そりゃそうだ、演劇部で熱心な部員であれば1度は薫の所属する劇団の公演を見に行ったことがある。また、映画研究会の部員でも劇団出身の俳優に注目していれば、劇団の名前は当然知っている。その劇団の人間が、高校生が部活動で作る映画に出演するとなれば、驚かない方がおかしい。
「朝早くから本当にすみません! 東條さんのおかげで、協力してくれた演劇部の連中もやる気が上がってるんですよっ! それに演技指導までしていただいて、本当にありがとうございます!」
 ぺこぺこと頭を下げ、薫に感謝する三島。薫は特に何を言う訳でもなく、黙って三島の言葉を聞いていた。
「おまけに衣装まで用意していただいて……」
 そう言い、三島が薫の衣装に目をやった。侍姿である薫だが、その衣装は所々破れ、おまけにあちこちに泥やら血糊が付着して汚れてしまっている。泥や血糊は、顔や手足にも付着していた。
「気にするな。ちょうど脚本に合った衣装が劇団にあったから、借りてきただけだ」
 淡々と薫が言った。そうは言うが、脚本に合う衣装が劇団にあることがすでに凄い。
「……リハーサルを始めなくていいのか」
 今度は薫が三島に言葉を投げかける番だった。それを聞いて、三島は監督をする部員に声をかけた――。

●エキストラ満載【2】
 神聖都学園高等部、放課後の教室の一室に多くの男女生徒が集まっていた。その中には、ヒミコや文子の姿も見受けられる。
 そんな生徒たちの間をちょこまかと走り回っているのは、映画研究会の部員たちである。そう、これは撮影の現場なのである。
「……あちこちに声をかけて正解かも」
 ぐるりと教室を見回し、ぽつりと文子が言った。
「そうですね。やっぱり教室のシーンだと、人数居ないとそれらしくなりませんものね」
 ヒミコが文子の言葉に同意する。田舎の学校の教室とかならともかく、都市部の学校であれば人数がそれなりに居ないとらしくは見えにくい。
「教室のシーンだけで、演劇部の人たちばかりに負担かけさせる訳にもゆかないし……」
 そう文子が言うように、この場に今居る面々は演劇部外の者がほとんどである。そもそも、演劇部は演劇部で部活動がある。そんな中で、かねてからの付き合いもあって有志が協力してくれているという状況。減らせる負担は、減らすに越したことはない。
「ええと、私はこう言って転校生役の生徒を紹介すればいいのよね?」
 教室の前方では、先生役として狩り出された響カスミが脚本を手に映画研究会の部員に確認をしていた。何とも手っ取り早い方法を取ったものである。
「教室のシーンは今日1日で全部撮るのでしたっけ?」
 ヒミコが尋ねると、文子はゆっくりと頭を振った。
「最終日にもう1度、ラストシーン撮るために集まらなきゃいけないって……確か」
「でも、一度に撮影した方が早くないですか?」
 素朴な疑問をヒミコは口にした。
「よく分からないけど、監督の人のこだわりらしくって……。……私もヒミコちゃんの言う通りだと思うんだけど」
 効率を考えるなら、一度に撮影して編集で繋げる方が手っ取り早い。だがそれをしないということは、監督の部員に何か意図があるのだろう。
「いい加減にして!」
 その時、女子生徒の怒りの声が聞こえてきた。驚いた文子たちがそちらを見ると、声の主である女子生徒が金髪の男子生徒に向かって文句をぶつけている所であった。
「リハの度にアドリブ入れてきて! いいこと、脚本があるんだから脚本に従いなさいよねっ!」
 耳にカフスをつけた金髪の男子生徒を睨み付けそう言うのは、演劇部の副部長である高柳良子(たかやなぎ・りょうこ)だ。ちなみに、彼女がこの映画のヒロイン役である。
「脚本を軽んじてる訳じゃないさ。けど、毎回毎回一言一句同じことばかり口にするのも、つまんないデショ?」
 金髪の男子生徒――高等部2年の桐生暁はそんなことを言ってくすりと笑みを浮かべた。美形であると、こういう笑みも映えるものである。
「つまるつまらないじゃなくって! あたしが言いたいのは、もっと真面目にやりなさいってことなのっ!!」
「大丈夫大丈夫。決めるトコはきっちり決めますよ♪ じゃ、俺ちょっと外の空気吸ってくるから」
 良子の言葉をちゃんと聞いているのかいないのか分からないが、暁はさらりと言って一旦教室の外へ出ていった。
「あっ、こらっ! まだ話が終わってないわよっ!!」
 背に良子の声を受けながら、暁は廊下の窓から外を眺める。
「……からかいがいのある人だなあ。真面目なのかな?」
 ぼそっとつぶやく暁。もちろん良子のことを言っているのである。真面目過ぎるがゆえに、暁がリハーサルで毎回何かしらアドリブを入れることが許せないのであろう。
 ともあれ、それから少しして教室のシーンの撮影が始まった――。

●悪役の醍醐味【3】
「あ〜……暑いですね〜……」
 やや疲れを含む口調で大六がつぶやいたかと思うと、顔を覆っていた黒の仮面をかぱっと取り外した。そして、大きく深呼吸をする。
「いや〜、空気が旨いですっ!!」
 恐らくは心からの言葉であろう。何せ直前まで、黒の仮面を顔につけたままリハーサルを繰り返していたのだから。
 ここは某所にある貸しスタジオ。相変わらず映画研究会の部員たちが、スタジオ内を走り回っている。今日の撮影は、貸しスタジオでないと出来ない(というか、その方が都合がいい)ものであった。
 さて、大六の格好はというと全身黒尽くめ。首より下の全身黒タイツの上に、立派なマントやら鎧のような各種パーツなどをつけている。そして手は黒革の手袋、頭には黒のヘルメット、顔には先程外した黒の仮面。腰には剣まで携えているのだから、あんたはどこぞのSF宇宙映画の悪役かと突っ込みたくなってくる。実名を出すと色々とあれなので、出さないけれども。
 だが、背も高くがっしりとした体格だからだろうか、それなりに威厳ある姿となっている。まあ、ぼさぼさの長い髪やげじげじ眉毛が衣装で隠れることになるので、格好よさ3割増になっているのかもしれないが。
 スタジオには青バックで、銀色に塗られた1人がけのソファがぽつんと置かれていた。青バックから察するに、後でクロマキー合成を試みるつもりなのであろう。
「や、どもどもどもどもどもっ。蜂須賀さん、お疲れさまです!」
 三島が大六を見付けてやってきた。
「人材や機材だけじゃなく、資金もカンパしていただいて、本当に深く感謝いたします! おかげで今年は、例年になく撮影が充実してますよ!!」
 褒めて褒めて褒めまくる三島。褒められて悪い気がしないのが人間というもの、大六の顔にも自然と笑みが浮かぶ。
「いや〜、こういうの一度やってみたかったんすよね〜。やってみたら、こんなに暑いとは思わなかったですけどね〜」
 しみじみと言い放つ大六。いやほんと、熱の逃げ場がないから中が暑いのだ。暖房や照明の熱などもあるからなおさらである。
「で、衣装どうですか? ご希望通り、悪の宇宙人らしくしてみたんですけど?」
 三島が大六に尋ねた。らしくというか、某悪役そのままじゃないかという突っ込みは却下である。
「イメージぴったりでいいですよ!」
 ぐっと親指を立てる大六。何ら問題はないらしい。
「そうですか。田中くんもきっと喜んでくれると思います。黒の加減にこだわったらしいですから」
 なるほど、この衣装は裕介の仕事だったのか。
「ところで、今日の撮影は俺だけですか?」
 大六が撮影予定の確認をすると、三島はこう答えた。
「あ、後で桐生くんが来ます。クライマックスシーンですから頑張ってください!」
「ああ、あのシーンですか? く〜っ、これぞ悪役ってのを余す所なく見せつけたいですね〜!」
 こぶしをぐっと握り締め、熱演を誓う大六であった。

●完成披露【4】
 1ヶ月強という撮影および編集期間を費やし、無事に映画が完成したのは3月下旬のことであった。どうにか年度が切り替わる前に、作品が完成したのだった。
 完成披露上映会は、神聖都学園の視聴覚教室を借りて行われることとなった。もちろん主だった出演者やスタッフたちが集まっている。皆にはギャラ代わりとなるお菓子やジュースなどがふんだんに振る舞われていた。その中には、亜真知が持参した特製ブレンドの紅茶や、お手製のクッキーなども含まれている。
「皆さんの温かいご協力のおかげで、無事に今年も映画を完成させることが出来ました! 本当にありがとうございます!!」
 教室の前方に立ち、感謝の言葉を述べ深々と頭を下げる三島。パチパチと拍手が起こった。
 次いで、メインキャストから簡単な挨拶が行われた。最初に挨拶することになったのは、いつもの振り袖姿でやってきていた亜真知である。
「皆様、こんにちは。神楽アマチ役を演じさせていただきました、榊船亜真知と申します。撮影中、右も左も分からずご迷惑をおかけしてしまったかもしれませんが、とても楽しい時間を過ごさせていただきました。ありがとうございました」
 頭を下げ一礼する亜真知。中学生にしては非常に立派な挨拶であった。
 次に挨拶をしたのは、良子である。
「えーと……ヒロインの神楽良子役を演じさせていただきました、演劇部の高柳良子です。最初のうちはどうなることかと思いましたが、相手役にも恵まれてあたし自身も新たに勉強をさせていただきました」
 良子はそう言い、隣に立っていた暁をちらりと見た。暁は視線に気付いているのかいないのか、我関せずといった様子である。
「妹役の亜真知ちゃんもしっかりとした演技で、あたしも気を付けないといけないななんて思ったりしたんですけど、とにかく楽しい撮影でした。ありがとうございました」
 拍手と笑い声が入り混じる中、良子の挨拶が終わった。そして挨拶の順番は暁に移る。
「主役……の1人になるのかな、一応? 天神アキ役を演じた桐生暁、よろしく。そうだなあ、先の2人も言ってたけど面白い撮影だったかな。リハを真面目にやれって、しょっちゅう相手役の人が怒ってたけど」
 暁が良子を見ると、また笑いが起こった。良子が少し恥ずかしそうにして、そっぽを向いた。挨拶を続ける暁。
「詳しい役柄の説明は、言うよりも見てもらった方がいいかな。特別役柄を作り込む必要なくて、その点は俺は楽だったかも。じゃあ、俺の挨拶はこれで」
 挨拶を縁なし眼鏡をかけた大六へと交代する暁。チンピラ風の派手な服に身を包んだ大六は、開口一番こう言った。
「出でよ、戦闘員たち!」
 その瞬間、視聴覚教室の扉が勢いよく開かれ、黒の目だし帽に黒の全身タイツという姿の者たちが数人飛び込んできた。
「イー!」
 一斉にびしっと右手を挙げる戦闘員と呼ばれた者たち。集まっていた者たちの様子はといえば、呆気に取られる者も居れば、笑いを噛み殺している者も居る。
「……という訳で、悪の宇宙人を演じさせてもらいました蜂須賀大六です。これが悪役だというのを演じているんで、どうぞお楽しみに。ああ、もちろん戦闘員たちの活躍も」
「イー!」
 戦闘員たちの言葉のタイミングのよさに笑いが起こった。……どこかから『活躍するんですか?』というつぶやきが聞こえたが、気にしてはいけない。
 最後、挨拶は薫へと移った。途端に教室の空気が変わった。それも当然で、今回の出演者の中で唯一のプロである。挨拶でどんなことを口にするのか、耳を傾けようとする者が少なくはないということだ。
「……侍のカオル役を演じさせてもらった東條薫だ。ちょっとした縁で今回参加させてもらうことになったが……思っていたよりも、皆がしっかり動いていたのが印象深いかもしれない。新鮮な気分で撮影に挑めたのは、嬉しい誤算だった……」
 薫の挨拶が終わり、大きな拍手が起こった。プロの目から見てしっかり動いていたと言われたのだから、映画研究会や演劇部の部員としてはとても嬉しい言葉であった。
「それでは、5分後よりお待ちかねの作品上映を行います。上演時間が1時間ほどですので、何か用事を済まされる方は上演前にお願いいたします。また、上映中は携帯電話の電源を切っていただけると非常にありがたく……」
 全ての挨拶が終わった後、三島が注意事項を言った。さあ、いよいよ作品の上映だ。作品が記録されたDVD−RがDVDプレイヤーにセットされ、プロジェクターからスクリーンに映像が投影された――。

●作品上映中・その1【5】
 『時は戦国……』、そんな女性のナレーションとともにスクリーンに映し出されたのは雨の中に雷鳴とどろく荒れ地であった。
 一振りの刀を抱えた1人の侍――カオルがよろよろと足取りおぼつかない様子で荒れ地を歩いている。
「……姫の命……こんな所で朽ち果てる訳には……」
 全身血糊や泥まみれのカオル。それでも刀をしっかと抱え、1歩でも先へ先へと進もうとしている。
 やがて画面からカオルの姿が消えた後――一条の稲妻が激しい閃光とともに落ちた。音が消え、白くなる画面。
 そこへタイトルが映し出される――『I think.』と。
 タイトルが消えて白くなった画面が元に戻り始めた時、代わって映し出されたのはまだ明け切らぬ早朝の空の様子だった。
 空に流れ星が1つ、さらにもう1つ流れてゆく。再び『それから時は流れ現代』という女性のナレーションが入り、空からゆっくりとパーンして竹ぼうきを手に神社の境内を掃き清める巫女装束の少女、神楽アマチが映し出された。
「今日はお姉ちゃんの当番なのに……」
 軽く不満を言いながらも、手抜きすることなく真面目に掃き清めるアマチ。少しして、老婆の声が聞こえてきた。
「アマチや。そろそろ朝食にしようかね」
「あ、はーい、お婆ちゃん」
 掃き清める手を止めて、祖母の居る方向へアマチが振り返る。そして戻ろうとした時、不意にガサッ……という音が聞こえた。
 不思議そうな顔をして、音の聞こえた方へと向かうアマチ。やがて見付けたのは、血糊や泥にまみれた姿で倒れていたカオルだった。
 アマチがはっと息を飲む。カオルは刀を大事そうに抱いていた。
 ここで画面はぱっと切り替わり、日めくりカレンダーが映し出される。日付は2月18日。
 それから布団で眠っていた神楽良子の姿が映し出される。次第に顔のアップとなり、良子はゆっくりとまぶたを開いて目覚めた。
「良子お姉ちゃん大変!!」
 アマチの慌てた声が近付いてきた。

●作品上映中・その2【6】
 場面は学校に移る。
 ホームルーム前の教室に、良子が息を切らして駆け込んできた。
「セーフ! せ……先生まだよね?」
 荒い息を整えながら、周囲の同級生たちに確認する良子。女子生徒2人が相次いで良子に尋ねてきた。
「どうしたの良子? いつもはもっと早く来てるのに」
「寝坊でもしたの? 巫女さんが寝坊したら、神様に失礼でしょ?」
 それに対し、頭を振る良子。
「違うわよ。妹が今朝、うちの境内で怪我人を見付けたの。おかげでもう、朝早くからばたばたして……ふあぁ」
 良子があくびをした。直後、教室に担任教師の女性が入ってくる。
「起立! 礼! 着席!」
 いつもの挨拶を終えると、開口一番担任教師は生徒たちにこう言った。
「今日は皆さんに、転校生の紹介をします」
 その言葉にざわつく生徒たち。担任教師はパンパンと手を叩き、静かにさせる。
「はいはい、静かに。いいわよ、入ってきて」
 教室の外に向かって声をかける担任教師。扉を開けて入ってきたのは、金髪の顔だちのよい少年であった。女子生徒がざわめいた。
「今日からこのクラスの一員になる、天神アキくん。天神くん、皆に挨拶をして」
「……天神アキ。今日からよろしく」
 素っ気無くアキは言うと、ゆっくりと生徒たちの顔を見回した。不意に目の合う良子とアキ。数秒ほどこの状態が続いたが、すぐにまたアキは他の場所へ目をやった。

●作品上映中・その3【7】
 放課後、学校を後にして自宅へ戻ろうとする良子。ところが、途中でたちの悪い不良たちに絡まれてしまう。
「やめてくださいっ!」
「いいじゃん、俺たちと付き合えよ。楽しいこと教えてやるぜ、へっへっへ」
「楽しすぎて夢中になっちまうかもな、ひひ」
 良子の腕をつかみ、どこかへ連れてゆこうとする不良たち。そこへ転校生のアキが通りがかる。
 アキは良子の姿を一瞥して、そのまま何事もなく通り過ぎようとする。良子が怒りの声をアキにぶつけた。
「ちょっと! クラスメートがピンチなんだから助けたらどうなの!!」
 その言葉に、アキが足を止めた。
「お、頼もしい騎士さんの登場かい? どうせドン・キホーテじゃねぇのか、へへへ」
 不良の1人が軽口を叩いたが、アキに一睨みされた途端、良子の腕を放して慌てて逃げ出した。
 何が起こったのかよく分からない良子だったが、とにかくアキに礼を言った。だが、アキの態度は素っ気無い。
「……あまり関わり合いになりたくないんだ」
 とだけ言い、足早にその場を立ち去るアキ。呆気に取られた良子がぽつりとつぶやく。
「何よ、あいつ……」
 同じ頃、家では包帯だらけの姿で未だ目を覚まさぬカオルのそばで、アマチが様子を見守っていた。
「いったい、この方は……?」
 疑問を口にして、アマチは枕元に置かれた刀に目を向けた。カオルが抱えていた刀だ。
「う……うう……」
 呻くカオル。アマチが声をかけた。
「気付かれたんですか?」
 アマチの呼びかけに、ゆっくりと目を開くカオル。次第に視界が合ってきて、アマチの顔をはっきりと認識した。
「姫!」
 驚きの声とともに上体を起こすカオル。だがすぐに苦痛に顔を歪め、アマチによって横になるよう勧められた。
「姫……ご無事で……」
 若干だが、カオルが安堵した表情を見せた。

●作品上映中・その4【8】
 夕焼け空から夜空へと変化する画面。夜空は星空となり、やがて青い地球が映し出される。そこに、蜂の形をした宇宙船が割り込んできた。
「フッフッフ……探したぞ」
 低くくぐもった男の声とともに、全身黒尽くめの鎧に身を包んだ人物が画面いっぱいに映し出される。顔は仮面に覆われて、表情を窺うことは出来なかった。
 引きの画面になり映し出されたのは、宇宙船の内部。男は銀色の立派な椅子に腰掛けていた。恐らくは高位の座にある者であるのだろう。
「しかも都合がいいことに、我らの次なる目標――テラに自ら逃げ込んでくれるとは」
 クックックと笑う宇宙人の男。視線の先にあるのは壁面モニターに映し出された青い地球だ。
「……じきにあの星も我らの手に落ちる。最高司令官たるこの私が、わざわざ出向いてきたことを光栄に思うがいい」
 なおもクックックと笑い続ける宇宙人の男。
「だが諸君! 攻撃時の混乱に乗じて逃げられる訳にはゆかぬ! より詳細な居場所を確定させ次第、速やかに彼の者の身柄を確保するがいい!!」
「「「「「イー!」」」」」
 最高司令官の背後から威勢のよい返事が返ってきた。後方にはずらりと、全身黒尽くめの表情分からぬ戦闘員たちが居並んでいた……。

●作品上映中・その5【9】
 意識を取り戻し、回復の兆しを見せ始めたカオルはアマチや良子から自らが戦国の世から未来に飛ばされてきたことを知ることになった。
「……馬鹿な……」
 にわかに信じられない様子のカオル。
「ならば姫……我が殿などはどうなったというのだ……」
 それに対し、アマチが恐る恐る言う。
「あの、少し調べてみたんですけど……」
 アマチが言うには、カオルが言う姫や殿の墓が近くの寺にあるということだった。
「……最後は落城し、火に包まれたと言われています」
 最期の様子を口にし、アマチはカオルの反応を待った。カオルはしばらく押し黙っていた。
「済まぬが……そこへ拙者を連れていってもらいたい。……頼む」
 やがて無理を言い、良子とアマチに墓へと連れていってもらうカオル。カオルは墓前に来ると、がっくりと膝を突いてうなだれた。
「姫……! ……殿……!」
 カオルの瞳から落ちた大粒の涙が、地面を濡らしていった。良子とアマチは何も声をかけることが出来ず、黙って見守るだけであった……。

●作品上映中・その6【10】
 教室のシーン。アキは1人、教室の窓から空を眺めていた。そんなアキの姿を、良子が目で追っている。
 ふと視線に気付き、アキが良子の方へ振り向いた。慌てて視線をそらす良子。アキに薄い笑みが浮かんだ。
(何で……あいつのことが気になるんだろ……)
 良子の心の声。再び窓の外を眺めるアキに、また良子は視線を向けた。
 その頃、だいぶ回復をしたカオルは神社の境内にて空を眺めていた。腰には例の刀を携えて。
「拙者は……これからどうすればよいのか……」
 自問し、すっと刀を抜くカオル。しかし刀身を見て、カオルは眉をひそめた。そこに、姫の言葉が重なってくる。
『よいですか。この刀に曇りある時、災いが起こると言われています。そして、この刀をもって災いを振り払うのだとも』
 刀身には、曇りがあった――。
「……不吉な……」
 険しい表情で、カオルが言った。

●作品上映中・その7【11】
 宇宙船内部。最高司令官がクックックと笑っていた。
「そうか……。ついに見付けたのだな、王子を」
 壁面モニターには、日本列島が映し出されている。だがそれは、次第にある地域へとズームアップされてゆく。
「王子など我らの前では恐れるに足らぬ。しかし。王子が持っている、力を秘めた宝玉……油断は出来ぬ。我らの支配を揺るぎなきものにするためには、今のうちに排除せねばならぬ。……そうであろう?」
「「「イー!」」」
「「イー!」」
「「「イー!」」」
 最高司令官の問いかけに、背後のあちこちから賛同の声が上がった。大きく頷く最高司令官。仮面で表情は分からないが、満足そうに感じられる。
「ではこれより1時間後、地球に対し総攻撃を開始する! 諸君は速やかに彼の者の身柄を拘束せよ! ……生きたまま私の前に連れてくるのだ」
「「「「「イー!」」」」」
 最高司令官の命令に、戦闘員たちが威勢よく答えた。

●作品上映中・その8【12】
 夕刻、刀を携えたカオルはアマチとともに墓から帰ろうとしている所だった。
 前を歩き、時々様子を見るようにカオルに振り返るアマチを見て、カオルがぽつりとつぶやく。
「似ている」
「……どなたにですか?」
「我が……姫によく似ている。だがもう……姫は居らぬ」
 遠くを見つめるカオル。アマチが少し寂しそうな目をした。そして、歩むスピードを速めてカオルのだいぶ先へ行くアマチ。
 立ち止まり、振り返ってカオルに言った。
「先に帰りますから――」
 その瞬間、空から一条の光が降ってきて、アマチの胸を背中から貫いた。
 何事か把握出来ない表情のまま、前のめりに倒れるアマチ。カオルが駆け寄り抱き起こすが、すでにアマチは事切れていた……。
 空をきっと睨み付けるカオル。夕焼け空に蜂型の宇宙船が飛んでいた――。

●作品上映中・その9【13】
 同じ頃、良子はアキの後をこっそりと尾行していた。けれども、それは影でアキにばれてしまっていた。
「……どうしてついてくる?」
「ついてきちゃ悪いの?」
「言ったろ。関わり合いになりたくないって」
「そっちがダメでも、こっちはあれなの」
「どうしてそうこだわるんだい?」
「そ、それは……あんたのことが気になるから……」
 語尾が小さくなり、ごにょごにょと言葉を続ける良子。すると、アキはおちゃらけたようにこう言った。
「気になるからって関わり合いになると、不幸になるよ? キミと俺が、同じだなんて想ってる?」
「……何よ、その言い方。まるで自分が超能力者か宇宙人か、特別な人間みたく言って。もうちょっと上手い言い訳あるでしょ?」
「…………」
 良子の言葉にアキは答えない。
「……嘘、よね?」
「…………」
 またしても答えないアキ。けれども、目だけは哀し気に笑っていた。まるで良子の言葉を肯定でもするかのように。
 その時、遠くから轟音が聞こえてきた。振り向く2人。遠くでビルが煙を上げていた。空には蜂型の宇宙船が――。
「……ほら、不幸になった」
 自嘲気味につぶやくアキ。と、そこに戦闘員が3人現れた。
「「「イー!」」」
 一斉にアキへ襲いかかる戦闘員たち。だがアキが戦闘員たちに向かって手をかざすと、その手から衝撃波が飛び出していった。
「「「イー!?」」」
 おかげで戦闘員たちはアキに触れることも出来ずに後方へ飛ぶように倒れてしまう。
「何なの……こいつら。それにあの宇宙船……!?」
「どうやら、俺を探しに来たらしい。……行かないといけないかな」
 ふっと笑みを浮かべるアキ。そして、良子に背を向けて歩き出す。
「さよなら。……もう会うことはないだろうけど」
 アキが遠ざかってゆく。その後ろ姿を、良子はその場にへたり込んでただじっと見つめていた……。

●作品上映中・その10【14】
 ビル街を攻撃する蜂型宇宙船。爆発するビル、炎上するビル、黒い煙を上げるビル……しかし、決して宇宙船の攻撃の手は休まらない。
 その攻撃を受けるビルの中、鬼神のごとき形相で階段を駆け上がるカオルの姿があった。
 場面は宇宙船内部に変わる。戦闘員2人に後ろ手に押さえ付けられたアキの前に、最高司令官がアキを見下ろすように立っていた。
「ようこそ、我が宇宙船へ。王子を迎えることが出来て非常に私も喜んでいる」
 そう言い、最高司令官はクックックと笑った。
「さて、王子。単刀直入に言おう。お前が持って逃げた力を秘めた宝玉を、私に譲り渡すのだ。力を秘めた宝玉は、全宇宙を支配することになる私が持つべき物なのだ。……そうは思わないかね、王子?」
「……嫌だと言ったら」
「何、嫌でも譲りたくさせるだけだ」
 最高司令官が剣を抜く。それは刀身が真っ黒な剣であった。そしてそのまま、アキの首筋へと持ってゆく。
「方法は、いくらでもあるのだからな」
 またクックックと笑う最高司令官。すると、何故かアキも同じように笑い始めた。まるで最高司令官を馬鹿にするかのように。
「何がおかしい!」
「あんた勘違いしてるよ。力を秘めた宝玉が『物』だと思っているだろう」
「何っ!」
「力を秘めた宝玉とは……俺自身のことさ」
 とアキが言った瞬間、まばゆい光とともに押さえ付けていた戦闘員たちが弾き飛ばされた。思わず2、3歩後ずさる最高司令官。
 アキはすくっと立ち上がり、最高司令官と対峙する。
「フ……。しかし! ならば貴様を我が手の内に置いておけばよいだけのこと! ここから逃げられる訳がないのだからな!」
「いや、もうあんたの手に入ることはないさ」
「……何だと」
「一緒に、消え去るんだ。後ろを見るといい」
 アキの言葉に壁面モニターに振り向く最高司令官。そこには、ビルの屋上から飛んで宇宙船に斬りかからんとするカオルの姿が、次第に近付いてきていた。
「気付かなかったのかい? ……俺が力で宇宙船の高度を下げていたことに」
 嘲笑うアキ。
「ば……馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 絶叫する最高司令官。そこにカオルの叫び声が重なってくる。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
 次の瞬間、宇宙船を包み込むようにまばゆい光が起こった。真っ白になる画面――しばしの無音。

●作品上映中・その11【15】
 白くなった画面が元に戻り始め映し出されたのは、まだ明け切らぬ早朝の空の様子だった。
 空に流れ星が1つ流れてゆく。画面はその空からゆっくりとパーンして、竹ぼうきを手に神社の境内を掃き清める巫女装束姿のアマチが映し出された。
「今日はお姉ちゃんの当番なのに……」
 軽く不満を言いながらも、手抜きすることなく真面目に掃き清めるアマチ。少しして、老婆の声が聞こえてきた。
「アマチや。そろそろ朝食の支度をしようかね」
「あ、はーい、お婆ちゃん」
 掃き清める手を止めて、祖母の居る方向へアマチが振り返る。
 ここで画面はぱっと切り替わり、日めくりカレンダーが映し出される。日付は2月18日。
 それから布団で眠っていた神楽良子の姿が映し出される。次第に顔のアップとなり、良子はゆっくりとまぶたを開いた。
 良子の目からは、涙が流れていた……。

●作品上映中・その12【16】
 雨の中に雷鳴とどろく荒れ地が、再び映し出される。次に映し出されたのは、荒れ地にうつぶせに倒れ込んでいる泥まみれ血まみれのカオルの姿。
 何やら満足げなカオルの表情。そこにあの刀は見付けられなかった――そう、どこにも。

●作品上映中・その13【17】
 場面は学校に移る。
 良子は席で物憂気な顔をしていた。それを見ていた女子生徒2人が、相次いで良子に尋ねてきた。
「どうしたの良子? 何か元気なさそうだけど」
「悪い物でも食べたの?」
 それに対し、頭を振る良子。
「違うわよ。夢を見たの……とても、悲しい夢」
 良子が深い溜息を吐いた。直後、教室に担任教師の女性が入ってくる。
「起立! 礼! 着席!」
 いつもの挨拶を終えると、開口一番担任教師は生徒たちにこう言った。
「今日は皆さんに、転校生の紹介をします」
 その言葉にざわつく生徒たち。担任教師はパンパンと手を叩き、静かにさせる。
「はいはい、静かに。いいわよ、入ってきて」
 教室の外に向かって声をかける担任教師。扉を開けて入ってきたのは、金髪の顔だちのよい少年であった。
 女子生徒がざわめく中、良子ははっとして信じられないといった様子で口元を両手で覆った。
「今日からこのクラスの一員になる、天神アキくん。天神くん、皆に挨拶をして」
「……天神アキ。今日からよろしく」
 素っ気無くアキは言うと、ゆっくりと生徒たちの顔を見回した。不意に目の合う良子とアキ。無音になり数秒ほどこの状態が続いた後、良子の瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた――。
 そして場面は切り替わり、神社の中が映し出される。そこには、あの刀が丁重に奉られていた。
 画面は暗転し、スタッフロールが表示される。

●スタッフロール【18】
〈キャスト〉
 神楽良子    高柳良子
 天神アキ    桐生暁

 神楽アマチ   榊船亜真知
 担任教師    響カスミ
 女子生徒A   影沼ヒミコ
 女子生徒B   原田文子
 姫(声)    榊船亜真知
 祖母(声)   シュライン・エマ
 ナレーション  シュライン・エマ
 最高司令官   蜂須賀大六

 カオル     東條薫

         神聖都学園映画研究会
         神聖都学園演劇部
         神聖都学園有志生徒
         その他有志


〈スタッフ〉
 脚本      中原メグ

 演技指導    東條薫
 衣装協力    田中裕介
         東條薫
 メイク協力   田中裕介
 音声協力    シュライン・エマ
 特殊効果協力  蜂須賀大六
 機材協力    蜂須賀大六
 小道具協力   東條薫
 キャスト協力  瀬名雫
         蜂須賀大六
         影沼ヒミコ
         原田文子
         神聖都学園演劇部
 スタッフ協力  蜂須賀大六
 撮影協力    天薙神社
         神聖都学園

 監督・編集   内海直樹
 プロデューサー 三島忠之

 制作著作    神聖都学園映画研究会

●お疲れ様でした!【19】
 作品の上映が終わると、視聴覚教室は大きな拍手に包まれた。どうやら今年の作品は好評のようである。
 けれども、映画研究会のOBなどを中心に、ちらほらと不満も聞こえてくる。
「描きたいことは分かるけど、ちょっと説明不足じゃないか?」
「侍と宇宙人と一緒に持ってくるのは、強引すぎでしょ」
「冗長だねえ。いつもみたく、15分とか30分に出来なかったのか?」
「この規模は、来年以降同じことやれって言っても無理だろ。これはこれで面白かったけど」
 そういう声に対し、三島があれこれとフォローに回っていた。まあ、プロデューサーとしては当然の行動なのかもしれないが。
 さて、ふと見ると裕介は女子生徒たちに囲まれていた。耳を傾けてみると、女子生徒たちはどうやら演劇部の部員で、裕介に衣装のことをあれこれと聞いているようだった。
「あの巫女さんの衣装、どこで手に入れたんですかぁ?」
「衣装選びのコツとか教えてくれません?」
「今度、うちの部でも手伝ってもらえませんか?」
 いやはや、裏方に徹した割には何かもてている様子。……ああ、表情が少しゆるんでますよ、裕介さん。
「……変ねえ?」
 何故か首を傾げているのはシュラインである。
「どうかされましたか?」
 亜真知がそんなシュラインに声をかけた。
「んー、ほら。ナレーション収録のついでに、編集途中の映像1度見せてもらったんだけど……何だか、やけに派手になってるなって。特撮シーンとか? あ、確か編集している所に、差し入れに来てたわよね? その時はどうだったの?」
 シュラインが逆に亜真知に尋ねる。亜真知は笑って答えない。ちなみにシュラインと同じ疑問は、映画研究会の一部の部員も抱いているようで、同じく首を傾げていた。
 薫の所には、あれこれと生徒たちが集まっていた。それに対し、やや困った様子の薫。きっと、大勢に取り囲まれるというのは苦手なのであろう。
 大六の所にもまた、物好きな者たちが何人か集まっていた。視聴覚教室の後ろの方で、『イー!』という声が何度となく聞こえていた。……気のせいか、ちょっとした悪役講座になっているような?
 そして暁。隣に、良子が座っていた。
「あー……っと。お礼を言わなくちゃいけないかしら」
 前を向いたまま、良子が暁に言った。
「何のこと? お礼を言われるようなことしたっけ、俺?」
 さらりと言う暁。それに対し、良子はこう言った。
「リハ中のアドリブ」
「ああ、あれね。面白かった?」
 暁がくすりと笑う。
「そうじゃなくって。……考え方が少し変わったかな、なんて。あたしの」
 と言い、ようやく良子は暁の方を向いた。
「ああいうのもありなんだなーって。だから、ありがとう」
「それはそれは、どうも」
「ね、うちの部に入らない?」
 唐突に良子が暁を勧誘した。
「は?」
「素質あると思うのよ。ほら、正体をほのめかすシーン。実はね、あの時ちょっと背中がぞくっとしちゃって……あたし。演技じゃなく、本当に言われたような」
 黙る良子。暁も何も言わない。不思議な空気が、2人の間に一瞬流れた。
「脚本そのままだよ」
 暁は、そうとだけ答えた。

【自主制作映画を作ろう 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
     / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0630 / 蜂須賀・大六(はちすか・だいろく)
     / 男 / 28 / 街のチンピラでデーモン使いの殺し屋 】
【 1098 / 田中・裕介(たなか・ゆうすけ)
         / 男 / 18 / 孤児院のお手伝い兼何でも屋 】
【 1593 / 榊船・亜真知(さかきぶね・あまち)
  / 女 / 中学生? / 超高位次元知的生命体・・・神さま!? 】
【 4686 / 東條・薫(とうじょう・かおる)
                   / 男 / 21 / 劇団員 】
【 4782 / 桐生・暁(きりゅう・あき)
               / 男 / 17 / 高校生兼吸血鬼 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全19場面で構成されています。今回は皆さん同一の文章となっております。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせさせてしまい申し訳ありませんでした。ここにようやく自主制作映画をお届けいたします。
・……『現代日本におけるSF』というテーマや、短編映画だとかという物はどこへ行ったんだろうという気がしますが、こうなるのもプレイングの妙なのでしょうね。なお今回のプレイングは、作品に対してあれこれと影響しております。
・作品ですが、侍+タイムスリップ+宇宙人+ジュブナイル、この辺をごった煮にしてみましたがいかがだったでしょうか。このお話の感想とは別に、作品に対する感想もお待ちしております。
・ちなみに、あれこれと小ネタを混ぜております。微妙な小ネタですので、分かりにくいかもしれませんが。
・シュライン・エマさん、90度目のご参加ありがとうございます。という訳で、音声関係の方であれこれと手伝っていただきました。声だけの出演で早朝ロケもどうなんだって話ですけれども。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。