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大事な原稿行方不明事件
碇はまとめた来月の『アトラス』完成原稿の一部を厳重な金庫に納めた。
何故かというと、まだ予定の締め切りには間に合うが、一部ぎりぎりのモノがあるらしい。
「まったく、三下君は没でも締め切り前には持ってきていたのに」
と、比べてはならない人で比べてため息。
――自信作です!
――あああっ! 編集長ひどいですぅ!
今では三下君は若返りで高校生になってしまい、現在は神聖都学園の事件を追っている(おわされている)訳だが、結局の所、雫の取り分になっている三下の原稿。
ま、彼の原稿はその中に入っているのだ(皆の助力のたまものである)。
「何か元気ありませんよ?」
桂が心配そうに言った。
「一寸昔の賑やかさを思い出しただけよ」
頑張っても報われない彼の原稿とやり手の取材者の掲載される原稿は完成すれば皆同じ、大切なものだ。先に出来た分を印刷所に送っていくわけにも行かない。
そうして、彼女は桂と一緒に帰っていく。
事件は翌日に起きた。
金庫が壊されて、原稿が無くなっているのだ。
「何て事!」
碇はなわなわ震えている。
――確かにセキュリティもセットしたのにどうして?
「……スパイがいてライバルが盗んだ? それか……!」
彼女は、桂を睨む。
「待って下さい! ボクはそんなコトしません!」
生い立ち経歴、謎でいつもでっち上げ、多分みんなのアイドル(?)かわうそ?並に謎の存在、桂に容疑がかかる。本人は否定するが、なにぶん能力が能力……時間旅行が出来るからだ。
「そう、ならその場で無実を証明しなさい!」
「無理ですよぅ!」
一応警察は呼んだが、かなり奇妙なことが多い。内部の者と判断する要因ばかりだ。
「一応、怪奇現象捜査課……IO2ではない課に頼みますけど」
と警察は言っている。IO2に頼んだら、ハッキリ廃業である。
「大事になるから、穏便に」
しかし、桂の容疑は晴れないが、彼は、
「真犯人を捕まえるまで、猶予を下さい!」
と、頼み込んでいた。
鑑識に邪魔だと言われても、段ボールのミカン箱で(段ボールより木箱がいい気もするが)原稿を書いているシオン・レ・ハイがその場で、
「私が事件を解決しましょう」
と、両手を組み、口を隠して格好つけている。20世紀に爆発的人気を呼んだ、心をテーマにしたロボット(?)アニメで出てきた主人公の親父見たく、だ。
「邪魔だからどいてくれ、しっしっ」
鑑識は兎たちとこの謎人物を追い払っているところだ。
かっこつけても全然格好良くないおっさん、シオンだった。
碇にズルズル引きずられていく、びんぼーにん。うさぎも一緒に同行。
目の前には桂が不安そうな顔をしている。
――だ、大丈夫なんでしょうか?
何事かと、修繕寺美童は人混みをかき分けて、碇と桂の前にいる。
「まあ、まあ。桂さんの無実を証明してみますから、大船に乗ったつもりで任せて下さい」
と、御曹司故なのか気品のある優雅さをもって自信ありげに言っている。
しかし、しかしだ、
彼の瞳は桂に釘付けである。
桂は悪寒を感じずにいられないが、背に腹は代えられない。
「あ、お、お願いします!」
「でも、君には手伝って貰うからね」
「ボクにできることなら……」
とりあえずシオンと美童が桂の無実をはらすため解決に乗り出す事となった。
既に美童はすることが決まっているらしいので、携帯でどこかのレストランの予約を取っているらしい。
只、シオンだけは桂に再度事のあらましを訊いていたり、警察にも許可を貰って金庫の荒らし具合(破り方)を調べていたり、編集部の人間に聞き込みしてメモを取っていたりと、かなり積極的である。
「ふむふむ、そうですか。で、あの時間何を?」
「警察に言ったことと同じだけどさ、あの時間は〜」
と、見た目は良い感じの聞き込みだ。
「もうすることは決まっているのに何をしてるんだい?」
と、美童がシオンの手帳を奪った。
「な……なんだこれ?」
シオンの手帳は確かに色々メモが書かれているのは確かだが、ウサギや、縦長いよかん、謎の小麦色、さらに“目指せ! ナマモノ!”なんて自分の似顔絵が描いていてなにやらさっぱりである。
「あはは〜」
シオンは笑っているだけだ。
――だ、大丈夫なのか? いや、ヒョッとすると……
美童はシオンの行動を理解できそうでできなかった……事にしておこう。
金庫の荒らされ方は一目瞭然で、モノの見事に側面から壊されている。ただ、その金庫はかなり頑丈に作られているのに、破片が一つもないのだ。その“空間”自体が切り取られた感じである。
「桂さんが時空間移動できるとしても、コレは難しいじゃないんでしょうかね?」
シオンは顎に手をつけて考える。
桂ができるのは時間移動の門だ。空間を切り取るわけではない。
「そうだよね」
美童が同意する。
「そうです! そうです!」
桂がうんうん頷いている。
「空間移動などできるというなら、其れぐらい簡単じゃなくて?」
碇は疑いを持っているようだ。
警察もジトメで容疑者をみている。
「えー!」
ガクガク震える桂君。
其れを優しく庇うように美童が立つ。
「とりあえず、夜はこのレストランでゆっくり考えましょうよ」
と、美童は桂とシオンにメモを渡した。
「は、はい」
「おお!」
桂は怯え気味に受け取るが、シオンは大喜びだ。
夜。高級レストラン……
「ダンスゴーゴー!」
と、前にアンティークショップ・レンで手に入れたゴスロリ服でシオンはホテルを優雅に踊りながら進む(どんなだよ)。その服は、高級レストランには一応相応しいかも知れない雰囲気であったが……かなり台無しかもしれない。
流石に普段着では行けないだろうと言うことで着替えたのは良いが、踊ることはないだろうと苦笑する美童と桂。
桂をレディのように扱う美童だが、桂は其れが怖かった。しかし、今は従っている。
――此処は我慢しないと行けない……(桂の心の声)
豪華な食事が配られて、話し始めようとしても、シオンが食べることに必死になっているため、食事が終わるまで作戦会議は後回しになった。
デザートの時に、やっと落ち着いたので、
「で、ボクの考えなんだけど……」
美童が切り出す。
「な、何か良い案でも?」
「むしゃむしゃ」
「時間旅行で、編集部から君が出て行った後から盗難前の時間向かうんだ。そして犯人を懲らしめる」
「ああ! それはいいですねぇ」
「そ、其れは危険すぎますよ〜!」
「大丈夫、任せて」
「ううう。只でさえ、ボクが疑われている能力なのに……」
しょぼくれる桂。
あとは、抵抗したときはどうするかなどを考えることをあれやこれやと話し合った。
帰り支度の時……シオンが……
「また奢ってくれませんか?」
と、頼んでいる。
「何故ボクが君に奢らなきゃ行けないの?」
ため息吐く美童だった。
食後少し休憩して作戦開始。
桂が門を開いて、
「どうぞ」
と、2人を連れて行く。
暫く、時間道路を歩いた先に、桂と碇が編集部から出て行った時間にたどり着く。
「誰もいない……よな」
3人で門から辺りを確認する。
端から見れば、3人が盗みに来ているようなものだが、仕方ないだろうか?
「む? なにか来ますね……」
シオンが何かを感じ取った。
「あれ?」
「うそ?」
金庫の目の前には桂がいたのだ。
「そんな! ボクは!」
「まってください! 何か違います」
桂が大声を上げそうになるときにシオンが彼の口を塞ぐ。
「かなりの魔力の持ち主ですね……多分……」
「わかるの? シオンさん」
「一応は、ですね」
桂と思しき者は、指で円を描いて金庫の壁を消そうとする。
「まて!」
と、悪魔を呼びだし美童が叫ぶ。
「む?」
桂らしき者は、美童と桂、シオンに気付いた。
「本物の登場か……」
「偽物だね……」
「如何にも、時間旅行して来る事も計算済み」
「何者ですか? あなたは? そして何故原稿を盗もうと?」
シオンは滅多に使わない能力を発動する。
「頭が良いなら言う必要はないしだろう。最も、その場で死んで貰うので必要はない。桂以外は、な……」
と、偽物は円を描く。
「ソウル・ファッカー!」
美童がデーモンに命令する。
しかし、デーモンは困った顔をする。
「うそだ! 魂がないって!?」
美童は
「くくく」
「不思議な世の中、魂ではなく遠隔思念体でしょうね……多分あなたのデーモンの力さえ超えているのではないでしょうか?」
シオンが、両の手のひらから力を発動する。今まで見たことがないような真剣な顔のシオン。
原稿を燃やしてしまわないよう、極力抑えて……
爆ぜた。
偽物は黒い弾丸を連射する。
其れを手で弾いていくシオン。
美童は桂を庇い、シオンに接近戦に託す。
ソウル・ファッカーの能力“霊的無効化”を2人の範囲に狭めて。
霊的ではない魔力か妖力か? 其れか抑止? それは今では判断できない。
このままでは桂が本当の犯人になってしまうだろう。
それだけは避けなければと……美童もシオンは考えた。
「たぁ!」
シオンが偽物に一撃を食らわせた。
「やはり……霊魂がない……ですね」
舌打ちするシオン。
偽物はどんどん霧上になる。
「その通り、我はすでに無であり有。有であり無の存在だよ」
「矛盾しているがあり得るか……この“世界”じゃ……」
美童が呟く。
「今回は退くか……」
と、偽物……正体不明の存在は霧のように消えた。
時計の針が聞こえる程の静寂が訪れる。
「なんとか、原稿は守り通しましたが……」
シオンが、安堵するが、周りが黒い弾丸によってめちゃくちゃである。
「壊れちゃったのは仕方ないから、元の世界に戻りましょう」
「ですね」
と、桂と共に元の時間軸に戻っていった。
帰っていけば、この3人以外で真実を知るものはいないが、蛍光灯破裂やガラス破損で編集部がめちゃくちゃになっていることで大騒ぎになっている。
電気系統がやられていたのかどうかと言うことで落ち着いたようだ。
もちろん、原稿は無事。
平和な編集部と変わらない。
今となっては謎のままであるが、3人は何れ“あの存在”に出会うだろうと確信していた。
と、真面目に浸るのはこの辺で終わり……。後日談。
「桂君。お礼が欲しいのですけど」
「な……なんですか?」
美童の言葉に悪寒が走る桂。
美童は、かなり女の子に似ているので、可愛いのだが……れっきとした男である。
桂は
「キスがしたいなぁ」
「いやですー!」
絶叫と共に、桂は門を開けて逃げていった。
「ああ、まってくださーい!」
と、追いかけようとするが、門が丁度閉まったので思いっきり壁に激突してのびてしまった。
「好きなのに〜……がく……」
虚弱体質だが意外に頑丈そうな美童君。
シオンは相変わらず、碇のデスク近くにミカン箱を置いて、今回の原稿を書き上げていたが……
「ああ! ヤギさん食べないデー!」
「べらんめぇ」
「めーめー」
どうも時間矛盾(タイムパラドックス)の抑止が働いているのか、ヤギと腹巻き江戸っ子ヤギが突如現れ原稿を食われてしまっていた。
あのシリアスは何処へ……。
しかし其れは時間矛盾で無くなっているようなものであるが……。
End
■登場人物
【0635 修善寺・美童 16 男 魂収集家のデーモン使い(高校生)】
【3356 シオン・レ・ハイ 42 男 びんぼーにん(食住)+α】
■ライター代理でかわうそ?がお伝え
|Д゚)ノ イレギュラー代表! かわうそ? なり!
|Д゚) こんかいどぅ?
|Д゚) 美童(様)残念。流石魂や霊的じゃなくありゃ別の力、ではちょっとかばーむりかも?
|Д゚) シオン(様)、ちょっと戦闘に。かっこいい
|Д゚) 滝照結構どうするか悩んだとかいっている。
|Д=) 今回のあれはいったいなんだろ?
|Д゚)ノシ んじゃまた。
|Д゚) あ、シオンに渡すものありゅんでかくにんにょろ
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