コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


■ひな祭られ■

「あかりをつけましょぼんぼりに〜」
 草間零が、楽しそうに唄を唄いながら買い物から帰ってきた。───そうか、今日は3月3日。ひな祭りの日ではないか。
 草間武彦は、スーパーで売ってる菱餅か何か、それとデパートで安売りしているお内裏様とお雛様の二人セットだけでも零に買ってあげればよかったと後悔しつつ、出迎えた。
「お帰り、零。ええと、今からでも間に合うかな……」
「何がですか? 兄さん」
 きょとんとした零は、だが兄の続く言葉を聞く前にチャイムが鳴り、「ホントに当日に届きました!」と大喜びで扉を開けている。
 すると、どかどかと次から次へと長い箱や四角い箱等、宅配の人間が荷物を届けていく。
「ちょっ……待て、これはなんなんだ」
 驚く武彦をよそに、零は「あそこの隅のあいたところへ置いてください」と指示している。どうやら、零が注文したらしい。
 宅配の人間が帰っていくと、零は、
「さ、兄さんも手伝ってください。皆さんにも手伝うよう、言っておきましたから、もうすぐ皆さんも来ると思いますよ」
 と、いそいそと箱を開け始める。
 どうやらそれは、ひな祭りのひな壇と雛人形セット(オマケのお菓子つき)だった。それも、かなり高価なものだと武彦が見ても分かる。
「お、おい零、これ代金どうしたんだ」
「んーなんでもお試しセットって言って、安かったんです。それに、お小遣い、わたし殆ど使ってませんでしたし」
 そして、ぞろぞろと零や武彦に面識のある者達も集まり、そろってひな祭りをしようと箱を開け、楽しそうに飾りつけをしていた───のだが。
「ちょっと待てぇ!」
 武彦がふと、皆の中にちゃっかりいつの間にか混じっていた生涯の宿敵、生野・英治郎(しょうの・えいじろう)の姿を見つけて声を上げた。
「ここに何故お前がいる英治郎!」
「何故って、私と武彦、零さんの仲じゃないですか♪」
「あ、兄さん。呼んだのわたしです」
 零にさらりと言われ、ぐっと二の句が告げなくなる武彦。
 可愛い妹が呼んだとあっては、いかに相手が何者であろうとここは堪えてしまう武彦の哀しい性の一つである。
「くれぐれも妙な真似はするなよ」
「分かってます分かってます」
「返事は短く!」
「分かっ」
「途中で切るな!」
「もう、厄介な人ですねえ」
 どっちがだ、と言いかけた武彦の目の端に、ふと一枚の紙切れが映る。
 手にとって見てみると───。
「待て、みんな手を止めろ!」
 そして武彦は、声に出して読み始めた。
「『この度は「ひな祭られ」をお買い上げ頂き、誠に有り難うございます。
 この「ひな祭られ」は皆様に雛人形達の楽しさを知って頂くという画期的な試験商品でございます。なお、どなたがどの人形になるかはお客様方の意志の強さと運の強さ次第となっておりますので、ご了承ください。
 それでは、お菓子とあわせまして、ごゆっくりとひな祭りの日を堪能してくださいませ☆』」
 言っている間にも、武彦の周りにいたはずの仲間や零の姿が、備え付けられたひな壇に吸い込まれるように消えていく。持ち物も全て、小さくなっていた。
「英治郎、またお前か!」
「いえ、これは妹の仕業ですね、きっと。材料は私からくすねたんだと思いますが」
「なんだとぉ!?」
 妹といえばあのヘンな電波系占い師の───と言いかけた武彦もまた、お内裏様に変化していた。
「道理で! 道理で雛人形がみんな、服と飾りだけで中身がないのはおかしいと思ってたんだ」
 気付いてたならそれを先に言えよ、と誰かが突っ込みそうな武彦の言葉に、英治郎もこちらもまた何故か「お内裏様」の姿で楽しそうに笑っている。周囲には、ひらひらと今日だけ魂を自由にされた「本物の雛人形達」の姿が浮遊してきゃっきゃとこれまた楽しそうに遊んでいる。
「つまり───今まで堅苦しかった雛人形達の一日代役をこなせ、ってわけか」
「そうみたいですねえ。何故お内裏様が私とあなたと二人いるのかは分かりませんが、そこは私の強運が幸いしたんでしょうね」
 自分達が食べるに丁度よくなっている菱餅やらひなあられやら甘酒やらを食べたり飲んだりしつつ、英治郎。
 他の皆もそれぞれに、「代役」に落ち着いたようだ。
「武彦、これ注意書きがありますよ」
 英治郎に肩をぽんぽんと叩かれ、疲れながらも武彦は「なんだ」と聞いてみる。
「ちゃんとひな祭られをしないと、一年間このままの姿だそうです」
「なんだとーっ!!!」
 武彦の叫び声は、だが、いつものように草間興信所からご近所に響き渡るには哀しいかな、些か小さかった。



■ハジけた雛人形達■

「はーい、点呼とりますよー。まず、お内裏様ー。はーい」
 英治郎が、お内裏様姿でどこから取り出したのか点呼表とペンを持ち、自分で手を挙げてからにこにこと「生野英治郎:お内裏様」と書き込んでいる。
「お内裏様なら俺もだ。っつか、お前がリーダーになるとろくなことが予想されんのだが」
 武彦が、横からにゅっと顔を出す。
「いいじゃないですか♪ ええっと、草間武彦、お内裏様´と」
「『´(ダッシュ)』て、俺が偽お内裏様みたいな書き方をするな!」
「はーい、お次の方。お雛様になられた方ー」
 ひょい、とこちらも二つの手が挙がった。どこかホッとしているシュライン・エマと、一番高いところにいられるし着物も鮮やかできれいだからという理由でお雛様を願った、シオン・レ・ハイだった。
 シュラインは艶やかでとても似合っていたからともかくとして……シオンのお雛様姿を見て、ひくっと英治郎以外の人間の口元がひくついたのはムリもないことだろう。
「じゃ、お雛様たちは私と武彦の間に其々座ってくださいね」
 点呼表に書きながら、英治郎。シュラインは武彦の隣に、そのまた隣にシオンが座った。左右にお内裏様がいて真ん中にお雛様ふたりという、実になんとも微妙な構図である。
「はい、お次〜。三人官女の方ー」
 はい、とこちらもまたまた二人の手が挙がる。
 初瀬・日和(はつせ・ひより)と、高峯・弧呂丸(たかみね・ころまる)である。日和はさすがは女の子、という感じで着こなしているが、弧呂丸も負けていない。本人は非常に不満げではあるが、決まってしまっては仕方がないし、と半ば諦めているようだった。
「ではでは、五人囃子の方〜」
 はいよ、と結構似合っている羽角・悠宇(はすみ・ゆう)が笛を持ちつつしきりに日和のほうを気にしている。先ほどこっそりと、自分の小さくなった持ち物の中からカメラで日和のその姿を何枚かと、他の皆、そして武彦の姿をバッチリ撮っていた彼である。
「右大臣、左大臣の方〜」
 最後に英治郎がそう呼ぶと、こちらも二つ、手が挙がった。
 こちらも異様に似合っている右大臣のセレスティ・カーニンガムと、ひげを生やした一色・千鳥(いっしき・ちどり)の左大臣姿があった。
「あっ、わたし、わたしも三人官女の残りのひとりでーす!」
 空中に浮遊している雛人形達のきゃっきゃとはしゃぐ魂と遊んでいた零が、最後に慌てて手を挙げた。
「とっとにかくだな」
 なるべくシオンのほうを見ないようにしながら、武彦は頭痛のする頭を抑えながら心を鎮めようとする。
「雛人形達に満足してもらうように早めに努力しよう。いつ誰が来るか分からん」
「妹の言うところによると、他の誰かに『このこと』が知られても、一年間このままの姿らしいですからねえ♪」
 英治郎のさらりといった言葉に、なにぃ!?と目をむく武彦。
「とりあえず、」
 と、シュラインは零に手招きする。
「休業の札を出しておきましょ。お仕事できない状態なんだし。聞き耳立ててるから、誰も来ない今のうちに、ノブにかけちゃいましょ。力持ちで空飛べる零ちゃんいて良かったかも」
「あっ、いい考えですね」
 シオンが言い、零が言われたとおりにマジックをよいしょよいしょと飛んで運んできて、一度全員で協力して札に「休業中」の文字を(いびつではあったが)なんとか書き終え、シュラインが用心深く耳を澄ませている間に零が札をかけてきた。
「しっかし……」
 悠宇が、相変わらず我関せずといった風に浮遊してはしゃぎまくっている雛人形達を見上げる。
「あんなにはしゃいでいるということは、それだけ今まで抑圧したものがあったのでしょうね」
 と、言いたいことを代わりにセレスティが引き継ぐ。
「興信所でひな祭りだっていうから、お料理たくさん準備してきたんです。これを皆さんで……もちろん雛人形さんたちも一緒に食べませんか?」
 そう言う日和の手には、オードブル満載の重箱と桃のケーキ(いずれも手製らしい)がある。明らかに安堵している緊迫感のまったくない彼女は、「一度こういう格好もしてみたかったですし、皆さんもよくお似合いですよ」と微笑む。
「わ、私もですか?」
 と、シオンが自分を指差すと、「ええ」と振り返ってもう慣れてしまったのだろう、日和はにこやかである。じぃん、としたシオンは、
「皆さんで音楽を演奏したり、踊ったりしてもいいと思います!」
 と、上機嫌である。時折ちらちらと、左大臣───千鳥のすぐ近くにある菱餅に目が行くのは、いつもお腹をすかしていると言っても過言ではない彼であるから、仕方のないことだろう。
「いつも窮屈そうな服を着ているひな祭りの面々ですが、遊びもそう今の物と変わらないのでは無いでしょうか」
 ふと、セレスティが雛人形達を見つめながら言う。
「代々受け継がれている様なものはその時代の遊びもひな壇の上から眺めていたのでしょうし。そう考えると、遊びも多種多様で、テレビゲームなどで遊んでみるのは如何でしょう。私自身はあまり遊ばないのですけれども、楽しそうではあります。それとも、昔からあるという百人一首や、歌留多に似た形態の遊びでもと考えますと、トランプでしょうか。神経衰弱あたりが大人数でも楽しめるのでは無いでしょうか」
「どれも楽しそうね」
 シュラインも、ちょっと気が乗ってきたようである。
「日頃口に出来ない飲物だとか洋風のお菓子だとか食べてもらってみるとか、例えばコーヒーやケーキだとかね。何か大きさ変わってる物はないか捜して、集めてみましょ。口に合うといいのだけれど。他、服も取り替えられたら楽しめたんだろうけど……せめて髪型や化粧変えて楽しんでみるとか」
「作れるのなら、材料はオマケでついていたお菓子で、と思っていましたが、大きさが変化している食べ物の材料等があれば、日和さんの持ってきたもの以外にも私が何かお作りしましょう」
 あとは身体を動かしてもらうことも必要そうですよね、と千鳥。
「確かに、元に戻れないと困りますし、満足して頂かなければと思いますから……双六やトランプなどしか私には思いつきませんが。大人数でやる遊びで他に思い付くのは、麻雀でしょうか」
 古風な考えの弧呂丸から、麻雀という単語が飛び出したので一瞬空気が凍りつく。
 セレスティは面白そうに、
「いいですね、麻雀。私は観覧していますけれど」
 と、からかい気味である。
「待ったぁーっ! 未成年もいるんだぞ! セレスティもからかってノせるなっ!」
 焦ったようにツッコミを入れる武彦。
「弧呂丸さんの口から麻雀なんて出るとは思わなかったわ……」
 シュラインの呆然とした声に、え、と弧呂丸は恥ずかしそうに目を伏せる。
「いえ……その、兄に時々無理矢理つきあわされて、その……」
「大体麻雀卓なんて、うちにあったかな」
 零が本気で考え込んだので、武彦が更に慌てるが、そんな全員の目の前に、どん、といくつかの麻雀卓がどこからか降ってきた。
<あら、あれ。まあじゃんというものじゃなかったかしら?>
<本当だ。まあじゃんだ。一度やってみたかったんだ>
 興味津々に雛人形の魂たちが寄ってくる。
「だっ……」
 武彦の怒声が放たれる。
「誰だっこんなの持ってきたやつは!」
「持ってきたんじゃありません。今、この『身代わり鏡』に出してもらったんですよ。ほら、そこのオマケのお菓子と交換で。大丈夫、一定期間が過ぎれば元のオマケのお菓子に戻りますから」
「やっぱりあんたか、生野さん……」
 日和が興味を持つ前にと彼女の目の前からひとつの麻雀卓を取り上げた、悠宇である。
 千鳥が、興味を持った。
「生野さん、その鏡。何かと交換すれば、一定期間は本物の望んだ何かが出てくるのですか?」
「ええ勿論。食材であろうが玩具であろうが、その一定期間は材質もかわらず、たとえば食べ物だとしたら摂取したら完全にその食べ物の持つ栄養等が人体に摂取されます」
 スゴイでしょう!と自慢げに某アニメの魔女っ子が持つような手鏡をかかげる、英治郎。
「案外使えそうね。服もアクセサリーもお化粧品も出せるのね」
 シュラインも、何と交換してもらおうかしら、と早くも考え始めている。
「あ、では私には紅茶を頂けますか? できればアールグレイを」
 このハンカチと交換で、と差し出すセレスティに、
「ではでは、私もこのハンカチと交換で、何十人前もの鍋物を!」
 と、興奮したようなシオン。
「お前ら、自分のために使ってどうする!」
 武彦が突っ込むが、その時には既にアールグレイと鍋物を出してもらっている二人である。
<そこなお方、これはどうやって遊ぶものなのかえ?>
 お雛様がとんとん、と弧呂丸の肩をたたき、振り向いた弧呂丸は、律儀に教え始めた。
「そこも教えるなーっ!」
「まあまあいいじゃないですか、武彦。はい、シュラインさん。これが女性と男性の服、それにアクセサリー一式。それと化粧品です。千鳥さん、こちらが御所望の食材全部です」
 英治郎が、シュラインと千鳥に其々のものを渡しながら、楽しそうである。
 悠宇はちゃっかりと日和の隣にガードするように座りながら、
「五人囃子と三人官女の中の誰かが恋仲だって聞いたけど、それってホントならさ。せっかく自由に動けるんだから、そのままデートでもしてきたら? 年に一度しか逢えない上に傍にもいられないのは気の毒だもんな」
 と、内心日和がお雛様にならなくてよかったと胸をなでおろしている。
「それって悠宇さんと日和さんのことですか?」
 セレスティの言葉に、たちまち二人して真っ赤になる。そういえば、今の自分達も五人囃子と三人官女だ。
「ちっ、違うっ! 俺、俺はだなあっ、ただ日和の誕生日が今日だし、ちょうどお祝いもできるかなって今日ここにきただけでっ……」
「あら。日和さん、お誕生日なの? おめでとう」
 悠宇の弁解が続いている中、放っておいて、シュラインが日和に微笑みかける。
「あ……ありがとうございます」
「おめでとうございます、日和さん! じゃあ、日和さんにも何かプレゼントとお祝いを用意しなくてはいけませんね」
 実に楽しそうに、シオン。
「では、日和さんにも口の合うように、好物をお聞きしましょうか」
 と、千鳥。
「おめでとうございまーす!」
 零の華やかな声と共に、パァン、とクラッカーが放たれる。
「末永くお幸せに……これ、今作った高峯家の安産のお守りです」
 何か勘違いしている弧呂丸だが、好意を無にできない日和は小さな声で「ありがとうございます」と言いつつ受け取る。
「ええ、本当に末永く。悠宇さんとね」
 セレスティが悪乗りする。
「では私からはお祝いのキスを」
 と更に英治郎が悪乗りして日和に近づいてきた途端、

 バタン、

 と、突然の来訪者に一同はその格好のまま反射的に動きを止めたのだった。



■だるまさん転んだ■

 入ってきたのは、どこかの事務員三人である。作業服のようなものを着ていた。
「おい、こんなところに本当に金になるものがあるんだろうな」
 一人がそう言ったことで、一同には事情が分かった。
「泥棒か」
 悠宇が、英治郎と日和の間に割って入ったままの格好で声を潜めてつぶやく。
「え、こんなところにって言ったら元も子もないけれど、金目のものなんて本当にないわよ?」
 こちらは三人官女の魂の一人に着替えさせ、化粧を施そうとしていた格好のままの、心底意外そうな、シュライン。
「そうでしょうか? 金目のものではなくても、何かの情報を売りさばく人間もいるのでは?」
 包丁とまな板も出してもらっていた、調理をしかけていた格好のままの千鳥が、言う。
「その点では、この興信所は確かに怪奇事件の情報の宝庫ではありますからね」
 アールグレイを手に持った格好のままの、セレスティ。
「この本物の雛人形達の魂は、彼らには見えていないようですね」
 恋仲の者達に縁結びのお守りを作ってあげていた格好のままの、弧呂丸。
「み、見つからないといいのですが」
 上等の肉を口に含んだまま、もごもごと、心臓をドキドキさせながらマイお箸を掴んだ格好のままの、シオン。
「ちょうどいいから、どうにかして追い払っちゃいませんか?」
 悠宇の陰に隠れた格好のまま、思い切ったことを言う、日和。
<なんですの? どうしましたの? 急に皆さん動かなくなって>
<あの方達はどなたですか?>
 雛人形達は、急に動きを止めた一同を不思議に思い、尋ねてくる。
「おい、とにかく人のこないうちに買い取ってもらえそうな情報書類、捜して帰ろうぜ」
「おう」
 千鳥とセレスティの読みが当たったようで、泥棒三人はデスクや棚を手袋をした手で荒らし始めた。
「ここはひとつ……」
 武彦が、三人に気づかれないようにそっと全員の真ん中あたりに移動し、ひそひそと相談しあった。
 ふと、泥棒の一人が何気なくこちらに目を留めた。
「……あれ?」
「どうした」
 泥棒Bもまた、振り向く。
「いや……今、そこのひな壇の一番上にお内裏様があったと思ったんだが、真ん中にある」
「馬鹿言うな、雛人形が移動するか」
「そ……そうだよな」
 泥棒Aは乾いた笑いをしつつ、手を動かし始める。
 武彦達は絶対に、「移動しているところ」を見られてはならない。調べられてもならない。バレてしまったら、元に戻れなくなってしまうのだ、一年間も。
「いいか、これを押せば音が鳴るから。合図したら、鳴らしてくれ」
 悠宇が、自分の携帯をお内裏様の魂に渡しながら、説明している。なんだか面白そうだ、と雛人形達は乗り気である。
「では、私は気づかれないように調理を始めます」
 と、千鳥。さすがはプロ、殆ど音を立てずに食材を切っては出してもらった鍋で調理していく。
「ん」
 泥棒Cが、顔を上げる。
「なあ、どこからかいいにおいがしないか」
「しらねえ、どっかの家で夕飯の用意でもしてんだろ」
「そうかなぁ……結構近くでする気がすんだけどな」
「いいから早く手を───」
 泥棒Bが言ったとき、携帯の音が鳴った。ビクッと手を止める、泥棒三人である。
「お、おい、あれ」
 泥棒Aが、宙に浮いた小さな携帯が音を発しているのに気づき、震える手で指差す。泥棒たちがそちらに気を取られている間に、次々に出来上がった料理を雛人形達が、こちらも空中で食べていく。無論、泥棒たちには、小さな料理が空中で次々に、「見えない何者か」によって食されているように見えているだろう。
「だ……だから、こんな怪奇関係の仕事ばっかしてるトコに、いくら入りやすくても泥棒に入るのはイヤだって言ったんだ!」
 ついに、泥棒Aが逃げ出した。
「お、おい待ってくれ!」
 腰を抜かしそうになりながら、バタンと扉を思い切りよくしめて続いていく、残りの二人。
「やりましたね!」
「お見事だったわ!」
「いやあ、紅茶が冷めないうちに追い払えてよかったですよ」
「本当に。無粋な空気にならずに良かったです」
「さあ、パーティーといきましょう!」
 日和にシュライン、セレスティと弧呂丸、シオンが勢いづく。
 しかし泥棒たちがこちらを向くたびに動きを止めなくてはならないから、思わず「だるまさん転んだ」を思い出した、と一同は笑ったのだった。



■祭りのあと■

 それからはシオンが太鼓をどこかの部族のようにドンドコ叩いたり、ラーメンが食べたくなるような曲を笛で吹いたり、ひな祭りの唄をラップ調に唄いながらノリノリで雛人形の何人かと踊ってみたり色々な話をしたり。
 千鳥は「今風の音楽は自分はわからないけれど、どうか奏でてほしい」と五人囃子たちに頼み、奏でてもらいながら料理を振る舞い。
 シュラインは、「いつもこちらが楽しませてもらっているんだから、満足してもらわなくちゃ」と、はりきって、この雛人形にはこの服と髪型、そしてアクセサリー、とコーディネートしてあげて、恋人同士や夫婦水入らずの空気を作ってあげたり。
 弧呂丸は、告白する勇気の出せない雛人形には、「雛人形の魂さんと会話する機会が出来たのも何かの縁、彼らが快く元に戻れるようにこの出逢いを大事に」と思い、恋愛事で悩んでいるその雛人形の相談に乗り、縁結びなどの高峯家の御守りをあげていたり。
 日和は、「今日一日だけは、他の女の子の為に幸せを願うんじゃなくて、雛人形さん達ご自身の幸せを願っていいと思います。そのお手伝いが出来るのなら嬉しいです……」と、普段なら絶対に味わえない手作りの桃のケーキなどや紅茶を御馳走したり。
 悠宇は元から、今日誕生日だった日和の幸福を祈ってやってくれれば俺はそれで充分だから、と雛人形達と、他の面子と共にトランプをしたり踊りを踊ったり、自分の得意なダンスを教えてあげたり。
 セレスティは、雛人形達も知らない自分の体験談をこっそりとしたり、洋風のダンスを教えてあげたり。
 結局皆は、鍋をつついたり洋風料理をつついたり、踊ったり唄ったり、最初は「元に戻れないと困るから」とやっていたことがだんだんと自分達も楽しくなって、英治郎や武彦の漫才のような喧嘩も雛人形達が笑ってくれたことも楽しんだりして、

 気がつくと、夜もすっかり更け、全員が眠りに落ちていた。

「あ……」
 日和とシュラインは、ほぼ同時に目が覚めた。
「戻ってる」
 その二人の声に気づいたように、零、武彦、千鳥、セレスティ、弧呂丸、シオン、悠宇の順に目を覚まし、起き上がった。
 しんとした興信所に、全員がひな壇のほうを振り向くと、何事もなかったように───だが、どこか満ち足りたような顔をした雛人形達が、しっかりと背筋をぴんと伸ばして、毅然とそこにいたのだった。
 パッと電気がつき、一同が振り向いたところへ、パシャッと最後に一枚、英治郎に写真を撮られはしたものの。
 ひとりひとりにも満足感があり、英治郎絡みの事件にしては充実感で終わった、などと歓談が繰りひげられた。
 後々になって聞いたところによると、この「ひな祭られ」セットは英治郎の妹、ユッケ・英実(ひでみ)の手によって若干改良されたという。
 そう───純粋な心の持ち主とだけ、言葉を交わせるように。



《完》

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
3525/羽角・悠宇 (はすみ・ゆう)/男性/16歳/高校生
3524/初瀬・日和 (はつせ・ひより)/女性/16歳/高校生
1883/セレスティ・カーニンガム (せれすてぃ・かーにんがむ)/男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い
0086/シュライン・エマ (しゅらいん・えま)/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
4471/一色・千鳥 (いっしき・ちどり)/男性/26歳/小料理屋主人
4583/高峯・弧呂丸 (たかみね・ころまる)/男性/23歳/呪禁師
3356/シオン・レ・ハイ (しおん・れ・はい)/男性/42歳/びんぼーにん(食住)+α)
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□


こんにちは、東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。また、ゆっくりと自分のペースで(皆様に御迷惑のかからない程度に)活動をしていこうと思いますので、長い目で見てやってくださると嬉しいです。また、仕事状況や近況等たまにBBS等に書いたりしていますので、OMC用のHPがこちらからリンクされてもいますので、お暇がありましたら一度覗いてやってくださいねv大したものがあるわけでもないのですが;(笑)

さて今回ですが、生野氏による草間武彦受難シリーズ、第11弾です。参加なされた皆様には御存知の通り、納品日までに執筆不可能となってしまったこの作品、来年にもう一度このサンプルをとも考えたのですが、どうしても書き終えたいという思いのもと、このような形で皆様にお届けすることになりました。テラネッツ様にもとても感謝しています。そして、お待ち頂いていた皆様には、本当に申し訳なく思っています。
今回は番外編第三弾に出てきた英治郎の妹、ユッケ・英実の作ったもの、ということになりましたが本人は出てきませんでした。皆さんのプレイングがとても面白く、和やかな雰囲気だなと感じたので、いつものドタバタな終わり方よりは今回、ちょっと違った終わり方になっていると思います。皆様のプレイングを総合したり色々考えたりしまして、今回は皆様統一ノベルとさせて頂きました。

■初瀬・日和様:いつもご参加、有り難うございますv そして遅ればせながら、お誕生日おめでとうございますv もう少し「お誕生日ケーキ」など盛り込みたかったのですが、あくまで「ひな祭られ」をメインにさせて頂きました。結局悠宇さんとはどんな感じになったのかな、とその後が気になっております(笑)。
■羽角・悠宇様:いつもご参加、有り難うございますv 今回は今までよりもあんまり英治郎にいじられなかったな、という印象がありますが、如何でしたでしょうか(笑)。でも結構、やっぱり純情なだけにいじられやすいな、と思う場面もあったのですが……日和さん、本当に大事にしていらっしゃるんだなと感じました。
■シュライン・エマ様:いつもご参加、有り難うございますv 個人的にはもう少し、雛人形達の「普段着」から着替える場面や、アクセサリをつけてあげている場面など細かく書いてみたかったのですが、「休業中」の札をかけられたのは正直やられたな、と思いました(笑)。なので、当初予定した人物を変更して泥棒にさせて頂きました。
■高峯・弧呂丸様:たびたびのご参加、有り難うございますv 三人官女、と出てきたのは個人的にとてもツボでした(笑)。それと、麻雀も結構ツボでして、少しそのネタで引っ張らせて頂いたので、とても有難かったです。ですがやっぱり、弧呂丸さんから麻雀、と出るとわたしでも凍りつくかと(笑)。因みに、「高峯家では安産のお守りなんて作ってないよ」ということでしたら、仰ってくだされば今後の参考にします。
■セレスティ・カーニンガム様:いつもご参加、有り難うございますv 腹黒そうだから、という言葉に「なるほど」とつい相槌を打ってしまった東圭ですが(笑)、やはりこんな場面でもマイペースは崩さず、冷静沈着に誰かをからかってるんだろうなと思い、あんな感じになりました。雛人形達に体験談、というのは正直微妙なところでもあったのですが、「これはしないよ」ということでしたら仰ってくださいね。
■一色・千鳥様:たびたびのご参加、有難うございますv 随身、ということで左大臣と右大臣、どちらにしようかと迷ったのですが、髭があったのはどっちかなとうろ覚えですが左大臣にさせて頂きました(笑)。やはりお料理で、しかも今風の音楽をときたのが書きやすかったのですが、今風の音楽を千鳥さんが知らない、という一面がまたツボで……書いていて楽しかったですv
■シオン・レ・ハイ様:いつもご参加、有り難うございますv まさかお雛様希望とくるとは思っていなかったので、お内裏様も二人いるんだしと、ついついシオンさんもお雛様にしてしまいました(笑)。しかし、あの艶やかな着物姿のシオンさんの姿で太鼓を鳴らしたり踊ったりという場面を想像するだに、笑えてしまって仕方のない東圭です。

「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回は主に「夢」というか、ひとときの「和み」(もっと望むならば今回は笑いも)を草間武彦氏に提供して頂きまして、皆様にも彼にもとても感謝しております(笑)。
次回受難シリーズは(例のもう一つの納品できなかったものを抜かすならば)、海の舞台となると思います。サンプルも頭の中にありますし、このノベルが皆様のお手元に届く頃にはサンプルUPしているかもしれません(笑)。

なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆
2005/8/14 Makito Touko