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亡者達の楽園
「これが今回の現象なの。」
雫はカフェの入り口に現れたジョン・ジョブ・ジョーに喜色満面に話しはじめた。
「この間ジェットコースターが脱線して死亡事故が起きた遊園地があったでしょ。あそこ、とうとう閉鎖して既に遊具の電源は全て落されているらしいんだけど、夜になると観覧車やメリーゴーランドが動き出すんですって。」
「へいへい。」
ジョン・ジョブ・ジョーなので返事もおざなりなのだが、雫はそれにも頓着しない。
もっともジョン・ジョブ・ジョーの返事がおざなりなのは理由がある。
金にならない。
それだけである。
だが、昔のよしみで仕事を引き受けてしまった以上は仕方がない。
雫の声を話半分に聞いている。
彼女の声がここから更に熱を帯びたように力が入ってきた。
「でね、壊すにも工事車両が入ろうとすると何かバリアのような者でも張られているみたいになってて車が押し戻されてしまうの。ただね、人だけなら入る事が出来て遊具はタダで乗り放題。しかも霊感の強い人がいるとゴーストまでみることが出来るんですって。」
雫は嬉しそうに微笑んで手を伸ばしてきた。
「ねね、お願いだから一緒に行ってくれない?夜の遊園地なんて面白そうなんだもの♪♪♪」
「はぁ?」
ジョン・ジョブ・ジョーはいい加減に疲れてきた。
何といっても雫は初対面なのだ。
ただ、ジョン・ジョブ・ジョーもゴーストOFFという名前にひかれてこのカフェに入ったというのはある。
しかしいくらなんでも中学生のお嬢ちゃんの子守をするって柄でもない。
ジョン・ジョブ・ジョーは手をひらひらっとふった。
そして言う。
「あいにく、俺様は子守じゃねーんだ。ついてきてほしけりゃ、他を当たんな。」
すると雫はジョン・ジョブ・ジョーも驚くようなスピードで彼の前にまわりこむと、ちっちっと指をふった。
「あんた、そんなにいいガタイしているのにもしかして幽霊が怖いってんじゃないでしょうね?」
「んだとーっっ!!」
ジョン・ジョブ・ジョーの額に青筋が数本も浮かんだ。
だが雫は頓着しない。
挑発的な目つきでジョン・ジョブ・ジョーの高い背丈を眇めやる。
「怖いってんなら別に構わないけどさぁ・・・・」
ここまで来ると雫が分かっていてジョン・ジョブ・ジョーを挑発しているのがジョン・ジョブ・ジョー自身にも分かってしまっていた。
ジョン・ジョブ・ジョーは苦笑した。
なかなか良い度胸していると思う。
ジョン・ジョブ・ジョーは雫の顎をくいっと持ち上げた。
「てめぇは言いたい放題だが、この俺の前じゃただの小娘なんだぜ?」
そう言ってニヤリと笑った。
もともと軍隊経験もある。
凄めば大抵の者が怯えて後ろに引く。
しかし。
「いてーっっ!!」
ジョン・ジョブ・ジョーの叫びに雫はにっこり笑った。
その手には安全ピンが開いたまま握られていた。
「最近の女子中学生はこれぐらいは常備品よ。痴漢対策って奴ね。」
「痴漢っててめー、この俺のどこが痴漢に見えるってんだ!!」
すると雫は更ににっこりと笑った。
「見えないわよ。だから一緒に行こうって誘ってんじゃない♪」
ふてぶてしい雫の態度に。
とうとうジョン・ジョブ・ジョーは笑い出した。
「分かったよ、行ってやりゃいいんだろ。全く人を喰った嬢ちゃんだぜ。」
「えー、私ゲテモノ食いではないわよ〜〜〜♪」
雫も笑った。
「でさ、あんた名前なんて言うの?」
雫がジョン・ジョブ・ジョーに尋ねた。
ジョン・ジョブ・ジョーは面倒くさげに答える。
「ジョン・ジョブ・ジョーだ。」
「ふーん・・・・」
雫は頷いた。
「じゃあさ・・・・」
「ジョーちゃんってのはどう?」
その言葉にジョン・ジョブ・ジョーはがたたっと音を立てて転んだ。
普通、いきなりそう来るか?
だが雫は頓着しない。
笑顔でジョン・ジョブ・ジョーに語りかけてくる。
「あたしのことは雫お嬢様でいいよ。あんたはジョーちゃんね。」
ジョン・ジョブ・ジョーは語尾を震わせながら立ち上がった。
どうも。
どうもこのお嬢ちゃんは調子が狂う。
ジョン・ジョブ・ジョーは動揺を悟られないようにゆっくりと雫に尋ねた。
「どうしててめぇがお嬢様で俺がジョーちゃんにならなきゃなんねぇんだ・・・・」
すると雫はにっこり微笑んで答えた。
「あたしは当然可愛いから。ジョーちゃんはジョーちゃんって呼び名の方が呼びやすくて可愛いじゃない♪」
「自分を自分で可愛いっつーか!?」
「うんっ♪」
雫は笑った。
「だって誰も言ってくれないんじゃ、自分で言っておかないと空しくなっちゃうでしょ。それにあんたみたいなイイ男からお嬢様って言ってもらえるとすごく気分がいいのよね。」
ジョン・ジョブ・ジョーはため息をついた。
もう何を言っても無駄な気がするのは気のせいだろうか。
黙っているうちに例の遊園地が見えてきた。
青白く薄ぼんやりと夜空に輝いている。
戦場を渡り歩き、幽霊なども目にしているジョン・ジョブ・ジョーはそれが霊気によるものだとわかった。
霊気に包まれた遊園地。
あそこに何があるというのだろう。
もっとも。
雫のように興味関心があるわけではないが。
「なんか薄ら寒いようなゾクゾクするような感じがあるよね。」
雫が言った。
「ネタは本物ね。私は霊気なんかは感じないけど、でも幽霊がいるところは今までの経験上、薄ら寒い気がするからなんとなく分かるの。ほら、夜の墓場に行くってそんな感じ。」
「怖いのか?」
ジョン・ジョブ・ジョーはニッと笑って雫を見た。
さっきからこのお嬢ちゃんには遊ばれてばっかりである。
少しはかわいらしいところも見たいというのは変態くさいであろうか。
だが雫の反応は違った。
手を握り締めるといきなりガッツポーズをしたのである。
「やったーっっ!!今晩しっかり楽しんじゃうぞー!!」
「・・・・あー、さいでっかい・・・・」
夜の遊園地につくと、ゲートには誰もおらずすんなりと通れた。
そして中に入るとたくさんの人間で遊園地がにぎわっていた。
だが。
どの人間も全体に青白い膜を身にまとっていた。
それに雫も不信感を抱いたのか、ジョン・ジョブ・ジョーに尋ねた。
「あの青いのなぁに?」
「霊気だ。つまりあれをまとっている人間は幽霊だってことさ。お嬢ちゃん、幽霊は見える方かい?」
「う、ううん。初めて・・・・じゃあ、ここにいるのはみんな幽霊ってこと?」
「普通の奴もいる。だから厄介だな。簡単に電源を落すことができねえ・・・・」
その言葉に雫は不思議そうにジョン・ジョブ・ジョーを見やった。
「電源落すの?これだけみんな楽しんでいるのに?」
「今、ここは危険なんだ。事故で死んだ人間達の霊がどんどん他の関係のない霊まで呼び寄せてきやがっている。このままでは集まった霊気の威力でこの辺りに住む人間たちがどんどん取り殺されちまうぞ!!」
と。
雫は素っ頓狂な声を上げた。
「すっごーい、ホントにそんなことが起きちゃうの?それってすっごく面白・・・・」
ダンッ!!
いきなり雫の横の壁に手が叩き付けられた。
ジョン・ジョブ・ジョーがマジな目で雫を睨み付けていた。
「てめーは筋金入りのバカか?人が死んじまうんだぞ?てめーひとりなら関係ねぇ。だがそれで殺された人間はどうなる?それがてめーは面白いのか?面白がっていられるのか?なら、この俺がてめーを本気で殺してやろうか?」
雫はごくッと息を飲んだ。
彼女は遊び半分だった。
まさか、こんなにマジになって叱られるなど思ってもみなかったのだ。
雫はしょぼんとした。
そしてポツリと謝った。
「ごめんなさい・・・・」
「ふんっ!!」
ソッポを向きながらもジョン・ジョブ・ジョーはぽんと雫の頭に手を置いた。
そして言葉をかける。
「放送器具の扱いは慣れてるか?」
「え?」
「インターネットなんてもんが操れるぐらいだ。放送室に行って幽霊以外の者に全員退去を呼びかけるんだ。そうしたら俺が電源を落してやる。」
ジョン・ジョブ・ジョーが言った。
「生きている人間がいるのに電源を落したらまた、ジェットコースター事故の二の舞になる。だからおまえが呼びかけるんだ。全員退避をな。」
「あたしを幽霊が邪魔してきたら?」
雫がこわごわとジョン・ジョブ・ジョーに尋ねた。
ジョン・ジョブ・ジョーがニッと笑った。
「そんぐらい怖がるお嬢様でもねえだろ、おめぇはよ!」
その言葉に雫は不敵に笑った。
「そうだね。あたしはなんといったって天下の瀬名雫様なんだからね!」
ジョン・ジョブ・ジョーは目に力を集中させた。
視覚が鋭敏化される。
すぐに霊達が一番集中する電源塔が分かった。
ジョン・ジョブ・ジョーは走り出した。
手には対霊用ナイフが握り締められている。
電源塔の霊がジョン・ジョブ・ジョーに気付いた。
そしてジョン・ジョブ・ジョーに襲いかかってくる。
それをジョン・ジョブ・ジョーはナイフで切り落としていく。
やがて、電源ルームが見えてきた。
そこには幾つもの幽霊が電源に凝り固まっていた。
そして問う。
『何故あなたは私達の楽園を奪おうとするのですか?』
『私達は事故で命を落してから遊ぶことが出来ません。私達はただ遊んでいたいだけなのにどうして邪魔をするんですか?』
ジョン・ジョブ・ジョーは言った。
「俺にもその問いには上手く答えらんねぇよ。だけどよ、時代には移り変わる時がある。ここだって新しく生まれ変わる時期がある。それが今だってことなんだよ。おめぇ達がいたらここは新しい遊園地になることだって出来やしねぇ。次の時代に移り変わることだって出来やしねぇんだ。」
そのときだった。
遊園地に放送が鳴り響いた。
その声は雫だった。
「これをもちましてこの遊園地は閉鎖します。これをもちましてこの遊園地は閉鎖します。場内の方は速やかに園外に出てください。」
霊達が悲鳴をあげた。
『閉鎖しないで!!私達の楽園なのよ!!』
ジョン・ジョブ・ジョーはどなった。
「楽園にはいつか終わりが来る。今がそのときなんだよ!!」
ジョン・ジョブ・ジョーは電源装置にナイフをつき立てた。
そして電源装置に思いっきりナイフの力を解放した。
霊達が一気に霧散した。
そして大きな悲鳴と共に電源室が静かになった。
そのときだった。
「きゃー!!」
雫の悲鳴が聞こえた。
見ると、雫は霊達によって放送室の窓から振り落とされようとしていた。
ジョン・ジョブ・ジョーは塔から飛び降りると走った。
そしてタックルをするように雫の身体を受け止める。
「おい、大丈夫か?」
ジョン・ジョブ・ジョーの声に雫は我に返ったようにジョン・ジョブ・ジョーをみて微笑んだ。
「うん。ちょっとびっくりしただけよ。」
そして。
遊園地は真っ暗な闇に閉ざされていった。
数ヵ月後。
遊園地の跡にジョン・ジョブ・ジョーと雫が立っていた。
雫はぽつりと言った。
「でもなんでこの遊園地動いていたのかなぁ・・・・」
それにジョン・ジョブ・ジョーが答えた。
「霊が遊び場を失いたくなくて霊的威力で強引に動かしていたんだよ。」
「今はここには霊はいないの?」
雫の問いにジョン・ジョブ・ジョーは頷いた。
「ああ。俺があの後全部霧散させてやった。まぁ、やり方は強引だったからなぁ、また霊が取り付いたらいけないってんで慰霊碑がこの新しい遊園地に作られるらしいぜ。」
その言葉に雫も笑った。
そしてちょいちょいとジョン・ジョブ・ジョーの肩を引っ張った。
ジョン・ジョブ・ジョーが背丈を合わせてやると、いきなり柔らかい感触がほっぺたに触れた。
「な、なんだ?」
驚くジョン・ジョブ・ジョーに雫は笑った。
「ちょっとしたお礼よ。かっこいいお兄さんにね。」
時は変わる。
時代は新しいものを望んでいく。
その中で生きていた者がいたことは決して忘れない。
生存しているが勝ち。
それが一番だから。
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号:4726/PC名:ジョン・ジョブ・ジョー/性別:男性/年齢:23歳/職業:自由人】
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■ ライター通信 ■
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今回は受注頂き、その上メールまで頂きまして誠にありがとうございました。ジョン・ジョブ・ジョーは私が書くと何故かつい格好よく書きたくなってしまいます。(笑)ご期待に添えると嬉しいのですが、楽しんでいただけると幸いです。では機会があればまたよろしくお願いします。
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