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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


Let's ダイエット!

1.
「ちょっと・・・・」

碇麗香が険しい顔をして呼び止めたのは、いつもの様にいつもの如く三下忠雄、その人である。
が、今日の碇から出た言葉はいつもの『ボツ』の一言ではなかった。

「最近、あなた太ったんじゃないの?」

「え、そそそそ、そうですか!?!?!?」
パンパンと自らの服の上から体を確認する三下。
そういえば、ズボンのベルトの穴がいつのまにか1つずれている。
「食べるなとは言わないけど、記者は書くこともだけどフットワークが命なのよ? 太ったら走れないじゃない。それ以上太ったら『クビ』よ?」
「・・・うぅ・・・」
弱々しく呻いた三下、しかし、その手にはシッカリと菓子パンが握られている。

貧乏 + 過酷な仕事 = ストレスによる激太り

三下の頭の中をそんな図式が浮かんでは消えていく。
あぁ、哀れ三下。
月刊アトラス編集部、クビの危機である・・・。


2.

「ほら、我輩の為にも頑張るんだな。ごたごた文句言ってると、頭から食べちゃうんだな」

にっこりと笑い少年・豪徳寺嵐(ごうとくじあらし)がそう言った。 
「ちょ、ちょっと待ってください! ここここ、これ本当にやるんですか!?」
震える声の三下に、後ろからシオン・レ・ハイがポンと肩を叩いた。
「三下さんがクビになったら私をやとって貰いますので心配しないで下さい。三下さん2号になる自信はあります!」
「シオンさん、それは励ましになってないわ」
シオンの言葉にシュライン・エマはため息をついた。
「三日坊主にならず、忙しくても持続していくことが『だいえっと』の基本です」
にっこりと笑った海原(うなばら)みそのはそう励ます。
三下の目の前に積まれたのは、この有志たちによって作られた『三下ダイエット作戦』の重要な指令書である。
ダイエットはみそのの言うとおり、一朝一夕のものではない。
仕事の都合もあり、短期集中ダイエットとして4人それぞれが打ち出してきたダイエット案を4日間にわたって行う事となった。

果たして、どのようなダイエットになるのであろうか・・・?


3.
その夜から三下はダイエット強化合宿へと入った。
シオンの提案により、シオンの住む特製ダンボールハウスでの強化合宿である。
参加者は三下は言うに及ばず、嵐とみそのである。
エマは仕事の都合により、今回は不参加となっている。
・・・というのは建前で、知人の医者等に問合せて効果ありそうなものチェックしてからでなければということで今回は辞退してきたわけであ
る。
家に帰り着いて一息つくと、エマはいつものソファに座って貰ってきたみそのや嵐の指令書をペラペラとめくる。

「豪徳寺さんはダイエット食品・・・なんだか怪しそうね」
貰ってきたサンプルのダイエット食品は、語学力に長けたエマでさえ読めない文字で書かれたパッケージに入っている。
「シオンさんは・・・汗をかいたりエネルギー消費をすること・・・絶叫マシンや川で魚とり??」
苦笑いしたエマの脳裏には屈託なく笑うシオンの顔が思い出される。
きっとあの人なら本気でやりそうだ。
「ええと、みそのさんは、マッサージ? ・・・エステみたいな感じかしら?」
いつもおっとりして自分の空気を乱さないみそのの顔が浮かんで消えた。

「今日は早めに寝ましょ。・・・明日は差し入れしてあげよう」

エマはそう言うと、自分の日常へと戻っていった・・・。


4.
朝の光が気持ちよく窓から降り注ぐ。
心地よい眠りから覚めたエマは、朝食を食べ終えると早速差し入れの用意をし始めた。

「ローカロリーで、食べた気になるものがいいわね」

そう言うと冷蔵庫を探り始めた。
レタス、セロリ、ゴボウ、キュウリ、トマト・・・。
炭水化物をなるべく少なく、食物繊維を多めに。
プラスアルファで発汗作用のある鷹のツメとスパゲッティ。
手際よくそれらを調理しつつ、エマは今頃起きているであろう三下たちがシオンによってきっと川魚を捕獲しているのだろうと思った。
きっと槍なんか持ってこの寒空のしたブルブルと寒さに震えながらも、原始的な漁を・・・。

「・・ふふ・・」

思わず笑いがこみ上げて、エマはキッチンに1人で笑っていた。

その頃の三下は・・・
エマが予想したとおり、早朝の厳寒の川の中で水着姿のシオンと共に槍で川魚を求めさまよっていた・・・。


5.
「・・・なんか疲れてる?」

アミューズメントパーク前で合流したエマの一言目はそれだった。
「はぁ。朝一で川の中を寒中水泳で魚取りしたもので・・・」
もごもごと疲れきった様子の三下は、いつもよりも覇気がない。
シオンの提言で汗を流しに来たわけなのだが、なぜかそこは映画館も併設された複合施設。

シオン曰く「絶叫マシンや怖い映画で冷や汗をかくのです!」ということらしい。

園内で絶叫マシンを何度でも乗りまくる4人をエマは静かに見守る。
みそのや嵐が平気な顔で何度でも乗るのに対し、シオンと三下はだいぶ堪えているようだ。
その証拠にシオンと三下は物凄く顔色が悪い。
「大丈夫かしら・・・」
そうは呟いてみたものの、到底大丈夫そうには見えないのであった。

「野菜中心のお昼を作ってきたのよ」
昼食の時間になり気分の悪そうな三下とシオン、全然平気そうな嵐とみそのとエマで屋内に設置された白いテーブルについた。
エマは朝早くから作ってきた料理を出しつつ、説明する。
「冷製ペペロンチーノとごぼうとトマトのサラダたっぷり。炭水化物を減らしてローカロリー、且つ発汗作用のあるものや繊維質な物を食べるといいと思うの」
そう言っているエマの傍らで猛烈な勢いで食べるシオンと嵐。
「シュラインさんの手料理は美味しいですね〜!」
「まあ、我輩の場合、付喪神だから、ダイエットは関係ないんだな。痩せないし、太らないし。あ、サラダお替りしていいかな?」
もりもり食べるその隣で三下はへばっている。
「シュライン様の作るお料理はとても美味しいです」
みそのは静かにそれでもしっかりと食べている。

三下君のために作ってきたはずなんだけど・・・まぁ、いっか。

その後、ホラー映画のはしごをした後、空には既に星が輝いていた。
散々泣き叫んで魂の抜けかかっている三下とスプラッタシーンに怯えきったシオン。
そんな2人とは対象的に「中々興味深いものでした」と微笑むみそのと「あんなものでも商売になるのだな」と感心する嵐。
そんな4人とともに、エマはダンボールハウスへと向かった。

あれだけ疲れれば痩せないほうがおかしい気もするのだけど・・・?

そう思いつつも、ダイエットプログラムはまだ続く・・・。


6.
「本当なら『して』しまうのが簡単だと思うのですが・・・」

とみそのが言ったので、シオンと嵐がヒソヒソとなにやら密談する。
「何を『する』んでしょう?」
「なぁんか秘密のにおいがするのだな」
そんな2人のヒソヒソ話をよそに、みそのは三下に向き合うとこう言った。

「では、脱いでくださいませ」

「・・・こ、ここで?」
ごくりと、三下が唾を飲み込んだ。
「はい。これから行うマッサージは肌に直接するものですから」
「みそのさん、マッサージが出来るの?」
エマがそう聞くと、みそのがにこりと微笑んだ。
「家族と御方にしかしたことはありませんが、大変喜んでいただいております」
そう言うとみそのは再び三下に向かい合い、ジリジリと三下に迫る。
「さぁ、服をお脱ぎになってください」

「ちょ、ちょっと待ってくださ・・・うわぁ〜ん!!」

夜空に、三下の情けない声がこだまする。
それを止めることもせず、エマはされるがままになる三下を見守った。

これでよい結果が出ますように・・・。

三下の声は絶えることなく、発せられる。
その声は遠く草間興信所まで聞こえたとか、聞こえなかったとか・・・?


7.
そんな感じで4日目の朝が来た。
毎日のダイエット食品、毎日の絶叫マシン、毎日のマッサージ、そして毎日のローカロリーな食事。
これが4日続けばいくらなんでも減っていなければならないだろう。

     が。

「・・・増えてる?」
ピクリと片眉を上げ、麗香の額に青筋が浮かび上がった。
月刊アトラス編集部に冷たい空気が舞い降りようとしている。
「やっぱりダイエット食品が合わなかったのが原因なのかな?」
嵐が残念そうに肩を落としている。
「やはり4日では無理だったんでしょうか・・・」
今にも泣きそうな顔でシオンは呟く。
と、みそのが何かを思いついたのか、エマに耳打ちをした。
耳打ちされたエマは、「やっぱりそう思う?」と思わずそう聞いてしまった。
一瞬の考慮の後、エマは麗香へと耳打ちした。
はてな? と首を傾けるシオンと嵐の目の前で、麗香が行動に移した。

「三下くん、あなた今日から編集部で寝泊りなさい。増刊号の編集作業と担当記事の執筆、終わるまでは帰さないわよ」

「えぇええぇぇえええええぇぇ〜!?!?」
真っ青になった三下に、にっこりと麗香が世にも恐ろしい笑顔を見せる。
「・・・何を言ったのかな? シュラインさん」
首根っこを引っつかまれた三下を眺めつつ、嵐がエマにそう訊いた。
「みそのちゃんと話したんだけど、物を食べる暇をなくせば痩せるんじゃないかなぁって」
「暇をなくす? ・・・ということは」
シオンがポンと手を叩いた。

「三下くんの一番のダイエットは、食事の暇もないほど麗香さんにしごかれる事だと思ったのよ」

「実に興味深い結果に終わったんだな・・・」
「人にはそれぞれ合った『だいえっと』方法があるということですわね」
「あ、私も三下さんのお手伝いしてきま〜す♪」

かくて、三下のダイエット作戦は碇麗香の手に委ねられた。
「燃え尽きない程度にね」
そう言ったエマの言葉が三下に伝わったのかは分からないが、その後三下は程なくして元の体重以下の体重になったという。

ただ、頬はこけていたようだが・・・。


−−−−−−

■□   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  □■

4378 / 豪徳寺・嵐 / 男 / 144 / 何でも卸問屋

3356 / シオン・レ・ハイ / 男 / 42 / びんぼーにん(食住)+α

0086 / シュライン・エマ / 男 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

1388 / 海原・みその / 男 / 13 / 深淵の巫女


■□     ライター通信      □■

シュライン・エマ様

この度は『Let's ダイエット!』へのご参加ありがとうございました。
正攻法でのダイエット方法、さすがです!
そして、碇女史に使役されることが何よりのダイエットというお言葉、ごもっともだと思います。
ということでオチにさせていただきました。
みその様もご同様の考えでした。やはり女性の方がダイエットには敏感なのでしょうかね。(^^)
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。
とーいでした。