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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


少年禁猟地帯

 僕らは時代に犯されたりしない。
 僕らは永久に安らぎの野にいる。
 行く手を阻む魔たちには鉄鎚を。
 そして、大人たちには終焉を……

●白い子供 黒い噂
 キーを叩く手を止めることなく三浦鷹彬は画面を見つづけている。彼はWINDOWS上のメモ帳を開き、今回まとめた記事を手早く原稿として執筆していく。それをフロッピーとUSBメモリーに落とせば、鷹彬はXPの機能を使ってHDDから完全にデータを消した。
 といっても、本当はこのデータを消せたわけではない事はわかってはいたが、普通の人間にはそれ以上のことが出来ないから気にする事は無かった。やろうと思えば割れたディスクからデータを読み取る事だって可能だ。だが、こんな人気のあるところでやろうとする人間はいないだろう。それに、高校生でしかない自分の記事を盗み見ようと思う人間だっていないはずだ。そう思って鷹彬はフロッピーをしまった。
 パソコンを再起動すると鷹彬はIEを立ち上げ、教えられたURLを打ち込む。瞬時にサイトへと移動した。BBSの点滅するいくつもの新着アイコンの中から、該当する記事の番号を探す。
 辺りにはさっき頼んだカプチーノの香りが漂っていた。
 ふと飲みかけのカプチーノを思い出してカップに触れば、ほのかな暖かさが伝わってくる。まだいくぶんは暖かいそれは、時間が経っていることを鷹彬に教えていた。
 他の店の飲み物はやたら甘く安っぽい感じが否めないが、この店のものは値段以上に美味しい。冷えてもいける。鷹彬は満足げに飲み干した。
 再びキーを叩き必要な情報を読み取ると、再びメモ帳を立ち上げ、データをコピペして保存する。ホトメ経由で自分の携帯へと送り、数秒後に鳴った携帯を取り出しては受信を確認した。その後、同じ方法でキャッシュとデータをパソコンから消すと、深い溜息とともにこの店のパソコンからログアウトする。溜息は安堵を含んでいた。しかし、これから自分がどうなるのかは分からない。無言のままフロッピーをしまったところで、自分に話し掛ける声が聞こえてきた。
「よお、元気ねえな新聞部。らしくねえじゃねえか」
「修羅か……」
 話し掛けてきたのは不動修羅だった。
 声の方向へと驚きの表情とともに振り返る。鷹彬と修羅は同級生だ。
 微妙に困ったような呆れたような表情を浮かべ、鷹彬は修羅に言った。
「澄臣が行方不明なんだろ。普段ならスクープだのと走り回っていそうなもんだが」
「あぁ…まあな。今、記事書いてたところさ」
「へぇ、珍しいな。お前、いつもPDA持ってたじゃないか。ゴーストネットまで来て記事書いてたのかよ」
「ちょっとな…珈琲も飲みたかったし」
「だったら、マックだっていいじゃないか」
 誰だったそう感じるだろう正直な問いに鷹彬は笑った。
「人が多くて集中できないだろ? 皆に報道する大事なものだからな」
 屈託なく笑って鷹彬は誤魔化そうとした。それで騙されてくれる修羅ではないとは思ったが、それはそれでいい。これから先に誰かがこの事件を追ってくれなかったら、子供達は次々と世界から消えていくだろう。
――気付いて…いや、覚えていてくれ…修羅。これから消えていくであろう人間の事を…
 そう言葉にはしないまま、鷹彬は立ち上がった。
「修羅…」
「何だ?」
「なんでもない」
「そうか? 変な奴だな」
「お互い様だ」
 鷹彬はニヤッと笑う。
「何? どういう…」
 修羅が言うのを遮るように手を振ると、鷹彬は会計口へと向かって歩いていった。
 黒い噂に必要なのは、白い子供。どう考えても、自分は『彼ら』が嫌う大人になるような黒い子供だ。
「修羅はどうかな?」
 そう独りごちて鷹彬は苦笑した。
 考えるまでも無い。修羅も黒い子供だ。歳からいけばもうすぐ大人になる。子供というような年でもない。
 鷹彬はEdyカードで支払いを済ませ、入り口で一度振り返ると残された修羅に手を振ってネットカフェ・ゴーストネットを出て行った。

●記憶
 薄暗い放課後の校舎の中、二人の生徒がひっそりと辺りの様子を窺いながら話し込んでいた。あと数十分で夜が訪れるだろう。
「おい、それって本当か?」
 そう小声で言ったのは、自分だ。忘れもしない、つい先日の出来事。何一つ変わらない、教室。夕日の色も、反射するまぶしい光の中で、笑う奴の笑顔が見える。
――これは…夢?
「嘘ゆーても仕方ないやろ。中等部の女子と男子の二人が消えたっちゅーのはホンマや。しかも、例のところに関わってたっちゅーオマケ付きや。どうや、この情報買うてみーへんか?」
 相手方は同級生の菊池澄臣。ニンマリと笑っている。手は「はようゼニよこせ」と手招いていた。鷹彬はその手をぺしっと叩く。
「核心に触れる情報を渡してないのに、銭は渡せないっちゅーの」
「でもなぁ、例のところの事件やで」
「だからだろ。首突っ込んだら何があるか分からないところの情報を買うんだからさ、こっちだって慎重にならざる得ないさ」
 例のところ。
 そう澄臣が言ったのは、最近、神聖都学園の間で噂されているもののことだ。
 名は『NIGHT CHILDREN RENTAL SHOP』
 呼んで字の如くゆえ、知っている人間は自分が関わっていると公言しない。闇か夜に属する商品が集まる店だと言われていたり、組織の名称であるとも言われ、本当の所はそこにたどり着いた人間しかわからないという。
 取り扱われるそれは物だったり、生物だったり、下手をすると分不相応に真実を求めた憐れな自分自身の末路かもしれないなどという噂が、まことしやかに流れていたのだ。
 『NIGHT CHILDREN RENTAL SHOP』にたどり着くには、条件がある。その条件を澄臣は知ることが出来た。自分ひとりで行くのなら、情報を売って軍資金を手に入れてからだって遅くは無い。だから、澄臣は新聞部に所属している鷹彬に売ることにした。
「100K、モバイル付きで」
 手をもむような動作をしながら澄臣は言った。
「た、高ぇっ!」
「ビタ一文まけへんで」
「くそう……」
「仕方ないやろ。何かあったらこっちが消される」
「まぁな……お互い損な性分だ」
「せやな〜、首突っ込まなきゃ平和でいられるのにな」
「偽りの平和なんか欲しくないくせに、よく言うぜ」
「わはは〜。いつものルートで報酬金を送ってくれな?」
 澄臣はウィンク一つして言った。
「OK。じゃぁ、条件を教えてくれ」
「条件はな……」
 そっと耳打ちすると、澄臣は鷹彬にそれを教え、ある物を一緒に渡した。鷹彬が握り締めたそれを、意識の隅でもう一人の鷹彬が眺める。
――あぁ…やっぱり夢だ。
 ぼんやりと思っていると、夢の中の二人は話し終わるや、澄臣はそそくさとその場から立ち去る。報酬が指定のルートで手渡されたら、澄臣はそこへと向かうつもりでいるのだろう。そこから先は今の『夢を見ている鷹彬』は知らない。知っていたら、澄臣を探そうとも思わなかっただろう。
「上手くいけば良いけどな……」
 ふと、去っていく背中を見つめて鷹彬は呟く。
――あぁ……上手くいけばいい…。いや、俺よ…澄臣を行かせるな…
 『夢を見ている鷹彬』の願いも虚しく、夢の中の鷹彬は程無く暗くなる夕日の向うに消えていく澄臣をいつまでも見送ってしまった。

 鷹彬は瞳を開いた。瞳の端からは熱いものが流れている。
 涙だ。
 不覚にも、夢を見て泣いてしまったらしい。
「行かせちまった……」
 呟くように言うと、鷹彬は手の甲で涙を拭った。きっちりと閉めたカーテンの隙間からはうっすらと朝日が差し込んでいる。窓の外は晴天のようだ。鷹彬はようよう起き上がると着替え始め、のっそりと自分の部屋から出て行った。
 その日、いつまでたっても菊池澄臣は教室には現れなかった。それだけではない。それから二日日経っても彼が現れる事は無かった。
 仕方なく、鷹彬は知り合いの興信所に助けを求めに行くことにした。

●異端の間
「俺は珈琲で」
「自分で入れてくれる、修羅くん? ちょっと手が離せなくて…」
 シュライン・エマは申し訳なさそうに言った。
 彼女は草間興信所事務員という収入の不安定な職の他に、翻訳家や幽霊作家という肩書きを持つ特異な存在だ。もっぱら皆の間では、草間興信所の台所を一手に任せられていると認識されているお馴染みの女性である。
 そこに可愛らしい黒髪の少女も手伝っていた。黒榊魅月姫だ。
 ある人物の探して求めて欧州より日本に渡ってきた魅月姫は、情報収集の場として神聖都学園を定め、帰国子女として編入登録していた。
 最近、草間興信所に出入りするようになり、今日はその情報を集めがてら手伝っていたのだった。
 修羅は頷くとソファーから立ち上がり、キッチンの方へと向かう。キッチンから事務室兼応接室を覗くと、武彦やシュライン、零が忙しそうにしている。珈琲でも皆に入れてやろうかと修羅は声を掛けた。
「皆も珈琲飲むか? 入れるけど」
「あら、お願いするわね。決算報告とか、確定申告の上に調査書まで堪っちゃって」
「そんなに忙しいのに何で貧乏なんだろうな?」
 そんな修羅の言葉にシュラインは盛大な溜息を吐いた。
「そう…そうなのよ。こんなに忙しいのに、なんでお金が貯まらないんでしょうね…」
 言った瞬間虚しくなり、シュラインは溜息吐きつつ、倒れかけた書類の山を直し始める。
 電子ポットを探したが、あるのは普通のヤカンだ。修羅はヤカンに手を伸ばしたが、中身が入っているようだった。覗いてみると中には冷水麦茶のパックが浮かんでいる。
 仕方なく鍋でお湯を沸かそうと思ったが、キッチンの片隅にガムテープがべったりと貼られた電子ポットを発見し、修羅はそれで珈琲を入れる。
 人数分のカップを用意したところで興信所の扉が開いた。
「こんにちは〜」
 その声に修羅は顔を上げる。
 そこに居たのは鷹彬とクラスメイトの獅子堂綾だ。この二人がいるところ事件ありとふんで間違いは無い。彼らも草間興信所の常連だった。綾の方はその長身と整った容貌ゆえにファッション雑誌のモデルとして活躍している。赤い髪が印象的だ。一方、鷹彬のほうは黒髪。姿も印象も正反対で、柔と剛といった取り合わせだ。
 修羅は二人に声を掛けた。
「ん、取材か? 新聞部のネタになるような事件なんざ、ここにあったっけ?」
「悲しいかな、オカルト関係に関してならあるかもな……」
 修羅の声に心持ち真剣な表情だった武彦は苦笑に変えた。
「ですねぇ……」
「零…そこで肯定するな」
「はい」
 ツッコミにダメだしされて、零は素直に頷く。
 鷹彬と綾は興信所の中に入ると、コートを脱いで手に持つ。そして、武彦にクラスメイトが消えたことを告げた。修羅と鷹彬、そして綾は同級生だ。それを聞くと武彦は眉を顰める。
「クラスメイトが消えたって…修羅、お前のクラスメイトでもあるんだろう?」
「あぁ…あいつも情報屋だって聞いてる。どこかで情報集めてると思ってたけどな」
 修羅はそう答えた。前にも何度か居なくなった事があったからそう思っても当然だ。鷹彬と綾も頷いている。
 修羅は増えた人数の分まで珈琲を入れるとテーブルに並べた。ソファーには鷹彬と綾が座っている。鷹彬も綾も制服のままだ。学校から直行してきたらしい。
「俺たち情報屋はいつだって活動中だからな、学校を休む事だってあるし……でも、今回はわけが違う。あいつが消える前に俺に情報を売っていったんだ」
 夢の中の澄臣を思い出して言うと鷹彬は苦笑する。
「情報? それは一体どんな……」
 それを聞くや、綾も武彦に説明し始めた。
「『NIGHT CHILDREN RENTAL SHOP』って聞いたこと無いか?」
「聞いたことあるわね。良い噂じゃなかったような…」
 シュラインの言葉に綾は頷いた。
「その『NIGHT CHILDREN RENTAL SHOP』の領域に入るにはある一定の条件が必要で、澄臣はその条件を何処かで手に入れたんだ。澄臣はそこへ行って取材してくるつもりだったみたいだな」
「そりゃどう考えたって澄臣のヤツ、その『NIGHT CHILDREN RENTAL SHOP』とやらに行ったんだろうよ」
 修羅は呆れたように言った。
「鷹彬にその情報と必要なものを鷹彬に売って、その日のうちに世界から消えた」
「「「「世界から!?」」」」
 皆は驚き、綾を見た。
「どうやって…」
「時々、聞いたことは無いか? ある日忽然と人が消えた話とか、この街によく似た場所にたどり着いた人間の事を」
「あぁ、異界…そう呼んでたな。同列の時間の中で、少しだけ違った条件で存在するパラレルワールドのことだろう?」
 武彦は納得がいったのか、頷いてみせる。
「そうだ。多分、そこを伝って澄臣は取材に行ったと思う。それを人為的に起こす条件を鷹彬に教えていったんだ」
「そうか…俺にも教えな。行って確かめてやるぜ」
 修羅はニヤッと笑って言った。
「んー…そうねぇ、条件についても詳細を伺いましょうか。それに、その澄臣くんって子が、情報を何処から入手したのかわかればいいんだけど」
「だめだ…条件が揃うまでにまだ時間がある。それにキーになるものが少ない…それを多めに手に入れたほうが安全だ。それに何処からかは聞いてない」
 鷹彬はそう言って首を振る。
「キーになるものって?」
「USBメモリーだよ」
「え?」
「その時々によって変わるキーワードとかIDとかの情報が入ってるUSBメモリーでさ。それ一個一個にナンバーが振ってあるから、コピー品は使えない」
「そう…関係者が流したのか、実際行って帰ってきたコから聞いたのか…うぅん。…菊池くんの他にも消えた中学生達がいたわよね。その子達も持ってたのかしら」
 悩みつつシュラインは言った。
「きっともってただろうとは思うけどな。確信は無いよ。取り合えず他の情報屋が持ってないか調べてる」
 それまでじっと話を聞いていた魅月姫は、ひっそりと誰にも気付かれずに微笑んだ。自分の探し物のことを考えると、この事件は役に立ちそうだった。案外自分の目的の何かしらの情報を入手できる可能性があるかもしれない。魅月姫は丁度良いとばかりに、綾が視線を外した瞬間に鷹彬に暗示を仕掛けようとした。
「ん……?」
 鷹彬は一瞬、自分の感覚がどうにかなってしまったかのように感じられ、思わず不安になって目を瞬かせた。
「鷹彬?」
 暗示が完全なものになる前に綾が気が付き、魅月姫を睨み据える。
「お前…何をした?」
「さぁ…」
 魅月姫はそ知らぬ顔で珈琲カップを傾ける。
「わからないとでも…?」
 無表情なまま綾は言うと指をパチンッと鳴らす。その瞬間、魅月姫のヘッドドレスのリボンが切れて落ちた。
「あら嫌だわ…リボンが」
 何事も無かったように魅月姫は拾い上げる。顔を上げれば、底冷えするような冷たい視線を投げる綾が居た。
――あら…面白い
 魅月姫はくすっと笑った。ハイ・デイライトウォーカーと分類される存在たる自分の能力を弾き飛ばした青年は賞賛に値する。なかなかに面白い者がいるではないかと魅月姫は思った。鷹彬を魅了してしまえなかったのは面倒だが、共に行動するか、情報だけ得れば良いだけのこと。魅月姫は気にも留めなかった。
「貧血かなぁ…」
 一瞬、意識を失いかけた鷹彬はわけがわからないといった風に肩を竦める。
 入れてもらった珈琲を飲もうと鷹彬がカップを持ったとき、ドアを叩く音が聞こえた。武彦の誰何の声に、ドアの向うで数人の声がする。
 ドアが開き、顔を出したのは宮小路皇騎、セレスティ・カーニンガム、井園鰍、紅月双葉の四人だった。
「こんにちは、草間さん」
「あら、宮小路くん。セレスティさんたちまで」
 顔を出した皇騎たちの姿にシュラインはにっこりと微笑んだ。
「そこまで来たものですからご挨拶にでもと思いまして。シュラインさん、紅茶のセットを持ってきました」
「え?」
「こちらですよ」
 そう言うとセレスティは、背後を振り返る。そこには大きな籐製のバスケットを持った執事が立っていた。
「お変わりございませんかな、シュライン様」
「えぇ、相変わらずよ…って、まさかその中に紅茶のセットが?」
「そうでございます。こちら様は何かと大所帯だとのこと、他のお客様に失礼のないようにとセレスティ様が仰いまして」
「はぁ…」
 シュラインは溜息を吐いた。
 きっとそのバスケットの中には、扱いに逡巡するような高価なティーセットが入っているに違いない。ちょっと見てみたいと思うのは女の性だが、あとでどうやって洗ったりしようかとシュラインは悩んだ。事務仕事はできても、お屋敷でメイドのバイトをしたことがあるわけではない。そんな食器をどう扱ったら良いかわからずにシュラインは少々焦るのであった。
 そんなシュラインを慮ってか、執事はにっこりと笑うとバスケットを持ったまま言った。
「わたくしめが本場の紅茶を淹れてさし上げましょう。今日は宮小路様がケーキを持って来てくださったのことですから、丁度良いかと思いますが」
「あら、本当に?」
 これまたシュラインは吃驚して言う。
 紅茶にケーキまで揃って、なんとありがたいことだろう。お茶菓子は何個必要かと考えていた身としては実にありがたい。
「おみやげのケーキですよ」
 皇騎はシュラインにケーキの箱を渡した。
 中身はフォーシーズンズホテル椿山荘の中にあるイタリアンレストラン『イル・テアトロ』のドルチェだ。そうとは知らずにシュラインは受け取る。
「まあ、ありがとう。えっと…じゃぁ、執事さんに紅茶を淹れてもらうとして、私はその手伝いをさせてもらうわね」
「はい、よろしくお願い致します」
 カーニンガム家の執事は深々とお辞儀をし、シュラインの後をついていく。
 皇騎からケーキを受け取ると、シュラインは皆に配ろうとキッチンへと向かった。
 事務所の中に入り、外の寒さから逃れることの出来た双葉たちはホッと溜息をつく。春の前の寒さは湿気を伴ってとても寒く感じられた。
「ん?」
 双葉は魅月姫の顔を見るや恐怖に凍りついた。
「どうしました?」
 それに気がついた皇騎は双葉の視線の先にいる少女の姿に奇妙な感覚を憶える。底知れぬ脅威と懐かしさに見舞われ、なんとも言い難い表情を浮かべた。しかし、それもすぐに振り払い、恐慌状態に陥り始めた双葉の方に歩いていく。
「紅月さん、どうしたんですか?」
「な、な、なんでも…ない…で…」
 女性は、少数なら何とか我慢するつもりでいたのだが、まさか自分が最も苦手なモノがそこにいるとは思ってもいなかった。朝、安定剤を服用したはずなのだが、さすがに直撃を食らうと辛すぎた。
「おい、どうした?」
 武彦は怪訝に思って双葉の方を見たがわけがわからない。眉を顰めるばかりだった。仕方なく綾はソファーから立ち上がり、双葉の方へと近付いていく。真っ青になっている双葉はどう見てもまともな状態ではなかった。素性は全く知らないが、先ほどの魅月姫の行動といい、彼女が人間であるとは綾には思えない。推察するに、紅月神父は彼女のような存在がダメなのだろう。
「…ひ…ひぃっ…」
 ガタガタと震える双葉に近付いて綾は声を掛けた。
「一体どうしたんだ?」
「だ、大丈夫…ですからッ」
「何を言ってるんだ…尋常じゃないぞ」
「す、すぐに治まりますから…」
「どうしたんでしょうか?」
 セレスティは双葉を見て首を傾げる。
「無理するなよ」
 綾は吐き気を抑えながら答える双葉を制し、肩を貸した。ソファーの方にゆっくりと連れて行く。鷹彬にはソファーから退いてもらい、魅月姫は視線で遠くに離れるようにと指示した。魅月姫は何も言わず成り行きに任せ、その場から離れた。
「お、お水…いただけませんか?」
 ややあって双葉が言う。綾は頷き、水を入れたコップを取ってもらうと双葉に渡す。双葉はポケットに入れておいた精神安定剤を取り出し、コップの水を飲み干した。
「安定剤か?」
「はい…」
「そうか」
 それだけ言うと綾は黙り込む。少々心配になったようだった。双葉をソファーに寝かせたまま、皆は今回の事件の話をし始めた。
 双葉は教会にくる信者の中に行方不明者がいるというの身内から相談があり事件を知ったようだった。セレスティは新聞の三面記事の片隅にあった失踪事件から興味を持ち、ここへとやってきたのだった。時折、囁かれる『NIGHT CHILDREN RENTAL SHOP』の噂とその事件に関連性があるかどうかは分からないが、少なくとも無関係と取るには証拠が無さ過ぎる。もう少しその子供達の間で噂される事件に関わってみるのも良いかもしれない。
 皇騎は神聖都学園生徒の行方不明を耳にし、すでに調査に乗り出していた。高等部の特別非常勤講師として勤務している事もあり、放っておけないとここへやってきたのだった。
 鰍は画材屋ゆえに各種事務用品も扱っている。今日は事務所に文房具用品の届け物がてら世間話に来たのだった。
「しかし、行方不明が出てて、その傾向も原因も判ってへんのに、あっさり売ってしもうてどないすんねん。そんな事しとったら、情報あつかっとるもんとして、信用失うで? 扱いきれへんものには手をださへんようにせな、身を滅ぼす事になるんや。周りコミで」
 そういう鰍に鷹彬は肩を竦めた。
「俺は買ったんであって、『売った』んじゃない」
「そうかぁ〜」
「そうだよ。俺たちだって情報屋だ。自分達で確かめてから売るさ、普通はな。だけど、澄臣が確かめる前に売ったのは、自分が行方不明になったときのためさ」
「何?」
「もしくは脱出できなくなった時のためってやつかな。情報をあえてリークしとくんだ、次のために」
「人命がかかってるんやで!」
「知るか。情報は生き物だ、流さなかったら死ぬ。行方不明になった人間だって見つからなくなるぜ。このまま俺がイノシシみたいに飛び込んでいったら、この情報だって無くなってただろうよ。その前にここに来たんだ。まだ賢明な方だぜ」
 それでも釈然としないものかあるのか、鰍は鷹彬を睨んでいた。
「消えた人たちに、わずかでも共通点が無いか…調査すべきでしょうね…」
 双葉は弱々しい声で言った。
「『NIGHT CHILDREN RENTAL SHOP』が噂に上るという事は、それまでに学校の生徒達の間では随分と広がっていると考えますが…鷹彬君、貴方は何名の人に情報を売ったのですか? 教えて頂きたいのですが…」
 セレスティは微笑みながら言った。
「綺麗なお姉さん。残念だけど、俺はまだ売ってないぜ。お姉さんが買ってくれるのか?」
 鷹彬は首を傾け、なかなか強かなことを言った。
 お姉さんと言われてセレスティは苦笑する。自分は男だ。その美しい容貌は誰をも魅了したが、お姉さんと言われるのには抵抗がある。
「買っても構いませんが…少し訂正していいですか?」
「あぁ…」
「私は男です」
 セレスティが言った瞬間、武彦は噴出し、執事はコホンッと一つ咳払いをした。
「は、はへッ? 男?? 嘘言うなよ〜」
「嘘でも冗談でもありませんよ。私は正真正銘、男です」
「〜ったく、また夢が一つ壊されたよ……」
 そう言うなり、鷹彬はがっくりと肩を落とした。
「男に惚れるほど、俺は落ちぶれてないし」
「女に見えるほどには落ちぶれてるけどな」
 綾はそんなことを言って笑った。
「うるせ〜!」
 鷹彬は喚いた。
 それを笑って無視して、綾は珈琲を飲む。
「鷹彬くん、後輩からとか、名簿を借りられないかしら? いなくなったっていう中学生達の家へ連絡取をしたら何か分かるかもしれないし。その『NIGHT CHILDREN RENTAL SHOP』…って言うからには店だと思うんだけど、そこに行く条件に菊池くんから受け取ったUSBメモリーが必要だとしたなら、その中学生達も入手してたんだとやっぱり思えるのよね」
「だろうな…」
「入手の有無と入手時期とか確認とりたいわね。あとは交友関係とかの情報収集かしら。可能なら写真も借りたいし…多分、その店の情報知り得たのなら夜遊びや少々ヤバイ事手出してそうなコと交流あった可能性は高そうだから、同級生以外にも、夜遊びしてるコ達にも写真を見せてみるべきかなと…」
 シュラインの言葉を聞くと、綾は数枚のスナップ写真と名簿のコピーをシュラインに渡す。
「生徒の名前は八頭真奈美と新庄史明。他の学校の情報はまだ掴めてない。報道されてる失踪事件のいくつかは関係してると思う。今、ここには他校の生徒がいないから協力を仰げないが、誰か知ってる奴がいたら紹介してくれると嬉しい」
「では、私はインターネットをメインに捜査するとします」
 皇騎は言った。
 修羅は皆に内緒で澄臣の霊を降ろそうと試みたが返事が無い。生きてれば降りてこないし、死んでれば本人から情報が手に入ると思っていたのだが、本人はまだ生きているようだった。
 鰍が挙手しながらいう。
「じゃあ、私は誰かについていくとするわぁ。霊能力なんてご大層なもん持ってへんから」
「捜査は神聖都学園の生徒への聞き込み、当事者の関係の捜査とネット捜査。こっちは興信所の情報網で調べられるだけ調べてみるわね」
「私は信者さんたちから何かあるかどうか訊いてみますよ」
 霊能力があまり無い鰍は、他の調査員たちの意見などをよく聞き、メモにまとめていった。携帯電話を持つものは互いのメアドと電話番号を交換する。後で充電用のバッテリーを買いに行く必要があるかもしれなかった。
「セレスティさんって言ったっけ? 情報買ってくれるんじゃないのか?」
 鷹彬はにやりと笑って言う。
 その表情にセレスティは苦笑した。
「えぇ、構いませんが…おいくらですか?」
「奴に渡したモバイルと100K分にしとくよ。WGNーU55に専用リプリケーターとキーボード、バッテリーパックLサイズにキャリングケース付で。あんたたちの分のUSBメモリーが必要なら、一個に付き、50K。人数分だと9人前で450Kかな。合計モバイルその他と金、550Kで」
 Kとは経済円で1千円。つまり、55万円よこせといっているのだった。
「USBメモリーは専用だったんじゃないですか?」
「それを手に入れられない鷹彬様だと思わないでくれよ。三日くれれば何とか情報を集めてやるし、物品が欲しいならあと二日くれ、手に入れるから」
「なかなかやりますね、少年」
「あんたと大して年は変わらないだろ、お兄さん?」
「おやおや、お兄さんに昇格ですか。ですが私は貴方が思っているような年ではありませんよ?」
「へ? まあいいや、俺が思ってるほど世界は小さくないってことで」
「そういうことですね」
「案外、嫌な奴だなぁ」
 そんなことを言いながら鷹彬は笑っていた。口で言うほど嫌な奴とは思っていないようだ。
「私は生来、イジワルにできてるんです」
「金くれればイジワルでもいいさ。俺、虐められる気はさらさらねぇ〜もん」
「ゲンキンですね」
「そうそう、だから現金くれ」
 ニヤッと笑った少年に、セレスティは執事を呼んで金を用意させ、三十分もしないうちに全てを用意してみせた。
「サンキュー、お兄さん。じゃあ、条件を教えるよ。向こうのサバのメンテが終わるのが火曜日の昼。そのときにはパッチの書き換えが終わっちまう。更新は一週間ごと。同じキーで入れるのは一週間から最大八日間。サバのメンテ前に一度入ってログアウト。再度、メンテが始まってから入室すれば八日間は使える。書き換え場所は…俺が知ってるのは高峰心霊学研究所跡地」
「「「「「「「「「「高峰心霊学研究所跡地!!」」」」」」」」」」
 それを聞いて鷹彬は神妙な顔で頷いた。
「そうだ、跡地。こっちの世界じゃ、あの美人なねーさんの家が建ってるけど、『向こう』じゃ建ってないってさ。少しづつ何かが違うみたいだ。俺はまだ中に入ってないから何とも言えない」
「どうやったら『向こう』に行けるんです?」
 ふと気になって魅月姫は言った。
「キーを持って日の出桟橋に行けばいいんだよ。それで船に乗る。出向先はアクアシティーお台場の前。ゆりかもめは走ってるかどうかは知らないけどな」
「帰りはどうすればいいんです?」
 双葉は聞いてみたくなって言った。
「さぁ?」
「さ、さぁ…って…」
「まだ行ってないって。公開前の情報を買うんだから、それぐらいのリスクは背負ってくれよ。アクアシティーの前から乗るか、日の出桟橋から乗れば帰って来れるとは思うんだけどな」
「でしょうねぇ…」
「長く『向こう』に滞在するなら関係無いかもしれないけど、一週間以上出るなら、メンテ後に書き換えてから出ないと中に入れないからな」
「了解…」
 そう言って双葉は深く溜息を吐いた。
 なんと面倒くさい作業が必要なのであろうか。先が思いやられる。
 一同は取り合えず解散する事とし、何か情報が集まり次第再びここに集まることにした。キーの情報が手に入るのは三日後、キー自体が手に入るのはそのまた二日後だ。タイムリミットぎりぎりと言ったところだろうか。
 とにかく、皆はそれまでに何某かの情報を集めようと躍起になっていた。

●追跡 〜三日後〜
 月見里千里は休み時間になると他愛も無いお喋りの輪へと入っていく。そんな姿を半ば呆れてクラスメートが眺めていたのを彼女は知らない。
 自分が通う学校でも『NIGHT CHILDREN RENTAL SHOP』が話題になっていた。同じのクラスの谷村夏樹と相原理香子の二人が欠席続きなのだ。密やかに生徒の間では『NIGHT CHILDREN RENTAL SHOP』に売られてしまったのだろうと興味本位半分の噂が流れていた。
 『NIGHT CHILDREN RENTAL SHOP』は店だとも言われていたが、また、そうではないとも言われている。本当のところは誰も知らない。
 千里は興味を持ち、独自捜査に乗り出していた。まず学校内での聞き込みの上、行動する事にする。授業の殆どはサボり決定だった。聞き込みの情報を元に、近所に住んでるとか、店を持ってる人を中心にさらに聞き込みを続けたが、有効な情報は集まらなかった。
 自分の手帳に張ったクラスメートのプリクラを見せ、欠席を始めた前日くらいに見なかったかを中心に情報を集めたが、分かったのは二人が思いつめていたという事だけだった。
――親に交際を怒られた同志だからって言ってもなぁ〜
 千里は溜息をついた。
 交際を怒られたたことぐらい何だって言うのだろう。好き同志でいられるだけで十分だろうに。
――まったく、精神構造がお子ちゃまなんだから…
 千里は急に腹立たしくなって眉を顰めた。幸いと今の時間は自習だ。この後の授業は眠たいだけの世界史だし、ちょっとサボっただけで何が変わるわけでもない。千里は鞄を持って立ち上がった。
「ちょっと、千里。何処に行くのよ」
「サボり」
 にべもなく言った千里の言葉にクラスメイトは目を瞬かせた。
「次の世界史、あいつだよ? サボらない方が良いって」
「用事思い出したから」
「やめなよ〜」
「ちっさ〜、ローソンでから揚げ買ってきてー」
「自分で行きなさいよ」
「ちさっちゃんのケチんぼ〜」
「だ〜から、用があるって言ってるんでしょーが」
「ぶーぶー!」
「はい、ブーイングは却下。じゃーね〜」
「ばいばーい」
 歩いていく千里にクラスメイトは手を振った。ドアを開けると、千里は教室を飛び出す。出て行ったからといって何があるわけでもないのだが、じっとしているはすっと良い筈だ。

 千里は商店街に行き、二人を見かけた人からどっちの方に行ったか訊いた。話によると消えた二人は向かったのは海の方だということだが、多分、桟橋の方にでも行ったのだろう。ということは船に乗ったのかもしれなかった。目的地の絞込むには難儀しそうだ。三宅島はないにしろ、奄美大島とかでないことを千里は願った。千里はJRに乗り、浜松町で降りると日乃出桟橋の方へと歩いていく。天気は上々で空が何処までも青い。こんな綺麗な空が見れるなら、サボって正解だったのかもしれなかった。
 千里は少々寒かったために、ココア缶を買ってのんびりと歩く。
「あー、草間興信所に行けばよかったかなあ。ヨハネくんとかに情報とか貰って動いた方が早かったかも。ここから近いし、行っちゃおうかなぁ。あ゛ーう〜…こう言う時、一人は虚しい……ん?」
 大きな独り言を言っていた千里は、何処からともなく聞こえてくる低い笑い声に眉を顰め、辺りを見回した。デイリーストアーの看板の向こう側で笑っている男がいる。紅い髪が印象的な背の高い男だった。銀瞳はカラコンを入れているのだろう。整った容貌には見覚えがあった。
――『アヤ』だ。モデルの……
 人目でピンと来た千里はコーディネートを黒で決めている人物に向かって冷たい視線を送ってやった。乙女の独り言に耳を傾けるとは、なんという不心得者なのだろう。多分、普段着なのだろうが、お高そうな服で決めているところが何とも小憎らしい。
 意味もなく腹が立って千里はそっぽを向いて歩き始めた。何故か懐かしいような、腹立たしいような感覚に見舞われたが、囚われまいと千里は歩き続ける。
「おい…」
 綾が声を掛ける。
「……」
 無論、千里は無視だ。
「……お前」
 もう一度声を掛けた。
「……」
「同じ方向の手足を一気に出して……歩き辛くないか?」
「がぁーん!」
 超ぎこちなさ抜群の歩き方をしていたらしい我が身に、恥ずかしいやら腹立たしいやらで、千里の顔は真っ赤になった。
「ぎゃーぎゃー! あたしってばなんて恰好なのっ!」
「知らないな、そんなことは」
「いやー、いや〜〜〜〜ぁ! 見てたわね、アンタ」
「そりゃ…見ないわけにはいかないだろう? そんな恰好で歩いてたんじゃ…歩きづらいだろうと…」
 綾の方はからかうつもりではなく、単に大丈夫かと言いたいだけなのだが、千里の方はそう取ってはいなかったようだった。ずんずんと綾の方に歩いて来ると、ぐわっし!とコートの胸倉を掴む。いや――掴むというよりは、へばりついていると言った方が正解かもしれない。
「くぅぅぅ〜見たわね〜〜…」
――ぎゃー! このコート、Theoryのミディ丈じゃないのっ、高っ!
 千里の脳みそは既に羞恥と怒りとでこんがらがっていた。既に論点はズレまくっている。ちらっと見ればセーターはARMANI COLLEZIONIのハイネックだし、マフラーはPrada。
――ストレートパンツ…MIU MIUじゃない? ちゅーか、革靴ってばHERMESのバックスキン・スリップオンなんですけどッ! 高い…値段がダンチですよ、ムカツクー!
 困ることがないぐらいにお金を与えられていた千里には、さすがにどのブランドのものか見分ける目があった。しかも、相手が似合うとなれば少々興奮気味になっても仕方なかったかもしれない。
 だが、どこか懐かしい感じがする相手を見上げ、これがデジャヴュというものなのだろうかと思えば、もっと意固地になりたいような、何もかも投げ出して泣きついてしまいたいような不思議な感覚が千里を満たしていた。
「だから、正直に見たっていってるだろ」
「うー、アンタなんか『NIGHT CHILDREN RENTAL SHOP』に食べられちゃえ!」
「何? お前、どういう…」
「し、しまった…ちょっと離してよ。痛いじゃない」
「お前も知ってるのか?」
 この場所は日乃出桟橋近く。つまり異界へのゲートの近くだった。そのことと『NIGHT CHILDREN RENTAL SHOP』の言葉が妙に重なり、綾は何かを感じて千里の腕を掴んだ。
「うちの学校の生徒が二人いなくなったのよ。そこに関係してるかもって噂が流れてるの。もう充分でしょ、離してくれない?」
「ダメだ」
「何でよ!」
「お前、『NIGHT CHILDREN RENTAL SHOP』を探してるんだろう? 女の子がそんな危険なことをするのを黙って見ていられるか」
「うっさいわねぇ…そんなの、ただの噂じゃないの。危険って言うほどのものだなんて誰が言ってたのよぉ」
「何も知らないまま、手を出したりするな」
 港の端にあるコンビニ前とはいえ、人通りが無いわけではない。綾は困り果て、細い小道に千里を引っ張りこんだ。
「騒ぐな…」
「やーよ! 離し…て……きゃぁぁッ!!!」
 小道に建った自分の反対側から急に手を捕まれて千里は悲鳴を上げた。
「な、何?」
 千里が顔を上げると思わず目を見開いた。掴んでいるのは綾ではない。そのことがもっと千里を恐怖に陥れた。
「『NIGHT CHILDREN RENTAL SHOP』…知っているのか?」
 そう言った声は若い男のものだ。
 顔を上げた千里はちょっと長めの前髪に隠れて血の色をした双眸がこっちを見てるのから目が離せなかった。炯々と輝く瞳の言い知れぬ雰囲気に千里の声は引き攣って出なくなる。
「おい、知ってるのか?」
 男はぶっきらぼうな物言いだった。まったくもってコミュニケーションという能力が欠落しているのではないかと思わせるものがある。
 言い知れぬ感覚に千里は愁眉を寄せる。
 男は舌打ちすると、千里に向かって手を伸ばした。
「ヤダッ!」
「何もしない」
「嘘!」
 千里は叫ぶと、すかさずあとずさった。
 人とのつながりを円滑にすることが絶望的なまでに下手な青年は、明らかに千里に誤解されていた。
 彼の名は谷戸和真と言い、草間興信所に出入りする人間の一人だったが、千里がそんなことを知るわけもない。とうとう『NIGHT CHILDREN RENTAL SHOP』の人間がやってきたのかと千里は身構えつつも、内心は震えていた。
「お前は誰だ?」
 綾は男を睨み据えた。
「俺か? 俺は谷戸和真。古書店・誘蛾灯の店主だよ」
「何の用だ?」
「同居人の友達が行方不明になってな。あんたたちが追っている『NIGHT CHILDREN RENTAL SHOP』がかかわっているらしいって聞いた。通りかかったらその名を聞いたんで、声を掛けたってわけさ」
 和真は細々と調べものをしている暇はなさそうだと判断し、適当に関係の有りそうな奴を捕まえて絞り上げるつもりでいたところだった。
「調べていると言いふらしながら暴れれば、向こうから来てくれるかなと思っていたんだが、手間が省けたな。危険は避けたいし」
「なんてやつだ…」
 綾は呆れて肩を竦めた。
 早々に千里の腕を掴んだ和真の手を払いのけると、綾は千里を引き寄せる。相手に悪気は無いだろうとは思うのだが、さすがに動揺している女の子を放ってはおけない。千里は嫌がるかもしれないが、不器用そうな相手に女の子の相手をさせるよりはマシだと綾は思った。
「お前も探しているのか?」
 綾は相手の様子を窺いながら訊く。和真は頷いた。
「あぁ、さっきも言っただろう? その『店』に行く方法がわからないけどな。同居人の友達だって言う事ぐらいしか俺には分からないし。お前、知らないか?」
 和真の言葉に綾は暫し沈黙した。『向こう側』の罠かもしれない。慎重に言葉を選んで答えようと綾は考えをめぐらせた。
「俺は別に誰でもいいんだ。だが、子供と女性の涙や頼み事には弱い。お前が手を貸してくれると助かる」
 そう言われては断る理由が無い。綾は頷いて言った。
「わかった…情報はそっちに流してもいい…が、条件がある」
「条件?」
「そうだ。俺の友人がOKを出したらお前に情報を渡す。だが、それだけじゃお前の欲しい本当の情報は手に入らない。あるものが必要だ」
「ある物?」
「USBメモリーだ。特製の…それが無ければ『向こう』にはいけない」
「そうだったの…?」
 千里は吃驚して綾を見上げた。
「あぁ、そうだ。それが無ければ行けないからな。こうして情報が手に入ったなら、お前の行動は無駄じゃなかったって事だな」
 綾はくすくすと笑い、千里の頭をポンポンと叩く。
「ちょっと、何するのよ〜」
「むくれるなって。草間興信所に来い。その鍵を持ってる人間がこれから来るから、丁度いいだろ?」
「そうだけどぉ…」
「決まりだな」
 それだけ言うと、綾はJR浜松町駅に向かって歩き出した。膨れっ面をしながらも千里は綾の後を追いかける。和真も二人の後を追って草間興信所へと向かった。

●神聖都学園南側 〜同時刻・港区海岸五丁目にて〜
 皇騎は菊池澄臣の行方不明事件を聞き、彼のこれまでの行動や足取りについて追跡調査を始めていた。情報収集は特異のネットダイヴをメインにしていたが、自ら足を使っての捜査も怠らなかった。IT関連の授業を当校で行っている皇騎は生徒受けの良さを借りて生徒間の噂などからも追いかけてもいる。
 今回はセレスティや鰍、双葉と魅月姫も参加していた。
 しかし、双葉は魅月姫が苦手のようで、皇騎やセレスティとともに行動している。魅月姫と鰍が共に行動し、もう少し情報が集まらないかと捜査中だ。
 神父という立場上、双葉は信用されやすかった。氷のような美貌の双葉に、泉のような爽やかさと穏やかさを持った皇騎とたぐい稀なる美貌のセレスティが並んで歩くと、それはとても美しい。三人のいる場所は時間を止めたように感ぜられた。懐古趣味の人間ならばうっとりと見つめるであろう光景だろう。
 パープルグレーのショートフロックコートとストレートパンツに同系色のドレスシャツを着、ステッキをついて歩くセレスティの姿とシンプルな僧衣服(カソック)を着た双葉、シンプルながらに仕立ての良いコートとスーツを着た皇騎が港町を歩くと、それはとても様になる。近くを歩く人々は、じっとその姿を網膜に焼き付けようと見つめていた。
「情報は同じようなものばかりですね…」
 皇騎はそう言って生徒から離れ、二人の方に歩いてきた。
「それはそうでしょう…中々、尻尾を掴ませない連中のようですから」
 セレスティは笑って言った。
「今日は鷹彬くんと約束した日ですから、キーの情報が手に入るはずですし。今後は情報を集めつつ、『向こう側』に渡る準備をした方が賢明かもしれませんね。実際に店へ行って戻ってきた人物も居ると思っていたのですが…どうでしたか、皇騎さん?」
「さすがに声を大にして行ってきたと言う人間はいませんね。何か怖いことでもあるのでしょうか」
「そうですねぇ、恐怖で縛っているということもありえますしね。学校で放課後にでも鷹彬くんに案内して頂いてお聞きするのが、相手に警戒心を抱かせ無くて良いとは思っていたのですが。情報を取りに行ってるのでは仕方ありませんね」
 セレスティは気になることがあるようで、少し考えていた。
「ネット上で『店』に行ったという時運物の書き込みがないかどうか調べた方が良いかもしれませんね。それに、不思議に思っていたのですが…『NIGHT CHILDREN RENTAL SHOP』というのは店の名前ではありますが、その形態は店であるのかどうかが謎なのですよ。名前だけで、実体のない場合もありますからね」
 ハッと双葉は顔を上げた。
「そ、そうですね…それはありえますよ。ただのキーワードだっていうことも充分に…」
「でしょう? 知り合いのマスターでしたら、数多くの客を接待されていますし。色々とご存じではないかと思うのですが」
 セレスティはそう言うと、行ってみますかと言った風に首を傾けた。
「何処に行くんですか?」
 皇騎は問う。にっこりと笑ってセレスティは返した。
「天鵞絨堂茶房のマスターのところですよ」
 初めて聞く店の名前に二人は顔を見合わせた。

  *  *  *  *  *  *

「では、何かありましたら教えてくださいませ」
 魅月姫は黒いワンピースドレスの裾をひらりと翻して、軽やかにその場から離れた。いつまでも神聖都学園の生徒たちは魅月姫の方を見つめている。
「おまたせいたしました。やはり、生徒の名前ぐらいしかわかりませんわね」
「そうかぁ、まあ仕方ないな。『向こう』もそこらへんの情報の扱いは慣れてるってやつやな。しっかし、ものの見事に手詰まりやで」
 鰍は手にしたモバイルを操りながら、魅月姫の聞き出した情報をまとめていった。清楚で可憐な外見で、様々な扱いや駆け引きを軽々とやってのける。
 その手腕に感心するやら、呆れるやらで、鰍はそんな魅月姫に圧倒されっぱなしであった。
「そう簡単にわかってしまっても、面白みに欠けますわ」
 魅月姫は手強そうな相手を身内と『向こう側』に見つけて楽しそうに笑った。考えるに『向こう側』そのものが巨大なバケモノのような存在なのだろう。尻尾をなかなか見せない様子に高揚する気持ちが隠せないでいる。ポーカーフェイスな魅月姫の口元が笑みを湛えていた。
 手に入った情報は生徒の名前だけで、神聖都学園の生徒の名前は、鷹彬から聞いた八頭真奈美と新庄史明の二人に、椎ひかると蔵橋弓子の二人の名がわかった。こちらは高等部の生徒達の名前だ。他の情報はといえば、鷹彬に教えて貰ったものの方が、はるかに有効な情報と言えた。
 鰍は学校のデータにハッキングしたが、学校からの他サイトへの書き込みが行われた回数は計り知れず、調べきる事は困難と判断して作業は素早く終えている。
 魅月姫は得るものは無いと思い、興信所を目指して歩き始めた。

●Exile organization
 セレスティと双葉、皇騎の三人は銀座にある天鵞絨堂茶房へと向かっていた。黒塗りのリムジンが銀座の街を進んで行っても、さほど人は振り返らない。高級車が路上を占める率の高い街では、如何なリムジンであったとしてもすごき人目を引くというわけではなかった。カーニンガム家のリムジンの前では、グラスコートを施したアップルグリーンカラーのホルクスワーゲンニュービートルが走っている。
 少し春めいてきた街はいつ見ても華麗だ。銀座松屋の前にはアップル社のビルディングが建っている。ついこの間までは、女性用のデパートだった場所だ。松屋の横を曲がり、築地方面へと走れば、スターバックスが見えてくる。そこを曲がって進んでいくと、小さな洋館と言った言葉が似合うであろう煉瓦造りの店が見えてきた。外装には蔦が絡んで伸びている。勿論、それは本物だが、一体いつから伸びているのか、随分と伸び放題だった。
 リムジンが店の前に止まると、最初は執事が降りてドアを開ける。セレスティがステッキをついてゆっくりと降りてきた。その後、双葉と皇騎が降りれば、執事がドアを閉める。
「ここですよ」
「喫茶店ですか?」
 訝しげな様子で皇騎が言った。何処かの商人の下にでも行くのかと思っていたからだった。
「えぇ、そうです」
「お茶を飲んでる時間なんかありませんよ」
 双葉は何とも言い難い表情をして言う。
 そんな双葉の様子にセレスティは笑った。
「まぁ、良いではないですか。何か情報が手に入るかもしれませんし」
「はあ…」
 双葉は天鵞絨堂茶房と書いてある看板を見上げた。果たしてこんなところに店などあったであろうか。双葉は思い巡らしてみたが、思い出すことは出来なかった。
 ドアを開け、中に入ると珈琲の香りが店内を支配していた。ゆったりとした店内の雰囲気に居心地の良さを感じて皇騎は溜息を吐いた。
 店内には数人の客がおり、カップを傾けて憩いの一時を楽しんでいるようだ。
「いらっしゃい…。おや、セレスやん」
 不意に降って湧いたような声に皆は辺りを見回す。真っ青なエプロンを付けた人物が立っていた。
 声だけ聞くと少年のようにも聞こえなくもない、年齢不詳性別不詳の声に、皇騎は相手が女だということが分からなかった。
「お久しぶりですね、マスター」
 セレスティはにっこりと笑って挨拶する。相手も口角を上げて応じた。
「あぁ、お久しぶりやね。今日は友達と一緒みたいやけど」
「はい…ちょっとマスターにお訊きしたいことが…」
「あいよ。言いたいことはわかってる。まあ、そんなところで立ち話もなんだし。奥の席を開けるから」
 カウンターを出たマスターはトレーに水を入れたグラスとピッチャーを乗せ、お絞りをいくつか持つと、ひょいひょいとお客の間を抜けて奥の席へと向かう。ちょっと小さめの扉を開けて中に入ると、ガタガタと何かを動かすような音をさせていた。暫くして、セレスティたちを呼ぶ。
「空いたでぇ〜」
「はい」
 セレスティが中に入るとそこは王宮のサロンと見紛うばかりの部屋だった。
「え、あ…何ですかこれは!」
 双葉は外の扉の粗末さとはまるで比べ物にならない部屋の内装に驚き、目を白黒させていた。
 細部に渡って綿密に計算された装飾と色彩の調和に、何人もの職人が手掛けたであろう細工と、一個一個彫金された蝶番などの金具の美しさは喩える言葉が見つからない。双葉はまじまじと見つめてしまった。
「マスター…私たちのために『変えて』くださったんですか?」
「そうや。向うに居るのは異界の人間と宇宙人。それと地球人もいる。自分の常識とルールとは違う人間と同じ空間に居るのは辛いやろ? それに訊きたいことあるんやろうし」
 そう言いながらマスターは白いリネンを広げた大きなテーブルにトレーを置いた。セレスティたちは彼女の勧めにしたがって席に座る。お絞りとグラスを並べたところで、ドアがノックされ、一人の少女がアフタヌーンティーセットを持って入ってきた。
 ネイビーのワンピースに白いエプロンをつけた少女は小さなメイドといった雰囲気だった。マスターの懐古趣味的な部分を見て取り、セレスティは笑った。
「店員さんですか?」
「んー? あぁ、ミカはオートマータやで」
「おや、そうですか」
「あんたも知ってる姫さんから部品を買ってな。組み立てたん。可愛いやろ? 流石に服は付いてなかったんで、私が縫ったんやけど」
「姫? どなたでしょう?」
「血の黒姫、ヒルデガルド・ゼメルヴァイス嬢や。ミカイーリス、ご挨拶は?」
「Yes, master.はじめまして、ミスター・カーニンガム、ミスター宮小路、ファーザー紅月。ミカイーリス・ハーヴェントです」
「こんにちは、ミス・ミカイーリス」
「こんにちは、ミカイーリス」
「こんにちは、お嬢さん」
「しかし、いつの間にオートマータなど買ったのですか?」
 セレスティの問いにマスターは笑った。
「最近、物騒でなぁ。セレスが知りたがってるあの『NIGHT CHILDREN RENTAL SHOP』が勢力を伸ばしてる」
「ご存知なのですか?」
 双葉は目を瞬かせた。
「ご存知も何も、ここも異界やで…ある意味。ちゅーても、『ぷち異界』って感じやけどな。奴らは黒い子供を白い子供で狩ってる」
「黒い子供、白い子供?」
「奴らの常識では白い子供は黒い子供を支配するべきなのだそうだよ。時折、こっちに渡ってくると思ってたら、不相応な行動に出てきたようや。こっちは関わる気が無いから武装まではせーへん。うざったいだけや」
「不相応な……行動…」
「彼らは何なのですか? 『NIGHT CHILDREN RENTAL SHOP』というからには店なのでしょう?」
 セレスティはミカイーリスの入れた紅茶を受け取りながら言った。ミカイーリスは手早く皆に紅茶を入れてみなの間を行き交う。
「店やな…というか、店だったと言った方が正しいかもしれへんな。昔はヤバイもん売ったり、貢がせたり、その名の通りの商売してたらしいで。ある時から、頭が交代してな…殺されたとか言われてるんやけど…まあ、上が変わって体勢も変わったって言うか。……まったく正反対になったな。子供を食いものにするのが商売やったけど、今じゃ子供達の物騒な王国や」
「ぶ、物騒な…王国?」
「そうそう。大人の常識の通用しない王国や。餓鬼に世の中の何が分かるっちゅーねん。ってか、そーゆーのわからへんねんけど。そう言って憚らないみたいやね。何が起きてるかは現地に飛んだこと無いんで知らへん」
「ご存知ない…」
「行きゃぁ良いだけなんやろうけど、あないな不気味なところにミカ連れて行くのも嫌やし。この店に来られてもな〜とか思って〜」
 マスターはケラケラと笑って手を振る。ただ単に、店に面倒を持ち込むのがイヤとのご返答。双葉は溜息をついた。まあ、店主と言うものはそういうものかもしれないし、そうでなければ店が潰れてしまう。仕方無しと双葉は何も言わなかった。
「他に何か分かっている事は…」
「ない」
 キッパリと言い切られて、セレスティは溜息を吐く。ふと、思い出したようにマスターは付け足した。
「そうや、白い子供に気ィ付け〜や」
「白い子供?」
「そう、白い子供。特に黒い子供が近くに居ると容赦無く襲ってくるで。死にたくなきゃ、黒い子供の近くに居る時は、白い子供には見つからないようになぁ。もしかしたら、あんたらが白い子供か黒い子供になったほうがええかもしれへんね」
「私たちが?」
「そう。ゲートのデータが変わるまでにあと三日やったね。今日は神聖都学園の坊やがキーの情報を見つけてくる日だったはずやね?」
「そうです…これから草間興信所でミーティングですが」
「なるほど。きっと、今日は朗報が聞けると思うで。三日後までには『向こう側』に行けるはずや。ほな、餞別代りに良いモンやったるわ。ツケの代わりに武器屋から徴収したモンやけど、分けたるから持って行きな。それと、情報交換用にモバイルPC持っていったほうが良いで〜」
「モバイルですか?」
「そうそう。セレスにとっては痛くも痒くもない出費やろ。用心にこしたことはないしな」
「はい、そうですねぇ」
 セレスティは何事かを考えるかのような表情を浮かべたが、取り合えず用意しようかと思うのだった。
 ミカイーリスが重そうな鞄をテーブルの上に置き、一旦戻ると、今度はジェラルミンケースを持ってきた。
 中を開けるとPBPV AAF…90年代後半にアメリカ陸軍特殊部隊などに使用されたボディアーマーが入っていた。ジェラルミンケースの中にはGLOCK17CスライドモデルとCOLT GOVERNMENT SERIES M1911A1が入っている。初心者にはGLOCK17Cは丁度良いかもしれない。しかし、これを撃たねばならない状況になるのだろうかと思うと、皆は重い溜息を吐かざるえなかった。
 皆はそれを受け取り、興信所で誰が持つか決めることにする。セレスティ達は席を立つと部屋を出て行った。マスターはそれを見送り、店の外に出た。
 リムジンに乗り込むセレスティたちに手を振り、マスターは薄い笑みを浮かべて言う。
「撃ったら死ぬ、撃たれたら死ぬ。容赦したら自分以外の誰かが巻き添えを食って死ぬ。白い子供には容赦は無用」
 その言葉にセレスティは顔を上げた。
「えぇ、わかりました。そうならないことを願いますよ」
「私だってそんなの願ったりしないさ。けどなぁ、私はあんたたちが死ぬ方が嫌なんよ。セレスティ、紅月神父、宮小路くん…黒い子供を救って…生きて帰っておいで」
「えぇ、マスター。帰ってきたら美味い紅茶を入れてください」
「そうですね、またお茶したいですね」
 双葉も言った。
「今度はゆっくりと…」
 皇騎も笑ってマスターに言った。
「せやね〜」
 マスターも言う。
 そしてリムジンは走り出した。リムジンは銀座の街を抜け、国道15号線へと向かう。行き先は草間興信所。見えなくなるまでマスターは手を振っていた。

■END■

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/ PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086/ シュライン・エマ / 26 / 女 / 翻訳家&幽霊作家+時々草間興信所でバイト
0165/月見里・千里/女/16歳/女子高校生
0461/宮小路・皇騎 / 男 / 20 / 大学生(財閥御曹司・陰陽師
1883/セレスティ・カーニンガム/男/725歳/ 財閥総帥・占い師・水霊使い
2758/井園・鰍/男/17歳/情報屋・画材屋『夢飾』店長
3747/紅月・双葉/男/28歳/神父(元エクソシスト)
4682/黒榊・魅月姫/女/999歳/吸血鬼(真祖)深淵の魔女
4757/谷戸・和真/男/19歳/古書店・誘蛾灯店主兼祓い屋
                       (PC整理番号順)
 *登場NPC*
 草間武彦、草間零、三浦鷹彬、獅子堂綾、菊地澄臣
 執事、天鵞絨堂茶房のマスター、ミカイーリス・ハーヴェント
 神聖都学園の生徒、千里のクラスメート

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■         ライター通信          ■
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 キャスティングや登場シーンにより、こういう結果に落ち着きました。
 人間関係の中で長所は短所に、短所は長所にと変化するものだと思っています。
 一番気になるのはキャラ人選が的確であったかと言うことだろうと思います。私もこう言ったものに参加するときには、暫し気になるところではあります。しかしながら、リアクションないしノベルは総合された結果の一つであり、必ずしも絶対ではないと考えます。
 行動と人物により結果は変わり、すべての未来は変わるのだと思いますので、もしもよろしければ次回のご参加をお待ち申し上げております。

>シュライン・エマPL様
 いつもお世話になっております。
 ティーセットがやってまいりました(笑)
 狭い台所の何処にしまったのだろうかと、書きながら謎に思っていた私でした…(汗;)

>月見里・千里PL様
 綾くんです…(何;)
 二人の絡みを書くのが大変面白かったです。
 戦闘シーンが今回は無かったので、武器は次回に持ち越しになりました(汗;)

>宮小路・皇騎PL様
 お世話様でございます。
 先生らしいシーンを書くと3万字越えてしまうので…すみません…
 次回もこりこりと必死に書かせていただきたいとか思っております。

>セレスティ・カーニンガムPL様
 すみません…吸血鬼は名前しか出てきませんでした。
 しかも、デフォでドレスシャツです(死)
 フロックコートに萌えていたのは秘密でございます(*ぽっ*)

>井園・鰍PL様
 初めまして!
 電脳キャラ様がいらしてくださって嬉しいですv
 今回のご活躍は少しに留まってしまいましたが、今後の電脳戦に期待しております(礼)

>紅月・双葉PL様
 意外なところで恐慌状態に(汗;)
 かえってリアリティーが増して楽しかった記憶があります。
 無事ではないと言うところが、戦闘系シナリオの壷でございますね。

>黒榊・魅月姫PL様
 初めましてです。
 どのような戦いになるか楽しみでございます。
 可愛らしいお嬢様の優雅な戦いがどきどきものです。

>谷戸・和真PL様
 少々変わった人物として表現してみましたが、これが決まり決まった形だとは思いません。
 今後、違った側面を見せていくと面白いであろうと感じて書いてみたものですので、どうぞ重く取らぬようお願い申し上げます。
 ちょっとミステリーに似合うようにと手を加えただけなのです〜♪(笑)