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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


リドル・リトル・ビースト

------<オープニング>--------------------------------------

コロコロコロコロ。
「何なんだろうねぇ、こいつは」
蓮は倒れた小瓶を指で転がしていた。
コロコロコロコロ。コロコロコロコロ。
コロコロコロコロ。コロコロコロコロ。
「ん?さすがに目が回ってきたみたいだね」
蓮は小瓶をそっと手に取り、目の高さまで持ってきた。
中で何かが動いているのが見て取れる。
「獣……だとは思うんだが」
小瓶の中の何か≠ヘ、獣に似ている。
曖昧な言い方だが、その小さい何か≠ヘ辛うじて獣であると判別できる程度のサイズしかないのだ。
しかし、種別までは判らない。
四足歩行の獣であることは間違いないのだが、蓮の知る獣の知識にはこの生命体は存在しない。
とはいえ、目を回しフラフラしている姿はなんとも愛らしい。
「ま、普通の獣じゃないだろうね。狼に似た姿をしてはいるけど、角や羽の生えた狼なんて聞いたこと無いしねぇ」
ガチャッ。
「ん?あぁ、丁度いいところに来たね」
扉を開けて入ってきた来訪者は、突然の歓迎に目を丸くした。
「依頼だろう?早速で悪いけど、こいつを頼まれてくれるかい?」
言って、蓮は小瓶を来訪者に向けて投げた。
あわててそれを受け取った来訪者は、不思議そうに小瓶の中を覗き込む。
「コルクの蓋に何か字が書かれてるだろう?おそらく、蓋を取れば元のサイズに戻ると思うんだけど……10メートル以上もある巨体って事も有り得なくは無いぇ」
言いながら、自分の言葉に納得する蓮。
「ま、私からの依頼はそいつの正体を暴いてほしいって事だからね。もしもの時は好きにしてくれて構わない。それと、間違っても街中でそれを開けないでおくれよ。本当に
何メートルもあって、ましてや凶暴だったときには始末に負えないからね」
そう言ってニヤッと笑う蓮は何処か楽しんでいる風に見える。
「じゃ、頼んだよ」

------<本編>--------------------------------------

【どうすんだ?】

「で、どうすんだ?」
アンティークショップ・レンの店先、幾島・壮司はサングラスを鈍く光らせながら、開口一番に切り出した。
「僕の研究所で解放してみようと思うのだが、どうだろうか?広い中庭もあるし、ある程度の大きさならば収まるはずだ」
応えたのは銀髪の女性、天城・凰華だ。提案も申し分ない。
「あ、私は別行動と言う事で」
少し気後れしながらも、雨柳・凪砂はそう告げる。
「別行動?……構わないが、何をする気だ?」
「あ、いえ、万が一というか、興味本位というか、情報収集に努めようかと思いまして」
興味本位はともかく、万が一というのは有り得ない事ではない。
「何か分かり次第連絡しますので」
「ま、いいんじゃねぇの?二手に分かれた方が見落としも少ないだろうしな」
壮司の言葉に凰華も頷いた。
「じゃあ、私は一度戻って蓮さんに話を伺ってみますね」
「そうだな。頼む」
それでは、と手を振ってから、凪砂は再びアンティークショップ・レンの店内に入っていった。
それを見送ってから、残った二人も移動を開始する。
「とりあえず、あんたの研究所ってとこに案内してくれよ」
全てはそれからだ、とばかりに壮司は促す。
「ああ、こっちだ」
行く道を示し、凰華と壮司は歩き始めた。


【盗人って……え?】

「あの、蓮さん?」
凪砂は、一人アンティークショップ・レンに戻っていた。
「ん?あんたは行かないのかい?」
小瓶はすでに此処には無い。
先程の二人が持っていったからだ。
「あ、はい。私は外から調べてみようと思って」
「おや、何か手掛かりでもあるのかい?」
意外そうな顔で蓮が聞いてくる。
「いえ、そういうわけではなくてですね。そのぉ、あの小瓶の入手経路を教えてもらう事って出来ますか?」
「入手経路、ね。本来なら教えるわけにはいかないんだけど、私からの依頼だしねぇ……ん〜、盗人Aとでも言っておこうか。名前は言わないよ。それ以上は信用に関わるからね」
「盗人って……え?」
確かに、入手経路を教えろと言うのは無理な注文だ。
それを職業だけでも話してくれたのだから上出来である。
盗人を職業と呼べるかどうかは微妙ではあるが……。
「盗人といっても、いわゆる義賊ってやつでね。悪事をはたらく様な連中からしか盗らないらしい」
蓮は、人差し指で頬を斜めになぞりながら「こんなのとかね」と冗談めかして笑う。
「ともあれ、それが盗品であることはほぼ間違い無いだろうね」
「盗難事件として、新聞なんかに載ってれば良いんですけど」
このような事実が公開されれば、報道機関が黙っているはずがない。
まして、物が物だ。
未知の生物とあれば話題性も半端ではないのだから。
「……それはないね。義賊が盗ってくくらいの代物だからねぇ、公には出来んさ。被害届すら出せないだろうね」
「つまり、正規の情報ルートでは手掛かりすら掴めない、と?」
「そうなるね」
「そうですか。……分かりました。ありがとうございます」
「構わないさ。で、行くのかい?」
「はいっ。とりあえず、出来る事からやってみます」
そう言い残し、凪砂は店を後にした。


【どうだ?】

「大した庭園だな」
壮司が感心したように呟いた。
凰華の研究所。その中央に位置する庭園に二人は立っていた。
「早速だが、始めようか」
瓶の蓋に手をかけ、開けようとする凰華。その様子に気付いたのか、中の獣が嬉しそうに目を輝かせた。
「ちょっと待った」
壮司が止める。同時に、獣ががっくりと頭を垂れた。
「凪砂からの連絡を待ってみないか?急いで危険を冒すよりは、何かしらの情報があった方がやりやすいだろ?」
「確かに、安全策を取るに越した事はないな」
凰華は納得し、蓋にかけていた手を下ろした。
開けてくれとばかりに、必死に訴える獣の仕草に、しかし凰華は気付かない。
「なら、しばらくは連絡待ちになるな」
「出来る事はやるさ。貸してくれ」
ばっ!と、勢い良く顔を上げる獣。その目が再びキラキラと輝く。
小瓶を受け取った壮司はサングラスをはずし、金色の眼を晒した。
『神の左眼』による小瓶の解析。しかし、それも数秒で断念した。
コルクに記された文字の能力によって、『神の左眼』の効果が一切及ばなかったのだ。
加えて言うなら、獣の純真すぎる瞳で見つめられ、集中力を乱されたのも要因の一つだろう。
「どうだ?」
「ま、期待はしてなかったけどな」
持っとけ、と凰華に小瓶を放る。
中で獣が目を回しているのはあえて無視した。
「じゃ、今日のところは帰らせてもらうな」
「そうだな、連絡が入ったらここに来るといい」
「そうさせてもらう」


【星座……か】

二日後、凪砂の手元には二種類の書類があった。
知人の研究所に頼んでおいた件の、結果報告書だ。
「調査した結果、該当する例は無し。ただし、可能性を挙げるとするならば、星座のそれが一番近いのではないか、と」
凪砂は改めて、コルクに刻まれていた文字を思い出す。
Mか、それともWか。どちらにせよ、文字と言うには少々歪な形をしていた。
「星座……ですか」
考えてみれば、あれを文字だと思ったのは何故?蓮が言っていたから?
違う、封印を施すための媒体となっていたから。
そう、媒体として使うのは文字である、という自分の固定観念が星座という可能性を頭から消してしまっていた。
「でも、これが何の星座かが分かりませんね」
あいにく星座には疎い。
そもそも、星座を媒体とした封印?
そんなもの聞いた事が無い。
「とりあえず、これはまた調べるとして、次はこっちね」
もう一つの方の書類をめくる。
「…………いたって普通のコルク。瓶を調べられればいいのだけど、さすがに無理ですからね」
確実とは言えないが、おそらく小瓶には何の細工もないのだろう。
その辺で量産しているのと何ら変わらない。
送られてきた結果報告書にはそのような事が書かれていた。
「一応、報告しておきましょう」
凪砂は携帯を取り出し、壮司の番号をプッシュした。


【用意はいいか?】

「星座?確かに、聞いた事が無いな」
凰華の研究所。
壮司から、間接的に凪砂の報告を聞いた凰華はふむ、と考え込んだ。
「未だ未知数には変わりないが、どうする?やるか?」
凰華の問いかけに、壮司は笑みを浮かべて言う。
「当然!警戒できる点が一つでもあるんだ。何も無いよりは全然マシだ」
「そうだな、では開けよう」
応えを予想していたのか、凰華の手には既に例の小瓶が握られていた。
「用意はいいか?」
「あぁ」
きゅっ、というコルクの抜ける音と共に、小瓶から大量の煙が発生し、辺りを覆った。
「うお!」
「……っ!」
視界をはばまれ、一瞬ひるむ。それが仇となった。
煙が晴れるよりも早く、何かが壮司の頬をかすめたのだ。
赤い血が一筋の線を描く。
「くっ…!」
二人は慌てて構えを取る。
が、しかし続く獣の攻撃はなかった。
次第に晴れる視界。そこに見えたのは、一回り大きな狼。
背には黒く骨張った羽、頭には長く鋭い角、口にはサーベルタイガーを思わせる大きな牙。
今にも襲い掛かろうかという意図が、手に取るように見える。
「……予想はしてたが、ここまで凶暴そうな面だとはな」
壮司としては、開封と同時に『魔狼の影』で拘束するつもりだったが、煙で視界が遮られたため出来なかった。
見た限り、動きも素早そうだ。捕らえるのは困難だろう。
そう思い、構えも解かずに色々と戦術を思考していたが、どういうわけか狼は動く気配を見せない。
凰華も疑問符を浮かべつつも、狼を睨む。
「どうしたってんだ、一体?」
「何か、考えているのか?」
確かに、考え込んでいるように見えなくも無い。
しばらく、お互いに隙を見せないまま沈黙が続いた。
先に動きを見せたのは狼だった。
急に構えを解いたかと思ったら、ゆっくりと近づいてくる。
ゴロゴロと、のどを鳴らす音も微かにだが聞こえた。
「……?」
訳も分からずその様子を見ていた壮司は、はっ!としてサングラスをはずした。
先程までは刺激を与えないように使わなかったが、今なら『神の左眼』を使える。
そう判断し、狼の解析を始めた。


【キメーラ?】

凪砂は近くにあった図書館に来ていた。
適当に星座に関する本を見繕って、ペラペラとページをめくる。
「秋の星座、カシオペヤ?」
星座神話によると、古代エチオピア王国の王妃カシオペヤ。
おそらく、それがコルクに刻まれた記号の意味だ。
それなりに有名な星座であるらしい。見る人が見れば、すぐに気付いていたのかもしれない。
「ですが、これが何を表しているのかが分かりませんね」
再びページをめくる。
「…………キメーラ?」
ふと手を止めたページに書かれていた文章。
その中にキメーラという怪獣の話があった。
「首がライオンで体が山羊、尾が蛇で口から火を吐くという怪獣」
たしか、小瓶の獣は狼の体に羽と角が生えたものだったはず。
「同じ……とは言えませんが、無関係とは言い切れませんね」
ページをめくる手に力が入る。
ざっと調べただけで、似た様な存在がいくつか出てきた。
大きな鉤爪を持ったお化けくじら。
化けそこなった魚山羊。
銀色の翼を持った、天馬ペガスス。
一見して分かる共通点は。
「単一の獣のそれではない、という事」
そして、更にページをめくった先にあったのは。
「……女傑メドゥサ」
それを見た瞬間、凪砂は未だ見ぬ者の意図を悟った。


【……なんだかなぁ】

プルルルル、プルルルル。
「ん?……幾島だ。どうした?」
目の前の光景に呆気に取られながら、壮司は電話を取った。
『あ、凪砂です。今、大丈夫ですか?』
「あぁ、何か分かったか?」
『はい。憶測の域を出ないのですが、その小瓶の狼は合成獣です』
合成獣。数種の獣を何らかの方法で混ぜた存在。
「……分かってる。俺の方でも調べたからな」
『調べたって、解放したんですか?』
「今さっきな。どうやらこの狼には、コウモリと一角獣とサーベルタイガーが混ざっているらしい。見たまんまだけどな」
『他に分かった事は?』
「どうも特殊な妨害処理が施されているみたいだ。分かった事といえば、この狼が自分を作った連中を深く憎んでいる事と、同じ目にあった仲間達のことを心から心配してる
って事くらいだ」
それ故に、壮司は最初の一撃を貰ってしまったわけだが。
『そう……ですか』
「そっちはどうだ?他に有力な情報はないのか?」
『……意図が。小瓶の狼を作った者の意図が分かりました。先程も言ったように、憶測の域は出ないのですが』
「意図?何かしでかそうってのか?」
『……えと、とりあえず、アンティークショップ・レンで落ち合いましょう。話はそこで』
「あ、あぁ、そうだな。分かった、すぐに向かう」
『私も、すぐに行きますので』
そう言って、凪砂は電話を切った。
「凰華、店に戻ろう。凪砂もすぐに来る」
視線を向けた先、そこには異形の狼と戯れる凰華の姿があった。
「……なんだかなぁ」


【ま、引き際だな】

「すみません、遅くなってしまって」
息を乱してドアを開いた凪砂は、深々と頭を下げて謝る。
「来たか。気にするな、僕らも今来たところだ」
アンティークショップ・レンの店内。
今は、依頼を受けた3人と、依頼主である蓮の4人だけだ。
「じゃ、早速結果を聞かせてもらえるかい?」
蓮の促しに凰華が一歩前に出た。
「簡単に言えば、この狼は合成獣だ」
言って、凰華は小瓶を蓮に差し出した。
「コウモリ、一角獣、サーベルタイガー、そして狼の4種が混ざっている」
「大きさは、普通の狼を一回り大きくした位だな」
蓮はまじまじと小瓶を眺めた。
中で小さな狼が照れているのが見て取れる。
「おや?封印の文字が変わってるみたいだね」
そう、再び狼を小瓶に封印したら、コルクの文字が変わってしまったのだ。
「あ、見せてもらってもいいですか?」
黙って聞いていた凪砂が覗き込む。
「……やっぱり、私の考えはあながち間違ってはいなかったみたいですね」
得意そうに胸を張る。
「と、言うと?」
「えっと、ですね。これ、実は文字じゃなくて星座なんですよ。最初に描かれていた方もです」
「そうか!カシオペヤにケフェウスだ。なるほどね、言われてみればたしかにそうだ」
蓮はなるほどなるほどと、しきりに頷く。
そんな蓮を、詳しいじゃないですか、と凪砂がじと目で見やる。
「それでですね。星座にはそれぞれ神話があるわけですが。その内の一つ、秋の夜空に描かれた神話。そこには、その狼と同じように、数種の動物が混ざり合った様な存在が
いくつか見られるんです」
「じゃあ、この狼も星座なのか?」
「いいえ。私が調べた限り、そのような星座はありませんでした。と言っても、付け焼刃の知識ですけど」
壮司の問いかけに、しかし凪砂は否定した。
「ここからは私の憶測です。おそらく、この狼は実験体なのではないでしょうか?本当に作りたいものを作る為の」
本当に作りたいもの。
聞いていた皆がその言葉に耳を留めた。
「結論を言いますね。その狼の創造主の本当の目的は、星座神話に登場する怪獣達を今の世に復活させることなのではないでしょうか?」
「……なるほど。それが真実で、実現してしまったなら、世界はまさに地獄絵図と化してしまうね」
驚きも束の間、蓮は言った。
そして気付く。
「まさか!人間もその対象だってのかい?秋の星座神話には、たしかあれがいたはず!」
「そう、メドゥサがいます。もしも、本当にメドゥサを復活させるのであれば、人間をも使いかねません」
「お、おいおい、冗談きついぜ。狂ってやがる」
「真実なら、見過ごせないな」
壮司のぼやきに、凰華が続いた。
「あまり逸らないで下さい。確証があるわけではありませんから」
「……なんにせよ依頼は達成してくれたんだ。今回はこの辺でやめておこう。深追いしてやばい事になっても、あたしは責任取れないからね」
「ま、引き際だな」
多少の不満はあったが、3人とも素直に従った。
「ああ、そうだ。その小瓶、買い取らせてもらいたいんだが」
凰華の申し出に、蓮は目をパチクリさせた。
「これをかい?危なくないか?」
「どうやら懐かれてしまったらしい。広い庭もあるから、環境としても問題は無い」
「……そうか。ほらっ、連れて帰りな」
ポイッと、蓮が投げて寄越す。
「ありがとう。感謝するよ」
「料金は報酬から引いておくよ」
その言葉を背に受けて、3人は店を後にした。

≪END≫

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【 4634 / 天城・凰華 / 女 / 20 / 生物学者・退魔師 】
【 1847 / 雨柳・凪砂 / 女 / 24 / 好事家(自称) 】
【 3950 / 幾島・壮司 / 男 / 21 / 浪人生兼観定屋 】


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■         ライター通信          ■
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こんにちは、神倉 彼方です。
この度はご参加ありがとう御座います。

小瓶に入った狼に、星座神話。
今回は随分と突飛かつ、飛躍したお話だなぁ、と自分で読み返して思いました。
まぁ、例によって(?)詳細をややぼかしているのは、僕の癖のようなものですので、その辺はご了承下さい。
いずれ、もっと実力がついてきたら、細かい所まで突っ込んで表現していきたいと思います。
星座神話、作中でも言っているように、付け焼刃の知識ゆえに、間違った部分もあるかもしれません(多分大丈夫ですが…)。
一度、星座神話について調べてみるのも面白いと思いますよ。
なるほど!というのも多々あったりしますので。

……続編があるかどうかは、神倉の気分次第、ということで。


●幾島・壮司様:
二度目のご参加、ありがとう御座います。
ちゃんと無愛想に見えるでしょうか?自分としては、あまり自信が無いですね(申し訳ないです)。
おそらく、前回よりは良くなってるのではかと……。
願わくば、またのご参加を期待しております。