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くまのぬいぐるみ(らしきもの)がいっぱい……
また怪しい箱が届きじっと睨む草間。
“ぬいぐるみ”とラベルが貼っている。
「爆発して埋もれるのは困りますから開けましょう」
と、零が言う。
「いや、開けたくない! どのみちまたややこしいことに!」
「その前に開けた方がいいのではないしょうか?」
「むむむ」
たしかに、放ったらかしにしようと開けてもデスクと応接間は瞬く間に何かに埋め尽くされてしまう。
「四次元ポケットかよ」
渋々ナイフを取り出し、箱を開ける草間。
確かにぬいぐるみだった。
数匹、動かなければ……。
動いたのは10cmと40cm、そして210cm(!?)の3体。
その3体が、だいたい30cmの動かないぬいぐるみをどんどん箱から出していく。
「な、何をしたいんだ? 箱……」
頭を抱える草間。
10cmのクマがかわいいクマのぬいぐるみを零に渡す。
「何ですか? いただけるのですか?」
零が訊くとクマは頷いた。
210cmは草間に抱きつこうとして(のしかかろうと)しており、草間は逃げ回る。
「何とかしてくれー!」
興信所の殺人ブザーに匹敵するぐらいの草間の声が響いた。
1.なんといいますか
「よいしょっと」
シュライン・エマはソファから転げ落ちたクマのぬいぐるみを並べていく。茶色、緑、様々な色のくま。
「武彦さんがしんじゃうから……ああ!」
大きなくまに程ほどにお願いしようとした矢先、おおきなくまさん210cmは草間に抱きついて、頭をガジガジ噛んでいた。
「だめよ、食べ物じゃないから」
苦笑するシュライン。
「そう言う次元じゃない」
武彦は、血は流さなくてもかなり困っている。
210cmはよく見るとピンクで爪や口元に血がたれている “きもかわいい”系の類だった。懐かれているのかどうかわからないが、暫くコレでおとなしくしているらしい。
「痛くないですか?」
「痛くはないが、なにもできん」
兄を心配する零に困り果てた顔で言う草間。
いつの間にかいるのはつい最近ナマモノ認定されたシオン・レ・ハイ。
ぬいぐるみに囲まれ喜びに浸っている。かわうそ?ぬいぐるみを横に置いて、
「お仲間です♪」
と、ご満悦。
「役にたたねぇ」
被害者なのだからそうではないのだが、噛みつかれている草間に言われても説得力ナシ。
威伏神羅は、アトラスから草間興信所が面白いと聞いて、ドロシィ・夢霧はくまのぬいぐるみ(らしきもの)が沢山あると聞いてと、やってきた。
そして2人は現状を把握する。
「面白いところじゃのう」
「かわいいなぁ!」
くまたちには邪悪な力も、妖気もない。草間も頭を噛まれているが、傷一つ負っていないし、何て事はないようだ。くまの容姿でなんとなく怖いというか複雑なのは誰が見ても同じ。
「済みませんが手伝ってくれませんか? 人が座れるぐらいに」
シュラインさんが、40cmとぬいぐるみを並べている。
「む、それほど散らかしていないようだの」
「ドロシィちゃんも手伝う!」
と、応接間を埋め尽くすようでない、ぬいぐるみを並べることにした。40cmも状況を理解し、箱からこれ以上ぬいぐるみを出さなくなった。
少し遅れてやってきたのは、セレスティ・カーニンガム(以降セレス)がやってきて、笑っている。
「笑っているなら、手伝ってくれ、というか助けてくれ」
「いえ、楽しそうですから」
草間のSOSをかわす。
「懐かれているみたいですし、もし外したら大事になりそうです」
ニコリと笑う。
「おいおい」
シオンは210cmの後ろに向かって……
「ファスナーは……ないですねぇ?」
と、真剣に考えている模様。
流石に、ここで相撲は取れない。
相変わらずというか、箱騒ぎはそんなモノなのだ。
2.箱の底はbottomless
「で、此の箱が……これだけのモノを?」
神羅が、箱を指さして訊いた。
“指ささないで〜”
「……」
と、箱が意思疎通してくるのに神羅は少し寒気を覚えた。
この騒ぎに慣れてしまっている草間一家は頷く。
因みに草間は噛まれたまま。
ボロビルの中で、かわいいくま(一部きもかわいい)のぬいぐるみが並べられて、可愛いモノ好きの人なら可愛さに浸るような空間に様変わり。特にほのぼのとしているのがオヤジの部類に入るシオンなのはおいておく。
「どこから来たとかそう言うのは考えない方がいい」
未だ210cmに噛みつかれている草間が言う。
その点については皆同意した。
「まずは、くまのぬいぐるみをどうするかよねぇ」
「可愛いから勿体ないし〜」
シュラインとドロシィが思案し、
「幼稚園や保育園に寄付っていうのはどうかしら」
とハモる。
大部分は其れで良いだろう。
セレスはこう告げた。
「部下がクマのぬいぐるみ集めに凝っていましてね。いくつか欲しいのです」
「私も欲しいです!」
シオンも欲しいらしい。
「前に、処理しきれないほど……そうねぇ、デスクと応接間などが全部服に埋め尽くされた事があるからネットオークションも考えましょう」
箱は底無しなのだ。後どれぐらいあるのかわからない。
何のためにこんな事をするのは謎。イレギュラーの塊、かわうそ? に匹敵するほど謎が多いが、気にするほどのものではない。
とりあえず、暫く40cmと10cmと共にのんびりお茶をして、本題を考えることに落ち着いた。
そう、動いているくまのぬいぐるみをどうするかである。
40cmと10cmはちょこまかと愛嬌を振りまく。本当に可愛いので欲しそうな人が多い。
セレスは210cmらしい。
シオンは210cmと相撲を取りたいらしく、くまと交渉している。しかし、くまは首を振るので、草間は噛みつかれながらブラブラ揺れる。
「たすけてくれ〜」
青ざめてきているので、皆の説得により草間は救出された。
そのあと、屋上でシオンと210cmくまと相撲を取って、でかい其れにくわえられてボロボロになって帰ってきた。そう、草間と同じように。
3.用心はしてみたいが
「まず、本当に無害なのかを確認しないと」
とドロシィが用心している。
「それには、私も賛同じゃ」
神羅も同意。
一ヶ月ほど様子を見て、人を本当に襲うモノだと厄介だからだ。
「用心に越したことはないですね」
セレスはにっこり微笑む。
――でかさん(210cm)はじゃれつくだけだし、なかさん(40cm)とこーさん(10cm)も可愛いし問題ないと思うけど。念には念をということね。
210cmがシオンにじゃれついてブンブン振り回している光景を見てシュラインさんは思った。
「一ヶ月、様子を見るために1〜2カ所にぬいぐるみを預かって貰いましょう」
ドロシィが言う。コネでそう言った関係があるようだ。
「では、私のリンスターのほうでも」
セレス総帥がにっこり微笑む。
コレでぬいぐるみの様子はわかるし、大丈夫だろう。
動く方については、暫く興信所預かりであった。
その中で、こんな話。
「着ぐるみとして接客も良いよね。あ、でも住まいはどうしよう?」
「ずっとじゃれられるんだが……俺の意見は?」
じゃれてくる210cmに困る草間。
「私が引き取りますけど?」
セレスが言う。210cmは草間の頭をかじりならが本気で悩んでいる。
「俺と遊びたいのか? そのくまコレクションのところに行きたいのか? 本気で悩むな!」
更に草間は困っている。
「40cmさん可愛いです」
零は40cmさんと遊ぶのに夢中である。自作のうささんぬいぐるみをみせて40cmとお人形さんごっこのようだ。
「10cmは私がきにいったのう」
神羅が10cmにときめいている。
「もし困っているならドロシィちゃんのお家で引き取りますよ。でも問題ないみたいですね」
ドロシィは言った。
3.それから一ヶ月。
一本の電話が入った。
[ドロシィちゃんからご報告でーす♪]
ぬいぐるみにもこの動くクマも何もなかったそうだ。すぐに向かうらしい。
「本当に只のクマのぬいぐるみなのね」
相変わらず210cmは草間やシオンなど“からかい甲斐”のある人物にじゃれている以外、言うことは聞くし、賢い。三下忠がお邪魔したとき、210cmを見たとたん気絶し、SHIZUKUはきゃっきゃっと彼らと遊ぶ。
それに箱が壊れていないので、210cmはその中に入って休むらしい。顔の大きさと、箱の大きさが同じなのだがやはり、箱が気になる。しかし考えない方がいい。
「鉢植えに顔だけ植えて、遊ぶゲームみたいですね」
何処で覚えたのか、零はとんでもないことを言った。
一部、箱を斬って捨てたい者もいるのだが、
「其れをすると、中にあるくまのぬいぐるみが興信所全体に埋まるから……」
草間とシュラインに止められた。
どうも封印しても、いつか箱が破裂して1000坪ぐらいクマだらけになりかねないらしい。日本では1000坪を買い占めるには、金よりその間の課程がかなり面倒でもある。
とりあえず、1ヶ月何もしていないわけではない。
「では、皆さんの案を纏めてその結果を伝えましょう」
シュラインさんは眼鏡をつけて、会議(?)結果を報告する
「まず、ドロシィちゃんのお家に一定数のぬいぐるみを流通することと、各方面の孤児院、保育園、幼稚園に寄贈する形になりました」
一斉に拍手が起こる。
「そして、210cmさんはセレスさんのところに、40cmさんはウチで、10cmさんは神羅さんに引き取る形になりますね」
と、確認をする。
皆が頷いた。
「でも、40cmさんの話では、かなりぬいぐるみが入っているみたいと言うらしいし、箱が“うごかしちゃいや”と言っているので……」
シュラインさんは箱を見る。
箱は赤面しているようだ。
「なんとも奇っ怪な箱よのう……」
神羅は10cmを優しく抱いて(?)、箱を見る。
「それ問題ないと思います! ハイ! あと私もぬいぐるみ1つ欲しいです!」
シオンは210cmに噛みつかれても手をあげる。
これで、今回の騒動は落ち着いた。
4.それから
くまのぬいぐるみの流通は問題なく、またコミュニティや口コミでぬいぐるみが配られていく。
シオンには1つぬいぐるみを渡して、事も済んだ。
うごくほうも、幸せに暮らしているという。
ただ、210cmにはファスナーが巧く隠されており、ピンクの中からはとても可愛い200cmくまさんが現れたとか。
「またファスナーがあれば、どんどん小さくなるのでしょうか?」
クスクス笑うセレス。
どうもじゃれたいときはピンクの血まみれくまさんになって、からかい甲斐のある人物にじゃれるらしい。それ以外では、普通に可愛いくまさんだ。
40cmも、FAXを見せて貰い、その数を取り出す作業で大忙し。
箱に入って、顔だけ出している40cmを見て、
「捨てねこならぬ捨てクマ?」
草間がぼやいた。
箱に“拾って下さい”と悪戯書きしてみる。
「様になるのが怖いな」
苦笑する草間だった。
箱は何も言わなかった。其れぐらい甘んじて受けようなのだろう。
FAXが届く。
「あ、また希望FAXがきたわ。なかさーん」
シュラインさんがクマを呼んだ。
そんなこんなで平和に興信所であった。
End
■登場人物
【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0592 ドロシィ・夢霧 13 女 聖クリスチナ学園中等部学生(1年生)】
【1883 セレスティ・カーニンガム 725 男 財閥総帥・占い師・水霊使い】
【3356 シオン・レ・ハイ? 42 男 ナマモノ認定壱号びんぼうにん?】
【4790 威伏・神羅 623 女 流しの演奏家】
■ライター通信
滝照直樹です。
『くまのぬいぐるみ(らしきもの)がいっぱい……』 に参加して頂きありがとうございます。
ドロシィ様、神羅さま、初参加ありがとうございます。
箱の話はまだまだ続くと思います。
東京全体が何かに埋め尽くされないよう細心の注意をはらいながら……付き合って行かなくてはきけないでしょう。
では、又機会が有れば宜しくお願いします。
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