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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


Return Of The ×××
始まりはただの偶然だった――。

夕暮れ、信也は大学の帰りになんとなく、何かに惹きつけられるように公園内を通った。
木や植え込みが多く、少し薄暗い通りにさしかかった所で、信也は立ち止まった。
「なんだこのにおい……。」
ふと足元を見ると、コンクリートに紅い染み。それが暗がりの方へ転々と続いている。
辿っていくにつれ、嫌な感じは強くなる。

「おいおい、マジかよ。」

そこには血塗れの男がうつぶせで横たわっていた。
ゆっくり近づき様子を伺おうとしたその時、男が信也の足を掴んだ。
「うわっ!」
慌てて振り払おうとしたが、男の力は信じられないほど強くてままならない。
「……あ……ぁあ……!!」
声がもう出ないのだろうか、男は目を大きく見開き、必死で何かを伝えようとしている。
「な、なんなんだよ。」
抵抗をやめた信也に、なんとか鞄から取り出した物を、がくがくと震える手で男は手渡すと、それっきり動かなくなってしまった。

ラベルに何も書かれていないCDロム。
呆然としていると、いくつもの足音が聞こえてくる。そしてあっという間に、黒いスーツの男達がずらりと信也を取り囲んだ。
今この状況はどうみてもまずい、殺人犯だと思われても仕方がない。
しかしどうもおかしい。彼らの視線は死んでいる男ではなく、信也に注がれている。そして痛いほど伝わってくる殺気。
はいどうぞと渡したところで、どちらにせよ無事ではすまないのは明らかだ。

しかし無情にも、男達は一斉に信也を襲う。
やられる!そう思った瞬間、目の前にいた男が真横へ吹っ飛んだ。
しりもちを付いて呆気にとられている間に、次々と倒れていく男達。
そして最後に立っていたのは、同じ歳くらいの黒髪の男だけだった。
「……大丈夫か。」
「あ、あぁ。助かった、サンキュー。」
安心している暇もなく、足音がまた近づいてきていた。
「こっちだ。」
促されるまま、信也は男と一緒に走った。あのロムを握りしめて――。


公園を離れ、少し人通りのある所まで来ると、信也は座り込んでノートパソコンを取り出した。
紅く染まったケースから取り出したロムをセット、男も不思議そうに画面を覗き込んでいる。
どうやらどこかの研究施設のデータのようだが、今までのことを考えると、かなりやばいデータが入っているに違いない。
「こりゃ家帰って詳しく調べた方がよさそうだな。」
このまま捨ててしまったとしても、また命を狙われる危険性は高い。


自宅に帰ると、信也はデータを詳しく調べ始めた。
そこには、こう書かれていた。
「人魔……融合計画について?」
人と魔を融合させるという恐ろしい研究の内容や行程が、このロムには入っていた。
しかも女性の試作体まで完成しているようだ。
犠牲になった女性はこれからどうなるのか、研究所の人間は彼女を使って何をしようとしているのか。考えただけでゾッとした。

「随分、汚い奴らが居るんだな……。」
「あれお前、ついてきてたのか。」
黒髪の男は、まぁなと頷いた。
どのみち自分一人ではどうしようもない、彼の強さが必要不可欠だ。
「これもなんかの縁ってことで、悪いけど付き合ってくれねぇ?俺、榊原信也。」
「……山崎…健二だ。」
ニッと笑うと、二人は軽く握手をした。


辺りはすっかり闇に包まれた、二人は研究所への潜入を決行する。
「あった、警備員室。」
信也がそう呟いたと同時に、すぐ後ろを走っていた健二がすっと前に出た。
目もくらむような速さで警備員をなぎ倒していく健二、それはまるでカマイタチのよう。
すぐに信也は自分のノートパソコンを取り出し、研究所のパソコンに繋ぎ、お得意のハッキングを開始。
グリーンのスクリーンにめまぐるしく映し出される文字列、なめらかにキーボードを叩き続ける信也。
ビーっという数回の警告音の後、警報装置解除という文字が表示された。
「完了、後は俺がここから誘導する。頼むぞ健二。」
「……ああ。」
インカムを受け取ると小さく頷き、健二は走り出した。



『よし次、右にデカい部屋があるはずだ。』
「ある……ここにいるのか?」
『みたいだ、気を付けろよ。』
ハッキングによりロックは解除されていた。
健二が重々しいドアをゆっくりと開くと、中には身体に何十本ものコードが繋がったまま横たわる女性を発見した。肌は青白く、髪は雪のように真っ白。
「……おい、お前が試験体とか言われている奴か?」
健二の問いかけに、女はゆっくりと眼を開ける、まるで精気のない眼だ――。
「あな…たは……?」
「助けに来た、逃げるつもりはあるか?」
女は今にも泣きそうな表情を浮かべると、何も言わず差しのべられた健二の手を取った。その手は凍るように冷たかった。

「お前達!何をしている!!」
巡回中の警備員が、二人にライトを当てた。
すかさず攻撃したのは健二だけではなかった。これも魔の力なのだろうか、恐ろしいほどの破壊力。
そんな力に一番戸惑っていたのは彼女自身だ。健二は行くぞ、と眼で合図を促し再び走り出した。
「榊原、今から試験体とそっちに戻る……。」
『了解、ちっとついでに資料ハッキングしてみるわ。」


ふと、足音が一つ消える。
健二が振り返ると、試験体がうつむいたまま歩みを止めている。
『やべぇかもしれない。』
「……何が。」
『チクショウ!そいつから離れろ健二!!!』

信也が叫んだのとほぼ同時だろうか、健二は後ろからの攻撃を避けることが出来ず、突き当たりの壁まで一気に吹っ飛ばされた。
身体に走る激しい衝撃、ぐらりと目の前が歪む。
『その試験体、一定時間で抗体打たねぇと、自我が崩壊してただの殺戮者になっちまうんだ!おい大丈夫か?!』
何処か遠くで聞こえるようなその声に、健二はやっとの思いで返事をした。
「先に……逃げろ。」
『え…おい!』

インカムが音を立てて砕け散り、気を失いかけたその瞬間、健二の狂化が始まった。
「あ……ああぁっ!!」
まるでただ獲物を狙う獣のように、健二は試験体に襲いかかる。試験体も牙を剥き、殺意を露わにする。
しかしやはり、彼女は試験体であって、不完全。狂化した健二のほうが力は上だった。
殺気が消えた途端、ふっと健二も我に返った。しかし時すでに遅く、攻撃を受け床に頭を強く打ちつけた試験体は、冷たい目を身開いたまま、ぐったりとしてしまっていた。
「……っ!」
後悔の念が一気に襲うが、敵の増援が悔やむ暇も与えてはくれなかった――。



「くそ…。」
先に脱出した信也は、不安と焦りを押さえられなかった。
元はと言えば、健二を巻き込んだのは自分だ。もし何かあったら……そう思うと気が気ではない。

その時、試験体を背負った健二が研究所から姿を現した。
「こっちだ、早く!」
直ぐに研究所を離れ、初めて出逢ったあの公園へ移動。すでに深夜、辺りに人の気配はない。
「逃げろとか言うし、挙げ句なかなか帰ってこねぇから心配したんだぞ、ったく……。」
信也は試験体を健二の背から下ろした、しかし……。






試験体と呼ばれた女は、静かに息を引き取っていた。
まるでやっとヒトに戻れたことを喜んでいるかのように、その表情はどこかひどく、穏やかに見えた――。