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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>



 ―記憶の狭間で悩み、苦しむ者達―

 タクシーで将太郎のもとへ行く草間武彦と調査に協力している青年は終始無言だった。お互いに何を話せばいいのか分からなかったからだろう。二人ともただ窓の外を流れる景色を見ているだけだった。
 やがてタクシーが止まり、運転手が「着きましたよ」と短く声をかけてくる。草間武彦は代金を払うと足早にタクシーを降りた。
「お見舞い用の花を買いに行きます、先に彼の病室に行っていてください」
 そう言うと青年は近くの花屋へと足を向けた。
 草間武彦は待っていようと思ったが、ヒュウと吹く風の冷たさに身を震わせて病院の中へと入っていった。
 病院の中は人でごった返していた。そういえば風邪が流行っているとテレビで言っていたっけ、草間武彦は人の波をかき分けながら一階中央にあるエレベーターに乗り込む。
「…草間さん?」
 エレベーターの扉を閉めると同時に声を掛けられ、草間武彦は視線を移す。すると一緒に乗り合わせていたのは見知った顔だった。
 門屋・将太郎の助手を勤めていた楷・巽だった。
「先生……いえ、門屋さんのお見舞いですか?」
 草間武彦は巽の問いかけに無言で首を縦に振った。
「そういえば…毎日のように門屋さんの病室の前で立ち尽くす神聖都学園の男子学生を見ますよ」
 巽が会うたびに病室に入るように言うが、男子学生は首を振りながら病室の扉を見ていたとか…。
「恐らく、その少年は門屋に自殺を止められた少年だろう。その少年を苛めた三人の男子学生がいて、彼らを体育館裏に呼びだした直後教師暴行事件が起きたが、犯人は未だ…捕まってない」
 巽は草間武彦の言葉を静かに聞いていて、何か考えているようにポツリと呟いた。
「……随分と詳しいんですね。まるで全てを知っているみたいです」
 巽の言葉に草間武彦はドクンと自分の心臓の鼓動が早くなるのを感じていた。喋りすぎたか?そういう言葉が自分の頭の中に響いてくる。
 草間武彦が動揺を隠すかのようにポケットに入れていた煙草に手を伸ばそうとするが、巽にそれを止められた。
「病院内は禁煙ですよ。喫煙所なら一階にありますが?」
 表情の読めない顔で言われ、草間武彦は出しかけた煙草をもとの場所に直した。
 将太郎の助手を勤めていた巽には事件の真相を話しておくべきだろうか、さっきから草間武彦の頭の中にはその言葉がグルグルと回っている。
 しかし、自分の判断で勝手に話してもいいことだろうか、話した事により更に将太郎を追い詰める事にはならないだろうか…?
 やがて、目的の場所に着いたことを知らせる音が響き、ドアが鈍く開く。
「…着きましたよ、出ないんですか?」
 ドアが開いても出ようとしない草間武彦に少し不思議に思いながら巽は声をかける。どうやら考え事をしていたようでドアが開いた事も気がつかなかったようだ。
「あ、あぁ…」
 草間武彦は慌てて閉まりかけるドアから飛び出るように出てきた。
 エレベーターから降りて、通路を右に曲がったすぐの部屋が将太郎の部屋だ。
 草間武彦は病室の前でピタリと立ち止まる。
「……草間さん?」
 巽もどうしたのだろうと疑問に思いながら病室に入ろうとする足を一度止めた。
「やはり、キミには話しておいたほうがいいのかもしれない」
 ポツリと草間武彦が呟いた。
「…話す?先生…いえ、門屋さんの事ですか?」
 巽は草間武彦に会ってから、何か彼が将太郎について知っていることを薄々と感じていた。だけど、草間武彦本人が口にしようとはしなかったため、あえてこちらも聞くことはしなかった。
「…相変わらず、カンが鋭いな」
 草間武彦は溜め息まじりに呟く。
「とりあえず、中に入りませんか?何か進展があるかもしれませんし」
 巽の提案で将太郎の病室に入る事になった。
 病室に入ると、どこか鳥肌が立つような感覚に二人は襲われた。病室の中なのだから寒いはずはない。むしろ暖房が効きすぎているくらいだ。
 寒いと感じさせたのは、病室のベッドで半身だけを起こして窓の外を見ている将太郎のせいかもしれない。相変わらずの虚ろな瞳、以前は元気だった印象も今では見る影もない。
「…門屋さんの記憶に進展はなさそうですね」
 そう呟く巽の表情はどこか悲しげにも見えた。草間武彦は少し黙りこんで下を俯いた。
「それで…先ほど草間さんが言った事を聞かせていただいてもいいですか?」
 巽の言葉に草間武彦は壁に背を凭れながら「……あぁ…」と思い出したように呟く。
「…俺は無理に聞きたいとは思ってません、草間さんが本当に話してもいいと判断したのなら…聞かせてください」
 草間武彦の心の中の動揺を読み取るかのように巽が小さく呟いた。そういえば巽は人の感情には人一倍鋭いんだったな、と草間武彦は心の中で呟きながら口を開こうとした。
 その時、病室のドアがガチャリと音をたてて開いた。
「…あ、花を買って来ました」
 入ってきたのは病院に入る前に一度、花を買うからと言って別れた青年だった。
「…もしかしてお話になられるんですか?」
 青年が問いかけてくる。草間武彦はその問いかけに対して「…あぁ」と短く言葉を返した。
「草間さんが話すと決められたのなら何も反対はしませんよ」


「実は――……」

 そして、草間武彦の口から語られる。
 門屋・将太郎に起きたあの日の出来事を…。


 END