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<白銀の姫・PCクエストノベル>


『眠りの霧』


「兄さん、じゃあ、行ってきます」
「ああ。気をつけてな」
 草間武彦は心配そうな顔で妹の草間零と綾瀬まあやを見送った。
 実しやかにネット上で囁かれている都市伝説『白銀の姫』。しかしそれは実在した。
 彼自身もそのゲームにアクセスし、実際に『白銀の姫』、ゲーム世界アスガルドに立った事がある。
 邪竜クロウ・クルーハの復活。不正終了。そして再起動。その際における一般人の死。
 ゲームの事などはどうでもいい。だが一般人の死だけはほかってはおけなかった。
 そしてそのアスガルドにおいて起こっている異常事態。ゲームに入った勇者(能力者)たちがゲームからログアウトしてこなくなったのだ。
 その異常事態をうけて草間武彦はアリアンロッドの勇者たる零をゲームに送り込むことに決めた。彼女のサポート役として綾瀬まあやを同行させて。
 本来ならば武彦自身とそして彼と共に多くの怪事件を解決してきた有能なる仲間たちと共にアスガルドへと行きたかったのだが、それは零によって止められた。切り札は取っておかなければならないからだ。ゲーム内で何が起こっているのかわからない以上……。
 しかしその零すらも戻っては来なかった。
 ………。



 シュライン・エマは下唇を噛みしめた。
 電源をいれたままのパソコンを見つめる以外何もできない事を悔しく想う。
 大切な妹同然の零がアスガルドから帰って来ない。それが辛くない訳がなかった。
 心配だし、彼女を見送るしかなかった事も身を切るほどに辛かった。
『シュラインさんは兄さんについててください。中で何が起こっているかわからない以上、もしもの時は皆さんをとりまとめて指揮する人が必要です。その役目は兄さんだと想うから。だからそのサポートをお願いします』
 そうシュラインに囁き、にこりと笑いながらゲームに入っていった零。
 それから三日が経ち、しかし零からは何の音沙汰も無いままだった。
 ―――何かが起こったのだ、零にも。
 シュラインは前髪を掻きあげながら横目で武彦を見た。
 おそらくは寝ていないのだろう。武彦の顔色は悪くやつれているように想えた。
 デスクの上の灰皿には煙草の吸殻の山。普段から彼の煙草の数量は多いが、この三日でその量は何倍にもなっていた。
 武彦は苛ついたように紫煙を吐き出しながらまだ半分ぐらいの煙草を灰皿に捨てると、新しい煙草を求めてくしゃくしゃくの煙草の箱に手を伸ばし、新たな煙草を口にくわえた。しかし苛ついた感情か眠っていないせいか彼の指は思う通りに動いてはくれないようでライターの火を上手く点ける事ができないでいた。
 腕組みしながらシュラインはその光景を見ていたが、小さく溜息を吐くと、彼の手からライターを取り上げた。
「吸いすぎよ、武彦さん。それから少し寝た方がいいわ。私がここにいるから」
 そう諭すように言うと彼は苦笑を浮かべた。
「だからって寝られると想うか?」
 シュラインは肩を竦める。
「無理でしょうね。でもだからって」
「ああ、わかってるよ。わかっているが、どうにもなるようなものじゃない。せめてゲーム内で何が起こったのかわかればな」
「ええ。だけど煙草はもうダメ。心配で苛つく気持ちは理解できるけど、だからって武彦さんがそのせいで体を壊したら零ちゃんが戻ってきた時に哀しむわ。それに武彦さんにはリアルに残ってる皆を取りまとめて、この異常事態を解決するための役目がある。今、武彦さんに倒れられては困るのよ。ごめんなさいね」
 少々酷だが、しかしそれが本音なのだ。武彦にはやるべき事がある。
 それだけ言って目を逸らしたシュラインのデスクの上に置かれていた手の上に武彦は手を重ねた。
「すまんな、シュライン。いつも。感謝してる」
 わずかにシュラインは両目を見開き、その後にくすりと小さく微笑んだ。
「何よ、武彦さん。急に?」
 手は重ねたまま今度は武彦が目を逸らす。
「いや、いつも想っていたが口には出せなくってな」
 ――それにこういう時だからこそ、シュラインの存在の大きさがいつも以上に感じられる。
「いえいえ。ああ、でもそういう言葉、これからもたまには聞かせてよね。普通の日常の中で」
 気まぐれでお手伝いした悪戯っ子の息子に母親が言うような感じでそう言ってやると武彦は苦笑を浮かべた。
 表情でごまかすような彼にシュラインは小さく溜息を吐きながら肩を竦めて、それからくすりと笑った。
「あの草間さま、シュラインさま。お茶が入りました」
 ふわりとした和やかなシュラインと武彦の空気が興信所内に張り詰めていた重苦しい緊張を和らげたのを見計らったように鹿沼・デルフェスは3人分のお茶が乗った盆を持ってデスクの前にやってきた。
「すまんな」
「ありがとう」
「いえ。お口にあうと嬉しいです」
 そして3人でお茶を飲みながら、件の事件の事について話し合う。
 しかしどうしようもなく情報が足りずに、3人は小首を傾げるだけだった。そしてそこに興信所の玄関のブザーの音が鳴り響くのだ。
 シュライン、デルフェス、そして武彦の3人は顔を見合わせた。
 そしてその来訪者こそがこの状況に光を指す者であった。



 +++


 おやすみなさい、勇者たちよ。
 その眠りは永久の眠り。
 力無き者たちはそのまま眠りなさい。
 目覚めし者は力在りし者。ならばその力、奮いなさい。
 この不正プログラム、眠りの霧を発生する誘いの塔を破壊しなさい。
 それはアリアンロッドの意思。彼女はこの世界の維持を望む。
 アリアンロッドの勇者の役目は私の意志の阻止。私は世界の変革を望む。
 これは私の起こしたイベント。世界を変革する為のイベント。
 ならばそれはあなた方アリアンロッドの勇者の仕事である世界維持のための戦いの理由となる。
 ねえ、そうでしょう、アリアンロッド?
 そしてモリガン、私はあなたに勇者として選んでもらえなかったけど、こうして私はあなたの邪魔をしようとする愚かな他の勇者たちを眠らせて、あなたの意志を守ってあげる。私は勇者ではなく、憎きアリアンロッドの勇者たちの敵として、このゲームに参加してあげる。
 そうする事で私のあなたへの愛を証明してあげるよ。



「これはどういう事なの?」
 ゲーム世界アスガルドを包み込んだ霧。
 その霧を吸い込んだ瞬間、誰かの声が聞こえた。
 そしてその声を聞いたと想った瞬間に、若見里子は強い眠気に襲われたがそれだけだった。
 激しい頭痛に襲われながらも彼女は深い霧の中で昏睡状態となってしまった仲間たちを身を切るような想いをしながらそのままにして1人、ログアウトして現実世界に戻ってきた。
 そのまま彼女は自室で倒れ、家族に発見されて、病院へと運ばれた。
 それから数日後、病院を退院した若見里子が訪れたのは草間興信所であった。
「あなたが零さんのお兄さんですね?」
「ああ。それでアスガルドはどうなっている? 勇者となれる能力者たちは自由にゲームを出入りできるはずだ。だが数日前を境に誰もゲームから出てこなくなった。その異常に気付きゲームに入って行った奴らも戻ってこない。いったい何が起こっている?」
 草間がそう問うと、里子はこくりと頷いた。
「霧です」
「霧?」
「はい。何者かは『眠りの霧』と言っていました。その霧を吸い込むと、深い眠りに襲われるんです」
「………。では、おまえはどうして戻ってこられた?」
「…私は眠らなかったんです」
「なに?」
「理由はわかりません。でも激しい睡魔には襲われましたが、眠らなかったんです」
 ぴぴぴぴと音が鳴った。
 里子は草間に断って鞄の中からピルケースを取り出して、薬を飲んだ。
「大丈夫か?」
「あ、いえ、これは今回のゲームのせいじゃなくって、私は先天性の免疫不全なんです。ですからこうやって薬を飲まないといけなくって」
「そうか」
 草間は頷くと、電話で仲間たちに連絡を取った。
 とにかくなんとかしなければならない。零や他の者たちのために……。



 電話をかける武彦の姿を見つめながらシュラインは凛とした爽やかな笑みを浮かべながら頷いた。
 3日ぶりの力強い武彦の姿が彼女に力をくれたのだ。これまでは自分だけでもしっかりとしなければ、と気丈に振舞っていたが、しかし武彦の顔に完全に生気と力強さが戻った今、シュラインも彼のその表情に力を与えられ、もう何の恐れも無かった。
 武彦の下に集まる仲間たちの力になる、それをすれば必ずやこの事件も解決するはずだ。これまでのように。だからこそ――
「私はこれまで通りに皆のサポートをする。そして絶対に助けてあげるからね、零ちゃん」
 それがシュライン・エマのスタイル。力強さ。



 ――――――――――――――――――
【第一章 ログイン】


「さてと、皆揃ったな」
 草間武彦は興信所に揃った皆を見回して頷いた。
 そして皆の前に熱い湯気を昇らせるお茶を出した鹿沼・デルフェスに視線をやる。
「デルフェス、ありがとう。おまえも席に着いてくれ」
「はい」
 お盆を膝の上に置いてデルフェスもソファーに座った。
「それで今回の事件の事についてわかった事って?」
 羽角悠宇は草間武彦に身を乗り出させてそう訊いた。彼には余裕が無い、そんな感じだった。
 悠宇がゲーム内にいる友達の事で気に病んでいる事はそこに居る全員が知っていた。
 だからセレスティ・カーニンガムは諭すように悠宇の肩に手を置いた。
「キミが助けられなかった友人を想う気持ちはわかります。が、だからといって平常心を失えば次に今回の事件を起こした敵の手に堕ちるのはキミだ。まずは落ち着く事です」
「そうよ、悠宇君。まずは落ち着いて。デルフェスさんが煎れてくれたお茶はとても美味しいから、きっと心が落ち着くはずよ」
 悠宇の前に座っているシュライン・エマはお茶を飲んだ後にほやっと微笑んだ。
 かすかに顔を赤くして悠宇は頭を下げる。そして自分の前に置かれている湯飲みを手に取ると、熱いお茶を口にした。そしてシュラインの横に座るデルフェスの方を見て、微笑む。
「すごく美味しいです」
「ええ。ありがとうございます、悠宇様」
 そうだ、まずは落ち着かねばならないのだ、皆は。
 今回の事件の概要がわかったからこそ、冷静な眼でそこにある隠れた敵の意図を見抜かねばならない。
 少々我を無くしていた悠宇だが、しかしその彼が皆に落ち着いてみせたので皆も新に気持ちを締め直し、草間興信所には良い意味での緊張感が広がった。
「それで草間氏。今回の事件でわかったという事は?」
 セレスティに促され武彦はこくりと頷き、口を開こうとするが、ふいに眉間に皺を刻んだ。
「大丈夫、武彦さん?」
 わずかにソファーから身を浮かせてそう問うシュラインに武彦は無理やり笑って見せた。
「ああ、大丈夫だ。少し眩暈がしてな」
 眉を寄せるシュラインに武彦は心配無いと手を横に振った。
 セレスティはデルフェスとシュラインを見る。
「お二人も先ほどまでこちらに居た若見里子という女性から話を聞いているのですよね? ならば貴女方から話をお聞かせくださいますか?」
「はい、ではわたくしがお話します」
 デルフェスはこくりと頷き、そしてシュラインを見る。
 彼女の視線の意味に気がつきシュラインはありがとう、と唇を動かすとソファーから立ち上がって給湯室の方に向った。蛇口を捻る音と水の音。戻ってきたシュラインの手には濡れたハンカチと薬(パッケージの模様から見ると栄養剤だろう)があった。
 疲労がピークの武彦の方はシュラインに任せるとして話も進めねばならない。セレスティはデルフェスに視線を向け、デルフェスも頷いた。
 記憶を反芻させるかのように深呼吸するデルフェスを見て悠宇も座りなおした。
「先ほどこの草間興信所を訪れました若見里子様の話はこうでした」
 そしてデルフェスは彼女が話した内容を一字一句間違わず省略せずに口にした。
 その内容に悠宇は腕組みをして小首を傾げ、セレスティは顎に手をやった。
「どうして彼女だけ眠らなかったのだろう? それにその霧に包まれた時に聞こえてきた声というのも気になる。【眠りの霧】に【誘いの塔】か…【誘いの塔】……」
「とにかく今は【眠りの霧】への対処法を模索する方が先ですか?」
「他の勇者と里子さんの違いよね」
 シュラインは武彦に飲ませた薬の瓶を閉めながら両目を細める。
 デルフェスは小さく吐息を吐いて、シュラインを見た。
「里子様ご自身もどうして眠らなかったのかわからない、と申されていましたよね?」
「ええ」
 悠宇はソファーの背もたれに身を預け、前髪をくしゃっと掻きあげる。
「だけど絶対に彼女には【眠りの霧】の効果から逃れられた理由があるんだ。それさえわかれば。身体上の理由とか精神上とかそういうのが原因とか。くそぉ」
 身を起こし左の手の平を右の拳で打った悠宇。
 その彼の言葉を聞いてシュラインとデルフェスは顔を見合わせる。
「そういえば彼女は薬を飲んでいたわね」
「薬?」
 顎に手をやりながらシュラインが口にした言葉にセレスティが目を細める。
 デルフェスは頷き、何やら思考しだしたシュラインに代わって答える。
「はい。里子様は薬を飲んでおられました。彼女は先天性の免疫不全なのだそうです。それでその薬を飲んでおられました」
 そこまで言うと彼女は瞼を閉じた。中世時代のとある国の王女をモデルに作られたという彼女のその表情は本当に美しかった。
 沈黙し思考に耽る彼女はまるで精緻な彫刻かのようだ。
 しずかに瞼を開き、彼女は想った事を口にした。
「里子様が眠らなかったのは薬を服用なされていらっしゃったからでは。その薬に精神を高ぶらせる効果があって眠気が抑えられたのでは? アスガルドに赴く前にカフェイン飲料を飲めば、同様の効果を起こす事も可能かも」
 デルフェスは皆を見回した。
 セレスティはこくりと頷く。
「そうであるかもしれません。里子嬢だけが助かったのは、ノンレム睡眠とレム睡眠のせいかと。なるほど、薬のせいでそうなったのかもしれませんね」
 そして言い終えるとセレスティは軽く肩を竦めた。
「まあ、霧は水です。ならば私の能力で対処できるとも想いますし」
「はい。俺も自分の能力で対処できると想います。セレスティさんのようなクエスト級の能力ではありませんが、それでも俺も風を起こす事はできますから。もしくは逆に炎系の能力者に手伝ってもらうとか。でも薬を何か飲めば…リアルで作られた薬を口にして挑めば大丈夫なんじゃないでしょうか?」
 悠宇は言って頷く。
「だけどちょっと待って」
 今まで思考していたシュラインが口を開いた。
 皆が武彦の横に立つ彼女を見る。
「たしかに 里子さんの常用薬成分が霧の効果を打消した可能性もあるわね。ただ、ゲーム世界に現実世界で服用した効果が現れるのか分からないけれど、自律神経系等に影響のあるものだったならありうるのかしら。もしくはゲーム世界では通常免疫の状態で、それプラス免疫不全用の薬を服用してた状態になったから? うぅん決め手にかける…。反対に抵抗がなかったから昏倒しなかった…のかも。どうかしら?」
「ふむ。たしかにそれもありますね。免疫不全、という身体的理由のせいで彼女に霧の効果が無かった。なるほど、確かにそうかも。【眠りの霧】が発生した日に薬を飲んでいたのが里子嬢だけとは限らない。なのにログアウトできたのは彼女のみ。だったらその可能性が強いですね、シュライン嬢」
「ええ」
「ですがそうなるとわたくしたちはやはり『白銀の姫』にはログインできないと?」
 深刻そうな表情をしたデルフェスにセレスティは顔を横に振った。
「いえ、だったら私の血流を操る能力で血流を操作し、体の機能を最大限にまで落として一時的な状態を作ってやればいい」
 悠宇はぱちんと手を叩いた。
「決まりですね。これでログインできる」
「ですが次なる問題は【誘いの塔】ですわよね。わたくし、アリア様に色々と『白銀の姫』について聞いていますけど、その【誘いの塔】は今日初めて聞きましたわ」
 悠宇が手を上げた。
「あの、俺はその塔かもしれない情報を事件が起こった日に聞きました」
 自分に集まった視線に悠宇はこくりと頷く。
「俺が一緒に『白銀の姫』をプレイしていた小学生が口にしていたんです。黒崎潤も知らない場所があるって。それはアヴァロンではないそうです」
「なるほど。そうなると【誘いの塔】は前回までの『白銀の姫』には存在しなかったという事ですか」
「そうなりますわよね。声によれば【眠りの霧】はその【誘いの塔】から発生しているという事ですし。でしたらその小学生が事の真相を知っているのかも?」
 シュラインはどこか戸惑っているようにも見える悠宇に視線をやる。
「悠宇君。その小学生の名前は何と言うの? もしも名前がわかるのなら【転移の羽根】でそこに行けるかもしれない」
 なるほど【転移の羽根】とはゲーム内で出会った人の名前をこの羽根を持ちながら口にすれば、その人のもとへ一瞬で行けるアイテムであるから、まだその小学生がそこに居るのなら自動的に【誘いの塔】へ行けるし、もしもその小学生がそこに居なくっても【誘いの塔】の情報は得られる。
 しかし悠宇は顔を横に振った。
「すみません。俺は名前を知らないんです」
「そうか。いえ、いいわ。気にしないで」
 シュラインは優しい笑みを浮かべながら頷いた。
「その小学生は被害者なのでしょうか。それとも被疑者?」
 小首を傾げるデルフェス。
 沈黙する皆。時計の秒針の音だけが静かに部屋に響く。
 その沈黙を悠宇の重い声が壊した。
「わかりません。ただ彼にとってはあの世界が居場所である事だけは確かです。だから彼はあの世界の不正終了を解決しようとする動きを嫌っていました」
「そうですか」
 セレスティは軽い溜息を吐きながら言った。
「荻原君のような子も居るのですね」
「荻原、様ですか?」
「ええ。己の思考の停止を嫌った男です」
「己の思考の停止? つまりは死を?」
 小首を傾げるシュラインにセレスティは小さく微笑みながら頷いた。
「とにかく行ってみませんか? 【眠りの霧】さえクリアできれば【誘いの塔】への道が開けると想います。声がそう言っているんですから」
 両手を強く組みながら悠宇は言って、頷いた。
「そうね。【誘いの塔】という名なら誘われた人物だけが行けるのかもしれない。それがアリアちゃんが探している創造主が前もってプログラムしたイベントなのか、モリガンを崇拝する何者かが作り上げたイベントなのかわからないけど。しかし眠りはある意味停滞でもあって…モリガンの望む変革とは到底相容れないんじゃないか、そんな印象を持つのだけど…。まあいいわ。霧に出会った瞬間に声が聞えないか注意しておく方向で考えましょう」
 シュラインは皆を見回し、皆も頷いた。
「これはきっとモリガン様の勇者が起こしているイベント。哀しい事です。ですからわたくしは同じモリガン様の勇者としてこの方を止めたいと想います」
 デルフェスはそう言いながら立ち上がり、そしてコーヒーメーカーのコーヒーを人数分のカップに注ぎ、配った。
 セレスティは手渡されたコーヒーカップを傾けてそれを飲み干す。喉から胸へと流れ落ちた温かみにセレスティは満足げに頷き、そして杖に手をついてゆっくりと立ち上がった。
「それでは『白銀の姫』の中へと行きましょうか。良いですか、皆さん?」
 セレスティの問いに皆は頷き、そしてセレスティは武彦へと視線を向ける。立ち上がろうとした彼に穏やかに微笑んだ。
「いえ、キミはここでお留守番ですよ」
 さらりとそう言ってやると武彦は睨んできた。だがそれを受け流しセレスティは指をぱちんと鳴らす。転瞬、武彦は気を失い倒れるのだ。血流操作だ。いかに怪奇探偵草間武彦でもここ3日間ずっと眠っていなかったのと零を心配していたのが祟って予想以上に弱っていた。
 シュラインは横から武彦を支え、
 反対側から悠宇が武彦に手を回す。
「ありがとう、悠宇君」
「いえ」
 二人で武彦をソファーに寝かし、デルフェスは持ってきた毛布をそっと武彦にかけてやった。
「それでは行って来ます。キミが起きるまでには零嬢を連れて帰ってきますから、それまでは良い夢を見ていてください」
 セレスティ、ログイン。
「行って来ます、草間様。わたくしたち、がんばりますからね。ですから、ご安心してお休みください」
 デルフェス、ログイン。
「ええ、俺たちだけで必ずこの事件、解決してみせますから。白露、おまえは草間さんを見ててくれ」
 悠宇、ログイン。
 そして最後に残ったシュラインはポケットに入れていた武彦のライターに指を触れて、だけどそれをポケットから取り出すことはせずに代わりに眠っている武彦の前髪を丁寧に掻きあげて額に唇を当てた。
「ライターはお守りとして貸しておいてね、武彦さん。それじゃあ、行ってくるわ」
 シュライン、ログイン。
 こうして勇者たちは『白銀の姫』に旅立った。



 ――――――――――――――――――
【第二章 レベル99の敵】


 おやすみなさい、勇者たちよ。
 その眠りは永久の眠り。
 力無き者たちはそのまま眠りなさい。
 目覚めし者は力在りし者。ならばその力、奮いなさい。
 この不正プログラム、眠りの霧を発生する誘いの塔を破壊しなさい。
 それはアリアンロッドの意思。彼女はこの世界の維持を望む。
 アリアンロッドの勇者の役目は私の意志の阻止。私は世界の変革を望む。
 これは私の起こしたイベント。世界を変革する為のイベント。
 ならばそれはあなた方アリアンロッドの勇者の仕事である世界維持のための戦いの理由となる。
 ねえ、そうでしょう、アリアンロッド?
 そしてモリガン、私はあなたに勇者として選んでもらえなかったけど、こうして私はあなたの邪魔をしようとする愚かな他の勇者たちを眠らせて、あなたの意志を守ってあげる。私は勇者ではなく、憎きアリアンロッドの勇者たちの敵として、このゲームに参加してあげる。
 そうする事で私のあなたへの愛を証明してあげるよ。


 ログインして、ゲーム世界『白銀の姫』にてそれぞれのPCとして具現化された四人。その彼らの視界に一番最初に入って来たのは一面ホワイトアウトしたような霧の白だった。
 霧は濃密に水分を孕んでいた。飽和しきれないほどの水分はまるで皆に自分が水の中にいるような錯覚を覚えさせた。
 霧は口や鼻、肌の毛穴から染み込んで、体を汚染していく。
 激しい眠気は頭痛を伴った。
 このまま誘われるままにまどろみの海に沈んでしまえば楽になれる、そんな誘惑にかられる。
 まるで霧は肺を満たし、溺れているような………
 ―――――セレスティは十字架の錫杖を高らかにかかげた。
 転瞬、セレスティを中心に半径10キロ以内の霧が晴れていく。
 シュラインはその場に両膝を付き、彼女にデルフェスが駆け寄った。
「大丈夫ですか、シュライン様?」
「ええ、なんとか。だけど本当にすごい頭痛」
 苦笑するシュラインにデルフェスも頷いた。
「まるでテスト週間の朝に戻ったようですね」
 つい先週までテスト週間だった悠宇は辟易としたように言う。試験日の朝はいつも徹夜明けでこんな風に頭痛を感じていた。
 セレスティは片手の手の平の上に水を乗せながら皆を振り返った。
「霧と言えども元は水。故に私の能力で支配できる。その考えは間違いではありませんでした。ただしやはりただの水ではありませんでしたがね」
「あの霧、魔力の匂いがしました」
 錬金術と魔力は似て非なるモノであるが、それでもこの四人の中では彼女が一番にそれに気付けたようだ。
「誰かしらの魔術だというの、あの霧は?」
 デルフェスに礼を言って自分自身の力で立ったシュラインは髪を掻きあげながら小首を傾げた。
「魔術と言うか、何と言うか…」
 セレスティは考え込む。
 そして彼はデルフェスを見た。
「どちらかと言うとこれは錬金術の部類なのかもしれませんね」
「え?」
 セレスティは手の平の水をデルフェスに見せた。
 そしてそれを見たデルフェスが口を片手で覆う。
「これは何ですか?」
 悠宇も横からセレスティの手の平の上の水を覗き込み、そして顔をしかめた。
「スライム? だけどさっきまでは確かに水だったのに…」
 セレスティはこくりと頷く。
「物質変換。これは明らかに生物なのですよ。おそらくは錬金術…ひょっとしたら科学によって作られた人工生命体なのかもしれませんね」
「じゃあ、えっと、つまり【眠りの霧】は?」
「霧状になっているこの人工生命体が人体に入って、人を眠らせる」
 シュラインはとても嫌そうな表情をした。それが自分の中で活動してる姿を想像してしまったのだろう。
「この世界にある私たちの体は生身であって、生身ではない。確かにリアルからこのゲームの中に私たちは入り込んだのですが、その瞬間に私たちの体もこの世界がネット上で構成されているようにデータ上の体となっている。つまりこれはウイルスと同じなのですよ。データの中に入り込んでそれを書き換えるね。とても精密な人体というデータを書き換えるウイルス」
「つまりそれではシュラインさんの考えが正しかったのでしょうか? データを書き換えるウイルスはイレギュラーであった免疫不全の里子さんの体に対応できなかった」
 デルフェスは顎に手をやりながら言って頷く。
「だけどそれだったらどうすれば皆を助けられるんです? 人体のデータを書き換えられているなら、それを治さないと。だけどそんな事ってどうやったら…」
 悠宇は顔を横に振る。
 しかしデルフェスはあっ、と声をあげた。
「ウイルスだったら…」
 それに悠宇も気付いたようだ。顔を片手で覆う。
「ワクチンを作ればいい。だけどどうやって?」
 悠宇はセレスティを見た。
「ワクチンを作るにしてもこの【眠りの霧】のデータを得る必要があります。しかしそれは難しいでしょうね。おそらくこれを作った者は簡単にはそのデータをこちらに渡してくれはしないでしょうし。とにかくやっぱり、【誘いの塔】に行かないとダメみたいですね。声はそこを壊せば、解決するような事を言っていたのだし」
「そうね。多分言葉で考えるなら【誘いの塔】を破壊する事で霧は止められる。それだけでも何かが変わるのかも」
「ええ。これが生命であったとしても水であるのであれば、クエスト能力の持ち主である私の前では役には立たない。わざわざ血流操作で身体機能を落とさずとも、もはやあの霧を私たちに近づける事はさせません。このゲームに入った瞬間に私が霧を撥ね退ける力を発する前に私を眠らせられなかった敵の敗北です。だけど問題は…」
「【誘いの塔】がどこにあるかですよね」
 悠宇はバンザイをした。降参だ。
 誰もその場所を知らない。
 だけど……
 そこに居る皆の鼓膜を警戒音が叩いた。敵モンスターがフィールドに現れるという予告だ。
 そして四人の前に甲冑を着込んだ巨人ひとりと、アサルトゴブリン六体が現れる。
 皆の顔に緊張が走った。
「ちょっとモンスターは眠っていないわけ?」
 叫ぶシュラインの前にセレスティが陣取り、十字架の錫杖を構える。
「そういう事らしいですね」
 デルフェスも背中に背負うフランベルジュの剣を鞘から鞘走らせながらアサルトゴブリンに突っこみ、アサルトゴブリンの横殴りの一撃を紙一重でかわすと同時に鞘走らせたフランジュルベの剣撃を叩き込んだ。
 そして続けて後ろから棍棒を振り下ろす新たなアサルトゴブリンを振り返り様に斬り倒す。
 残り四体は悠宇が請け負った。巨大なマシンガンを構えたアサルトゴブリンが銃口を悠宇に照準する。
「手伝いましょうか?」
 穏やかに申し出てくれたセレスティを黒い石の翼で上空高く飛び上がると同時に見下ろして、悠宇はにこりと微笑んだ。
「ありがとうございます、セレスティさん。でも問題無しです」
 悠宇に向けて一斉に弾丸が放たれた。しかし悠宇は唇の片端を吊り上げると同時に翼を羽ばたかせて重力波を発生させて、一瞬で四体を押し潰したのだ。
「さすがは悠宇様。ではあの初めて見る巨人を」
 デルフェスは大地を蹴って高く舞い上がり、そして上段に構えたフランベルジュを打ち下ろした。
 しかしさしものフランベルジュも巨人の体を包み込む甲冑に傷がつけられない。
「くぅ。剣撃が軽すぎる?」
 デルフェスは一端後ろに下がり、
 そしてそこで悠宇が巨人に重力波を叩き込んだ。手加減無しの一撃だ。しかし、彼は両目を見開く。なぜなら巨大なクレーターの真ん中でその巨人は変わらずに居たのだから。
「そんな俺の手加減無しの一撃を」
 巨人は腰の剣を抜き払い、それを力任せに振るった。
「いけない」
 セレスティは叫ぶと同時に十字架の錫杖をかかげた。
 瞬間、水の蛇が悠宇の前にとぐろを巻いて現れて盾となった。
 それで何とか悠宇は危機一髪で巨人の一撃をかわしたのだが、その彼にまた巨人は突きの一撃を叩き込まんとしている。
 十字架の錫杖が振られた。
 数の概念を越える水の弾が巨人を撃つがしかし、その甲冑にはやはり傷はついてはいない。
「馬鹿な」
 シュラインはうめいた。
 デルフェスはシュラインを振り返り、眉根をわずかに寄せる。
 シュラインはゴーグルをかけていた。それは魔法のアイテムだ。敵のレベルがわかるのだ、それで見れば。
「シュライン様、あの巨人のレベルは?」
 そう訊くデルフェスの横に悠宇は舞い降りた。
 そして彼もシュラインを見る。
 シュラインは引き攣った笑みを浮かべた。
「聞きたい? でも聞けば後悔するかもしれないわよ?」
 セレスティはさらに水の弾を叩き込んでいる。
「レベル99よ」
 ほんの一瞬だけ水の弾の攻撃が止まった。そしてその転瞬後に再開されるがしかしセレスティの顔に余裕は無かった。
「馬鹿な。レベル99って、それじゃぁあの巨人は無敵の存在という事になるじゃないですか!?」
 悠宇は叫んだ。
「くぅそぉ。一体何が起きているんだ!?」
 そして黒い石の翼を羽ばたかせて、さらに巨人に重力波をぶつけていく。ただ闇雲に。
 デルフェスもシュラインに引き攣った笑みを浮かべる。
「そのアイテムが壊れているという事は、ありませんわよね?」
 願うように言ったのだろう。しかしシュラインはおどけたように肩を竦めただけだった。
 そしてデルフェスは巨人を見る。
「弱点はどこだと出ていますか?」
「いいえ、それが出ないの。いつもなら弱点も表示されるのに」
 セレスティは肩を竦める。
「敵はプログラムを書き換えれるんです。そのぐらいできて不思議ではありません」
 絶望的だった。
 いや、これはゲームだ。勇者は死んでも蘇れる。しかし………
 ――――もはやこれは勇者ならば安全なゲーム、という訳ではない。だから…………
 それでもデルフェスは前に歩み出した。
「セレスティ様、あなたの水でわたくしをあの巨人めがけて放ってください。このフランベルジュの剣は伊達ではありません。たとえレベル99の相手でも折れる事はありません。軽戦士であるわたくしの軽すぎる、という攻撃の欠点を補えれば、あるいは」
「でもデルフェスさん。敵の攻撃も早いわ」
 シュラインが訴える。
「それは俺が何とかします」
 悠宇が言う。
「俺の重力波であいつの動きを止めます」
 それでもここは逃げた方が懸命なのでは?
 ―――逃げられれば…
 シュラインはそう口にしようとしてしかしやめた。
「わかったわ。じゃあ、皆の回復を」
 シュラインは持っている体力とMPの回復薬すべてを使って三人を治療した。
「ではいきます」
 悠宇が叫ぶ。
 そしてありたっけの力で重力波を見舞って、巨人の動きを封じた。
「ぐぅぉー」
 巨人が咆哮をあげた。ついに敵に苦痛をしいたのだ。
「デルフェス嬢」
「はい」
 デルフェスは全力で巨人に向かい走り、
 その彼女の背目掛けてセレスティは鉄砲水かのような勢いで水蛇を突っ込ませる。
 水蛇がデルフェスの背を叩き、
「タァーッ」
 フランベルジュを突き出して、彼女は光の速さで巨人に突っこんだ。
「ぐぅおぉー」
 速さは巨人の質量と防御力を越えた。
 ついにそれを撃破。
 巨人の体を甲冑ごとフランベルジュで貫いたデルフェスはそのまま力尽きて大地に落ちた。
「デルフェスさん」
 その彼女の横に悠宇は舞い降りて彼女を抱き起こした。
「大丈夫ですか?」
「はい」
 頷くデルフェスに悠宇も嬉しそうに微笑み、
 シュライン、セレスティも見合わせた顔に笑みを浮かべた。
 だが、その四人の鼓膜をまた新に警告音が叩き、そしてその場にレベル99の巨人兵が今度は四体現れたのだった。
 ………。



 ――――――――――――――――――
【第三章 兵装都市ジャンゴでの戦い】


「これとこれ。あとはこれでいいわよね」
 シュラインは籠の中に薬草、栄養剤、水、包帯、薬などを放り込んでいく。
 その後ろを歩くセレスティは唇に拳をあてて買い残しが無いか籠の中身と店の商品棚とを見比べながらチェックしてるシュラインを見つめながら苦笑して肩を竦めた。
 シュラインはセレスティを振り返って小首を傾げる。
「シュライン嬢とショッピングを楽しんだなどと草間氏に知られたら、彼に睨まれそうですね」
 そう言ったセレスティにシュラインも悪戯っぽく両目を細める。
「あら、それはこっちも一緒だわ。私だってセレスティさんとショッピングを楽しんだだなんてあの娘に知られたら怒られそう」
 お互いに唇の前で人差し指を立てて苦笑しあった。
 シュラインは誰も居ないお店のカウンターに財布から出した商品分のお金を置いた。そしてあらためて店を見回す。
「本当に私たち五人以外は誰もいないのね」
「ええ。私、シュライン嬢、デルフェス嬢、悠宇氏、そして…」
「黒崎・潤ね。だけどあの子、本当に圧倒的な強さだったわよね」
 シュラインは肩を竦めてカウンターに腰を下ろすと、買ったペットボトルの蓋を開けてそれに口をつけた。
「彼はこの『白銀の姫』の勇者の中で最強の勇者ですからね」
 そう。あの絶体絶命の場面に現れたのは黒崎・潤であった。



「ちょっと冗談でしょう?」
 シュラインは道具袋に手を入れるがもはや回復剤は無い。
「やれやれですね」
 十字架の錫杖を構えセレスティは肩を竦める。しかし眼は真剣だった。
「やるしかないんですよね。くそう」
 悠宇は立ち上がり、黒い石の翼を広げる。
「ハードですわよね」
 デルフェスはフランベルジュの剣を構えた。
 巨人兵四体は腰の鞘から剣を鞘走らせて、それぞれに向かい剣を振り上げた。
 敵は無敵だ。おそらくは敵わない。そして不正プログラムであるこの敵に倒されて兵装都市ジャンゴで復活できるとも限らない。
 どうすれば!!!
 四人はこの窮地を脱するための方法を目まぐるしく思考を回転させて弾き出そうとした。しかしその思考は止まる。
 何故なら剣を高らかに振り上げた巨人兵全てに、
「ドラゴンソウル」
 凄まじき一撃が叩き込まれ、そしてその一刀の下に巨人兵たちが堕ちたのだから。
「マジかよ?」
 悠宇はその光景に呟き、その場に座り込んだ。
「圧倒的ですわね。あのレベル99の巨人兵をいともあっさりだなんて」
 デルフェスはクラウ・ソナスを鞘に収める黒崎・潤に視線をやり、微笑んだ。
「大丈夫ですか、皆さん」
 潤は皆を眺め、それから回復魔法を全員にかけた。
「しかし驚いたわね。どうしてあなたは、ここに居るのかしら?」
 小首を傾げるシュラインに潤は苦笑する。
「それはこっちの言葉ですよ。皆さんこそどうしてあの【眠りの霧】の中で? ここら辺はどうした事か【眠りの霧】が発生していませんが」
「それはセレスティ様のおかげですわ。わたくしたち、【眠りの霧】の謎を解いて、そしてここにやって来ましたの」
「え?」
 わずかに眉根を寄せた潤にデルフェスは事の詳細を説明した。
「なるほど、【眠りの霧】は生態兵器のようなモノなのか。厄介だな」
「それでキミはやはり【誘いの塔】については知らないのですね?」
 問うセレスティに潤は頷いた。
「前回ではこんなイベントは無かった。だから僕も驚いていたんです」
 そして潤は悠宇を見る。
「しかしその小学生は一体何なのだろうね? 被疑者か被害者か」
「わからない。だけどあいつ、そういえば俺と別れてからすぐに誰かと会っていたようだ。確かゼロとか」
「ゼロ? 知らない名だ」
 潤は首を横に振る。
 しかしセレスティは難しい顔で顎に手をやった。
「どうしましたか、セレスティ様?」
「いえ、何でもありません」
「とにかくジャンゴに行きましょうか、皆さん。ちゃんとした回復をしないと。もっともこの世界に居る人間は僕ら五人だけですが」



 そして兵装都市ジャンゴに来て、回復した皆はそれぞれ次の行動のための準備に動いたのだ。
「だけど潤君。あの子は本当に不思議な子よね」
「ええ。あの強さはもはや完璧です。おそらくは邪竜クロウ・クルーハ並の強さなのかも」
「そう言えば確かあの子は前のゲームで最後までクロウに戦いを挑んでいたとか。今度のゲームではきっと倒せるわよね。不正終了が起きる前に。そしたらこの世界も次なる日を迎えるのかしら?」
「それはわかりません。しかしそうなったらそうなったで次は女神同士が余計に難しい事になりそうですね」
 セレスティは肩を竦める。
「そうね。私もセレスティさんも女神の陣営を決めていないけど、決めてる人たちはどうするのかしらね?」
 シュラインは溜息を吐いた。
「戻りましょうか?」
「ええ」
 二人は店から出た。
 瞬間、二人の鼓膜を警告音が叩く。
「ちょっと、だから冗談でしょう?」
「いえ、やはり冗談ではないようですよ」
 二人の前に現れたのは大群のアサルトゴブリンとそしてジェノサイドエンジェルだった。
 シュラインはゴーグルをかけて敵を見回す。そして溜息を吐いた。
「ジェノサイドエンジェルって上級のモンスターなのにそれがなんだかかわいらしく想えてしまうわ。あのレベル99の巨人兵を見た後では」
 セレスティはくすりと笑って十字架の錫杖を構える。
「やれやれですね」
 マシンガンを構えるアサルトゴブリンども。
 その光景を見つめながらセレスティは錫杖を振るった。転瞬、水の弾丸が放たれたアサルトゴブリンどものすべての銃弾を撃ち落とし、さらには硝煙の霧の向こうに居たそれらもズタボロにした。
「やっぱりセレスティさんは強いわよね」
 シュラインはにこりと笑う。
 両の翼で己をガードしていたジェノサイドエンジェルがその翼を広げてにやりと笑った。
 セレスティは錫杖で石畳を叩いた。瞬間、大地が割れて噴き出した水が蛇となってジェノサイドエンジェルを襲うが、しかしジェノサイドエンジェルもまた笑う。
 翼が脈打つ。そして新に翼に現れた砲から高温の炎が噴き出した。
 炎と水がぶつかり合って、高温の水蒸気が発生する。
「くぅ」
 セレスティが小さくうめいた。最強とも想えるセレスティにも苦手なモノは存在する。それは気温だ。高温は本性は人魚である彼にとっては毒なのだ。
 それを目ざとく見逃さずに口の片端を吊り上げるジェノサイドエンジェル。
「何を笑っているのですか? あなたを直ぐに倒せば済むだけの話です」
 銀の髪に縁取られる美しき美貌に憔悴の色は無い。セレスティは錫杖を振るう。だがしかし、その水は今度もまた蒸発した。一瞬で。
「あれは?」
 空を振り仰いだシュラインの視線の先に居たのは新たなジェノサイドエンジェル。その翼が生み出しているあの武器は???
「強力な光を発するライト?」
 シュラインは舌打ちすると共に身を翻して走り出した。
 そして今までセレスティの相手をしていたジェノサイドエンジェルが翼を羽ばたかせて浮上し、シュラインを追いかける。
「シュライン嬢」
 セレスティが彼女を追いかけるジェノサイドエンジェルに水蛇を放つが、やはりそれは上空のジェノサイドエンジェルの放つ強力な光によって蒸発する。
「しかし」
 きぃっとセレスティは上空のジェノサイドエンジェルを睨みつけた。
「負けるわけにはいきません」
 能力発動。
 ずん、と大気が震えた。
 上空のジェノサイドエンジェルが首を両手で押さえた。そして今にも眼窩から眼球が飛び出そうなぐらいに両目を見開いて、セレスティを睨んだ。
 一方、シュラインを追いかけていたジェノサイドエンジェルの両の翼は高速回転する水の円盤によって斬り落とされる。
 翼を失ったジェノサイドエンジェルは石畳に激突した。
 上空のジェノサイドエンジェルは咆哮をあげて、さらに翼の強力なライトの光量をあげた。
「―――――ゥッ」
「くぅ」
 セレスティは十字架の錫杖を両手で握り締め、その先を上空のジェノサイドエンジェルに向ける。
 ジェノサイドエンジェルは光の攻撃。
 セレスティは血流操作によってジェノサイドエンジェルの全身を流れる血のスピードを上げてやっている。
 どちらが先に敵の攻撃に耐えられずに能力発動を強制解除にされるか?
 この勝負、もはや精神力の問題だ。



 +++


「やれやれ。黒崎・潤には邪魔されたけど、しかしあのイレギュラーな四人はどうやら私が手を下すまでも無くモンスターどもに襲われて、ピンチのようね」
 邪竜の巫女ゼルバーンは鼻を鳴らした。しかし同時に彼女の横顔には憂いのようなモノもかすかに浮かんでいた。
「あの四人。このゲームにあってはならない者だからね」
 ゼルバーンは振り返る。そこには暗黒騎士が居た。
「完全にあなたが目覚めてくれればこのような事をせずともいいのだけど」
 セレバーンは肩を竦める。
 暗黒騎士は口だけで笑った。
「そう。あなたが目覚めれば別に彼ら四人がゼロの意思の下にあの【誘いの塔】を壊そうが関係無い。人形の力をも邪竜クロウ・クルーハの次なる姿であるあなたならば敵では無いのだから」
 そう呟き、ゼルバーンは焦げた空気の匂いを孕む風に揺れる髪を掻きあげた。



 +++


 シュラインは全力で走っていた。ここ兵装都市ジャンゴには各ポイントに武装がされている。その武器を使えば。
 しかし走るシュラインの右足の腿に噛みつかれたような激痛が走った。
 だが足を止めてはいけないと本能がシュラインに警告した。
 彼女は走りながらズボンを指で触れた。すると指先にも痛みを感じる。見ればグローブが溶けていた。
「まさか…」
 シュラインは走りながら振り返った。
 後ろに居るのは例のジェノサイドエンジェルだ。奴はゆっくりと歩いてくる。その背中の翼はほんの少しだけ再生しているようで、そしてそれからは筒状のモノがたくさん伸びていて、それから紫色の霧が発生していた。霧が触れるものすべてが溶けていく。
「酸だって言うの?」
 シュラインは舌打ちした。
 だがその酸はさすがに無限には出せないらしい。
 酸が止まり、代わりにジェノサイドエンジェルはアサルトゴブリンが持っていた銃を発射してきた。
「良い趣味をしてるわね」
 どうやら敵はじわりじわりとシュラインを弄って殺すつもりらしい。
 シュラインは溜息を吐いた。そして手に握り締めていた武彦のライターを見て、くすりと笑う。
 そしてシュラインは走った。
 銃弾は彼女の体をほんの少しずつ削っていくが構わずにシュラインは走った。
 だがついに銃弾がシュラインの左足太ももを撃ちぬいた。
「きゃぁ」
 シュラインは悲鳴をあげて転がった。そして石畳に血の線を引きながら店の中に入っていく。
 それを見つめるジェノサイドエンジェルはにやりと嗜虐的な笑みを浮かべた。
 背中にはほんの少しだけ翼が再生している。それをぱたぱたと羽ばたかせながらジェノサイドエンジェルはシュラインにとどめを刺すべく歩いて店の中に入った。
 デザートイーグル。それがジェノサイドエンジェルが持つ銃の名前だ。州知事にもなったハリウッド俳優はその銃をこよなく愛し、映画の中では片手で自由自在に撃ちまくっているが本来は発射の反動が半端ではなく、間違いなく片手で撃とうものなら手首は捻挫するだろう。しかしジェノサイドエンジェルは片手で店の真ん中でにやりと勝ち誇ったようにほくそ笑んでいるシュラインに銃口を向けた。
 シュラインは肩を竦める。
 何やら白い粉が満遍なく飛び交う中で。
「確かに私には牙も爪も無い。だけどだからって大人しくあんたに殺されてやるつもりはもうとう無いわ。殺るのであれば、あの紫の霧、酸で溶かさないと、あんた、私に逆に殺られるわよ?」
 どういうつもりだろうか?
 シュラインはクールに言った。
 ジェノサイドエンジェルはそして笑う。
 唇が動いた。ならばお望み通りに酸で溶かしてやろう、と。
 瞬間、シュラインの赤いルージュが塗られた唇の片端が吊りあがった。



「シュライン嬢」
 セレスティは上空のジェノサイドエンジェルを睨む目を鋭くした。
 今、ものすごく嫌な予感がしたのだ。
 そしてその転瞬後にシュラインが走っていった方向で大爆発が起こった。



「――――――ッァ」
 ジェノサイドエンジェルが悲鳴をあげた。断末魔の悲鳴だ。
 それもそのはずだ。なぜならジェノサイドエンジェルの翼が燃え上がっているのだから。
 炎は翼から体へと燃え広がっていく。
 だがしかし一体何が起こったのだろうか?
 シュラインは肩を竦めてクールに自分を血走った剥き出しの目で睨むジェノサイドエンジェルに説明してやる。
「この店で売ってるのは消石灰よ。消石灰ってのは強アルカリ。そしてあなたが得意がって馬鹿みたいに発したのは酸。アルカリと酸は触れ合えば強力な熱を発する。考えればわかる事だわ」
 どろどろに体が高温で溶けながらもそれでもジェノサイドエンジェルはデザートイーグルを持つ右腕をあげて、銃口をシュラインに照準すると同時にトリガーを引いた。
 ガゥン。凶暴な肉食獣の咆哮かのような甲高い暴力的な銃声があがるが、しかしジェノサイドエンジェルの右腕は明後日の方向を向いていた。熱で溶かされていく体が発射の反動に耐えられなかったのだ。
「あなたの終わりよ」
 シュラインはそう宣言をした。
 そして………
「―――――ァツア」
 ジェノサイドエンジェルは悲鳴をあげて、
 自爆した。



「くぅ、シュライン嬢」
 だがセレスティは動けない。
 動けば力の均衡が崩れる。ならばどうしろと???
 しかしここで予想外の事が起きた。


 ガシュゥーンッッッ!


 強力な砲台の一撃が上空のジェノサイドエンジェルを穿ったのだ。
「ならば」
 そしてその衝撃によってセレスティに当てられていた強力なライトの光が逸れた。
 それならばもはやセレスティの相手ではない。
 セレスティは十字架の錫杖を振るった。
「キミは少々調子に乗りすぎました。その罪はいささか重いですよ」
 八つの頭を持つ水の竜が石畳を突き破って現れる。地下水路を流れる水が迸ったのだ。
 一つ目の水の竜の牙がジェノサイドエンジェルの左の翼を食い破った。
 二つ目が右の翼を。
 三つ目は左足。
 四つ目は右足。
 五つ目は右腕。
 六つ目は左腕。
 七つ目は矢となって体を貫いた。
 そして八つ目の水の竜は鋭すぎる牙を剥き出しにして、ジェノサイドエンジェルの首を噛み切った。



 それを砲台の横で遠目に眺めながらシュラインは大きく安堵の溜息を吐いた。
 そして【転移の羽根】を取り出してセレスティの名前を口にする。
「シュライン嬢、大丈夫でしたか?」
 移動してきたシュラインにセレスティは声をかけた。
「ええ。余裕よ」
 シュラインは肩を竦めながらにやりと笑った。
 セレスティも穏やかに笑いながら頷く。
「私も余裕でした」
「ああ、だけど潤君からもらったせっかくのレアアイテム【身代わりの形代】を失ってしまったのは痛かったわ」
 そうなのだ。一度だけすべてのダメージを受け取ってくれるそのアイテムのおかげでシュラインはジェノサイドエンジェルの自爆のダメージを受けなかったのだ。
「まあ、とにかく皆と合流しましょう」
「ええ」



 ――――――――――――――――――
【第四章 誘いの塔へ】


「皆さん、お会いしたかったです」
 三下忠雄は全員を見回すとえぐえぐと泣き出した。
「まあまあ三下君。あなたこそ無事でよかったわ」
 シュラインは苦笑を浮かべながら三下にハンカチを渡した。
 そして悠宇に視線をやる。
 悠宇は下を俯いていた。
 セレスティは小さく溜息を吐き、そして視線を噴水の上にあるゲートに向ける。
 デルフェスも同じようにゲートに視線をやった。
「あそこが【誘いの塔】への扉、なんですね、セレスティ様」
「はい、おそらくは」
 そしてセレスティは三下と悠宇を見た。
 悠宇がその視線を感じたのか顔を上げる。
「大丈夫ですか、悠宇様?」
「ええ。大丈夫です」
 悠宇は頷くと、おもむろに立ち上がって、噴水の中に入った。
 ちょうど噴き上げた噴水の水が悠宇を打つ。
 頭から水を被った悠宇は頭を振って雫を飛ばすと、噴水から出て、皆を見回した。
「俺はデルフェスさんと一緒に例の小学生、真田雪人に会いました。彼はゼロという奴に言われて俺たちを迎えに来たんです。でもあいつは俺だけを最初は連れて行こうとし、次にあいつを叱った俺を殺そうとして、それでゼロに殺されました」
「きっとその子は本当に悠宇君が好きだったのね」
 シュラインは小さく呟いた。
 悠宇は泣きそうな表情を浮かべた。そして俯いて続ける。
「ゼロという奴は俺たちに【誘いの塔】を壊してもらいたがっています。雪人はどうやらそれができなかったようです」
 デルフェスは横から悠宇を抱きしめた。そしてそっと彼の頭を撫でてやる。
 三下はシュラインから渡されたペットボトルの水を一息に飲み干すと、口を手で拭って、そして口を開こうとしたその瞬間に、しかし三下の前にモリガンが現れた。
 モリガンはゆっくりとセレスティ、シュライン、悠宇を見て、自身の勇者であるデルフェスににこりと微笑みながら髪を洗練された動きで掻きあげると麗しい唇を滑らかに動かせた。
「まずは今回の【眠りの霧】事件。これには私は関係無いわ」
 デルフェスは胸の前で両手を合わせてにこりと微笑む。
「それからあなた方を襲ったあのレベル99の敵。あれはね、また違う敵が放った刺客」
 セレスティが小さく溜息を吐く。
「そしてこのゲートの向こうにある世界。そこは私たち女神ですら認知できないもうひとつの『白銀の姫』の世界よ」
 シュラインがわずかに両目を細めた。
「それでは一体あのゲートの向こうに広がる世界は何なの?」
 モリガンは頷いて、シュラインの質問に答える。
「あの向こうに広がる世界はこの『白銀の姫』と同じゲームであって、同じでない物。かつて創造主は邪竜クロウ・クルーハを倒した後の展開として邪悪なる魔術師を用意していたの」
「魔術師? それがゼロ?」
 悠宇はうめいた。
 しかしモリガンは顔を横に振る。
「半分正解で半分不正解。魔術師はまだ作られてはいなかった。当然だわ。この世界だってまだ不完全なままだったのですものね。そしてそのイベントは実は創造主は気に入らなかったようでゲームに取り入れるのはやめられたのよ。それで途中まで作られていたイベント【誘いの塔】…魔術師の実験場での戦いはネットに存在するデータのジャンク置き場に破棄された」
「つまりはゼロという人がそのデータをこの世界に取り組ませたという事ですか、モリガン様?」
 モリガンはお気に入りの小鳥を愛でるような顔でデルフェスを眺め、頷いた。
「その通りよ。ゼロは私に恋をしている。あの【眠りの霧】とは塔に仕込まれているギミックなの。それに耐えられた勇者のみが邪竜クロウ・クルーハをも倒せるほどの力を持つ【魔力の結晶人形】を手に入れられる。ゼロはね、それを勇者に与えて、邪竜クロウ・クルーハを討たせるつもりなのね」
「なるほど。しかし私たちはデルフェス嬢を除いて、あなたの陣営に所属する勇者ではない。その勇者に力が渡ればあなたはどうするつもりなのですか? あなたは、他の女神は、そしてゼロとやらは」
 クールに問うセレスティにモリガンは肩を竦める。
「だからここに現れたの。どう、あなたたち、私の勇者にならない? あなたたちならば人形を倒して、人形に自分をマスターとして認めさせる事ができる」
 シュラインは顎に人差し指をあてて小首を傾げた。
「残念だけど、私は冒険者という事でどの女神陣営にも属さない事にしているの」
「俺もです。俺も設定は義賊。だからこそどの陣営にも属さないでやりたい」
 悠宇も頭を振る。
「私はもう少しあなた方女神を見定めさせていただきます」
 セレスティもそう言いきった。
 モリガンはくすくすと笑って肩を竦めた。
「それは残念ね。だったらここでデルフェスと三下以外のあなた方には死んでもらおうかしら?」
 デルフェスは目を見開いた。
 そして両手を広げて皆の前に立つ。
「モリガン様。皆様はわたくしの大切な仲間なのです。それだけはどうかおやめください」
「ぼ、僕からもお願いします」
 三下はぺこぺことモリガンに頭を下げた。
 その二人の姿にモリガンは肩を竦める。
「冗談よ」
 ………本当だろうか?
「それに今のレベルのあなた方二人を送っても、魔力の結晶人形は倒せない」
 言い切るモリガン。皆は絶句した。
「だって魔力の結晶人形はあの邪竜クロウ・クルーハよりも強いのだから」
「でしたらどうすれば、モリガン様?」
 そう問うデルフェスにモリガンは頷いた。
「ええ。だからこそ今回に限り私たち四人の女神は零と雫に説得されて………勇者のみ協力させる事にした。今の人形は倒せないけど、それでも私たちの力によってそれを四等分にする事はできる。そしたら倒す事も可能だわ」
「やれやれですね」
 セレスティは溜息を吐いた。
「確かにどの女神の陣営にも力が入るわけですしね」
「ええ。そして皆はそれぞれの目的のためにその力を欲している。零、嬉璃、雫はそれぞれの女神の守護を受けて、もうあちら側に行ってるわ」
 皆の視線が三下に集まり、彼は頭を掻いた。
「だって怖いじゃないですか」
「「「「はぁ〜〜」」」」
 モリガンはデルフェスを見た。
「だからデルフェス。あなたに私の守護を与えるわ。この力を使えば、人形を四つに分ける事が可能なの」
「はい、モリガン様」
 デルフェスはモリガンに力強く頷いて見せた。



 ――――――――――――――――――
【第五章 力】


 扉をくぐるとそこは見渡す限り真っ白な空間だった。上下左右も無い場所だ。
「う、うわぁー、気持ち悪いぃ」
 無理やりモリガンにこちら側の世界に追いやられた三下は溺れているようにのたうちまわった。
 黒い石の翼を広げた悠宇は三下を後ろから抱き上げて翼を羽ばたかせる。
「す、すみません。悠宇さん」
「いえ」
 悠宇はにこりと笑った。
「それにしても本当にここであっているのかしら?」
 シュラインが小首を傾げる。
 真っ白な空間でくるくると回りながら浮いているデルフェスは顎に手をやった。
「このゲートは敵側が繋げたモノ。しかしここは何も無い空間。でしたらここはまったく違う場所なのでは? モリガン様のお話では違う敵がいるという事ですし」
「ピンポーン。ピンポーン」
 けらけらと笑う子どもの声。
 そして真っ白な空間に小学生、真田幸人が現れる。鎌を旋回させて彼は皆を見回した。
「雪人。おまえ、まだ」
 三下を放し、悠宇は翼を広げて重力波を放った。しかしそれは佇むだけの雪人を直撃しなかった。悠宇は目を見開き、雪人は笑う。
 そして雪人の姿が掻き消えたと想った瞬間、
「うぎゃぁぁぁぁーーーー」
 三下の悲鳴が上がった。
 雪人が後ろから三下を鎌で攻撃したのだ。
 赤い血を空間にぶちまけながら三下が前のめりに倒れた。
「ごめんね。強くってぇー」
 嗜虐的な笑みを浮かべながら雪人は三下にとどめを刺さんと。
 三下はカリバーンの剣を滅茶苦茶に振るった。
 それが偶然にも雪人の鎌に当たり、これまで鼠を弄ぶる仔猫のような笑みを浮かべていた雪人の眼が吊りあがった。
「おまえぇー」
 振り下ろされる鎌。そのままいけば三下の頭が割れる。
 しかしそれを悠宇が体当たりで防いだ。
 皆はその戦いを見守る。
「なんだよ、悠宇兄ちゃん。カリバーンの剣なんか構えて」
 悠宇のゲーム内での職業は義賊。そのスキルで三下の持つカリバーンの剣を盗んだのだ。
「おまえは俺が倒す」
「無理だね。ボクはゼルバーンの勇者になったんだからね。この力で悠宇兄ちゃんたちもそして塔で戦っている三人の勇者達も皆殺しにして、今度こそ人形を手に入れてやるんだ。そうだ。ボクをマスターに選ばなかったあいつを今度こそ滅茶苦茶にしてやる」
 鎌を無茶苦茶に振り回す雪人に悠宇は溜息を吐いた。
「無駄だと想う」
「何が?」
「おまえは異能の力のせいで誰もおまえを認めてくれないような言い方をしていたけど、だけどそれだけじゃない。問題はおまえの中にあるんじゃないのか? 他人を小ばかにして笑うそういうおまえの態度がいけないんだと想う。もちろん、おまえにそうさせてしまった環境も悪いのだと想う。だけどそれでもおまえが強くあれば、他人に奇異の目で見られる辛さを知ってるからこそ」
 雪人が大きく目を見開き、その後に何かを言わんと口を開きかけ、そして意味不明の事を叫びながら悠宇に向っていく。
 悠宇もカリバーンの剣を構えて翼を羽ばたかせた。
 スピードは比べるまでも無く悠宇だ。
 しかし雪人には不思議な力がある。確かに避けた鎌の攻撃がしかしヒットしたり、直撃するはずの攻撃が外れたり。
 だが…
「何だってぇ?」
 雪人が悲鳴をあげた。何故なら悠宇がちゃんと鎌の攻撃を剣で受け止めたのだから。
「どうして?」そう言いながら彼は鎌を見て、両目を見開く。「あ、ボクのローレライの鎌に罅が」
 セレスティは鼻を鳴らした。
「先ほどの三下君の攻撃で?」
 シュラインは口を手で覆う。
 え? という顔で自分の顔を指差す三下に、彼の治療にあたっていたデルフェスは頷いた。
「はい、そういう事です。三下様の攻撃でローレライの鎌に罅が入った。だから悠宇様はあの鎌が振られる度に発せられていた超音波の影響を受けないで初めてその攻撃を受け止められた」
「獲物を弄り殺す、その良い趣味が自分の首を絞めましたね」
 セレスティは肩を竦めた。
「くうそぉー」
 雪人はローレライの鎌を振り回しながら悠宇に襲い掛かるが、しかし悠宇の剣は鎌を振り払らった。そして悠宇は雪人の前に立って、彼の頬を平手打ちした。
「この事件が解決したら、そしたらリアルで一緒に遊ぼう」
 悠宇は優しく笑いながら雪人の頭をくしゃっと撫でた。
 雪人はそっぽを向き、
「例のおっかいな彼女を紹介するのはやめてくれよな。悠宇兄ちゃんを取られたって八つ当たりされるのは嫌だから」
 そしてそれだけ言うと雪人は消えて、真っ白だった空間は世界へと変わった。



 +++


 世界は混沌としていた。さまざまな世界のパーツの寄せ集めで成る世界。そこがここだ。
 そしてそこに零、嬉璃、雫がいた。
 最初に気付いたのは零で、そして嬉璃はこちらを見るとおもむろに走ってきたのだ。
 そして何をするかと思えば、
「このたわけ者がぁーーーーー」
 地面を蹴って三下の顔に飛び蹴り。
 思いっきり蹴りを喰らって倒れた三下の腹の上で、それでも気がおさまらないのか彼女は両足で飛び跳ねた。
「おんしがおればあのような人形などには負けんかったんぢゃ」
「こらこら、嬉璃ちゃん。そこら辺で許してやって」
 シュラインは笑いながら嬉璃を抱き上げた。
「それにしても良かったです。皆さん、無事だったんですね」
 そう言う悠宇に零と雫は頷いた。
 嬉璃はシュラインに抱き上げられながらまだ三下を睨んでいる。
「とにかく回復を」
 デルフェスが三人の治療をしようとするが、しかし零は顔を横に振った。
「私たちの治療に使う回復薬がもったいないです。ですから皆さんが私たちの役目を受け継いでください」
 そう言われた皆は顔を見合わせた。
「ふん。本当ならわしが人形を倒してわしの野望の道具に使ってやろうと思ったんぢゃがしょうがない」
 シュラインの手を軽く叩いて、解放された嬉璃は悠宇の顔を見上げた。
 嬉璃は胸の前に両手をやった。すると胸から浮き上がった光珠がその両の手の平に乗る。
「わしのマッハの力はおんしに。義賊ならばマッハの力も得られるぢゃろうて」
 そして嬉璃から悠宇がマッハの力を受け継いだ。
「すごい。力が溢れてくる。これならやれます」
 悠宇は嬉璃ににこりと微笑み、嬉璃は頷いた。
 雫はセレスティを見上げる。
「あたしのネヴァンの力はセレスティさんに。セレスティさんの智の属性はネヴァンの心と合うはずです」
「ええ。確かに請け負いました。後は私にお任せください、雫嬢」
 セレスティは雫に穏やかに微笑みながら光珠を自分の体内に入れた。
「シュラインさん、後はお願いします。アリアンロッドさんの維持を望む心はシュラインさんの日々を見守る気持ちと合うはずです」
「ええ。絶対に人形をなんとかしてみせるわ」
 零は頷き、そしてシュラインも己の体にアリアンロッドの力を入れた。
「では、皆さん。塔に行きましょう」
 デルフェスはにこやかに言い、そして塔を見上げた。



 +++


「いらっしゃい。皆。あたしはお人形。昔、昔、とある魔法使いが作ったお人形。マスターは死んじゃった。あたしはあたし。今はあたしのあたし。だけどあたしには望みが無いの。あなたたちには望みはあって? その望みをあたしが叶えてあげる。だけど勝てるかなー、あたしに♪」
 ふりふりのレースがついた純黒のドレスを身にまとう人形はウインクした。
 外見は細身の10代後半の少女。
 だけど感じるプレッシャーは――――――
「嫌だ、何、このプレッシャーは。半端じゃないわ」
 シュラインは両手で己が身を抱きしめた。いつも気丈なはずの彼女が震えていた。
「さすがにキツイですね。これは。気を抜くと呑まれそうだ」
 セレスティはシュラインの前に立ち、十字架の錫杖を構える。
 デルフェスはフランベルジュを構えると同時にこちらを見ながらくすくすと笑う人形に換石の術をかけた。
 一瞬で人形は石へと変わる。通常ならばもはやデルフェスの力でないと元には戻れない。
 だが、
「残念でしたぁー♪」
 人形の石化は解け、床につくすれすれまで長い髪とスカートの裾をふわりと浮かせて、彼女はその場で回った。
「そんな…」
 デルフェスはきゅっと下唇を噛んだ。
 悠宇は翼を広げ、カリバーンの剣を構える。
「ゼロはどこだ?」
 人形は小首を傾げた。
「ゼロ? それってだーれ?」
「ラスボスは未だに出ずですか」
 セレスティは肩を竦める。
 そして皆は同時に頷いた。
 己の胸に両手をあてる。
 瞬間、皆の体が輝き出した。
「な、何よ、それは? あなたたちは何をするつもりなの???」
 人形は言った。
「いじめる人なんて嫌いだぁー」
 炎、水、雷、光の球が人形の周りに浮かび、そしてそれが皆に放たれる。
 だが黄金の輝きを放つ皆のオーラのバリアーに阻まれ、それは消滅し、
 そして!!!
「「「「だぁー」」」」
 四人は一斉に人形に向って女神の力を凝縮した光珠を投げつけた。



 +++


「またここに戻ってきちゃったわけね」
 シュラインは前髪を掻きあげて溜息を吐いた。
 彼女が居るのは真っ白な空間だ。
 そして彼女の前にはくすくすと笑っている人形が居る。
 今の人形は7、8歳の女の子の姿をしていた。
「ねえ、お姉ちゃん。何して遊ぶ? お飯事?」
 そう言った瞬間に真っ白な空間は大きな公園となった。
 シュラインの足下に広がるのは砂場の砂だ。
 そしてその砂場にはビニールシートが敷かれていて、昔懐かしいお飯事の玩具が並んでいた。
「まあ、お友達がいるのね。それならそうとちゃんと言わないと。いっらしゃい」
 その言葉にシュラインが振り返った。彼女の視線の先、盛り上がった砂場の砂に含まれた微細な石で作られた人形…いや、これは!!!
「ゴーレム」
 シュラインが叫ぶ。
「じゃあ、たーんと遊びなさい。シュラインちゃん。女の子らしくエレガントにね♪」
 くぅっとシュラインは唇を真一文字に結んだ。
 唸りをあげてシュラインの横頬めがけて放たれたゴーレムの横殴りの一撃。それをなんとかかわすが、しかし衝撃波だけでも凄まじかった。
 咄嗟に顔の前で両腕を交差させてガードしていなかったらその衝撃波だけでも脳震盪は必死だったはずだ。
 後方に吹っ飛んで転がったシュライン。
「あらあら、シュラインちゃん。女の子はエレガントに、って言ったでしょう?」
 立ち上がるシュライン。ぺろりと唇を舐める。
 そしてシュラインは右手に何かを持ちながらクラウンティングスタートの形を取った。
「よーい、ドン」
 言ってシュラインは地面を蹴ってゴーレムに向って走っていく。
「あら、玉砕? シュラインちゃん。女の子はエレガントにって言ったのに」
 シュラインは唇の片端を吊り上げて突っ込んでいく。
「抱きしめてあげなさい、ゴーレム」
 両腕がものすごい勢いでシュラインに伸ばされる。捕まれば間違いなく彼女は抱き殺されるはずだ。
「殺っちゃえ――――」
 だがシュラインはにぃっと笑うと同時にブレイクダンスを踊るようにすとん、としゃがみこんだ。ほぼ全速力で走っていたのにだ。
 そして巨大なゴーレムの足に下段蹴りを叩き込んだ。
 後ろに倒れるゴーレム。
 そうしてシュラインの方は回転の勢いを利用して立ち上がると同時に右手に持っていた口紅でゴーレムの額の文字、真理という意味のemethのeを塗り潰した。
 転瞬、ゴーレムは崩れ去る。
 そしてシュラインは人形を見た。
「emethのeを消してやればそれは真理のemethから死のmethとなる。これでいいかしら、ママ?」
 歩いて自分に向かってくるシュラインに人形は幼い子がいやいやをするように顔を左右に振りながら後ずさる。
「こ、こないでよ」
「ダメよ。お悪戯(おいた)した子にはちゃんとお仕置きをしないと。女の子らしくエレガントにね」
「い、いやぁ。許して」
「ダメ」
 そしてシュラインは人形を抱きしめた。
「罰として抱きしめの刑。本当はこうしてもらいたかったのでしょう?」
 優しくそう問うシュラインに人形はこくりと頷き、崩れ去った。
 そして再結晶化された彼女に人形は片膝をついた。
 シュラインはその人形に右手を差し出し、人形は彼女の手の甲に口付けをした。
「あたしのマスター、シュライン・エマ様」



 ――――――――――――――――――
【第六章 ゼロ】


 気付けば塔の中に居た。
 そして皆は向かい合って立っていて、その中心には頭から黒いローブを被った男が居た。
 セレスティが肩を竦める。
「ようやく現れましたね、ゼロ」
「こいつが、ゼロ。今回の首謀者?」
 悠宇は剣を構える。
「それであんたは一体これからどうするつもりなのかしら?」
 シュラインは小首を傾げる。
「わたくし、同じモリガン様の勇者としてあなたを説得しに来ましたの。もうこんな事はおやめください」
 デルフェスは責めるように哀しげに両目を細めた。
 ゼロは肩を竦める。
「私はただ、この世界の変革を望んだ。あなた方は本来は邪竜クロウ・クルーハを倒した後に起こる予定だったこのイベントに参加し、見事に邪竜クロウ・クルーハよりも強い力を手に入れた。それでこの『白銀の姫』の変革を」
 ゼロは詠うように言う。
 そしてゼロの姿は消えた。
「これはどういう事なんですの?」
 デルフェスが目を瞬かせた。
「私は心はあれど肉体は無い。故に人形のマスターとはなれなかった。だからこそこのイベントを起こし、そしてやって来たあなたたちにマスターとなってもらった。そして、そのあなた方の肉体を私が貰う。ここではあなた方はデータでしかなく、だからこそ」
 凄まじい悪意が自分を包み込むのを感じた。
「冗談じゃないわ」
 シュラインは声をあげる。
「くそぅ」
 悠宇は重力波を滅茶苦茶にぶちまかした。
 だがセレスティは鼻を鳴らした。
「おかしいですね。あなたは肉体に囚われるのが嫌で、永遠の思考を求めて、故に己をネット界に解き放ったのではないのですか? 荻原君」
 どくん、とこのエリアが脈打った。
 皆はセレスティを見る。
 そしてシュラインはあっ、と口を開けた。
「言葉遊び。荻原のO(オー)が0(零)でそれでゼロ?」
「もうひとつはゼロ、無し。故に永遠という意味ですかね」
「あのセレスティさん、それってどういう事ですか?」
 説明を求める悠宇にセレスティは頷いた。
「荻原君というのは有能なプログラマーでした。しかし彼は脳の病気にかかってしまった。だから彼は自分の人格、知識、荻原賢治という人間をコピーしたモノをネットに解き放った。その彼がここに居た。おそらくは流れ着いた彼のコピーはモリガンに惹かれ、彼女を得んがためにこの廃棄されたデータを取り組み、この世界そのものがゼロとなった。そして今また私たちの中に入り込もうとしている」
 デルフェスは顔を左右に振った。
「つまりゼロ様…いえ、荻原様も生きているのですね、ここで。だからこそモリガン様に恋をした」
 世界が震え出す。
「私は、私は、私は何だ………」
 皆の顔に緊張が走った。
「いけない。ゼロはこの世界のデータと同調していたんです。それによって『白銀の姫』にイベントを起こした。だけどどうやらその存在自体が危うくなっている。世界が消えます。同調した事でプログラムが変調をきたしていたのでしょう」
 セレスティが叫んだ。
「世界が消えたら、どうなるの?」
 シュラインがセレスティを見る。
「デリートされるでしょう。私たちも」
「そんな事って」
 デルフェスが口を両手で覆った。
 悠宇は重力波で塔の壁をぶち壊した。
「セレスティさん、失礼します」
 そして足の不自由なセレスティの腰に後ろから両腕を回し、翼を羽ばたかせた。
「シュラインさん、デルフェスさんは俺の足に」
「ええ、ありがとう。悠宇君」
「お願いします、悠宇様」
 黒き石の翼を羽ばたかせて、『白銀の姫』の正式なる世界へのゲートを目指した。
 飛んでくる皆に零、嬉璃、雫、三下は安心した笑みを浮かべ、そして急いでゲートの向こうへと消え、それに続いて皆もゲートをくぐった。ゲートの向こうで不正に『白銀の姫』に繋がっていた世界は、デリートされた。
 それはゼロが切り捨てられた世界に同調したためにプログラムが乱れたが末のデータ破損による終末であった。そしてもうひとつ、現実世界のどこかにあるスーパーコンピューター【Tir-na-nog Simulator】によるウイルス駆除によるものだった。
 この事件に携わった勇者たちはやがて暗黒騎士と邪竜の巫女ゼルバーン、そしてスーパーコンピューター【Tir-na-nog Simulator】と出会う事になるのだろう。
 ………。



 ――――――――――――――――――
【ラスト】


 シュラインは零の顔を見ながらにこりと笑うと唇の前に人差し指一本立てた。
「もう少し寝かせておいてあげましょう」
 零はこくりと頷き、唇だけを動かせる。
「お茶をいれてきますね」
「ええ」
 そしてシュラインは眠っている武彦の顔を眺めながらくすりと微笑むと、借りていたライターを彼のデスクの上に置いた。
「ありがとう、武彦さん。私に力をくれて」


 ― Fin ―





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / ゲーム内職業 / リアル職業】


【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 魔法使い / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】


【1883 / セレスティ・カーニンガム / 男性 / 725歳 / 魔法使い / 財閥総帥・占い師・水霊使い】


【2181 / 鹿沼・デルフェス / 女性 / 463歳 / 軽戦士 / アンティークショップ・レンの店員】


【3525 / 羽角・悠宇 / 男性 / 16歳 / 義賊 / 高校生】




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■         ライター通信          ■
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こんにちは、シュライン・エマさま。
いつもありがとうございます。
このたび担当させていただいたライターの草摩一護です。



今回は皆様、ご依頼ありがとうございました。^^
【眠りの霧】については納得していただけたでしょうか?
後半部分、お気に召していただけますと幸いです。^^
また今回の事件で手に入れた人形は、今後の『白銀の姫』関連のノベル、
またはネット関連のノベルなどの時にはネタとして使っていきたいと思いますので、
もしもまた縁があった時にはプレイングの片隅などに名前なんかを書いておいてくださると嬉しいです。^^
シチュでは名前描写ができないのですけど。^^;

セルバーン、暗黒騎士、スパーコンピューター【Tir-na-nog Simulator】は『白銀の姫』の公式設定となっております。
今後の『白銀の姫』にもまた期待しておいてください。今ノベルでは書き表せなかった魅力がたくさんあります。^^
僕自身もすごくこの企画、楽しみです。^^




シュラインさま。
他のWRさまの納品分のノベルに職業が魔法使いとなっていたので今ノベルでもそれを継続させていただきました。^^
【眠りの霧】のトリックは言葉が少なかったかな、と想っていたのですが見事に言い当ててくれて嬉しかったです。^^
戦闘部分はいかがでしたか? 知的タイプのシュラインさんならではの戦い方を描写できて、本当に嬉しく想います。
今回もしっかりと草間武彦との良い雰囲気も書けて。^^
シュラインさんを書く時の楽しみの一つとしてこれはもう欠かせないものになっております。^^


それでは今回はこの辺で失礼させていただきますね。
ご依頼、本当にありがとうございました。
失礼します。