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<白銀の姫・PCクエストノベル>


片翼の双子〜An oath Dream〜T



□入り口■


 現実と夢、夢と現実、そして・・現実と現実が交錯する館、夢幻館。
 そこの総支配人、沖坂 奏都(おきさか かなと)は目の前でカチャカチャとパソコンをいじくる少女をじっと見つめていた。
 「やっぱり、一筋縄では見つからないものなのでしょうか・・。」
 ブツブツと独り言を言いながら、マウスをクリックし続ける。
 彼女・・夢宮 美麗(ゆめみや みれい)はあるホームページを探しているのだ。
 「・・まぁ、そう言うものは噂が噂を呼んで、思わぬ尾ひれをつけたりしますし・・探すだけ無駄ではないですか?」
 「けれど・・わたくしの友人も、見つけたと言っておりましたし・・。」
 「美麗さん・・そのお友達は『−Page Not Found−』のホームページを見つけたと言っただけじゃないですか。無限に広がるネットの世界で、そんなホームページはいくらでもありますよ。」
 「つまり・・?」
 「そんなホームページ、無いんじゃないですか?『白銀の姫』なんて、聞いた事がないですよ。」
 「・・ここから滅多に出ない奏都様がご存じないのも、無理はないかと思いますが・・。」
 「それは嫌味ですか・・?」
 「いいえ。滅相もない。」
 美麗はそうとだけ言うと、再びカチャカチャとやり始めた。
 奏都は一つだけ大きくため息をつくと、自身の足元を見つめた。小さな糸くずがそこに丸まって落ちている。
 「大体ですね、噂が本当だとして・・もしも美麗さんがそのホームページに入り込んでしまったら、大変な事になりますよ。いいですか、美麗さん。貴方は夢の世界の扉を開くものです。それは必ず現実と対になっていないと・・」
 ゴミを拾った奏都が身体を起こした。
 普段と同じお説教を言いながら、ふと見た先・・ついさっきまでそこに座っていたはずの人物の姿が無かった。
 パソコンの隣に置いてあるティーカップからは、うっすらと湯気が立ち上っていた。
 そして・・画面に映し出される『−Page Not Found−』の文字・・。
 奏都は先ほど拾ったばかりのゴミを指から落とすと、呆然と画面を見つめた。


 数分後、夢幻館に住まう一同がパソコンをぐるりと囲むようにして集まってきた。
 その中央に座る、美麗と同じ面立ちの少年・・夢宮 麗夜(ゆめみや れいや)。
 美麗の双子の弟でもある彼は、顔面蒼白でパソコン画面を見つめていた。
 「困りました・・。早く美麗さんをこちらに連れ戻さないと・・。」
 「どうなるって言うんだ?」
 神崎 魅琴(かんざき みこと)が麗夜の顔色を気にしつつも奏都にきく。
 「麗夜ちゃんと美麗ちゃんが死ぬわ。」
 片桐 もな(かたぎり もな)が静かな声でそう告げた。
 「美麗ちゃんと麗夜ちゃんは、2つで1つ。片方が欠ける事なんて許されてないの。それは、生まれた時からの誓約だから。」
 「・・で、俺達はどうすれば良いんだ?」
 梶原 冬弥(かじわら とうや)が低くもなに助言を求める。
 「・・・美麗ちゃんを連れ戻さなくちゃ。」
 もなはきっぱりとそう言うと、直ぐにパソコン画面に向き合った。
 しかし、何度URLを入れなおしても・・画面に現れるのは『−Page Not Found−』の文字だけだった。
 「なんで・・」
 「貸してみろ!」
 冬弥がもなと場所を変わり、URLを入れなおした途端・・・冬弥は一同の前から姿を消した。
 「選ぶのか・・?人を・・?」
 魅琴の呟きが、静まった部屋に響いた。
 それをあざ笑うかのごとく『−Page Not Found−』の文字は2人を飲み込んだまま動かなかった・・。

□■□

 目の前が一瞬真っ暗になり・・はっと気が付いた時、そこはすでに美麗の知らない場所だった。
 視界いっぱいに広がる緑色の草花、聞こえてくる鳥の鳴き声、風はどこか違う世界の香りを運んでくる。
 「ここは・・。」
 言いかけた美麗の目に、ふと黒い影がよぎった。
 大分先、小さく見える・・・それは塔だった。
 真ん中の大きな塔に寄り添うようにして左右に聳えている少し小さめの塔。
 「あれは・・・」
 「avune-jjneiy cpokne gegskihe」
 突然背後から聞きなれない言葉をかけられ、美麗はそちらを振り返った。
 黒いフードつきのマントをかぶり、右手に燭台を持ちながら立つ一人の男。
 その顔は見えない。
 「・・貴方様はいったい・・」
 ガンと、鈍い音が脳内に響き渡り・・美麗は意識を手放した。
 自身の後頭部を殴られた音だと気付いたのは、意識が闇に飲まれる直前だった。
 『avune-jjneiy cpokne gegskihe』



■ゲームの中へ・・・□


 沖坂 奏都からの連絡を受けて向かった先は、夢幻館。
 いつもは賑やかな夢幻館だったが・・その日は沈んでいた。
 誰の顔にも笑顔は浮かばず、神妙な面持ちでパソコン画面を見つめてる。
 月宮 奏(つきみや かなで)と月宮 誓(つきみや せい)は、普段とは違う夢幻館の雰囲気に眉をしかめると、暗い空気の中に入って行った。
 「あぁ、奏さんと誓さん・・。どうも、来ていただいて・・。」
 「なんだか大変そうな事になってるようだけれど・・詳しい状況を聞かせてもらえるか?」
 「美麗さんが消えてしまったとは・・?」
 「美麗ちゃんと・・それから冬弥ちゃんは、この中よ。」
 片桐 もなが指し示す先は、皆の視線と合致していた。
 「パソコンの中って事なのか・・?」
 「そう。・・ねぇ、聞いた事ない?『白銀の姫』ってホームページ。」
 それほど鮮明でない記憶を繋ぎ合わせる。
 「あの・・・何人も人が消えてるって噂の・・・?」
 「そうよ。・・奏ちゃん、誓ちゃん!お願い!美麗ちゃんをっ・・・!!」
 「落ち着いて、もなさん。どう言う事なの・・?」
 「早くしないと、美麗ちゃんと麗夜ちゃんがっ・・!!!」
 泣きそうになるもなの前に、奏都がすっと出てくる。
 「詳しい事は、お話できません。それは、美麗さんと麗夜さんの存在そのものに触れるからです。けれど、ここで何もお話しないままこの中へ入ってくださいと言うのは、あまりにも横暴です。どんな危険が待っているかも分かりませんし・・・。」
 「つまり?」
 「美麗さんと麗夜さんは、離れていることが出来ないのです。」
 「それは、なぜ・・と、聞いても良いのか?」
 「えぇ。それが“夢”と“現実”だからです。紙一重の世界、裏と表・・それが崩れれば、物理的な問題を引き起こします。」
 「ここを中心とした世界が崩れるって事だよ。夢と現実。それに関わっている全ての要素が・・な。」
 行儀悪く、机の上に足を乗っけながらふんぞり返っているのは神崎 魅琴だ。
 横柄な態度とは違い、その表情は苦々しい。
 「今の現状は?」
 「今の所は夢が美麗を探している状況です。夢にも個としての意思があり、親である美麗を探すんです。探している間は、何も問題ありません。普段どおりです。」
 「探して・・この世界にはいないと言うことが分かったら?」
 必死に言葉を紡ぐ麗夜の横顔を真剣な面持ちで見つめる。
 「暴走します。親を失ったと勘違いした世界は、親のいた世界を飲み込もうとします。親を超えるために・・・。」
 「それを防ぐ手段はあるのか?」
 「ある程度までは俺が止められます。俺の血の半分は美麗と繋がってますので。」
 「麗夜ちゃんの封印はもって2週間。もちろん・・暴走を止めるって言う意味では、きっと1ヶ月は止められるわ。」
 「どういう意味なの?」
 「2週間は、麗夜ちゃんの“意思”で暴走を止められる。それ以降は麗夜ちゃんの“命”で止めるしかないの。」
 「その間現実世界はどうなっている?」
 「現実の扉は俺の中に仕舞っておきます。そうすれば消滅する時は一緒に消滅します。」
 そこは覚悟をしていますと言う瞳は痛々しい。
 しかしそれでいて、凛とした強さが伺える・・・。
 「もし万が一・・暴走したらどうなる?」
 「夢の世界の住人がこちら側に押し寄せ、侵食します。物理的空間もこちらの世界を飲み込もうとします。」
 「それを止める手立てはあるのか?」
 「もな様と、冬弥様。そして・・・奏都様の力をもってしてなら、暴走を止められます。」
 「どっちにしろ、中には行かなくちゃいけないって事ね。」
 「えぇ。」
 奏都が頷き、しばしの沈黙が訪れる。
 「もなと、奏都と麗夜は待機組みだ。中に行くのは俺とリデア。」
 沈黙に耐えかねた魅琴が親指で自分とリディア カラスをちょいちょいと指し示す。
 「よろしく。それで・・・早速で悪いんだけど、そろそろ行きましょう。」
 「えぇ。」
 「あぁ。」
 奏と誓が頷き、それを確認した魅琴がパソコンに触れる。
 奏都と麗夜、もなが画面から遠ざかる。
 「それでは、お気をつけて・・・。」
 「美麗ちゃんと冬弥ちゃんをお願い・・・。」
 「奏様、誓様。こちらの世界の事はお気になさらずに、お気をつけて行って来て下さい。夢の世界は俺が封印しておきますので・・・。」
 麗夜が小さく微笑んだ時、魅琴の手がある一つのURLをうちこんだ。
 クリックをして開いた先・・・『白銀の姫』のホームページへ・・・。


 瞬きをしている間。
 そんなほんの刹那の間に4人は消えていた。
 白い画面に浮かぶのは『−Page Not Found−』の画面・・・。


☆女神の勇者★

 ふっと目を開けた先、そこは冷たい大理石の上だった。
 大きな広間の中央に奏は座っていた。
 「・・・ここは・・・?」
 「ようこそアスガルドへ。勇者様。」
 「え・・?」
 背後から急に声が聞こえ、奏は思わず振り向いた。
 「誰・・・?」
 「私の名前はアリアンロッド・・・。勇者様。どうかこの世界の秩序をお守り下さい。」
 「待って。この世界ってなに・・?それに私は人を探しに・・・」
 「存じております。それ自体が、この世界の秩序を守る一つになるのです。」
 「どう言う事なの?」
 「話せば長い事です。けれども貴方は急いでいます。いいえ、急がなくてはなりません。時間が・・・ないのです。」
 アリアンロッドはそう言うと、すっと瞳を閉じた。
 「かいつまんで、お話します。」
 そう言うと、本当にほんの触りだけを話し始めた。
 この世界『白銀の姫』の事、創造主の事、女神達の事・・・。
 「勇者様。どうか・・この世界の秩序をお守り下さい。お探しの女性・・・その方がいらっしゃる場所は、とても危険です。貴方達にとっても、この世界にとっても・・。」
 「え・・?」
 聞き返した奏の視線を、アリアンロッドが跳ね返す。
 「まだ・・・知るべき時ではありません。」
 伏せられた瞳は、もう何も語ってくれそうにはなかった。
 「勇者って言われても、実感はわかないのだけれど・・・。美麗さんを探し出して助け出す事で、この世界の秩序が守られるって言う事なの?」
 「全てと言うわけではありません。でも、秩序を壊すものの排除の一端にはなります。」
 「そう・・・。」
 奏はほんの少しだけ考えた。
 今すべき事は唯一つ。
 美麗を救う事だった。けれど・・・。
 「まだよく分からないけれど・・いいわ、勇者になる。」
 コクリと頷いた奏に、アリアンロッドは穏やかな笑みを浮かべた。
 「ありがとうございます。勇者様・・・。」
 アリアンロッドは穏やかな笑みを浮かべると、奏に頭を下げた・・・。


■ジャンゴ□

 「奏さん・・・。」
 アリアンロッドと分かれてから、見知らぬ町を彷徨っていた奏を背後から呼ぶ声が聞こえた。
 「リディアさん。良かった・・・。」
 振り向いた先、少々ファンタジーっぽい服装になったリディアが小首をかしげながら翔子を見つめていた。
 「奏さん・・服が・・・。」
 指し示された先、自分の服・・。
 神官服風・・・ファンタジー版・・・。
 「・・他のみんなもそうなのかしら・・。」
 先にこの世界のに来ている冬弥も、美麗も、そして・・今は見かけない誓も、魅琴も・・・。
 「そう言えば、兄さんと魅琴さんはどこに・・?」
 「それが気が付いた時にはバラバラになっていて・・。とりあえず、先にこちらに来ているはずの冬弥と合流しましょう。そうすればおのずと誓さんと魅琴に会えると思うので・・・。」
 「そうね。」
 もしかしたら誓と魅琴も冬弥の元に向かっているのかも知れない。
 奏はリディアの提案に同意の意を示すと、共に歩き始めた。
 「まずは、情報収集からね。」
 リディアはコクンと首を縦に振ると、道を挟んだ向かいの喫茶店らしき所に入って言った。
 お洒落な外見とは違い、中は屈強なファンタジー男達でいっぱいだった。
 丸い可愛らしいテーブルに乗る品も、パフェや紅茶と言ったお洒落なものではなく、ビールジョッキだった。
 つまり・・ここは酒場だ。
 酷く可愛らしい外見の・・・。
 「あの、ちょっと宜しいですか?」
 リディアがジョッキ片手に勢い良く飲んでいる男に声をかける。
 銀色にぬめりと光る大きな刀が目に痛い。
 「私達、180cmくらいの赤い髪をした男と、160cmくらいの長い黒髪の女の子を探しているのですが・・・。ご存知ありませんか?」
 「あぁ?あー・・・。男の方は知らねぇが、女の方はもしかしたら・・・。」
 男はそう言って口ごもると、ちらりと奏の目を見つめた。
 酷く言いにくそうにする男に、先を言うように瞳で合図する。
 「こっからよう、結構行った先にメイヴァーっつー小さな町があるんだが・・。そっから更に何キロか行った先、ダルワイブって言う町があるんだ・・。真ん中に大きな塔があって、その左右に小さな塔がある・・・。」
 男はそこまで言うと、わざと声を潜めた。
 「“junduntetis”って呼ばれる、なんだかよくわかんねぇ言葉を話すやつらがいる町なんだよ。町の上空は厚い雲が覆いかぶさってて、太陽の光が届かない陰気な町なんだよ。」
 「・・ジャンダンテティス?」
 「junduntetisは真っ黒なフードつきのコートを羽織ってて、手に燭台を持って町中を徘徊している・・。本当、遠めに見ても気味悪い町だよ。」
 「それがどう関係しているんです?」
 「俺のダチがよぉ、最近ダルワイブの近くの平野を通りかかったんだが急に髪の長い女の子が現れてよ、あっという間にヤツラに連れてかれちまったそうなんだよ。」
 奏とリディアは視線を合わせた。
 もし、それが美麗だった場合・・・美麗は今現在自分の意思ではどうしようも出来ない常態に陥っている可能性がある。
 「もしそれが本当だった場合、厄介な事になる・・・。」
 「あの、その女の子の特徴とかって、詳しく話せます?」
 「あー・・おい、マナッサ!お前さ、この間ダルワイブの近く通りかかった時に女の子見たっつってただろ!?」
 「んあー?あぁ。」
 男に呼ばれて、少しはなれた場所で1人でビールを楽しんでいた男が振り返った。
 すんなりとした体つきは、一見ひ弱そうに見えたが・・その隣に立て掛けてある剣の威圧感は言い表せないくらいだった。
 一目で分かる。
 彼がかなり凄腕の人物だと言う事が・・・。
 「なに?あの子の知り合いなの?」
 「えぇ・・。もしかしたら友人かも知れないと思いまして・・。特徴など、何か覚えてますでしょうか?」
 リディアがかなり丁寧な物言いで情報を求める。
 マナッサと呼ばれた男は、眉根を寄せながら視線を彷徨わせた後で、ゆるゆると言葉を紡ぎ始めた。
 「黒髪で、瞳も黒くて・・・あ〜・・整った顔立ちをしていたな。肌が白くって・・・。そうだな、身長は160cmくらいかな・・・。」
 確かに、美麗かも知れない。
 けれど・・・そんな人は探せば沢山いるかもしれない。
 黒髪で黒い瞳なんて・・・。
 「あと、これは俺のただの勘なんだけど・・・。彼女、対の存在じゃないか?」
 「どう言う事です?」
 「いや、間違ってたら悪いんだけど・・。なんて言うのかな、一つだけの魂じゃない気がして・・・。」
 リディアが苦々しく顔を歪める。
 彼女にしては珍しい表情だった。
 「奏さん。多分・・美麗だわ。その、ダルワイブって町はここからどのくらい離れているの?」
 「結構離れてるけど?」
 「そう・・。有難う御座いました。」
 「有難う御座いました。」
 奏も彼に向かって一度だけ丁寧に頭を下げると、ズンズンと店から出て行くリディアの背を追った。
 「とりあえず、私の“千里眼”でこの辺一体を探してみます。それでも見えないようなら・・。」
 「ダルワイブに行った可能性が高いって事なの?」
 「えぇ。おそらくは。彼は、並外れたパワーを感じました。美麗から“対”の波動を感じ取れるくらい・・・。」
 「そうね・・・あの雰囲気は只者ではなかった。」
 先ほど店であった男を思い出す。
 人の良さそうな表情の下に隠した、強靭な精神・・・。
 「それじゃぁ、見てみますね。」
 リディアはそう言うと、すっと瞳を閉じた。
 彼女を取り巻く空気の粒が、さやさやとそよぎ、全てが規則性を持って散って行く。
 その様が手に取るように分かる。
 「・・ダメです。この近くにはいません。」
 リディアはそう言って目を開くと、その場に崩れ落ちた。
 「リディアさん!?」
 「大丈夫です。ちょっとした立ちくらみです・・・。すぐに治りますから。」
 真っ青な顔をしたリディアを前に、奏はとりあえずゆっくりとくつろげる場所を・・・。
 「あ〜!やっといたぜ!奏とリデアっ!!」
 背後から聞きなれた声が奏の名前を呼ぶ。
 「魅琴さん・・・?」
 「あぁ。誓も一緒だ。・・・ってーか、リデアどうした?顔が真っ青だが・・。」
 「千里眼を使ったら・・」
 「あ〜、ぶっ倒れたってわけか。おいリデア!千里眼使ったんなら冬弥を見なかったか!?」
 「こっから・・・真っ直ぐ・・・っ行って、突き当たり・・・右・・。武器屋・・・・・。」
 苦しそうに言葉を紡ぐリディアを、誓と奏は心配顔で見つめていた。
 段々と蒼白になっていく・・・。
 「大丈夫か?」
 「とりあえずどこかで休まないと・・・。」
 「あっちに宿屋があったんだ・・おい誓、知ってんだろ?そこに今日は一先ず泊まろうぜ。もう夕方になってきたし、夜は危ない。」
 暮れかける空がオレンジに輝く。
 「奏と誓は、冬弥との接触を試みてくれ。冬弥なら、俺達よりもなんか知ってるかも知れねぇ。部屋は2部屋押さえとくから。」
 「分かった。それじゃぁ、宿屋で。・・奏、行こう。」
 「えぇ。」
 魅琴がリディアを担ぐのを視界の端に認めた後で、2人は歩き出した。



□再会■

 リディアに言われたとおり、道を進んでいった結果・・・なんとも怪しげな1軒のボロ屋に着いた。
 武器屋と言っていたが・・。
 「・・ここ、本当に武器屋か?」
 「さぁ・・・多分武器屋なんじゃないかしら?」
 不安に顔を曇らす誓の隣で、武器が置いてあるなら武器屋よ〜とでも言いたげな面持ちで立っている奏。
 ・・・ある意味最強である。
 「このなかに冬弥は本当にいるのか?」
 「リディアさんの言うことに頼るしかないわね。」
 奏はそう言うと、重たい木の扉を押し開けた。
 そうして聞こえてくる懐かしい声・・・。
 「っだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!テメェは!何度言ったら分かるんだっ!ソードは右が鞘、左が切っ先!んなバラバラに置いてどうすんだっ!!」
 「・・・ほんに主は五月蝿いのぉ。良いではないか、そのような些細な事は。まだ若いのにそのような事に神経をすり減らしておると、長生きせんぞ〜。」
 「テ・メ・ェ・は、長生きしすぎなんだよ!っつーか、なんでそんなにアバウトなんだ!?なんでそんなにアバウトなんだーっ!!!ソードとナイフを同じ列に並べるな!ナイフはあっち、ソードはこっち!!長さがバラバラじゃねぇかっ!!」
 「ふぉぉっふぉっふぉ。」
 「“ふぉぉっふぉっふぉ”じゃねぇっ!だーもー!!イーヤーっ!!!だぁれぇかぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!」
 冬弥の絶叫に近い声に、奏と誓は視線を合わせると・・思わずため息をついた。
 何処に行っても冬弥は冬弥である。
 ギィっと軋む扉を押し開けて、2人はその中に入って行った。
 「冬弥さん。」
 「とおやっ・・・!!???」
 奏が呼びかけ、次に誓が呼びかけようとした時・・・冬弥が脱兎のごとくこちら側に走ってきて、誓に飛びつき、押し倒した。
 熱烈歓迎ならぬ、痴漢注意である。
 咄嗟に受身を取った誓だったが、お尻をしたたかに打ったらしく、痛みに顔をしかめる。
 「いっ・・なんだ、冬弥・・。」
 「冬弥さん、兄さん・・仲が良いのね。」
 「違うだろっ!!!」
 誓がすぐさま反論する。
 冬弥同様、どこにいっても奏は奏である。
 「冬弥・・とりあえずどけっ!」
 グイグイと押しては見るものの、冬弥は力なく頭を振り誓をギュっと抱きしめる。
 「おい、ちょっ・・・冬弥!!??」
 「アイツ嫌い・・。」
 蚊の鳴く声とはこのことだろうか?
 冬弥が今にも消え入りそうな声で言い放つ。
 奏と誓は始めて、部屋の奥に座っている一人の男性を見つめた。
 年の頃は20代後半くらいだろうか・・・?銀色の髪と、赤い瞳が印象的だ。
 「これこれ冬弥、はよう放さぬか。その青年に強制猥褻で訴えられても文句は言えぬぞ?」
 男性はそう言うと、僅かに微笑んだ。
 ・・・随分古めかしい言葉選びだ・・・。
 「ふむ、冬弥がその青年を取ると言うのなら、わしはこちらのお嬢ちゃんを・・・」
 そう言って証拠に伸ばしかけた手を、冬弥が叩く。
 誓も立ち上がり、奏を自分の背に庇う。
 「テメェっ!!いい年ぶっこいてなに見境なくっ!!!奏、誓!変態馬鹿から離れなさいっ!!」
 ・・・言われなくても・・。
 誓が奏を既に安全圏内に非難させている。
 「わしが変態馬鹿と言うならば、冬弥はなんじゃ?強制猥褻痴漢変態迷惑男か?」
 冬弥が誓の前に立ちはだかり、壁になる。
 「テメェは、ぜってーにコイツラに近づくな!ち・か・づ・く・なっ!!」
 「ふむ、かわゆぃお嬢ちゃんと綺麗なお兄ちゃんは惜しいが・・・冬弥を怒らせるとろくな事にはならなさそうだからな。ここは一先ず引くとするか。」
 男は実に残念そうにそう言うと、ストリと腰を下ろした。
 「それで冬弥さん。この方は?」
 「変態馬鹿ならぬ、この武器屋の主だ。ちょっとな、美麗の事について情報を貰ってたわけだが・・・。」
 冬弥の身体がワナワナと震える。
 「情報をくれるかわりに、散々ここでコキ使われたんだっ!!!しかも、アバウトなこの変態馬鹿のせいで仕事は増えるし、イライラするし・・・」
 以下はエンドレスで冬弥が文句の限りをぶちまける。
 永遠と続く言葉の中で、変態馬鹿と言うフレーズは少なくとも10回は言っていた。
 「あ〜ったりまえじゃー!世の中にそうそうタダのものが転がってると思っとる主が悪い。ギブアンドテイクじゃー!」
 ふぉぉっふぉっふぉと、高らかに笑う男性はしたたかだ。
 そして・・・きっとこの中で最強の人物だと思う・・・。
 「まぁ、主は良く頑張った事じゃし・・・。待ち人も来たようじゃし、そろそろ解放してやるかの。ほれ、これはわしからのプレゼントじゃ。」
 そう言って机の引き出しを開けて、中から茶封筒を一つだけ取り出すと冬弥に投げた。
 「なんだこれ。」
 「主ら、ダルワイブに向かうのであろう?それならばここからは馬車を使った方が速い。光速馬車と言って、少々危険な道を走る馬車だが・・かなり早くに着けるじゃろう。」
 男はそう言うと、小さく“わしゃーもう、使う予定がないからのぅ”と付け加えた。
 「ジジィ・・・。」
 「それはタダじゃー。なんの見返りもいらん。主はよく働いてくれたからのー。」
 男が立ち上がり、冬弥の肩をポンポンと叩く。
 「もし機会があればまた寄りなされ。なんのもてなしも出来んがのぉ。」
 「ジジ・・・」
 「無論、お嬢ちゃんとお兄ちゃんも来るのじゃー!」
 そう言うと、男性は奏に抱きつき、すかさず誓に抱きついた。
 なんと言う早業だろうか・・。
 奏はあらあらと言う感じで微笑んでいるが・・その他、2人の男性人はわなわなと震えている。
 「・・・っこんのぉ、変態ジジィーーー!!!!!おら、誓、奏!行くぞ!!変態馬鹿菌がうつる前にっ!!!」
 冬弥はそう叫んで、奏と誓を引っ張ると、木の扉を豪快に開けた。
 「ふぉぉっふぉっふぉ〜。」
 「クソ。・・・・・・なんかあったら、また来っからよ。」
 「良い旅を。」
 扉が閉まる寸前、男はそう言うと、僅かに微笑んだ。
 「冬弥さん、あの方は・・・」
 「美麗に関して情報を集めてたら、アイツが近づいて来たんだよ。なんでも賢者らしくって・・・美麗の事も、ダルワイブの事もかなり聞けた。ま、その見返りとして結構こき使われたけどな。」
 「賢者か、見た目は若そうだが・・。」
 誓の言葉に、冬弥が微妙な顔をする。
 「あのジジィ・・・自称6千歳とか言ってたけど・・。まぁ、なんとなくだけど納得は出来るな。」
 奏と誓は、あの独特な笑い声を思い出していた。

 『ふぉぉっふぉっふぉ・・・』

 6千歳だろうが何だろうが、妙に納得してしまうのはこのせいだろうか・・・。
 「とりあえず、こっちには誰が来てるんだ?」
 「俺と奏と、リディアと魅琴だ。」
 「そうか。・・・んで、察する所、リデアの千里眼で俺の居場所を突き止めたんだろう?ってー事は、リデアはダウンしてるんだな?」
 「えぇ。そのとおり。」
 「んじゃぁまず、魅琴とリデアと合流するか。俺が調べてた事はその時話すとして・・コレは明日の朝一で行くか。」
 冬弥はそう言って、ヒラヒラと光速馬車の乗車券を振った。


■光速馬車□

 死んだように眠るリディアから少し離れた場所で、4人は円状に椅子を並べた。
 「んで、冬弥。美麗はダルワイブにいるんで間違いないんだな?」
 「あぁ。ほぼ99%間違いないだろうな。俺が聞いた所によると、ダルワイブって言うのは閉鎖的町らしくって・・確実な情報はあまりつかめてない。」
 「“junduntetis”が徘徊する町って聞いたが・・?」
 「あぁ・・・。ダルワイブに住む人々の呼び名だ。ダルワイブについての詳しい情報を知りたければ、メイヴァーに行くしかないだろうな・・・。」
 結局の所、そこで詰まってしまう。
 ダルワイブはここからかなり離れた場所にあり、行くためにはまずジャンゴから光速馬車でメイヴァーまで行き、そこから再び光速馬車でダルワイブに行く方法が一般的だ。
 「ま、明日の朝一で光速馬車に乗り込もうぜ。リデアだって、今夜一晩寝れば回復する。」
 魅琴の言葉で、一同の視線がベッドに横たわるリディアに注がれる。
 「美麗さん、大丈夫かな・・・。」
 「口喧嘩だったなら、なんら心配はしないけど・・・。そういうわけにもいかねぇしな。」
 「・・・1人で不安だろうな・・。」
 ポツリとつぶやいた誓の一言が、心に深く突き刺さる。
 暗く落ち込む窓の外、この見知らぬ世界でたった一人、美麗は何を考えているのだろうか。



 朝、光速馬車乗り場にはそれなりの人が集まっていた。
 一行は早めに馬車に乗り込み、席を確保すると腰を下ろした。
 馬車と言っても、普通のバスと同じ位の大きさがあり、これを引っ張るのは馬よりも大きい見たこともない動物だ。
 2メートルはあろうかと言う、巨大な動物が2頭、太い紐につながれて出発の時を今か今かと待っている。
 「馬車って言うからには、どんなに狭いかと思っていたが・・結構広いな。」
 「そうだね・・・。」
 6人掛けの椅子に5人で座り、光速馬車が発車する。
 窓の外を流れる景色を見ながらダルワイブについて話し合っていた時、甘い声が一同を包み込んだ。
 「あのぉ〜、相席してもよろしいかしらぁ?」
 振り向いた先、金髪の美女が不敵な微笑を浮かべながら一行を見つめていた。
 「どうぞ。」
 すぐに魅琴が席を1人分空ける。
 「ありがとぉっ。」
 美女はそう言って甘やかに微笑むと、ちょこりと腰を下ろした。
 「そぉそぉ、私の名前はぁ、マルケリア・デ・ルーヴって言います〜!マリーって呼んでね〜!以後お見知りおきを、異国からの冒険者さん達。」
 マルケリアはそう言って可愛らしく頭を下げると、ふっと口元だけの笑みを作った。
 「貴方達、ダルワイブに行くの?」
 「・・・そうだが・・・?」
 「今は止めた方が良いと思うわ。“avune-jjneiy cpokne gegskihe”の一人が見つかったの。ダルワイブはお祭り騒ぎだわ。危険よ。」
 「アヴェーヌ・・・なんだ?」
 「“avune-jjneiy cpokne gegskihe”」
 「私達の友人がダルワイブ付近で連れさらわれたんです・・・」
 リディアが説明しようとした時、マルケリアの表情がはたと固まった。
 なにかをじっと感じているような、そんな表情だった・・・。
 「・・ふふ、そう・・・。なぁるほどねぇ〜。貴方達が“zaxaiv”なの・・・。」
 「え・・?」
 「“avune-jjneiy cpokne gegskihe”これが今回の鍵になるわ。見知らぬ国からの冒険者さん。」
 「なんですって・・?」
 「それはどういう意味なんだ?」
 「さぁ・・・ね。」
 マルケリアはすくっと立ち上がると、一直線に窓まで走り、手をかけた。
 「え・・・ちょっ・・・!!?」
 光速馬車は物凄いスピードで走っている。
 今外に飛び出したりなんかしたら・・・!!
 「“amerial-ghoden”」
 「・・・その意味は?」
 「また会いましょう。」
 ふっと妖艶な微笑を残して、マルケリアは窓から飛び出した。
 「なっ・・・!!」
 窓から見つめる先、マルケリアの姿はなかった。まるで、煙のように・・・窓に飛び出した瞬間に姿を消してしまったのだ。
 「それにしても、なんだったのかな・・・。」
 「マルケリア・デ・ルーヴ・・か・・・。」
 ・・突然、ガタリと大きく車内が揺れ、馬車が傾いた。
 「な・・なんだ!?」
 騒然とする車内の中で、前の方から誰かが叫んだ。
 「大変だ!馬車が崖から落ちるぞっ!!」
 光速馬車は、通常崖沿いの平坦な道を進む。
 崖沿いの道は、利用する人が少なく、馬車がスピードを出しても事故になるケースが少ないからだ。
 その代わり馬車は横からの打撃に弱くなる。
 そのため光速馬車が崖から転落する事故がたびたび起こっていた。
 「くっそ・・とりあえず、窓から出ろ!」
 冬弥の声で、まず最初に魅琴が窓から飛び出し、次に飛び出したリディアと奏を受け止める。
 「誓!冬弥!早く来いっ!」
 「いけ!」
 冬弥が誓を窓の方に突き飛ばしたその時・・・バスが失速して大きく車体が傾いた。
 窓に手をかけていた冬弥の手が滑り、バスの中へと引きずり込まれる。
 魅琴が体制を崩しながらも誓を受け止める。奏とリディアが慌てて車体に駆け寄ろうとした時・・・崖が崩れた。
 スローモーションで真下に落ちて行く馬車の窓からは、冬弥の姿は見えない。
 「冬弥さんっ!!!」
 「冬弥っ!!」
 叫ぶ奏とリディアの声も虚しく、馬車は冬弥をその中に抱いたまま、奈落の底へと落ちて行った・・・。
 しばらくしてから遥か下の方でかすかに何かが落ちる音と、水しぶきが上がる音がした。
 「・・おい、嘘だろ・・。」
 魅琴が呆然と崖の先を見つめる。
 「嘘っ・・。」
 奏の呟きは、直ぐに風にかき消された。
 リディアがそっと崖に近づき、その下を見つめた。
 そして、たった一言だけ静かに告げた。

 「この高さから落ちて、生きているはずがないわ。」

 それは全ての時を止めた。
 

          〈END〉


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 ■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  4767/月宮 奏/女性/14歳/中学生:癒しの退魔士:神格者

  4768/月宮 誓/男性/23歳/癒しの退魔士


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 ■         ライター通信          ■
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  この度は『白銀の姫』“片翼の双子〜An oath Dream〜T”にご参加いただき有難う御座いました!
  この先、どうなって行くのか・・・。
  冬弥は現段階では生死不明です。リディアの判断では“生きているはずがない”と言うものですが・・・。
  ちなみに“amerial-ghoden”はカタカナ読みをすると<Aメリアルーゴーデン”になります。ローマ字読みとも少し違う、私独自の読み方ですが・・・。


 月宮 奏様

  初めまして、今回はご参加いただき有難う御座いました。
  奏様はジャンゴではリディアとまわりましたが、如何でしたでしょうか・・・?
  マルケリアは不思議と言うか、重要なキャラですのでこの先ちょくちょく出てくることと思います。

 それでは、またお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。
      “amerial-ghoden”