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<東京怪談・PCゲームノベル>


§時空(そら)から降ってきた赤ん坊

〈厄介ごとは忘れた頃に〉
 平和のような、否、平和な長谷神社。
 長谷茜は、鼻歌を歌いながら神社を掃除している。

 天空剣道場では相変わらず織田義明がエルハンドと仕合だ。
 この所大きな事件がないので、本当に平和だ。
 程よい感じに枯れている隠居のエルハンドや、更に高みを目指すため鍛練を積む幼なじみ。
 契約した精霊・静香ものんびり霊木でお昼寝。
 縁側ではかわうそ?が千利休の真似かその人の格好をして茶をすすっている。ま、坊主にはなっていないが。

――平和ねぇ。
 “ぽわわん”としている茜。
 巫女の時は首の後ろに髪を束ねている。それが髪にたなびく。
 3月だが、寒い。
 此処の連中は鍛えているのでそれほど問題はない。
 まったく、平和な日常だ。


 夕方。
 茜は、洗濯物を取り入れていた。
「うん、よく乾いている♪」
 ご機嫌である。
 ただ、少し時空が歪んだ。
「!?」
 空間や時間に関して敏感な茜は、全てを省略し、“門”の地点を見定める呪文を唱える。
「あ!?」
 “門”は茜の真上にできている。
 上を見上げたとき、何かが落ちてきたのだ。
――それが、“生き物”とわかったら何にせよ助けなくては!
 咄嗟に、持っていた洗濯物であった大きなタオルを持ったまま“何か”をキャッチ。
「ふーセーフ」
 安堵する茜。

 ふぎゃぁふぎゃぁ
――え?
 其れは赤ん坊だった。
「あうー。あうー」
「あーよしよし〜」
「ふぎゃ〜〜!」
 大声で泣き叫ぶ赤ん坊。
「あああ! ど、どうしよう! お父さん!」
 あまりのことで動揺している茜であった。

 一応泣き疲れて赤ん坊を寝かせている間に、エルハンドが時空門を調べて一言。
「8〜10年先の未来から来ている」
 と。
 それだけ言って、彼は去っていく。
「な、何もしてくれないの?」
「私がいたらとんでもないことになる。お前が何とかするんだ」
 と、言って、御隠居さんは去っていく。
「えー。どうしよう」
 しょんぼり、茜。

 たしかに、前に5歳児になった恋人を世話したことがあるが、生後8〜12ヶ月の赤ん坊をどう世話するのかわからない茜であった。
 かといって、静香に訊くのも気が引ける。
「やっぱり、縁だし……私がやろう……」
 溜息を吐く茜だった。
 名前はわかっている。ポケットに入っていた写真に煌と書いていたからだ。


〈育児戦争〉
 茜はまず、育児本を調べて見よう見まねで何とかやってみるわけだが。
 煌が懐かないのが結構こまっていた。
「おむつかえましょうねぇ」
「いやー」
 といって、煌は逃げる。
 所詮ハイハイなので、捕まえるのだが
「ぶー、いやー!」
 と、暴れるので茜は一苦労。
――はうう。
 これだけで汗びっしょりの茜。
 幸い、ご飯(ほ乳瓶)はおとなしくしてくれるので助かるわけだが、未だ赤ん坊なので零したりする。
 長谷親子が一緒に遊ぼうとしても、「いやー!」といって自分だけで遊ぶのだ。
 しかし
「おふろ〜」
「まんまほしぃ!」
 懐かないのに我が儘ばかりである。
「えっと、ほ乳瓶はっ! こうやって〜」
「まんま〜!」
 こんな時に親父もいない。
「あうーどうしたらいいのよー!」
 頭をかき回す茜。
 そして、一緒にお風呂に入ると、煌は茜の胸の中にうずめて抱きついたままだ。
「頭洗うから〜」
「いやー」
 抵抗する煌。
 しかし湯船に入ると、ご機嫌になったようで素直に言うことを聞いてくれた。
 しかし厄介なのは、
「ぶー! まんまー!」
「えー! ちょっとまって〜!」
 ほ乳瓶でなく、茜に抱きついて彼女の胸に触る、煌くんであった。
――我が儘ですな。いや子供はそんなもんですが。多分。



〈よっしーがパパ?!〉
 それから3日が経った。
 茜は煌の世話に奔走している。エルハンドと義明が来ない。何故そうしているのか理由を訊きたかったがエルハンドは言わないのだ。
「い、育児ってこんなに疲れるのね」
 かなりゲッソリな茜。
 少し痩せたかしら? と呟きながら、頑張っている。
 その甲斐あってか、徐々に懐いてくれる煌。
「あかねまぁま」
 そう呼ばれる事が嬉しかった。
 分子により玩具を構成する能力はたしか知り合いにいたはずだが、今のところ確証が掴めないので、連絡は入れない方向にした。
「なぁに? 煌ちゃん」
「あそぼー」
「何して遊ぶ?」
「うんとー」
 と、柱から小麦色が2人を見ている。
|Д゚;) い、いぢめる?
「あれであそぶー!」
|ДT) ! いやー!
 逃げるナマモノ。
 アレは最初の遭遇で思いっきり玩具にされてしまったので怖いのだ。
――実際楽しんでいるかもしれないのだが。
「あら、にげちゃったねー?」
「むー」
 と、疲れていても楽しい育児。
 親のおかげと、元から子供が好きと言うことがそうさせたのだろう。
 母親はいない茜だが、あのぬくもりを覚えている。まだ幼いときの……。
――母親のぬくもりを
 だからだろう。
「あかねまぁま?」
 煌が茜の表情の変化に心配していたようだ。
「ううん。なんでもないよ〜」
 にっこり笑う茜。

「頑張っているか?」
 と、幼なじみが洗いざらしのデニムでやってくる。手には刀袋やら“仕事用具”だ。
「よしちゃん!」
 そのときだ。
「ぱぁぱ!」
 煌は義明に飛びつく。
「え?」
「はぁ?」
 ぽすっと義明の胸に飛びつき懐いてしまう煌。
「よ、よしちゃんの……未来の子供?」
「そ? そうなのか? せんせーは時間軸上で何も言ってないぞ」
「隠した理由は其れかぁ…… 分子構成能力をもつ子はかわうそ?から聞いているけど? まさか……あの人を振って」
「まて! 早とちりするな! いや、それはわかっていっているだろ! 時間領域や時間界は専門外だが、大体の真実は……って其れを久々に持ち出すな!」
 何とか説得しようとしている義明だが、既に茜は「神格ハリセン」を持っている。
 煌は何かまた興味が湧いたのか、義明から離れる。今の修羅場などお構いなく、だ。
「まてー! ストレスを俺にぶつけるなぁ!」
 長谷神社に久々のハリセンの音。
 除夜の鐘より良い響きである。
――義明が言っていることは100%正しい。
――茜は義明に怒っていたのだ。



〈おわかれ?〉
「まったく、煌ちゃんが有る程度の年齢の人を見ると“ぱぁぱ”って呼ぶってことぐらい、先見でわかるだろ? だからせんせーと俺や男連中は避難していたんだ。俺は全員から確認のために実験台とお前のストレス解消用の犠牲者だ」
 顔面にハリセンの跡を残しぶつくさ言う義明。
「……むぅ」
「そーいうこと。この子も誰がパパなのかわかってないらしいし」
「ぱぁぱ」
 懐かれたので一緒に遊んでいる義明。
「というか、タイミング的に良かった」
「ま、そ、そうね」
 義明と茜はお互い顔を引きつって笑う。
 こんなところ恋人に見られたら、とんでもないだろう。
 茜の場合ならまぁ何とかなるとしても……だ。
 
「あ、おうちかえらないと……」
 煌がぽつりと言う。
 ずっと浮かんでいた時空門が動いた。
「あれ? 帰るの?」
 茜は訊く?
 煌は頷いた。
「ばいばい」
 と、時空門を通って、煌は自分の“時代”に帰っていった。
「面白い赤ん坊だったな」
「なによ、手伝いもしない癖して」
 また義明をハリセンで叩く茜。
「でも可愛かったなぁ〜」
 かなり大変な育児体験。
 それは、彼女にとってとても良き経験だったに違いない。

 茜は少し大人びて見えた。


End


■登場人物紹介
【4528 月見里・煌 1 男 赤ん坊】


【NPC 織田・義明 18 男 神聖都学園高等部・天空剣剣士】
【NPC エルハンド・ダークライツ ? 男 神・天空剣剣士】
【NPC かわうそ? ? ? かわうそ?】

【NPC 長谷・茜 18 女 神聖都学園高等部・巫女(長谷家継承者)】

■|Д゚) 通信
茜「うう、つかれたー」
義明「お疲れ」
茜「何て言うか、大事なんだね。こういう事」
エルハンド「そうだな」
茜「全く、手伝ってよ」
エルハンド「其れはゴメン被りたい。隠し子疑惑なんぞ」
|Д゚) よっしーとかわうそ? は災難、なり
義明「まったくです」

茜「しかし……」
義明「うむ……」
茜「本当のパパって誰なのかな?」
義明「知ったらそれは……かなーり怖いので考えない方がいいだろう」
茜「うん……」

|Д゚;) い、いぢめる?
|Д゚) かわうそ? あの子怖い。
|Д゚) にゅー