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<東京怪談・PCゲームノベル>


お願いBaby!


〜OP〜


嗚呼、嗚呼、嗚呼、こんな場所に来てしまって。

君は…トム・ソーヤか…それとも、アリスか?

君の好奇心が、この王宮の扉を開く鍵となったのか?
無邪気に、さまよい歩いて此処まで来たのか?
ならば、猫をも殺すの言葉通り、その身を一思いに喰らうてやろうか?


それとも…、


違うのか?
切なる願いを抱えているのか?
それは、千年の呪いに匹敵する願いなのか?


動かしてみよ。


私の心を。
君の言葉が、私の心を動かせば、或いは…。

嗚呼、或いは、この王宮で飼っている、大事な「奴隷」を貸してやらない事もない。
それとも、この孤独の王の力、奮ってやらない事もない。

さぁ! 言葉を!
私の退屈を癒す言葉を………頂戴。




本編




 親指に、小刀を当てる。
 少し力を入れれば、プツリとした軽い感触と共に、指が切れた。
 滲む真っ赤な血を笑顔で眺め鼻歌交じりに、英語のテキストに擦り付ける。
「なぁにが、この英語のテキストを自分と思ってよ! こうしてくれちゃうんだから!」
 そう明るい声で呟いてはいるが、英語のテキストには、見るからに陰惨な血文字で「探さないで下さい」と記される。
「幇禍君の、ばーかっ!」
 自分の机の上に、血文字の記されたテキストのページを開けておくと、「じゃ、パパ、行ってくるね!」と、屋敷の中に一声かけて、鵺は元気一杯飛び出した。


 父親公認の家出というのは変な感じだが、幇禍を困らせてやろうという明確な意図を持って、外泊するのだから、ある種の家出といえば家出なのだろう。
 元は、幇禍が、鵺との遊ぶ約束をすっぽかして急に入ったとかいう仕事に飛んでいったのがいけなかったし、その際に、英語の宿題をどっさり出して「是を、俺だと思って励んで下さい」だなんて、鬼としか言い様のない事を言い捨てていったのもいけなかった。
 鵺が、コレから向おうとしている場所。
 それは、「千年王宮」という名の、異世界だったりする。
 半年ほど前に関わった事件で知り合った、黒須誠、城ヶ崎竜子、それにリリパット・ベイブという、何だかよく分からない三人が暮らす、異世界の城。
 何故、そんな場所に鵺が行く事になったかと言えば、ただ、自分の養父に幇禍の所業を愚痴り、何とか困らせてやりたいと相談したところ「じゃ、家出すれば?」なんて、父親の言葉とは思えないような事を言われたからである。
 ま、そう言われて「でも、鵺が家出するようなトコは、ぜーんぶ幇禍君分ってるよ?」と言い返す、鵺も鵺なのだろうが。
 で、そんな養父から良いトコ知ってると、紹介されたのが千年王宮。
 お、どっかで聞いた事あるってか、そうだ、ベーやんのお城じゃん。 そういや、ベーやんから、あの、殺人竜娘を送られたりもしたんだよな。 でも、ベーやんんから、恨みを買った覚えはないし、さては、発狂運輸とベーやんって、何か関係があるのかも?と、つらつら考えていると、養父はさらりととんでもない事を教えてくれた。
「まさか、うちのパパの患者さんとはねぇ」
 鵺は、ペタペタと歩きながら「パパ、顔広すぎ」と誇らしいような気持ちになる。
 何だか、近頃友達が出来たみたいで、来てくれてないんだけど、気になるから様子だけでも見てきてよ、連絡しとくらさ、なんて、どうやって異世界と連絡を取り合うのか激しく疑問を掻き立てられるような事を言いつつ、鵺を送り出してくれた養父の顔を思い浮かべ、「ま、いっか」と楽天的に鵺は呟いた。
 大体、鵺自身は楽しい事は大歓迎なのだ。
 正直、当初の目的である幇禍を困らせてやる!という気持ちよりも、今は、「千年王宮」って一体どんなトコなのだろう?と楽しみにする気持ちが強い。
 鵺はスキップせんばかりの歩調で歩きながら、公園の並木道を真っ直ぐ歩いた。
 手に提げた大きな鞄の中には、養父から託された土産が詰まっていて結構重いが、足取りは軽い。
 そのまま、脇目も降らず、並木道を抜ける瞬間、鵺は、もう、『千年王宮』の中にいた。
「ヨシ! パパの言った通り」
 そこは、無限回廊とも言うべき、長く広い廊下だった。
 廊下の両端を虹色の水が川のように流れ、花の様な匂いが何処からともなく鼻腔を擽る。
天井には凝った装飾の施された照明器具が点々と並び、柔らかな灯りを点していた。
「うはぁv たぁのしそうっ!」
 ワクワクした声でそう言いながら、テテテテと軽い足音を立てて再び歩く鵺の後ろに、ぬーんとした重々しい気配が現れる。
 鵺は「ん?」と、不思議に思いながら振り返り、そこに立つ男の姿を見て、目を輝かせた。
薄汚れた麻袋を被り、眼の部分にだけ真っ暗で小さな穴の開いた、上半身裸の大男が大きな鋏を握りしめながらぼんやり立っている。
 いつのまに背後に?なんて思いつつもじっと見つめていれば、ゆっくりと大きく鈍重そうな手を上げ、行けという風に、廊下の奥を指差した。
「んーと、あっちに行かなきゃいけないのね?」
 そう問えば、再び鈍重そうに頷かれて、鵺は「うはぁっv 早速、面白いもん見ちゃった」と喜びつつ、廊下の奥へと向う。
 さて、鵺が歩いている、この廊下にはたくさんの絵や、装飾品が飾られ、また、色とりどり、種類様々な扉も並んでいたりする。
 そのどれもが、何だか目を引くような不思議な品物だったり、扉の向こうから、色んな声が聞こえてきたりして、どうしても扉を開け放ってしまいたい衝動に襲われたりしたのだが、鵺としては珍しくぐっと我慢して、その数々の面白そうな物達の前を素通りした。
 養父から、くれぐれも『千年王宮』の中にあるものを勝手に触ったり、開けたりしてはならないと言われていたし、何より、鵺は早く竜子や、黒須達に会って、この城の中を案内して貰いたかったからである。


 暫く足を進めると、鵺は真っ青な石の壁に、金銀様々な彫刻を施された広い吹き抜けのホールに出た。
 二階へと続く螺旋階段が、ホールの真ん中にあり、その階段の中ほどで、竜子が座って居眠りをしている。
 ピンクのジャージ姿に、便所下駄を合わせ、染めてある事丸分かりな金髪をピンクのボンボンでポニーテイルにしている。
 化粧は、いわゆるチーママメイクというべき派手さで、まさに、THEヤンキー娘!といった具合の姿だった。
 だが、鵺は、そんな竜子の姿よりも、もっと驚く存在を目にして立ち止まる。 
 竜子に凭れかかる様にして、文庫本を読んでいる、あどけなくも賢しげな横顔が、ついと此方を見た。
 飛鷹・いずみ。
 何度か興信所絡みの出来事で顔を合わせ、仲良くなった小学生ながらも恐るべき知識の広さと、冷静さを有する天才少女である。
「遅い」
 いずみは、そう一言言うと、傍らに眠る竜子の身体をそっと揺らす。
 ビクッと身体を跳ねさせるようにして飛び起きた竜子が、キョロキョロと辺りを見回し、それから鵺の姿を目に留めると、「よぉ! 鵺。 話は聞いてるぜ?」と言いながら立ち上がった。 そして、鵺の持っている鞄を勝手に持ち上げ「じゃ、とりあえず部屋案内するわ」と言う。
 鵺は「ありがと」とまず礼を述べた後、「で、いずみは何で此処に?」と二人の顔を交互に見比べながら言った。
 いずみは、チロリとこちらを見て「ある意味では、あなたのせいね」と、静かに言う。
「ほえ? 鵺のせい?」
「ええ。 あなたの為に開けられた入り口から、偶然迷い込んでしまったの。 変な生き物に追い掛け回されたり、逃げ込もうとした扉の中に、逆に閉じ込められそうになったり、大変な思いさせて貰ったわ」
 いずみは、そこまで言って、それから少し笑った。
「ま、ちょっとだけ楽しかったけどね」
 鵺は、その笑顔を見て、「いずみって案外度胸あるよねぇ」と言いながら走り寄る。
「鵺が来るって聞いたから、もう少しだけお邪魔してようかな?って思ったの。 ほら、竜子さんがいれば、怖い事は起こらないみたいだし…」
 見上げてくるいずみの視線にニカッと笑みを返すと、「そりゃ、お姫様方二人を守る位は、あたいにだって出来るよ」と言って、二人の手を左右の手に握り、「さ! 行こうぜ」と元気良く言った。


鵺が今晩止めて貰う客室へと向う途中、「ねぇ、ねぇ、まこっちゃん達は何処?」と、尋ねてみる。
 すると竜子は、憎々しい名前を聞いたというような反応を見せ、「さぁ、ベイブは、玉間にいるけど、誠は何処行ってんだか。 あいつ、時々何にも言わずに姿消すから性質悪ぃよ。 ベイブに聞いても、面倒くさいとかいって答えてくれねぇし…」と、むくれた声で答える。
 何だか、黒須は、相変わらずな黒須らしい。
 そう、鵺は愉快な気持ちになりながら、だが、竜子が黒須の話をしている最中、何故か、いずみが一瞬緊張したように肩を強張らせ、それから、少し目を泳がせるのが気になった。
 普通ならば、爬虫類嫌いのいずみが、半蛇人間になってしまっている黒須の名を聞いて、身を強張らせたと見るのだろうが、人間観察眼に優れた鵺は違う。
(およよ? まこっちゃんに関する事で、なぁにか隠し事でもしてんのかしら?)
 いずみの僅かな表情の変化からそう感じたものの、既に彼女の横顔はいつもの冷静さを取り戻しており、(ま、重大な隠し事じゃないから、いずみも黙ってるんでしょ)と、考えると、鵺は、「ねぇ、ねぇ、荷物置いたらさ、色んなトコ見せて!」と竜子にねだった。


 耳を、柔らかで澄んだ調べが擽ってくる。
 少女二人の声が、重なり合い、離れ、また重なって、うっとりとするような二重奏を奏でていた。
 黒髪の人形がそのまま動いているかのような愛らしい少女が、ベンチに座って歌っていた。
 黒いビロードのスカートに、赤いリボンのあしらわれた蝶の透かしが入った白いブラウスを着、その上に、黒いレースのたくさんついた上着を着ている。
 足は編み上げブーツ。
 髪には、ブラウスについているものと同じ色のリボンがあしらわれ、所謂ゴシックロリータファッションという、着る人間を大変選ぶ服を見事に着こなしている。
 だが、彼女が、こうも皆を硬直させているその訳は、その艶やかな光を放つ黒いスカートの膝の上に、コロリと金髪のふわふわとした髪をした幼女の頭を乗せていたからだった。
 幼女の口はパクパク動き、間違いなく、少女と共に歌っている。
「…あの子も、此処の子?」
 鵺がそう聞けば竜子が首を振り、「膝の上のはともかく、あのヒラヒラした服着てんのは、多分、外からの人間だ」と少し警戒心の滲んだ声で答えた。
 目の前を黒揚羽が飛んでいく。
 竜子が「女の子だったら、こういうトコが好きなんかなぁ?」と頭を掻きながら、鵺といずみを連れてきてくれたのは、真っ赤な薔薇の咲き乱れる、城の中庭だった。
 噴水まで設置してあって、廊下を流れる虹色の水と同じ水が、噴き上げられている。
 中庭と言っても、別に空が見えるわけではなく、上を見上げればドーム型の白い天井が目に入るのだが、この城には窓自体も一つもなくて、ここまで「外」というものを無視した作りになっていると、この王宮自体が一つの異世界であり、全てであるのだろうと、推測できる。
 日の光を浴びていないというのに、見事に咲き誇る花の姿に、この城内に満ちるベイブの魔力というものを感じるのだが、今はそれよりも、もっと不思議な事がある。
中庭に設置してある黒いベンチに腰掛け歌っていた少女が此方を見つめそれから、引き攣ったような声で言った。
「…ようこそ! って、トコかしら? あのシケた面の野郎に聞いてるわ。 貴女が、女王ね。 さ、私を台所に案内して? 女王のお茶会の準備をしなきゃ!」
 そして「クヒッ」と奇妙な笑い声を発し、少女の首をそっとベンチの上に置く。
「早く、体と足、見つけて貰った方が良いわ。 だって、そうじゃなきゃ、踊れないじゃない」
 そう言いながら、こちらへと近付いてくる少女に、竜子が穏やかな声で尋ねる。
「お嬢ちゃん。 あんた名前は?」
 すると少女は、スカートを摘み、貴婦人のような仕草で一礼して言った。
「お初にお目にかかるわね。 ウラ・フレンツヒェンよ。 覚えなさい」
 傲慢な、だが、その物の言いがこの上なく似合う少女は、中庭を見渡す。
「この庭は中々良いわ。 赤い薔薇と、黒い蝶のコントラストが素敵だもの。 あのシケた野郎の城にしちゃあ、まぁ、上出来ってなものよ」
「そりゃ、どうも。 で、嬢ちゃん、どうしたんだ? あんた、迷子かい? どうも、ベイブに会ったみてぇだが、それにしちゃあ、度胸が据わってんじゃねぇか? エリザと遊んでくれてたみてぇだが…」
 顎で、生首の少女を差し示して「怖くないのかい? アタイなんか、最初見たときゃ、悲鳴をあげたんだけどね」と竜子が言う。
 ウラはつまらなそうに一つあくびをして、「文字通り、手も足も出ないようなモンを、何であたしが怖がらなきゃなんないのよ。 ばっかじゃない」と言い捨て「で、台所よ。 台所。 この馬鹿みたいな城を勝手に探し回ろうとしたのだけど、やっぱ非効率的だから、貴女の事を待ってたのよ。 案内なさいな」と勝手に話を進める。
 竜子は弱ったような表情を見せ、それから「ま、ベイブも知ってるって事なら、大丈夫だろう」と呟くと、「ついてきな」と言い、先頭に立って歩き始めた。

この時はすっかり忘れていたのだが、竜子はかなりの方向音痴だったりする。

 で、まぁ、竜子についてった結果、当然のように迷った訳だが…。



「もーーー! 信じられないってか、ばっかじゃねぇの? クソがっ! てめぇの住んでるトコで、迷ってどーするよ? おい、脳みそ足りてんのかよ、てめぇはよぉ!」
 竜子に物凄い罵詈雑言を並べ立てるウラと、「わ、あの絵、凄い! 中の人が、踊ってるよ?」とはしゃぐ鵺。
「客室が、あちらの方角だったという事は、平均的屋内構造の在り方としては、大体、東の方角の…」
冷静に道を探り始めるいずみと、少女達は三者三様の反応を見せているが、方向音痴女王竜子は、ガクリとうなだれたまま「あたい情けないよ。 半年以上住んでるトコなのに、案内出来ないなんて…」と呻いた後、「でも、てめぇは言い過ぎだー! このお竜さんを舐めんなよクソガキがー!」と吼えながらウラに掴みかかる。
そんな馬鹿騒ぎを余所に、「ん、っと、そうね、うん。 多分そうなんだわ」と一人納得の様子を見せたいずみが「じゃ、行きましょうか」と冷静な声を三人に掛け、テクテクと今まで歩いてきた方向とは全く逆の方向に歩き始めた。
 
「で、何で着くんだ? いずみ、お前、もしかして、超能力者か? テレパシーか?」
「テレパシーというのは、能力単体を差すものであって、能力者のことはテレパシストと言います。 それから、これはテレパシーでもなんでもなくて、王宮内の建築様式と、中庭や客室の位置から、台所の場所を推理しただけであって、知識さえあれば誰でも出来る事です」
 いずみはそんな、「や、普通は知識あっても、絶対無理だよ」というような事を飄々と答え、それからピカピカの広いキッチンを見回す。
「とりあえず、台所番が手伝ってくれると思うから、好きにしなよ」なんて、竜子が言うまでもなく、ウラは勝手に台所内を闊歩し、色んなものを漁りだしていた。
「クリームを泡立てたり、生地を作るのに、ボールと泡だて器がいるわ? それに、間に挟むフルーツや、バニラエッセンス、小麦粉に卵! とにかく、ケーキの材料が欲しいのよ」
 そう言いながら、まるで業務用冷蔵庫並みに大きな冷蔵庫の前に立つ。
 鵺も、あの中身はなんだろうと興味を引かれて走りより、いずみも後に続いた。
「うんっ! んっ! んはつ!」
 ウラが、冷蔵庫の取っ手を掴み精一杯引っ張っているようだが、扉はビクともしていない。 鵺やいずみも、一緒になって取っ手を掴み、引っ張ってみるも、開きそうになかった。
「はいはいはいっと、そこはね、こいつがないと開かねぇんだよなぁ」
 そう言いながら、竜子がひょいと、薬指を取り出す。
 あの時、自分で切り落とした、王宮の鍵となる指だ。
 その時一緒にいた能力者によって、指自体はまた再生しているのだが、まぁ、よくもあんな恐ろしい事をやったというべきであろう。
 竜子は、自分の切り落とされた指を、取っ手の部分にある小さな穴に差し込むと、ぐるりと捻った。
「この鍵はな、王宮全ての部屋の鍵となってんだ。 ま、だからといって無闇矢鱈に開けると、命を失いかねねぇがな」
 かちゃりと音が聞こえ、竜子が取っ手を掴んで引っ張る。
 音もなく開いた冷蔵庫の中身は、見た事もないようなものばかりが詰まっていた。
「りゅ、竜子さん、これ、一体何?」
 いずみが震える指先で、ピンクやブルー、グリーンの入り混じったぶよぶよとしたスライム状の物体を指差す。
「ん? 是か? こりゃ、結構美味いぞ? 食ってみるか?」
 竜子が、無造作にそのスライムを引きちぎり、いずみにひょいと手渡した。
 小さな手の中でぶるぶると震え、しかも、にょろりと細い触手を伸ばしだすスライム。
「ひっ」
 いずみが小さな悲鳴をあげ、こちらを見てきたものだから、鵺がにっこり笑って「鵺にも一口頂戴」と竜子に強請った。
 信じられない生き物を見るような視線に晒されつつ、ぱくりと口に放り込んでみる。
 ぐにぐにとした、グミに似た噛み心地なのだが、一噛みごとに、まるで果汁たっぷりの甘酸っぱいフルーツを噛んでいるようなジュースが溢れ出てきて、凄く美味しい。
 目を細め「…オイシー」と溜息を付く鵺に後押しされたようにいずみも口の中に放り込み、ぎゅっと目を瞑って噛み締めた後、鵺と同じうっとりした表情を浮かべた。
「そっちのお嬢ちゃんには、これが良いかな?」
 竜子が、銀色の触ったらすぐ崩れ落ちてしまいそうな程に繊細な小さな薔薇を取り出し、そっとウラの掌に載せる。
「ベイブの大好物だから、内緒な?」
 そう唇に指を当てて言われ、「フン」と鼻を鳴らしたんだか、返事したんだか分らない言葉を返すとウラはうっとりと銀の薔薇を見下ろし、それから口の中にそっと運んだ。
 ゆっくりと口の中の感触を楽しむように目を細め「溶けてしまったわ。 でも、なんて、美味しいんでしょ!」と感極まったようにウラが言う。
「ねぇ、こんな物、何処で手に入れたの?」
 ウラの問いに、竜子は首かしげ「何か、ベイブは、冷蔵庫が作ったとか言ってた。 確かに、こん中には知らない内に、知らないもんが一杯出来上がってんだ。 この台所は、誠がたまに使う以外は、殆ど使ってなくて、飯なんかも、冷蔵庫が作ってくれるもんを適当に暖めたりして食ってるからなぁ…。 や、よく分んないんだ、実際」と毎日自分が食しているものだというのに、そんなアバウトな事を答えてきた。
あまつさえ、「でも、今まで一度だって、腹痛くなった事ぁねぇから、大丈夫だろ」と、いい加減な事を言っていて、流石だなぁと、なんだか感心すらさせられる。
(ま、あんだけ美味しいんだから、身体に悪いって事はないでしょ)と、根拠のない確信をしつつ、「でも、この中から、ケーキの材料を探し出すだなんて、大変じゃない?」と問えば、「や、こんなかから探さなくとも…」竜子が振り返り、キッチン台を指す。
「もう、全部揃ってるから」
 三人揃って振り向けば、確かに、材料が山積みになっておいてある。
「おお、張り切ってんなぁ、台所番」
 どこか楽しげな口調の竜子に、「ねぇ、台所番って、どんな人なの?」と聞こうとして、どーせ、この王宮の住人なんだし、変な奴なんだろうと思い直した。
 ウラは、そもそもそんな疑問すら抱かないのが、喜々とした様子で材料に飛びつくと見ていてヒヤヒヤするような手付きで、ボールに材料をぶちまけ、かき混ぜ始める。
「ほら、ぼさっとしてないで、オーブンを誰か暖めて? それから、誰か平行してクリームを泡立てて頂戴!」
 ウラがそう言うのを聞いて「調子狂うなぁ」と言いつつオーブンに向う竜子と「貴女、料理はからっきしだったわよね?」と鵺に確認した後、クリームを泡立てだすいずみ。
 何だか仲間外れになったような寂しさがあるが、実際、料理が超絶苦手な鵺としては何も言えない。
 台所の隅にあった椅子に腰掛け、「ね、ウラ。 何で、ケーキなんか作ろうとしてるの?」と聞けば、ウラは「クヒッ…。 そりゃ、あの野郎がシケてたからよ。 シケて、凹んでぺっちゃんこ! そういう時は、甘い物が定番だわ? いつもはデリクしか食べる人がいないんだけど、今日は四人もいてくれる。 クヒヒッ。 腕が鳴るわね」と答える。
「へー、そんなもんか…」と料理を忌み嫌う鵺は呟き、それから竜子に視線を向けた。
 オーブンの温度調節をしている竜子の、困惑気味の横顔に「ね、まこっちゃんは、此処で何を作るの?」と、先程引っ掛かった事を聞いてみる。
「焼きそば」
「焼きそば?」
「ん。 ベイブが、一度あいつが昼に食ってんのをつまんで、すげぇ気に入ったんだ。 あと、何か、野菜炒めとか、ほら男のやもめ暮らし長ぇから、自然身についた簡単な料理とかが、誠は妙に美味くて、あたいもよく作って貰ってんだけどな…」
 そこまで言って竜子は、やっと温度設定できたのだろう。
立ち上がると、「でも、変な感じだぜ?」と小さく笑った。
「ほんの半年前までは、こんな異常な場所で、異常な暮らしなんてしてなかったのに、今じゃ、まだ道に迷いはするけど、こんな城で三人で焼きそば食ったりしてんだもん。 誠はさ、結構世話焼きでさ、ベイブは、殆ど何にも出来ない野郎でさ、あたいも、何だかんだと失敗ばっかりするもんだから、マジ、ほとんどお袋かよ?って感じで、ベイブの世話やら面倒やら見てて…、あたいに小言言って、でも、自分はちゃらんぽらんで…」
 竜子の言葉を聞き鵺は笑って言った。
「良かったじゃん」
「え?」
「異常でも何でもさ、とりあえずは、まこっちゃん元気出た訳だし、一緒に焼きそば食べれるようになった訳だし…とにかく、良かったじゃん。 全部捨てて、此処に来た甲斐あったね」
 竜子は、少し口を噤み、それから微笑み返すと、「ま、そうかもな」と優しい声で答えた。




「ほんとに、食堂に、運ばれてるんですか?」
「おう。 ウチの台所番は優秀だぜ? ちゃあんと、セッティングしといてくれるよ」 
 いずみと竜子がそう会話しながら前を歩いている。
 ウラが、「デコレーションをするから、少し待ってなさい!」と言った後、一人奮闘して出来上がったケーキは、その全貌を見せてもらえないままに、台所に置かれていた。
 自分達が、食堂に移動する間に、ケーキも食堂に運ばれ、お茶などもセッティングされているという竜子の話だが、そんなに便利なシステム、是非自分の家にも導入したいと、鵺は夢見てしまう。
 そんな風に四人連れ立って、廊下をのたりのたりと歩いている時だった。
 突如、ドスンッ!といった重い音と、「イッテテテテ…」という男の呻き声が、鵺がいずみ達と出会った螺旋階段の辺りで聞こえてきた。
 一瞬顔を見合わせ、それから、皆同じタイミングで走り出す。
「客か? 今日は、どうなってやがんだ?」
 そう訝しげに竜子が呟き、皆、階段前に辿り着くと一階から登ってくる階段の途中で、ひっくり返っている男の姿が目に入った。
「シオンさん?!」
 いずみが、驚いたようにその名を呼ぶ。
 シオン・レ・ハイ。
 鵺も、何度か会った事のある、紳士的で、柔らかな物腰が印象深い、素敵な男性である。
 だが、出会って早々なのだが、シオンは、かなり大ピンチな状況だった。
 鵺が、王宮で一番最初に出会った、大鋏を持った大男が、倒れているシオンの頭部分に立ちの、彼に鋏をつき立てるようにして振り下ろそうとしている。
(うあ、血の惨劇が、起こっちゃうわけ?)と、鵺がドキドキした瞬間だった。
 

「ジャック!!」

 階段の上から、堂に入った、迫力のある声で竜子が、大男の名らしきものを呼んだ。
「ジャック! てめぇ、んな所で何してやがんだ!」
 ドカドカと階段を駆け下りる竜子に、シオンがぽかんとした声で「お、竜さん?」と呟く。
竜子は顔を緩ませ「よぉ、シオン!」と気さくに声を掛け、まるで大男から守るようにシオンの側に立つ。
「何で、此処に?」
「そりゃ、おめぇ、此処が千年王宮だからに決まってんだろぉが」
 竜子が明快な声でそう答えた後、鵺もシオンに声を掛ける。
「オーッス! シオンさん、おっひっさぁ〜♪」と明るい声で言えば、「鵺、はしゃぎすぎ…。 シオンさん、命からがらのピンチを脱したばかりなんだから、もうちょっと気遣ってあげなさいよ」といずみに窘められた。
ウラは何がおかしいのか口に手をあて「クヒッ…クッ…クククッ…ヒッ、ヒヒヒヒッ」という引き攣ったような笑い声をあげている。
「えーと?」
 シオンがキョトンとした表情のまま、「鵺? いずみ? どうして、此処に」と問うと、鵺が答えるよりも早く、ウラが「あたしは、ウラよ! ウラ・フェンツレン!」と叫び、「さぁ、言い直して! 質問を、頂戴?」をと言い優雅な笑みを浮かべた。
 何のこっちゃと、鵺は思えどシオンは、その訳の分らない迫力に押されたらしい。
「鵺と、いずみと、それからウラは、どうして此処に?」
 なんて言い直している。
 するとウラは満足げに頷いて、「馬鹿ね。 決まってるじゃない? 退屈だからよ! さ、お茶会が始まるのよ? いらっしゃい」と告げた。
 何が何だか分からない、というような顔をするシオンに、そりゃそうよねぇと思いつつも、だからと言って、自分もこの城の事は良く分かってないのに、何て説明してやればよいのかが分らない。
 とりあえず、階段に視線を走らせて見れば、先程「エリザ」と呼ばれていた少女の胴体らしきものがバレリーナの衣装、チュチュを着て、ゴロリ、ゴロリと転がって階段を降りているというか、落ちていた。
「アラ! こんな場所に…」
 ウラが、そう呟く。
 シオンはきっとアレを踏んで転んだんだなぁと思っていると、エリザの肢体はシオンの隣を擦り抜け、転がっていく。
「エリザ? 頭なら、中庭で歌っているのを、見かけたぜ?」
 そう竜子は、肢体に声を掛け、それから、「ったく、今日は千客万来だな」と頭を掻いた。
 ウラが、「クヒヒッ」と笑い、「お茶は、大勢の人間で頂いた方が楽しくてよ? ほら、そこのお前も、とっとと登っていらっしゃいな。 あたしの手作り絶品ケーキを、食わせてあげるわ」と、高慢な口調でシオンに言う。
 だが、シオンは、口調なんていう些細な事は気にならないのであろう。
ケーキという言葉に顔を綻ばせ、「はい! じゃあ、お邪魔します」と、即答していた。
 呆れたように眼を瞬かせ、「あんた、ほんと、適応力高いトコ変わってねぇなぁ」と竜子が呟き、それから大男に「ジャック、持ち場に戻れ。 ベイブは、どうせ全てお見通しなんだ。 証拠隠滅だなんて、ケチ臭い真似すんじゃねぇよ」と、叱るかのような声で言う。
 大男は、「ぐぅぐぐぅぅ…」と唸って首を振り、シオンを、丸い指で指し示した。
「ああ、良いんだよ。 コイツは、あたいのダチだ」
 竜子の言葉に、残念そうに「うぐぅぅぐぐぐ…」と一つ鳴いた後、彼はのそりのそりとその場を立ち去った。
「すっごいですね、お竜さん」
 あんな大男に、言う事を聞かせる事が出来た竜子を褒めるシオンに、竜子は苦笑しながら首を振り「そりゃ、あたいがベイブから鍵を貰ってる『奴隷』だかんね。 元々の、王宮付きの奴らは、言う事聞かざる得ないんだ。 あたい自身が凄い訳じゃないよ」と言い、「ま、折角来てくれたんだから、一緒に茶飲もうぜ?」とシオンの手を引っ張って起こした。



「公園から?」
「ええ。 お腹空いたなって思ってふらふらしてたら、何だかこういう場所に来ちゃってて…」
 そう何故、自分が此処に来たのかを説明するシオンの言葉を聞き、鵺は、ペロリと舌を出して「うん、それね、多分、鵺のせい」と告げる。
「え?」
 そう短く問い返されれば、「鵺ね、ある用事があって、此処に来る事になったんだけど、その時に、ベイブさんに公園に入り口を開けて貰ったの。 で、多分、その入り口が閉じない内に、シオンさんが迷い込んじゃったんだと思う」と言い「でも、ほら、此処ってかなり楽しいからさ、来れて良かったね!」と、先程殺されかけたシオンに、それでも呑気発言をかましてみた。
だが、シオンも大概呑気なのだろう。
「うーん、そうなのかなぁ?」と首を傾げつつも、うっかり同意してくれるシオン。
「いや、そこは、ちゃんと否定しましょうよ」といずみが言うのだが、「あら? 今から、あたしのケーキを食べれるのよ? 全ての嫌な事が、その幸運で全部帳消しだわ!」とウラが笑い、黒いビロードで出来た美しいスカートを花のように広げてクルリと回った。
 竜子がそんなやり取りに苦笑を浮かべ「ほら、嬢ちゃん方、騒いでっと迷子になんぞ」と言いながら、ウラと鵺の手を掴んで歩き出す。
「いやいや、方向音痴なあんたが、一番の迷子候補だよ」とは、流石に口に出さず、鵺は大人しく手を引かれて歩き出した。
 背後でシオンも、慌てていずみの手に手を伸したらしく、「私は、迷子になんてなりません」と冷たく言われている。
あまつさえ「あ、でも、シオンさんが、迷子になるか…」と、いずみは小さく呟いて「やっぱ繋いで下さい」と手を伸ばしていた。
「うう。 いずみ、私の事、何だと思ってるんです?」と眉を下げて問うシオンに、無表情で「大きな子供」といずみが告げる。
 いずみの言葉を聞いて、鵺とウラは一緒に笑うと、「大人はみんな、大きな子供よ?」とウラが言い、鵺は鵺で幇禍の事を思い浮かべながら、「特に男はね」とこまっしゃくれた事を言った。



食堂は、とてつもなく広い部屋だった。
日頃、こんな場所で三人で食事をするだなんて寂しすぎると感じつつ、鵺はぐるりと部屋を見回す。
真ん中にどんと置かれた長い白いクロスの掛かったテーブル。 そこにどんな宴会でも開けそうな位たくさんの椅子が並べられている。
 シャンデリアや、内装の品々も、豪奢で、でもやっぱり不思議で、テーブルの上にある銀の燭台は、シオン達が部屋に入った途端に火が点っていた。
 テーブルには、大きなお皿にてんこもりにされたケーキが乗っている。
 ウラが作ったケーキだ。
 竜子の言うとおり、きちんと運んでくれている。
 だが、ケーキには、上から丸々生クリームが掛けられていて、何が何だかというか、どういう種類のケーキかすら判別できない状態になっていた。
(わぁ。 デコレーション、ウラが一人でやってたけど、失敗だったんじゃ?)
 鵺は内心、そう呟く。


「………」


 黙りこくったまま、ケーキを見つめる四名。
 然し、ウラは「クヒヒヒッ」と嬉しげに笑い、「さぁ、たらふく食いなさいな! すべて、あたしの手作りよ? 美味しすぎて、ポックリ逝っちゃっても、責任はもたないけどね」と言いながら、勝手に席に座る。
怖いもの知らずというべきか、シオンが真っ先に手を伸ばし、クリームの塊の中から、フォークで一切れケーキを掬い上げ、机に並んでいた取り皿に取ると、ぱくりと口の中に放り込んだ。
「……美味しい」
 小さく呟き、再び、ケーキ皿にフォークを伸ばすシオン。
 そんな彼の様子を見て、見た目に反して味は良いらしいと悟った、鵺やいずみ、竜子も席に座り、ケーキに手を伸ばす。
「うん。 美味い。 ウラ、これ、美味ぇよ!」
 竜子がそう言うのを、「フフン」と笑って「当然でしょ? 他に、どんな味がするって言うの?」とウラが言えば、鵺は、正直に「見た目は、白いアメーバって言うか、細胞分裂間近?みたいな、どう見たって、コレ食べ物じゃないよ感があるけど、味は美味しいね」と答えた。
 当然というか、ムッとした表情をして、「鵺なんて、オーブン一つ満足に操れなかったくせに!」とウラが言ってくる。
鵺は、せせら笑いながら「だぁって、鵺は、オーブンなんて使えなくても、幇禍君が、美味しい料理作ってくれるもーん」と言い返した。
 しかし、いずみが「でも、幇禍さんとは喧嘩したんでしょ? さっき、『あんな出べその事なんて、もぉ知らない!』って言ってたじゃない」と、先程のケーキ作りの最中、手の空いたいずみに暇だった鵺が愚痴交じりに話した、彼女の『千年王宮』に来た理由を指摘してくる。
竜子が、今の状況の中で、多分最もどうでもいいキーワードに引っかかり、「え? 幇禍って出べそなのか?」と鵺に聞いてくるが、鵺は突然ウラが甲高い声で笑い出したので、答えるタイミングを逸してしまった。
「あたしは、デリクと喧嘩なんか一度もした事はないわ? だって、あたしは、愛されてるんですもの」と勝ち誇ったように言い放つ。
デリクが誰だか知らないが、きっと、ウラにとって大事な人なのだろう。
だが、愛されぶりじゃあ、きっと負けてはいない。
 今度は、鵺が、むっとして「違うもん! 鵺だって愛されてるもん。 婚約指輪だってほら!」と、キラキラ光るスタールビーの指輪を見せ「貰ってるし〜、喧嘩だって、鵺が我儘言ってるだけだもん」と、「じゃ、やっぱり自分が悪いんじゃん」というような事を自慢げに宣言する。
 ウラは美しい髪を、白い指先で梳くと「ククッ、でもね、出べその婚約者っていうのも、何だか間抜けよね。 デリクは体中の、何処かしこも綺麗よ?」と言った。
「幇禍君だって綺麗だもん。 美形だもん。 渋谷で、よくモデルになりませんか?ってスカウトされてるもん」
「はいはい。 でも、出べそなんでしょ?」
「誰が、そんな事言ったのよ! 幇禍君、出べそじゃないもん!」
 いや、貴方だしと、部屋にいる全員が胸中で突っ込んでいる事に気付かず、もう、何が原因の言い争いなのか忘れ果てながらも、幇禍君だって、何処もかしこも格好いいモン!と、憤る鵺。
 そしていつの間にか手元に現れていた、淹れ立ての紅茶を、グビリと飲み下した。
 いずみが、美しい手付きでケーキを口に運びながら、「男の事で喧嘩出来るって、微笑ましくて良いですね」と、大人びた事を言い、竜子が「まぁ、喧嘩できる程、良い男に惚れてんのなら、それに越したこたぁねぇな」と、相手が子供であるという事を忘れているような言葉を返している。
 鵺とウラがそんな風に一通り言いあった後、竜子がとりなすように「ほら、甘いもん食ってる時は、喧嘩しねぇ、喧嘩しねぇ」と言い、「鵺。 お前ぇ、クッキー持ってきたとか言ってたじゃねぇか。 アレも食っちまおうぜ?」と声を掛けてきた。
 その途端、苛立ち少し忘れ、鵺はピョコンと頷くと、「鵺のパパのクッキーは、見た目は満点、味は30点なんだから!」と、「えーと、それって、むしろ、駄目なんじゃ…」というような事をを言って、竜子と連れ立って食堂の外に出る。
 今晩の自分の部屋に置いてある鞄から、クッキーの袋を持ち出し、「フフフ。 みんな、がっかりするだろうなぁ」と妙な事を期待しつつ、部屋の外に出れば、待っていてくれた竜子が「一つ、くれよ」と言いながらクッキーをつまみ、そして微妙に顔を歪めた。
「見た目や、歯ざわりは良いのになぁ…」
「ね? 三十点って感じでしょ?」
「うん、妥当な点数だ」
 鵺の父の作る食べ物は、見た目は美味しそうなのだが、味はみんな微妙だ。
 美的センスに優れてはいるが、味覚がおかしいという事なのだろう。
 クッキーの味について一頻り話し合いながら、食堂に戻ってきた鵺と、竜子。
「このクッキー…確かに、見た目は良いが30点って感じだぞ…」なんて、竜子が、明るい声で言いながら一緒に食堂に入った鵺は、新しい面子が増えている事に気付いた。
(アレレ? ニィル君? ニィル君も、此処来ちゃってんだ)
親友でもある新座・クレイボーンの姿に、「楽しくなってきたんじゃなぁい?」と益々ワクワクしてくる鵺。
竜子は新座に対して「また、新しい客か」と言う。
 すると新座は「客? 客か。 でも、客は、招かれないとなれない訳で、俺は、ここの城の王様だっていう奴から、追い出されちまったからなぁ…」と首を捻り「客じゃないかも」と竜子に、少し不安げに言った。
 それから、「なぁ、お前、金色だし、この城の住人の匂いがする。 もしかしたら女王か?」と問いかける。
 竜子は、ポリポリと頬を掻くと「ま、そういう風に此処の連中には呼ばれてるな」と答え「ベイブに探せって言われたのか」と聞いた。
「ああ。 女王か、ジャバウォッキーに出して貰えって。 でも、二人を見つける前に、死なないように気を付けろとも言われたから、とりあえず気をつけて来た」
「ベイブの意地悪だ。 自分で出してやりゃあ良いのに、時々、こうやって楽しみやがる。 ほんと、性格悪いよ。 それにしてもあんた、あたいに会えて運が良いよ。 この城、何処がどうなって、どんだけ広いか分りゃしねぇかんな。 あたいなんて何度迷った事か。 一日中迷い続けた時なんか、誠に見つけて貰わなきゃ、飢え死にするトコだった」としみじみ言う竜子に、いずみが「や、それは、ただ、竜子さんが方向音痴なだけでは」と小さく呟く。
 鵺は、そんな二人の会話に嘴を突っ込み「やっほ。 ニィル君。 元気ー?ってか、こんな場所で会うなんて、超奇遇じゃない?」と声を掛け、新座が嬉しげに「ガー!」と声をあげると「鵺! お前もか! どうした? しかも、何か美味そうな物持ってる!」と言いながら、クッキーの入った紙袋に手を突っ込む。
 そして、何枚かを一気に噛み砕き、飲み下した後、何故か、ウラをちらりと見てから、「いただきます。 でも、何か、あんま美味くない…」と神妙な声で告げた。
(やった、がっかりしてる!)
 いただきますの挨拶が明らかに遅い事より、予想通りの反応が得られた事のほうが嬉しい鵺。
 新座は、勿論そんな鵺の気持ちなど知るはずもなく、よっぽど腹が減っているのか、勝手に茶をポットから直接飲み、ケーキへと手を伸ばす。
 何だか浮き立つような気分のお陰で、鵺は、先程の喧嘩の事なんかコロリと忘れてしまい、「このクッキー、ウラのケーキのクリームを付けて食べれば、何とか味誤魔化せるかも!」と天真爛漫な声で言いながら袋の口をウラに向け、ウラも何か良い事があったのか、機嫌良く、「アラ! ホントに、見た目は美味しそうだ事!」と言い、袋の中に手を伸ばした。 
  

そうやって暫くお茶を楽しみ、鵺は口の中が甘い味一色になってしまったので、「こうなったら、アレも持ってこよ!」と言いながら、予め置いておかせて貰った『臭い乾物詰め合わせ』を取りに食堂に向う。
道は流石に覚えたし「ここら辺うろついてる奴はそんなヤバイ奴いねぇし、鵺は、ベイブが客人として迎え入れるよう予め知らせてあるから」と竜子に言われたせいもあって、警戒心のカケラもなく、廊下を歩く。
 そして、さして変な生き物に会う事もなく台所に辿り着いた時だった。
「…竜子は料理出来ねぇし、ベイブは言わずなものがだし…俺は…」と、何事か喋っている黒須の姿が目に入った。
思わず素っ頓狂な声で、「あっれぇぇ? まこっちゃん? まこっちゃんだよね? ね? あ!」と言い、それから、シュライン・エマもびっくり眼で此方を見ている事に気付く。
「エマさんもいんじゃん!」と言いながら、台所に入りハイテンションで「おっひさぁって感じじゃない? 元気してた? 元気してた?」と二人に声を掛ける。
 黒須は、何だか無闇矢鱈に、はっちゃけた笑みを浮かべると「うん! 久しぶり! 元気そうで何より!」と、言った後、「よし、じゃあ、何より先に、お前、アイツに会え! 会って来い!」と表情を変えて怒鳴ってきた。
「は? 誰? 誰に会えば良いの?」
 鵺がそう問い返せば「幇禍さんよ!」とエマも勢い込んで言ってくる。
「あ、貴方をあの人が探してるせいで、私は此処まで、連れてこられちゃって、足だけ女だわ、天井ピエロだわ、恋愛百当番で、沈黙の惑星で、緊張しすぎで、胃潰瘍で…!」
 そう意味の分からない事を並べ立てるエマに、何でこの二人がそろうと、こんなにテンション高いんだろ?と首を傾げ、「相変わらずのハイテンションコンビよね」と鵺は呟いた後、「幇禍君来てるんだ」と言う。
「ふぅん。 此処までも追いかけてくれるっていうのは、ちょっとポイント高いかも」
 ま、地の果てだって追ってきてくれるそうだから、此処くらいは、彼にとってはちょろい場所なのかもしれないだなんて、考えながらも、何だか嬉しい気持ちが抑えられなかった。

そっか。 焦って此処まで追ってきてくれたんだ。

 機嫌なんかとっくに直っていた鵺は「分った。 会ってきてあげる。 何処にいるの?」と、首を傾げる。
 黒須は「玉座。 ベイブのいる、部屋だ。 一人じゃ危ねぇし、案内してやるから、姐ちゃんが茶淹れるまで待ってろ」と答えた。



 エマがコポコポと沸かしたお湯を、茶葉を入れた急須に注ぐ。
「ちょっと、蒸らす時間だけ頂戴ね?」と言われ、鵺は当たりに漂う緑茶の香りに目を細め、「凄い良い匂い。 ね、鵺も欲しい!」と強請った。
 エマは、このお茶と一緒に、桜餅も持ってきているらしい。
 是非とも相伴に預かろうとほくそ笑む鵺。
「さっきまで、紅茶とクッキーとケーキでお茶してたんだけど、緑茶もイケてるよね」
 鵺の言葉に、黒須がそういえばという感じで「な、そのお茶ってのは、お前の他に誰としてんだ?」と問いかけてくり。
 鵺は指折り数えながら、「えーと、シオンさんでしょ? いずみでしょ? あとね、ウラと、竜子ちゃん!」と笑顔で告げた。
 その瞬間、よろめく黒須。
「何で、また、そんなに迷い込んで来やがってんだ…。 しかも、聞いた事ある名前が結構いるし…。 今日は、どういう厄日だ?」
 そう嫌そうに言う黒須に、「アラ、私はみんな知ってるわ」とエマが言い、「つまり、興信所関係者が結構来ちゃってるって事か」と呟く。
「ま、当然と言えば当然なんだけどな。 ここは、よっぽど強い願いを抱いていなきゃ、普通の人間が呼び込まれる事は滅多にない。 あの興信所は、異能力者が集う場所だったんだろ? そういう、何かしら他人とは違う能力を持っている奴の方が、此処の扉は通り易いんだよ」
「だから、自然と、東京では、興信所関係者がこの王宮内に迷い込んでしまったっていう訳か」
 そう納得し、お茶を茶碗に鵺の分も含めて注いでくれると、「じゃ、行きましょ」とエマが言う。
廊下を歩きながら、「ね? 幇禍君きっと、喜ぶわよぉ。 だから、許してあげてね?」と言うエマに、幇禍がこの二人に自分との喧嘩の事を話した事を察し、「うっそ。 幇禍君ってば、鵺と喧嘩した事まで喋っちゃったの? もう、信じられない!」と膨れる。
だが、黒須は「まぁ、そう言わずに、な? お姫様?」と、膨れた顔の底にある嬉しい気持ちに気付いているようで、明るい声で鵺を宥め時だった。
 王宮が微かに揺れ、壁にかかっていた人物画が一斉に「発作だ! 発作だ! 誰かが、赤ん坊をむずからせた!」と叫びだした。
 黒須がはっとしたように、表情を引き締め「やべっ。 何も、こんな時に!」と呟き、「ちょっと走るぞ? はぐれると、やべぇから、絶対見失うな」と言ってくる。
「え? えっと、お茶? お茶、どうすれば…」
そうエマがお盆に載ったお茶を示せば、黒須は苛立ったように、「小人! 出張依頼だ! 後で、茶、玉座まで運んで来い!」と台所の方向に向って叫び「そこら辺置いとけ!」とエマに言った。
 言われるがまま、床に置き、「た、頼みます!」と黒須と同じように台所に向って叫ぶエマ。
 小人って、台所番の人の事? 
 小人だから、姿が見えなかったのか…。
 そう、一瞬ぼんやりと考え込みかけた鵺の耳に、場違いなほどはしゃいだ、奇妙に捩れた男の声が聞こえてきた。
「蛇男! 千年の城に住む魔物! このお城のジャバウォッキー! 呼んでるよ! ベイブが、あんたを呼んでるよ! 早く! 早く! 早く行かなきゃ皆殺しだ!」
 いつの間にか、天井に派手な格好をした道化が立っていた。
 まるで、重力を無視した生き物であるかのように、真っ逆さまに此方を見上げている。
(凄い! この王宮には、こんな、面白い人までいるのね?)と、鵺は心を躍らせたのだが、黒須にとっては、それ程歓迎すべき相手ではないらしい。
彼は一言「うるせぇ」と吐き捨てると、一気に走り出した。
 エマが、その走りに遅れぬよう、鵺の手を引いて駆ける。
(ああああ、道化さんがぁぁぁ〜〜)と、振り返り、振り返りしたら、道化は愉快そうに此方にヒラヒラと手を振ってくれた。
 絵から、そして、ずらりと並んだ扉の奥から、悲痛で騒がしい、狂気じみた声で「ベイブ! ベイブ! 早くあやして! 皆殺しだよ! 皆殺しだよ!」と黒須に叫ぶ声が聞こえてくる。


そして、鵺は、導かれるままに、王の間へと飛び込んだ。



リリパット・ベイブ。
この城の主。
彼との久方ぶりの邂逅は、かなり酷い有様としか言いようがなかった。
「あ、ああ、あっ、来る! クるんだ! ま、誠! 何処? 何処にイる? 竜子! 竜子、来て! 魔女が、また、ま、魔女が、あ、あ、寒い、寒い、寒い…」
 錯乱したように叫ぶベイブが、玉座にいる。
 広い、広い部屋だった。
 虚ろな、凍えるほどに虚ろな空間。
 そこに、ベイブと何故か、美少年めいた美貌の少女、蒼王・翼に、金髪の美丈夫桜塚・金蝉。 そして魏・幇禍がいた。
「お、お嬢さん?!」
 素っ頓狂な声で叫んでいる幇禍に鵺は、むくれた顔で「反省した?」と聞いてやる。
 うんうん、と声も無く頷く幇禍に「じゃ、ま、許してやっても良いけど〜」とそこまで言い「課題の量減らしてよね!」と、こんなチャンスは滅多にないのだから、きっちり要求しておいた。
「う…」と、眼を泳がせる幇禍に鵺は、「減らしてくれるよね…」と、再度重ねて問いかける。
幇禍は、いかにもガクリと項垂れきった風情で「分りました…」と頷いてくれた。
 ラッキー!と思わぬ幸運に「幇禍君だーいすき!」と言えば、「おお! 俺も、大好きだ!」と何だかよく分からないままに首を突っ込んでくる、新座。
「あと、アレだ、おでんと桜餅も好きだぞ? 匂いがするんだ! 喰ってないよな? 俺、確か、その二つは喰ってないよな?」
 そう問いかけてくる新座に鵺は首をかしげて「桜餅は、エマさんのだろうけど…おでんは知らないよ?」と答える。
「えーと、コレですか?」と言いながら、おでんの入った保温パックを掲げてみれば、「うおっ! それだ! 俺は、大根が好きだ」と言いつつ勝手に開けようとする。
 しかし、ヒョイと取り上げ「是は後で、みんなで食べるもんです」と注意する幇禍。
途端に、悲しげに顔を曇らせ、「そっか…。 おでんだもんな。 みんなで食べないとな。 俺が先走りすぎた、悪ぃ」と何故か深刻な声で謝まり、そして「アイツも、腹減ってるから、おかしくなってんのかな? それ、分けてやってくれよ」と、ベイブを指差しながら新座が頼んだ。
 鵺も「そっか、お腹減ってるからべーやんは、おむずかりなのね」と新座の言葉に納得すると、「とりあえず、こんにゃくだけは残しといてって、ベーやんに伝えてね」と言い、それから「言い遅れたけど、この子はニィル君。 で、こっちのが、鵺の家庭教師兼まぁ、婚約者?って事になってる、幇禍君」と、いきなり紹介し始める。
 緊迫した状況の中、かなり浮いた会話をしている事に全く気付かず、鵺は親友と婚約者を引き合わせる事は出来た事に満足し、そして、この騒ぎの要因ベイブに視線を戻した。
 大剣に縋るように、しがみつく様に泣いていたベイブが顔を上げ、「誠? 竜子? 早く、は、やく、来ないと、つ、かまる。 つ、かまったら、壊れる。 こ、われ、る、割れる。割れて、あ、また、寒い…た、すけて、助けて…」と呟きながら、泣きそうに歪められた顔で当たりを見回す。
 まるで、迷子の子供のような、それは酷く弱弱しい姿だった。
「壊れる…ネ。 魔女の呪とハ、かくも恐ろシイ。 差し詰め、この赤子は、その魔女を知らず虜にしてしまった、不運な時の迷子に過ぎないと言う訳、でスカ」
唐突に響く声に、鵺は声の方向へと視線を向ける。
先程は気付かなかったが、ベイブの側に気配なく立つ男の、ダークブロンドの髪が揺れ、群青色の目が、細く三日月の形に歪んだ。
 誰?
 見知らぬ男を凝視する鵺。
男は愉悦に満ちた快哉をあげた。
「何て、興味深イ!」
 
「デリク!」
 
嬉しげな声を上げ、ウラが彼の元に駆け寄る。
 そうか、彼がウラの言っていたデリク。
 彼も、幇禍と同じくウラを追って此処に現れたのだろうか?と想像しながら、「ウラはね、美味しいケーキ作ってくれたんだよ?」と嬉しげに幇禍に囁いた。
「おヤ? 私の姫君。 こんな所にお出でになられて、どうしたんダイ?」
 そう言いながら、壊れ物を扱うような手付きで、その身体を抱きしめ、デリクが笑う。
「ウラ。 御覧なさイ。 アレこそ、究極の愛の形デス」
 彼がそうベイブを顎で指し示した瞬間、バチッ!と音がして、デリクの足元に銀色の光が飛んだ。 それを、ウラを抱えたまま、ヒョイと身軽に避け「危なイ、危なイ。 赤子が強力な力を持つと、加減を知らないカラ、面倒ダ」と飄々とした声で言う。
 黒須が、ずいと進み出て、「お前、何かやったのか?」と問いかけた。
 黒須の声に怒りはない。
 ただ、本当に尋ねているだけという声音。
「何カ? 何カ?とは、何でス? ああ、そうダ、そうダ。 あなた、初めて、お会いしまスネ。 私、デリク・オーロフと申しまス。 以後お見知りおきヲ」
 そう自己紹介したあと、優雅に一礼し、それから首を傾げてじっと、黒須を見る。
「あなたも、随分、面白い身体ダ」
 そう言った後、「そして此処は、面白い場所ダ。 もうちょっと、知りたい事もあるのだけれド…」と言いながら辺りを見回し、それから腕の中のウラを見下ろす。
「お姫様もいらっしゃる事だし、そろそろ帰らねバ」
 デリクの言葉に、ウラはむくれ「折角、女王様のお茶会をしていたのに、全部台無し! デリク、この罪は、『気狂いアリス』のバニラアイスでしか償えなくってよ?」と言う。
「仰せのままニ」とデリクは甘い声で言い、それから黒須に視線を戻した。
「出口、私一人でしたら、無理矢理作って外に出るのですガ、この子がいるので、余り無理はしたくないデス。 この、赤子、宥める事が出来ますカ?」
 そう問われ、辺りをぐるりと見回す黒須。
 そして、全ての面々を見渡すと、黒須はこの上なく、面倒臭そうに顔を歪め、「何で、こんなに、いるんだよ」と呻きそして、「とりあえず、危ないから、ちょっと離れろ。 鵺といずみ…は、外出てた方が良いかもしんねぇ。 そこのウラとかいうお嬢ちゃんも、兄ちゃん部屋の外に出してやんな」と言う。
 何が起こるというのだろう?
 何だか、面白い事が起こる予感がする。
 それなのに、外に出ろだなんて、絶対言う事なんて聞いてやるもんか。
「やだ。 見る」
鵺は頑迷な調子で首を振り、いずみも「子供だからって、お気遣い頂かなくても結構です。 ちゃんと見届けさせて下さい。 大体、貴方の正体であれだけ驚かせて頂いたんです。 もう、何が起こったって平気です」と強い表情で告げた。
ウラに至っては、黒須の言葉など全く聞いていないのだろう。
 デリクの腕の中に納まって、惑っているベイブの姿を興味深げに見つめている。
「…ま、こういう場所でお茶会だなんて呑気な事が出来る子達だもの、それこそ、十八禁にでも引っ掛からなきゃ大丈夫じゃない?」とエマが言い、「そうですね。 もし引っ掛かっても、ちゃんとOMCでチェックしてくれるし」とシオンも身も蓋もない事を言う。
 黒須が、もう、どうにでもしてくれというような憔悴した顔をし、「で、何でこうなったんだ? 何を切っ欠にしたんだ?」と問えば、デリクはニッコリと笑って「魔女」と一言答えた。
 その瞬間、ベイブを囲む銀色の文様がバチバチと音を立てて一層鮮やかに輝き、王宮の揺れが激しくなる。
 ビクンとベイブが一度のけぞり、口を大きく開けると「あああぁぁぁぁああっ! こ、わい、怖い、怖い、あ、こ、ろして、殺して、死にたい、終わりたい、壊して、こわ、して…りゅ、うこ……まこ…と…、ドこ? 何処? 助けて! 何処!!」と、叫び、惑う。
 そんなベイブになんとも言えない視線を送り、それから「知ってるのか?」 黒須が問えば「一応、魔術師ですかラ」とデリクが答え、「騎士団内で起きたあの悲劇については、書物でとはいえ、知識として有しておりマス。 ただ、こうやって、実際に御目文字出来るだなんて、想像もしていなかったですケドネ」と、言葉を続ける。
「然し、素晴らしイ。 千年の呪い。 まさか、本当に有効であるトハ。 この奇跡の目の当たりにして、魔術師としては、捕獲して、どういう人体構造になっているのか、解体でもしてみたいところですガ…」
 そう言いながら、本心を見せない笑みを益々深める、「ジャバウォッキー、許してくれませんヨネ?」デリクが聞き、黒須が「本当に、コイツを殺せるってんなら、何処へだって、連れてってやれよ。 本人もそれを望んでる」と、答える。
「死にたい。 終わりたい。 解放されたい。 そればっかりで、たかが人間の分際で二百年以上も生きてんだ。 誰でもいいや。 コイツ殺せるなら、殺してくれよと頼みたいとこだけどな…」
 そして、一つ溜息を吐く。
「期待持たせるだけ、持たせて、結局、無理でしたって事になるんだったら、許してやれや。 コイツの絶望は、既に今で限界なんだ。 これ以上は酷過ぎる」
 デリクは、笑みを深め「時の魔女の最期の呪に対抗出来る程の、魔術構造を発見いたしましたら、是非、再び此処を訪れさせて頂きマス」と答える。
「ま、せいぜい期待させて貰うわ」
 黒須は気のない声で答え、それから竜子に目を向けた。
 竜子は「お前、ほんっと、何処行ってたんだよ。 どうせ、しょうもない飲み屋とか、競馬とか、そういうのなんだろうけどよ、マジで何も言わず出かける癖止めろよな」とブツブツ言いつつ、黒須の隣に立つ。
「どうだ? イケそうか?」
「んー? ヤバくね? いつも以上にはしゃいじゃってる」
「でも、放っておけば、ここら辺一帯それこそ歪むぞ? そうなると、『道』が変わるし、鍵持ってねぇ、コイツらを無事出してやれる保証がなくなる」
 そんな風に相談しあう二人を見て、「うーん、お嬢さんは無事、旦那様の所へ帰してやらなきゃ駄目だし困ったなぁ」と幇禍が小さく呟くが、鵺はキラリと瞳を瞬かせながら彼を見上げ「ま、いざとなったら、パパに来て貰うから」と、安心させる為にも伝えた。
 あの養父の事だ、此処がどうなろうとも、とりあえず鵺達を現世に戻してくれる位の手段は持ってそうに思える。
「え?」と息を呑む幇禍に、「患者さんを診るのは、医者の仕事でしょ」と、告げれば、裏返った声で「え? ベイブさんって、旦那様の患者さんなんですか?!」と聞いてきた。
「ん、まぁね。 鵺も今日聞いたんだけどさ」となんでもない事のように返答していると、新座が、名残惜しげにおでんを眺めながら「まだ、おでんアイツにやらないのか? 幇禍って、ケチなのか?」と聞いていた。
「んー、多分ね、今、俺が、このおでん片手に、ベイブさんのトコへ飛び込もうものなら、色んな意味で抹殺確実だと思いますよ?」
 そうもっともな事を幇禍が言うと「そうか? 俺だったら、大歓迎するのになぁ」と不満そうに答える新座。
 そんな、ある種和やかな会話を交わされているのを余所に「時間が掛かり過ぎた。 せめて、あの結界内にもう少し近づければ…」という竜子の深刻な声が聞こえてきた。
 つまり、ベイブに近づけないから、彼の発作を止める事が出来ないという訳か。
 そう思いながら、ベイブを取り囲む銀色の文様に眼を凝らす。
とするなら、あの銀の結界を誰かが…。
「…やってやる」
 それは、ドキリとする程に凛とした声だった。
「あの、銀の結界の威力を弱めれば良いのだろう? やってやる」
 そう金蝉が言いながら一歩進み出る。
 翼が、ついと傍らの美丈夫を見上げ「出来る?」と聞けば「構成されている術式こそは違うが、接点を見つけ出し絡ませれば何とかなるだろう」と金蝉が冷静な声で答える。
「何より、俺は、この糞みてぇな場所から、とっとと出ちまいたい。 おい、そこの、二人」
 そう言いながら、金蝉が、ギッと竜子と黒須をねめつける。
「誰だか知んねぇが、その結界の威力は抑えてやる。 それで、この事態の収拾を付けられんだろうな?」
 そう言われ、肩を竦めると、黒須は「ホントに、そんな器用な事やってのけてくれるってんなら、鋭意努力するよ」と答え、竜子は「任せときな!」と請け負った。
 信用出来ないという風に「フン」一つ鼻を鳴らし、それからおもむろに、金禅は懐から銃を取り出す。
そして、金蝉はその銃弾を、ベイブの周りで閃光を放つ結界へと打ち込んだ。
 耳をつんざく音が、ホール内に響き渡る。
 間を置かず、金蝉は複雑な印を両手で組み、術の詠唱に入った。
 すると、銀の文様の上に、金色の梵字で描かれた別の文様が浮び上がる。
 銀と金の光が絡まりあい、一瞬眩いばかりの光を放つと、その銀の結界が放っていた稲妻のような光が収まっていた。
「長くは持たん。 とっとと行け」
 金蝉が、目を閉じ、小さく術を唱え続けながらも、そう早口で二人に告げる。
「どぉも。 あんた、かなり良い腕してんな」
 そう、黒須が言った後、竜子と黒須は一気にベイブに近付き、竜子は前から、黒須は後ろに回り込んでベイブの身体を抱きしめた。


「お静まり下さいませご主人様」


 竜子が、ベイブの耳元に囁く。
「お静まり下さいませご主人様」



「魔女は来ませぬ。 魔女は、来ませぬ。 だって、ほら…」



 竜子が、静かな顔で天を指差す。



「貴方様が、あの魔女めを殺したのだから」



 思わず、その場にいた人間皆。
 黒須と、竜子を覗く全ての人間が空を仰ぎ、そして息を呑んだ。



いた。


玉座の天井にいた。



女が、目を閉じ、手と足に杭を打たれて天井に張り付けにされていた。
両手を開き、足を揃え、胸を深々と一本の槍を突き刺して、女がいた。


 アリス。


 灰色の、時の魔女。



「御覧下さい。 あれが、時の魔女に御座います」
 


デリクが、震える声で「ブラブォー」と呟いた。


  
天を仰いだベイブが呟く。


「ああ…。 アレが、私の罪の証」
 その瞬間無防備に仰け反ったままのベイブの首筋に、長い髪を揺らして黒須が顔を埋め、深々と噛み付いた。

 


「でね、でね、女の子の首がさ、中庭で歌っててね、鵺としては、アレ欲しいなぁとか思ったんだけど…」
「俺は、アレだ! あの、動くぬいぐるみ! アレが欲しい。 ぎゃおと、ケツァの友達に良い感じだしな」
 そう自分達が、おの王宮内で目にした物を語り合う、新座と鵺。
 鵺は緑茶片手に、味噌を塗り、大層味のしゅんでいるこんにゃくを口に運ぶと、新座の足元をうろうろしている鉄の恐竜ぎゃおに目を留めた。
 何か美味しいものはないのかという風にキョロキョロしている姿に目を細める。
 デリクとウラは既に、自力で王宮を脱し、翼と金蝉も、王宮を辞している。
 残っているのは、鵺、幇禍、新座の能天気三人組と、いずみにシオン、それにエマだけだ。
「変なもん喰うなよ〜?」と、ぎゃおが新座に諌められた。
「ぎゃお?」
 首を傾げ分っているんだか、いないんだかの返事をしたぎゃおの仕草がたまらなくて、思わず掬い上げられるようにして抱っこすると、「おーっす! ぎゃお、ぎゃお、ぎゃおう♪」と妙な節で思いつくままに歌いながら、弄繰り回す。
 腕の中でじたばたと暴れるぎゃおの腕を掴んで、ぶんぶんと振ってみた。
「ぎゃお、ぎゃぁお!」
 抗議するように鳴かれ「あんま、虐めんなよぉ?」と新座に釘を刺される。
 前の席ではシオンが、ニコニコと、緑茶を啜り、桜餅を食べながら「やぁ、今日は来て良かったなぁv」と、やっぱりこの人も強者だよなぁとしみじいしてしまいそうな事を言っていた。
 エマは、竜子に「姐さん!」と呼ばれながら、ドクドクと幇禍の買ってきた焼酎を注がれ、いずみはいずみで「…話から察するに、歴史的事実として書物の残る程の過去の遺体が、あのように、完全な状態で天井に残されているという事になる訳で、やはり、それは、此処が異空間だからなのか…どれとも、あの女性自体が特別な存在だからなのか…」とブツブツと呟きながら考え込んでいる。
 焼酎を啜り、鵺が養父に持たされた「臭い乾物詰め合わせ」を突きながら、「それにしたって、お嬢さんと、新座さんはどうやって、此処に来たんです?」と、幇禍が問いかけてきた。
「えーとね、パパに幇禍君がチョーむかつくんだよねぇって言ったら、じゃあ、近頃来てなくてちょっと心配だから、様子見がてらベイブさんとこ行ってきてって言われて来た」
「何か、腹減ってフラフラしてたら、迷い込んでた」
 二人、そう端的に答え「でも、美味しいもん一杯食べれたから良かった」と同じ結論に達している鵺と新座。
 親友同士。
 やはり気が合うもんだと、何だか嬉しくなってしまうが、傍から見れば「駄目二人」である。
「それは、良かったですね」と、気のない声で幇禍にいわれ、二人そろってコクンと頷いた。
 そうやって、のんびり酒やお茶を楽しんでいると、食堂の入り口の扉が開き、そこから、憔悴しきった表情の黒須がぐったりと足を引きずるようにして入ってきた。
倒れこむみたいに椅子に座り込み「うー、疲れたーー」と、呻く黒須に「ね、ね! ベーやんどうなったの?」と、鵺はベイブの容態を尋ねる。
 黒須に噛まれた瞬間、ぐったりと全身の力を抜いて倒れこんだベイブを、黒須は城のわけの分らない住人に手伝って貰いながら彼の寝所に運び、竜子はこの食堂までエマ達を案内してくれたのだ。
「誠の、八重歯んとこにはな、蛇の猛毒が仕込まれてて、そいつで噛まれると普通の人間は一発で逝っちまうんだが、あの千年生きなきゃなんない王様にとってみりゃあ、丁度良い睡眠薬なんだ。 夜、眠れない時とかに、誠、噛んでやってるもん」と、竜子が説明してくれたのだが、蛇の猛毒で安眠を得る男の話なんてもんは、もう、此処まで現実離れしてるとどうでも良いという気分にすらなり、「ふーん、そうなんだぁ」とおざなりな返事しか出来なくなる。
 そうやって、あの狂気の王様を寝かしつけた黒須は、べったりと机に身を投げ出したまま、「…とりあえず、寝てるし、もうちょっとしたら起きるだろうが、ま、そん時にはいつも通り落ち着いてるだろう」と、告げる。
 すると、ちょっと安心したような顔をして、鵺に「じゃ、俺達もそろそろ、此処をおいとましましょうか?」と聞いてくる幇禍。
何言ってんの?とキョトンとしながら、「だって、鵺、今日此処にお泊りだよ? ね、竜子ちゃん」と竜子に問う。
 竜子は笑顔で頷くと「ああ。 そう約束したな。 後で、一緒に風呂入るんだもんな」と、クッキーを取りに言ってからの帰り、二人で約束しあった事を軽く答えた。
 その瞬間、エマと何やら話していた黒須が跳ね上がるようにして顔を上げ、此方を向き「は? な、何言ってんだお前?」と震える声で、竜子に問う。
「や、だから、何か、ベイブが世話んなってるトコの娘さんらしいし、アイツも、一泊くらいだったらさせてやれって…」
「冗談じゃねぇぞ? こんな、とんちき娘一晩も面倒見れるか!」
「むぅ。 鵺、とんちきじゃないもん! むしろ、まこっちゃんの性癖のがとんちきだもん!」
 鵺は、文句を言う黒須にそう言い返し、なおかつ「やーい、変態、へんたーい」と苛めっ子口調で黒須をなじる。
 然し幇禍にしてみても、そんな話は聞いてないといった所みたいで「と、泊まるって、此処にですか?」と不安一杯の声で言えば「良いでしょ? パパも、ベーやんも、竜子ちゃんだって、OKしてくれたんだから」と天真爛漫な笑顔で言い返され、かなり凹んでいる黒須と共に項垂れる事になった。



 お風呂場も、夢のように広くて綺麗な大浴場だった。
 丸い円形の、大理石で出来た広い広い浴槽に、たっぷりと湯が張られている。
 湯船には、中庭のものと同じらしい真っ赤な薔薇がいくつも浮かんでいた。
「じゃじゃーん! 鵺のお土産その3〜」と言いながら、鵺はチキチキチキと水を掻き分けて泳ぐアヒルやら、水に浮く動物人形などをタプンと浮かべる。
「お、なんだ、なんだ? それ、可愛いな」
 楽しげに竜子が言い、それからとぷんとつかると、あひるを捕まえキリキリと尻尾のネジを廻して、再び水に浮かべた。
 あひるの動くさまを二人で並んで眺め、アハハと笑い合うと鵺は、「此処、薔薇とか浮かんじゃってチョーロマンチックだけど、まこっちゃんとか、ベーやんが浸かってる様を思い浮かべると、何か笑えるね」と告げる。
 竜子も、頷くと「今日は、お前が来てるから、ベイブに頼んで、こういう風呂してもらっただけで、いつもは、檜風呂とか、もっとシンプルなのとか、まぁ、ベイブの気分によって変わるんだよな」と言った。
「じゃあ、日によって、違うお風呂に入れるの?!」と、羨ましさの滲んだ声で問う鵺。
「それって、すっごい贅沢ぅ〜」
「や、そうでもねぇぞ? ベイブは、面倒臭がりやでもあるから一週間連続シャワーだけとかもあるし、流石にそれは文句言ったんだが、そしたら、嫌がらせにせまーい風呂とかにしやがって、あいつ、ほんとムカつくぜ。 お望みどおり、風呂を用意させて頂きました、とか言いやがんの。 誠は体洗えればそれで良いって感じで、何にも言わねぇんだが、日本人なら、ちゃんと風呂に浸かんなきゃ駄目だよな」
 熱弁を奮う竜子に頷き「そうだよ。 日本人なら、お風呂大事にしなきゃ」と鵺も賛同の意を表する。
 そして、「今日はさ、何だかんだあったけど、楽しかった〜〜」と風呂場で大声を出すと、竜子も負けじと天井に向って「そりゃあ、良かったぁぁ!」と叫んだ。
「ねぇ! あの、王座の天井の女の人は誰ぇ?!」
「知らねぇ! アリスって女だ!」
「…アリス」
 鵺は、突然声を潜めてそう呟き、竜子に視線を送る。
 竜子も、ぴたりと口を噤み、それから鵺と視線を合わせた。
「ジャック、女王、ジャバウォッキー、アリス…ねぇ、派手な道化さんを見かけたのだけど、あの人の名前って…もしかして…」
と、そこまで言って口を噤む。
「御想像通りさ。 この王宮はベイブの世界。 ベイブは、あの女の名前になぞらえて、この王宮の住人に名をつけているのだろう」
 そう答え竜子が静かに笑う。
「そう思うとさ、分んないよな。 男と女って。 あんなに怖がっているのに、ベイブはあの女の為の世界を必死になって創り続けてんだ」
 そして、ひょいと薔薇を掴むと、「赤に塗り忘れると、首を跳ねちまうぞ」と『女王』の言葉を呟き、ポイと投げ捨て「って、あたいの柄じゃねぇやな。 そんな台詞」と、鵺に問うた。
 鵺は、頷き「良いじゃん。 竜子ちゃんは、竜子ちゃんのままで」と言う。
 「うん。 そうだよな。 サンキュ」
 竜子は、頷き、笑顔を返すと「な、鵺。 あたいもそうだし、誠もそうだけどよ、ベイブの世界に呑まれそうになってたら、教えてくれよな」と、何処か、不安を秘めた声で鵺に頼んだ。



「調子は良好だけど、時々発作あり。 だけど、良く効く特効薬が二名、側にいるみたいだから、まぁ、暫くはダイジョブじゃない?」
 鵺は、養父の元に報告の為の連絡を、部屋に備え付けの電話で入れる。 
携帯は繋がらないのだが、何故か、電話線も何も見当たらない、古めかしい黒電話は、はっきりと養父の元に繋がっていた。
「うん。 明日ちゃんと帰る。 え? 酔っ払ってる? そういや、ベーやんと、まこっちゃんと一緒に飲んでから帰ったみたいだしな…。 うん、大丈夫、迷惑掛けてないから。 はい、おやすみなさい」
 電話を置き、恐竜パジャマと同じシリーズの着ぐるみパジャマ、パンダパジャマに着替える。
「明日は、幇禍君の側に、ずっといてあげよ」と、鵺は拗ねた幇禍の顔を思い出してそう呟くと、薬指に嵌めた婚約指輪に軽く唇を押し当てて「おやすみ、幇禍君」と言った後目を閉じた。


 その時、同じ時間、幇禍も、婚約指輪に唇を押し当て「おやすみ、お嬢さん」なんて言ってた事は、勿論彼女は知らない。





end



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【2414/ 鬼丸・鵺  / 女性 / 13歳 / 中学生】
【3342/ 魏・幇禍  / 男性 / 27歳 / 家庭教師・殺し屋】
【3432/ デリク・オーロフ  / 男性 / 31歳 / 魔術師】
【3356/ シオン・レ・ハイ  / 男性 / 42歳 / びんぼーにん(食住)+α】
【1271/ 飛鷹・いずみ  / 女性 / 10歳 / 小学生】
【3427/ ウラ・フレンツフェン  / 女性 / 14歳 / 魔術師見習にして助手】
【2916/ 桜塚・金蝉  / 男性 / 21歳 / 陰陽師】
【3060/ 新座・クレイボーン  / 男性 / 14歳 / ユニサス(神馬)/競馬予想師/艦隊軍属】
【2863/ 蒼王・翼  / 女性 / 16歳 / F1レーサー 闇の皇女】

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■         ライター通信          ■
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お久しぶりの方も、初めましての方も、今回は「お願いBaby!」御参加いただきまして有難う御座います。
ライターのmomiziで御座います。
今回は、久しぶりのOMCな上、初自NPC登場でのゲームノベル挑戦って事で色々あわあわしてしまいました。
何だか、参加して下さった方のブレイングの着地点が皆さん同じ感じだったので、集合ノベルにしてみたり。
とはいえ、例によって個別に近い形で書かせてもらってるので、どの話を読んでもらっても、新鮮な楽しみ方が出来ると…えーと、いいな?(弱気)

半年振りの執筆に些か戸惑いもあったのですが、何とか書き上げる事が出来ました!
ではでは、また、今度いつ書けるのか分りませんが、これにて〜。


momiziでした。