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<白銀の姫・PCクエストノベル>


Fairy Tales 〜嘆きの塔〜


 『妖精の塗り薬』の小さな陶器の壺を見つめ、黒崎・潤は呟く。
「妖精の指輪…か」
 この妖精の指輪がなければ、彼の地からやってくる『何か』に出会えないらしい。これが元々ある正規のイベント上のシナリオなのか、それともこの世界が人を取り込むようになってから出来たシナリオなのか……

『彼の地からの来訪者を助ける力となれ』

 この文章が潤の中でぐるぐると回っている。
 きっとこの謎はあの子に聞けば分かるかもしれない。
 この世界のベータテスターだったという『深々那』…
 今もどこかで中間達と共に楽しく冒険をしている事だろう。帰る方法も来る方法も分かっていれば、完全なる「死」というものがないこの世界は確かに面白いに違いない。
 自分も前回の消滅前まではそんな存在だった。
 そう思い出すと、潤は壺を握り締め道具袋の中へと戻すと、酒場中視線を巡らせ、席を立った。

「一人で何処へいくんだ?潤」

 酒場の入り口に手を掛けたところで、後ろから声をかけられ潤は振り返る。
「草間さん…」
「協力すると、言っただろう?」
 相変らずタバコの紫煙を漂わせ、草間は潤に向けて笑いかける。
「有力な情報って訳じゃないが『嘆きの塔』にそれらしいアイテムがあるらしい。行ってみるか?」
 潤の驚いたような顔に、草間は肩をすくめると、
「俺だって、ただ偽物の酒を飲んでるだけじゃないんだぞ」
 と、苦笑した。



【フラグ1:いざ往かん】

 草間とシュライン・エマはセットと考えてもなんら差し障りは無いとして、一財閥のトップであるセレスティ・カーニンガムや、通常業務が普段からあるであろう綾和泉・汐耶や、飯原・里美が昼間からゲームに興じているのは、どうなのだろう。
 一度も現実世界に戻る事はせず、このアスガルドの中にずっといたのなら、失踪や行方不明として身内で騒ぎになっているかもしれない。
 まぁ帰っていたとしても、里美は勤めている会社の性質上調べてネタにして大ヒットゲーム製作!とかいった方向へと転んでいきそうだが。
「はぁ…高い塔ね。この最上階に行かなければいけないんだったかしら?」
 手で扇を作りそれを額に当ててシュラインは塔を仰ぐ。
「確かな…」
 火事にならないと分かるや、草間はタバコの灰を何気に地面に落としながら答える。
「それにしても、草間さんもよくこの塔の情報を手に入れたわね。私でさえ今だ情報収集の方法に困っているって言うのに」
 感心半分ため息半分に淡々と告げる汐耶に、草間が肩をすくませる。
「あながち、先日のあの子に出会ったのではないのですか?」
 クスクスと優雅に笑いながら、図星を突くセレスティの言葉に、すくませていた肩をビクッとさせる草間武彦。
「里美さんはどう思う?」
 このメンバーの中で唯一『RPGゲーム』と言うものに慣れた里美に潤が問いかける。
 里美は塔を見上げていた顔を潤に向けると、
「見た目は何の変哲も無いね」
 いや、聞きたいのはそういった事でなく。と、貼り付けた笑顔のまま肩をガクッと落とす潤。
「ダンジョンの基本はマッピングだ」
「そうですね、また来る事になってもいいよう、建物内を把握していきましょう」
 里美の言葉に一同頷き、前回同様ならばこの最上階で出会う事になるボス級のモンスターにごくっと息を呑んだ。
 そして、ギィっとあからさまな音を発して開け放たれた扉の向こう、
「あら?」
 シュラインは眼をパチクリとさせて、その背中を見つめる。
「草間さん!」
「怪奇探偵!」
「あ……」
 シュラインが開け放たれた扉の向こうで見つけた3つの背中は振り返ると、三種三様の反応を返した。
 塔の中、1階には紅の街で一緒にイベントをクリアした来栖・琥珀と、よく草間興信所に顔を出す瀬乃伊吹、この白銀の姫のベータテスターだったという柏木深々那が立っていた。
「ちょうどい」
「草間さん!」
 深々那に会えたらこのイベントの全容を聞きたいと思っていた里美の言葉を遮って、深々那は草間に向かって駆け出した。
「どうした?」
 首を傾げる草間に、琥珀の隣で振り返った伊吹が答えを返す。
「ここのボスさ、セリンズって言うんだけど、めちゃくちゃ強いんだよ」
「そうなんです!だから、私たち2人じゃクリア…できなくて、琥珀さんと一度に行ったんですけど、やっぱり負けちゃって…」
「作戦を練ってたら、エマさん達が塔に入ってきたって訳」
 交互に現状を話し、顔を見合わせる伊吹と深々那。
「そのセリンズは、どういったモンスターなのですか?」
 シュンとうな垂れる深々那の頭を優しく撫でながら、セレスティは顔を上げ問いかける。
「モンスターと言いますか…、彼は騎士ですね」
 琥珀が傍らの伊吹と確認しあうように頷きあう。そして、セレスティに向き直り、神妙な顔つきになると、
「全体攻撃が、凄く強いんです」
 それで、私たち全滅しちゃったんですよ。と、付け加え、ため息をつく。
「でも…皆さんと、会えたから…勝てる気がします」
 ぐっと握りこぶしを作って宣言した深々那。いつもならちょっと頼りなさげなのだが、なにやらヤル気満々だ。
「相手はイベントボスですものね、多勢に無勢は多めに見てもらわないといけないわね」
 汐耶の一言に、里美は付け加えるように、
「どの王道RPGでも敵に対し仲間は大勢が基本だしね。この世界もPTバトル推奨とか言う奴なんじゃないか?」
 ゲームというモノに対して強い里美と、この世界について強い深々那が居れば、何となく当面迷わずに済みそうだが、いつも一緒に居てくれるという保障はない。
「ボスの所まで行っているって事は、この最上階に何があるか知っているのよね」
 シュラインの言葉に、琥珀は首を傾げると、
「知っていて、来たんじゃないんですか?」
 この一言に、全員の視線が草間へと注がれる。
 なんてたってこの情報をもたらしたのは、我らが草間武彦だ。ハズレだとしたらこの責任は…、と考えるが、深々那が居る時点で当たりのような気もする。
 彼女は紅の街で、妖精の眼<グラムサイト>を覚えるイベントをこなしていると言っていた。
 それも琥珀は知っているので、深々那の代わりに答えた。
「妖精の指輪かどうかは分からないんですけど、一応セリンズが守っているのが『指輪』なので、それを手に入れようと」
「アイテムなんて、手に入れてみなきゃ何か分かんないしな」
 最後に言葉を〆て、伊吹は頭の後ろで手を組んだ。



【フラグ2:目指せ最上階】

 塔に入った直ぐの1階の部屋から、いよいよ塔本体へと入ると、いくつか外へ繋がりそうな空中の渡り廊下が数本階段から伸びているだけで、天井を仰げば目の前の螺旋階段は最上階へは一本道のように見えた。

―――オオオオォォォォォオオオオ

 里美はこの構図の塔の内装を見て、完全な予想ではあったが、あの廊下から敵が階段を上がるプレイヤーを攻撃するのではないだろうか?と予想した。

―――ウウゥゥゥォォォオオオオオ

 総勢9人の草間御一行は、やはり高低さに置いて下に居る者の方がダメージが大きい事を考慮し、潤を先頭に置くことで正面の雑魚対策を固める。自分が持っている能力の系統が回復なため、上も下も等しく見渡せるようにと、この世界の標準的な僧衣に身を包んだ(何気にチェインメイルを下に着込んでいるようだが)里美をど真ん中に、物理攻撃を得意としないシュラインやセレスティを潤の次に行かせ、中衛の草間と深々那、魔法もそこそこ使え物理攻撃も強い琥珀がその次に、そして何気に格好だけは膝丈のカラフルな小坊主に帯刀した攻撃系の伊吹と、子供を最後にする訳にはいかないと、打撃に特化した汐耶がしんがりを務めた。

―――オオオオォォォォォオオオオ

「この世界の名前の由来など私なりに調べてみたのですが、やはりケルトやアーサー王などから引用されたものが多いようですね」
 何階分の階段を上がったか分からないが、ふと思い出したように下を振り返りセレスティが口火を切る。

―――ウウゥゥゥォォォオオオオオ

「えぇ、私も調べてみたのだけど、確かにケルト神話から引用されている部分も多いわ。でも、正確にケルトそのままというわけでもないみたいだし」
 セレスティの言葉を引き継ぐように口を開いたのは汐耶。さすが図書館司書だけの事はあり、そういった知識に置いてかなり精通している。

―――オオオオォォォォォオオオオ

「何処までがただの引用で、どこまでが神話を模しているのか…それだけでも分かれば、いいのにと思うわ」
 と、言葉を締めくくる。

―――ウウゥゥゥォォォオオオオオ

「セリンズも、一応はアーサー王伝説に出てくる騎士で、最後の戦いでランスロットに付いた騎士の名前なんですよね」
 古書店を営み、活字中毒とまで言ってしまう琥珀は、以前読んだ本に、そういった内容のものがあったような気がして、言葉を続ける。

―――オオオオォォォォォオオオオ

「「「「「「………」」」」」」
 一度この塔の最上階まで行っている、琥珀と伊吹と深々那以外言葉を無くす。
「嘆きの塔の意味が、分かったわ…」
 唇に薄笑いを浮かべ、シュラインがぼそりと呟く。
 塔の中を駆け抜ける風がまるで人が嘆いている声のように聞こえる。これならば『嘆きの塔』という名称をつけた事も納得がいく。
 やはり思ったとおりこの塔でも潤を最初にした事で上からの攻撃を喰らうことは無かったが、下からは追いかけられる。
 階段を走る事ができないセレスティの足を配慮して、逃げるという選択肢は無い。
 さして強いモンスターという訳でもないのだろう、流石白銀の姫が長いだけの事はあって、最近この世界に流れ着いた草間やシュライン、汐耶、里美よりはちびっ子コンビの方が強い。
 リセットされていたとは言っても、この世界が長い琥珀も同様に戦いなれているらしくやはり強い。
 年長者としての威厳はゲームに置いては皆無らしい。
 などと無駄に悟りつつ、一同は最上階へとただひたすら足を運ぶ。
 途中口には出さないが、セレスティの顔が一瞬だけ曇った。
「“大丈夫だよ!皆元気に最上階まで行けるって!”」
 ふっと体が軽くなったような感覚に振り返ったセレスティに、伊吹はニッと笑う。
「こら、伊吹くん。そんな大声出したらまたモンスター呼んじゃうでしょ」
 と、汐耶に怒られた姿を見て、くすっと微笑を浮かべた。



【フラグ3:嘆きの塔の主】

 1階と同じように、螺旋階段を上った最上階も小部屋を一つ挟むというワンクッションを置いて、ボス戦と行った感じだった。
「ここで、プレイヤーはもてる力で回復をして挑めってことか」
 ふむふむと里美は頷くと、なんてプレイヤーに優しいゲームだと感心する。
 確かに何の準備も無く、回復さえもしていない状態でボス戦に挑めなど、プレイヤーが怒る要素の一つだ。遠かろうと近かろうと、マップ一つくらいの差の間にセーブポイントが欲しいと思うのが、中堅ゲーマーの心情で。
「開けるよ」
 逸る気持ちを抑えられない潤は、皆の同意を聞くまでも無く、最後の扉を開け放った。
 そして、開け放たれた扉の向こうに座している者―セリンズ。
 中世辺りのヨーロッパの鎧に身を包んだ、細身の騎士。面持ちはどうにも優男で強いとは思えない。
 もしかしたら其処が開発者の狙いだったのかもしれないが。
『また…指輪を狙う者か』
 最上階に着き、この扉を開けた時点で発生する対セリンズイベント。今扉を閉めて後退を始めても、遅い。
「指輪、必ず頂きます」
 負けた悔しさからか、両手に装着した白銀狼の魔爪の構えに力を込める琥珀。
「伊吹くんと、深々那ちゃんが負けたのだから、相当強いのよね」
 一度もリセットされる事無くレベルを上げてきている筈の二人が勝てない相手。ならば、総勢9人とはいえ油断は出来ない。
 シュラインはすぅっと大きく息を吸い込んだ。
「いつもは…4人、だから」
 そんな言葉に深々那は答えると、杖を構える。
「セリンズ反撃時の結界は私が築きましょう」
 十字架の錫杖を構え、セレスティがにっこりと微笑む。
「よっし!リベンジだぁ!」
 見た目古代の刀を構え、ヤル気満々の伊吹。
「先に進むには、貴方を倒すしかないもの」
 眼鏡を直す仕草をしつつ、セリンズを見据える汐耶。
「ま、怪我したらあたしが治してあげるさ」
 里美はその傍らに契約デーモンを呼び出し、全員に笑いかける。
『御託はいい…まとめて返り討ちにしてやろう』
 ガシャンと、草間が得物である銃の弾倉をセットし、加えたタバコから薄く紫煙を吐き出す。
「ボスとは戦わないといけないみたいだし」
 と、潤が腰の刀剣を構え、戦闘開始となった。


 流石元々多人数方ネットワークゲームなだけの事はある。素早さまるで関係無しのタコ殴りが成立するからだ。
 だがしかし!
 セリンズにとってみれば前衛だろうと後衛だろうとなんら関係ない訳で、指輪を狙う=敵なのだから、その剣技は四方八方へと飛ぶ。
 流石にイベント上塔が壊れるなどと言うプログラムは無いらしく攻撃がまるで吸い込まれて行っているようにも見えるが、セリンズの剣圧から放たれるソードスラッシュはかなり厄介だった。
 多少防御に手間取っても、受ける傷は、里美のデーモンの力によって受けるそばから回復する。問題はぶつけたという痛みの感覚が残る事くらいだろうか。
「魔法じゃないから、防げないね」
 デーモンが魔法攻撃を無効化させる力を持っていても、セリンズが放っているのは魔法に見えるがただの高等剣技。自分も攻撃されても勝手に直るという特性を持っているせいかまるっきり無防備状態の里美。
 セレスティや深々那は、そういった力のないシュラインと草間を含めて結界をはりその身を守りつつ、いつでも魔法なり遠距離攻撃を打ち込む隙間があってもいいように武器を構え、詠唱する。
「てりゃぁ!」
 伊吹は剣を真正面から振り上げ、飛び上がって振り下ろした。
 だが、そんな単純な攻撃は今更効くはずも無く簡単に弾き飛ばされてしまった。
「伊吹くん!」
 と、汐耶の声が弾き飛ばされた伊吹に降りかかる。汐耶は先のとがった傘カルッサの柄を構え、まるでフェンシングのように立つと、セリンズに向けて突き刺した。
『甘いぞ小娘』
 大振りの両手剣を持っているくせに汐耶の傘の先を掴むと、間合いを詰める。
「甘いのはあんただ」
 傘を握ると言う行為によって隙の出来た左手に、潤が斬りかかる。そして、二人を相手にしている隙を突いて、琥珀はその身体能力を活かし飛び上がると、セリンズの後ろへと着地する。
 セリンズは握り締めていた傘からあっさり手を離すと、手甲で潤の剣を受け止め、張り飛ばす。
 行き成り傘から手を離されたことでバランスを失いかけた汐耶だったが、足にぐっと力を混め状態を持ち直す。
「…行きます!」
 潤を弾き飛ばした状態のセリンズへ降りかかる光の光線。深々那の手から放たれたそれは確実にセリンズの視界を奪う。
 次にその光に追随するかのように草間の弾丸が放たれた。
 各弾ヒットが可能な魔法攻撃は、回避という項目が無い。必要なのは強い魔法値による魔法防御力のみ。
 そして、相手の視界が無い状態での遠距離攻撃の成功率もまた然りだ。
 小さいながらもダメージを与え、蓄積させていけば、必ずヒットポイントが存在するのだから倒せないはずが無いのだ。
 煙を上げるセリンズが、本当に僅かに傾く。
 すぅっと長く息を吸い込めるよう深呼吸を繰り返していたシュラインが、気は熟したとばかりにその封印をとき、セリンズに向けて超高音を叩きつける。
『な…に…!?』
 魔法と遠距離の多角的連携に、セリンズは床に剣を突き刺し上腿を保った。
 そして、その隙を狙って背後に回りこんでいた琥珀の爪がセリンズの背中を切り裂く。そのまままた離れた場所に着地すると言うヒットアンドウィエ戦法を取りながら、一定の間合いを保ちつつ攻撃を放つ。
 琥珀の攻撃で上腿を崩した隙を突き、斬りかかる潤と伊吹。
『ぐあぁあ!!』
「はぁ!」
 そして、汐耶は勢いよくカルッサを突き刺し、引き抜いた。
 相当のダメージをコレで与える事が出来ただろう。
 だが、ここまではいいのだ。
 問題はセリンズのヒットポイントが一定を切った、今。
 セリンズの周りを取り囲むように床から光の筋が延びる。オーラのように波を描いて大きくなっていくそれに、皆がたじろいだ。
「く…来る!」
 いつも伊吹や深々那が負けていた全体攻撃。
 ぐっと瞳を閉じ、やっぱりダメかと覚悟した瞬間、瞼の裏で光っていたセリンズのオーラが消える。
「あれ?」
 ゆっくりと瞳を開け、何が起こったのかと眼を見開けば、セリンズがオーラごと水のドームに覆われていた。
 皆の視線が一気にセレスティへと移動する。
「皆さんを一塊にして結界を張るよりは彼に対して張ってしまった方が簡単かと思いまして」
 ニコニコとそう説明するセレスティ。
 結界の中がどうなったかなんてちょっと考えたくないが、外に向かって放たれるはずだった全体攻撃をセリンズ自身がその身に受ける事になってしまった。
 止めが自分の自慢の技だった事は、幸か不幸か。
 セレスティの結界を解いた中で、セリンズは完全に膝をつき虫の息だ。
『指…輪、を……ぐっ』
 潤の剣がセリンズの胸を貫いていた。
「潤くん…?」
 潤の瞳に宿る黒い闇。
 無慈悲な瞳は倒された事により塵と消えるセリンズをただ無表情に眺めていた。
「潤?」
 草間は潤に近づきその頭を軽く小突く。
「…はぇ、何?」
 キョトンと瞳を瞬かせ草間に振り返る。
 誰もが突然の潤の変貌に一瞬息を呑んだ。
「セ…セリンズ倒したぞ!これで、指輪が手に入る」
 場の空気を壊しても誰も何も言わない年齢。子供だからと済まされる年齢。でも、一番この場の空気の異様さを感じ、そしてどうにかした。
 セリンズを倒した事によって、塔のこの最上階の部屋の中心から何かの台座が床から上がってくる。
 そして、その中心で浮かんでいる鈍い金色の――
「「「「「「「「「指輪??」」」」」」」」」
 全員が同じように首をかしげた。
 なんてたってどう見ても其処にあるのは、ごっつい腕輪だったからだ。
 もしかしたら巨人の指輪だったのだろうか?などと考えていると、腕輪に見える指輪が光だし、その場に居た全員に小さな光の筋が通り過ぎていった。

[アクセサリー『妖精の指輪』を手に入れた!]

「どこが指輪?」
 荷物の中の余りに大きな指輪に、里美は半眼で腕輪を持ち上げ、顔をゆがめる。
「まぁアクセサリーって事は装備品なんだよね」
 と、何の疑問を持つ事無くそれを腕にはめてみた。
 ら、なんと腕輪ほどの大きさがあった指輪が、里美の指にぴったりとはまってしまった。
「なるほど……」
 その光景を見つめ、一人感嘆の声を漏らすセレスティ。
「目的は果たせたな」
 今まで次のタバコが吸えなかった反動か、口にくわえたタバコからいつも以上に紫煙を吐き出している草間。
 ぞろぞろと来た道を引き返そうとしていた一同を、シュラインの一言が呼び止める。
 シュラインの頭についている妖精の花飾りが何かの音をキャッチした。そして、紅の街で起こった時のように、台座の上辺りに陽炎が生まれノイズが走りだす。
「また、妖精ね」
 汐耶はシュラインの横まで戻ると同じようにノイズを見上げると、陽炎が実体を持ち始めた。
「やっぱり……」
 シュラインは一人何かを納得したように呟き、前よりも強く姿を現した妖精は、やはり普通の耳では聞き取りにくいほどに書ききれた声で何かを告げると、消えていった。
「大丈夫よ。今回は『たぶん』なんて言わないわ」
 自信に満ちたシュラインの笑顔に、一同は塔を降りたのだった。



【フラグ4:現実世界の妖精】

 難しい事は分からないし、楽しむ事以外はしないって決めたんだ。と、一同に手を振って女神の社へと去っていった中学生二人を見送り、草間たちは酒場へと戻ってきた。
「妖精の正体が分かったわ」
 シュラインがこの前一度現実世界に返った時に出向いたレンで偶然であった人達。その人達のおかげで今自分達がこなそうとしているイベントの概要をなんとか整理できそうだった。
「正体が分かれば対応もしやすいですね」
「そうも、いかないかもしれないわ」
 セレスティの問いかけに、シュラインは思案顔で瞳を泳がせると、現実世界で手に入れた情報を話し出す。
「妖精は、多分、白銀の姫開発チームの一人の都波璃亜さんよ」
 彼女は現在意識不明で病院に入院している。
 どうやって妖精となった彼女がこの世界のシステムに干渉しているのかまでは分からないが、情報が一方通行で対話が出来ない所が予め組み込まれていたように思う。
「不特定多数に対してのイベントにしてはノイズが酷すぎると思うけどね」
 ノイズが出るなどバグもいいところだ。
「それが、後着けなのかもしれなわ」
 元々あるモノに内側から無理矢理イベントを組み込んだ。だから、不具合が生じている。
「それに、さっきの妖精は何て?」
「止めなくてはいけない。この世界が無くなる。だから、早く見つけて」
「妖精さんは何を見つけてほしんでしょうね」
 首をかしげた琥珀の言葉は尤もだが、この今の状況で見つけて欲しいとしたら、現実世界に繋がるであろうアヴァロンしか思いつかない。
 シュラインは、アヴァロンへのシナリオの話しも聞いてはいたが、こうやって妖精が絡んできているとなるとそれは確実ではないかもしれないと口をつぐむ。
「とりあえず今日は大掛かりな戦いをしたんだ。ゆっくり休まないか?」
 頭を抱えたくなるような話しはまた後日にして。との草間の提案に、一同は顔を見合わせる。
 そして、それぞれがそれぞれの休息を取るべく散っていった。
















next 〜完璧な愚者〜


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■   獲得アイテムとイベントフラグ情報      ■
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アクセサリー『妖精の指輪』を手に入れました。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1883/セレスティ・カーニンガム/男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い/魔法使い】
【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員/魔法使い】
【1449/綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)/女性/23歳/都立図書館司書/戦士】
【3962/来栖・琥珀(くるす・こはく)/女性/21歳/古書店経営者/格闘家】
【0638/飯城・里美(いいしろ・さとみ)/女性/28歳/ゲーム会社の部長のデーモン使い/僧侶】

【整理番号/PC名/性別/年齢/職業/今回のゲーム内職付け】
*ゲーム内職付けとは、扱う武器や能力によって付けられる職です。


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■         ライター通信          ■
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 Fairy Tales 〜嘆きの塔〜にご参加くださりありがとうございます。ライターの紺碧です。なんだか僕はもう皆様だけでこのFairy Talesシリーズが終わるのではないかと思っています。宜しくお願いします(何を!)
 シュライン様が現実世界編にもご参加いただけたおかげで、彼らの道に光が立ったように思います。もしこちらに参加されている方と現実世界編にご参加いただいている方の交流が無かったら、シナリオが一つ減る所でした(ぁ)ありがとうございました。
 それではまた、シュライン様に出会える事を祈りつつ……